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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  F16H
審判 全部無効 2項進歩性  F16H
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16H
管理番号 1314622
審判番号 無効2014-800169  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-10-17 
確定日 2016-04-04 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3827926号発明「エンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路及び油圧制御装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3827926号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし4について、訂正することを認める。 特許第3827926号の請求項1ないし4に係る発明についての審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3827926号に係る出願(以下、「本件出願」という。)は、平成12年7月19日(優先権主張平成11年7月29日)の出願であって、平成18年7月14日にその発明について特許権の設定登録(請求項の数4)がなされたものである。

以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
1.平成26年10月17日 本件無効審判の請求
2.平成27年1月16日 審判事件答弁書
3.平成27年3月31日 審理事項通知書
4.平成27年5月25日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
5.平成27年5月26日 口頭審理陳述要領書(請求人)
6.平成27年6月16日 口頭審理
7.平成27年7月23日 審決の予告
8.平成27年9月28日 訂正請求
9.平成27年9月28日 上申書(被請求人)
10.平成27年11月13日 弁駁書

第2 平成27年9月28日付け訂正請求について
平成27年9月28日付け訂正請求(以下、「本件訂正」という。)によれば、訂正請求の趣旨及び内容は、それぞれ以下のとおりである。
1.本件訂正の趣旨
特許第3827926号の明細書及び特許請求の範囲を、本件請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、請求項1ないし4からなる一群の請求項について訂正することを求める。

2.本件訂正の内容
本件訂正における訂正事項は、以下のとおりである。なお、下線は、訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「エンジンによって駆動され自動変速機に作動油を供給する機械式オイルポンプとその油圧回路を備えているエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路であって、前記油圧回路に機械式オイルポンプの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路を設け、このバイパス通路に機械式オイルポンプと並列に電動式オイルポンプを接続し、上記バイパス通路の電動式オイルポンプ下流側に、機械式オイルポンプから電動式オイルポンプへの作動油の逆流を防止する逆止弁を設け、前記逆止弁と前記電動式オイルポンプとの間に電動式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第一の圧力調整手段を設け、上記機械式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段を備え、上記第一の圧力調整手段の設定圧を前記第二の圧力調整手段の設定圧よりも低くしたことを特徴とするエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路。」とあるのを、「エンジンによって駆動され自動変速機に作動油を供給する機械式オイルポンプとその油圧回路を備えているエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路であって、前記油圧回路に機械式オイルポンプの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路を設け、このバイパス通路に機械式オイルポンプと並列に電動式オイルポンプを接続し、上記バイパス通路の電動式オイルポンプ下流側に、機械式オイルポンプから電動式オイルポンプへの作動油の逆流を防止する逆止弁を設け、前記逆止弁と前記電動式オイルポンプとの間に電動式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第一の圧力調整手段を設け、上記機械式オイルポンプの前記下流側に、吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段を備え、上記第一の圧力調整手段の設定圧を前記第二の圧力調整手段の設定圧よりも低くし、前記電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生した油圧が前記第二の圧力調整手段から排出されるのを防止することを特徴とするエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路。」と訂正する。

(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0004】の【課題を解決するための手段】に「上記課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、エンジン(例えば、実施形態におけるエンジン1)によって駆動され自動変速機に作動油を供給する機械式オイルポンプ(例えば、実施形態における機械式オイルポンプ2)とその油圧回路(例えば、実施形態における油圧回路C1)を備えているエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路であって、前記油圧回路に機械式オイルポンプの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路(例えば、実施形態におけるバイパス通路7)を設け、このバイパス通路に機械式オイルポンプと並列に電動式オイルポンプ(例えば、実施形態における電動式オイルポンプ8)を接続し、上記バイパス通路の電動式オイルポンプ下流側に、機械式オイルポンプから電動式オイルポンプへの作動油の逆流を防止する逆止弁(例えば、実施形態における逆止弁12)を設け、前記逆止弁と前記電動式オイルポンプとの間に電動式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第一の圧力調整手段(例えば、実施形態におけるリリーフ弁B)を設け、上記機械式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段(例えば、実施形態におけるリリーフ弁A)を備え、上記第一の圧力調整手段の設定圧(例えば、実施形態における圧力VB)を前記第二の圧力調整手段の設定圧(例えば、実施形態における圧力VA)よりも低くしたことを特徴とする。
このように構成することで、エンジン停止中に電動式オイルポンプを作動させ、自動変速機の油路に作動油を充填しておくことが可能となる。また、機械式オイルポンプが作動している際に電動式オイルポンプ側の油圧回路への作動油の逆流を防止できると共に、第一の圧力調整手段により電動式オイルポンプ側の油圧回路を保護することが可能となる。
そして、電動式オイルポンプ側の油圧回路(例えば、実施形態における油圧回路C2)で発生した油圧が機械式オイルポンプ側の油圧回路の第二の圧力調整手段から排出されるのを防止する。」とあるのを、「上記課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、エンジン(例えば、実施形態におけるエンジン1)によって駆動され自動変速機に作動油を供給する機械式オイルポンプ(例えば、実施形態における機械式オイルポンプ2)とその油圧回路(例えば、実施形態における油圧回路C1)を備えているエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路であって、前記油圧回路に機械式オイルポンプの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路(例えば、実施形態におけるバイパス通路7)を設け、このバイパス通路に機械式オイルポンプと並列に電動式オイルポンプ(例えば、実施形態における電動式オイルポンプ8)を接続し、上記バイパス通路の電動式オイルポンプ下流側に、機械式オイルポンプから電動式オイルポンプへの作動油の逆流を防止する逆止弁(例えば、実施形態における逆止弁12)を設け、前記逆止弁と前記電動式オイルポンプとの間に電動式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第一の圧力調整手段(例えば、実施形態におけるリリーフ弁B)を設け、上記機械式オイルポンプの前記下流側に、吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段(例えば、実施形態におけるリリーフ弁A)を備え、上記第一の圧力調整手段の設定圧(例えば、実施形態における圧力VB)を前記第二の圧力調整手段の設定圧(例えば、実施形態における圧力VA)よりも低くし前記電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生した油圧が前記第二の圧力調整手段から排出されるのを防止することを特徴とする。
このように構成することで、エンジン停止中に電動式オイルポンプを作動させ、自動変速機の油路に作動油を充填しておくことが可能となる。また、機械式オイルポンプが作動している際に電動式オイルポンプ側の油圧回路への作動油の逆流を防止できると共に、第一の圧力調整手段により電動式オイルポンプ側の油圧回路を保護することが可能となる。
そして、電動式オイルポンプ側の油圧回路(例えば、実施形態における油圧回路C2)で発生した油圧が機械式オイルポンプ側の油圧回路の第二の圧力調整手段から排出されるのを防止する。」と訂正する。

3.訂正請求の適否
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1では、「上記機械式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段を備え、上記第一の圧力調整手段の設定圧を前記第二の圧力調整手段の設定圧よりも低くし」とされていて、第二の圧力調整手段の設置場所が特定されておらず、また、第一の圧力調整手段の設定圧を第二の圧力調整手段の設定圧よりも低くすることにより行われる事項が何であるかが特定されていないのに対し、訂正後の請求項1では、「上記機械式オイルポンプの前記下流側に、吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段を備え、上記第一の圧力調整手段の設定圧を前記第二の圧力調整手段の設定圧よりも低くし、前記電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生した油圧が前記第二の圧力調整手段から排出されるのを防止する」とすることにより、第二の圧力調整手段の設置場所を機械式オイルポンプの「前記下流側に」と限定し、また、第一の圧力調整手段の設定圧を第二の圧力調整手段の設定圧よりも低くすることにより行われることを「前記電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生し油圧が前記第二の圧力調整手段から排出されるのを防止する」ことと限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、上記限定事項は、願書に添付した明細書の段落【0004】及び【図1】に記載されているから、訂正事項1は、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
さらに、訂正事項1は、発明特定事項を直列的に付加するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

この点に関して請求人は、平成27年11月13日付けの弁駁書(以下、「弁駁書」という。)において、訂正事項1における「上記機械式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段を備え、」を「上記機械式オイルポンプの前記下流側に、吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段を備え、」とする訂正(請求人のいう「訂正事項a」。)について、「『機械式オイルポンプの』は『前記下流側』を修飾するものとなりましたので、『機械式オイルポンプの』は『吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段』を修飾しないものとなりました。すなわち、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は、『第二の調整手段』が『機械式オイルポンプの吐出側圧力を調整する』ものに限定されていたのに対し、訂正後の請求項1に係る発明は、『第二の調整手段』が機械式オイルポンプ以外のオイルポンプの吐出側圧力を調整するものをも含むものとなったのです。したがって、訂正事項aに係る訂正は特許請求の範囲を拡張するもの」(弁駁書第3ページ第5ないし12行)である旨主張している。
しかしながら、第二の圧力調整手段の設置場所が、機械式のオイルポンプの前記下流側であることから、第二の圧力調整手段が機械式のオイルポンプの下流側の吐出側圧力を調整することは明らかである。また、訂正前の請求項1に「上記機械式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段」と記載されていることからみて、第二の圧力調整手段が機械式オイルポンプ以外のオイルポンプの吐出側圧力を調整することを積極的に排除するものでもない。
そうすると、上記訂正事項1における訂正事項aは、第二の圧力調整手段の設置場所を機械式オイルポンプの「前記下流側に」と限定することによって、機械式のオイルポンプの下流側の吐出側圧力を調整することとなるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるから請求人の主張は採用できない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るための訂正である。
よって、訂正事項2は、上記訂正事項1に伴い不明瞭となった記載の釈明を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でもない。

4.訂正請求に対する結論
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び6項に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。

第3 本件特許発明
本件訂正により訂正された請求項1ないし4に係る発明は、次のとおりのものである(以下、請求項の項番に従って、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。)。

「 【請求項1】 エンジンによって駆動され自動変速機に作動油を供給する機械式オイルポンプとその油圧回路を備えているエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路であって、前記油圧回路に機械式オイルポンプの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路を設け、このバイパス通路に機械式オイルポンプと並列に電動式オイルポンプを接続し、上記バイパス通路の電動式オイルポンプ下流側に、機械式オイルポンプから電動式オイルポンプへの作動油の逆流を防止する逆止弁を設け、前記逆止弁と前記電動式オイルポンプとの間に電動式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第一の圧力調整手段を設け、上記機械式オイルポンプの前記下流側に、吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段を備え、上記第一の圧力調整手段の設定圧を前記第二の圧力調整手段の設定圧よりも低くし、前記電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生した油圧が前記第二の圧力調整手段から排出されるのを防止することを特徴とするエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路。
【請求項2】 上記バイパス通路、電動式オイルポンプ、逆止弁、第一の圧力調整手段を一体構造として、自動変速機用油路に付加して構成されることを特徴とする請求項1に記載のエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路。
【請求項3】 エンジンの停止指令を受けて前記電動式オイルポンプを起動させ、エンジン再始動指令を受けて前記電動式オイルポンプを停止させる電動式オイルポンプ制御手段を有し、該電動式オイルポンプ制御手段は、エンジン再始動後所定時間経過後に前記電動式オイルポンプの作動を停止させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路に用いられる油圧制御装置。
【請求項4】 エンジンの停止指令を受けて前記電動式オイルポンプを起動させ、エンジン再始動指令を受けて前記電動式オイルポンプを停止させる電動式オイルポンプ制御手段を有し、該電動式オイルポンプ制御手段は、エンジン再始動時にエンジンの完爆判定を検出して前記電動式オイルポンプの作動を停止させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路に用いられる油圧制御装置。」

第4 請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書において、「特許第3827926号の請求項1ないし請求項4に係る特許は、これを無効とする」との審決を求め、審判請求書、口頭審理陳述要領書、口頭審理、弁駁書を総合すると、請求人が主張する無効理由は、概略、次のとおりのものである。

1.無効理由1(特許法第36条第6項第1号及び第2号)
(1)本件特許の請求項3は、発明の詳細な説明を参酌しても、「所定時間」がどの程度の長さであるか理解することができず、本件特許の請求項3の記載は明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものである。したがって、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(2)本件特許の請求項4に関し、請求項3を引用する請求項4は、エンジンの完爆と、エンジンの再始動後所定時間経過後という2つの停止条件を有することとなるが、2つの停止条件を有するものは発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものである。したがって、その特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

2.無効理由2(特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項)
(1)本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)本件特許発明3は、甲第2号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(4)本件特許発明4は、甲第2号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

3.無効理由3(特許法第29条第2項)
(1)本件特許発明1は、甲第3号証(以下、無効理由4と区別するため「甲第3号証(主引用例)」という。)及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)本件特許発明2は、甲第3号証(主引用例)及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)本件特許発明3は、甲第3号証(主引用例)、甲第2号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(4)本件特許発明4は、甲第3号証(主引用例)、甲第2号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

