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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23D
管理番号 1314323
異議申立番号 異議2016-700094  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-05 
確定日 2016-04-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第5758377号「油脂組成物及び該油脂組成物を使ったチョコレート製品」の請求項1ないし10に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5758377号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5758377号の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、平成23年3月14日(優先権主張平成22年3月19日)に特許出願され、平成27年6月12日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人清水正憲より特許異議の申立てがされたものである。
なお、本決定において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。証拠は、例えば甲第1号証を甲1のように略記する。

第2 本件発明
特許第5758377号の請求項1ないし10に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1ないし10」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
油脂組成物中の1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセリン(POP型トリグリセリド)含有量が15?40質量%、1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS型トリグリセリド)含有量が20?32.2質量%、2位にオレオイル基を有し、1,3位にパルミトイル基とステアロイル基を各1基づつ有するトリグリセリド(POS型トリグリセリド)含有量が5?11質量%、及び液状油脂含有量が15?35質量%であり、なおかつ、上記POP型、SOS型、およびPOS型トリグリセリドを含む、2位にオレイン酸、1、3位に炭素数16以上の飽和脂肪酸が結合したトリグリセリド(XOX型トリグリセリド)の総含有量が62?80質量%である油脂組成物。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、甲1ないし甲8を提出し、以下の理由により、本件発明1ないし10についての特許を取り消すべき旨主張している。
(取消理由1)
本件発明1ないし10は、甲2ないし甲6を参照すると、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、又は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(取消理由2)
本件発明1ないし10は、甲7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第4 判断
1 取消理由1について
(1)甲1の記載
甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(「2.特許請求の範囲」を参照。)。
「下記のA成分60?95重量%、下記のB成分5?40重量%、及び下記のC成分0?2重量%より成る油脂組成物。
A成分:ヨウ素価が40?50であるパーム油の分別中融点画分
B成分:コクム脂、イリッペ、サル脂、マンゴー脂、マウア脂、シア脂及びこれらの分別中融点画分からなる群から選ばれた一種又は二種以上の配合油脂
C成分:油溶性乳化剤。」

特許異議申立人は、甲2ないし甲6を参照すると、甲1には、
「POP型トリグリセリド含有量が33.3質量%、
SOS型トリグリセリド含有量が22.5質量%、
POS型トリグリセリド含有量が7.2質量%、
液状油脂含有量が31.1質量%、
XOX型トリグリセリドの総含有量が63.2質量%である
油脂組成物。」
の発明が記載されている旨主張する。
しかし、上記特許異議申立人の主張は、甲1のA成分70質量%と、B成分としてコクム脂30重量%を混合した油脂組成物を前提とするところ、当該前提は妥当ではない。すなわち、甲1には、「A成分60?95重量%」、「B成分5?40重量%」、「B成分:コクム脂、イリッペ、サル脂、マンゴー脂、マウア脂、シア脂及びこれらの分別中融点画分からなる群から選ばれた一種又は二種以上の配合油脂」と記載されており(2.特許請求の範囲)、A成分とB成分の配合割合について広範な選択の幅があり、B成分として多数の選択肢が含まれているのであるから、その中から、A成分70質量%と、B成分としてコクム脂30重量%を混合した油脂組成物という、特定の油脂組成物の発明を認定することはできない。
さらに、甲1に記載された発明の認定にあたり、特許異議申立人は、甲1のA成分及びB成分を、それぞれ、甲2及び甲4に記載されたものとして特定している。しかし、甲2及び甲4に記載されている事項は、甲1に記載されているわけではなく、むしろ、甲1には、「分別により得られる上記A成分のトリグセリド組成は必ずしも明らかではない」と記載されている(2頁左下欄下から2行?右下欄1行)。そして、「パーム油の分別中融点画分」、「コクム脂」といっても、それらのトリグリセリド組成が全て同じとはいえないところ、甲1に記載された発明の「パーム油の分別中融点画分」が、甲2に記載された「PMF-1(ソフトPMF)」と同じであるとする根拠はなく、甲1に記載された発明の「コクム脂」が、甲4に記載された「コクム脂」と同じであるとする根拠もないから、甲2及び甲4に基づいて甲1のA成分及びB成分のトリグセリド組成を特定することはできない。
よって、甲1に、特許異議申立人が主張する上記発明が記載されていると認めることはできない。

