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審決分類 審判 一部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  G11B
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  G11B
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G11B
審判 一部無効 1項3号刊行物記載  G11B
審判 一部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  G11B
審判 一部無効 2項進歩性  G11B
管理番号 1314616
審判番号 無効2014-800176  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-10-31 
確定日 2016-03-22 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5009447号発明「磁気記録膜用スパッタリングターゲット及びその製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 平成27年10月30日付け訂正請求において、特許第5009447号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔4、6ないし8〕について訂正することを認める。 特許第5009447号の請求項1ないし3、5に係る発明についての特許を無効とする。 特許第5009447号の請求項4、6ないし8に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その8分の4を請求人の負担とし、8分の4を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第5009447号に係る出願は、2011年10月19日(優先権主張 2010年12月21日)を国際出願日とする特許出願であって、平成24年6月8日に特許権の設定登録がなされたものである。

そして、以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
平成26年10月31日 本件無効審判の請求
平成26年11月 6日 上申書(請求人)の提出
平成27年 1月26日 審判事件答弁書の提出
平成27年 1月26日 訂正請求(1回目)
平成27年 3月 6日 審判事件弁駁書の提出
平成27年 4月 2日 審理事項の通知
平成27年 5月22日 口頭審理陳述要領書(請求人)の提出
平成27年 5月22日 上申書(請求人)の提出
平成27年 5月22日 口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出
平成27年 5月25日 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)の提出
平成27年 6月 5日 口頭審理
平成27年 6月19日 上申書(請求人)の提出
平成27年 6月19日 上申書(被請求人)の提出
平成27年 8月27日 審決の予告
平成27年10月30日 訂正請求(2回目)
平成27年10月30日 意見書(被請求人)の提出
平成27年11月18日 手続補正書(被請求人)の提出
平成27年12月25日 審判事件弁駁書の提出

なお、先にした平成27年1月26日付けの訂正請求は、特許法第134条の2第6項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 当事者の主張

1.請求人の主張
請求人は、審判請求書、平成27年3月6日付け審判事件弁駁書、口頭審理陳述要領書、平成27年6月19日付け上申書、及び平成27年12月25日付け審判事件弁駁書において、「特許第5009447号の請求項1乃至8に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし、甲第1?17号証を提出して、次の無効理由を主張する。

[無効理由の概要]
(1)訂正請求について
請求項1において新たに追加された「クリストバライトが形成される条件で焼結され」るとの訂正事項(訂正事項1)は、
ア.新規事項の追加に該当し、特許法第134条の2第9項で準用する同法126条第5項の規定に違反するものであり、
イ.また、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当せず、特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に違反するものである。
したがって、当該訂正事項1は訂正要件を満たしておらず、認められないものである。

(2)訂正が認められない場合
(2-1)無効理由1(新規性欠如)
訂正前の請求項1及び3に係る発明は、甲1号証に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2-2)無効理由2(進歩性欠如)
訂正前の請求項2及び5に係る発明は、甲1号証に記載された発明に基づいて、あるいは、甲1号証に記載された発明及び甲3号証に記載の技術事項に基づいて、あるいは甲1号証に記載された発明及び甲2,3号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2-3)無効理由3(サポート要件)
訂正前の請求項1?8に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(2-4)無効理由4(実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、訂正前の請求項1?8に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(3)訂正が認められる場合
(3-1)訂正事項1が認められる場合
(3-1-1)新たな無効理由A(サポート要件)
訂正後の請求項1?3及び5に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(3-1-2)新たな無効理由B(明確性要件)
訂正後の請求項1?3及び5に係る発明は明確でないから、特許法36条第6項2号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(3-1-3)新たな無効理由C(実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、訂正後の請求項1?3及び5に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(3-1-4)無効理由1及び2
訂正後であっても、訂正後の請求項1?3及び5に係る発明は依然として上記無効理由1及び2が存在する。

(3-2)訂正事項2?5が認められる場合
(3-2-1)新たな無効理由A’(サポート要件)
訂正後の請求項6及び7に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(3-2-2)新たな無効理由B’(明確性要件)
訂正後の請求項6及び7に係る発明は明確なものでないから、特許法36条第6項2号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(3-2-3)新たな無効理由C’(実施可能要件)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、訂正後の請求項6及び7に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

[証拠方法]
甲1号証:特開2006-313584号公報
甲2号証:特開2007-31808号公報
甲3号証:特開2006-45587号公報
甲4号証:ICDDカード 石英
甲5号証:ICDDウェブサイトの紹介記事
甲6号証:ICDDウェブサイト2008年4月23日アーカイブ
甲7号証:国際公開第2007/080781号
甲8号証:森本信男「造岩鉱物学」東京大学出版会、1989年5月31日
甲9号証:東京地方裁判所に係属中の平成25年(ワ)第3365号事件
平成27年2月26日付け提出の原告準備書面(11)
甲10号証:東京地方裁判所に係属中の平成25年(ワ)第3365号事
件平成27年4月13日付け提出の原告準備書面(14)
甲11号証:東京地方裁判所に係属中の平成25年(ワ)第3365号事
件において被請求人が平成25年7月10日付けで提出した
実験結果報告書
甲12号証:東京地方裁判所に係属中の平成25年(ワ)第3365号事
件において被請求人が提出した甲10号証「The Silica Grou
p」
甲13号証:東京地方裁判所に係属中の平成25年(ワ)第3365号事
件において被請求人が提出した甲12号証「二酸化珪素の結
晶構造について」
甲14号証:実験成績証明書
甲15号証:東京地方裁判所に係属中の平成25年(ワ)第3365号事
件において請求人が提出した乙5号証「セラミック基礎講座
3 X線回折分析(第6版)」
甲16号証:東京地方裁判所に係属中の平成25年(ワ)第3365号事
件において請求人が提出した乙6号証「X線回折要論(第1
0版)」
甲17号証:東京地方裁判所に係属中の平成25年(ワ)第3365号事
件において請求人が提出した乙4号証「X線回折装置の原理
と応用」一般社団法人日本分析機器工業会ウェブページ

2.被請求人の主張
被請求人は、訂正請求をしたうえで、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書、口頭審理陳述要領書(2)、平成27年6月19日付け上申書、及び同年10月30日付け意見書において、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」ことを答弁の趣旨とし、次のように主張している。

[答弁の概要]
(1)訂正請求について
(1-1)訂正事項1
請求項1において新たに追加した「クリストバライトが形成される条件で焼結され」るとの訂正事項は、「磁気記録膜用スパッタリングターゲット」という物の構造や特性として、ターゲットの密度が高いこと(ターゲットの密度が所望の値であること)をさらに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲の拡張または変更にも該当しない。

(1-2)訂正事項2
訂正事項2に係る訂正は、引用関係を解消する訂正を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲の拡張または変更にも該当しない。

(1-3)訂正事項3ないし5
訂正事項3ないし5に係る訂正は、独立請求項に書き換えた訂正後の請求項4にのみ従属させるように訂正するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、実質上特許請求の範囲の拡張または変更にも該当しない。

(2)無効理由についての反論
(2-1)無効理由1(新規性欠如)について
「クリストバライトが形成される条件で焼結され」るとの訂正事項が追加された訂正後の請求項1及び3に係る各発明は、各公知文献(甲1?3、7)との関係において新規性を有する。

(2-2)無効理由2(進歩性欠如)について
「クリストバライトが形成される条件で焼結され」るとの訂正事項が追加された訂正後の請求項1?3、5に係る各発明は、各公知文献(甲1?3、7)を組み合わせても当業者といえども容易に想到することはできない。
甲1号証に記載された発明は、SiO_(2)が相転移しない低温で焼結することを前提とする発明であり、甲1号証に記載された発明に、甲2、甲3及び甲7に記載の焼結温度条件に関する技術事項を採用することに阻害要因がある。

(2-3)無効理由3及び4、新たな無効理由A?C(サポート要件、実施可能要件明確性要件)について
訂正後の請求項1?8に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求するものではなく、本件特許明細書に記載されたものであり、また、明確である。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、訂正後の請求項1?8に係る発明について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであり、実施可能要件は満たしている。

[証拠方法]
乙1号証:「石英ガラス技術ガイド-1 石英ガラスの化学的、物理的特
性」信越石英株式会社
乙2号証:「イットリア安定化ジルコニアの焼結メカニズム:イットリウ
ムイオン(III)の粒界偏析効果」東ソー研究・技術報告、第
55巻
乙3号証:「SiO_(2)の熱力学解析 解析結果報告書」株式会社 計算力
学研究センター
乙4号証:特許第4837801号公報

第3 訂正の適否についての当審の判断

1.訂正の内容
本件審判の手続において被請求人がした平成27年10月30日付けの訂正請求は、特許第5009447号の明細書、特許請求の範囲(以下、「本件特許明細書」という。)を訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正しようとするものであり、その訂正の内容は、次のとおりである(下線は訂正箇所)。
なお、一群の請求項は、請求項1ないし3、5からなる一群の請求項と、請求項4、6ないし8からなる一群の請求項の2つである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「SiO_(2)を含有する磁気記録膜用スパッタリングターゲットであって、」とあるのを、
「SiO_(2)を含有し、クリストバライトが形成される条件で焼結される磁気記録膜用スパッタリングターゲットであって、」と訂正する。

(2)訂正事項2
請求項4に
「Ptが5mol%以上60mol%以下、SiO_(2)が20mol%以下、残余がFeであることを特徴とする請求項1記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。」とあるのを、
「SiO_(2)を含有する磁気記録膜用スパッタリングターゲットであって、Ptが5mol%以上60mol%以下、SiO_(2)が20mol%以下、残余がFeであり、X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上であることを特徴とする磁気記録膜用スパッタリングターゲット。」に訂正する。

(3)訂正事項3
請求項6に
「請求項1?5のいずれか一項に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。」とあるのを、
「請求項4に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。」に訂正する。

(4)訂正事項4
請求項7に
「請求項1?6のいずれか一項に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。とあるのを、
「請求項4に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。」に訂正する。

(5)訂正事項5
請求項8に
「請求項1?7のいずれか一項に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法。」とあるのを、
「請求項4に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法。」に訂正する。

2.訂正の適否
2-1.訂正事項1(請求項1ないし3、5からなる一群の請求項に係る訂正)について

上記訂正事項1について、まず、訂正の目的制限(特許法第134条の2第1項ただし書き)の要件を満たしているか否かを検討し、次いで他の訂正要件について検討する。
なお、当該訂正事項1は、平成27年1月26日付け訂正請求における訂正事項1と同じである。

(1)訂正の目的制限(特許法第134条の2第1項ただし書き)について

平成27年10月30日付け訂正請求書には、訂正の理由として「訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする。」と記載され、
また、被請求人は上記訂正請求書において、「クリストバライトが形成される条件」とは、ターゲットの密度を左右する焼結温度条件を意味し、クリストバライトが形成される条件で焼結され」るとの訂正事項は、「磁気記録用スパッタリングターゲット」という物の構造や特性として、密度が高いこと(密度が所望の値であること)を特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮に該当し、特許法134条の2第1項ただし書の規定には違反しない旨主張している。

しかしながら、訂正後の請求項1には「クリストバライトが形成される条件」で焼結されると記載されているのみであり、かかる「クリストバライトが形成される条件」というのが焼結温度やその他のどのような条件まで含めて意味するのか不明であり、そのため、「クリストバライトが形成される条件で焼結され」るという製造条件に係る訂正事項でもって、「磁気記録用スパッタリングターゲット」という物の発明に係る請求項1に記載された発明について、当該物の構造や特性を如何に限定しようとするものであるのかも不明であるので、かかる訂正が特許法134条の2第1項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するとみることはできない。
そして、同項第2号の「誤記又は誤訳の訂正」や、同項第3号の「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当しないことも明らかである。

よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に違反するものである。

ここで、「クリストバライトが形成される条件」について、被請求人は、平成27年10月30日付け訂正請求書においては、本件特許明細書の段落【0023】の記載を根拠に「ターゲットの密度を左右する焼結温度条件」を意味する旨説明しているが、同条件について、平成27年6月19日付け上申書においては、焼結前の混合時の条件も含まれ得る旨の説明がなされている。
そして、本件特許明細書によれば、段落【0023】の記載を踏まえても「クリストバライトが形成される条件」を一義的に特定できるような記載はなく、ましてや焼結前の混合時の条件に着目した記載は一切なく、また、「実施例7」は900℃という比較的低い焼結温度とされおり、焼結時の条件として高い焼結温度(クリストバライトが生成される蓋然性の高い焼結温度)であることを必須としないとも解されることなどからして、技術常識を考慮しても、依然として「クリストバライトが形成される条件」というのが具体的にはどのような条件まで含めて意味するのか不明であると言わざるを得ない。
したがって当然ながら、「クリストバライトが形成される条件で焼結され」るという製造条件に係る訂正事項が、磁気記録用スパッタリングターゲット」という物の構造や特性として、密度が高いこと(密度が所望の値であること)を特定するものであると認めることはできない。

なお、被請求人は、上記訂正請求書において、「ターゲットの密度は、焼結温度に左右され、焼結温度を制御することによってターゲットに現れる特性であるが、望ましい密度を特定し、その密度を達成するための焼結温度の特定は不可能であるか、又はおよそ実際的ではない。・・・したがって、『磁気記録用スパッタリングターゲット』という物の構造や特性として、密度が高いこと(密度が所望の値であること)を特定するには、『クリストバライトが形成される条件で焼結され』るとする以外に方法がない。」と主張している。
しかしながら、一般に、ターゲットの密度を測定して特定することは可能なものである(例えば、甲3号証の段落【0062】?【0063】、甲7号証の段落【0022】、乙4号証の段落【0033】を参照)。また、本件特許明細書の段落【0045】には、望ましい焼結温度の範囲が記載されており、このような範囲を満たす焼結温度を用いて製造した各ターゲット(例えば表1の各実施例)についてその密度を測定することによって、「所望の値」を特定することも十分にできたはずである。
したがって、請求人の上記主張は技術常識からして合理的でなく、採用することはでない。