4.無効理由4(特許法第29条第2項)
(1)本件特許発明1は、甲第2号証(以下、無効理由3と区別するため「甲第2号証(主引用例)」という。)及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)本件特許発明2は、甲第2号証(主引用例)及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)本件特許発明3は、甲第2号証(主引用例)、甲第3号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(4)本件特許発明4は、甲第2号証(主引用例)、甲第3号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

[証拠方法]
甲第1号証:特許第3827926号公報
本件特許の特許掲載公報であって、本件特許発明を立証するためのもの。

甲第2号証:特開平11-93721号公報
本件特許発明1の新規性または進歩性を否定する発明及び本件特許発明2ないし4の進歩性を否定する発明が刊行物に記載されていることを立証するためのもの。

甲第3号証:特開平8-182117号公報
本件特許発明1ないし4の進歩性を否定する発明が刊行物に記載されていることを立証するためのもの。

甲第4号証:横山重吉、六角康久共著「改訂 流体機械」1994年4月25日改訂版第1刷、株式会社コロナ社発行 第279ないし281ページ
リリーフ弁の意義を立証するためもの。

甲第5号証:特開平9-151963号公報
電動式オイルポンプは、エンジンの回転数が十分に高くなると停止できること及びオイルポンプが2つある場合は油だまりが共用されることが知られていたことを立証するためのもの。

甲第6号証:特開平10-324177号公報
本件特許発明3及び4の進歩性を否定する発明が刊行物に記載されていることを立証するためのもの。

甲第7号証:特開平10-196763号公報
自動車の油圧回路には、リリーフ弁が用いられることを立証するためのもの。

甲第8号証:実願昭63-77826号(実開平2-404号)のマイクロフィルム
自動変速機の油圧制御装置に、油圧回路の異常な油圧上昇を防止するためにリリーフ弁が用いられていることを立証するためのもの。

甲第9号証:日本プラントメンテナンス協会編「油・空圧の本(1)『審決注:甲第9号証では○付きの1』」1995年8月10日初版第1刷、社団法人日本プラントメンテナンス協会発行 第76ないし85ページ
リリーフ弁は、油圧回路内の圧力が弁の設定圧力に達すると、弁が開いて圧油の一部または全量を戻り側へ逃がし、油圧回路を一定圧力に保持して異常圧力になることを防止し、装置の保護をするものであることを立証するためのもの。

第5 被請求人の主張の概要
被請求人は、審判事件答弁書において「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書、口頭審理、上申書を総合すると、概略次のとおり主張している。

1.請求人の主張する無効理由1について
(1)本件請求項3に係る発明は、明細書にその技術的意義がわかるように記載されているのものであるから、請求人の主張に理由はない。

(2)本件特許の請求項4は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、請求人の主張に理由はない。

2.請求人の主張する無効理由2について
(1)請求人は、本件特許発明1と甲第2号証との対比を誤っており、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。

(2)請求人は、本件特許発明1と甲第2号証との対比を誤っており、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)甲第6号証には、「エンジン再始動後所定時間経過後に電動式オイルポンプの作動を停止させる」構成は記載も示唆もされていないから、本件特許発明3は、甲第2号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)甲第6号証には、「エンジン再始動後にエンジンの完爆判定を検出して電動式オイルポンプの作動を停止させる」構成は記載も示唆もされていないから、本件特許発明4は、甲第2号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3.請求人の主張する無効理由3について
(1)本件特許発明1は、甲第3号証(主引用例)及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2は、甲第3号証(主引用例)及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明3は、甲第3号証(主引用例)、甲第2号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明4は、甲第3号証(主引用例)、甲第2号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。

4.請求人の主張する無効理由4について
(1)本件特許発明1は、甲第2号証(主引用例)及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)本件特許発明2は、甲第2号証(主引用例)及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件特許発明3は、甲第2号証(主引用例)、甲第3号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件特許発明4は、甲第2号証(主引用例)、甲第3号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、本出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。

[証拠方法]
乙第1号証:特開平6-109115号公報
ライン圧に関する技術常識を立証するためのもの。

乙第2号証:特開平9-217800号公報
ライン圧に関する技術常識を立証するためのもの。

乙第3号証:特開平5-52255号公報
ライン圧に関する技術常識を立証するためのもの。

第6 当審の判断
1.無効理由1(特許法第36条第6項第1号及び第2号)
1-1.本件特許の請求項3は、発明の詳細な説明を参酌しても、「所定時間」がどの程度の長さであるか理解することができず、本件特許の請求項3の記載は明確でないから、特許法第36条第6項第2号の規定に違反するものであることについて
(1)判断
請求項3には、「該電動式オイルポンプ制御手段は、エンジン再始動後所定時間経過後に前記電動式オイルポンプの作動を停止させる」と記載されている。
この「所定時間」について検討すると、明細書の段落【0007】の「請求項3に記載した発明は、エンジンの停止指令を受けて前記電動式オイルポンプを起動させ(例えば、実施形態におけるステップS43)、エンジン再始動指令を受けて前記電動式オイルポンプを停止させる(例えば、実施形態におけるステップS42)電動式オイルポンプ制御手段(例えば、実施形態におけるモータECU11)を有し、該電動式オイルポンプ制御手段は、エンジン再始動後所定時間経過後に前記電動式オイルポンプの作動を停止させることを特徴とする。」との記載、同段落【0013】の「図4はタイムチャート図を示し、・・・中略・・・エンジン停止フラグがセットされると同時に電動式オイルポンプ8が作動し(図3のS14)、油圧がYの部分で発生し、設定油圧が確保される。よって、エンジン停止フラグが「0」になり、エンジン始動指令があり(図2のS1)、徐々にエンジン回転数が立ち上がると(図2のS2,S3)、電動式オイルポンプ付きでは油圧の立ち上がりを効果的に早めることができるのである(図4に矢印で示す)。そして、タイマが終了した時点で(図3のS23)、電動式オイルポンプ8を停止して(図3のS24)、機械式オイルポンプ2により油圧は確保される。」との記載、及び同段落【0019】の「エンジン始動後は電動式オイルポンプ8は不要になるため、所定時間の後に作動停止することにより無駄に電動式オイルポンプ8を作動させることはない。」との記載によれば、「所定時間」とは、エンジンが再始動されて機械式ポンプの設定油圧が確保されるまでの時間であることが一例として発明の詳細な説明に記載されている。したがって、「所定時間」とは、電動式オイルポンプ8の使用が必要なくなるまでの時間であることは明らかであり、「所定」との語句の使用により請求項3の記載が不明確となるとまではいえない。

この点に関して請求人は、「iv.本件特許発明3の構成の『所定時間』が段落【0012】に記載されたタイマーの設定時間のように、機械式オイルポンプが十分な油圧を発生するまでの時間という概念を含むものであることは認めますが、本件特許の明細書には、『所定時間』の用語についてその技術的意義が全く記載されていないのですから、機械式オイルポンプが十分な油圧を発生するまでの時間以外のものをも含む概念と解されるのです。」(口頭審理陳述要領書第4ページ第8ないし13行)旨主張する。
しかしながら、前述のように「所定時間」とは、電動式オイルポンプ8の使用が必要なくなるまでの時間であって、その一例が、エンジンが再始動されて機械式ポンプの設定油圧が確保されるまでの時間であることは、明細書の記載からも明らかであるから、「所定時間」の用語についてその技術的意義が全く記載されていないとはいえず、請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、「しかしながら、唯1つの例があるというだけの理由で、その例を適宜上位概念化したものを認定できるというものではありません。」(弁駁書第12ページ第27行ないし第13ページ第1行)旨主張する。
しかしながら、明細書の段落【0019】に「エンジン始動後は電動式オイルポンプ8は不要になるため、所定時間の後に作動停止する」と記載されているように、「所定時間」の用語が発明の詳細な説明に記載されていることは明らかであり、「所定時間」の用語が、機械式オイルポンプが十分な油圧を発生するまでの時間を適宜上位概念化したものであるとも解されないから、請求人の主張は採用できない。

(2)まとめ
以上のとおり、請求項3の記載が不明確とはいえないから、請求項3の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすものである。
したがって、無効理由1によって、請求項3に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

1-2.本件特許の請求項4に関し、請求項3を引用する請求項4は、エンジンの完爆と、エンジンの再始動後所定時間経過後という2つの停止条件を有することとなるが、2つの停止条件を有するものは発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであることについて
(1)判断
請求項4の記載は、請求項3の記載をも引用するものであるから、請求項4は、請求項3における「エンジンの停止指令を受けて前記電動式オイルポンプを起動させ、エンジン再始動指令を受けて前記電動式オイルポンプを停止させる電動式オイルポンプ制御手段を有し、該電動式オイルポンプ制御手段は、エンジン再始動後所定時間経過後に前記電動式オイルポンプの作動を停止させる」という発明特定事項と、請求項4における「エンジンの停止指令を受けて前記電動式オイルポンプを起動させ、エンジン再始動指令を受けて前記電動式オイルポンプを停止させる電動式オイルポンプ制御手段を有し、該電動式オイルポンプ制御手段は、エンジン再始動時にエンジンの完爆判定を検出して前記電動式オイルポンプの作動を停止させる」という発明特定事項を有するものである。
したがって、これらの発明特定事項を整理すると、「エンジンの停止指令を受けて前記電動式オイルポンプを起動させ、エンジン再始動指令を受けて前記電動式オイルポンプを停止させる電動式オイルポンプ制御手段を有し、該電動式オイルポンプ制御手段は、エンジン再始動後所定時間経過後に前記電動式オイルポンプの作動を停止させるとともにエンジン再始動時にエンジンの完爆判定を検出して前記電動式オイルポンプの作動を停止させる」ということになる。
そして、この整理された発明特定事項について、後半の電動式オイルポンプ制御手段に関して、重複された記載を排除すると、「電動式オイルポンプ制御手段は、エンジンの再始動時にエンジンの完爆判定を検出した後、所定時間経過後に前記電動式オイルポンプの作動を停止させる」ということができる。
請求項3を引用する請求項4の発明特定事項におけるこの部分が発明の詳細な説明に記載されているかどうかを検討すると、明細書の段落【0012】の「一方、エンジン始動(完爆)と同時にステップS22においてタイマーを起動し、エンジン始動後、機械式オイルポンプ2が十分な油圧を発生するまでの時間的余裕をタイマーで設定し、ステップS23においてタイマー終了と同時に電動式オイルポンプ8の作動を停止する。」における「エンジン始動(完爆)と同時にステップS22においてタイマーを起動し」との記載から、タイマーを起動するためのタイミングをとるために、エンジン始動(完爆)が検出されていることは明らかであり、また、同段落【0012】の「エンジン始動後、機械式オイルポンプ2が十分な油圧を発生するまでの時間的余裕をタイマーで設定し、ステップS23においてタイマー終了と同時に電動式オイルポンプ8の作動を停止する。」との記載から、エンジン始動(完爆)が検出された後、タイマー終了後、すなわち、所定時間経過後に電動式オイルポンプ8の作動を停止させることが記載されているといえる。
そうすると、明細書の段落【0012】に「電動式オイルポンプ制御手段は、エンジンの再始動時にエンジンの完爆判定を検出した後、所定時間経過後に前記電動式オイルポンプの作動を停止させる」ことが記載されているといえるから、請求項3を引用する請求項4の発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。

この点に関して請求人は、「段落【0012】の第3段落に記載された実施形態における『エンジン始動(完爆)』の記載から、その実施形態が完爆を検出しその後所定時間経過した後に電動オイルポンプの作動を停止するものであるとしても、その実施形態は、完爆判定を検出しても電動オイルポンプの作動は停止しませんから、請求項4の実施形態ということはできません。」(口頭審理陳述要領書第4ページ第22ないし27行)旨主張する。
しかしながら、請求項4には、「エンジン再始動時にエンジンの完爆判定を検出して前記電動式オイルポンプの作動を停止させる」と記載されているので、エンジンの完爆判定を検出して直ちに電動式オイルポンプの作動を停止させるもの以外にも、エンジンの完爆判定を検出して所定時間経過後に電動式オイルポンプの作動を停止させるものを包含するものと解されるから、請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、「請求項1又は請求項2を引用する請求項4に対応する発明の詳細な説明は存在しないことになります。」(弁駁書第13ページ第18及び19行)旨主張する。
しかしながら、明細書の段落【0020】における「次に、この発明の他の実施形態を図6、図7によって説明する。この実施形態は、前述した実施形態の電動式オイルポンプ8の作動停止をタイマにより行う代わりに、エンジンの完爆判定の信号をエンジンECUから得て、完爆を判定した時点で電動式オイルポンプ8の作動を停止させるものである。」との記載は、請求項1を引用する請求項4に対応する発明の詳細な説明の記載であると解されるから、請求人の主張は採用できない。

(2)まとめ
以上のとおり、請求項3を引用する請求項4の発明が、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえないから、請求項4の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
したがって、無効理由1によって、請求項4に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

