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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61B
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61B
管理番号 1314352
異議申立番号 異議2016-700184  
総通号数 198 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-06-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-02 
確定日 2016-05-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第5772070号「眼底撮影装置」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5772070号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5772070号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成23年3月4日に特許出願され、平成27年7月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人により特許異議の申立てがされたものである。


第2 本件発明

特許第5772070号の請求項1ないし5の特許に係る発明(以下それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの本件発明1は以下のとおりである。

「【請求項1】
被検者眼の眼底を照明するための眼底照明光学系と、
光源から出射された光で前記眼底にフォーカス指標を投影するためのフォーカス指標投影光学系と、
光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズと、前記眼底に投影された前記フォーカス指標を撮像可能な撮像素子とを備える眼底撮像光学系と、
を備える眼底撮影装置であって、
前記撮像素子によって撮像された前記フォーカス指標に基づいて被検眼に対する前記眼底撮像光学系のフォーカス状態を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて生成される電子的なインジケータと、前記撮像素子によって撮像された前記フォーカス指標と、を同時にモニタへ表示するための制御手段と、を備え、
前記撮像素子は、さらに、前記フォーカス指標を含む眼底像を撮像可能であり、
前記制御手段は、前記電子的なインジケータを、前記フォーカス指標を含む前記眼底像に重ねて表示することを特徴とする眼底撮影装置。」


第3 申立理由の概要

特許異議申立人は、証拠として、甲第1号証:特開2010-82281号公報、甲第2号証:特開2010-193987号公報、甲第3号証:特開2006-116091号公報、甲第4号証:特開平6-237899号公報及び甲第5号証:特開平9-192103号公報を提出し、本件発明1及び4は、甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件発明1及び4に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから取り消すべきものであり、本件発明1ないし5は、甲第1、2、4又は5号証に記載された発明を主たる引用発明として、甲第1ないし5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1ないし5に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから取り消すべきものであり、また、本件発明1ないし5に係る特許は、その特許請求の範囲が同法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから取り消すべきものである旨主張している。


第4 各甲号証の記載

1 甲第1号証記載の事項

甲第1号証の段落【0009】、【0010】、【0012】、【0017】?【0020】及び【0040】?【0045】、並びに、図面【図1】及び【図3】の記載から、甲第1号証には、

「 被検者眼の眼底を照明するための照明光学系10と、
赤外光源41から出射された光で前記眼底にフォーカス指標S1・S2を投影するためのフォーカス指標投影光学系40と、
光軸方向に移動可能なフォーカスレンズ32と、前記眼底に投影されたフォーカス指標像S1・S2を撮像可能な眼底観察用の撮像素子38とを備える眼底観察・撮影光学系30と、
を備える眼底カメラであって、
前記撮像素子38によって撮像された前記フォーカス指標像S1・S2の像の分離状態に基づいて眼底のフォーカス状態を電気的に検出し、その検出結果に基づいてフォーカスレンズ32を光軸方向に自動的に移動させるオートフォーカス制御を行い、被検者眼が角膜乱視と判定された場合、平均屈折力AVEに対する角膜屈折力FDのずれを偏位量H(H=AVE-FD)として検出し、ずれの大きさ及び方向に基づいてフォーカス指標像S1・S2の合致位置に対するフォーカスレンズ32の移動方向及び移動量を求め、フォーカス指標像S1・S2が移動されるべき方向(フォーカスノブの操作方向)と、その移動量(フォーカスノブの操作量)を表すレチクルLfをモニタ8上に電子的に表示させる制御部80を備え、
前記撮像素子38は、さらに、前記フォーカス指標像S1・S2を含む眼底像を撮像可能であり、
前記制御部80は、前記レチクルLfを、前記フォーカス指標像S1・S2を含む前記眼底像に重ねて表示する眼底カメラ。」