(2)新規事項の追加禁止(特許法第134条の2第9項で準用する同法126条第5項)について

訂正後の請求項1に係る発明の「磁気記録用スパッタリングターゲット」は、「クリストバライトが形成される」条件で焼結されてなるものであるから、前記(1)で記載したように当該条件は具体的にどのような条件であるのか不明であるが、このような条件で焼結された当該磁気記録用スパッタリングターゲットには当然文言通り、クリストバライトが形成されている(含まれる)ものであると理解できる。
一方、本件特許明細書には、以下のような各記載がある(下線は当審で付与した。)。
ア.「【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の課題を解決するために、本発明者らはさらに研究を行った結果、SiO_(2)の原料として石英を使用することにより、スパッタリング時のパーティクル発生の原因となるクリストバライトの形成を防止して、ターゲットにマイクロクラック及びスパッタリング中のパーティクル発生を抑制し、かつバーンイン時間の短縮化が可能であるスパッタリングターゲットを得ることができると共に、さらに記録密度の向上を図ることができるとの知見を得た。」

イ.「【発明の効果】
【0028】
このように調整した本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲットターゲットは、石英を使用することにより、焼結温度を下げずにクリストバライト化を妨げることが可能となり、ターゲットのマイクロクラックの発生を抑制すると共に、スパッタリング中のパーティクル発生を抑制し、かつバーンイン時間の短縮化が可能であるという優れた効果を有する。このようにパーティクル発生が少ないので、磁気記録膜の不良率が減少し、コスト低減化になるという大きな効果を有する。また、前記バーンイン時間の短縮化は、生産効率の向上に大きく貢献するものである。」

ウ.「【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲットは、SiO_(2)を含有する磁気記録膜用スパッタリングターゲットであり、SiO_(2)として石英を使用する。これによって、スパッタリングターゲットのX線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上である磁気記録膜用スパッタリングターゲットを得ることができる。
結晶化したSiO_(2)であるクリストバライトは存在しないか、または大きく低減できる。なお、石英ピーク強度は26.64°であり、前記バックグラウンド強度の算出方法は、(((25.1°?26.1°の平均)+(27.1°?28.1°の平均))/2)である。」

エ.「【0035】
このように、結晶化したクリストバライトを発生し難い石英を使用することにより、焼結温度を高くすることができ、ターゲットの密度を向上させることができる。また、ターゲット中の単位体積当たりのSiO_(2)の物質量を多く存在させることができるので、記録密度の向上にも有効である。
スパッタリングターゲット原料としての石英に言及すると、SiO_(2)の材料として石英があることは知られているが、アモルファスSiO_(2)粉末は、微粉末として容易に入手できる材料なので、特別な理由が存在しない限り、石英粉末を使用する理由がなかったと言える。
【0036】
しかしながら、石英の粉末を使用することにより、焼結温度を高くすることが可能となり、この結果、焼結密度を向上させることが可能となった。因みに、アモルファスSiO_(2)の密度は2.2g/cm^(3)、クリストバライトの密度は2.33g/cm^(3)、石英の密度は2.65g/cm^(3)であり、石英自体が高密度である。石英の存在比率を高めることは、アモルファスSiO_(2)及びクリストバライトの存在比率を低減させることを意味する。また、石英は、アモルファスSiO_(2)よりも、高温で焼結してもクリストバライトは発生し難いため、石英の使用は焼結体(ターゲット)の密度を向上させるのに有効となる。
【0037】
上記のように、磁気記録膜用スパッタリングターゲットとしては、磁性材料に特に制限はないのであるが、・・・・・(中 略)・・・・
この場合も、ターゲット中に結晶化したクリストバライトを発生させず、石英としてターゲット中に存在させる必要がある。」

これらの記載によれば、SiO_(2)の原料として石英を使用することにより、クリストバライトの形成を防止する、つまり、SiO_(2)の原料として石英を使用するという「クリストバライトが形成されない」条件でもってターゲットを焼結するものであるといえる。
また、本件特許明細書中の表1と当該表1に関連する記載によると、SiO_(2)の粉末原料としてクリストバライトを用いたスパッタリングターゲットや、焼結後にクリストバライト化したスパッタリングターゲットは全て比較例(比較例1,2,4,5,6,7,8,10,11)とされている。
以上のように本件特許明細書には、「クリストバライトが形成されない」条件で焼結し、焼結後の磁気記録用スパッタリングターゲットにはクリストバライトができる限り含まれないようにする実施例が記載されているのに対し、訂正後の請求項1に係る発明は、「クリストバライトが形成される」条件で焼結し、むしろ積極的にクリストバライトが含まれるようにするものであると解されるものである。
したがって、SiO_(2)を含有する「磁気記録膜用スパッタリングターゲット」について、「クリストバライトが形成される条件で焼結され」るとの限定を付加する訂正事項1は、本件特許明細書に記載された事項でなく、本件特許明細書に記載した事項の範囲を超えた内容を含むものであって、新たな技術的事項を導入するものである。

よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同法126条第5項の規定に違反するものである。

なお、被請求人は平成27年10月30日付け訂正請求書において、「クリストバライトが形成される条件で焼結され」るとの訂正事項は、「磁気記録用スパッタリングターゲット」という物の構造や特性として、密度が高いこと(密度が所望の値であること)をさらに特定するものであり、積極的にクリストバライトが含まれるようにするものではない旨主張している。
しかしながら、「クリストバライトが形成される条件で焼結され」るとの訂正事項は、「磁気記録用スパッタリングターゲット」という物の構造や特性として、密度が高いこと(密度が所望の値であること)を特定するものであると認めることはできないことは前記(1)で述べたとおりであり、また、
訂正により追加された「クリストバライトが形成される条件で焼結され」るという記載の文言によれば、上述したように「クリストバライトが形成される」条件で焼結されるのであるから、このような条件で焼結された当該磁気記録用スパッタリングターゲットには当然、クリストバライトが含まれると解釈するのが自然である。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

2-2.訂正事項2ないし5(請求項4、6ないし8からなる一群の請求項に係る訂正)について

(1)訂正事項2
訂正事項2は、請求項4の記載が請求項1の記載を引用するものであったのを、請求項間の引用関係を解消して請求項1の記載を引用しないものとし、独立形式の請求項へ改める訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正に該当する。
また、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものにも該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たすものである。

(2)訂正事項3ないし5
訂正事項3ないし5の各訂正事項は、多数項引用形式の請求項6ないし8の各請求項について、引用請求項を減少し、請求項4のみを引用するようにする訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
また、当該訂正は、本件特許明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものにも該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たすものである。

3.まとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1(請求項1ないし3、5からなる一群の請求項に係る訂正)は、特許法第134条の2第1項ただし書の規定に違反し、また、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、さらに他の訂正要件(特許請求の範囲の実質拡張・変更禁止)について検討するまでもなく、当該訂正を認めない。

一方、訂正事項2ないし5(請求項4、6ないし8からなる一群の請求項に係る訂正)は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号または第4号に規定する事項を目的とする訂正に該当し、かつ、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件を満たすものであるから、当該訂正を認める。

第4 本件特許発明
平成27年10月30日付け訂正請求は上記のとおり、訂正事項1(請求項1ないし3、5からなる一群の請求項に係る訂正)は認められず、訂正事項2ないし5(請求項4、6ないし8からなる一群の請求項に係る訂正)は認められるので、本件の請求項1ないし8に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」ないし「本件特許発明8」という。)はそれぞれ、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3、5に記載された事項、及び平成27年10月30日付け訂正請求書に添付した特許請求の範囲の請求項4、6ないし8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
SiO_(2)を含有する磁気記録膜用スパッタリングターゲットであって、X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上であることを特徴とする磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
Crが20mol%以下(0mol%を除く)、SiO_(2)が1mol%以上20mol%以下、残余がCoであることを特徴とする請求項1記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
Crが20mol%以下(0mol%を除く)、Ptが1mol%以上30mol%以下、SiO_(2)が1mol%以上20mol%以下、残余がCoであることを特徴とする請求項1記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項4】
SiO_(2)を含有する磁気記録膜用スパッタリングターゲットであって、Ptが5mol%以上60mol%以下、SiO_(2)が20mol%以下、残余がFeであり、X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上であることを特徴とする磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項5】
Ptが5mol%以上60mol%以下、SiO_(2)が20mol%以下、残余がCoである請求項1記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項6】
添加元素として、B、Ti、V、Mn、Zr、Nb、Ru、Mo、Ta、Wから選択した1元素以上を、0.5mol%以上10mol%以下含有することを特徴とする請求項4に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項7】
添加材料として、炭素、SiO_(2)を除く酸化物、窒化物、炭化物から選択した1成分以上の無機物材料を含有することを特徴とする請求項4に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項8】
SiO_(2)の粉末原料として石英を使用し、この石英の粉末原料と磁性金属粉末原料とを混合し、焼結温度を1300°C以下で焼結することを特徴とする請求項4に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法。」

第5 無効理由に対する当審の判断

1.甲1号証及び甲3号証の記載事項(なお、下線は当審で付与した。)

(1)甲1号証(特開2006-313584号公報)
ア.「【請求項1】
非磁性基板上に、非磁性の下地層を形成する工程と、前記非磁性の下地層の上に少なくともCoと珪素と酸素とを含む記録層をスパッタリング法で形成する工程とを有する磁気記録媒体の製造方法において、
前記記録層を形成する工程で用いるスパッタリングターゲットは、少なくともCo又はCoを含む合金と二酸化珪素粉末とを含み、前記二酸化珪素粉末は結晶質であることを特徴とする、磁気記録媒体の製造方法。」

イ.「【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、非磁性基板上に、磁性を有する結晶粒子とそれを取り巻くSi酸化物を主成分とする非磁性結晶粒界から構成される記録層をスパッタリング法で形成する際、少なくともCoを含む合金と、結晶質SiO_(2)粉末を混合したターゲットを用いて、スパッタリング法によって記録層を成膜する。スパッタリング法としては、DCスパッタリングやDCパルス電源を用いたスパッタリング法(DCパルススパッタリング法)、RFスパッタリング法が利用できる。」

ウ.「【0012】
図3は、実施例1の製造方法により作製した垂直磁気記録媒体の断面構造の模式図である。この垂直磁気記録媒体は、基板11上にシード層12、軟磁性下地層13、粒径制御層14、グラニュラー記録層15、保護層16、及び液体潤滑層17を順次積層した構造を右有する。ただし、図3に示す構造はその一例を示したものであり、本発明の製造方法で作製する垂直磁気記録媒体は、図3に示される構造に限定されるものではない。」

エ.「【0017】
次に、記録層形成チャンバ208に搬送後、アルゴン酸素混合ガスを導入し、膜厚14nmの記録層15を形成後、0.5Pa以下まで排気を行い、チャンバ内に残留する酸素を低減した。記録層15の形成には、Co-13at.%Cr-20at.%Pt合金と粒子径1μmの結晶質SiO_(2)を88:12mol%の比率で混合し、焼結法で形成した合金-酸化物複合型のターゲットを用いた。記録層15を形成する際の製膜レートを2.6nm/sとした。」

オ.「【0022】
図5に、実施例1で用いた記録層のターゲットに添加した結晶質SiO_(2)粉末のX線回折ダイアグラムを示す。また、図6に、比較例1で用いた記録層のターゲットに添加した非晶質SiO_(2)粉末のX線回折ダイアグラムを示す。図5に示すように、本発明の製造方法に用いた記録層のターゲットに添加したSiO_(2)粉末において、ブラッグ角度2θ=26.6±0.1°に最大強度のピークを有している。
【0023】
図7に、実施例1の製造方法で用いた記録層のターゲットのX線回折ダイアグラムを示す。また、図8に、比較例1の製造方法で用いた記録層のターゲットのX線回折ダイアグラムを示す。図7に示すように、本発明の製造方法に用いた記録層のターゲットにおいても、ブラッグ角度2θ=26.6±0.1°にピークを有している。」

カ.「【0029】
なお、ターゲットに添加するSiO_(2)粉末において、結晶質SiO_(2)粉末と非晶質SiO_(2)粉末を混合した場合、非晶質SiO_(2)粉末から大きな粒子が飛来して突起欠陥を生ずるため、十分な歩留まり改善効果が得られない。従って、本発明の磁気記録媒体の製造方法において、グラニュラー記録層を形成するターゲットに添加するSiO_(2)粉末の全量を結晶質SiO_(2)粉末にすることによって最大の効果が得られることは自明である。」

キ.図7



・上記甲1号証に記載されたターゲットは、上記「ア.」?「ウ.」、「カ.」の記載事項によれば、磁気記録媒体における、磁性を有する結晶粒子とそれを取り巻くSi酸化物を主成分とする非磁性結晶粒界から構成される記録層(いわゆるグラニュラー記録層)をスパッタリング法によって形成するためのものであって、少なくともCo又はCoを含む合金と結晶質SiO_(2)粉末を混合したターゲットである。
・上記「エ.」の記載事項によれば、当該ターゲットは具体的には、Co-13at.%Cr-20at.%Pt合金と結晶質SiO_(2)を88:12mol%の比率で混合した合金-酸化物複合型ターゲットである。
・上記「オ.」の段落【0023】の記載事項、上記「キ.」の図7(上記「キ.」)によれば、当該ターゲットは、X線回折ダイアグラムにおいて、ブラッグ角度2θ=26.6±0.1°にピークを有してなるものであり、かかるピークが石英の(011)面のピークであることは技術常識といえることである(例えば本件特許明細書の段落【0031】の記載、甲4号証を参照)。
そして、図7(上記「キ.」)のターゲットのX線回折ダイアグラムを示したグラフをもとに、石英ピーク強度と本件特許明細書の段落【0031】に記載された算出方法に従ってバックグラウンド強度とをそれぞれ求め、ピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)を計算するとおよそ2.5前後である。