2.無効理由4(特許法第29条第2項)
2-1.本件特許発明1は、甲第2号証(主引用例)及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることについて
(1)甲第2号証
甲第2号証(特開平11-93721号公報)には、次の事項が図面と共に記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】所定の運転条件が成立したときに停止するエンジンと、
運転操作に基づいて再発進を検出したときエンジンを再始動する再始動手段と、
車両運転中のエンジン停止時に少なくともクリープトルクを駆動軸に付与するクリープ発生手段と、
流体伝導手段を介してエンジンに連結された自動変速機と、
エンジンの駆動力によって油圧を発生するとともにその油圧を自動変速機に供給する第1油圧発生手段と、
電動モータの駆動力によって油圧を発生する第2油圧発生手段と、
これら第1油圧発生手段または第2油圧発生手段からの油圧を、シフトレバーの状態に応じて前記自動変速機の前進用または後進用の摩擦締結要素のうちの一方に供給するマニュアルバルブと、
前記第1油圧発生手段と前記マニュアルバルブを連通する第1油圧供給回路と、
この第1油圧供給回路に介装され前記マニュアルバルブより前記第1油圧発生手段への流れを規制する第1逆止弁と、
前記第2油圧発生手段と前記マニュアルバルブを連通する第2油圧供給回路と、
この第2油圧供給回路に介装され前記マニュアルバルブより前記第2油圧発生手段への流れを規制する第2逆止弁と、
この第2逆止弁と前記第2油圧発生手段との間の油圧を検出する油圧検出手段と、
車両運転中のエンジン停止時にこの検出油圧が第1設定値以下になったとき前記電動モータを駆動し、第2設定値以上となったときその駆動を停止するとともに、前記シフトレバーがニュートラル位置またはパーキング位置にあることを検出したとき前記電動モータを駆動する電動モータ制御手段とを備えることを特徴とするハイブリッドシステム車両の発進装置。」

イ.「【0004】このような、ハイブリッドシステム車両に従来の自動変速機を採用した場合、自動変速機内ではエンジンに駆動される油圧ポンプによって変速機構の作動油圧を確保しているが、例えば、市街地走行の信号待ち等で停止した場合、エンジンも停止するため、エンジンによって駆動される油圧ポンプも停止して自動変速機の作動油圧が確保されず、発進時にはエンジンの始動によって油圧が急激に上昇するため、自動変速機の摩擦締結要素、例えば、フォワードクラッチ等が解放状態から急激に締結されてショックを発生し、運転性を損なってしまう。
【0005】そこで、車両の停止時には自動的にエンジンを停止させる車両において、自動変速機の発進時のショックを防止するものとして、特開平8-14076号公報に開示されているように、エンジン作動中の油圧を維持するアキュムレータや電動ポンプにより駆動される第2油圧ポンプを追加して設け、エンジンが自動的に停止した状態でも油圧を自動変速機の油圧ユニットに供給することで、自動変速機のクラッチを発進用シフト状態で締結しておくものが知られている。」

ウ.「【0007】そこで、エンジンの駆動力によって油圧を発生するとともに自動変速機に油圧を供給する第1油圧ポンプとマニュアルバルブを連通する第1油圧供給回路に、、マニュアルバルブから第1油圧ポンプへの流れを規制する逆止弁を介装し、電動モータにより駆動される第2油圧ポンプにより、車両運転中のエンジン停止時に自動変速機の前進用または後進用の摩擦締結要素が締結直前の状態となる油圧を発生させて逆止弁の下流でマニュアルバルブの上流に導くようにしたものを提案した(特願平9-132326号参照)。以下このものを先願装置という。」

エ.「【0040】ここで、エンジン1は、車両の運転状態に応じて燃料噴射量や点火時期などをエンジンコントロールユニット6によって制御されるとともに、このエンジンコントロールユニット6は、ハイブリッドコントロールユニット5からの指令に応じてエンジン1の燃料噴射カットを行う。
【0041】すなわち、車両の停車中やコーストまたは減速時には積極的に燃料噴射をカットして燃料を節約するとともに、所定の車速VSP以下の低速走行時には、エンジン1の燃料噴射をカットするとともに、第1モータジェネレータ3によってエンジン1のモータリングを行う一方、第2モータジェネレータ4を駆動して図示しないバッテリからの電力によって車両の走行を行い、エンジン1の熱効率を大幅に向上させるものである。」

オ.「【0042】エンジン1の駆動力を伝達するトランスアクスル100のうち、無段変速機17、前後進切換機構11及びトルクコンバータ10のロックアップクラッチ10aが油圧制御回路101を介して変速コントロールユニット7によって制御され、油圧制御回路101への油圧は、トルクコンバータ10の入力軸に連結されてエンジン1によって駆動される第1油圧発生手段としての油圧ポンプ14から供給される。
【0043】変速コントロールユニット7は、シフトレバー81や図示しないスロットルの開度TVO(またはアクセルペダルの踏み込み量)及び車速VSP等の運転状態に応じて油圧制御回路101を駆動し、前進クラッチ12(前進用摩擦締結要素)、後進クラッチ13(後進用摩擦締結要素)及びロックアップクラッチ10aの締結、解放や無段変速機17の変速比制御を行う。」

カ.「【0044】ここで、ハイブリッドコントロールユニット5が車両の停車を検出すると、エンジン1を停止するとともに、第2モータジェネレータ4を駆動してクリープを発生させ、同時に、第1モータジェネレータ3を駆動して補機1a、1bの駆動を行うのであるが、このとき、エンジン1に駆動される油圧ポンプ14も停止するため油圧制御回路101への油圧の供給も停止する。
【0045】これを回避するため、車両の停車中に油圧制御回路101へ油圧を供給して、前進クラッチ12または後進クラッチ13を停車中にも締結直前の状態を維持するために、ハイブリッドコントロールユニット5の指令に応じて作動する第2油圧発生源9が油圧制御回路101に接続される。」

キ.「【0052】なお、トルクコンバータ10の入力軸には油圧ポンプ14(第1油圧発生手段)が連結されて、エンジン1の駆動によって発生した油圧を油圧制御回路101へ供給する。
【0053】トルクコンバータ10の出力軸と無段変速機17の入力軸15の間には遊星歯車機構19を主体に構成された前後進切換機構11が介装され、前後進切換機構11は、油圧制御回路101に駆動される前進クラッチ12と後進クラッチ13を選択的に締結することで、入力軸15の回転方向を制御する。」

ク.「【0068】上記油圧制御は、図2に示すように、油圧制御回路101のライン圧ソレノイド74及びステップモータ64を制御することで行われ、変速コントロールユニット7によってDuty制御されるライン圧ソレノイド74は、パイロット弁61、プレシャモディファイア62を介してライン圧制御弁60を駆動して、エンジン1に駆動される油圧ポンプ14からの油圧を所定のライン圧に設定してライン圧回路40(第1油圧供給回路)に供給すると同時に、ライン圧制御弁60の下流に接続されたクラッチ圧回路41(第1油圧供給回路)に所定の油圧を供給する。なお、セカンダリプーリ26のシリンダ室32は、ライン圧回路40と連通する。」

ケ.「【0069】ライン圧制御弁60の下流に接続されたクラッチ圧回路41には、図3に示すように、逆止弁108(第1逆止弁)を介してシフトレバー81に応動するマニュアルバルブ107のポート107bが接続され、マニュアルバルブ107のスプール107sの位置に応じて、ポート107aまたはポート107bを介して前進クラッチ12または後進クラッチ13へ油圧を供給する。すなわち、シフトレバー81がDレンジなどの前進位置にあれば、ポート107bと107aが連通して前進クラッチ12にクラッチ圧回路41の油圧によって締結される一方、ポート107cはドレーンポート107dと連通して後進クラッチ13を解放する。
【0070】また、シフトレバー81がRレンジの後進位置にあれば、ポート107bとポート107cが連通して後進クラッチ13にクラッチ圧回路41の油圧によって締結される一方、ポート107aはドレーン側(図中上方の×印)と連通して前進クラッチ12を解放する。」

コ.「【0071】ここで、図3において、油圧制御回路101を構成するクラッチ圧回路41には、逆止弁108とマニュアルバルブ107の間に別の逆止弁109(第2逆止弁)を介して第2油圧発生源9からの油圧を導く第2油圧供給回路42が接続される。
【0072】逆止弁108は、第2油圧供給回路42からの油圧がライン圧制御弁60側へ流れるのを規制して、車両の停車中に発生する第2油圧発生源9からの油圧をマニュアルバルブ107のみへ導く一方、逆止弁109はエンジン1の運転中に、ライン圧制御弁60からの油圧が第2油圧発生源9へ流入するのを規制する。
【0073】第2油圧発生源9では、電動ポンプ制御手段としてのハイブリッドコントロールユニット5に制御される電動モータ111に連結された第2油圧ポンプ112を第2油圧発生手段として配設し、車両運転中のエンジン停止時に、マニュアルバルブ107を介して前進クラッチ12または後進クラッチ13へ所定の油圧を供給するため、車両が運転状態、すなわち、図示しないイグニッションキーがONの間は、第2油圧発生源9において、以下のように油圧の供給が行われる。」

サ.「【0074】 第2油圧ポンプ112の吐出圧は、リリーフ弁113によって所定の油圧に調圧された後、第2油圧供給回路42に供給される。」

シ.「【0075】 そして、リリーフ弁113と逆止弁109の間には圧力センサ116(圧力検出手段)が配設され、このセンサ116により検出される油圧が所定値を超えると、ハイブリッドコントロールユニット5は電動モータ111への通電を停止する一方、検出油圧が所定値以下になると、ハイブリッドコントロールユニット5は電動モータ111への通電を再開する。」

ス.「【0076】 ハイブリッドコントロールユニット5は、車両が運転状態にある間、すなわち、図示しないイグニッションキーがONの間は、圧力センサ116の検出する油圧状態に基づいて電動モータ111への通電を制御して、第2油圧供給回路42の油圧を所定値、たとえばクラッチの締結直前の値(例えば0.25MPa)に保つ。」

セ.「【0077】 なお、通常走行中では、エンジン1に駆動される油圧ポンプ14からクラッチ圧回路41へ供給される油圧は、エンジン1のアイドリング状態でもリリーフ弁113の設定圧よりも十分高く、例えば、0.6MPaに設定されるため、逆止弁109は閉弁する一方、逆止弁108が開弁してライン圧制御弁60からの油圧によって前進クラッチ12または後進クラッチ13へマニュアルバルブ107を介して油圧が供給される。」

ソ.「【0096】 ハイブリッドコントロールユニット5で実行されるこの制御の内容を図4のフローチャートに従って説明する。
【0097】同図は電動モータ111への通電制御を行うためのもので、一定時間毎(たとえば10ms毎)に繰り返し実行する。先願装置との比較では、先願装置に対してステップ2、3を新たに追加したものである。」

タ.「【0101】 また、第2設定値はリリーフ弁113の設定圧(例えば0.4MPa)よりも低く設定する。これは、第2設定値がリリーフ弁113の設定圧より高いと、電動モータ111への通電により第2設定値にまで油圧が上昇する前にリリーフ弁113により第2油圧ポンプ112からの作動圧がドレーンされ、電動モータ111への通電が常時行われることになってしまうので、これを避けるためである。」

チ.【図1】


ツ.【図2】

テ.【図3】

上記記載事項及び図示内容から、以下の事項が認められる。

ト.記載事項ア.の「所定の運転条件が成立したときに停止するエンジンと、運転操作に基づいて再発進を検出したときエンジンを再始動する再始動手段と、車両運転中のエンジン停止時に少なくともクリープトルクを駆動軸に付与するクリープ発生手段と、流体伝導手段を介してエンジンに連結された自動変速機と、エンジンの駆動力によって油圧を発生するとともにその油圧を自動変速機に供給する第1油圧発生手段と・・・中略・・・ハイブリッドシステム車両の発進装置。」との記載、記載事項オ.の【0042】の「エンジン1の駆動力を伝達するトランスアクスル100のうち、無段変速機17、前後進切換機構11及びトルクコンバータ10のロックアップクラッチ10aが油圧制御回路101を介して変速コントロールユニット7によって制御され、油圧制御回路101への油圧は、トルクコンバータ10の入力軸に連結されてエンジン1によって駆動される第1油圧発生手段としての油圧ポンプ14から供給される。」との記載及び記載事項カ.の段落【0044】の「ハイブリッドコントロールユニット5が車両の停車を検出すると、エンジン1を停止する」との記載によれば、車両の停止を検出するとエンジン1を停止するハイブリッドシステム車両は、エンジン1によって駆動され無段変速機17に油圧を供給する油圧ポンプ14とその油圧制御回路101を備えていることが分かる。

