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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B22F
管理番号 1314345
異議申立番号 異議2016-700101  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-09 
確定日 2016-05-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第5768322号「ニッケル微粉及びその製造方法」の請求項1?5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5768322号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5768322号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成22年3月19日に特許出願され、平成27年7月3日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人JFEミネラル株式会社により特許異議の申立てがされたものである。

2 本件発明
特許第5768322号の請求項1?5に係る発明(以下それぞれ「本件発明1?5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
熱プラズマによってニッケルを蒸発させ、凝縮させて微粉化することによって得られたニッケル微粉であって、
走査電子顕微鏡観察から求めた個数平均粒径が0.05?0.2μmであり、硫黄含有量が0.1?0.5質量%であり、かつ、0.6μm以上の粗大粒子のニッケル微粉中に含まれる割合が個数基準で50ppm以下であり、比表面積径と上記個数平均粒径との差が、比表面積径に対して15%以下であり、X線回折分析によって求められる結晶子径が個数平均粒径に対して66%以上であることを特徴とするニッケル微粉。
【請求項2】
ニッケル原料中のニッケルと硫黄の合計に対して硫黄含有量が0.1?0.5質量%となるようにニッケル原料を調製する原料調製工程と、
不活性ガスと水素ガスを含む還元雰囲気中において、上記原料調製工程にて調製されたニッケル原料を熱プラズマにより気化させ、発生した硫黄及び酸素を含むニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる微粉化工程と、
上記微粉化工程にて得られた微粉化ニッケルを、連続的に5?50℃に冷却された水冷ジャケット式サイクロン内に導入して粗大粒子と、超微細粒子が凝集した凝集二次粒子と、を除去するとともに、上記微粉化ニッケルを冷却する粗大粒子除去工程と、
冷却された上記微粉化ニッケルを回収する回収工程と、
回収した上記微粉化ニッケルを、酸素を含有する弱酸化性の不活性ガス雰囲気中で保持して微粉化ニッケル表面を徐酸化し、ニッケル微粉を得る徐酸化工程とを有し、
上記水冷ジャケット式サイクロンにおける旋回ガスの入口速度が、10m/sec.より大きく、50m/sec.以下であることを特徴とするニッケル微粉の製造方法。
【請求項3】
上記水冷ジャケット式サイクロンにおける旋回ガスの入口速度が、14m/sec.以上、50m/sec.以下であることを特徴とする請求項2記載のニッケル微粉の製造方法。
【請求項4】
上記原料調製工程において、ニッケル、酸化ニッケル、硫黄化合物から少なくともニッケルを選択して配合することを特徴する請求項2又は3記載のニッケル微粉の製造方法。
【請求項5】
上記熱プラズマとして高周波誘導プラズマを用いることを特徴とする請求項2乃至4の何れか1項記載のニッケル微粉の製造方法。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、特開2009-285537号公報(以下、「甲第1号証」という。)、特開2007-29859号公報(以下、「甲第2号証」という。)、国際公開第2005/123307号(以下、「甲第3号証」という。)、特開2007-191771号公報(以下、「甲第4号証」という。)、特開平11-80817号公報(以下、「甲第5号証」という。)、特開2000-336401号公報(以下、「甲第6号証」という。)、特開平8-246001号公報(以下、「甲第7号証」という。)、特開2004-99979号公報(以下、「甲第8号証」という。)、特開2004-176120号公報(以下、「甲第9号証」という。)、特開2003-89806号公報(以下、「甲第10号証」という。)、“平成20年度 ナノ材料環境影響基礎調査検討会 第3回(2008.12.24) 資料3 ナノ材料の環境中での挙動について”、[online]、平成21年1月7日、環境省、インターネット<本文のURL:http://www.env.go.jp/chemi/nanomaterial/eibs-conf/03/mat03.pdf>、<掲載者、公知日のURL:http://www.fsc.go.jp/fsciis/foodSafetyMaterial/show/syu02750520067>(以下、「甲第11号証」という。)、森本泰夫、外1名、“総説 ナノ粒子の有害性評価”産業衛生学雑誌、平成20年4月4日、第50巻、第2号、p.37-48、インターネット<本文のURL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/sangyoeisei/50/2/50_2_37/_pdf>、<公知日のURL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/sangyoeisei/50/2/_contents/-char/ja/>(以下、「甲第12号証」という。)、菅沼克昭、“ナノテクノロジーの切り開く実装の世界”、エレクトロニクス実装学術講演大会講演論文集 第18回エレクトロニクス実装学術講演大会 19A-07、平成16年9月1日、インターネット<本文のURL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/ejisso/18/0/18_0_165/_pdf>、<公知日のURL:https://www.jstage.jst.go.jp/browse/ejisso/18/0/_contents/-char/ja/?from=1>(以下、「甲第13号証」という。)、国際公開第2005/037465号(以下、「甲第14号証」という。)、特開2004-256757号公報(以下、「甲第15号証」という。)、を提出し、以下の申立理由(1)、(2)によって請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

申立理由(1)
本件特許の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載の発明、甲第2?5号証の記載事項、及び、周知技術(甲第6?10号証記載事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。
申立理由(2)
本件特許の請求項2?5に係る発明は、甲第1号証に記載の発明、甲第2?5号証の記載事項、及び周知技術(甲第11?15号証記載事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものである。

4 甲号証の記載
(1)本件特許の出願前に頒布された甲第1号証には、「微粒子の製造方法およびそれに用いる製造装置」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当合議体が付加したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。)。

1ア 「【請求項1】
微粒子原料を熱プラズマにより微粒子成分蒸気とし、前記微粒子成分蒸気をプラズマ炎(プラズマフレーム)尾部で凝縮し、プラズマ炎領域外で微粒子を生成させた後、前記微粒子をガス気流を介して微粒子回収装置へ搬送して前記微粒子を回収する微粒子の製造方法において、
前記ガス気流は、前記プラズマ炎領域外を旋回しながら、前記微粒子を前記プラズマ炎尾部から前記プラズマ炎領域外へと搬送する旋回流であることを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記熱プラズマが、高周波誘導プラズマであることを特徴とする請求項1に記載の微粒子の製造方法。」

1イ 「【背景技術】
【0002】
近年の技術の多様化により、高周波部品等に使用される誘電体微粒子や電極用微粒子、或いは半導体基板用に用いられる導電性に優れた絶縁性を有する微粒子など、優れた特性を有する微粒子が要求されている。
例えば、積層セラミックコンデンサ(MLCC)においては、要求されている特性のひとつとしてMLCC用電極材料の薄膜化に対応する小粒径化がある。材料としては主にニッケル微粒子が用いられており、次世代のMLCC用として粒径200nm以下で分散性の良い高品質の微粒子が要求されている。」

1ウ 「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0010】
更に、これまでの特性面からの要求ばかりでなく、コストの面でも年々、低コスト化が要求されており、微粒子を効率よく製造できる方法が期待されている。高周波プラズマによって製造された微粒子は結晶性が高く、例えばMLCCで用いる場合、熱収縮開始温度が高くできるなどの利点があり注目されているが、微粒子製造後の回収率が低く、コストが高くなるので、回収率の向上は重要な課題となっている。
【0011】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、プラズマを用いる微粒子の製造方法において、分散性に優れた微粒子を得ることができ、かつその微粒子を高効率で回収できる製造方法および、その製造方法に用いる製造装置を提供することを目的とする。」

1エ 「【0022】
[微粒子の製造方法]
熱プラズマによる微粒子の製造方法は、熱プラズマによってあらゆる物質を気化させ、得られた蒸気を凝縮させて微粒子化する方法であり、高周波誘導プラズマやアークプラズマのような熱プラズマは、プラズマ炎領域が10000℃以上の温度を有するため、その内部に導入された微粒子原料は瞬時に気化する。
以下に、本発明の製造方法をニッケル微粒子の製造を例として説明する。」

1オ 「【0038】
旋回流形成用ガス5a、プラズマガス2a、シースガス3a及び原料供給用ガス4aは、熱プラズマによる微粒子の製造に通常用いられるガスであれば特に問題ない。すなわち、容易に酸化する微粒子、例えば、金属微粒子の製造においては、不活性ガスあるいは還元性ガスを用いれば良く、また、化合物微粒子の製造では、化合物が分解しない雰囲気ガス、例えば、酸化物微粒子の製造においては酸化性ガスを用いるとよい。
【0039】
例えば、実施例のようなニッケル微粒子の製造においては、原料は金属ニッケル粉、ニッケル化合物粉のいずれを使用しても良い。特に酸化物を使用する場合、ニッケル蒸気が凝縮中に化合物元素、特に酸素と再結合する可能性があるが、微粒子の生成を不活性ガス及び水素ガスを含む還元性雰囲気中で行うことにより、酸素との結合が阻害されニッケルの微粒子を得ることができる。
・・・
【0043】
また、微粒子発生室7と微粒子回収装置10の中間にはサイクロン9を設置することが好ましい。サイクロン9によって粗大粒子が細くされ、微粒子回収装置10で回収される微粒子20への粗大粒子の混入を防止することができる。」

1カ 「【実施例】
【0055】
実施例における各種特性の測定は以下の方法を用いて行なっている。
(1)走査型電子顕微鏡(SEM)観察
走査型電子顕微鏡((株)日立ハイテクノロジーズ製、S-4700:以下FE-SEMと記載)を用いて観察した。
【0056】
(2)比表面積径
多検体BET比表面積測定装置(ユアサアイオニクス(株)製、Multisorb?16)を用いて比表面積を測定し、比表面積径に換算した。
【0057】
(3)結晶子サイズ
X線回折装置(PANalytical製、X‘PertPRO:以下XRDと記載)を用いて測定した。
【0058】
(4)粒度分布測定
ニッケル微粒子を約0.1g採取し、分散媒として0.2質量%のヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を約50ml添加した後、超音波ホモジナイザー(株式会社日本精機製作所社製、US-300T)により、300μAの出力で30秒?5分間分散させてサンプル液を調製した。粒度分布はレーザー回折法(日機装(株)製、MICROTRAC HRA MODEL:9320-X100)によりサンプル液を測定した。平均粒径は、体積積算で50%の値(D50)を用いた。」