したがって、実施例1で用いたターゲットに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、甲1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「磁気記録媒体における、磁性を有する結晶粒子とそれを取り巻くSi酸化物を主成分とする非磁性結晶粒界から構成される記録層(いわゆるグラニュラー記録層)をスパッタリング法によって形成するための少なくともCo又はCoを含む合金と結晶質SiO_(2)粉末を混合した合金-酸化物複合型ターゲットであって、
Co-13at.%Cr-20at.%Pt合金と結晶質SiO_(2)を88:12mol%の比率で混合したものからなり、
X線回折ダイアグラムにおいて、ブラッグ角度2θ=26.6±0.1°に石英の(011)面のピークを有し、ピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)はおよそ2.5前後である合金-酸化物複合型ターゲット。」

(2)甲3号証(特開2006-45587号公報)
ア.「【0001】
本発明は、セラミックス-金属複合材料であるスパッタリングターゲット材およびその製造方法に関し、より詳しくは、セラミックス-金属複合材料からなり、相対密度が99%以上であるスパッタリングターゲット材およびその製造方法に関する。」

イ.「【0036】
本発明のスパッタリングターゲット材の製造方法では、前記複合粒子と、金属粉とを混合した後、加圧焼結するが、本発明に用いられる金属粉としては、少なくともCoを含有してなる金属粉が挙げられ、好ましくは、Cr、Ta、W、Ptからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属とCoとからなる金属粉が挙げられる。具体的には、たとえば、Co-Cr-Taや、Co-W、Co-Ptなどの組み合わせが好ましく挙げられる。該金属粉の平均粒径は、通常0.1?50μm、好ましくは0.1?10μmである。なお、本明細書中、平均粒径とは、レーザー回折散乱法による頻度分布から求めたモード径をいう。
【0037】
また、本発明に用いられる複合粒子の芯材となるセラミックス粒子としては、Co酸化物よりも生成自由エネルギーの小さい酸化物からなるものが挙げられ、該酸化物としては、たとえば、SiO_(2)、MgO、Al_(2)O_(3)、TiO、ZrO_(2)、HfO、V_(2)O_(3)、N_(2)O_(5)、Cr_(2)O_(3)などが挙げられる。これらは1種単独であるいは2種以上を混合して用いてもよいが、これらのうちでは、SiO_(2)からなるセラミックス粒子が好ましく、SiO_(2)のみからなるセラミックス粒子がより好ましい。」

ウ.「【0060】
[実施例1]
<複合粒子の製造>
Co粉(添川理化学製、純度99.9重量%、平均粒径6μm)と、SiO_(2)粉(東芝セラミックス製溶融石英粉、純度99.9重量%、平均粒径35μm)とを用いて下記の条件でメカニカルアロイングを行い、平均粒径1.5μmの複合粒子を得た。
【0061】
メカニカルアロイング条件; ボールミル(伊藤製作所製)、2Lのポリエチレン製ミル容器、φ5mmのジルコニア製ボール1800g、Co粉34g、SiO_(2)粉66g、大気雰囲気下、回転数50rpm、120時間。
<スパッタリングターゲット材の製造>
上記メカニカルアロイングにより得られた平均粒径1.5μmの複合粒子30gに、前記Co粉155g、Ta粉(スタルク製、純度99.9重量%(3N)、平均粒径5μm)123g、Cr粉(添川理化学製、純度99.9重量%(3N)、平均粒径5μm)22gを加え、攪拌混合、整粒し、原料粉体を得た。
【0062】
得られた原料粉体を、所定の型に入れ、アルゴン雰囲気下、1200℃で1時間、面圧150kgf/cm^(2)の条件でホットプレスし、平面研削盤でスパッタに供する面とボンディングに供する面の両面を研削しスパッタリングターゲット材を得た後、該スパッタリングターゲット材の一部を切断し、残りを1cm×1cm×0.45cmのサイズに加工した。加工後のサイズの重量は3.92gであった。」

・上記甲3号証に記載されたターゲットは、上記「ア.」の記載事項によれば、セラミックス-金属複合材料かならるスパッタリングターゲットである。
・上記「イ.」の段落【0036】、「ウ.」の段落【0060】の記載事項によれば、上記スパッタリングターゲットは、Co粉とSiO_(2)粉から得られる複合粒子と、少なくともCoを含有してなる金属粉、好ましくはCoとCr、Ta、W、Ptからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属とからなる金属粉とを混合し、加圧焼結したものである。

したがって、上記記載事項を総合勘案すると、甲3号証には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。
「セラミックス-金属複合材料かならるスパッタリングターゲットにおいて、
Co粉とSiO_(2)粉から得られる複合粒子と、少なくともCoを含有してなる金属粉、好ましくはCoとCr、Ta、W、Ptからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属とからなる金属粉とを混合し、加圧焼結したスパッタリングターゲット。」

また、上記「イ.」の段落【0036】には、金属粉としてCo-Ptの例も挙げられており、この場合、CoPt-SiO_(2)系ターゲットであり、甲3号証には、次の発明(以下、「甲3発明’」という。)も記載されている。
「CoPt-SiO_(2)系のセラミックス-金属複合材料かならるスパッタリングターゲット。」

2.無効理由1(新規性欠如)

(1)本件特許発明1について

本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、
ア.甲1発明における「磁気記録媒体における、磁性を有する結晶粒子とそれを取り巻くSi酸化物を主成分とする非磁性結晶粒界から構成される記録層(いわゆるグラニュラー記録層)をスパッタリング法によって形成するための少なくともCo又はCoを含む合金と結晶質SiO_(2)粉末を混合した合金-酸化物複合型ターゲットであって、Co-13at.%Cr-20at.%Pt合金と結晶質SiO_(2)を88:12mol%の比率で混合したものからなり」によれば、
(a)甲1発明の「合金-酸化物複合型ターゲット」は、磁気記録媒体における記録層をスパッタリング法により形成するためのものであるから、本件特許発明1でいう「磁気記録用スパッタリングターゲット」に相当するものであり、
(b)また、甲1発明の「合金-酸化物複合型ターゲット」は、Si酸化物である結晶質SiO_(2)を含有するものである。
したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、「SiO_(2)を含有する磁気記録膜用スパッタリングターゲット」である点で一致する。

イ.甲1発明における「X線回折ダイアグラムにおいて、ブラッグ角度2θ=26.6±0.1°に石英の(011)面のピークを有し、ピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)はおよそ2.5前後である」によれば、
甲1発明の合金-酸化物複合型ターゲットにおける、X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)は、およそ2.5前後であり、図7から求めるにあたっての誤差分を考慮しても、本件特許発明1における「1.40以上」の条件を満たしているといえ、
本件特許発明1と甲1発明とは、「X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上である」点で一致するということができる。

したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、
「SiO_(2)を含有する磁気記録膜用スパッタリングターゲットであって、X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上であることを特徴とする磁気記録膜用スパッタリングターゲット。」
である点で一致し、相違するところがない。

よって、本件特許発明1は、甲1号証に記載された発明である。

(2)本件特許発明3について

さらに本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、
ウ.甲1発明における「Co-13at.%Cr-20at.%Pt合金と結晶質SiO_(2)を88:12mol%の比率で混合したものからなり」によれば、
甲1発明の合金-酸化物複合型ターゲットの組成は、
Cr:88×(13/100)=11.44mol%
Pt:88×(20/100)=17.6mol%
結晶質SiO_(2):12mol%
Co:残余
であり、Crについては本件特許発明3における「20mol%以下(0mol%を除く)」を満たし、Ptについては本件特許発明3における「1mol%以上30mol%以下」を満たし、SiO_(2)については本件特許発明3における「1mol%以上20mol%以下」を満たし、そして、Coについて「残余」である点で本件特許発明3と共通する。
したがって、本件特許発明3と甲1発明とは、「Crが20mol%以下(0mol%を除く)、Ptが1mol%以上30mol%以下、SiO_(2)が1mol%以上20mol%以下、残余がCoである」点でも一致し、相違するところがない。

よって、本件特許発明3は、甲1発明に記載された発明である。

(3)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1及び3は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

3.無効理由2(進歩性欠如)

(1)本件特許発明2について

本件特許発明2と甲1発明とを対比すると、以下の点において相違する。
[相違点]
磁気記録膜用スパッタリングターゲットの組成について、本件特許発明2では、「Crが20mol%以下(0mol%を除く)、SiO_(2)が1mol%以上20mol%以下、残余がCoである」と特定するのに対し、甲1発明では、Co-13at.%Cr-20at.%Pt合金と結晶質SiO_(2)を88:12mol%の比率で混合したものである点。

上記[相違点]について検討すると、
甲1号証の【請求項1】、段落【0008】の記載(上記「1.(1)ア.」及び上記「1.(1)イ.」を参照)によれば、ターゲットの組成としては「少なくともCo又はCoを含む合金と結晶質SiO_(2)粉末」を混合したものであれば任意に選択し得ることが示唆されているといえるところ、
甲3号証には、「セラミックス-金属複合材料かならるスパッタリングターゲットにおいて、Co粉とSiO_(2)粉から得られる複合粒子と、少なくともCoを含有してなる金属粉、好ましくはCoとCr、Ta、W、Ptからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属とからなる金属粉とを混合し、加圧焼結したスパッタリングターゲット。」という甲3発明が記載されており、これによれば、金属粉としてCoとCrのみの組み合わせも示唆されており、甲1発明においても、少なくともCo又はCoを含む合金として、CoCrPtの組み合わせに代えてCoCrの組み合わせを採用することは当業者であれば容易になし得ることである。
なお、各構成物質の含有量についても、本件特許発明2で特定する「Crが20mol%以下(0mol%を除く)、SiO_(2)が1mol%以上20mol%以下、残余がCo」の範囲を満たすような値を選択することも、当該ターゲットを用いて成膜される磁気記録膜を有する磁気記録媒体としての特性を考慮して当業者が適宜なし得ることである。
また、本件特許発明2で特定する「Crが20mol%以下(0mol%を除く)」、「SiO_(2)が1mol%以上20mol%以下」、「残余がCo」という各構成物質の含有量の範囲について、本件特許明細書(特に段落【0037】?【0038】)を参照しても、その上限値や下限値を定めたことに格別の技術的意義(臨界的意義)は認められない。

したがって、本件特許発明2は、甲1発明及び甲3号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件特許発明5について

本件特許発明5と甲1発明とを対比すると、以下の点において相違する。
[相違点]
磁気記録膜用スパッタリングターゲットの組成について、本件特許発明5では、「Ptが5mol%以上60mol%以下、SiO_(2)が20mol%以下、残余がCoである」と特定するのに対し、甲1発明では、Co-13at.%Cr-20at.%Pt合金と結晶質SiO_(2)を88:12mol%の比率で混合したものである点。

上記[相違点]について検討すると、
甲1号証の【請求項1】、段落【0008】の記載(上記「1.(1)ア.」及び上記「1.(1)イ.」を参照)によれば、ターゲットの組成としては「少なくともCo又はCoを含む合金と結晶質SiO_(2)粉末」を混合したものであれば任意に選択し得ることが示唆されているといえるところ、
甲3号証には、「CoPt-SiO_(2)系のセラミックス-金属複合材料かならるスパッタリングターゲット。」なる甲3発明’が記載されており、甲1発明において、少なくともCo又はCoを含む合金として、CoCrPtの組み合わせ代えてCoPtの組み合わせを採用することは当業者であれば容易になし得ることである。
その際、各構成物質の含有量について、甲3号証には具体数値の明記はないが、本件特許発明5で特定する「Ptが5mol%以上60mol%以下、SiO_(2)が20mol%以下、残余がCo」の範囲を満たすような値は通常採用される値にすぎない(例えば、特開2005-276363号公報の段落【0070】、【0071】の表2に記載された実施例2-7の「90(Co50Pt50)-10SiO_(2)」の例、特開2006-202476号公報の段落【0072】、【0073】の表8に記載された実施例58の「75Co-17Pt-8SiO_(2)」の例を参照)。
また、本件特許発明5で特定する「Ptが5mol%以上60mol%以下」、「SiO_(2)が20mol%以下」、「残余がCo」という各構成物質の含有量の範囲について、本件特許明細書(特に段落【0037】)を参照しても、その上限値や下限値を定めたことに格別の技術的意義(臨界的意義)は認められない。

したがって、本件特許発明5は、甲1発明及び甲3号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)その他
請求項4に係る発明である本件特許発明4、及び請求項4のみに従属する請求項6?8に係る各発明である本件特許発明6?8については、無効理由2の主張はなされていない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件特許発明2及び5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4.無効理由3(サポート要件)

請求人による審判請求書、弁駁書及び口頭審理陳述要領書での主張を総合すると、以下の(1)?(3)の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。
(1)本件請求項1に係る発明特定事項は、磁気記録膜用ターゲットの成分組成を特定せず、単に「SiO_(2)を含有する」としているのみであるが、SiO_(2)は非磁性材料であり、「SiO_(2)を含有する」とするだけでは磁気記録用スパッタリングターゲットとして機能することはできない。
したがって、本件請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2?8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求するものであり、本件特許明細書に記載されたものとはいえない。

(2)本件請求項1の発明特定事項である「X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上である」ことについて、
(a)「バックグラウンド強度」とはどこの強度を意味するのか不明であり、
(b)ピーク強度比が「1.40以上」との数値は、ノイズか石英の(011)面のピークかの判別がつかない場合を含むものであり、臨界的意義は認められない。
したがって、本件請求項1に係る発明及び請求項1を引用する請求項2?8に係る発明は、本件特許明細書に記載されたものではない。