ナ.記載事項キ.の段落【0052】の「トルクコンバータ10の入力軸には油圧ポンプ14(第1油圧発生手段)が連結されて、エンジン1の駆動によって発生した油圧を油圧制御回路101へ供給する。」との記載、記載事項コ.の段落【0071】の「図3において、油圧制御回路101を構成するクラッチ圧回路41には、逆止弁108とマニュアルバルブ107の間に別の逆止弁109(第2逆止弁)を介して第2油圧発生源9からの油圧を導く第2油圧供給回路42が接続される。」との記載、記載事項コ.の段落【0072】の「逆止弁109はエンジン1の運転中に、ライン圧制御弁60からの油圧が第2油圧発生源9へ流入するのを規制する。」との記載及び記載事項コ.の段落【0073】の「第2油圧発生源9では、電動ポンプ制御手段としてのハイブリッドコントロールユニット5に制御される電動モータ111に連結された第2油圧ポンプ112を第2油圧発生手段として配設し、車両運転中のエンジン停止時に、マニュアルバルブ107を介して前進クラッチ12または後進クラッチ13へ所定の油圧を供給するため、車両が運転状態、すなわち、図示しないイグニッションキーがONの間は、第2油圧発生源9において、以下のように油圧の供給が行われる。」との記載によれば、油圧制御回路101の油圧ポンプ14の下流側に第2油圧供給回路42が接続され、この第2油圧供給回路42に第2油圧ポンプ112が接続され、上記第2油圧供給回路42にライン圧制御弁60からの油圧が第2油圧ポンプ112へ流入するのを規制する第2逆止弁109が設けられることが分かる。

ニ.記載事項ク.の「エンジン1に駆動される油圧ポンプ14からの油圧を所定のライン圧に設定してライン圧回路40(第1油圧供給回路)に供給すると同時に、ライン圧制御弁60の下流に接続されたクラッチ圧回路41(第1油圧供給回路)に所定の油圧を供給する。」との記載、記載事項サ.の「第2油圧ポンプ112の吐出圧は、リリーフ弁113によって所定の油圧に調圧された後、第2油圧供給回路42に供給される。」との記載、記載事項セ.の「通常走行中では、エンジン1に駆動される油圧ポンプ14からクラッチ圧回路41へ供給される油圧は、エンジン1のアイドリング状態でもリリーフ弁113の設定圧よりも十分高く、例えば、0.6MPaに設定されるため、逆止弁109は閉弁する一方、逆止弁108が開弁してライン圧制御弁60からの油圧によって前進クラッチ12または後進クラッチ13へマニュアルバルブ107を介して油圧が供給される。」との記載及び記載事項タ.の「リリーフ弁113の設定圧(例えば0.4MPa)」との記載によれば、第2油圧ポンプ112の吐出側圧力を調整するリリーフ弁113と、油圧ポンプ14の吐出側圧力を調整するライン圧制御弁60を備え、上記ライン圧制御弁60の設定圧を前記リリーフ弁113の設定圧よりも高くしたことが分かる。

ヌ.図2を参酌すると、第1実施形態のVベルト式無段変速機の油圧制御回路の概略図が示されており、油圧ポンプ14の下流側にライン圧制御弁60が配置されていることが見て取れる。

ネ.図3を参酌すると、第1実施形態の第2油圧発生源及び油圧制御回路の概略図が示されており、第2油圧ポンプ112と逆止弁109との間にリリーフ弁113が配置されていることが見て取れる。

上記記載事項、上記認定事項及び図示内容を総合し、本件特許発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第2号証には、以下の発明(以下「甲第2号証に記載された発明」という。)が記載されている。

「エンジン1によって駆動され自動変速機に油圧を供給する油圧ポンプ14とその油圧制御回路101を備えている車両の停止を検出するとエンジン1を停止するハイブリッドシステム車両の自動変速機用油圧制御回路101であって、前記油圧制御回路101の油圧ポンプ14の下流側に第2油圧供給回路42が接続され、この第2油圧供給回路42に第2油圧ポンプ112が接続され、上記第2油圧供給回路42にライン圧制御弁60からの油圧が第2油圧ポンプ112へ流入するのを規制する第2逆止弁109を設け、前記第2逆止弁109と前記第2油圧ポンプ112との間に第2油圧ポンプ112の吐出側圧力を調整するリリーフ弁113を設け、上記油圧ポンプ14の前記下流側に、吐出側圧力を調整するライン圧制御弁60を備え、上記ライン圧制御弁60の設定圧を前記リリーフ弁113の設定圧よりも高くした車両の停止を検出するとエンジン1を停止するハイブリッドシステム車両の自動変速機用油圧制御回路101。」

(2)甲第3号証
甲第3号証(特開平8-182117号公報)には、次の事項が図面と共に記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 車両駆動用モータに自動変速機が連結されて、この自動変速機に組み込まれているオイルポンプが上記車両駆動用モータによって駆動されるように構成されている電気自動車の動力装置であって、
上記車両駆動用モータとは別駆動可能な補助オイルポンプを備え、かつ、
この補助オイルポンプの吸入口と吐出口とは、上記車両駆動用モータの停止時にこの補助オイルポンプによる油圧発生が行えるように上記自動変速機のオイルポンプのオイル吸入流路とオイル吐出流路とに接続されていることを特徴とする、電気自動車の動力装置。」

イ.「【0001】
【産業上の利用分野】本願発明は、車両駆動用モータに自動変速機を接続して構成される電気自動車の動力装置、さらに詳しくは車両駆動用モータを停止させた場合であっても自動変速機の動作に必要な所望の油圧が得られるようにした電気自動車の動力装置に関する。」

ウ.「【0002】
【従来の技術】周知の通り、電気自動車に種々の走行条件に応じた広い変速域を具備させるためには、ガソリン車などと同様に、自動変速機を用いることが好ましい。一方、自動変速機は、その内部に組み込まれたオイルポンプによって発生された油圧を利用して所定のバルブ動作などがなされるように構成されているのが通例である。したがって、電気自動車の車両駆動用モータに自動変速機を単に連結させただけでは、車両駆動用モータが停止した電気自動車の停車時において、オイルポンプを作動させることができず、必要な油圧が得られない。これでは自動変速機の適切な動作が困難となる。」

エ.「【0005】また、この種の電気自動車の動力装置を製造する場合において、ガソリン車などのエンジン自動車に用いられている既存の自動変速機やその製造設備などを有効に利用できれば、経済性などの種々の面で好ましい。ところが、上記従来のものは、エンジン自動車に用いられているタイプの自動変速機を有効に利用するための配慮は何らなされていないものであった。したがって、従来では、電気自動車専用の自動変速機の設計や製造を新たにやり直す必要があり、その製造コストが高価になるという難点があった。
【0006】本願発明は、このような事情のもとで考え出されたものであって、エンジン自動車用の自動変速機またはこの自動変速機を製造するための設備などを有効に利用して容易かつ安価に製造できる構成により、電気自動車の車両駆動用モータの停止の有無に関係なく自動変速機に必要な所望の油圧が適切に発生できるようにすることをその課題としている。」

オ.「【0011】
【発明の作用および効果】上記請求項1に記載の発明においては、車両駆動用モータが駆動している電気自動車の通常走行時には、自動変速機に組み込まれているオイルポンプを上記車両駆動用モータの駆動力を用いて作動させることができ、これにより必要な油圧を発生させることができる。これに対し、車両駆動用モータが停止しているときには、上記自動変速機のオイルポンプのオイル吸入流路とオイル吐出流路に接続された補助オイルポンプを単独で駆動させることによって必要な油圧を発生させることができる。したがって、車両駆動用モータの停止時に必要な油圧が得られなくなるといった不具合を適切に解消することができる。」

カ.「【0014】さらに、補助オイルポンプによって油圧を発生させる時期は、車両駆動用モータの停止時のみでよく、この期間中には高圧の油圧を発生させる必要はない。したがって、この補助オイルポンプとしては、小型で安価なものを用いることができるという利点も得られる。」

キ.「【0022】上記自動変速機2の基本的な構成は、ガソリン車などのエンジン自動車に用いられる自動変速機と同様である。すなわち、ミッションケース20内には変速用の遊星歯車機構(図示略)が設けられており、車両駆動用モータ1の出力軸10からインプットシャフト21に入力される回転力が遊星歯車機構を介して所定の速比に変換され、アウトプットシャフト(図示略)から出力されるようになっている。ただし、ドライブレンジ(Dレンジ)での停車アイドリング時においては車両駆動用モータ1を停止させればよいために、エンジン自動車に多用されているトルクコンバータは不要である。」

ク.「【0023】上記自動変速機2には、オイルポンプ4が具備されている。このオイルポンプ4もエンジン自動車用の自動変速機に一般に組み込まれているものであり、たとえば内接歯車ポンプによって構成されている。具体的には、このオイルポンプ4は、固定ケーシングに取付けられた内歯歯車にこれよりも歯数の少ない外歯歯車を歯合させたものであり、この外歯歯車をインプットシャフト21に連動させて回転させることにより、オイルの吸入および吐出が行えるように構成されたものである。このオイルポンプ4から吐出されたオイルは、自動変速機2に備えられている油圧制御装置のレギュレータバルブへ供給され、この油圧が自動変速機2を制御するための油圧制御装置の各種のバルブ切替え動作に利用されている。」

ケ.「【0024】上記補助オイルポンプ3は、たとえば上記オイルポンプ4と同様な内接歯車ポンプによって構成されているが、この補助オイルポンプ3にはモータMが具備されており、上記車両駆動用モータ1とは独立して駆動可能である。この補助オイルポンプ3は、ミッションケース20の壁部の適所に設けられているスタータ取付部22へ取付けられている。すなわち、このミッションケース20としては、エンジン自動車用のミッションケースが用いられており、エンジン自動車のスタータ(セルモータ)を取付けるためのボルト孔(図示略)をそのまま利用して上記補助オイルポンプ3がこのミッションケース20に取付けられている。したがって、補助オイルポンプ3の取付けは容易であり、またミッションケース20との関係においてこの補助オイルポンプ3を嵩張らない状態にコンパクトに取付けることが可能となる。なお、この補助オイルポンプ3の前部は、ミッションケース20のスタータ取付部22に開設されている開口孔23からミッションケース20内に臨むように取付けられている。」

コ.「【0025】上記補助オイルポンプ3の吸入口30と吐出口31とは、配管5a,5bを介して自動変速機2内のオイルポンプ4のオイル吸入流路40とオイル吐出流路41とに接続されている。上記配管5a,5bは、ミッションケース20内からトルクコンバータを撤去させることによって得られる空間スペースを利用して取付けられている。なお、配管5aの一端部には逆止弁6が設けられている。本実施例では、上記補助オイルポンプ3とオイルポンプ4とは、図2に示すような配管接続構成となっている。同図中、符号24はストレーナである。」

サ.「【0026】上記構成の電気自動車の動力装置においては、まず車両駆動用モータ1が駆動している通常走行時には、車両駆動用モータ1によって自動変速機2のインプットシャフト21を回転させることにより、この自動変速機2内のオイルポンプ4を適切に作動させて油圧を発生させることができる。この際には、他方の補助オイルポンプ3を作動させる必要はなく、停止させたままでよい。また、図2に示すように、補助オイルポンプ3とオイルポンプ4との相互間に逆止弁6を設けておけば、オイルポンプ4の作動時において、補助オイルポンプ3側にオイルの逆流が生じるような不具合も生じない。」

シ.「【0027】一方、ドライブレンジ(Dレンジ)のまま車両駆動用モータ1を停止させて電気自動車を停車させたときには、自動変速機2のオイルポンプ4による油圧発生はなされなくなるが、このときには補助オイルポンプ3を作動させる。この補助オイルポンプ3は、図2に示すように自動変速機2内のオイルポンプ4のオイル吸入流路40とオイル吐出流路41に接続されているから、この補助オイルポンプ3によってやはり所望の油圧を発生させてレギュレータバルブへ供給することが可能である。」

ス.「【0028】上記のように、電気自動車の走行時には自動変速機2内のオイルポンプ4によって油圧を発生させているために、車両駆動用モータ1の駆動力を有効に利用した油圧発生が行え、しかもこのオイルポンプ4によって比較的高圧の油圧を発生させることができる。また、このオイルポンプ4は、もともとエンジン自動車用の自動変速機には一般的に設けられているものである。したがって、エンジン自動車用の自動変速機に改造を加えることによって、電気自動車用の自動変速機2を比較的簡単に製作すること可能である。」

セ.【図2】

上記記載事項及び図示内容から、以下の事項が認められる。

ソ.記載事項コ.の「上記補助オイルポンプ3の吸入口30と吐出口31とは、配管5a,5bを介して自動変速機2内のオイルポンプ4のオイル吸入流路40とオイル吐出流路41とに接続されている。」との記載、記載事項コ.の「本実施例では、上記補助オイルポンプ3とオイルポンプ4とは、図2に示すような配管接続構成となっている。」との記載及び記載事項シ.の「図2に示すように自動変速機2内のオイルポンプ4のオイル吸入流路40とオイル吐出流路41に接続されている」との記載から、補助オイルポンプ3、オイルポンプ4、配管5a,5b、オイル吸入流路40及びオイル吐出流路41から油圧回路が構成されることが分かる。