1キ 「【0059】
[実施例1]
プラズマガス供給口2からアルゴンガス50リットル/分及び水素ガス6.4リットル/分の流量で混合したプラズマガス2a、シースガス供給口3からシースガス3aとしてアルゴンガスを110リットル/分で供給し、プラズマ装置1に約60kWの入力で高周波プラズマを点火して、安定したプラズマ炎6aを得た。このときの雰囲気圧力は、自動圧力調整バルブにより60kPaに調整した。
【0060】
原料粉末供給口4から、原料供給用ガス4a(アルゴン15リットル/分)によりニッケル粉末((株)高純度化学研究所製、ニッケル、Ni、NIE02PB、粒径2?3μm)を導入して、約20g/分の割合でプラズマ炎6aの内部に供給した。このプラズマ炎6aは10000℃以上であるため、原料粉末は瞬時に蒸発気化し、温度が低くなるプラズマ炎尾部6bで凝縮し、微粒子化した。旋回流形成用ガス5aとしての循環ガスの流量は、1,400リットル/分(ノズル出口流速:約39m/秒、流量比:770%、20箇所の旋回ガス用ノズル11:各70リットル/分)とし、循環用ポンプ13により循環して使用した。微粒子発生室内の雰囲気温度は、熱電対8で測定したところ150?200℃であった。
【0061】
得られたニッケル微粒子20は、配管30内を搬送されてサイクロン9を経由して、大気雰囲気に暴露することなく回収装置10に到達した。さらに、得られたニッケル微粒子20は、回収装置10内にて、アルゴン-10%空気(約2%酸素)雰囲気中で約20時間保持する徐酸化処理を行った後、装置から回収した。ニッケル微粒子の回収率は、投入した原料に対して78%であった。
【0062】
図4に回収したニッケル微粒子のSEM観察結果を示す。このSEM観察結果を用いて500点の粒径を測定した結果、平均粒径は174nmであった。また、比表面積径では172nmであり、SEM観察からの粒径と同等であった。粒度分布測定による粒径分布としては36nm?650nmであり、平均粒径は、D50=403nmであることからも分散性の良い物ができているのがわかる。
【0063】
このニッケル微粒子をX線回折(XRD)により解析し、そのXRD測定チャートを図5に示した。結晶子サイズはScherrer法によって算出し、997Åであり、単結晶に近い結晶性のものができていることがわかる。」

1ク 「【0064】
[実施例2]
旋回流形成用ガス5aとしての循環ガスの流量を700リットル/分(ノズル出口流速:約19m/秒、流量比:385%、20箇所の旋回流用ガス供給口11:各35リットル/分)とした以外は実施例1と同様にしてニッケル微粒子20を得た。微粒子発生室内
の雰囲気温度は、250?300℃であった。また、実施例1と同様のニッケル微粒子の回収率は62%であった。
【0065】
図6に回収したニッケル微粒子のSEM観察結果を示す。実施例1と同様にして測定したSEM結果を用いた平均粒径は183nmであった。また、比表面積径は234nmであり、SEM観察からの粒径と比較するとやや比表面積径が大きい結果となった。一方、粒度分布測定による粒径分布としては38nm?820nmと、最大粒径も1μm以下であり、平均粒径は、D50=518nmであることからも分散性の良いものができている。
【0066】
更に、このニッケル微粒子をXRD測定し、結晶子サイズはScherrer法によって算出したところ、1171Åであり、単結晶に近い結晶性のものができていることがわかる。」

1ケ 段落【0059】に記載された「高周波プラズマ」は、段落【0022】を参照すると、「熱プラズマ」を意味するものと認められる。

1コ 段落【0059】には、実施例1において、アルゴンガス及び水素ガスを混合したプラズマガスと、アルゴンガスをシースガスとして供給し、高周波プラズマを点火することが記載されており、また、段落【0038】には、プラズマガス2a、シースガス3aとして、不活性ガスあるいは還元性ガスを用いれば良いと記載されている。してみると、実施例1において、プラズマ点火のために供給されているガスである、アルゴンガス及び水素ガスの混合ガスは、還元性ガスであるといえる。

1サ 段落【0061】に記載された「サイクロン」は、段落【0043】を参照すると、粗大粒子を細くし、微粒子回収装置10で回収される微粒子20への粗大粒子の混入を防止するものである。通常、粗大粒子を細かくするといえば、ボールミル等を用いて粗大粒子を衝撃によって粉砕することを意味するものと認められるところ、「サイクロン」は、微粒子を分級する機能を有するものであることは技術常識であるし(例えば、下記甲第2号証参照)、「サイクロン」において、旋回流によって同一方向に搬送されている粒子同士が激しく衝突することはまれと考えられるから、粒子の粉砕機能は有していないと考えられる。したがって、上記「粗大粒子を細くし、粗大粒子の混入を防止する」とは、「サイクロン」の分級機能によって粗大粒子を除去することを意味するものと解される。

1シ 段落【0039】には、実施例のようなニッケル微粒子の製造においては、ニッケル微粒子の原料として、金属ニッケル粉を使用しても良いと記載され、段落【0060】には、実施例1において、原料粉末供給口4から、原料供給用ガス4aによりニッケル粉末((株)高純度化学研究所製、ニッケル、Ni、NIE02PB、粒径2?3μm)を導入することが記載されている。そして、上記ニッケル粉末の製造元である、高純度化学研究所のHP(URL:http://www.kojundo.co.jp/Japanese/Guide/)に掲載された「NIE02PB」の「安全データシート」、[online]、作成1998年4月28日、インターネット(URL:http://www.kojundo.jp/msdsjp/NIE01PAG.pdf)を参照すると、下記に示すように、第2頁の「3 組成,成分情報」の欄に「化学名:ニッケル」、「化学式:Ni」について「組成:100%」と記載されている。
したがって、実施例1の原料である上記ニッケル粉末中に、硫黄及び酸素はいずれも含まれていないものと認められる。なお、ここで、「含まれていない」とは、必須の成分として一定量を含むものではないという意味であり、不可避的不純物としてごく微量が含まれる場合は含み得るといえる。

(株)高純度化学研究所製のニッケル粉末「NIE02PB」の安全データシート






また、段落【0060】の記載によれば、実施例1において、ニッケル微粒子の原料として、(株)高純度化学研究所から購入した金属ニッケル粉をそのまま使用しているものと推認されるから、原料の金属ニッケル粉を準備する工程は存在するといえるが、原料の調整を行う原料調整工程は存在していないといえる。

1ス 段落【0039】には、ニッケル微粒子の原料としては、金属ニッケル粉とニッケル化合物粉のいずれも利用可能であり、後者が酸化物である場合には、酸素がニッケル蒸気と再結合する可能性があるが、還元性雰囲気中では、酸素との結合を阻害してニッケルの微粒子を得ると記載されているから、ニッケル微粒子の原料として、金属ニッケル粉を利用した場合には当然ながら、酸化物を利用した場合においても、完成したニッケル微粒子には酸素が含まれないものと認められる。

1セ 上記1ア?1クの記載事項及び1ケ?1スの検討事項に基づき、実施例1のニッケル微粉及びその製造方法に関する記載を、それぞれ、本件発明1、2の記載ぶりに則して整理すると、甲第1号証には、次の2つの発明が記載されているものと認められる。

「熱プラズマによってニッケル粉末を蒸発させ、凝縮させて微粒子化することによって得られたニッケル微粉であって、
走査電子顕微鏡観察結果を用いて粒径を測定した結果、平均粒径は174nmであり、比表面積径(172nm)と上記平均粒径(174nm)との差が、比表面積径に対して1.16%であり、X線回折分析によって求められる結晶子径(997Å)が上記平均粒径(174nm)に対して57.3%であり、粒度分布測定による粒径分布が36nm?650nmである、ニッケル微粉。 」(以下「甲1微粉発明」という。)

「ニッケル粉末を準備する原料準備工程と、
アルゴンガス及び水素ガスを混合した還元性ガス中において、上記原料準備工程にて準備されたニッケル粉末を熱プラズマにより気化させ、発生したニッケル蒸気を凝縮させて微粒子化させる微粒子化工程と、
上記微粒子化工程にて得られたニッケル微粒子を、サイクロン内に導入して粗大粒子を除去する粗大粒子除去工程と、
上記ニッケル微粒子を回収する回収工程と、
回収した上記ニッケル微粒子を、アルゴン-10%空気(約2%酸素)雰囲気中で約20時間保持する徐酸化処理を行い、ニッケル微粒子を得る徐酸化工程とを有する、
ニッケル微粒子の製造方法。」(以下「甲1方法発明」という。)

(2)本件特許の出願前に頒布された甲第2号証には、「微粒子の製造方法および装置」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
2ア 「【請求項1】
任意の処理により生成された1次微粒子を、
少なくとも1つ以上のサイクロン内に導入することにより、冷却と、任意に規定される粒径での分級とを実施し、
前記分級により、前記粒径以上の粒径を有する粗大粒子を除去し、
前記粗大粒子が除去された、粒径が100nm以下の2次微粒子を回収することを特徴とする微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記1次微粒子を生成する処理が、
微粒子製造用材料を分散させて熱プラズマ炎中に供給し、
前記微粒子製造用材料を蒸発させ気相状態の混合物とする処理である
請求項1に記載の微粒子の製造方法。」

2イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、熱プラズマ法を用いる微粒子の製造方法および装置に関し、詳しくは、微細かつ均一な粒径を有する品質の高い微粒子を高い生産性で得ることが可能な微粒子の製造方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化物微粒子,窒化物微粒子,炭化物微粒子等の微粒子は、半導体基板,プリント基板,各種電気絶縁部品などの電気絶縁材料や、ダイス,軸受などの高硬度・高精度の機械工作材料や、粒界コンデンサ,湿度センサなどの機能性材料、精密焼結成形材料などの焼結体の製造や、エンジンバルブなどのような高温耐摩耗性が要求される材料などの溶射部品製造、さらには燃料電池の電極や電解質材料および各種触媒などの分野で用いられている。このような微粒子を用いることにより、焼結体や照射部品などにおける異種セラミックス同士や異種金属同士の接合強度や緻密性、あるいは機能性を向上させている。
【0003】
このような微粒子を製造する方法の一つに、気相法がある。気相法には、各種のガス等を高温で化学反応させる化学的方法と、電子やレーザなどのビームを照射して物質を分解・蒸発させ、微粒子を生成する物理的方法とがある。
【0004】
上記気相法の中の一つとして、熱プラズマ法がある。熱プラズマ法は、熱プラズマ中で原材料を瞬時に蒸発させた後、急冷凝固させ、微粒子を製造する方法であり、また、クリーンで生産性が高く、高温で熱容量が大きいため高融点材料にも対応可能であり、他の気相法に比べて複合化が比較的容易であるといった多くの利点を有する。このため、熱プラズマ法は、微粒子を製造する方法として積極的に利用されている。」

2ウ 「【0072】
最終的にチャンバ16内で生成した1次微粒子は、サイクロン19の入口管19aから、気流とともに外筒19bの内周壁に沿って吹き込まれ、これにより、この気流が図4中の矢印Tで示すような外筒19bの内周壁に沿って流れることにより、旋回流を形成して下降する。そして、この旋回流は円錐部19c内周壁でさらに加速され、その後反転し、上昇流となって、内管19eから系外に排出される。また、気流の一部は、粗大粒子回収チャンバ19dに流入する前に円錐部19c内周壁で反転し、内管19eから系外に排出される。
【0073】
粒子には、旋回流により遠心力が与えられ、遠心力と抗力とのバランスにより、粗大粒子は壁方向に移動する。また、気流から分離された粒子は、円錐部19c側面に沿って下降し、粗大粒子回収チャンバ19dで回収される。ここで、十分に遠心力が与えられない微粒子は、円錐部19c内周壁での反転気流とともに、系外へ排出される。このときのサイクロン19内への気流の流速は、好ましくは、10m/s以上である。
【0074】
一方、微粒子は、回収部20からの負圧(吸引力)によって、図4中の矢印Uで示すように吸引され、内管19eを通して回収部20に送られ、回収部20のバグフィルター20bで回収される。このときのサイクロン19内の内圧は、大気圧以下であることが好ましい。また、微粒子の粒径は、目的に応じて任意の粒径が規定される。」

2エ 「【0078】
本実施形態に係る製造方法のように、粉末材料が分散媒中に分散された状態では、粉末材料の凝集が解消され、分散媒中で原材料の粒子が分散した状態となっている。このような分散媒中に可燃性材料を混入させることにより、反応温度が上昇し、熱プラズマ炎発生領域が拡大される。この作用を受けて、反応が促進され、粉末材料の蒸発量が増加することにより、本実施形態に係る製造方法では、生成される微粒子の回収率が増加する。さらに、可燃性材料の燃焼による炎の発生により、熱プラズマ炎発生領域が拡大し、熱プラズマ炎の安定性が向上する。
【0079】
また、本実施形態に係る製造方法では、ガスを供給し、装置内の流速を任意に制御することで、装置内に設けたサイクロンで微粒子を分級可能としている。これは、凝固した微粒子同士が衝突し凝集しないように希釈され、より微細な微粒子を生成する効果がある。そこで、本実施形態に係る製造方法では、反応条件を変えることなく、気体の流速、もしくはサイクロン内径を変えることで、任意の分級点で粗大粒子を分離できるため、粒径が微細かつ均一で、品質のよい高純度の微粒子を高い生産性で製造することが可能になる。
【0080】
さらに、本実施形態に係る製造方法では、サイクロン内で旋回流を生じるため滞留時間が長くなり、サイクロン内で微粒子が冷却されるようになるので、これまで冷却機構として用いていたフィンや冷却路を設ける必要がなくなる。そのため、フィン内に堆積した微粒子除去のための装置の稼動を停止させる必要がなくなり、装置の稼動時間を長期化することが可能になる。さらに、サイクロン全体を水冷ジャケット構造とすることで、冷却効果をより一層高めることができる。」

(3)本件特許の出願前に頒布された甲第3号証には、「ニッケル粉末およびその製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
3ア 「請求の範囲
[1] 硫黄:0. 01?1.0質量%、炭素:0. 01?1.0質量%を含有することを特徴とする ニッケル粉末。
[2] ・・・
[3] 表面に、ニッケルと硫黄を含む化合物層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のニッケル粉末。 」

3イ 「 [0014] 次に、本発明のニッケル粉末の製造方法は、上記ニッケル粉末を好適に製造するための製造方法であって、ニッケル粉末を硫黄含有化合物で処理することを特徴とする。これにより、ニッケル粉末の表面に硫黄含有化合物が被覆されたり、あるいはニッケル粉末の表面にNi-Si、Ni-S-O等のニッケル-硫黄化合物層が形成される。このように、ニッケル粉末の表面に硫黄含有化合物の被覆層あるいはニッケル? 硫黄化合物層を形成することにより、耐酸化性に優れ、かつ焼結開始温度が高く、収縮率の小さ 、焼結挙動に優れたニッケル粉末を得ることができる。」

3ウ 「実施例1
[0043] A.ニッケル粉末の調製
図1に示すニッケル粉末製造装置の塩化炉1内に、出発原料である平均粒径5mmの金属ニッケルショットMを充填するとともに、加熱手段11で炉内雰囲気温度を1100℃
とした。次いで、ノズル12から塩化炉1内に塩素ガスを供給し、金属ニッケルショットMを塩化して塩化ニッケルガスを発生させ、この後、ノズル13から供給した窒素ガスを塩化ニッケルガスに混合した。そして、塩化ニッケルガスと窒素ガスとの混合ガスを、加熱手段21で1000℃の炉内雰囲気温度とした還元炉2内に、ノズル22から流速2.3m/秒(1000℃換算)で導入した。
[0044] これと同時に、ノズル23から還元炉20内に水素ガスを流速7Nl/分で供給して塩化ニッケルガスを還元し、ニッケル粉末Pを得た。さらに、還元工程にて生成したニッケル粉末Pに、ノズル24から供給した窒素ガスを接触させ、ニッケル粉末Pを冷却した。この後、ニッケル粉末Pを分離回収して湯洗洗浄し、ニッケル粉末スラリー中に炭酸ガスを吹き込んでpH5.5とし、常温下においてニッケル粉末を炭酸水溶液中で60分処理した。その後、ニッケル粉末スラリーを水洗して炭酸を除去し、ニッケル粉末を得た。
[0045] B.チオ尿素による処理
上記のようにして得られたニッケル粉末スラリーに、ニッケル粉末に対し硫黄含有量が0.1質量%になるよう、チオ尿素のエタノール溶液を添加し、常温で30分間超音波処理した。次いで、気流乾燥機で乾燥処理した後、大気中200℃で30分間加熱処理を行い、実施例1のニッケル粉末を得た。 」

(4)本件特許の出願前に頒布された甲第4号証には、「ニッケル微粒子の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
4ア 「【請求項1】
ニッケル微粒子を硫黄化合物の溶液で湿式処理して、ニッケル微粒子に対して0.05?1.0重量%の範囲の硫黄を含有させることを特徴とするニッケル微粒子の製造方法。」

4イ 「【0012】
また、このようなニッケル微粒子は、例えば、導電性ぺーストとして、これを積層セラミックコンデンサの内部電極材料として用いることを考慮した場合、球状で平均粒径が0.1?1.0μmの範囲にあることが好ましい。
【0013】
本発明の方法によれば、このようなニッケル微粒子を硫黄化合物の溶液で湿式処理して、ニッケル微粒子に対して0.05?1.0重量%の範囲の硫黄を含有させることによって、高温での焼成において、焼結挙動がセラミック誘電体に近く、収縮開始温度の高いニッケル微粒子を得ることができる。」

4ウ 「【0023】
実施例1
湿式法で製造した平均粒径0.18μmの球状のニッケル微粒子をその0.2重量%に相当する硫黄を含有する硫酸アンモニウム水溶液に加え、5分間攪拌して、スラリーとした後、温風循環型乾燥機に入れ、加熱乾燥し、蒸発乾固させた。このようにして得たニッケル微粒子の有する硫黄量は0.199重量%であった。また、このニッケル微粒子の温度に対する重量変化率を図1に示し、試料の収縮開始温度と1000℃における収縮率を表1に示す。」

(5)本件特許の出願前に頒布された甲第5号証には、「ニッケル超微粉」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
5ア 「【請求項1】 平均粒径が0.1?1.0μmで、かつ硫黄含有率が0.02?1.0%であることを特徴とするニッケル超微粉。」

