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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C23C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C23C |
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管理番号 | 1314342 |
異議申立番号 | 異議2016-700021 |
総通号数 | 198 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2016-06-24 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-01-13 |
確定日 | 2016-05-18 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5748639号「マグネトロンスパッタリング用ターゲットおよびその製造方法」の請求項1ないし17に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5748639号の請求項に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5748639号の請求項1?17に係る特許についての出願(特願2011-252104)は、平成22年8月6日に出願した特願2010-178199号の一部を平成23年11月17日に新たな特許出願としたものであって、平成27年5月22日に特許権の設定登録がされたものである。 その後、本件特許に対し、特許異議申立人南郷誠治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1?17に係る発明(以下、それぞれの発明を「本件特許発明1」?「本件特許発明17」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるとおりのものである。 第3 申立ての理由の概要 特許異議申立人は、甲第1号証?甲第4号証を提出し、以下の理由により、特許を取り消すべきものである旨主張している。 1 理由 (1)特許法第29条第2項について 本件特許発明1?17は、当業者であれば甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものである。 (2)特許法第36条第6項第1号について 本件特許発明1?17は、本件発明1?17の課題を解決するうえで必須の要件である、 ア 磁性相におけるCoの含有割合は、85at%以上とし、 イ 非磁性相のうちの少なくとも1つは、Coの含有割合が0at%より大きく75at%以下であるCo-Cr合金相またはCoの含有割合が0at%より大きく73at%以下であるCo-Cr-Pt合金相とし、 ウ 非磁性相のうちの少なくとも1つは、Coの含有割合が12at%以下であるCo-Pt合金相とする ことを備えていないから、当業者が出願時の技術常識に照らしたとしても、本件特許明細書の記載から当業者が課題を解決できると認識できる範囲を超えたものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (3)特許法第36条第6項第2号について 本件特許発明1?17の平均漏洩磁束率に係る特定は、単に漏洩磁束率の絶対値として記載したものであり、具体的な構成が技術的に不明であって、甲第2?4号証に記載された審査の経緯を踏まえても、本件特許発明1?17は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 2 甲号証 甲第1号証:特開2009-108336号公報 甲第2号証:本件特許第5748639号に係る特許出願に対する平成26年8月27日付けの拒絶理由通知書 甲第3号証:本件特許第5748639号に係る特許出願の平成26年10月29日付けの手続補正書 甲第4号証:本件特許第5748639号に係る特許出願の上記拒絶理由に対する平成26年10月29日付けの意見書 第4 甲号証の記載 1 甲第1号証 甲第1号証の【0011】、【0016】?【0019】に、実施例1により得られたターゲットとして、「ある程度透磁率を下げた低Cr組成のCo_(88)Cr_(12)合金粉末と、非磁性体の金属間化合物を生成する組成のCo_(50)Cr_(50)合金粉末と、Pt粉末と、SiO_(2)粉末とを混合した混合粉末を、真空ホットプレスして作製されたものであって、同じ成分組成となるようにCo粉末とPt粉末とSiO_(2)粉末とCr粉末とを混合した混合粉末を、真空ホットプレスして作製した従来法1のものよりも、比透磁率が低い、マグネトロンスパッタリング用ターゲット」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 2 甲第2号証 甲第2号証に、「請求項1には、強磁性金属元素を有するマグネトロンスパッタリング用ターゲットにおいて、単に「前記強磁性金属元素を含む磁性相と、前記強磁性金属元素を含み、かつ、構成元素またはその含有割合の異なる複数の非磁性相と、酸化物相とを有していること」が特定されているのみであるが、かかる特定では、必ずしもターゲット全体に対する非磁性相の体積分率が大きくなり、ターゲット全体に対する磁性相の体積分率が小さくなるとは限らないから(非磁性相が、所定の強磁性金属元素を含み、かつ、構成元素またはその含有割合の異なる複数の相からなる場合であっても、ターゲット全体に対する非磁性相の体積分率が小さく、ターゲット全体に対する磁性相の体積分率が大きい場合もあり得ると考えられる)、請求項1に係る発明は、本願発明の上記課題を解決し、所望の上記効果を発揮し得ない場合を包含するものと認められる。」