タ.図2を参酌すると、補助オイルポンプ3の配管5a,5bがオイルポンプ4の上流側と下流側とに接続されることが分かる。

上記記載事項、上記認定事項及び図示内容を総合すると、甲第3号証には、以下の発明(以下「甲第3号証に記載された発明1」という。)が記載されている。

「補助オイルポンプ3の配管5a,5bがオイルポンプ4の上流側と下流側とに接続される油圧回路。」

(3)対比
本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、甲第2号証に記載された発明における「エンジン1」は、その技術的意義、機能及び構造からみて本件特許発明1における「エンジン」に相当し、以下同様に、「油圧」は「作動油」に、「油圧ポンプ14」は「機械式オイルポンプ」に、「油圧制御回路101」は「油圧回路」に、「エンジン1を停止するハイブリッドシステム車両」は「エンジン自動停止車両」に、「第2油圧ポンプ112」は「電動式オイルポンプ」に、「ライン圧制御弁60」は「第二の圧力調整手段」に、「第2逆止弁109」は「逆止弁」に、「リリーフ弁113」は「第一の圧力調整手段」に、それぞれ相当する。
また、甲第2号証に記載された発明における「ライン圧制御弁60からの油圧が第2油圧ポンプ112(本件特許発明1における「電気式オイルポンプ」に相当。)へ流入するのを規制する第2逆止弁109」は、ライン圧制御弁60の上流側に油圧ポンプ14(本件特許発明1における「機械式オイルポンプ」に相当。)があるから、本件特許発明1における、「機械式オイルポンプから電動式オイルポンプへの作動油の逆流を防止する逆止弁」に相当する。
また、甲第2号証に記載された発明における「ライン圧制御弁60の設定圧をリリーフ弁113の設定圧よりも高くした」ことは、甲第2号証に記載された発明における「ライン圧制御弁60」及び「リリーフ弁113」が本件特許発明1の「第二の圧力調整手段」及び「第一の圧力調整手段」に、それぞれ相当することは前述のとおりであるから、本件特許発明1における「第一の圧力調整手段の設定圧を第二の圧力調整手段の設定圧よりも低くした」ことに相当する。
そして、甲第2号証に記載された発明における「第2油圧供給回路42」は、「通路」という限りにおいて、本件特許発明における「バイパス通路」と共通するから、甲第2号証に記載された発明における「油圧制御回路101に油圧ポンプ14の下流側と接続される第2油圧供給回路42を設け」ることは、「油圧回路に機械式オイルポンプの下流側と接続される通路を設け」ることという限りにおいて、本件特許発明1における「油圧回路に機械式オイルポンプの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路を設け」ることと共通する。
そうすると、本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「エンジンによって駆動され自動変速機に作動油を供給する機械式オイルポンプとその油圧回路を備えているエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路であって、前記油圧回路に機械式オイルポンプの下流側に接続される通路を設け、この通路に電動式オイルポンプを接続し、上記通路に、機械式オイルポンプから電動式オイルポンプへの作動油の逆流を防止する逆止弁を設け、前記逆止弁と前記電動式オイルポンプとの間に電動式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第一の圧力調整手段を設け、上記機械式オイルポンプの前記下流側に、吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段を備え、上記第一の圧力調整手段の設定圧を前記第二の圧力調整手段の設定圧よりも低くしたエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路。」

<相違点1>
本件特許発明1においては、機械式オイルポンプと並列に設けられた電動式オイルポンプを有するバイパス通路が機械式オイルポンプの上流側と下流側に接続されているのに対し、甲第2号証に記載された発明においては、第2油圧ポンプ112(本件特許発明1における「電動式オイルポンプ」に相当。)を有する第2油圧供給回路42(「通路」という限りにおいて本件特許発明1における「バイパス通路」と共通。)が油圧ポンプ14(本件特許発明1における「機械式オイルポンプ」に相当。)の上流側に接続されるものではなく、第2油圧ポンプ112が油圧ポンプ14と並列に設けられるものではない点。

<相違点2>
「上記機械式オイルポンプの前記下流側に、吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段を備え、上記第一の圧力調整手段の設定圧を前記第二の圧力調整手段の設定圧よりも低く」することにより、本件特許発明1においては、前記電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生した油圧が前記第二の圧力調整手段から排出されるのを防止するのに対し、甲第2号証に記載された発明においては、前記第二油圧ポンプ112(本件特許発明1における「電動式オイルポンプ」に相当。)側の油圧回路で発生した油圧が前記ライン圧制御弁60から排出されるのを防止するものではない点。

(4)相違点の判断
相違点1について検討する。
本件特許発明1と甲第3号証に記載された発明1とを対比すると、甲第3号証に記載された発明1における「オイルポンプ3」及び「配管5a、5b」は、それぞれの技術的意義、機能及び構造からみて本件特許発明1における「電動式オイルポンプ」及び「バイパス通路」に相当し、また、甲第3号証に記載された発明1における「オイルポンプ4」は、「オイルポンプ」という限りにおいて、「機械式オイルポンプ」と共通するから、甲第3号証に記載された発明1を本件特許発明1の用語を用いて表現すると、「電動式オイルポンプのバイパス通路がオイルポンプの上流側と下流側とに接続される油圧回路。」 ということができる。

甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1はいずれも自動車に搭載される自動変速機に油圧を供給するために、主たるオイルポンプと従たるオイルポンプを設けるものであるから、油圧を供給する回路を有する点においては、両者は技術分野が共通するということができる。
そして、甲第2号証に記載された発明において、第2油圧ポンプ112(本件特許発明1における「電動式オイルポンプ」に相当。)を有する第2油圧供給回路42をどのように構成するかは、オイル供給源を共通化して部品数の削減を図る上でも当業者であれば適宜考慮し得ることである。
そうすると、甲第2号証に記載された発明における「第2油圧ポンプ112を有する第2油圧供給回路42」に関して、甲第3号証に記載された発明1を適用することにより、他のオイルポンプである油圧ポンプ14の上流側に第2油圧供給回路42を接続するようにし、第2油圧ポンプ112が他のオイルポンプである油圧ポンプ14と並列に接続されるものとして、相違点1に係る本件特許発明1における発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得ることである。

次に、相違点2について検討する。
甲第2号証に記載された発明において、上記油圧ポンプ14(本件特許発明1における「機械式オイルポンプ」に相当。)の前記下流側に、吐出側圧力を調整するライン圧制御弁60(本件特許発明1における「第二の圧力調整手段」に相当。)を備え、上記リリーフ弁113(本件特許発明1における「第一の圧力調整手段」に相当。)の設定圧を前記ライン圧制御弁60の設定圧よりも低くするものではあるが、これは甲第2号証の記載事項セ.に「通常走行中では、エンジン1に駆動される油圧ポンプ14からクラッチ圧回路41へ供給される油圧は、エンジン1のアイドリング状態でもリリーフ弁113の設定圧よりも十分高く、例えば、0.6MPaに設定されるため、逆止弁109は閉弁する一方、逆止弁108が開弁してライン圧制御弁60からの油圧によって前進クラッチ12または後進クラッチ13へマニュアルバルブ107を介して油圧が供給される。」と記載されるように、通常走行中では、アイドリング状態でも、ライン圧制御弁60からの油圧をリリーフ弁113の設定圧よりも十分高くすることにより、前進クラッチ12または後進クラッチ13へ油圧を供給できるようにするものであって、前記第二油圧ポンプ112(本件特許発明1における「電動式オイルポンプ」に相当。)側の油圧回路で発生した油圧が前記ライン圧制御弁60から排出されるのを防止するものではないことは明らかである。
そして、甲第2号証には、記載事項コ.の段落【0072】に「逆止弁108は、第2油圧供給回路42からの油圧がライン圧制御弁60側へ流れるのを規制して、車両の停車中に発生する第2油圧発生源9からの油圧をマニュアルバルブ107のみへ導く」と記載されるように、第二油圧ポンプ112側の油圧回路で発生した油圧がライン圧制御弁60側へ流れるのを規制する逆止弁108を有するのであるから、上記リリーフ弁113の設定圧を前記ライン圧制御弁60の設定圧よりも低くすることにより、第二油圧ポンプ112側の油圧回路で発生した油圧を前記ライン圧制御弁60から排出されるのを防止することを想起し得るものではない。
また、甲第3号証に記載された発明1における「オイルポンプ4」及び「補助オイルポンプ3」は、それぞれの下流側に、吐出側圧力を調整する圧力調整手段を備えるものでなく、また、補助オイルポンプ3の圧力調整手段の設定圧をオイルポンプ4の圧力調整手段の設定圧よりも低くし、補助オイルポンプ4側の油圧回路で発生した油圧がオイルポンプ3の圧力調整手段から排出されるのを防止するものでもない。

そして、この相違点2に係る発明特定事項を有することにより、本件特許明細書の段落【0022】の「電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生した油圧が機械式オイルポンプ側の油圧回路の第二の圧力調整手段から排出されるのを防止することができるため、第一の圧力調整手段の設定圧力を小さくでき、電動式オイルポンプのポンプ仕事も少なくて済む効果がある。」との効果を奏するものである。

そうすると、甲第2号証に記載された発明から相違点2に係る本件特許発明1における発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得るとはいえず、また、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1から相違点2に係る本件特許発明1における発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得るともいえない。

したがって、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

この点に関して請求人は、「訂正後特許発明1は物の発明ですから、物の構成要素の組み合わせにより特定されます。訂正事項b『上記第一の圧力調整手段の設定圧を前記第二の圧力調整手段の設定圧よりも低くし、前記電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生した油圧が前記第二の圧力調整手段から排出されるのを防止する』のうち、『上記第一の圧力調整手段の設定圧を前記第二の圧力調整手段の設定圧より低くし』は、第一の圧力調整手段と、第二の圧力調整手段のそれぞれの設定圧の関係を特定したものなので、物の構成要素である「第一の圧力調整手段」と「第二の圧力調整手段」のそれぞれの構成要素を特定したものと解されます。一方、訂正事項bのうち、『前記電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生した油圧が前記第二の圧力調整手段から排出されるのを防止する』は、いずれかの構成要素を特定したものではありませんから、装置全体の作用を特定したものと解されます。訂正後特許発明1は、バイパス通路が、機械式オイルポンプの上流側と下流側との間をバイパスすると特定されているだけですから、バイパス通路の下流側は機械式オイルポンプの下流側に接続されていればよいのです。バイパス通路の下流側と第二の圧力調整手段との配置関係は特定されていないのですから、この点において訂正後特許発明1は、甲2発明と異なるところはありません。また、電動式オイルポンプと第二の圧力調整手段との間に甲2発明の逆止弁108に相当する弁が存在しないとの限定もありません。そして、甲2発明の回路であれば、逆止弁108があるため、第2油圧ポンプ112側の油圧回路で発生した油圧がライン圧制御弁60から排出されることはないのですから、第2油圧ポンプ112(電動式オイルポンプに相当します。)側の油圧回路で発生した油圧がライン圧制御弁60(第二の圧力調整手段に相当します。)から排出されることは防止されているのです。甲2発明と訂正後特許発明1の構成E(B3)とは異なるところがありません。」(弁駁書第6ページ第13行ないし第7ページ第9行)と主張している。
この点について検討すると、本件特許発明1の発明特定事項である「上記機械式オイルポンプの前記下流側に、吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段を備え、上記第一の圧力調整手段の設定圧を前記第二の圧力調整手段の設定圧よりも低くし、前記電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生した油圧が前記第二の圧力調整手段から排出されるのを防止する」(弁駁書における「構成E(B3)」に相当。)は、電動式オイルポンプ側で発生した油圧が、機械式オイルポンプ側の前記下流側に備えられる第二の圧力調整手段から排出されるのを防止し、電動式オイルポンプからの作動油で機械式オイルポンプの下流側の前記吐出側配管を充填可能にして、油圧回路C1に常に作動油を充填した状態にしておくことで、エンジン始動時の自動変速機の油圧上昇を早め発進応答遅れを改善することに技術的意義を有するものである。これに対して、甲第2号証に記載された発明におけるライン圧制御弁60は逆止弁108があることにより第2油圧ポンプ112で発生した油圧がそもそも供給されるものではなく、本件特許発明1における設定圧のような技術的意義を有するものではない。そうすると、甲第2号証に記載された発明は、上記油圧ポンプ14(本件特許発明1における「機械式オイルポンプ」に相当。)の前記下流側に、吐出側圧力を調整するライン圧制御弁60(本件特許発明1における「第二の圧力調整手段」に相当。)を備え、上記リリーフ弁113(本件特許発明1における「第一の圧力調整手段」に相当。)の設定圧を前記ライン圧制御弁60の設定圧よりも低くするものであるが、低くした設定圧により前記第二油圧ポンプ112(本件特許発明1における「電動式オイルポンプ」に相当。)側の油圧回路で発生した油圧が前記ライン圧制御弁60から排出されるのを防止するものではないから請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、「参考図1のように甲2発明と甲3発明とを対比すれば、当業者は、甲2発明のバイパス通路の下流側を機械式オイルポンプ14とライン圧制御弁(甲3発明の『レギュレータバルブ』に相当します。)との間に配置しても、機械式オイルポンプ14が停止している間に第2油圧ポンプ112からマニュアルバルブ107へ作動油を供給することができること、その場合には、逆止弁108が不要であることを容易に認識することができるのですから、甲2発明のバイパス回路の配置に甲3発明のバイパス回路の接続の態様を適用し、甲2発明の補助オイルポンプである第2油圧ポンプ112の上流を油圧ポンプ14の上流側の配管に接続し、第2油圧ポンプ112の下流側を油圧ポンプ14とライン圧制御弁60(甲3発明のレギュレータバルブに相当します。)との間に接続し、参考図2のように構成することは、当業者が容易に想到することができるものです。」(弁駁書第9ページ下から第7行ないし第10ページ第4行)旨主張している。
しかしながら、甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明1に接した者が、甲第2号証に記載された発明における第2油圧供給回路42の下流側の接続先を、既存の第2逆止弁108とマニュアルバルブ107の間から、油圧ポンプ14とライン圧制御弁60の間にわざわざ変更することが容易に想到し得るともいえないから請求人の主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許発明1の特許(以下、「請求項1に係る発明についての特許」という。)は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
したがって、無効理由4によって、請求項1に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