5イ 「【0007】本発明の数値限定理由について説明する。ニッケル超微粉の平均粒径を0.1?1.0μmとしたのは、これをペースト化して絶縁層フィルムに印刷して十分に薄層で密実な内部電極を形成するために必要な粒径を確保するためである。平均粒径が0.1μm未満では、積層セラミックコンデンサ焼成時にニッケル層が過焼結により収縮し、内部電極がポーラス(多孔状)なものとなって電気抵抗が高くなり、あるいはデラミネーションやクラックを発生するので望ましくない。一方、1.0μmを越えると、積層セラミックコンデンサの内部の電極層の薄層化が困難なばかりでなく、電極層の表面の凹凸が大きくなりクラックの原因となるので限定される。さらに好ましくは0.2?0.6μmである。なお、平均粒径は電子顕微鏡写真を画像解析して求めた個数基準の粒度分布において50%粒子径(d50)である。
【0008】積層セラミックコンデンサ用のニッケル超微粉は、粒子の大きさと共に、粒子形状が球状であることが必要である。球状粒子は、積層セラミックコンデンサの製造工程において、ニッケル超微粉の充填密度が高い薄層の内部電極を容易に形成することができ、クラックや剥離を生じないという好適な特性を発揮する。このニッケル超微粉粒子が球状を呈するようにするために、本発明者等が鋭意研究を進めた結果、硫黄の含有率が決定的な作用を及ぼすという新知見を得た。硫黄含有率が0.02重量%未満でも、1.0重量%を越えて含有していても、角状(六面体、八面体など)の形状の粒子が多くなり不可である。硫黄含有率が0.02重量%?1.0重量%の範囲内のニッケル超微粉は、優れた球状を呈する。従って、硫黄含有率をこの範囲に適正化する制御によって球状のニッケル超微粉を製造することができる。
【0009】また、上記平均粒子径と硫黄含有率を有するニッケル超微粉は、気相反応によって、硫黄成分量を制御しながら容易に製造することができ好ましい。このような塩化ニッケル蒸気の気相水素還元方法は、蒸発るつぼを有する蒸発部と、この蒸発部から不活性ガスで搬送された塩化ニッケル蒸気と供給された水素ガスとを所定の温度で接触させる反応部と、反応部からの発生ニッケル粉を含む反応ガスを間接冷却する冷却部とを、連続配置した反応器を用いて実現することができる。
【0010】ニッケル超微粉を球状化する具体的な手段は、硫黄及び硫黄化合物の一方又は両方を、塩化ニッケル蒸気に随伴させる方法や不活性ガス又は水素ガスに随伴させる方法によって実現することができる。このような方法によって製造したニッケル超微粉は球状化するだけではなく、付随してニッケル超微粉の粒子径が揃い、粒径分布がシャープになるという良好な効果をもたらすとともに、個々のニッケル超微粉は、多数のより微小なニッケル超微粉の凝集体あるいは焼結体ではなく、単一粒子を形成するという良好な結果をもたらす。」

(6)本件特許の出願前に頒布された甲第6号証には、「積層セラミックコンデンサー内部電極用ニッケル粉末およびその評価方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
6ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、積層セラミックコンデンサーの内部電極に用いられるニッケル粉末およびその評価方法に関する。なお、本明細書では、積層セラミックコンデンサー内部電極用ニッケル粉末を「粉末」という。」

6イ 「【0038】(e)粉末の結晶性は、焼成時における粉末の焼結挙動に結晶性が大きく影響する。結晶性の低い粉末は、脱バインダのために雰囲気に少量加える酸素によって酸化し易い。酸化した粉末は、焼結性が極端に悪化するので、焼結が満足に進まず、従って電極として機能せず目的とする静電容量が得られない。また、酸化が生じない条件で脱バインダしても、結晶性の低い粉末は、高い焼結性のために過焼結となって(異常粒成長を起こして)島状に孤立してしまい、従って電極として機能せず目的とする静電容量が得られない。粉末粒子の結晶子径は、特に限定されないが、1000A以上が望ましい。」

6ウ 「【0040】
【実施例】塩化ニッケルの氣相水素還元法(実施例1・2・4・5、比較例1)、ニッケル塩の固相水素還元法(実施例3・6・7、比較例2)およびニッケル塩の湿式還元法(比較例3・4)で粉末を生成させ、分離・洗浄・乾燥を経て調製した。
・・・
【0042】(1)平均粒径
SEM(走査型電子顕微鏡)にて粉末を観察し、10000倍のSEM写真から粒子100個以上の粒径を測定し、個数基準の積算粒度分布における50%を与える粒子径(通常、d_(50)と示す)を平均粒径とした。
【0043】(2)平均結晶子径
X線回折によって得られたX線回折パターンから平均結晶子径を算出した。X線回折装置には、理学電機(株)製のRotaflex Rad-rVB型を用いた。」

6エ 「【0063】製品粉末は、平均粒径が0.16μm、平均結晶子径が1000A以上、真密度が8.21g/cm^(3 )、およびタップ密度が1.8g/cm^(3 )であった。また、真密度計算値は8.17であり、タップ密度計算値は1.7であった。」

(7)本件特許の出願前に頒布された甲第7号証には、「積層セラミックコンデンサー用ニッケル超微粉」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
7ア 「【請求項1】 平均粒径が 0.1? 1.0μmで、かつタップ密度が(1)式で表される条件を満足する積層セラミックコンデンサー用ニッケル超微粉。
タップ密度≧-2.5 ×(平均粒径)^(2)+ 7.0×(平均粒径)+ 0.6 ・・・(1)式
【請求項2】 粒度分布の幾何標準偏差が 2.0以下、かつ平均結晶子径が平均粒径の 0.2倍以上であることを特徴とする請求項1記載の積層セラミックコンデンサー用ニッケル超微粉。」

7イ 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、積層セラミックコンデンサーの内部電極にも用いられるニッケル超微粉に関するものである。」

7ウ 「【0009】
【作用】本発明者らが種々のニッケル粉について実験した結果、積層セラミックコンデンサー製造工程におけるクラックや剥離の発生しにくい低抵抗な電極材料として、ニッケル微粉に要求される特性は次ぎのとおりであった。まず、平均粒径が 0.1? 1.0μm の範囲に限定される。平均粒径が 0.1μm 未満では、積層セラミックスコンデンサー焼成時にニッケル層が過焼結により収縮しポーラスなものとなって電気抵抗が高くなり、あるいはデラミネーションやクラックを発生するので望ましくない。一方、 1.0μm 超では、積層セラミックスコンデンサーの電極層の薄層化が困難なばかりでなく、表面の凹凸が大きくなりクラックの原因となる。なお、平均粒径は電子顕微鏡写真を画像解析して求めた個数基準の粒度分布における50%粒子径(d50)である。
・・・
【0012】
タップ密度≧-2.5 ×(平均粒径)^(2)+ 7.0×(平均粒径)+ 0.8 ・・・(2)式
さらには、タップ密度が(3)式を満たすのがより好ましく、クラック、デラミネーション発生率は1%以下となっている。
タップ密度≧-2.5 ×(平均粒径)^(2)+ 7.0×(平均粒径)+ 1.0 ・・・(3)式
さらに、粒度分布の幾何標準偏差が 2.0以下、かつ平均結晶子径が平均粒径の0.2倍以上であることが好ましい。粒度分布の幾何標準偏差が 2.0を超えると粗大な粒子が混入するので、膜厚が不均一となってクラックの原因となり好ましくない。結晶子径は結晶性を意味し、粒子の焼結の難易と関係する。すなわち、結晶子径が小さいほど粒子は焼結しやすく、積層セラミックスコンデンサーの焼成時、結晶子径が小さいニッケル粉を電極層として用いた場合、ニッケル層が過焼結により収縮してしまうのである。発明者らは、許容結晶子径を求めるべく実験を繰り返した結果、平均粒径が 0.1? 1.0μm の範囲で粒度分布の幾何標準偏差が 2.0以下、かつ平均結晶子径が平均粒径の 0.2倍以上であれば、焼成時にデラミネーションやクラックが発生しないことを見い出した。ここで、粒度分布の幾何標準偏差は個数基準の粒度分布における50%粒子径(d50)と積算ふるい下84.3%径(d84.3)の比(d84.3/d50)で求められ、平均結晶子径はX線回折ピークの半値巾から求められる。
【0013】なお、ニッケル純度は99.5重量%以上が好ましく、99.5重量%未満では焼成時にデラミネーションやクラックが発生しやすいだけでなく、電極としての特性が低下(比抵抗が大きくなる)する。このような特徴を持つニッケル粉の製造方法としては,塩化ニッケルの気相水素還元法が挙げられる。従来の湿式法は、ニッケル粉の製造温度が低温(< 100℃)であるのに対し、塩化ニッケルの気相水素還元法は、製造温度が高温(1000℃付近)であるため、結晶が大きく成長(微細な1次粒子の集合体でない)することによって焼成時にの過焼結が発生しにくい。また、気相水素還元法では、粒形状が球状となり、純度99.5重量%以上のものが得やすい有利な点もある。上記特徴を持つニッケル粉を効率よく製造するために、反応器を用いて塩化ニッケル蒸気と水素を化学反応させる方法が適している。具体的には、塩化ニッケル蒸気濃度(分圧)を0.05? 0.3とし、かつ塩化ニッケル蒸気と水素を1004℃(1277K)?1453℃(1726K)の温度で化学反応させる。」

7エ 「【0014】
【実施例】
実施例1
図2に示すような反応器1を用い,蒸発部2のルツボ3に原料の塩化ニッケルを入れ、10リットル/分のアルゴンガス4中に濃度(分圧)が 8.0×10^(-2)なるように加熱、蒸発させた。この原料混合ガスを蒸発部2の下流に位置する1050℃(1323K)に設定した反応部5へ輸送し、反応部5の中央ノズル6から下向きに5リットル/分の割合で供給される水素7と接触・混合させて反応を起こさせた。発生したニッケル粉はガスとともに冷却部9を通過させた後、図示省略した捕集装置で回収した。なお、図中、8は熱電対を示す。
【0015】この生成粉の比表面積は 2.7m^(2)/g、電子顕微鏡観察による平均粒径0.25μm、粒度分布のバラツキを示す幾何標準偏差 1.4の粒度が揃った微粉末であることが確認された。また、このニッケル粉のX線回折パターンから算出した平均結晶子径は 0.2μmであり、平均粒径と比較すると、単結晶あるいは数個の結晶からなる結晶性に優れた多結晶であることが示された。」