(3)少なくとも原料粉末として「石英」を用いてクリストバライトの形成が防止されて初めて本件発明の課題を解決することができるものであって、そのための限定を有さない本件請求項1?8に係る発明は、発明の詳細な説明に開示されている発明の範囲を逸脱して権利を求めるものである。

そこで、上記(1)?(3)について検討する。
(1)について
本件特許発明1は「磁気記録膜用」スパッタリングターゲットであるから、当然、何らかの磁性金属材料を含むことを前提としていると理解できるものであり、本件特許発明1において磁性金属材料の具体的な成分組成を特定していないからといって、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求するものであるとまではいえない(なお、磁性金属材料の具体的な成分組成は、従属する請求項2?5で特定されている。)。

(2)について
(a)「バックグラウンド強度」については、本件特許明細書の段落【0031】にその定義(算出方法)が具体的に記載されている。
(b)本件特許明細書の表1には、組成等が各々異なるターゲットについて「X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)」が「1.40以上」の条件を満たす実施例や、1.40未満の比較例も一応示されている。
そして、ピーク強度比が「1.40以上」との数値について臨界的意義があるか否かはいわゆる進歩性の判断においてかかわる問題であって、いわゆるサポート要件を満たすか否かにかかわる問題ではない。
したがって、本件特許発明1において、発明の課題を解決するための手段として反映された「X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上である」なる発明特定事項が、発明の詳細な説明に記載さたれものでないとまではいえない。

(3)について
まず、本件特許発明8については、SiO_(2)の粉末原料として「石英」を使用することが明確に特定されている。
また、本件特許発明1?7については、そもそもこれら発明は「物」の発明に係るものであるから、当該物の構造又は特性でもって直接特定すべきものであって、その物の製造方法(製造条件)に関する事項といえる原料粉末についての特定をすべき必然性はない。
したがって、本件特許発明1?7において、原料粉末として「石英」を用いることの特定(限定)がなされていないからといって、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求するものであるとはいえない。

以上のとおり、(1)?(3)の点によっては本件特許発明1?8は、特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであるということはできない。

よって、請求人の主張する無効理由3には理由がない。

5.無効理由4(実施可能要件)

請求人による審判請求書、弁駁書及び口頭審理陳述要領書での主張を総合すると、以下の(1)及び(2)の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張している。
(1)本件請求項1の発明特定事項である「X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上である」ことに関して、
(a)本件特許明細書の段落【0031】には、「前記バックグラウンド強度の算出方法は、((25.1°?26.1°の平均)+(27.1°?28.1°の平均))/2である」と記載されているが、通常のX線回折においては、ピーク強度は、ノイズを考慮してベースラインを定める平滑化処理を行って求めるのであり、当該算出方法は一般的ではなく、その根拠及び技術的意味が不明であり、
(b)また、本件特許明細書には、実施例として独自に設定したピーク強度比の数値が記載されているが、石英(011)面のピークとして出現したのか、あるいは単なるノイズであったのか不明である。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、請求項1?8に係る発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。

(2)訂正前の本件請求項1?8についても、訂正後の本件請求項1?8と同様に、本件特許明細書の記載は、原料粉末として石英を用いてクリストバライトの形成を防止した場合のみ課題が解決できたことを示すのみであり、原料粉末として石英を用いない場合にも効果が得られることは記載されていないから、原料粉末として石英を用いることを要件としていない本件請求項1?8に記載の発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に開示されているとはいえない。

そこで、上記(1)及び(2)について検討する。
(1)について
(a)「バックグラウンド強度」は、本件特許明細書の段落【0031】にその算出方法(定義)が明確に記載されている(これによれば、石英の(011)面のピークがシフトしてもそのピークが入らない範囲でバックグラウンドの範囲を定めていると解される)以上、たとえその算出方法が一般的ではないとしても、そのことをもって当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないとはいえない。
(b)結局のところこの点については、本件請求項1で規定する「ピーク強度比」について、「1.40以上」との数値は石英の(011)面のピークかノイズか判別がつかない場合も含み、臨界的意義が認められないとする上記「4.(2)(a)」と同趣旨であると解されるところ、臨界的意義があるか否かはいわゆる進歩性の判断においてかかわる問題であって、いわゆる実施可能要件を満たすか否かにかかわる問題ではない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1?8について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとまではいえない。

(2)について
まず、本件特許発明8については、SiO_(2)の粉末原料として「石英」を使用することが明確に特定されているから、請求人の上記主張は当を得ないものであることは明らかであり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

一方、本件特許発明1?7については物の発明に係るものであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすること、すなわちその物を製造することができる程度に明確かつ十分に記載したものでなければならないところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明をみると、以下の各記載がなされている(下線は当審が付与した。)。
ア.「【0024】
上記の課題を解決するために、本発明者らはさらに研究を行った結果、SiO_(2)の原料として石英を使用することにより、スパッタリング時のパーティクル発生の原因となるクリストバライトの形成を防止して、ターゲットにマイクロクラック及びスパッタリング中のパーティクル発生を抑制し、かつバーンイン時間の短縮化が可能であるスパッタリングターゲットを得ることができると共に、さらに記録密度の向上を図ることができるとの知見を得た。
【0025】
このような知見に基づき、本発明は、
1)SiO_(2)を含有する磁気記録膜用スパッタリングターゲットであって、X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上であることを特徴とする磁気記録膜用スパッタリングターゲット、を提供する。」

イ.「【発明の効果】
【0028】
このように調整した本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲットターゲットは、石英を使用することにより、焼結温度を下げずにクリストバライト化を妨げることが可能となり、ターゲットのマイクロクラックの発生を抑制すると共に、スパッタリング中のパーティクル発生を抑制し、かつバーンイン時間の短縮化が可能であるという優れた効果を有する。このようにパーティクル発生が少ないので、磁気記録膜の不良率が減少し、コスト低減化になるという大きな効果を有する。また、前記バーンイン時間の短縮化は、生産効率の向上に大きく貢献するものである。」

ウ.「【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲットは、SiO_(2)を含有する磁気記録膜用スパッタリングターゲットであり、SiO_(2)として石英を使用する。これによって、スパッタリングターゲットのX線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上である磁気記録膜用スパッタリングターゲットを得ることができる。・・・・・(以下、略)」

エ.「【0035】
このように、結晶化したクリストバライトを発生し難い石英を使用することにより、焼結温度を高くすることができ、ターゲットの密度を向上させることができる。また、ターゲット中の単位体積当たりのSiO_(2)の物質量を多く存在させることができるので、記録密度の向上にも有効である。・・・・・(以下、略)」

これらの記載事項によれば、クリストバライトの形成を防止するためにSiO_(2)の粉末原料として「石英」を使用することが本件特許発明1?7を実施するにあたっての必要不可欠な技術事項であるように解される(なお、実施例9を除く他の全ての実施例において「石英」が用いられている)が、本件特許明細書に記載された実施例9(段落【0126】?【0128】)ではSiO_(2)の粉末原料として「石英」ではなく「アモルファス」を使用しており、そして、被請求人は口頭審理陳述要領書や平成27年6月19日付け上申書において、かかる実施例9を根拠にSiO_(2)の粉末原料として「石英」を用いなければならないものではない旨も主張している。
しかしながら、実施例9(段落【0126】?【0129】)と比較例11(段落【0130】?【0134】)とを比較してみると、両者は、同じ組成(Fe-Pt-SiO_(2)-C)であり、同じくSiO_(2)の粉末原料として「アモルファス」が用いられており、しかも同じ焼結条件(温度1200℃、保持時間120分(2時間)、加圧力30MPa)であるにもかかわらず、一方(実施例9)では「X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上である」という本件特許発明1?7の発明特定事項に係る条件を満たし、他方(比較例11)は当該条件を満たしていない。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、このように同じ製造条件でありながら、本件特許発明1?7の発明特定事項に係る上記条件を満たす場合と、満たさない場合とが生じることの技術的理由について一切説明がなされていない。
なお、被請求人は平成27年6月19日付け上申書において、「・・このような違いが生じた原因は、焼結前の混合工程の違いである。混合工程の違いが、焼結後のSiO_(2)の相状態に大きく影響するのである。本件特許明細書の【0131】に示すとおり、『比較例11』では原料粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。一方、『実施例9』では『この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1200℃、保持時間120分、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。』(本件特許明細書、【0127】)とあり、原料粉末を混合しているが、ジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルで20時間混合することまでは行われていない。・・・・・(中 略)・・・・・以上のとおり、同じアモルファスSiO_(2)の原料を用い、同じ焼結条件で焼結されても、原材料の混合条件によってはアモルファスSiO_(2)は石英になったり、クリストバライトになったりする。」などと主張しているが、そもそも、「実施例9」の混合条件(混合時間など)について具体的な記載は何らなされておらず(当然、混合条件が「比較例11」とは異なることの明記もない)、混合条件が具体的に記載された実施例(実施例1)、比較例(比較例1?11)の全てにおいて「ジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。」とあり、「実施例9」においても単に混合条件の記載が省略されているだけであって、実施例1や比較例11などと同じ混合条件であったと解するのが合理的であるといえ、被請求人の主張は採用できない。
したがって、SiO_(2)の粉末原料として「石英」を用いない場合(「アモルファス」を用いる場合)に限ってみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1?7について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとはいえる。

しかし一方で、例えば本件特許明細書に記載された実施例1(段落【004】?【0049】)では、SiO_(2)の粉末原料として「石英」を用いており、混合条件や焼結条件なども具体的に記載されており、これによれば、当業者であればその実施をすることができるものと認められる。

したがって、たとえ当業者が実施できない実施の形態(実施例9)を含んでいるとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、少なくとも一つの当業者が実施可能な実施の形態(実施例1など)が記載されているといえるのであるから、本件特許発明1?7について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないとまではいえない。

以上のとおり、(1)及び(2)の点によっては本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1?8について、特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないということはできない。

よって、請求人の主張する無効理由4には理由がない。

6.新たな無効理由A’(サポート要件)、新たな無効理由B’(明確性要件)及び新たな無効理由C’(実施可能要件)

請求人は、平成27年12月25日付け審判事件弁駁書において、訂正後の請求項6及び7に係る発明に関して新たな無効理由A’ないしC’を主張している。
しかしながら、これら新たな無効理由A’ないしC’は、多数項引用形式であった訂正前の請求項6及び7の各請求項について、引用請求項を減少し、請求項4のみを引用するようにした訂正の請求に起因して必要になったものとはいえず、また、審判請求の当初から主張する機会があったにもかかわらず、主張しなかったことの合理的な理由があるともいえないから、これら新たな無効理由A’ないしC’の主張は請求の理由の要旨を変更するものであって、認められない。

第6 むすび

以上のとおり、
平成27年10月30日付け訂正請求において、訂正事項1(請求項1ないし3、5からなる一群の請求項に係る訂正)は、特許法第134条の2第1項ただし書きの規定に違反し、また、特許法第134条の2第9項の規定によって準用する同法第126条第5項の規定に違反するから、当該訂正を認めない。
一方、平成27年10月30日付け訂正請求において、訂正事項2ないし5(請求項4、6ないし8からなる一群の請求項に係る訂正)については、当該訂正を認める。

そして、本件特許発明1及び3は、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、本件特許発明2及び5は、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