2-2.本件特許発明2は、甲第2号証(主引用例)及び甲第3号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることについて
(1)甲第2号証
甲第2号証の記載事項、認定事項、図示内容及び甲第2号証に記載された発明は、前記第6 2.2-1.(1)のとおりである。

(2)甲第3号証
甲第3号証の記載事項、認定事項、図示内容及び甲第3号証に記載された発明1は、前記第6 2.2-1.(2)のとおりである。

(3)対比
本件特許発明2は、請求項1を引用する形式で記載されているから、請求項1を引用する本件特許発明2と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、相違点1及び相違点2に加えて次の点でも相違する。

<相違点3>
本件特許発明2においては、バイパス通路、電動式オイルポンプ、逆止弁、第一の圧力調整手段を一体構造として、自動変速機用油路に付加して構成されるのに対し、甲第2号証に記載された発明においては、このような構成を備えない点。

(4)相違点の判断
相違点3について検討する。
バイパス通路、電動式オイルポンプ、逆止弁、第一の圧力調整手段を一体構造として、自動変速機用油路に付加する点については、甲第2号証及び甲第3号証には記載も示唆もない。
そして、この相違点3に係る発明特定事項を有することにより、本件特許明細書の段落【0024】に「請求項2に記載した発明によれば、構造が簡単で既存の量産タイプの自動変速機に付加するだけで製造することが可能となるため、低コストで製造することができる効果がある。」との効果を奏するものである。
そうすると、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1から相違点3に係る本件特許発明2における発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
また、相違点1に係る本件特許発明2の発明特定事項については、前記第6 2-1.(4)で述べたとおり、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1から当業者が容易に想到し得るものである。
また、相違点2に係る本件特許発明2の発明特定事項については、前記第6 2-1.(4)で述べたとおり、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1から当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

したがって、本件特許発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

相違点3に関連して請求人は、「本件特許発明2も、前記c.で指摘したとおり、刊行物2に記載されたバイパス回路の管路配置を刊行物1発明に適用することに困難性はありません。さらに、審判請求書第39頁8-14行目で指摘したとおり、刊行物2に記載されたバイパス回路を刊行物1に記載された発明に適用する際に、バイパス回路側の構成をユニット化し、一体構造とすることは当業者が容易に想到することができるものです(前記(3)イ.参照)。本件特許発明2は刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものですから、本件特許発明2に係る特許も特許法第29条第2項の規定に違反したされたものです。」(口頭審理陳述要領書第43ページ第3ないし11行)と主張している。
しかしながら、そもそも、甲第3号証に記載された発明1の甲第2号証に記載された発明への適用は、前述のように甲第2号証に記載された発明における「第2油圧ポンプ112を有する第2油圧供給回路42」に関するものであって、上述のとおり、バイパス通路、電動式オイルポンプ、逆止弁、第一の圧力調整手段を一体構造として、自動変速機用油路に付加する点について記載も示唆もしないから、甲第3号証に記載された発明1を甲第2号証に記載された発明に適用する際に、甲第2号証に記載された発明における第2油圧供給回路42、第2油圧ポンプ112、第2逆止弁109,リリーフ弁113を一体構造とすることまでを当業者が容易に想到し得たとはいえず、請求人の主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件特許発明2は、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許発明2の特許(以下、「請求項2に係る発明についての特許」という。)は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
したがって、無効理由4によって、請求項2に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

2-3.本件特許発明3は、甲第2号証(主引用例)、甲第3号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることについて
(1)甲第2号証
甲第2号証の記載事項、認定事項、図示内容及び甲第2号証に記載された発明は、前記第6 2.2-1.(1)のとおりである。
甲第2号証の記載事項及び図示内容から更に以下の事項が認められる。
ネ.記載事項ア.の【請求項1】の「所定の運転条件が成立したときに停止するエンジンと、運転操作に基づいて再発進を検出したときエンジンを再始動する再始動手段」との記載、記載事項エ.の段落【0040】の「ここで、エンジン1は、車両の運転状態に応じて燃料噴射量や点火時期などをエンジンコントロールユニット6によって制御されるとともに、このエンジンコントロールユニット6は、ハイブリッドコントロールユニット5からの指令に応じてエンジン1の燃料噴射カットを行う。 」との記載、記載事項カ.の段落【0044】の「ハイブリッドコントロールユニット5が車両の停車を検出すると、エンジン1を停止するとともに、・・中略・・・このとき、エンジン1に駆動される油圧ポンプ14も停止するため油圧制御回路101への油圧の供給も停止する。」との記載、記載事項カ.の段落【0045】の「これを回避するため、車両の停車中に油圧制御回路101へ油圧を供給して、前進クラッチ12または後進クラッチ13を停車中にも締結直前の状態を維持するために、ハイブリッドコントロールユニット5の指令に応じて作動する第2油圧発生源9が油圧制御回路101に接続される。」との記載及び記載事項コ.の段落【0073】の「第2油圧発生源9では、電動ポンプ制御手段としてのハイブリッドコントロールユニット5に制御される電動モータ111に連結された第2油圧ポンプ112を第2油圧発生手段として配設し、車両運転中のエンジン停止時に、マニュアルバルブ107を介して前進クラッチ12または後進クラッチ13へ所定の油圧を供給するため、車両が運転状態、すなわち、図示しないイグニッションキーがONの間は、第2油圧発生源9において、以下のように油圧の供給が行われる。」との記載よれば、ハイブリッドコントロールユニット5は、エンジン1の停止等の運転条件に応じて、第2油圧ポンプ112を制御することが分かる。

この記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本件特許発明3の記載ぶりに則って整理すると、甲第2号証には、以下の技術事項(以下「甲第2号証に記載された技術事項」という。)が記載されている。

「エンジン1の停止等の運転条件に応じて第2油圧ポンプ112を制御するハイブリッドコントロールユニット5を有し、エンジン1によって駆動され自動変速機に油圧を供給する油圧ポンプ14とその油圧制御回路101を備えている車両の停止を検出するとエンジン1を停止するハイブリッドシステム車両の自動変速機用油圧制御回路101に用いられる油圧制御装置。」

(2)甲第3号証
甲第3号証の記載事項、甲第3号証に記載された発明1は、前記第6 2-1.(2)のとおりである。

(3)甲第6号証
甲第6号証(特開10-324177号公報)には、次の事項が図面と共に記載されている。
ア.「【特許請求の範囲】
【請求項1】 所定の運転条件が成立したときに停止するエンジンと、
運転操作に基づいて再発進を検出したときには、エンジンを再始動する始動手段と、
車両の運転中のエンジン停止中には、少なくともクリープトルクを駆動軸へ付与するクリープ発生手段と、
流体伝動手段を介して前記エンジンに連結された自動変速機と、
エンジンの駆動力によって油圧を発生するとともに前記自動変速機へ供給する第1の油圧発生手段と、
この第1油圧発生手段からの油圧を、シフトレバーの状態に応じて前進用摩擦締結要素または後進用摩擦締結要素のうちの一方へ油圧を供給するマニュアルバルブとを備えたハイブリッドシステム車両の発進装置において、
前記シフトレバーが前進または後進位置にある運転中にエンジンが停止した場合、前記前進用摩擦締結要素または後進用摩擦締結要素が締結直前となる油圧を供給可能な第2油圧発生手段とを備えたことを特徴とするハイブリッドシステム車両の発進装置。」

イ.「【請求項2】 前記第2油圧発生手段は、
電動モータに駆動される第2の油圧ポンプと、
この第2油圧ポンプと前記マニュアルバルブとを連通する第2の油圧供給回路と、
この第2油圧供給回路に介装されて、マニュアルバルブから第2油圧ポンプへの流れを規制する第1の逆止弁と、
前記第2油圧供給回路の油圧を、前記前進用摩擦締結要素または後進用摩擦締結要素が締結直前となるように調圧する調圧手段とからなり、
前記マニュアルバルブと第1油圧発生手段との間に介装されてマニュアルバルブから第1油圧ポンプへの流れを規制する第2の逆止弁の下流で前記第2油圧供給回路を接続したことを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドシステム車両の発進装置。」

ウ.「【0068】第2油圧発生源9は、ハイブリッドコントロールユニット5に制御される電動モータ111に連結された第2油圧ポンプ112を第2の油圧発生源として配設し、車両の停車中に、マニュアルバルブ107を介して前進クラッチ12または後進クラッチ13へ所定の油圧を供給するため、車両が運転状態、すなわち、図示しないイグニッションキーがONの間は、第2油圧発生源9において、以下のように油圧の供給が行われる。」

エ.「【0071】そして、逆止弁114と減圧弁117の間にはアキュームレータ115と圧力スイッチ116(または油圧センサでもよい)が配設され、逆止弁114の下流の油圧が所定値を超えると油圧検出手段としての圧力スイッチ116がONとなって、ハイブリッドコントロールユニット5は電動モータ111の駆動を停止する一方、油圧が所定値以下になると圧力スイッチ116がOFFとなって、ハイブリッドコントロールユニット5は電動モータ111の駆動を再開する。」

オ.「【0090】なお、再発進時では、エンジン1の完爆後(例えば、エンジン回転数Neが所定値以上)にハイブリッドコントロールユニット5は、第1及び第2モータジェネレータ3、4の駆動を停止して、エンジン1の駆動力のみによる通常走行状態へ移行する。」

カ.「【0098】図6は第3の実施形態を示し、前記第2実施形態の第2油圧発生源9のうち、アキュームレータ115及び圧力スイッチ116を削除したもので、その他の構成は前記第2実施形態と同様である。
【0099】この場合、ハイブリッドコントロールユニット5は、エンジン停止条件が成立した場合には、電動モータ111を駆動してリリーフ弁113の設定圧を第2油圧供給回路42へ供給し、マニュアルバルブ107で選択された前進または後進クラッチ12、13を締結直前の状態に維持する一方、エンジン回転数Neが所定値を超えると電動モータ111を停止して、エンジン1に駆動される油圧ポンプ14によって前進または後進クラッチ12、13を締結するものである。
【0100】アキュームレータ115及び圧力スイッチ116を削除することで、さらに装置の小型化及び軽量化を推進でき、車両への搭載性もさらに向上させることができる。」

甲第6号証の記載事項及び図示内容から以下の事項が認められる。
キ.記載事項ア.の「所定の運転条件が成立したときに停止するエンジンと、運転操作に基づいて再発進を検出したときには、エンジンを再始動する始動手段」との記載、記載事項ウ.の「第2油圧発生源9は、ハイブリッドコントロールユニット5に制御される電動モータ111に連結された第2油圧ポンプ112を第2の油圧発生源として配設し、車両の停車中に、マニュアルバルブ107を介して前進クラッチ12または後進クラッチ13へ所定の油圧を供給するため、車両が運転状態、すなわち、図示しないイグニッションキーがONの間は、第2油圧発生源9において、以下のように油圧の供給が行われる。」との記載、記載事項オ.の「再発進時では、エンジン1の完爆後(例えば、エンジン回転数Neが所定値以上)にハイブリッドコントロールユニット5は、第1及び第2モータジェネレータ3、4の駆動を停止して、エンジン1の駆動力のみによる通常走行状態へ移行する。」との記載及び記載事項カ.の段落【0099】の「ハイブリッドコントロールユニット5は、エンジン停止条件が成立した場合には、電動モータ111を駆動してリリーフ弁113の設定圧を第2油圧供給回路42へ供給し、マニュアルバルブ107で選択された前進または後進クラッチ12、13を締結直前の状態に維持する一方、エンジン回転数Neが所定値を超えると電動モータ111を停止して、エンジン1に駆動される油圧ポンプ14によって前進または後進クラッチ12、13を締結するものである。」との記載によれば、ハイブリッドコントロールユニット5は、エンジン1の停止条件の成立を受けて第2油圧ポンプ112を起動させ、運転操作に基づく再発進の検出を受けてエンジン1の再始動後にエンジン回転数Neが所定値を超えると第2油圧ポンプ112の作動を停止することが分かる。