との指摘が記載されている。 3 甲第3号証 甲第3号証に、「φ152.4mm×厚さ7.0mmの形状のとき、ASTM F2086-01に基づく平均漏洩磁束率が50%以上である」との特定事項を加える手続補正が記載されている。 4 甲第4号証 甲第4号証に、「所望の効果(ターゲット全体における強磁性金属元素を含む各構成元素の含有割合を一定に保ったまま、ターゲット表面からの漏洩磁束の量を増加させる効果)を発揮し得ない場合は包含されておりません。」との主張が記載されている。 第5 判断 1 特許法第29条第2項について (1)本件特許発明1について ア 本件特許発明1と甲1発明との対比について Coは、強磁性金属元素であるから、両者は、 「強磁性金属元素(Co)を有するマグネトロンスパッタリング用ターゲット」である点で一致し、次の点で相違しているものと認められる。 相違点1:本件特許発明1は、強磁性金属元素を含む磁性相と、前記強磁性金属元素を含み、かつ、構成元素またはその含有割合の異なる複数の非磁性相と、酸化物相とを有する一方、甲1発明では、真空ホットプレス後の相構造が不明な点。 相違点2:本件特許発明1は、φ152.4mm×厚さ7.0mmの形状のとき、ASTM F2086-01に基づく平均漏洩磁束率が50%以上であるのに対し、甲1発明は、平均漏洩磁束率が不明な点。 イ 相違点1について 上記相違点1について検討すると、甲1発明は、同じ成分組成となるように作製した従来法1のものよりも比透磁率が低いことから、用いた合金粉末に由来する相が存在すると推定される。 すなわち、甲1発明は、ある程度透磁率を下げた低Cr組成のCo_(88)Cr_(12)合金粉末に由来する磁性相と、非磁性体の金属間化合物を生成する組成のCo_(50)Cr_(50)合金粉末に由来する非磁性相を有することが推定され、これらの相は、本件特許発明1の「磁性相」、「非磁性相」に相当する。また、SiO_(2)粉末に由来する相は、「酸化物相」に相当する。 しかしながら、甲1発明は、Pt粉末に由来する非磁性相を有するものの、Coを含み、かつ、構成元素またはその含有割合の異なる非磁性相を複数有するものではない。 そして、甲1発明は、マグネトロンスパッタリングターゲットを低い比透磁率とすることを課題とするものであるものの、Pt粉末を、非磁性のCo-Pt系粉末とすることや、非磁性体の金属間化合物を生成する組成のCo-Cr粉末を複数種採用することによって、Coを含む非磁性相を複数とすることについて、甲第1号証に、動機付けとなり得るものがない。 してみると、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を導き出すことはできない。 ウ 小括 したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (2)本件特許発明2?9について 本件特許発明2?9は、本件特許発明1の発明特定事項を含むものである。 してみると、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明2?9は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (3)本件特許発明10について 本件特許発明10と甲1発明とを対比すると、Coは、強磁性金属元素であるから、両者は、 「強磁性金属元素(Co)を含む磁性金属粉末(ある程度透磁率を下げた低Cr組成のCo_(88)Cr_(12)合金粉末)と、酸化物粉末(SiO_(2)粉末)とを用いるマグネトロンスパッタリング用ターゲットの製造方法」 である点で一致し、次の点で相違している。 相違点3:本件特許発明10は、強磁性金属元素を含み、かつ、構成元素またはその含有割合の異なる複数の非磁性金属粉末を用いる一方、甲1発明では、非磁性体の金属間化合物を生成する組成のCo_(50)Cr_(50)合金粉末と、Pt粉末とを用い、前記非磁性体の金属間化合物を生成する組成のCo_(50)Cr_(50)合金粉末以外に、Coを含む非磁性粉末を用いない点。 相違点4:本件特許発明10は、得られるマグネトロンスパッタリング用ターゲットの形状をφ152.4mm×厚さ7.0mmとしたとき、その得られるマグネトロンスパッタリング用ターゲットのASTM F2086-01に基づく平均漏洩磁束率が50%以上となるのに対し、甲1発明は、平均漏洩磁束率が不明な点。 そこで、上記相違点3について検討すると、上記(1)において検討した相違点1と同様に、Pt粉末を、非磁性のCo-Pt系粉末とすることや、非磁性体の金属間化合物を生成する組成のCo-Cr粉末を複数種採用することによって、Coを含む非磁性相を複数とすることについて、甲第1号証に動機付けとなり得るものがない。 