の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

特許異議申立人は、甲第1号証に記載されレチクルLfが、撮像素子38によって撮像されたフォーカス指標像S1・S2に基づいて被検眼に対する眼底観察・撮影光学系30のフォーカス状態を検出する制御部80の検出結果に基づいて生成されるものであると主張しているが、甲第1号証に記載されたレチクルLfは、平均屈折力AVEに対する角膜屈折力FDのずれを偏位量H(H=AVE-FD)として検出し、当該ずれの大きさ及び方向に基づいてフォーカス指標像S1・S2の合致位置に対するフォーカスレンズ32の移動方向及び移動量を求め、フォーカス指標像S1・S2が移動されるべき方向(フォーカスノブの操作方向)と、その移動量(フォーカスノブの操作量)を表すものであって、フォーカス状態とは独立した平均屈折力AVEに対する角膜屈折力FDのずれである偏位量Hに基づいて生成されるものであるから、撮像素子38によって撮像されたフォーカス指標像S1・S2に基づいて被検眼に対する眼底観察・撮影光学系30のフォーカス状態を検出する制御部80の検出結果に基づいて生成されるものとはいえない。
よって、甲第1号証には、「撮像素子によって撮像されたフォーカス指標に基づいて被検眼に対する眼底撮像光学系のフォーカス状態を検出する検出手段の検出結果に基づいて生成される電子的なインジケータ」が、記載されているとは認められない。

2 甲第2号証記載の事項

甲第2号証の段落【0011】、【0012】、【0057】?【0063】及び【0067】?【0088】、並びに、図面【図4】及び【図5】の記載から、甲第2号証には、

「 被検者眼の眼底を照明するための照明光学系10と、
赤外点光源141から出射された光で前記眼底にスポット状の光束を投影する指標投影光学系140と、
前記眼底からの反射光を被検者眼前眼部からリングパターン像として取り出して二次元受光素子167に受光させる受光光学系160と、
光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズ32と、前記眼底を撮像可能な撮像素子38とを備える眼底観察・撮影光学系30と、
制御部80と、
を備える眼底カメラであって、
前記制御部80は、
前記二次元受光素子167上にできるリング像を解析することにより、被検者眼のフォーカス状態を検出し、検出されたフォーカス状態に基づいて眼底のフォーカス合わせを行い、被検者眼の等価球面度数に対応する位置であるフォーカス終了位置にフォーカシングレンズ32が配置されるようにフォーカシングレンズ32を移動させ、
フォーカシングレンズ32がフォーカス終了位置に配置されたときに二次元受光素子167によって取得されたリング指標像を被検者眼観察画像に合成して表示モニタ8上に表示し、
基準画像に対するリング画像の変化を検出して被検者眼眼底に対するフォーカスのずれ量及びずれ方向を検出し、その検出結果に基づいて被検者眼眼底に対するフォーカスのずれ量とずれ方向をモニタ8上に電子的に表示する、眼底カメラ。」

の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

特許異議申立人は、甲第2号証には、「眼底カメラ」が、フォーカス指標像S1・S2を含む眼底像を撮像可能な撮像素子38と、フォーカス状態の検出結果に基づいてフォーカスのずれ量とずれ方向に関する電子的なインジケータをモニタ8上に表示する制御部80とを備える点が記載されていると主張しているが、甲第2号証において、フォーカス指標像S1・S2を含む眼底像を撮像可能な撮像素子38を備える眼底カメラと、フォーカス状態の検出結果に基づいてフォーカスのずれ量とずれ方向に関する電子的なインジケータをモニタ8上に表示する制御部80を備える眼底カメラは、異なる実施形態として記載されたものであり、上記撮像素子38及び制御部80の双方を備える実施形態は記載されていない。そして、フォーカス指標像S1・S2を含む眼底像を撮像可能な撮像素子38を備えた実施形態では、モニタ8上でフォーカス指標像S1・S2を確認することができるため、電子的なインジケータを表示させる必要性がないことは明らかであること、さらに、フォーカス状態の検出結果に基づいてフォーカスのずれ量とずれ方向に関する電子的なインジケータをモニタ8上に表示する制御部80を備えた実施形態では、眼底像を撮像するための撮像素子38によりフォーカス合わせ用のリングパターン像を撮像しないようにしたことに伴い、電子的なインジケータをモニタ8上に表示するものであることに鑑みれば、双方を備えた発明が甲第2号証の記載から把握することができるものではない。

3 甲第3号証記載の事項

甲第3号証の段落【0009】、【0010】、【0012】、【0013】及び【0021】?【0031】、並びに、図面【図2】及び【図5】の記載から、甲第3号証には、