上記記載事項、上記認定事項及び図示内容を総合すると、甲第6号証には、以下の発明(以下「甲第6号証に記載された発明」という。)が記載されている。

「ハイブリッドコントロールユニット5は、エンジン1の停止条件の成立を受けて第2油圧ポンプ112を起動させ、運転操作に基づく再発進の検出を受けてエンジンの再始動後にエンジン回転数Neが所定値を超えると第2油圧ポンプ112の作動を停止する油圧制御装置。」

(4)対比
本件特許発明3は、請求項1または2を引用する形式で記載されているから、請求項1または2を引用する本件特許発明3と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、相違点1及び相違点2、または、相違点1ないし相違点3に加えて次の点でも相違する。

<相違点4>
本件特許発明3においては、エンジンの停止条件の成立を受けて電動式オイルポンプを起動させ、エンジン再始動指令を受けて前記電動式オイルポンプを停止させる電動式オイルポンプ制御手段を有し、該電動式オイルポンプ制御手段は、エンジン再始動後所定時間経過後に前記電動式オイルポンプの作動を停止させるのに対し、甲第2号証に記載された発明においては、この点が明らかでない点。

(5)相違点の判断
相違点4について検討する。
本件特許発明3と甲第2号証に記載された技術事項とを対比すると、甲第2号証に記載された技術事項における「エンジン1」は、その技術的意義、機能及び構造からみて本件特許発明3における「エンジン」に相当し、以下同様に、「第2油圧ポンプ112」は「電動式オイルポンプ」に、「ハイブリッドコントロールユニット5」は「電動式オイルポンプ制御手段」に、「油圧」は「作動油」に、「油圧ポンプ14」は「機械式オイルポンプ」に、「油圧制御回路101」は「油圧回路」に、「エンジン1を停止するハイブリッドシステム車両」は「エンジン自動停止車両」に、それぞれ相当する。
そして、甲第2号証に記載された技術事項における「エンジン1の停止等の運転条件に応じて第2油圧ポンプ112を制御する」は、「エンジンの停止等の運転条件に応じて電動式オイルポンプを制御する」という限りにおいて、本件特許発明3における「エンジンの停止指令を受けて前記電動式オイルポンプを起動させ、エンジン再始動指令を受けて前記電動式オイルポンプを停止させる」と共通する。
そうすると、甲第2号証に記載された技術事項を本件特許発明3の用語を用いて表現すると、「エンジンの停止等の運転条件に応じて電動式オイルポンプを制御する電動式オイルポンプ制御手段を有し、エンジンによって駆動され自動変速機に作動油を供給する機械式オイルポンプとその油圧回路を備えている自動変速機用油圧回路に用いられる油圧制御装置。」ということができる。
そして、甲第2号証に記載された発明は、甲第2号証に記載された技術事項である油圧制御装置により制御されるものである。
また、本件特許発明3と甲第6号証に記載された発明とを対比すると、甲第6号証に記載された発明における「ハイブリッドコントロールユニット5」は、その技術的意義、機能及び構造からみて本件特許発明3における「電動式オイルポンプ制御手段」に相当し、以下同様に、「エンジン1」は「エンジン」に、「エンジン1の停止条件の成立」は「エンジンの停止指令」に、「第2油圧ポンプ112」は「電動式オイルポンプ」に、「運転操作に基づく再発進の検出」は「エンジン再始動指令」に、それぞれ相当するから、甲第6号証に記載された発明を本件特許発明3の用語を用いて表現すると、「電動式オイルポンプ制御手段は、エンジンの停止指令を受けて第2油圧ポンプ112を起動させ、エンジン再始動指令を受けてエンジンの再始動後にエンジン回転数Neが所定値を超えると電動式オイルポンプの作動を停止する油圧制御装置。」 ということができる。
甲第6号証は、甲第2号証の従来技術として提示されている文献であって、同一技術分野に属することは明らかであるから、甲第2号証に記載された発明を制御する装置として、甲第6号証に記載された発明を適用することに困難性はない。
そして、エンジンは、再始動の指令を受けてから、直ちに所定の回転数になるものではなく、所定の回転数になるにはある程度の時間を要することも明らかである。
そうすると、甲第2号証に記載された発明における第2油圧ポンプ112(本件特許発明3における「電動式オイルポンプ」に相当。)の自動変速機用油圧制御回路101(本件特許発明3における「自動変速機用油圧回路」に相当。)に甲第6号証に記載された発明における第2油圧ポンプ112(本件特許発明3における「電動式オイルポンプ」に相当。)の制御装置を適用する際に、第2油圧ポンプ112の停止条件である「エンジン回転数Neが所定値を超える」ことに代えて、「エンジン再始動後所定時間の経過する」こととして、相違点4に係る本件特許発明3における発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
相違点1に係る本件特許発明3の発明特定事項については、前記第6 2-1.(4)で述べたとおり、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1から当業者が容易に想到し得るものである。
相違点2に係る本件特許発明3の発明特定事項については、前記第6 2-1.(4)で述べたとおり、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1から当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
相違点3に係る本件特許発明3の発明特定事項については、前記第6 2-2.(4)で述べたとおり、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1から当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。

したがって、請求項1または2を引用する本件特許発明3は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明1及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、相違点4に関連して被請求人は、「本件特許発明3においては、機械式オイルポンプが十分な油圧を発生するまでの時間的余裕を設定することができるので(本件特許公報段落【0012】)、機械式オイルポンプが確実に十分な油圧を発生するまで電動式オイルポンプを作動させることができるのに対し、エンジン回転数Neが所定値を超えているだけでは、機械式オイルポンプが十分な油圧を発生していないにもかかわらず電動式オイルポンプの作動が停止してしまうおそれがある。エンジン回転数の始動特性は種々の要因により異なっており、始動後に機械式オイルポンプが十分な油圧を発生することを確認するためには、構成Hの『エンジン再始動後所定時間経過後に前記電動式オイルポンプの作動を停止させる』構成が必要になる。」(審判事件答弁書第24ページ第12ないし22行)と主張している。
しかしながら、本件特許発明3の「所定時間」が「機械式オイルポンプが十分な油圧を発生することができるまでの時間」以外の事項も包含することは、前記第6 1.1-1.で指摘したとおりであるから被請求人の主張は採用できない。

(6)まとめ
以上のとおり、本件特許発明3は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明1及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許発明3の特許(以下、「請求項3に係る発明についての特許」という。)は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
したがって、無効理由4によって、請求項3に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

2-4.本件特許発明4は、甲第2号証(主引用例)、甲第3号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることについて
(1)甲第2号証
甲第2号証の記載事項、認定事項、図示内容及び甲第2号証に記載された発明は、前記第6 2.2-1.(1)のとおりであり、また、甲第2号証に記載された技術事項は、前記第6 2.2-3.(1)のとおりである。

(2)甲第3号証
甲第3号証の記載事項、甲第3号証に記載された発明1は、前記第6 2.2-1.(2)のとおりである。

(3)甲第6号証
甲第3号証の記載事項、甲第6号証に記載された発明は、前記第6 2.2-3.(3)のとおりである。

(4)対比
本件特許発明4は、請求項1から3のいずれか1項を引用する形式で記載されているから、請求項1から3のいずれか1項を引用する本件特許発明4と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、相違点1及び相違点2、相違点1ないし相違点3、または、相違点1ないし相違点4に加えて次の点でも相違する。

<相違点5>
本件特許発明4においては、エンジンの停止条件の成立を受けて電動式オイルポンプを起動させ、エンジン再始動指令を受けて前記電動式オイルポンプを停止させる電動式オイルポンプ制御手段を有し、該電動式オイルポンプ制御手段は、エンジン再始動時にエンジンの完爆判定を検出して前記電動式オイルポンプの作動を停止させるのに対し、甲第2号証に記載された発明においては、この点が明らかでない点。

(5)相違点の判断
相違点5について検討する。
前記第6 2-3.(5)で記述したように、甲第2号証に記載された発明は、甲第2号証に記載された技術事項である油圧制御装置により制御されるものである。
本件特許発明4と甲第6号証に記載された発明とを対比すると、甲第6号証に記載された発明における「ハイブリッドコントロールユニット5」は、その技術的意義、機能及び構造からみて本件特許発明4における「電動式オイルポンプ制御手段」に相当し、以下同様に、「エンジン1」は「エンジン」に、「エンジン1の停止条件の成立」は「エンジンの停止指令」に、「第2油圧ポンプ112」は「電動式オイルポンプ」に、「運転操作に基づく再発進の検出」は「エンジン再始動指令」に、それぞれ相当するから、甲第6号証に記載された発明を本件特許発明4の用語を用いて表現すると、「電動式オイルポンプ制御手段は、エンジンの停止指令を受けて第2油圧ポンプ112を起動させ、エンジン再始動指令を受けてエンジンの再始動後にエンジン回転数Neが所定値を超えると電動式オイルポンプの作動を停止する油圧制御装置。」 ということができる。
甲第6号証は、甲第2号証の従来技術として提示されている文献であって、同一技術分野に属することは明らかであるから、甲第2号証に記載された発明を制御する装置として、甲第6号証に記載された発明を適用することに困難性はない。
また、甲第6号証には、前記第6 2.2-3.(3)の記載事項オ.に「再発進時では、エンジン1の完爆後(例えば、エンジン回転数Neが所定値以上)にハイブリッドコントロールユニット5は、第1及び第2モータジェネレータ3、4の駆動を停止して、エンジン1の駆動力のみによる通常走行状態へ移行する。」と記載されていることから、エンジン1の駆動力のみによる通常走行状態へ移行する際のエンジン1の完爆は、例えばエンジン回転数Neが所定値以上であることにより判定されることが分かり、第1及び第2モータジェネレータ3、4の駆動を停止するものではあるが、甲第6号証には、エンジン回転数Neの所定値を選択する際に、完爆判定の回転数が用いられることが記載されているといえる。
そうすると、甲第2号証に記載された発明における第2油圧ポンプ112(本件特許発明4における「電動式オイルポンプ」に相当。)の自動変速機用油圧制御回路101(本件特許発明3における「自動変速機用油圧回路」に相当。)に甲第6号証に記載された発明における第2油圧ポンプ112(本件特許発明4における「電動式オイルポンプ」に相当。)の制御装置を適用する際に、第2油圧ポンプ112の停止する条件である「エンジン回転数Neが所定値を超える」ことの所定値としてエンジンの完爆を判定する回転数を選択して、「エンジンの完爆判定を検出する」こととして、相違点5に係る本件特許発明4における発明特定事項とすることは当業者が容易に想到し得ることである。
相違点1に係る本件特許発明4の発明特定事項については、前記第6 2-1.(4)で述べたとおり、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1から当業者が容易に想到し得るものである。
相違点2に係る本件特許発明4の発明特定事項については、前記第6 2-1.(4)で述べたとおり、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1から当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
相違点3に係る本件特許発明4の発明特定事項については、前記第6 2-2.(4)で述べたとおり、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明1から当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
相違点4に係る本件特許発明4の発明特定事項については、前記第6 2-3.(4)で述べたとおり、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に想到し得るものである。

したがって、請求項1から3のいずれか1項を引用する本件特許発明4は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明1及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、相違点5に関連して被請求人は、「刊行物5(甲第6号証)には、構成Jの『エンジン再始動時にエンジンの完爆判定を検出して前記電動式オイルポンプの作動を停止させる』構成は記載されていないし示唆もされていない。すなわち、刊行物5(甲第6号証)には、段落【0099】には、『エンジン回転数Neが所定値を超えると電動モータ111を停止』することは記載されているが、所定値をどのように設定するかは記載されていない。段落【0090】の『なお、再発進時では、エンジン1の完爆後(例えば、エンジン回転数Neが所定値以上)にハイブリッドコントロールユニット5は、第1及び第2モータジェネレータ3,4の駆動を停止して、エンジン1の駆動力のみによる通常走行状態へ移行する。』の記載は、オイルポンプの電動モータ111とは駆動対象や駆動特性の異なる車両の駆動源である第1及び第2モータジェネレータ3,4の駆動停止条件に関するものであり、上記段落【0099】の電動モータ111の停止条件であるエンジン回転数Neの所定値とは何ら関係ない。」(答弁書第25ページ第16行ないし第26ページ第4行)と主張している。
しかしながら、請求項4には、完爆判定をどのように行うかについて特定されていないこと、及び、甲第6号証には、前記第6 2.2-3.(3)の記載事項オ.の「エンジン1の完爆後(例えば、エンジン回転数Neが所定値以上)」との記載を参酌すれば、甲第2号証に記載された発明に甲第6号証に記載された発明を適用する際に、エンジンの完爆と認定できるエンジンの回転数を所定値として設定する程度のことは当業者が容易に想到し得ることであるから被請求人の主張は採用できない。

(6)まとめ
以上のとおり、本件特許発明4は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明1及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件特許発明4の特許(以下、「請求項4に係る発明についての特許」という。)は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
したがって、無効理由4によって、請求項4に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

3.無効理由2(特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項)
3-1.本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであることについて
(1)甲第2号証
甲第2号証の記載事項、認定事項、図示内容及び甲第2号証に記載された発明は、前記第6 2.2-1.(1)のとおりである。