また、本件特許発明4、6ないし8については、請求人の主張する理由(無効理由3,4)及び証拠方法によっては無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その8分の4を請求人の負担とし、8分の4を被請求人の負担とすべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
磁気記録膜用スパッタリングターゲット及びその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の磁性体薄膜、特に垂直磁気記録方式を採用したハードディスクの磁気記録層の成膜に使用される磁気記録膜用スパッタリングターゲットに関し、スパッタリング時のパーティクル発生の原因となるクリストバライトの形成を抑制し、かつスパッタ開始から本成膜までに要する時間(以下、バーンイン時間)、の短縮が可能であるスパッタリングターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブに代表される磁気記録の分野では、記録を担う磁性薄膜の材料として、強磁性金属であるCo、Fe、あるいはNiをベースとした材料が用いられている。例えば、面内磁気記録方式を採用するハードディスクの記録層にはCoを主成分とするCo-Cr系やCo-Cr-Pt系の強磁性合金が用いられてきた。
また、近年実用化された垂直磁気記録方式を採用するハードディスクの記録層には、Coを主成分とするCo-Cr-Pt系の強磁性合金と非磁性の無機物からなる複合材料が多く用いられている。
【0003】
そしてハードディスクなどの磁気記録媒体の磁性薄膜は、生産性の高さから、上記の材料を成分とする強磁性材スパッタリングターゲットをスパッタリングして作製されることが多い。また、このような磁気記録膜用スパッタリングターゲットには、スパッタリング後の膜において合金相を磁気的に分離するためのスペーサーとして、SiO_(2)を添加することが行われている。
【0004】
強磁性材スパッタリングターゲットの作製方法としては、溶解法や粉末冶金法が考えられる。どちらの手法で作製するかは、要求される特性によるので一概には言えないが、垂直磁気記録方式のハードディスクの記録層に使用される、強磁性合金と非磁性の無機物粒子からなるスパッタリングターゲットは、一般に粉末冶金法によって作製されている。これはSiO_(2)等の無機物粒子を合金素地中に均一に分散させる必要があるため、溶解法では作製することが困難だからである。
【0005】
例えば、急冷凝固法で作製した合金相を持つ合金粉末とセラミックス相を構成する粉末とをメカニカルアロイングし、セラミックス相を構成する粉末を合金粉末中に均一に分散させ、ホットプレスにより成形し磁気記録媒体用スパッタリングターゲットを得る方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
この場合のターゲット組織は、素地が白子(鱈の精子)状に結合し、その周りにSiO_(2)(セラミックス)が取り囲んでいる様子(特許文献1の図2)又は細紐状に分散している(特許文献1の図3)様子が見える。他の図は不鮮明であるが、同様の組織と推測される。このような組織は、後述する問題を有し、好適な磁気記録媒体用スパッタリングターゲットとは言えない。なお、特許文献1の図4に示されている球状物質は、メカニカルアロイング粉末であり、ターゲットの組織ではない。
【0007】
また、急冷凝固法で作製した合金粉末を用いなくても、ターゲットを構成する各成分について市販の原料粉末を用意し、それらの原料粉を所望の組成になるように秤量し、ボールミル等の公知の手法で混合し、混合粉末をホットプレスにより成型・焼結することによって、強磁性材スパッタリングターゲットは作製できる。
【0008】
スパッタリング装置には様々な方式のものがあるが、上記の磁気記録膜の成膜では、生産性の高さからDC電源を備えたマグネトロンスパッタリング装置が広く用いられている。スパッタリング法とは、正の電極となる基板と負の電極となるターゲットを対向させ、不活性ガス雰囲気下で、該基板とターゲット間に高電圧を印加して電場を発生させるものである。
【0009】
この時、不活性ガスが電離し、電子と陽イオンからなるプラズマが形成されるが、このプラズマ中の陽イオンがターゲット(負の電極)の表面に衝突するとターゲットを構成する原子が叩き出され、この飛び出した原子が対向する基板表面に付着して膜が形成される。このような一連の動作により、ターゲットを構成する材料が基板上に成膜されるという原理を用いたものである。
【0010】
上記の通り、磁気記録膜用スパッタリングターゲットには、スパッタリング後の膜において合金相を磁気的に分離するためのスペーサーとして、SiO_(2)を添加することが行われている。磁性金属材料に、このSiO_(2)を添加するとターゲットにマイクロクラックが発生し、スパッタリング中にパーティクルの発生が多く見られるという問題があった。また、SiO_(2)を添加した磁性材ターゲットでは、SiO_(2)を添加しない磁性材ターゲットに比べてバーンイン時間が長くなるという不都合も生じた。
【0011】
これは、SiO_(2)自体の問題であるのか、SiO_(2)が変質したのか、あるいは他の磁性金属又は添加材料との相互作用の問題か、という程度の問題の提起はあったが、根本的に究明された訳ではなかった。多くの場合、上記の問題は、止むを得ないこととして黙認又は看過されてきたものと考えられる。しかし、今日のように、磁性膜の特性を高度に維持する必要から、スパッタリング膜特性のさらなる向上が求められている。
【0012】
従来技術では、磁性材を用いたスパッタリングターゲットにおいて、SiO_(2)を添加する技術がいくつか見られる。下記文献2には、マトリックスとしての金属相、このマトリックス相に分散しているセラミックス相、金属相とセラミックス相との界面反応相を有し相対密度が99%以上であるターゲットが開示されている。セラミックス相の中にSiO_(2)の選択もあるが、上記の問題の認識及び解決策の提案はない。
【0013】
下記文献3には、CoCrPt-SiO_(2)スパッタリングターゲットの製造に際し、Pt粉末とSiO_(2)粉末を仮焼し、得られた仮焼粉末にCr粉末、Co粉末を混合して加圧焼結する提案がなされている。しかし、上記の問題の認識及び解決策の提案はない。
下記文献4には、Coを含有する金属相、粒径10μm以下のセラミックス相、金属相とセラミックス相との界面反応相を有し、金属相の中にセラミックス相が散在するスパッタリングターゲットが開示され、前記セラミック相には、SiO_(2)の選択もあることが提案されている。しかし、上記の問題の認識及び解決策の提案はない。
【0014】
下記文献5には、非磁性酸化物0.5?15モル、Cr4?20モル、Pt5?25モル、B0.5?8モル、残部Coのスパッタリングターゲットが提案されている。非磁性酸化物には、SiO_(2)の選択もあること提案されている。しかし、上記の問題の認識及び解決策の提案はない。
なお、参考に下記文献6を挙げるが、この文献には、メモリーなどの半導体素子用封止剤の充填剤として、クリストバライト粒子を製造する技術が開示されている。この文献は、スパッタリングターゲットとは無縁の技術ではあるが、SiO_(2)のクリストバライトに関する技術である。
【0015】
下記文献7は、電子写真現像剤用キャリア芯材として利用されるもので、スパッタリングターゲットとは無縁の技術ではあるが、SiO_(2)に関する結晶の種類が開示されている。その一方はSiO_(2)のクオーツ結晶であり、他方はクリストバライト結晶である。
下記文献8は、スパッタリングターゲットとは無縁の技術ではあるが、クリストバライトが炭化珪素の酸化防護機能を損ねる材料であるとしての説明がある。
【0016】
下記文献9には、カルコゲン化亜鉛素地中に、無定型SiO2が分散した組織の、光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットが記載されている。この場合、カルコゲン化亜鉛-SiO_(2)からなるターゲットの抗折強度とスパッタリング時の割れの発生は、SiO_(2)の形態と形状が影響しており、無定形(アモルファス)にすると、高出力のスパッタリングにおいても、スパッタ割れが発生しないとの開示がある。
これはある意味での示唆はあるが、あくまでカルコゲン化亜鉛を用いた光記録媒体保護膜形成用スパッタリングターゲットであり、マトリックス材料が異なる磁性材料の問題を解決できるかどうかは全く不明である。
【0017】
また、下記特許文献10には、パーティクル発生の少ない光記録保護膜形成用スパッタリングターゲットが記載されている。この場合に、硫化亜鉛素地中に二酸化ケイ素粉末が分散したターゲットが記載されており、二酸化ケイ素粉末は石英、クリストバライト、トリジマイトなどの結晶質の二酸化ケイ素粉末を使用することが記載されている。
この文献10では、上記に例示された二酸化ケイ素粉末が、それぞれ等価で記載され、これらの利害得失については、特に問題になっていない。
【0018】
下記特許文献11には、パーティクル発生の少ない磁気記録膜用スパッタリングターゲットが記載されている。そして、段落[0008]に、「原料粉末であるシリカ粉末は、非晶質よりも結晶質のものが好ましい。その理由は結晶質のシリカ粉末の方が非晶質のシリカ粉末よりも凝集して粗大粒子が生成しにくく、したがって、異常放電を起こしにくく、パーティクルの発生は少ないからである。」という記載がある。
この場合、結晶質が良いとする理由は、凝集性が小さく、粗大粒が生成し難いということであり、それ以上の記載はない。そもそもが、酸化クロムを粒界に均一に分散させることを発明の中心的内容であり、上記以外のシリカ粉末に言及しているところはない。
一般に、結晶性のシリカ粉末の種類はいくつか存在するが、具体的な粉末原料の開示はない。
【0019】
下記特許文献12には、磁気記録膜形成用スパッタリングターゲットおよびその製造方法が記載されている。そして、従来例、比較例にて、「市販の合成石英からなるシリカ粉砕粉末を使用」との記載ある。文献12の発明は、ターゲット中のシリカ相が、線分法で求めた平均幅が0.5?5μmの範囲にするもので、石英粉末がスパッタリングターゲットにおいていかなる役割をなすのか、最適な石英粉末としては、どのようなものを選択すべきなのか、ということについては一切開示がない。
もとより、比較例として使用されている合成石英なので、石英粉末の役割の具体的開示がないのも、当然と言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開平10-88333号公報
【特許文献2】特開2006-45587号公報
【特許文献3】特開2006-176808号公報
【特許文献4】特開2008-179900号公報
【特許文献5】特開2009-1861号公報
【特許文献6】特開2008-162849号公報
【特許文献7】特開2009-80348号公報
【特許文献8】特開平10-158097号公報
【特許文献9】特開2000-178726号公報
【特許文献10】特開2001-64766号公報
【特許文献11】特許第4553136号公報
【特許文献12】特開2004-339586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
磁気記録膜用スパッタリングターゲットには、強磁性合金と非磁性の無機物からなる複合材料が多く用いられ、無機物としてSiO_(2)を添加することが行なわれている。しかし、SiO_(2)を添加したターゲットでは、スパッタリング中にパーティクルが多量に発生し、バーンイン時間も長くなるという問題が生じた。
また、磁性金属材料にSiO_(2)を添加すると、ターゲットにマイクロクラックが発生し、スパッタリング中にパーティクルが多量に発生するという問題が生じた。
【0022】
このため、本発明者らは、磁気記録膜用スパッタリングターゲットに対するSiO_(2)添加の工夫を行い、スパッタリング時のパーティクル発生の原因となるクリストバライトの形成を抑制することにより、ターゲットにマイクロクラック及びスパッタリング中のパーティクル発生を抑制し、かつバーンイン時間の短縮化が可能であることが分かり、先に特許出願を行った(特願2010-171038)。
【0023】
先の発明は、従来に比べ、上記の特性を得るために非常に有効であったが、クリストバライトの形成を抑制するために、焼結温度を1120°C以下に低減する必要があり、このように焼結温度を低下させると、ターゲットの密度が低下するという問題があることが分かった。密度を向上させるという観点から、本発明は、先の発明をさらに改良する必要が生じた。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記の課題を解決するために、本発明者らはさらに研究を行った結果、SiO_(2)の原料として石英を使用することにより、スパッタリング時のパーティクル発生の原因となるクリストバライトの形成を防止して、ターゲットにマイクロクラック及びスパッタリング中のパーティクル発生を抑制し、かつバーンイン時間の短縮化が可能であるスパッタリングターゲットを得ることができると共に、さらに記録密度の向上を図ることができるとの知見を得た。
【0025】
このような知見に基づき、本発明は、
1)SiO_(2)を含有する磁気記録膜用スパッタリングターゲットであって、X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上であることを特徴とする磁気記録膜用スパッタリングターゲット、を提供する。
【0026】
また、本発明は、
2)Crが20mol%以下(0mol%を除く)、SiO_(2)が1mol%以上20mol%以下、残余がCoであることを特徴とする上記1)記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット
3)Crが20mol%以下(0mol%を除く)、Ptが1mol%以上30mol%以下、SiO_(2)が1mol%以上20mol%以下、残余がCoであることを特徴とする上記1)記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット
4)Ptが5mol%以上60mol%以下、SiO_(2)が20mol%以下、残余がFeであることを特徴とする上記1)記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット
5)Ptが5mol%以上60mol%以下、SiO_(2)が20mol%以下、残余がCoである上記1)記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット、を提供する。
【0027】
さらに、本発明は、
6)添加元素として、B、Ti、V、Mn、Zr、Nb、Ru、Mo、Ta、Wから選択した1元素以上を、0.5mol%以上10mol%以下含有することを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット
7)添加材料として、炭素、SiO_(2)を除く酸化物、窒化物、炭化物から選択した1成分以上の無機物材料を含有することを特徴とする上記1)?6)のいずれか一項に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット
8)SiO_(2)の粉末原料として石英を使用し、この石英の粉末原料と磁性金属粉末原料とを混合し、焼結温度を1300°C以下で焼結することを特徴とする上記1)?7)のいずれか一項に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0028】
このように調整した本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲットターゲットは、石英を使用することにより、焼結温度を下げずにクリストバライト化を妨げることが可能となり、ターゲットのマイクロクラックの発生を抑制すると共に、スパッタリング中のパーティクル発生を抑制し、かつバーンイン時間の短縮化が可能であるという優れた効果を有する。このようにパーティクル発生が少ないので、磁気記録膜の不良率が減少し、コスト低減化になるという大きな効果を有する。また、前記バーンイン時間の短縮化は、生産効率の向上に大きく貢献するものである。
【0029】
さらに、石英の密度は、アモルファスSiO_(2)やクリストバライトよりも高いことから、石英を使用することによって、単位体積当たりのSiO_(2)の物質量を多くすることが可能となり、すなわちターゲット中の酸化物(石英)の物質量を上げることによって、成膜後の単磁区粒子を磁気的に細かく分離することができ、記録密度を向上させることができるという大きな効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1の石英を使用した場合のターゲットにおける組織写真である。
【図2】比較例1のクリストバライトを使用した場合のターゲットにおける組織写真である。
【図3】比較例2のアモルファスSiO_(2)をクリストバライト化した場合のターゲットにおける組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲットは、SiO_(2)を含有する磁気記録膜用スパッタリングターゲットであり、SiO_(2)として石英を使用する。これによって、スパッタリングターゲットのX線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上である磁気記録膜用スパッタリングターゲットを得ることができる。
結晶化したSiO_(2)であるクリストバライトは存在しないか、または大きく低減できる。なお、石英ピーク強度は26.64°であり、前記バックグラウンド強度の算出方法は、(((25.1°?26.1°の平均)+(27.1°?28.1°の平均))/2)である。
【0032】
磁気記録膜用スパッタリングターゲットには、強磁性合金と非磁性の無機物からなる複合材料が多く用いられ、無機物としてSiO_(2)を添加することが行なわれている。
しかしながら、このSiO_(2)がターゲット中で結晶化したクリストバライトとして存在すると、クリストバライトは270°C付近にα相⇔β相の相転位点があり、この相転位と同時に急激な体積変化を生じる。
【0033】
焼結後に、焼結体が冷えていく時、又は焼結体を加工する時に、この270°C付近を通過するため、体積変化により、マイクロクラックが発生する。このマイクロクラックが、スパッタリング時のパーティクルの原因となっていると考えられる。
一方、石英はクリストバライトのような急激な体積変化が無いため(相転移点がないため)、マイクロクラックがほとんど発生することなく、スパッタリング時のパーティクルを低減することが可能となる。
【0034】
さらに、石英の密度は、上記の通り、アモルファスSiO_(2)やクリストバライトよりも高いことから、同体積内により多くの物質量のSiO_(2)を投入することが可能となる。これは、成膜後の単磁区結晶の磁気的な分離に有効である。
すなわち、SiO_(2)をスパッタリングすると、SiO_(2)の大部分は一度SiとOに分解した後、基板上に再構成される。このとき、再構成後の結晶構造は、元の結晶構造に依存せずアモルファスになる。従って、密度の高い石英は、アモルファスSiO_(2)やクリストバライトよりも、同じ体積で多くのSiとOを放出することが可能になり、石英の方が成膜後のSiO_(2)の記録密度という意味で有利となる。
【0035】
このように、結晶化したクリストバライトを発生し難い石英を使用することにより、焼結温度を高くすることができ、ターゲットの密度を向上させることができる。また、ターゲット中の単位体積当たりのSiO_(2)の物質量を多く存在させることができるので、記録密度の向上にも有効である。
スパッタリングターゲット原料としての石英に言及すると、SiO_(2)の材料として石英があることは知られているが、アモルファスSiO_(2)粉末は、微粉末として容易に入手できる材料なので、特別な理由が存在しない限り、石英粉末を使用する理由がなかったと言える。
【0036】
しかしながら、石英の粉末を使用することにより、焼結温度を高くすることが可能となり、この結果、焼結密度を向上させることが可能となった。因みに、アモルファスSiO_(2)の密度は2.2g/cm3、クリストバライトの密度は2.33g/cm3、石英の密度は2.65g/cm3であり、石英自体が高密度である。石英の存在比率を高めることは、アモルファスSiO_(2)及びクリストバライトの存在比率を低減させることを意味する。また、石英は、アモルファスSiO_(2)よりも、高温で焼結してもクリストバライトは発生し難いため、石英の使用は焼結体(ターゲット)の密度を向上させるのに有効となる。
【0037】
上記のように、磁気記録膜用スパッタリングターゲットとしては、磁性材料に特に制限はないのであるが、(A)Crが20mol%以下(0mol%を除く)、SiO_(2)が1mol%以上20mol%以下、残余がCoである磁気記録膜用スパッタリングターゲット、また(B)Crが20mol%以下(0mol%を除く)、Ptが1mol%以上30mol%以下、SiO_(2)が1mol%以上20mol%以下、残余がCoである磁気記録膜用スパッタリングターゲット、さらに(C)Ptが5mol%以上60mol%以下、SiO2が20mol%以下、残余がFeである磁気記録膜用スパッタリングターゲット、さらに(D)Ptが5mol%以上60mol%以下、SiO_(2)が20mol%以下、残余がCoである磁気記録膜用スパッタリングターゲットに有用である。
なお、上記「0mol%を除く」という記載は、微量添加でも効果があるものであり、あくまで添加を目的とする以上は、0を除くものである。他方、前記Pt-Co-SiO_(2)系ターゲットでは、Crの存在を不要とする場合である。
これらは、磁気記録媒体として必要とされる成分であり、配合割合は上記範囲内で様々であるが、いずれも有効な磁気記録媒体としての特性を維持することができる。
この場合も、ターゲット中に結晶化したクリストバライトを発生させず、石英としてターゲット中に存在させる必要がある。
【0038】
なお、前記(A)において、Crは必須成分として添加するものであり、0mol%を除く。すなわち、少なくとも分析可能な下限値以上のCr量を含有させるものである。Cr量が20mol%以下であれば、微量添加する場合においても効果がある。本願発明は、これらを包含する。これらは、磁気記録媒体として必要とされる成分であり、配合割合は上記範囲内で様々であるが、いずれも有効な磁気記録媒体としての特性を維持することができる。
【0039】
なお、前記(B)において、Crは20mol%以下であるが、0mol%は除く。また、Ptは1mol%以上30mol%以下であれば、微量添加する場合においても効果がある。本願発明は、これらを包含する。これらは、磁気記録媒体として必要とされる成分であり、配合割合は上記範囲内で様々であるが、いずれも有効な磁気記録媒体としての特性を維持することができる。
さらに、前記(C)は、Fe-Pt合金が主成分となる磁気記録膜用スパッタリングターゲットであり、同様の効果を発揮する。
【0040】
この他、添加元素として、B、Ti、V、Mn、Zr、Nb、Ru、Mo、Ta、Wから選択した1元素以上を、0.5mol%以上10mol%以下含有させた上記の磁気記録膜用スパッタリングターゲットに有効である。前記添加元素は、磁気記録媒体としての特性を向上させるために、必要に応じて添加される元素である。
さらに添加材料として、炭素、SiO_(2)を除く酸化物、窒化物、炭化物から選択した1成分以上の無機物材料を含有する前記磁気記録膜用スパッタリングターゲットに有効である。
【0041】
このような磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造に際しては、SiO_(2)の粉末原料として石英を使用することが有効である。この石英の粉末原料と磁性金属粉末原料とを混合し、焼結温度を1300°C以下で焼結する。この焼結温度の高温化は、密度の高い石英の使用により可能となるものであり、ターゲットの密度を向上させるのに有効である。
【0042】
なお、以下に製造方法の具体例を説明するが、この製造方法は、代表的かつ好適な例を示すものである。すなわち、本発明は以下の製造方法に制限するものではなく、他の製造方法であっても、本願発明の目的と条件を達成できるものであれば、それらの製造法を任意に採用できることは容易に理解されるであろう。
【0043】
本発明の強磁性材スパッタリングターゲットは、粉末冶金法によって作製することができる。まず、各金属元素の粉末と、石英粉末、さらに必要に応じて添加金属元素の粉末を用意する。これらの粉末は最大粒径が20μm以下のものを用いることが望ましい。
また、各金属元素の粉末の代わりに、これら金属の合金粉末を用意してもよいが、その場合も最大粒径が20μm以下とすることが望ましい。
一方、小さ過ぎると、酸化が促進されて成分組成が範囲内に入らないなどの問題があるため、0.1μm以上とすることがさらに望ましい。
【0044】
そして、これらの金属粉末を所望の組成になるように秤量し、ボールミル等の公知の手法を用いて粉砕を兼ねて混合する。無機物粉末を添加する場合は、この段階で金属粉末と混合すればよい。
無機物粉末としては炭素粉末、SiO_(2)以外の酸化物粉末、窒化物粉末または炭化物粉末を用意するが、無機物粉末は最大粒径が5μm以下のものを用いることが望ましい。一方、小さ過ぎると凝集しやすくなるため、0.1μm以上のものを用いることがさらに望ましい。
また、ミキサーとしては、遊星運動型ミキサーあるいは遊星運動型攪拌混合機であることが好ましい。さらに、混合中の酸化の問題を考慮すると、不活性ガス雰囲気中あるいは真空中で混合することが好ましい。
【0045】
このようにして得られた粉末を、真空ホットプレス装置を用いて成型・焼結し、所望の形状へ切削加工することで、本発明の強磁性材スパッタリングターゲットが作製される。この場合、上記の通り、焼結温度を1300°C以下で焼結する。この焼結温度の高温化は、焼結密度の低下を抑制するのに必要な温度である。
また、成型・焼結は、ホットプレスに限らず、プラズマ放電焼結法、熱間静水圧焼結法を使用することもできる。焼結時の保持温度はターゲットが十分緻密化する温度域のうち最も低い温度に設定するのが好ましい。ターゲットの組成にもよるが、多くの場合、1100?1300°Cの温度範囲とするのが良い。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0047】
(実施例1)
実施例1では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径1μmの石英粉末(SiO_(2)粉末)を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が80.4Co-12Cr-7.6SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末81.42wt%、Cr粉末10.72wt%、SiO_(2)粉末7.84wt%の重量比率で秤量した。
次に、Co粉末とCr粉末と石英(SiO_(2))粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。
【0048】
この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1160°C、保持時間120分、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。このターゲットの組織写真を図1に示す。
【0049】
石英のピーク強度は、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。この結果を表1に示す。
2θ:26.64°に出現するピーク強度は404となり、またバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した。バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英のピーク強度/バックグラウンド強度)は、10.98となった。なお、測定装置としてリガク社製UltimaIVを用い、測定条件は管電圧40kv、管電流30mA、スキャンスピード4°/min、ステップ0.02°とした。
【0050】
【表1】