「 被検者眼の眼底を照明するための照明光学系10と、
赤外光源41から出射された光で前記眼底にスリット指標を投影するためのフォーカス指標投影光学系40と、
光軸方向に移動可能なフォーカシングレンズ32と、前記眼底に投影された前記フォーカス指標を撮像可能な観察用CCDカメラ38とを備える眼底観察・撮影光学系30と、
制御部81と、
を備える眼底カメラであって、
前記制御部81には、
前記観察用CCDカメラ38によって撮像された前記フォーカス指標を検出処理する画像処理部80と、
眼底のフォーカスを検者の手動操作により調整するための回転操作式のフォーカスノブ87と、
オートフォーカス機能を自動的に動作させるかを選択する選択スイッチ84cと、が接続されており、
眼底観察像には、観察用CCDカメラ38で撮像された画像信号に基づくフォーカス指標像S1及びS2が表示されており、
フォーカスノブ87が操作されたときには、フォーカスノブ87により調整されるフォーカシングレンズ32の移動位置を表現するフォーカス用グラフィック123が眼底像表示領域G内に合成表示される、眼底カメラ。」

の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。

4 甲第4号証記載の事項

甲第4号証の段落【0001】、【0007】、【0009】及び【0014】?【0016】、並びに、図面【図1】及び【図4】の記載から、甲第4号証には、

「 被検者眼の眼底を照明するための照明光学系100と、
光源516から出射された光で前記眼底に合焦用の指標を投影するための指標投影光学系としての合焦位置検出光学系500と、
光軸方向に移動可能な合焦レンズ208と、前記眼底に投影された前記合焦用の指標像K_(3)を撮像可能な赤外線撮像管224とを備える結像光学系200と、
を備える眼底カメラであって、
赤外線撮像管224には眼底像700に重ねて合焦用の指標像K_(3)が形成され、モニターテレビ226に眼底像700と共に指標像K_(3)が表示され、
赤外線撮像管224の出力は画像合成回路452と指標像信号検出回路702とに入力され、指標像間隔演算回路704は指標像の間隔を演算し、基準値比較回路706は指標像K_(3)の間隔が所定範囲に入ったときに合焦信号「H」を出力し、眼底像が合焦状態であるときには指標像K_(3)の色が変更される、眼底カメラ。」

の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているものと認められる。

5 甲第5号証記載の事項

甲第5号証の段落【0001】、【0006】及び【0010】?【0014】、並びに、図面【図1】及び【図4】の記載から、甲第5号証には、

「 被検者眼の眼底を照明するためのランプ光源1と、
合焦用光源16から出射された光で前記眼底に2つのビームスポット15a’、15b’を投影するための合焦光束投影光学系と、
光軸方向に移動可能なフォーカスレンズ18と、前記眼底に投影された光束像15a’、15b’を撮像可能な赤外テレビカメラ23とを備える撮影光学系と、
を備える眼底カメラであって、
光束像15a’、15b’は眼底像R’と共に赤外テレビカメラ23に撮像され、そのビデオ信号は信号処理制御手段24に取り込まれ、光束像15a’、15b’の位置が解析されて被検眼Eの屈折度が求められ、これに基づいて、フォーカスレンズ18が所定位置に駆動され自動合焦が行われるものであり、ピントの合った状態でのフォーカスレンズ18の位置と光束像15a’、15b’の位置関係は予めメモリされており、その関係になるようにフォーカスレンズ18が駆動され、
テレビモニタ25において、眼底像R’において合焦光束像15a’、15b’が投影される付近の領域である、眼底像R’の眼底中心部の領域Aには、合焦状態を目視でも確認できるように、記号発生回路から発生された合焦の方向と合焦の程度を示すスプリットマークSが表示される、眼底カメラ。」

の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されているものと認められる。


第5 判断

1 本件発明1及び4についての、甲第1号証に基づく特許法第29条第1項第3号について

本件発明1及び4と甲1発明とを対比すると、上記「第4 1」で指摘したように、甲1発明は、「撮像素子によって撮像されたフォーカス指標に基づいて被検眼に対する眼底撮像光学系のフォーカス状態を検出する検出手段の検出結果に基づいて生成される電子的なインジケータ」を備えておらず、この点で、本件発明1及び4と相違する。
よって、本件発明1及び4は、甲1発明ではない。
以上のとおりであるから、本件発明1及び4は、甲第1号証に記載された発明ではない。