7オ 「【0023】実施例6
実施例1において、塩化ニッケルの蒸気濃度(分圧)が 5.0×10^(-2)、反応部1015℃(1333K)とした以外は同じ条件でニッケル粉を製造した。この生成粉の比表面積は 3.2m^(2)/g、電子顕微鏡観察による平均粒径0.15μm、平均結晶子径 0.1μm であり、純度99.5重量%の粉末であった。」

7カ 「【0033】得られた積層コンデンサーのクラックやデラミネーションの有無を30個について調べた結果を表1に示した。
【0034】
【表1】


【0035】実施例に示すように、本発明の特性を満足するニッケル粉を用いた場合にはクラックやデラミネーションは見られなかった。一方、比較例では本発明の特性のいずれかが満足しないためにクラックやデラミネーションが発生している。」

(8)本件特許の出願前に頒布された甲第8号証には、「金属粉末の製造法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
8ア 「【0002】
【従来の技術】
エレクトロニクス回路形成用導体ペーストに使用される導電性金属粉末としては、不純物が少ないこと、平均粒径が0.1μm以下のものから10μm程度までの微細な粉末であること、粒子形状および粒径が揃っており、凝集のない単分散粒子であることなどが望まれる。またペースト中での分散性が良いことや、不均一な焼結を起こさないよう結晶性が良好であることも要求される。特に積層コンデンサ、積層インダクタ等の積層セラミック電子部品において、内部導体や外部導体の形成に用いられる場合は、デラミネーション、クラック等の構造欠陥を防止しかつ導体を薄膜化するために、より微細で粒径、形状の揃った分散性の良好なサブミクロン粒子であることと共に、焼成中に酸化還元による膨張収縮が起こりにくく、かつ焼結開始温度が高い、球状で活性の低い高結晶性または単結晶の金属粉末が要求されている。」

8イ 「【0015】
【実施例】
次に、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。
実施例1
市販のシュウ酸ニッケルを電気炉に入れ、大気中で加熱焙焼して原料粉末を得た。この時の加熱温度は350℃で、分解ガスの発生が終了する前に焙焼を終了した。O_(2)を50ppm含んだN_(2)ガスを1000℃に加熱した熱風を導入している流動層加熱炉にこの原料粉末を投入し加熱処理を行い、排気側から生成したニッケル金属粉末をバグフィルターで捕集した。このニッケル金属粉末をX線回折計で測定したところ、得られた回折ピークは半値幅が狭く結晶性が良好であった。また、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察をしたところ、この金属粉末は平均粒径0.2μm、最大粒径0.7μmの単分散状の粉末であった。」

(9)本件特許の出願前に頒布された甲第9号証には、「導電粉末、その製造方法、及びそれを用いた導電ペースト」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
9ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、導電粉末、その製造方法、及びそれを用いた導電ペーストに関し、さらに詳しくは、積層セラミックコンデンサの内部電極形成用などの厚膜導電ペーストに用いられる結晶性、分散性、及び耐酸化性に優れた導電粉末の製造方法、及びそれを用いた導電ペーストに関する。」

9イ 「【0006】
このような微粉のニッケル粉末などの製造法として、種々の方法が知られているが、積層セラミックコンデンサの内部電極形成用導電ペーストに用いるのに適したニッケル粉末、及びニッケルを主成分とする合金粉末などの製造方法として、下記の乾式法と湿式法がある。
(1)乾式法:粉末、またはガス状のニッケル化合物等を、熱分解するか、あるいは水素還元して金属(合金)粉末を得る方法。
(2)湿式法:ニッケル塩等を含有する溶液から還元析出によって金属(合金)粉末を得る方法。
【0007】
ここで、乾式法では、結晶性の高い金属粉末を得ることが可能である。特に、金属塩溶液をミストにして熱分解する噴霧熱分解法や、金属塩蒸気を水素ガスで還元する化学気相反応法(CVD法)は、ニッケルの場合には1000℃以上の温度で反応を行うので、結晶性の良い、かつ単分散粒子が製造できる。しかし、高温下での還元反応では、ニッケルの場合、結晶性の向上と共に、晶壁面の生成が起こりやすくなる傾向があり、その制御が必須である。また、量産規模で大量の粉末製造を行う工程では、粒子の成長速度を厳密に制御することが難しくなるので、粒径分布が広くなる。そのため、乾式法では、反応装置のコスト高、更には分級工程などによる製造コスト高を引き起こすため、粒子形状が球状に制御された均一な粒径の金属粉末を量産規模で低コストで生産することが困難であるという問題点がある。
【0008】
これに対して、湿式法、例えば金属塩溶液の還元法で、内部電極形成用導電ペーストに用いるのに適した、球状の粒子形状で、粒径が0.1μm?1.0μmのニッケル粉末を得ることは可能であるが、結晶子径が大きく成長せず、結晶性が劣る。そのため、酸化されやすく、かつ粉末の真密度が低いため、内部電極層の高密度化を満足することが出来ない。また、過焼結が発生しやすく、焼成時に体積変化が大きいため、デラミネーションやクラックが発生し易い。」

(10)本件特許の出願前に頒布された甲第10号証には、「ニッケル粉末の製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
10ア 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】このような積層セラミックコンデンサー用のニッケル粉末の製造方法としては、特開平5ー51610号公報記載の方法が提案されている。該公報記載の方法では、水溶性Ni(II)塩の水溶液に強アルカリを加えてNi(OH)_(2)を生成させ、粒度分布のシャープなニッケル粉末を得るという方法である。しかし、この方法は、得られるニッケル粉末の結晶性が悪いため耐熱性が劣り、焼成時に構造欠陥を生じ易く、さらに充填性も低いため容量が不足するという問題があった。
【0006】一方、耐熱性の良いニッケル粉末の製造方法としては、特開平4ー365806号公報記載の方法が提案されている。この方法は、塩化ニッケル蒸気と水素ガスとの化学反応によりニッケル微粉末を製造する方法である。この方法は、高耐熱性と高充填性を有し、コンデンサー内部電極用ニッケル粉末として好適なニッケル粉末を得ることができる。しかし、この方法でニッケル粉末を製造するためには、1004?1453°Cという高温での反応が必要で、さらに、HClなどの副生成物の処理費、プロセスの生産性の低さがコスト高の要因となり安価な製造方法とはいえない。」

10イ 「【0010】本発明の目的は、Ni(OH)_(2)をH_(2)ガスで還元し、結晶性の良好なニッケル粉末を得る前述のプロセスにおいて、粒径が3μm以上の粒子をさらに低減するニッケル粉末の製造方法を提供することである。」

(11)本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第11号証には、「ナノ材料の環境中での挙動について」(標題)に関して、以下の事項が記載されている。
11ア 「○ 大気中の粒子の挙動は大きさによって大きく3グループに大別される。
・小さい粒子(80nm未満):これらは凝集モード(agglomeration mode)と呼ばれ、短命で、すぐに凝集して大きな粒子になってしまう。
・大きな粒子(2000nm以上):これらは粗粒モード(coarse mode)と呼ばれ、重力沈降の作用が大きい。
・中間の粒子(80?2000nm):これらは集合モード(accumulation mode)と呼ばれ、大気中に数日から数週間の長期間浮遊し、乾性及び湿性降下により大気中から除去される。」(第1頁15?22行)

(12)本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第12号証には、「ナノ粒子の有害性評価」(標題)に関して、以下の事項が記載されている。
12ア 「ナノ粒子は,気相中や液相中において生成後のすぐに熱力学的作用や静電作用などにより凝集するため,対象物質を特段の分散処理をしていないかぎり,すぐに凝集体を形成する.たとえ,一次粒子が数ナノや数十ナノのサイズであっても,凝集しミクロンオーダーになることもしばしばである.」(第39頁左欄10?16行)

(13)本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第13号証には、「ナノテクノロジーの切り開く実装の世界」(標題)に関して、以下の事項が記載されている。
13ア 「数nmから数十nmの金属粒子は,表面の持つ効果が大きくなり,室温に於いてさえナノ粒子は不安定で粒子間の凝集-結合が進み,自然に粗大な粒子に成長してしまう.」(第1頁右欄7?10行)

(14)本件特許の出願前に頒布された甲第14号証には、「乾燥粉末状の金属微粒子ならびに金属酸化物微粒子とその用途」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
14ア 「[0003] 一般に平均粒子径数 nm?数 lOnm程度の金属微粒子は、その融点よりも格段に 低い温度 (例えば、銀であれば、清浄な表面を有する微粒子 (ナノ粒子)では 200℃以下においても)で焼結することが知られている。これは、金属の微粒子 (ナノ粒子) においては、十分にその粒子径を小さくすると、粒子表面に存在するエネルギー状 態の高い原子の全体に占める割合が大きくなり、金属原子の表面拡散が無視し得な いほど大きくなる結果、この表面拡散に起因して、粒子相互の界面の延伸がなされ 焼結が行われるためである。 」