【0051】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果を表1に示す。定常状態時のパーティクル発生数は1.2個であった。なお、定常状態のパーティクル数を測定するに際して、成膜厚さはHDD製品膜厚の20倍程度にしてパーティクルが見やすいようにした。
また、スパッタリングのバーンインライフは0.25kWhであった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が高い場合には、バーンインが短縮化され、パーティクル発生数は少ない結果となった。
【0052】
ターゲットに占めるSiO_(2)の占有率を表2に示す。これは、ターゲットを作製したときの、組織写真から算出したSiO_(2)の占有率である。表2に示すように、実施例1では23.57%となり、良好な値になった。この表2に示す値が小さいほど、同じ体積内により多くのSiO_(2)を投入することができることを示している。
ターゲットのSiO_(2)の占有率を上げる程、パーティクルが出やすくなるので、密度の高い石英は、パーティクルの面で有利になる。換言すると、同じ物質量において、SiO_(2)の占有率が小さい方が、SiO_(2)そのものの密度は高いと言える。この点は、下記比較例1、比較例2との対比からも明らかである。
【0053】
【表2】

【0054】
(実施例2)
実施例2では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径1μmのPt粉末、平均粒径1μmの石英粉末(SiO_(2)粉末)を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が67Co-12Cr-15Pt-6SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末50.24wt%、Cr粉末7.94wt%、Pt粉末37.23wt%、SiO_(2)粉末4.59wt%の重量比率で秤量した。
【0055】
この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1160°C、保持時間120分、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0056】
石英のピーク強度は、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。この結果を表1に示す。
2θ:26.64°に出現するピーク強度は385となり、またバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した。バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英のピーク強度/バックグラウンド強度)は、9.51となった。なお、測定装置としてリガク社製UltimaIVを用い、測定条件は管電圧40kv、管電流30mA、スキャンスピード4°/min、ステップ0.02°とした。
【0057】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果を表1に示す。定常状態時のパーティクル発生数は1.1個であった。なお、定常状態のパーティクル数を測定するに際して、成膜厚さはHDD製品膜厚の20倍程度にしてパーティクルが見やすいようにした。
また、スパッタリングのバーンインライフは0.34kWhであった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が高い場合には、バーンインが短縮化され、パーティクル発生数は少ない結果となった。
【0058】
ターゲットに占めるSiO_(2)の占有率を表2に示す。これは、ターゲットを作製したときの、組織写真から算出したSiO_(2)の占有率である。表2に示すように、実施例2では、SiO_(2)の占有率が20.38%となり、良好な値になった。
この表2に示す値が小さいほど、同じ体積内により多くのSiO_(2)を投入することができることを示している。
ターゲットのSiO_(2)の占有率を上げる程、パーティクルが出やすくなるので、密度の高い石英は、パーティクルの面で有利になる。換言すると、同じ物質量において、SiO_(2)の占有率が小さい方が、SiO_(2)そのものの密度は高いと言える。この点は、下記比較例4との対比からも明らかである。
【0059】
(実施例3)
実施例3では、原料粉末として、平均粒径5μmのFe粉末、平均粒径1μmのPt粉末、平均粒径1μmの石英粉末(SiO_(2)粉末)を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が41Fe-41Pt-18SiO_(2)(mol%)となるように、Fe粉末20.14wt%、Pt粉末70.35wt%、SiO_(2)粉末9.51wt%の重量比率で秤量した。
【0060】
この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1200°C、保持時間120分、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。このターゲットの組織写真を図1に示す。
【0061】
石英のピーク強度は、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。この結果を表1に示す。
2θ:26.64°に出現するピーク強度は506となり、またバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した。バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英のピーク強度/バックグラウンド強度)は、12.56となった。なお、測定装置としてリガク社製UltimaIVを用い、測定条件は管電圧40kv、管電流30mA、スキャンスピード4°/min、ステップ0.02°とした。
【0062】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果を表1に示す。定常状態時のパーティクル発生数は1.3個であった。なお、定常状態のパーティクル数を測定するに際して、成膜厚さはHDD製品膜厚の20倍程度にしてパーティクルが見やすいようにした。
また、スパッタリングのバーンインライフは0.33kWhであった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が高い場合には、バーンインが短縮化され、パーティクル発生数は少ない結果となった。
【0063】
ターゲットに占めるSiO_(2)の占有率を表2に示す。これは、ターゲットを作製したときの、組織写真から算出したSiO_(2)の占有率である。表2に示すように、実施例3では、SiO_(2)の占有率が39.10%となり、同一組成のターゲットに比べて良好な値になった。
この表2に示す値が小さいほど、同じ体積内により多くのSiO_(2)を投入することができることを示している。
ターゲットのSiO_(2)の占有率を上げる程、パーティクルが出やすくなるので、密度の高い石英は、パーティクルの面で有利になる。換言すると、同じ物質量において、SiO_(2)の占有率が小さい方が、SiO_(2)そのものの密度は高いと言える。この点は、下記比較例5との対比からも明らかである。
【0064】
(比較例1)
比較例1では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉、平均粒径5μmのCr粉、平均粒径1μmの結晶質SiO_(2)粉(クリストバライト粉)を用意した。これらの粉末をターゲット組成が80.4Co-12Cr-7.6SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末81.42wt%、Cr粉末10.72wt%、SiO_(2)粉末7.84wt%の重量比率で秤量した。
【0065】
そして、これらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。
次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1160°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。
さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットへ加工した。このターゲットの組織写真を図2に示す。この図2では、粒成長したSiO_(2)が多く見られる。
【0066】
石英の(011)面のピーク強度は、実施例1と同様に、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。すなわち2θ:26.64°に出現するピーク強度及びバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した
この結果、2θ:26.64°に出現するピーク強度は11となり、バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)は1.27となった。
これらは、実施例1に比べていずれも小さくなった。この結果を、表1に示す。なお、測定装置、測定条件は実施例1と同様とした。
【0067】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果、定常状態時のパーティクル発生数は31個と増加した。また、スパッタリングのバーンインライフは3.1kWhであり、バーンインの時間が長くなった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が小さくなると、スパッタリングのバーンインの時間が長くなり、またスパッタ時のパーティクル発生数が増加する結果となった。この結果を表1に示す。
【0068】
ターゲットに占めるSiO_(2)の占有率を表2に示す。これは、ターゲットを作製したときの、組織写真から算出したSiO_(2)の占有率である。この表2に示すように、25.61%となった。これは、実施例に比べて大きな値となった。
この表2に示す値が大きいと、同じ体積内により多くのSiO_(2)を投入することができない。ターゲットのSiO_(2)の占有率を上げる程、パーティクルが出やすくなるので、密度の高い石英は、パーティクルの面で有利になるが、本比較例では逆の結果とであり、同じ物質量において、SiO_(2)の占有率が大きいので、その分SiO_(2)密度は低下する結果となった。
【0069】
(比較例2)
比較例1では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉、平均粒径5μmのCr粉、平均粒径1μmのSiO_(2)粉(アモルファスSiO_(2)粉)を用意した。これらの粉末をターゲット組成が80.4Co-12Cr-7.6SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末81.42wt%、Cr粉末10.72wt%、SiO_(2)粉末7.84wt%の重量比率で秤量した。
【0070】
そして、これらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。
次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1160°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。
さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットへ加工した。なお、上記製造工程において、アモルファスSiO_(2)を製造工程でクリストバライト化した。このターゲットの組織写真を、図3に示す。この図3では、粒成長したSiO_(2)が若干見られる。
【0071】
石英の(011)面のピーク強度は、実施例1と同様に、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。すなわち2θ:26.64°に出現するピーク強度及びバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した
この結果、2θ:26.64°に出現するピーク強度は11となり、バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)は1.23となった。
これらは、実施例1に比べていずれも小さくなった。この結果を、表1に示す。なお、測定装置、測定条件は実施例1と同様とした。
【0072】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果、定常状態時のパーティクル発生数は20個と増加した。また、スパッタリングのバーンインライフは1.76kWhであり、バーンインの時間が長くなった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が小さくなると、スパッタリングのバーンインの時間が長くなり、またスパッタ時のパーティクル発生数が増加する結果となった。この結果を表1に示す。
【0073】
ターゲットに占めるSiO_(2)の占有率を表2に示す。これは、ターゲットを作製したときの、組織写真から算出したSiO_(2)の占有率である。この表2に示すように、28.21%となった。これは、実施例に比べて大きな値となった。
この表2において、同組成同士を比較したときに示す値が小さいほど、同じ体積内により多くのSiO_(2)を投入することができない。ターゲットのSiO_(2)の占有率を上げる程、パーティクルが出やすくなるので、密度の高い石英は、パーティクルの面で有利になるのであるが、本比較例2では逆の結果となり、同じ物質量において、SiO_(2)の占有率が大きいので、その分SiO_(2)密度は低下する結果となった。
【0074】
(比較例3)
比較例3では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉、平均粒径5μmのCr粉、平均粒径1μmのSiO_(2)粉(アモルファスSiO_(2)粉)を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が80.4Co-12Cr-7.6SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末81.42wt%、Cr粉末10.72wt%、SiO_(2)粉末7.84wt%の重量比率で秤量した。
【0075】
そして、これらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。
次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1100°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。
さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットへ加工した。このターゲットの組織では、粒成長したSiO_(2)が若干見られる。
【0076】
石英の(011)面のピーク強度は、実施例1と同様に、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。すなわち2θ:26.64°に出現するピーク強度及びバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した
この結果、2θ:26.64°に出現するピーク強度は11となり、バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)は1.24となった。
これらは、実施例1に比べていずれも小さくなった。この結果を、表1に示す。なお、測定装置、測定条件は実施例1と同様とした。
【0077】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果、定常状態時のパーティクル発生数は2.9個と増加した。また、スパッタリングのバーンインライフは0.48kWhであり、バーンインの時間が長くなった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が小さくなると、スパッタリングのバーンインの時間が長くなり、またスパッタ時のパーティクル発生数が増加する結果となった。この結果を表1に示す。
【0078】
(比較例4)
比較例4では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉、平均粒径5μmのCr粉、平均粒径1μmのPt粉末、平均粒径1μmのSiO_(2)粉(アモルファスSiO_(2)粉)を用意した。これらの粉末をターゲット組成が67Co-12Cr-15Pt-6SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末50.24wt%、Cr粉末7.94wt%、Pt粉末37.23wt%、SiO_(2)粉末4.59wt%の重量比率で秤量した。
【0079】
そして、これらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。
次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1160°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。
さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットへ加工した。なお、上記製造工程において、アモルファスSiO_(2)を製造工程でクリストバライト化した。このターゲットの組織では、粒成長したSiO_(2)が若干見られる。
【0080】
石英の(011)面のピーク強度は、実施例1と同様に、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。すなわち2θ:26.64°に出現するピーク強度及びバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した。
この結果、2θ:26.64°に出現するピーク強度は10となり、バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)は1.23となった。これらは、実施例2に比べていずれも小さくなった。この結果を、表1に示す。なお、測定装置、測定条件は実施例1と同様とした。
【0081】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果、定常状態時のパーティクル発生数は23個と増加した。また、スパッタリングのバーンインライフは1.54kWhであり、バーンインの時間が長くなった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が小さくなると、スパッタリングのバーンインの時間が長くなり、またスパッタ時のパーティクル発生数が増加する結果となった。この結果を表1に示す。
【0082】
(比較例5)
比較例5では、原料粉末として、平均粒径5μmのFe粉、平均粒径1μmのPt粉、平均粒径1μmのSiO_(2)粉(アモルファスSiO_(2)粉)を用意した。これらの粉末をターゲット組成が41Fe-41Pt-18SiO_(2)(mol%)となるように、Fe粉末20.14wt%、Pt粉末70.35wt%、SiO_(2)粉末9.51wt%の重量比率で秤量した。
【0083】
そして、これらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。
次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1200°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。
さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットへ加工した。なお、上記製造工程において、アモルファスSiO_(2)を製造する工程でクリストバライト化した。このターゲットの組織では、粒成長したSiO_(2)が若干見られる。
【0084】
石英の(011)面のピーク強度は、実施例1と同様に、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。すなわち2θ:26.64°に出現するピーク強度及びバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した
この結果、2θ:26.64°に出現するピーク強度は12となり、バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)は1.28となった。
これらは、実施例3に比べていずれも小さくなった。この結果を、表1に示す。なお、測定装置、測定条件は実施例1と同様とした。
【0085】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果、定常状態時のパーティクル発生数は25個と増加した。また、スパッタリングのバーンインライフは2.14kWhであり、バーンインの時間が長くなった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が小さくなると、スパッタリングのバーンインの時間が長くなり、またスパッタ時のパーティクル発生数が増加する結果となった。この結果を表1に示す。
【0086】
(実施例4)
実施例4では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径1μmのPt粉末、平均粒径1μmの石英粉末(SiO_(2)粉末)を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が80Co-12Pt-8SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末62.56wt%、Pt粉末31.06wt%、SiO_(2)粉末6.38wt%の重量比率で秤量した。
【0087】
この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1160°C、保持時間120分、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0088】
石英のピーク強度は、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。この結果を表1に示す。
2θ:26.64°に出現するピーク強度は413となり、またバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した。バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英のピーク強度/バックグラウンド強度)は、11.21となった。なお、測定装置としてリガク社製UltimaIVを用い、測定条件は管電圧40kv、管電流30mA、スキャンスピード4°/min、ステップ0.02°とした。
【0089】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果を表1に示す。定常状態時のパーティクル発生数は1.1個であった。なお、定常状態のパーティクル数を測定するに際して、成膜厚さはHDD製品膜厚の20倍程度にしてパーティクルが見やすいようにした。
また、スパッタリングのバーンインライフは0.31kWhであった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が高い場合には、バーンインが短縮化され、パーティクル発生数は少ない結果となった。
【0090】
(比較例6)
比較例6では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径1μmのPt粉末、平均粒径1μmのSiO_(2)粉末(アモルファスSiO_(2)粉末)を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が80Co-12Pt-8SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末62.56wt%、Pt粉末31.06wt%、SiO_(2)粉末6.38wt%の重量比率で秤量した。
【0091】
そして、これらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。
次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1160°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。
さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットへ加工した。なお、上記製造工程において、アモルファスSiO_(2)を製造工程でクリストバライト化した。このターゲットの組織写真では、粒成長したSiO_(2)が若干見られる。
【0092】
石英の(011)面のピーク強度は、実施例1と同様に、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。すなわち2θ:26.64°に出現するピーク強度及びバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した
この結果、2θ:26.64°に出現するピーク強度は11となり、バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)は1.24となった。
これらは、実施例4に比べていずれも小さくなった。この結果を、表1に示す。なお、測定装置、測定条件は実施例1と同様とした。
【0093】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果、定常状態時のパーティクル発生数は24個と増加した。また、スパッタリングのバーンインライフは1.37kWhであり、バーンインの時間が長くなった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が小さくなると、スパッタリングのバーンインの時間が長くなり、またスパッタ時のパーティクル発生数が増加する結果となった。この結果を表1に示す。
【0094】
(実施例5)
実施例5では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径1μmのPt粉末、平均粒径1μmのTiO_(2)粉末、平均粒径1μmの石英粉末(SiO_(2)粉末)、平均粒径1μmのCr_(2)O_(3)粉末を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が69Co-10Cr-12Pt?3TiO_(2)?3SiO_(2)?3Cr_(2)O_(3)(mol%)となるように、Co粉末52.11wt%、Cr粉末6.66wt%、Pt粉末30.00wt%、TiO_(2)粉末3.07wt%、SiO_(2)粉末2.31wt%、Cr_(2)O_(3)粉末5.84wt%の重量比率で秤量した。
【0095】
この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1160°C、保持時間120分、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0096】
石英のピーク強度は、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。この結果を表1に示す。
2θ:26.64°に出現するピーク強度は152となり、またバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した。バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英のピーク強度/バックグラウンド強度)は、4.13となった。なお、測定装置としてリガク社製UltimaIVを用い、測定条件は管電圧40kv、管電流30mA、スキャンスピード4°/min、ステップ0.02°とした。
【0097】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果を表1に示す。定常状態時のパーティクル発生数は1.2個であった。なお、定常状態のパーティクル数を測定するに際して、成膜厚さはHDD製品膜厚の20倍程度にしてパーティクルが見やすいようにした。