2 本件発明1ないし5についての、甲1、2、4、5発明を主引用発明とした甲第1ないし5号証に基づく特許法第29条第2項について

(1)甲1発明を主引用発明とした場合について
本件発明1ないし5と甲1発明とを対比すると、電子的なインジケータが、本件発明1ないし5においては、「撮像素子によって撮像されたフォーカス指標に基づいて被検眼に対する眼底撮像光学系のフォーカス状態を検出する検出手段の検出結果に基づいて生成される」ものであるのに対し、甲1発明においては、「平均屈折力AVEに対する角膜屈折力FDのずれである偏位量Hに基づいて生成される」ものである点において少なくとも相違する。
上記相違点について検討するに、甲第2ないし5号証には、撮像素子によって撮像されたフォーカス指標に基づいて被検眼に対する眼底撮像光学系のフォーカス状態を検出する検出手段の検出結果に基づいて生成される電子的なインジケータを、フォーカス指標を含む眼底像に重ねて表示することは記載されていない。
そして、甲1ないし5号証には、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の段落【0004】に記載される「スプリット指標の合致位置は、検者による見た目で判断されるため、個人差等による誤差が含まれる可能性が高くなる」との課題に言及又は示唆する記載はなく、モニタ8に表示されるフォーカス指標像S1・S2からフォーカス状態を把握することが可能である甲1発明において、撮像されたフォーカス指標に基づいて検出されたフォーカス状態を表す電子的なインジケータを表示する動機があるとはいえない。
しかも、本件発明1は、上記課題に対処し、撮像されたフォーカス指標に基づいて検出されたフォーカス状態を表す電子的なインジケータをフォーカス指標を含む眼底像に重ねて表示することで、手動操作において眼底に対するフォーカス合わせをより精度良く行うことができるという有利な効果を奏するものである。
以上のとおりであるから、本件発明1ないし5は、甲1発明及び甲第2ないし5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)甲2発明を主引用発明とした場合について
本件発明1ないし5と甲2発明とを対比すると、眼底像を撮像する撮像素子が、本件発明1ないし5においては、「フォーカス指標を撮像可能」であるのに対し、甲2発明においては、「リング指標像」を撮像することができないものである点において少なくとも相違する。
上記相違点について検討するに、甲第1及び3ないし5号証には、撮像素子によって撮像されたフォーカス指標に基づいて被検眼に対する眼底撮像光学系のフォーカス状態を検出する検出手段の検出結果に基づいて生成される電子的なインジケータを、フォーカス指標を含む眼底像に重ねて表示することは記載されていない。
そして、甲2発明は、眼底像を撮像するための撮像素子38ではフォーカス合わせ用のリングパターン像を撮像しないようにしたものであり、撮像素子38でフォーカス合わせ用のリングパターン像を撮像することは、甲2発明の目的に反するものであり、動機がない。
以上のとおりであるから、本件発明1ないし5は、甲2発明並びに甲第1及び3ないし5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)甲4発明を主引用発明とした場合について
本件発明1ないし5と甲4発明とを対比すると、電子的なインジケータを、本件発明1ないし5は、「フォーカス指標を含む眼底像に重ねて表示する」のに対し、甲4発明は、「指標像K_(3)の色」として表示する点において少なくとも相違する。
上記相違点について検討するに、甲第1ないし3及び5号証には、撮像素子によって撮像されたフォーカス指標に基づいて被検眼に対する眼底撮像光学系のフォーカス状態を検出する検出手段の検出結果に基づいて生成される電子的なインジケータを、フォーカス指標を含む眼底像に重ねて表示することは記載されていない。
そして、甲4発明は、眼底像が合焦状態であるときに指標像K_(3)の色を変更するものであって、指標像K_(3)の色により合焦状態を把握することが可能であるから、指標像K_(3)とは別に電子的なインジケータを表示させる動機がない。
以上のとおりであるから、本件発明1ないし5は、甲4発明並びに甲第1ないし3及び5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)甲5発明を主引用発明とした場合について
本件発明1ないし5と甲5発明とを対比すると、モニタに表示される眼底像が、本件発明1ないし5においては、「フォーカス指標を含む」のに対し、甲5発明においては、「合焦光束像15a’、15b’が含まれない」点において少なくとも相違する。
上記相違点について検討するに、甲第1ないし4号証には、撮像素子によって撮像されたフォーカス指標に基づいて被検眼に対する眼底撮像光学系のフォーカス状態を検出する検出手段の検出結果に基づいて生成される電子的なインジケータを、フォーカス指標を含む眼底像に重ねて表示することは記載されていない。
そして、甲5発明は、合焦の方向と合焦の程度を示すスプリットマークSを表示するものであるから、合焦状態を直接把握することが困難な光束像15a’、15b’を表示させる動機がない。
以上のとおりであるから、本件発明1ないし5は、甲5発明及び甲第1ないし4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本件発明1ないし5は、異議申立人の主張する理由及び証拠によっては、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