(15)本件特許の出願前に頒布された甲第15号証には、「インクジェットプリンタ用の導電性インクおよび製造方法」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
15ア 「【0037】
本発明における金属粒子の粒子径は30nm以下である。ここでいう粒子径とは、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察される金属粒子1個の粒子直径を示しており、インク中で粒子同士が会合状態を形成していてもよい。また、粒子径が30nmというのは、±3nmの誤差範囲内のものをいう。したがって、粒子径が30nm以下の金属粒子とは、最大の粒子径が33nmの金属粒子をいう。
【0038】
金属粒子による導電パターンを形成し、低温で硬化させ、導電回路を形成させる場合、一般的には、樹脂などで硬化収縮させ金属粒子同士の接触を図る必要がある。これは、金属の融点(Agの場合:961℃)が高いため低温(?200℃程度)では金属融着が生じないためである。ところが、金属の粒子径が小さくなり、金属粒子表面の金属元素比率が高くなると、低温であっても金属粒子の表面融解現象が生じる。金属粒子の表面融解は粒子表面原子の異常格子振動によって起こり、粒子径が小さく、表面原子比率が高ければ高いほど表面融解温度が低下する。」

5 判断
(1)申立理由(1)の検討
(1-1)本件発明1と甲1微粉発明の対比
ア 本件明細書の段落【0102】には、プラズマによって瞬時に蒸発気化される原料について「ニッケル原料粉末」と記載されているので、本件発明1において「熱プラズマによって」「蒸発させ」られる「ニッケル」には、「ニッケル原料粉末」が含まれることは明らかである。したがって、甲1微粉発明の「ニッケル粉末」は、本件発明1の「ニッケル」に相当する。

イ 甲1微粉発明の「微粒子化」は、本件発明1の「微粉化」に相当する。

ウ 甲1微粉発明において、「走査電子顕微鏡観察結果を用いて粒径を測定した結果」、「平均粒径」が「174nmであ」ることは、本件発明1において「走査電子顕微鏡観察から求めた個数平均粒径が0.05?0.2μmであ」ることに相当している。

エ 甲1微粉発明において、「比表面積径(172nm)と上記平均粒径(174nm)との差が、比表面積径に対して1.16%であ」ることは、本件発明1において「比表面積径と上記個数平均粒径との差が、比表面積径に対して15%以下であ」ることに相当している。

(1-2)本件発明1と甲1微粉発明の一致点と相違点
上記(1-1)の検討から、本件発明1と甲1微粉発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「熱プラズマによってニッケルを蒸発させ、凝縮させて微粉化することによって得られたニッケル微粉であって、
走査電子顕微鏡観察から求めた個数平均粒径が0.05?0.2μmであり、比表面積径と上記個数平均粒径との差が、比表面積径に対して15%以下である、ことを特徴とするニッケル微粉。」

≪相違点≫
相違点1:「ニッケル微粉」について、本件発明1は、「硫黄含有量が0.1?0.5質量%であ」るのに対して、甲1微粉発明は、不可避的不純物としてごく微量が含まれる場合を除いて、「硫黄」を含んでいない点。

相違点2:「ニッケル微粉」について、本件発明1は、「0.6μm以上の粗大粒子のニッケル微粉中に含まれる割合が個数基準で50ppm以下であ」るのに対して、甲1微粉発明は、粒度分布の最大値が650nmであるから、0.6μm以上の粗大粒子がニッケル微粉中に含まれるものの、その個数基準の割合(ppm)が不明である点。

相違点3:「X線回折分析によって求められる結晶子径」について、本件発明1は、「個数平均粒径に対して66%以上である」のに対して、甲1微粉発明は、「平均粒径(174nm)に対して57.3%」である点。

(1-3)相違点についての判断
上記相違点のうち、まず、相違点3について検討する。

ア 積層セラミックコンデンサーの内部電極に用いられるニッケル粉末の結晶性について記載された、次の甲第6?10号証について、その記載事項を確認する。
甲第6号証には、上記4(6)で摘記した6ア?6エの記載を参照すると、積層セラミックコンデンサーの内部電極に用いられるニッケル粉末は、結晶性が低いと目的とする静電容量が得られないので、高い結晶性を有すること、そして、結晶子径を1000Å以上とすることが望ましいと記載されている。

甲第7号証には、上記4(7)で摘記した7ア?7カの記載を参照すると、積層セラミックコンデンサーの内部電極に用いられるニッケル粉末について、結晶子径が小さいほど粒子は焼結しやすく、ニッケル層が過焼結により収縮してしまうが、X線回折パターンから算出した平均結晶子径が、電子顕微鏡観察から求めた平均粒径の 0.2倍以上であれば、焼成時にデラミネーションやクラックが発生しないこと、例えば、平均粒径0.25μm、平均結晶子径 0.2μmであり、平均結晶子径が平均粒径の0.8倍となる実施例1のニッケル粉や、平均粒径0.15μm、平均結晶子径 0.1μm であり、平均結晶子径が平均粒径の0.67倍となる実施例6のニッケル粉は、クラック、デラミネーションが発生しないことが記載されている。つまり、甲第7号証には、積層セラミックコンデンサーの内部電極に用いられるニッケル粉末は、結晶性が高いもの、すなわち、平均結晶子径が平均粒径の 0.67倍、0.8倍など0.2倍以上となるものが好ましいと記載されている。

甲第8号証には、上記4(8)で摘記した8ア?8イの記載を参照すると、積層コンデンサ等の積層セラミック電子部品において、内部導体の形成に用いられる導電性金属粉末は、高結晶性であることが要求されると記載されている。

甲第9号証には、上記4(9)で摘記した9ア?9イの記載を参照すると、積層セラミックコンデンサの内部電極形成用などの厚膜導電ペーストに用いられる導電粉末は、結晶性が優れていること、つまり、結晶子径が大きいことが好ましいと記載されている。

甲第10号証には、上記4(10)で摘記した10アの記載を参照すると、積層セラミックコンデンサー用のニッケル粉末は、結晶性が悪いと耐熱性が劣り、容量が不足するので、良好な結晶性であることが必要であると記載されている。

イ 以上、甲第6?10号証のいずれにも記載されているように、積層セラミックコンデンサーの内部電極に用いられるニッケル粉末に高い結晶性が要求されることは、当業者にとって技術常識であるものと認められ、特に、甲第7号証には、ニッケル粉末の高い結晶性を特定するために、X線回折パターンから算出した平均結晶子径を、電子顕微鏡観察から求めた平均粒径の 0.2倍以上とすること、具体的には、0.67倍や0.8倍とすることが記載されている。

ウ したがって、甲1微粉発明は、上記4(1)で摘記した1イの記載を参照すれば、積層セラミックコンデンサ用電極材料として用いられるものであって、X線回折分析によって求められる結晶子径が、平均粒径に対して57.3%であるところ、上記ア、イで確認したように、積層セラミックコンデンサーの内部電極に用いられるニッケル粉末として、より高い結晶性を有するものが好ましいことは技術常識であり、高い結晶性を有するとは、具体的には、甲第7号証に記載されているように、X線回折パターンから算出した平均結晶子径を、電子顕微鏡観察から求めた平均粒径の0.67倍や0.8倍とすることとして規定されるから、甲1微粉発明においても、「X線回折分析によって求められる結晶子径が個数平均粒径に対して66%以上」とすることが好ましいといえる。

エ しかしながら、甲第6?10号証において採用されているニッケル微粉の製造方法は、塩化ニッケルの気相水素還元法、ニッケル塩の固相水素還元法、ニッケル化合物の熱分解法(以下まとめて「乾式法」という。)、及び、ニッケル塩の湿式還元法(以下「湿式法」という。)のいずれかであり、「熱プラズマによってニッケルを蒸発させ、凝縮させて微粉化する」方法(以下「熱プラズマ法」という。)によるものは記載されていない。そのため、上記乾式法や湿式法によって得られたニッケル微粉において、「X線回折分析によって求められる結晶子径が個数平均粒径に対して66%以上」とすることが好ましいことであるとしても、熱プラズマ法によって得られたニッケル微粉において、「X線回折分析によって求められる結晶子径が個数平均粒径に対して66%以上」とすることが当業者にとって容易に実施し得ることであるか不明である。

オ この点に関して、甲第1号証から摘記した上記1クを参照すると、循環ガスの流量を変更する点以外は実施例1と同じ熱プラズマ法によって形成された実施例2のニッケル微粉は、結晶子径が1171Åであり、実施例1の997Åよりも大きくなっているが、SEM結果を用いた平均粒径も183nmと、実施例1の174nmよりも大きくなっている。このとき、実施例2のニッケル微粉は、結晶子径が平均粒径に対して64%となっており、実施例1の57.3%よりは大きくなっているものの、循環ガスの流量の調整によって、66%を超えるものとすることができるかは不明である。
つまり、熱プラズマ法において、結晶子径を変更すると平均粒径も変化するので、循環ガスの流量の調整によって結晶子径を大きくすることができたとしても、平均粒径に対する結晶子径の割合を大きくすること、具体的には、「X線回折分析によって求められる結晶子径が個数平均粒径に対して66%以上」とすることが可能であると、直ちにはいうことができない。

カ また、熱プラズマ法で得られるニッケル微粉において、「X線回折分析によって求められる結晶子径が個数平均粒径に対して66%以上」とすることについては、他の甲号証、すなわち、甲第2?10号証のいずれにも記載も示唆もされていないし、本件特許の出願時における技術常識であるともいえない。

キ 以上の検討から、甲第1号証?甲第10号証のいずれにも、本件発明1の「熱プラズマによってニッケルを蒸発させ、凝縮させて微粉化することによって得られたニッケル微粉であって」、「X線回折分析によって求められる結晶子径が個数平均粒径に対して66%以上であること」との発明特定事項が記載も示唆もされておらず、また、それが、本件特許の出願時における技術常識であるともいえないため、甲1微粉発明において、上記相違点3に係る本件発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるということはできない。