してみると、上記相違点3に係る本件特許発明10の発明特定事項を導き出すことはできない。 したがって、相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明10は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (4)本件特許発明11?17について 本件特許発明11?17は、本件特許発明10の発明特定事項を含むものである。 してみると、上記(3)と同様の理由により、本件特許発明11?17は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 2 特許法第36条第6項第1号について 本件特許発明1?17が解決しようとする課題について検討するに、本件特許明細書【0008】の記載によれば、「ターゲットに含まれる強磁性金属元素の含有量を減少させずに、マグネトロンスパッタリング時の漏洩磁束量を従来よりも増加させることができるマグネトロンスパッタリング用ターゲットおよびその製造方法を提供すること」である。 そこで、本件特許明細書の【0011】に、「本発明によれば、強磁性金属元素を含み、かつ、構成元素またはその含有割合の異なる複数の非磁性相を設けることにより、ターゲット全体における強磁性金属元素の量を一定に保ったまま、前記強磁性金属元素を含む磁性相のターゲット全体に対する体積分率を減少させることができ、ターゲット全体の磁性を減少させることができる。これにより、ターゲットに含まれる強磁性金属元素の含有量を減少させずに、マグネトロンスパッタリング時に、ターゲット表面からの漏洩磁束の量を増加させることができ、マグネトロンスパッタリングを良好に行うことができる。」と記載されている。 このことは、式で表すと、強磁性金属元素a%の磁性粉末A部、強磁性金属元素b%の非磁性粉末B部、強磁性金属元素0%の非磁性粉末C部である場合から、非磁性粉末C部に強磁性金属元素c%を含ませることで、強磁性金属元素の総量を一定に保ったまま、強磁性金属元素a%の磁性粉末を、A-(C・c/a)部に減少させることを意味する。(なお、a,b,c,A,B,C>0) そして、用いる元素、及び、組成範囲によらず、上記の作用は機能するから、特許異議申立人が主張する上記第3の1の(2)のア?ウが、本件発明1?17の課題を解決するうえで必須の要件であるといえない。 そうとすると、発明の詳細な説明には、本件特許発明1?9が有する「前記強磁性金属元素を含み、かつ、構成元素またはその含有割合の異なる複数の非磁性相」を有すること、及び、本件特許発明10?17が有する「前記強磁性金属元素を含み、かつ、構成元素またはその含有割合の異なる複数の非磁性金属粉末」を用いることで、発明の課題が解決できることが当業者が認識できるように記載されているものといえる。 してみれば、本件特許発明1?17は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号の規定を満足している。 3 特許法第36条第6項第2号について 特許異議申立人の主張は、平均漏洩磁束率に係る発明特定事項は、ターゲット全体の強磁性金属元素の量を減らすことによっても実現できるものであり、ターゲット全体における強磁性金属元素の量を一定に保ったままで、漏洩磁束をどの程度向上させたかを規定したものではないとして、特許を受けようとする発明が不明確であるとするものと認められる。 しかしながら、本件特許明細書には、そもそも、本発明がターゲット全体における強磁性金属元素の含有量を特定の量に保つものであることは記載されていない。 そして、ターゲット全体の強磁性金属元素の含有量の変更によって、平均漏洩磁束率の発明特定事項を満たすことができるとしても、非磁性相の発明特定事項を満たさないスパッタリング用ターゲット、及び、その製造方法は、本件特許発明1?17に該当しないことは明らかである(比較例3、4参照)。 してみれば、本件特許発明1?17は、特許を受けようとする発明が明確であり、特許法第36条第6項第2号の規定を満足している。 第6 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?17に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2016-05-12 |
出願番号 | 特願2011-252104(P2011-252104) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C23C)
P 1 651・ 537- Y (C23C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 植前 充司、田澤 俊樹、末松 佳記 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
瀧口 博史 新居田 知生 |
登録日 | 2015-05-22 |
登録番号 | 特許第5748639号(P5748639) |
権利者 | 田中貴金属工業株式会社 |
発明の名称 | マグネトロンスパッタリング用ターゲットおよびその製造方法 |
代理人 | 松山 圭佑 |
代理人 | 高矢 諭 |
代理人 | 藤田 崇 |
代理人 | 牧野 剛博 |