(2)対比・判断
本件発明1と甲1発明を対比すると、本件発明1は、「1,3-ジパルミトイル-2-オレオイルグリセリン(POP型トリグリセリド)含有量が15?40質量%、1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS型トリグリセリド)含有量が20?32.2質量%、2位にオレオイル基を有し、1,3位にパルミトイル基とステアロイル基を各1基づつ有するトリグリセリド(POS型トリグリセリド)含有量が5?11質量%、及び液状油脂含有量が15?35質量%であり、なおかつ、上記POP型、SOS型、およびPOS型トリグリセリドを含む、2位にオレイン酸、1、3位に炭素数16以上の飽和脂肪酸が結合したトリグリセリド(XOX型トリグリセリド)の総含有量が62?80質量%である」と特定しているのに対し、甲1発明は、このようにトリグリセリド組成が特定されていない点で相違する。
よって、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。
また、上記相違点について検討すると、甲2には、ヨウ素価45.8のPMF-1(ソフトPMF)のトリグリセリド組成が記載され、甲4には、コクム脂のトリグリセリド組成が記載されている。
しかし、甲1発明のA成分であるパーム油の分別中融点画分として、上記甲2のPMF-1(ソフトPMF)を用い、甲1発明のB成分として、コクム脂を選択した上で、甲4のコクム脂を用い、更に、トリグリセリド組成が、上記相違点に係る本件発明1の範囲内となるように、A成分とB成分の配合割合を調整する動機付けはない。
そして、本件発明1は、「低温ブルームを抑制するチョコレート生地を生産するための油脂組成物を提供する」、「特に種実類を含有するチョコレート製品の低温ブルームを抑制するチョコレート生地を生産するための油脂組成物を提供する」という課題を解決するものであるところ、甲1には、低温ブルームを抑制することの記載はない。
よって、甲1発明において、上記相違点に係る構成とすることは、甲2ないし甲6を考慮しても、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、本件発明2ないし10は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当する。
そうすると、本件発明1と同様に、本件発明2ないし10も、甲1発明であるとはいえず、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 取消理由2について
(1)甲7の記載
甲7には、「製造比較例3」に関し、次の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認められる。
「POP型トリグリセリド含有量が31.2質量%、
SOS型トリグリセリド含有量が33.5質量%、
POS型トリグリセリド含有量が10.5質量%、
液状油脂含有量が19.1質量%、
XOX型トリグリセリドの総含有量が75.2質量%である
油脂組成物。」

(2)対比・判断
本件発明1と甲7発明を対比すると、1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリン(SOS型トリグリセリド)含有量が、本件発明1は、「「20?32.2質量%」であるのに対し、甲1発明は、「33.5質量%」である点で相違する。
上記相違点について検討すると、まず、甲7に記載された一比較例に着目し、その特定のトリグリセリドに着目して含有量を変更することの動機付けが認められない。
また、甲7には、「一分子内に1個の不飽和結合を有するトリグリセリド(U1)中、2-オレオ-1,3-ジステアリン(SOS)が50?95%である」との構成を備えるハードバター組成物によって、「低温域で軟らかいにも拘わらず耐熱性を有する」効果が得られることが記載されている(特許請求の範囲、3頁右上欄1?6行、6頁左下欄下から8行?右下欄7行参照。)こと、「製造比較例3」は、U1中のSOSは42.4%であって、50?95%より少ないこと、に照らせば、仮に、当業者が甲7発明のSOS型トリグリセリド含有量に着目したとしても、U1中50?95%の範囲となるよう、その含有量を増やす方向に動機付けられるから、上記相違点に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
特許異議申立人は、甲7には、SOS含有量が23.8質量%の製造例1が記載されているから、製造比較例3のSOS含有量を減らすことに阻害要因はなく、製造比較例3は、U1成分が高い例として挙げられているものであるから、トリグリセリドの比率はそのままで、U1成分を75%程度に減らしたものを検討する動機付けがある旨を主張する。
しかし、甲7の製造例1は、製造比較例3とは、SOS含有量だけでなく、U1成分の含有量も異なっているのであるから、製造例1を参照して、甲7発明のSOS含有量を調整しようとする理由がない。また、甲7には、U1成分が20?65%であることが記載され(特許請求の範囲)、製造比較例3は、上記範囲に対してU1成分が高い例なのであるから、U1成分を上記範囲外の75%程度とする理由はない。
よって、上記特許異議申立人の主張は採用できない。
したがって、本件発明1は、甲7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

また、本件発明2ないし10は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の限定を付加したものに相当する。
そうすると、本件発明1と同様に、本件発明2ないし10も、甲7発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-04-13 
出願番号 特願2012-505675(P2012-505675)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (A23D)
P 1 651・ 121- Y (A23D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 茜  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 紀本 孝
佐々木 正章
登録日 2015-06-12 
登録番号 特許第5758377号(P5758377)
権利者 日清オイリオグループ株式会社
発明の名称 油脂組成物及び該油脂組成物を使ったチョコレート製品  
代理人 中村 行孝  
代理人 伊藤 武泰  
代理人 横田 修孝  
代理人 勝沼 宏仁  
代理人 小島 一真  

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