ク したがって、相違点1、2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載の発明、甲第2?5号証の記載事項、及び、周知技術(甲第6?10号証記載事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)申立理由(2)の検討
(2-1)本件発明2と甲1方法発明の対比
ア 本件発明2の「ニッケル原料を調製する原料調製工程」はニッケル原料を準備する工程であるといえる。したがって、甲1方法発明の「ニッケル粉末を準備する原料準備工程」と、本件発明2の「ニッケル原料中のニッケルと硫黄の合計に対して硫黄含有量が0.1?0.5質量%となるようにニッケル原料を調製する原料調製工程」は、「ニッケル原料を準備する準備工程」の点で共通している。

イ 甲1方法発明の「アルゴンガス及び水素ガスを混合した還元性ガス」は、本件発明2の「不活性ガスと水素ガスを含む還元雰囲気」に相当する。

ウ 本件明細書の段落【0041】には、「本実施の形態に係るニッケル微粉は、その表面の最外面がニッケル硫化物及びニッケル酸化物を含む混合物で構成され、好ましくはニッケル硫化物の濃度分布が、最外面で最大となり、酸素(原子)を含む厚さが2?15nmの被覆層が形成され、その被覆層により、良好な収縮開始温度と収縮率を得ることができる。なお、ニッケル硫化物は、硫化ニッケル(NiS)や、酸化された硫酸ニッケル(NiSO_(4))の形態をとってもよい。すなわち、被覆層中のニッケル硫化物は、硫化ニッケル及び硫酸ニッケルを含むものである。」と記載され、また、同段落【0107】には、「得られたニッケル微粉の硫黄含有量は0.30質量%であり、酸素含有量は1.9質量%であった。」と記載されている。
また、本件明細書の段落【0057】、【0059】には、原料調整工程で、酸化ニッケルを配合することが、段落【0064】には、酸化ニッケル以外にもニッケル粉は微量の酸素を含有していることが記載されているから、本件発明2の微粉化工程において、ニッケル蒸気に含まれる酸素は、ニッケル原料から供給されているものと認められる。
つまり、本件明細書によれば、ニッケル原料中に硫黄や酸素を含有させており、このことは、得られたニッケル微粉に硫黄や酸素を含む被覆層を形成するためであるから、本件発明2の特定事項である「不活性ガスと水素ガスを含む還元雰囲気中において、上記原料調製工程にて調製されたニッケル原料を熱プラズマにより気化させ、発生した硫黄及び酸素を含むニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる微粉化工程」とは、ニッケル蒸気中に硫黄及び酸素を含ませるのみならず、ニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させたニッケル微粉中にも硫黄及び酸素を含ませる工程であると解される。
一方、甲1方法発明「アルゴンガス及び水素ガスを混合した還元性ガス中において、上記原料準備工程にて準備されたニッケル粉末を熱プラズマにより気化させ、発生したニッケル蒸気を凝縮させて微粒子化させる微粒子化工程」においては、意図的には硫黄も酸素も含まないニッケル粉末を気化させるのであるから、ニッケル蒸気中には不可避的不純物として含まれる以外に硫黄及び酸素は含まれておらず、ニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させたニッケル微粉中にも不可避的不純物として含まれる以外に硫黄及び酸素は含まれていない工程であるといえる。

エ したがって、上記イ、ウの検討を勘案すれば、甲1方法発明の「アルゴンガス及び水素ガスを混合した還元性ガス中において、上記原料準備工程にて準備されたニッケル粉末を熱プラズマにより気化させ、発生したニッケル蒸気を凝縮させて微粒子化させる微粒子化工程」と、本件発明2の「不活性ガスと水素ガスを含む還元雰囲気中において、上記原料調製工程にて調製されたニッケル原料を熱プラズマにより気化させ、発生した硫黄及び酸素を含むニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる微粉化工程」は、「不活性ガスと水素ガスを含む還元雰囲気中において、ニッケル原料を熱プラズマにより気化させ、発生したニッケル蒸気を凝縮させて微粒子化させる微粒子化工程」の点で共通している。

オ 甲1方法発明の「上記微粒子化工程にて得られたニッケル微粒子を、サイクロン内に導入して粗大粒子を除去する粗大粒子除去工程」と、本件発明2の「上記微粉化工程にて得られた微粉化ニッケルを、連続的に5?50℃に冷却された水冷ジャケット式サイクロン内に導入して粗大粒子と、超微細粒子が凝集した凝集二次粒子と、を除去するとともに、上記微粉化ニッケルを冷却する粗大粒子除去工程」は、「上記微粉化工程にて得られた微粉化ニッケルを、連続的にサイクロン内に導入して粗大粒子を除去する粗大粒子除去工程」の点で共通している。

カ 甲1方法発明の「上記ニッケル微粒子を回収する回収工程」と、本件発明2の「冷却された上記微粉化ニッケルを回収する回収工程」は、「上記ニッケル微粒子を回収する回収工程」の点で共通している。

キ 本件明細書の段落【0103】には、「徐酸化処理」について、得られた微粉化ニッケルを、大気雰囲気に暴露することなく回収装置に搬送し、回収装置内において、アルゴン-10容量%空気(約2容量%酸素)雰囲気中で約10時間保持することであると記載されている。したがって、甲1方法発明の「回収した上記ニッケル微粒子を、アルゴン-10%空気(約2%酸素)雰囲気中で約20時間保持する徐酸化処理を行い、ニッケル微粒子を得る徐酸化工程」は、本件発明2の「回収した上記微粉化ニッケルを、酸素を含有する弱酸化性の不活性ガス雰囲気中で保持して微粉化ニッケル表面を徐酸化し、ニッケル微粉を得る徐酸化工程」に相当する。

(2-2)本件発明2と甲1方法発明の一致点と相違点
上記(2-1)の検討から、本件発明2と甲1方法発明の一致点と相違点は次のとおりである。

≪一致点≫
「ニッケル原料を準備する準備工程と、
不活性ガスと水素ガスを含む還元雰囲気中において、上記ニッケル原料を熱プラズマにより気化させ、発生したニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる微粉化工程と、
上記微粉化工程にて得られた微粉化ニッケルを、連続的にサイクロン内に導入して粗大粒子を除去する粗大粒子除去工程と、
上記微粉化ニッケルを回収する回収工程と、
回収した上記微粉化ニッケルを、酸素を含有する弱酸化性の不活性ガス雰囲気中で保持して微粉化ニッケル表面を徐酸化し、ニッケル微粉を得る徐酸化工程とを有するニッケル微粉の製造方法。」

≪相違点≫
相違点1:「ニッケル原料を準備する原料準備工程」が、本件発明2は、「ニッケルと硫黄の合計に対して硫黄含有量が0.1?0.5質量%となるようにニッケル原料を調製する」工程であるのに対して、甲1方法発明は、「ニッケル粉末を準備する」工程である点。

相違点2:「不活性ガスと水素ガスを含む還元雰囲気中において」「発生したニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる微粉化工程」が、本件発明2は、「上記原料調製工程にて調製されたニッケル原料を熱プラズマにより気化させ、発生した硫黄及び酸素を含むニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる」工程であって、「ニッケル蒸気」は「硫黄及び酸素」を含むのに対して、甲1方法発明は、「発生したニッケル蒸気を凝縮させて微粒子化させる」工程であって、「ニッケル蒸気」は、不可避的不純物としてごく微量が含まれる場合を除いて、「硫黄及び酸素」のいずれも含まない点。

相違点3:「粗大粒子除去工程」で使用される「サイクロン」について、本件発明2では、「5?50℃に冷却された水冷ジャケット式サイクロン」であって、「粗大粒子と、超微細粒子が凝集した凝集二次粒子と、を除去」し、「上記微粉化ニッケルを冷却」するものであるのに対して、甲1方法発明では、「水冷ジャケット式」ではなく、「粗大粒子」以外に「超微細粒子が凝集した凝集二次粒子」を除去するか不明であり、「上記微粉化ニッケルを冷却」するか不明である点。

相違点4:「サイクロンにおける旋回ガスの入口速度」が、本件発明2では「10m/sec.より大きく、50m/sec.以下である」のに対して、甲1方法発明では不明である点。

(2-3)相違点についての判断
ア 上記相違点のうち、相違点1と2は、ニッケル原料とその含有物に関するものであるから、併せて検討する。
本件発明2におけるニッケル原料には、硫黄及び酸素が含有されるので、最初に、甲1方法発明においてニッケル原料中に、硫黄含有量が0.1?0.5質量%となるように硫黄を含有させることの可否について検討し、次に、甲1方法発明においてニッケル原料中に、ひいてはニッケル蒸気中に、酸素を含有させることの可否について検討する。

(2-3-1)ニッケル原料中に硫黄を含有させることの可否について
ア ニッケル微粉に硫黄を含有させる点について記載された、次の甲第3?5号証について、その記載事項を確認する。
甲第3号証には、上記4(3)で摘記した3ア?3ウの記載を参照すると、ニッケル粉末を硫黄含有化合物で処理すること、実施例1を参照してより具体的に言えば、金属ニッケルショットMを塩化して塩化ニッケルガスを発生させ、上記塩化ニッケルガスを水素ガスで還元して得られたニッケル粉末Pを、窒素ガスで冷却し、湯洗洗浄し、炭酸水溶液で処理し、水洗して炭酸を除去したニッケル粉末スラリーに、チオ尿素のエタノール溶液を添加して、超音波処理することが記載されている。

甲第4号証には、上記4(4)で摘記した4ア?4ウの記載を参照すると、ニッケル微粒子を硫黄化合物の溶液で湿式処理して、ニッケル微粒子に対して0.05?1.0重量%の範囲の硫黄を含有させること、実施例1を参照してより具体的に言えば、湿式法で製造した平均粒径0.18μmの球状のニッケル微粒子をその0.2重量%に相当する硫黄を含有する硫酸アンモニウム水溶液に加え、5分間攪拌して、スラリーとした後、温風循環型乾燥機に入れ、加熱乾燥し、蒸発乾固させることにより、ニッケル微粒子に対して0.199重量%の硫黄を含有させることが記載されている。