また、スパッタリングのバーンインライフは0.31kWhであった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が高い場合には、バーンインが短縮化され、パーティクル発生数は少ない結果となった。
【0098】
(比較例7)
比較例7では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径1μmのPt粉末、平均粒径1μmのTiO_(2)粉末、平均粒径1μmのSiO_(2)粉末(アモルファスSiO_(2)粉末)、平均粒径1μmのCr_(2)O_(3)粉末を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が69Co-10Cr-12Pt?3TiO_(2)?3SiO_(2)?3Cr_(2)O_(3)(mol%)となるように、Co粉末52.11wt%、Cr粉末6.66wt%、Pt粉末30.00wt%、TiO_(2)粉末3.07wt%、SiO_(2)粉末2.31wt%、Cr_(2)O_(3)粉末5.84wt%の重量比率で秤量した。
【0099】
そして、これらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。
次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1160°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。
さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットへ加工した。なお、上記製造工程において、アモルファスSiO_(2)を製造工程でクリストバライト化した。このターゲットの組織には、粒成長したSiO_(2)が若干見られる。
【0100】
石英の(011)面のピーク強度は、実施例1と同様に、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。すなわち2θ:26.64°に出現するピーク強度及びバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した
この結果、2θ:26.64°に出現するピーク強度は11となり、バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)は1.23となった。
これらは、実施例5に比べていずれも小さくなった。この結果を、表1に示す。なお、測定装置、測定条件は実施例1と同様とした。
【0101】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果、定常状態時のパーティクル発生数は18個と増加した。また、スパッタリングのバーンインライフは1.38kWhであり、バーンインの時間が長くなった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が小さくなると、スパッタリングのバーンインの時間が長くなり、またスパッタ時のパーティクル発生数が増加する結果となった。この結果を表1に示す。
【0102】
(実施例6)
実施例6では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径8μmのRu粉末、平均粒径1μmのPt粉末、平均粒径1μmのTiO_(2)粉末、平均粒径1μmの石英粉末(SiO_(2)粉末)、平均粒径1μmのCr_(2)O_(3)粉末を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が69Co-5Cr-15Pt-2Ru?3TiO_(2)?3SiO_(2)?3Cr_(2)O_(3)(mol%)となるように、Co粉末48.81wt%、Cr粉末3.12wt%、Pt粉末35.13wt%、Ru粉末2.43wt%、TiO_(2)粉末2.88wt%、SiO_(2)粉末2.16wt%、Cr_(2)O_(3)粉末5.47wt%の重量比率で秤量した。
【0103】
この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1160°C、保持時間120分、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。このターゲットの組織写真を図1に示す。
【0104】
石英のピーク強度は、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。この結果を表1に示す。
2θ:26.64°に出現するピーク強度は148となり、またバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した。バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英のピーク強度/バックグラウンド強度)は、4.05となった。なお、測定装置としてリガク社製UltimaIVを用い、測定条件は管電圧40kv、管電流30mA、スキャンスピード4°/min、ステップ0.02°とした。
【0105】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果を表1に示す。定常状態時のパーティクル発生数は1.3個であった。なお、定常状態のパーティクル数を測定するに際して、成膜厚さはHDD製品膜厚の20倍程度にしてパーティクルが見やすいようにした。
また、スパッタリングのバーンインライフは0.33kWhであった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が高い場合には、バーンインが短縮化され、パーティクル発生数は少ない結果となった。
【0106】
(比較例8)
比較例8では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径8μmのRu粉末、平均粒径1μmのPt粉末、平均粒径1μmのTiO_(2)粉末、平均粒径1μmのSiO_(2)粉末(アモルファスSiO_(2)粉)、平均粒径1μmのCr_(2)O_(3)粉末を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が69Co-5Cr-15Pt-2Ru?3TiO_(2)?3SiO_(2)?3Cr_(2)O_(3)(mol%)となるように、Co粉末48.81wt%、Cr粉末3.12wt%、Pt粉末35.13wt%、Ru粉末2.43wt%、TiO_(2)粉末2.88wt%、SiO_(2)粉末2.16wt%、Cr_(2)O_(3)粉末5.47wt%の重量比率で秤量した。
【0107】
そして、これらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。
次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1160°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。
さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットへ加工した。なお、上記製造工程において、アモルファスSiO_(2)を製造工程でクリストバライト化した。このターゲットの組織には、粒成長したSiO_(2)が若干見られる。
【0108】
石英の(011)面のピーク強度は、実施例1と同様に、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。すなわち2θ:26.64°に出現するピーク強度及びバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した
この結果、2θ:26.64°に出現するピーク強度は12となり、バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)は1.29となった。
これらは、実施例6に比べていずれも小さくなった。この結果を、表1に示す。なお、測定装置、測定条件は実施例1と同様とした。
【0109】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果、定常状態時のパーティクル発生数は19個と増加した。また、スパッタリングのバーンインライフは1.45kWhであり、バーンインの時間が長くなった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が小さくなると、スパッタリングのバーンインの時間が長くなり、またスパッタ時のパーティクル発生数が増加する結果となった。この結果を表1に示す。
【0110】
(実施例7)
実施例7では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径1μmのPt粉末、平均粒径3μmのB粉末、平均粒径1μmの石英粉末(SiO_(2)粉末)を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が62Co-18Cr-10Pt-3B-7SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末52.24wt%、Cr粉末13.38wt%、Pt粉末27.89wt%、B粉末0.46wt%、SiO_(2)粉末6.01wt%の重量比率で秤量した。
【0111】
この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度900°C、保持時間120分、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0112】
石英のピーク強度は、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。この結果を表1に示す。
2θ:26.64°に出現するピーク強度は377となり、またバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した。バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英のピーク強度/バックグラウンド強度)は、10.24となった。なお、測定装置としてリガク社製UltimaIVを用い、測定条件は管電圧40kv、管電流30mA、スキャンスピード4°/min、ステップ0.02°とした。
【0113】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果を1に示す。定常状態時のパーティクル発生数は1.2個であった。なお、定常状態のパーティクル数を測定するに際して、成膜厚さはHDD製品膜厚の20倍程度にしてパーティクルが見やすいようにした。
また、スパッタリングのバーンインライフは0.26kWhであった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が高い場合には、バーンインが短縮化され、パーティクル発生数は少ない結果となった。
【0114】
(比較例9)
比較例9では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径1μmのPt粉末、平均粒径3μmのB粉末、平均粒径1μmのSiO_(2)粉末(アモルファスSiO_(2)粉)を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が62Co-18Cr-10Pt-3B-7SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末52.24wt%、Cr粉末13.38wt%、Pt粉末27.89wt%、B粉末0.46wt%、SiO_(2)粉末6.01wt%の重量比率で秤量した。
【0115】
そして、これらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。
次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度900°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。
さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットへ加工した。このターゲットの組織写真には、粒成長したSiO_(2)が若干見られる。
【0116】
石英の(011)面のピーク強度は、実施例1と同様に、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。すなわち2θ:26.64°に出現するピーク強度及びバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した
この結果、2θ:26.64°に出現するピーク強度は12となり、バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)は1.28となった。
これらは、実施例7に比べていずれも小さくなった。この結果を、表1に示す。なお、測定装置、測定条件は実施例1と同様とした。
【0117】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果、定常状態時のパーティクル発生数は3.1個と増加した。また、スパッタリングのバーンインライフは0.47kWhであり、バーンインの時間が長くなった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が小さくなると、スパッタリングのバーンインの時間が長くなり、またスパッタ時のパーティクル発生数が増加する結果となった。この結果を表1に示す。
【0118】
(実施例8)
実施例8では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径1μmのPt粉末、平均粒径1μmの石英粉末(SiO_(2)粉末)を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が72Co-12Cr-15Pt-SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末54.03wt%、Cr粉末7.94wt%、Pt粉末37.26wt%、SiO_(2)粉末0.77wt%の重量比率で秤量した。
【0119】
この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1160°C、保持時間120分、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0120】
石英のピーク強度は、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。この結果を表1に示す。
2θ:26.64°に出現するピーク強度は53となり、またバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した。
バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英のピーク強度/バックグラウンド強度)は、1.44となった。なお、測定装置としてリガク社製UltimaIVを用い、測定条件は管電圧40kv、管電流30mA、スキャンスピード4°/min、ステップ0.02°とした。
【0121】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果を1に示す。定常状態時のパーティクル発生数は1.1個であった。なお、定常状態のパーティクル数を測定するに際して、成膜厚さはHDD製品膜厚の20倍程度にしてパーティクルが見やすいようにした。
また、スパッタリングのバーンインライフは0.31kWhであった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が高い場合には、バーンインが短縮化され、パーティクル発生数は少ない結果となった。
【0122】
(比較例10)
比較例10では、原料粉末として、平均粒径3μmのCo粉末、平均粒径5μmのCr粉末、平均粒径1μmのPt粉末、平均粒径1μmのSiO_(2)粉末(アモルファスSiO_(2)粉)を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が72Co-12Cr-15Pt-SiO_(2)(mol%)となるように、Co粉末54.03wt%、Cr粉末7.94wt%、Pt粉末37.26wt%、SiO_(2)粉末0.77wt%の重量比率で秤量した。
【0123】
そして、これらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。
次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1160°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。
さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットへ加工した。なお、上記製造工程において、アモルファスSiO_(2)を製造工程でクリストバライト化した。このターゲットの組織写真には、粒成長したSiO_(2)が若干見られる。
【0124】
石英の(011)面のピーク強度は、実施例1と同様に、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。すなわち2θ:26.64°に出現するピーク強度及びバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した
この結果、2θ:26.64°に出現するピーク強度は10となり、バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)は1.22となった。
これらは、実施例8に比べていずれも小さくなった。この結果を、表1に示す。なお、測定装置、測定条件は実施例1と同様とした。
【0125】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果、定常状態時のパーティクル発生数は10.2個と増加した。また、スパッタリングのバーンインライフは1.02kWhであり、バーンインの時間が長くなった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が小さくなると、スパッタリングのバーンインの時間が長くなり、またスパッタ時のパーティクル発生数が増加する結果となった。この結果を表1に示す。
【0126】
(実施例9)
実施例9では、原料粉末として、平均粒径5μmのFe粉、平均粒径1μmのPt粉、平均粒径1μmのSiO_(2)粉(アモルファスSiO2粉)、平均粒径0.05μmのC粉を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が43Fe-43Pt-9SiO_(2)-5C(mol%)となるように、Fe粉末21.51wt%、Pt粉末73.64wt%、SiO_(2)粉末4.75wt%、C粉末0.53wt%の重量比率で秤量した。
【0127】
この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1200°C、保持時間120分、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。さらにこれを旋盤で切削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットを得た。
【0128】
石英のピーク強度は、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。この結果を表1に示す。2θ:26.64°に出現するピーク強度は358となり、またバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した。
バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英のピーク強度/バックグラウンド強度)は、8.76となった。なお、測定装置としてリガク社製UltimaIVを用い、測定条件は管電圧40kv、管電流30mA、スキャンスピード4°/min、ステップ0.02°とした。
【0129】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果を表1に示す。定常状態時のパーティクル発生数は9.8個であった。なお、定常状態のパーティクル数を測定するに際して、成膜厚さはHDD製品膜厚の20倍程度にしてパーティクルが見やすいようにした。
また、スパッタリングのバーンインライフは0.43kWhであった。このように、石英の(011)面のピーク強度比が高い場合には、バーンインが短縮化され、パーティクル発生数は少ない結果となった。
【0130】
(比較例11)
比較例11では、原料粉末として、平均粒径5μmのFe粉、平均粒径1μmのPt粉、平均粒径1μmのSiO_(2)粉(アモルファスSiO_(2)粉)平均粒径0.05μmのC粉を用意した。これらの粉末をターゲットの組成が43Fe-43Pt-9SiO_(2)-5C(mol%)となるように、Fe粉末21.51wt%、Pt粉末73.64wt%、SiO_(2)粉末4.75wt%、C粉末0.53wt%の重量比率で秤量した。
【0131】
そして、これらの粉末を、粉砕媒体のジルコニアボールと共に容量10リットルのボールミルポットに封入し、20時間回転させて混合した。
次に、この混合粉をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気中、温度1200°C、保持時間2時間、加圧力30MPaの条件のもとホットプレスして、焼結体を得た。
さらにこれを旋盤で直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のターゲットへ加工した。なお、上記製造工程において、アモルファスSiO_(2)を製造する工程でクリストバライト化した。このターゲットの組織では、粒成長したSiO_(2)が若干見られる。
【0132】
石英の(011)面のピーク強度は、実施例1と同様に、ターゲットの一部を切出し、X線回折法により、測定した。すなわち2θ:26.64°に出現するピーク強度及びバックグラウンド強度(((25.1?26.1°の強度の平均値)+(27.1?28.1°の強度の平均値))÷2)を測定した
【0133】
この結果、2θ:26.64°に出現するピーク強度は11となり、バックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)は1.23となった。これらは、実施例9に比べていずれも小さくなった。この結果を、表1に示す。なお、測定装置、測定条件は実施例1と同様とした。
【0134】
このターゲットを用いてスパッタリングした結果、定常状態時のパーティクル発生数は31個と増加した。また、スパッタリングのバーンインライフは2.06kWhであり、バーンインの時間が長くなった。
このように、石英の(011)面のピーク強度比が小さくなると、スパッタリングのバーンインの時間が長くなり、またスパッタ時のパーティクル発生数が増加する結果となった。この結果を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の磁気記録膜用スパッタリングターゲットターゲットは、ターゲットのマイクロクラックの発生を抑制すると共に、スパッタリング中のパーティクル発生を抑制し、かつバーンイン時間の短縮化が可能であるという優れた効果を有する。このようにパーティクル発生が少ないので、磁気記録膜の不良率が減少し、コスト低減化になるという大きな効果を有する。また、前記バーンイン時間の短縮化は、生産効率の向上に大きく貢献するものである。
【0136】
さらに、石英の密度は、アモルファスSiO_(2)やクリストバライトよりも高いことから、石英を使用することによって、単位体積当たりのSiO_(2)の物質量を多くすることが可能となり、すなわちターゲット中の酸化物(石英)の物質量を上げることによって、成膜後の単磁区粒子を磁気的に細かく分離することができ、記録密度を向上させることができるという大きな効果を得ることができる。
これにより、磁気記録媒体の磁性体薄膜、特にハードディスクドライブ記録層の成膜に使用される強磁性材スパッタリングターゲットとして有用である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO_(2)を含有し、クリストバライトが形成される条件で焼結される磁気記録膜用スパッタリングターゲットであって、X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上であることを特徴とする磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
Crが20mol%以下(0mol%を除く)、SiO_(2)が1mol%以上20mol%以下、残余がCoであることを特徴とする請求項1記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
Crが20mol%以下(0mol%を除く)、Ptが1mol%以上30mol%以下、SiO_(2)が1mol%以上20mol%以下、残余がCoであることを特徴とする請求項1記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項4】
SiO_(2)を含有する磁気記録膜用スパッタリングターゲットであって、Ptが5mol%以上60mol%以下、SiO_(2)が20mol%以下、残余がFeであり、X線回折におけるバックグラウンド強度に対する石英の(011)面のピーク強度比(石英ピーク強度/バックグラウンド強度)が、1.40以上であることを特徴とする磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項5】
Ptが5mol%以上60mol%以下、SiO_(2)が20mol%以下、残余がCoである請求項1記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項6】
添加元素として、B、Ti、V、Mn、Zr、Nb、Ru、Mo、Ta、Wから選択した1元素以上を、0.5mol%以上10mol%以下含有することを特徴とする請求項4に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項7】
添加材料として、炭素、SiO_(2)を除く酸化物、窒化物、炭化物から選択した1成分以上の無機物材料を含有することを特徴とする請求項4に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲット。
【請求項8】
SiO_(2)の粉末原料として石英を使用し、この石英の粉末原料と磁性金属粉末原料とを混合し、焼結温度を1300°C以下で焼結することを特徴とする請求項4に記載の磁気記録膜用スパッタリングターゲットの製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-01-22 
結審通知日 2016-01-27 
審決日 2016-02-09 
出願番号 特願2012-505933(P2012-505933)
審決分類 P 1 123・ 536- ZDB (G11B)
P 1 123・ 841- ZDB (G11B)
P 1 123・ 113- ZDB (G11B)
P 1 123・ 121- ZDB (G11B)
P 1 123・ 537- ZDB (G11B)
P 1 123・ 851- ZDB (G11B)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 中野 和彦  
特許庁審判長 水野 恵雄
特許庁審判官 井上 信一
関谷 隆一
登録日 2012-06-08 
登録番号 特許第5009447号(P5009447)
発明の名称 磁気記録膜用スパッタリングターゲット及びその製造方法  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 望月 尚子  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 大平 茂  
代理人 磯田 直也  
復代理人 森下 梓  
代理人 望月 尚子  
代理人 鈴木 修  
代理人 大西 千尋  
代理人 松山 美奈子  

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