3 特許法第36条第6項第1号について

本件特許の明細書の発明の詳細な説明の段落【0004】には、「スプリット指標の合致位置は、検者による見た目で判断されるため、個人差等による誤差が含まれる可能性が高くなる」との課題が記載されているところ、本件発明1は、電子的なインジケータを表示することにより、当該課題を解決しようとするものである。ここで、「スプリット指標の合致位置」が合焦状態に対応したものであることは明らかであるから、合焦状態であることを検者が客観的に判断することが可能な電子的なインジケータを表示することにより、当該課題を解決することができるものと理解できる。
一方、本件発明1は、電子的なインジケータが、「フォーカス指標の基準位置からのずれ量及びずれ方向を示すもの」であることは特定されていないが、「撮像素子によって撮像された前記フォーカス指標に基づいて被検眼に対する前記眼底撮像光学系のフォーカス状態を検出する検出手段」の「検出結果に基づいて生成される」ものであることが特定されている。ここでの「検出結果」が、撮像されたフォーカス指標に対して電子的な処理を施して機械的に検出されたフォーカス状態を表すことは明らかであって、そのようなフォーカス状態である検出結果に基づいて生成される電子的なインジケータが、合焦状態を客観的に判断し得るように表示されるものであることは明らかである。
してみると、本件発明1の「電子的なインジケータ」は、その発明の詳細な説明に記載された課題を解決できる程度に特定されており、電子的なインジケータが、フォーカス指標の基準位置からのずれ量及びずれ方向を示すものであることが特定されていないことをもって、本件発明1がその発明の詳細な説明に記載されたものではないということはできない。
また、本件発明1を引用する本件発明2ないし5も、本件発明1と同様に、その発明の詳細な説明に記載されたものではないということはできない。

4 特許法第36条第6項第2号について

請求項1の記載では、電子的なインジケータの具体的な表示態様が特定されていないが、「前記撮像素子によって撮像された前記フォーカス指標に基づいて被検眼に対する前記眼底撮像光学系のフォーカス状態を検出する検出手段」及び「前記検出手段の検出結果に基づいて生成される電子的なインジケータ」との記載によれば、ここでの「電子的なインジケータ」は、撮像素子によって撮像されたフォーカス指標に基づいて検出された被検眼に対する眼底撮像光学系のフォーカス状態を表すものであると理解することができる。
そして、本件発明1における「電子的なインジケータ」の役割が、上記「3」で検討したように「合焦状態であることを検者が客観的に判断すること」を可能とすることであることに照らせば、「電子的なインジケータ」がフォーカス状態を表すものであると理解することができる本件発明1は、明確でないとまではいえない。
また、請求項1における電子的なインジケータは、被検眼に対する眼底撮像光学系のフォーカス状態を表すものであればよいと理解できることから、検出結果である合焦の程度を定量的に示すインジケータ、及び、合焦状態が達成されたことを示すインジケータの、どちらをも排除するものではないといえる。
よって、電子的なインジケータの具体的な表示態様が特定されていないことをもって、本件発明1が明確でないとまではいえない。
本件発明1を引用する本件発明2ないし5も、本件発明1と同様に、明確でないとまではいえない。


第6 むすび

以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-04-28 
出願番号 特願2011-48172(P2011-48172)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A61B)
P 1 651・ 121- Y (A61B)
P 1 651・ 113- Y (A61B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 島田 保  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 信田 昌男
渡戸 正義
登録日 2015-07-10 
登録番号 特許第5772070号(P5772070)
権利者 株式会社ニデック
発明の名称 眼底撮影装置  

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