甲第5号証には、上記4(5)で摘記した5ア?5イの記載を参照すると、0.02重量%?1.0重量%の範囲内の硫黄含有率を有するニッケル超微粉を、気相反応において硫黄成分量を制御しながら製造すること、具体的には、硫黄及び硫黄化合物の一方又は両方を、塩化ニッケル蒸気に随伴させる方法や不活性ガス又は水素ガスに随伴させる方法によって実現することが記載されている。

イ 以上のとおり、甲第3、4号証には、いずれにも、ニッケル粉末を製造した後に、当該ニッケル粉末を硫黄含有化合物で処理する方法が記載されているのみであって、ニッケル粉末の原料であるニッケル原料中に硫黄を含有させることはそもそも記載されておらず、ましてや、「ニッケル原料中のニッケルと硫黄の合計に対して硫黄含有量が0.1?0.5質量%となるようにニッケル原料を調製する」ことは記載も示唆もされていない。

ウ また、甲第5号証には、塩化ニッケル蒸気を用いた気相反応によってニッケル超微粉を形成するにあたり、塩化ニッケル蒸気に、硫黄及び硫黄化合物の一方又は両方を随伴させる方法(以下「第1の方法」という。)と、不活性ガス又は水素ガスに随伴させる方法(以下「第2の方法」という。)が記載されている。
上記第1の方法については、その具体的な説明はないので詳細は不明であるが、「随伴」とは、「1.供となって、つきしたがうこと。つれだち伴うこと。2.何かが起きるのに伴って起きること。」(広辞苑第5版)の意味であり、上記1.2.のいずれの意味においても、随伴されるものと、随伴するものは別々のものであって、一体のものではないと解されるから、塩化ニッケル蒸気と、硫黄及び硫黄化合物の一方又は両方は、各々別々に用意され、気化した硫黄及び硫黄化合物の一方又は両方が、塩化ニッケル蒸気につきしたがうように供給され、混合されるものであるということができる。
また、塩化ニッケル蒸気を用いた気相反応方法における原料として、金属ニッケルと塩素ガスが用いられることは技術常識であると認められるところ(この点については、例えば、甲第3号証の上記4(3)3ウを参照のこと)、仮に、原料である金属ニッケル又は塩素ガスが、硫黄及び硫黄化合物の一方又は両方を含むのであれば、塩化ニッケル蒸気には初めから硫黄及び硫黄化合物の一方又は両方が含まれることになるので、塩化ニッケル蒸気に、硫黄及び硫黄化合物の一方又は両方を随伴させることにはならない。
したがって、上記第1の方法は、ニッケル超微粉の原料である、金属ニッケル又は塩素ガス中に、硫黄及び硫黄化合物の一方又は両方を含有させるものであるとは認められない。
また、上記第2の方法については、気化させた硫黄及び硫黄化合物の一方又は両方を、不活性ガス又は水素ガスに随伴させるのであるから、明らかに、ニッケル超微粉の原料である金属ニッケル又は塩素ガス中に、硫黄及び硫黄化合物の一方又は両方を含有させるものではない。
つまり、甲第5号証には、塩化ニッケル蒸気を用いた気相反応によってニッケル超微粉を形成する方法において、ニッケル超微粉の原料である金属ニッケル又は塩素ガスに、硫黄及び硫黄化合物の一方又は両方を含有させることはそもそも記載されておらず、ましてや、「ニッケル原料中のニッケルと硫黄の合計に対して硫黄含有量が0.1?0.5質量%となるようにニッケル原料を調製する」ことは記載も示唆もされていないといえる。

エ また、ニッケル微粉の製造方法において、「ニッケル原料中のニッケルと硫黄の合計に対して硫黄含有量が0.1?0.5質量%となるようにニッケル原料を調製する」ことについては、他の甲号証、すなわち、甲第2号証、甲第11号証?甲第15号証のいずれにも記載も示唆もされていないし、本件特許の出願時における技術常識であるともいえない。

オ 以上の検討から、甲第1号証?甲第5号証、甲第11号証?甲第15号証のいずれにも、ニッケル微粉の製造方法の「原料調製工程」において、「ニッケル原料中のニッケルと硫黄の合計に対して硫黄含有量が0.1?0.5質量%となるようにニッケル原料を調製する」ことは記載も示唆もされておらず、また、それが、本件特許の出願時における技術常識であるともいえないので、甲1方法発明の「原料準備工程」において、「ニッケル粉末を準備する」ことに代えて、「ニッケル原料中のニッケルと硫黄の合計に対して硫黄含有量が0.1?0.5質量%となるように原料を調整する」ようにすること、すなわち、相違点1に係る本件発明2の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるということはできない。

カ また、上記オで検討のとおり、甲1方法発明の「原料調製工程」において、「ニッケル原料中のニッケルと硫黄の合計に対して硫黄含有量が0.1?0.5質量%となるように原料を調整する」ようにすることが当業者にとって容易になし得ることではないということは、ニッケル原料中に硫黄は含まれていないということであるから、「ニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる微粉化工程」において、「ニッケル原料を熱プラズマにより気化させ」て「発生した硫黄」「を含むニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる」ようにすることも、当業者が容易になし得ることであるということはできない。

(2-3-2)ニッケル原料中、ニッケル蒸気中に酸素を含有させることの可否について
ア 上記4(1)1スで検討したように、甲第1号証には、ニッケル微粒子の原料として、金属ニッケル粉のみでなく、酸化物も利用可能であることが記載されているところ、酸化物を利用した場合であっても、熱プラズマが点火される還元性雰囲気中では、酸素とニッケル蒸気との結合を阻害してニッケルの微粒子が得られると記載されていることから、甲1方法発明の「原料準備工程」において、仮に、「ニッケル粉末」に代えて「酸化物」を利用した場合、もしくは、「ニッケル粉末」に加えて「酸化物」を追加した場合には、ニッケル蒸気中には酸素が含有されるけれども、「ニッケル蒸気を凝縮させて微粉化」したニッケル微粉には、酸素が含まれないものになるといえる。

イ そして、上記(2-1)ウで検討したように、本件発明2の特定事項である「不活性ガスと水素ガスを含む還元雰囲気中において、上記原料調製工程にて調製されたニッケル原料を熱プラズマにより気化させ、発生した硫黄及び酸素を含むニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる微粉化工程」とは、ニッケル蒸気中に硫黄及び酸素が含まれるのみならず、ニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させたニッケル微粉中にも硫黄及び酸素が含まれる、という工程であると解されるところ、上記ウで検討したように、甲1方法発明の「原料準備工程」において、ニッケル原料として「ニッケル酸化物」を利用することによって、ニッケル蒸気中に酸素が含有されることになったとしても、ニッケル蒸気を凝縮させて微粉化したニッケル微粉には、酸素が含まれないものとなるから、甲1方法発明の「ニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる微粉化工程」において、「ニッケル原料を熱プラズマにより気化させ」て「発生した」「酸素を含むニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる」ようにすることは、当業者が容易になし得ることであるということはできない。

ウ そして、上記(2-3-1)カの検討のとおり、甲1方法発明の「ニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる微粉化工程」において、「ニッケル原料を熱プラズマにより気化させ」て「発生した硫黄」「を含むニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる」ようにすることは、当業者が容易になし得ることであるということはできないから、上記イの検討結果とあわせると、甲1方法発明の「ニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる微粉化工程」において、「ニッケル原料を熱プラズマにより気化させ」て「発生した硫黄及び酸素を含むニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる」ようにすること、すなわち、相違点2に係る本件発明2の特定事項とすることは、当業者が容易になし得ることであるということはできない。

(2-3-3)相違点についての判断のまとめ
以上のとおり、甲1方法発明において、相違点1及び相違点2に係る本件発明2の特定事項とすることは、甲第1号証?甲第5号証、甲第11号証?甲第15号証に記載の事項に基づいて、当業者が容易になし得るものではない。
したがって、相違点3、4について検討するまでもなく、本件発明2は、甲第1号証に記載の発明、甲第2?5号証の記載事項、及び周知技術(甲第11?15号証記載事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2-4)本件発明3?5について
本件発明3?5は、請求項2を引用することによって、本件発明2の特定事項である「ニッケル原料中のニッケルと硫黄の合計に対して硫黄含有量が0.1?0.5質量%となるようにニッケル原料を調製する原料調製工程」及び「不活性ガスと水素ガスを含む還元雰囲気中において、上記原料調製工程にて調製されたニッケル原料を熱プラズマにより気化させ、発生した硫黄及び酸素を含むニッケル蒸気を凝縮させて微粉化させる微粉化工程」を有しているので、本件発明3?5と、甲1方法発明は、少なくとも、上記相違点1及び相違点2の点で相違している。
そして、甲1方法発明において、上記相違点1及び相違点2に係る本件発明2の特定事項とすることは、上記(2-3)で検討したとおり、当業者が容易になし得るものではないから、本件発明3?5についても、甲第1号証に記載の発明、甲第2?5号証の記載事項、及び周知技術(甲第11?15号証記載事項)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6 むすび
したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-04-27 
出願番号 特願2010-63707(P2010-63707)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐藤 陽一馳平 憲一静野 朋季  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 河本 充雄
池渕 立
登録日 2015-07-03 
登録番号 特許第5768322号(P5768322)
権利者 住友金属鉱山株式会社
発明の名称 ニッケル微粉及びその製造方法  
代理人 伊東 秀明  
代理人 野口 信博  
代理人 藤井 稔也  
代理人 伊賀 誠司  
代理人 小池 晃  
代理人 祐成 篤哉  
代理人 三橋 史生  
代理人 三和 晴子  
代理人 渡辺 望稔  
代理人 蜂谷 浩久  

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