(2)対比
本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、前記第6 2.2-1.(3)のとおりの相違点1及び相違点2がある。

(3)相違点の判断
本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明とは相違点1及び相違点2を有するから、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明ではない。

この点に関して請求人は、「本件特許発明1が『油圧回路に機械式オイルポンプの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路を設け、このバイパス通路に機械式オイルポンプと並列に電動式オイルポンプを接続している』のに対し、刊行物1記載発明においては、第2油圧発生源の吐出側は、第1油圧発生手段の吐出側に接続されるクラッチ圧回路41に接続されていますが、刊行物1には、第1油圧発生手段及び第2油圧発生源のそれぞれのポンプ上流側についての記載がない点(以下、『相違点1』といいます。)で一応相違します。」(審判請求書第30ページ第10ないし16行)及び「本件特許発明の実施例においては、電動ポンプの上流側の管路は、機械式ポンプ2の上流側の管路に接続されています。仮に、この記載を根拠に本件特許発明1の『油圧回路に機械式オイルポンプの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路を設け』の限定が、油圧回路にはオイルパンは含まないと解するとしても、2つのオイルポンプを並列に配するに際し、ポンプの上流側の配管を互いに接続する程度のことは、当業者が適宜行う設計的事項にすぎません。」(審判請求書第31ページ第3ないし8行)と主張している。
これらの点について検討すると、本件特許発明1における「バイパス通路7」は、「バイパス」という以上「電動式オイルポンプ8」の上流側の管路は、「機械式オイルポンプ2」の上流側の管路に接続されることは明らかであるから、両者の相違点は一応の相違点ではなく、明らかな相違点であるから請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、「しかしながら、『バイパス』の用語は、油圧回路に固有の技術用語ではありませんから、一般的な用語として解釈されるべきです。広辞苑によれば、『バイパス』とは、混雑する市街地などを避けてやや迂回してつくる道路。迂回道路。副道。』(広辞苑第2版)とされておりますから、本件特許発明1の『機械式オイルポンプの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路』は、油圧回路において機械式オイルポンプが配された流路の上流側と下流側を迂回する流路という程度の意味しかありません。油圧回路において機械式オイルポンプの上流側には『オイルパン』が含まれます。審決の予告の認定は、何らの根拠もなく、『バイパス』の用語を限定的に認定したものにすぎません。」(弁駁書第14ページ第1ないし9行)旨主張する。
しかしながら、本件特許発明1では、「バイパス」ではなく、「通路」が形成された「バイパス」であるところの「バイパス通路」と特定されていることから、バイパスを形成するための管路が形成されていると解される。したがって、何らの根拠もなく、「バイパス」の用語を限定的に認定したものではないから請求人の主張は採用できない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明ではないから、請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反するものではない。
したがって、無効理由2によって、請求項1に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

3-2.本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることについて
(1)甲第2号証
甲第2号証の記載事項、認定事項、図示内容及び甲第2号証に記載された発明1は、前記第6 2.2-1.(1)のとおりである。

(2)対比
本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、前記第6 2.2-1.(3)のとおりの相違点1及び相違点2がある。

(3)相違点の判断
相違点1について検討する。
甲第2号証には、第2油圧ポンプ112(本件特許発明1における「電動式オイルポンプ」に相当。)を有する第2油圧供給回路42(「通路」という限りにおいて本件特許発明1における「バイパス通路」と共通。)が油圧ポンプ14(本件特許発明1における「機械式オイルポンプ」に相当。)の上流側に接続されることについて記載も示唆もない。
相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項については、前記第6 2-1.(4)における判断と同様の理由で、甲第2号証に記載された発明から当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。
したがって、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

この点に関して請求人は、「刊行物1には、第1油圧発生手段及び第2油圧発生源のそれぞれのポンプの上流側についての記載はありませんが、油圧制御回路にはオイルが供給されなければなりませんから、それぞれのポンプの上流側は、オイルパンに接続されています。自動変速機を制御する油圧制御回路に供給されるオイルは循環して使用しますから、それぞれのモータのオイルパンが異なっているとそれぞれのオイルパンに回収されるオイルの量を分配する制御が必要となるので、共通のオイルパンを使用するのが普通です(刊行物4記載事項(3)「審決注:審判請求書では○付きの3」参照)。」(審判請求書第30ページ第19ないし25行)と主張している。
この点について検討すると、請求人が油溜りが共用されることが知られていたことを立証するための証拠として提出した甲第5号証の段落【0008】の「図1に本発明の第1実施例の油圧回路を示す。」との記載及び同段落【0009】の「図で42は油溜り22と同じ油溜りである。」との記載によれば、たしかに油溜りを共通化することは記載されているものの、電動式オイルポンプを有するバイパス通路が機械式オイルポンプの上流側と接続されていることが知られていることを開示するものではないから、請求人の主張は採用することはできない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
したがって、無効理由2によって、請求項1に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

3-3.本件特許発明3及び4は、甲第2号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることについて
(1)判断
本件特許発明3及び4は、本件特許発明1の内容を全て含むものであるから、本件特許発明1と同様に甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)まとめ
本件特許発明3及び4は、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、請求項3及び4に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
したがって、無効理由2によって、請求項3及び4に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

4.無効理由3(特許法第29条第2項)
4-1.本件特許発明1は、甲第3号証(主引用例)及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることについて
(1)甲第3号証
甲第3号証の記載事項、認定事項及び図示内容は、前記第6 2.2-1.(2)のとおりである。
甲第3号証の記載事項及び図示内容から更に以下の事項が認められる。
チ.記載事項ク.の「このオイルポンプ4から吐出されたオイルは、自動変速機2に備えられている油圧制御装置のレギュレータバルブへ供給され、この油圧が自動変速機2を制御するための油圧制御装置の各種のバルブ切替え動作に利用されている。」との記載、記載事項コ.の「上記補助オイルポンプ3の吸入口30と吐出口31とは、配管5a,5bを介して自動変速機2内のオイルポンプ4のオイル吸入流路40とオイル吐出流路41とに接続されている。」との記載及び記載事項サ.の「上記構成の電気自動車の動力装置においては、まず車両駆動用モータ1が駆動している通常走行時には、車両駆動用モータ1によって自動変速機2のインプットシャフト21を回転させることにより、この自動変速機2内のオイルポンプ4を適切に作動させて油圧を発生させることができる。」との記載並びに図2によれば、電気自動車の車両駆動用モータ1によって駆動され自動変速機2にオイルを供給するオイルポンプ4は、自動変速機2用のオイル吸入通路40及びオイル吐出通路41の間に設けられることが分かり、また、オイル吸入通路40及びオイル吐出通路41にオイルポンプ4の上流側のと下流側とを結ぶ配管5a、5bを設け、補助オイルポンプ3が、この配管5a、5bにオイルポンプ4と並列に接続されることが分かる。

ツ.記載事項サ.の「上記構成の電気自動車の動力装置においては、まず車両駆動用モータ1が駆動している通常走行時には、車両駆動用モータ1によって自動変速機2のインプットシャフト21を回転させることにより、この自動変速機2内のオイルポンプ4を適切に作動させて油圧を発生させることができる。この際には、他方の補助オイルポンプ3を作動させる必要はなく、停止させたままでよい。また、図2に示すように、補助オイルポンプ3とオイルポンプ4との相互間に逆止弁6を設けておけば、オイルポンプ4の作動時において、補助オイルポンプ3側にオイルの逆流が生じるような不具合も生じない。」との記載及び図2によれば、逆止弁6が、配管5a、5bの補助オイルポンプ3の上流側に設けられ、オイルポンプ4から補助オイルポンプ3へのオイルの逆流を防止することが分かる。

この記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本件特許発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第3号証には、以下の発明(以下「甲第3号証に記載された発明2」という。)が記載されている。
「車両駆動用モータ1によって駆動され自動変速機2にオイルを供給するオイルポンプ4とそのオイル吸入通路40及びオイル吐出通路41を備えている電気自動車の自動変速機2用のオイル吸入通路40及びオイル吐出通路41であって、前記オイル吸入通路40及びオイル吐出通路41にオイルポンプ4の上流側と下流側とを結ぶ配管5a、5bを設け、この配管5a、5bにオイルポンプ4と並列に補助オイルポンプ3を接続し、上記配管5a、5bの補助オイルポンプ3上流側に、オイルポンプ4から補助オイルポンプ3へのオイルの逆流を防止する逆止弁6を設けた電気自動車の自動変速機2用のオイル吸入通路40及びオイル吐出通路41。」

(2)甲第2号証
甲第2号証の記載事項、認定事項、図示内容及び甲第2号証に記載された発明は、前記第6 2.2-1.(1)のとおりである。

(3)対比
本件特許発明1と甲第3号証に記載された発明2とを対比すると、甲第3号証に記載された発明2における「自動変速機2」は、その技術的意義、機能及び構造からみて本件特許発明1における「自動変速機」に相当し、以下同様に、「オイル」は「作動油」に、「オイル吸入通路40及びオイル吐出通路41」は「油圧回路」に、「配管5a、5b」は、「バイパス通路」に、「油圧」は「作動油」に、「補助オイルポンプ3」は「電動式オイルポンプ」に、「油圧制御回路101」は「油圧回路」に、「逆止弁6」は「逆止弁」に、それぞれ相当する。
また、甲第3号証に記載された発明2における「車両駆動用モータ1」は、「車両駆動源」という限りにおいて、本件特許発明1における「エンジン」と共通し、甲第3号証に記載された発明2における「電気自動車」は、「車両」という限りにおいて、本件特許発明1における「エンジン自動停止車両」と共通し、甲第3号証に記載された発明2における「オイルポンプ4」は、「オイルポンプ」という限りにおいて、本件特許発明1における「機械式オイルポンプ」と共通し、また、甲第3号証に記載された発明2における「電動式オイルポンプ上流側」は、「電動式オイルポンプの流路」という限りにおいて、本件特許発明1における「電動式オイルポンプ下流側」と共通する。
そうすると、本件特許発明1と甲第3号証に記載された発明2の一致点及び相違点は次のとおりである。

<一致点>
「車両駆動源によって駆動され自動変速機に作動油を供給するオイルポンプとその油圧回路を備えている車両の自動変速機用の油圧回路であって、前記油圧回路にオイルポンプの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路を設け、このバイパス通路にオイルポンプと並列に電動式オイルポンプを接続し、上記バイパス通路の電動式オイルポンプの流路に、オイルポンプから電動式オイルポンプへの作動油の逆流を防止する逆止弁を設けた車両の自動変速機用油圧回路。」

<相違点6>
本件特許発明1においては、車両駆動源がエンジンであり、また、車両がエンジン自動停止車両であり、さらに、オイルポンプがエンジンにより駆動される機械式オイルポンプであるのに対し、甲第3号証に記載された発明2においては、車両駆動源が車両駆動用モータ1であり、また、車両が電気自動車であり、さらに、オイルポンプが車両駆動用モータ1により駆動されるオイルポンプ4である点。

<相違点7>
本件特許発明1においては、逆止弁が電動式オイルポンプの下流側に設けられるのに対し、甲第3号証に記載された発明2においては、逆止弁6が補助オイルポンプ3(本件特許発明1における「電動式オイルポンプ」に相当。)の上流側に設けられる点。

<相違点8>
本件特許発明1においては、逆止弁と電動式オイルポンプとの間に電動式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第一の圧力調整手段を設け、機械式オイルポンプの前記下流側に吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段を備え、上記第一の圧力調整手段の設定圧を前記第二の圧力調整手段の設定圧よりも低くし、前記電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生した油圧が前記第二の圧力調整手段から排出されるのを防止するのに対し、甲第3号証に記載された発明2においては、オイルポンプ4及びオイルポンプ3から吐出されたオイルの吐出圧力をそれぞれ調整する手段を備えていない点。

(4)相違点の判断
相違点6について検討する。
甲第2号証に記載された発明は、車両駆動源がエンジンであり、また、車両がエンジン自動停止車両であり、さらに、オイルポンプがエンジンにより駆動される機械式オイルポンプである。
そこで、甲第3号証に記載された発明2に甲第2号証に記載された発明を適用できるかどうかについて検討するが、甲第3号証の記載事項エ.の段落【0006】の「電気自動車の車両駆動用モータの停止の有無に関係なく自動変速機に必要な所望の油圧が適切に発生できるようにすることをその課題としている。」との記載からみて、本件特許発明1が電気自動車の課題を解決するものであることは明らかである。
そうすると、甲第3号証に記載された発明2における「車両駆動用モータ1」を「エンジン」とし、「電気自動車」を「エンジン自動停止車両」とし、「車両駆動用モータ1により駆動されるオイルポンプ4」を「エンジンにより駆動される機械式オイルポンプ」とする動機付けが見出せない。
したがって、甲第3号証に記載された発明2に甲第2号証に記載された発明を適用できるとは認められないから、相違点6に係る本件特許発明1の発明特定事項は、甲第3号証に記載された発明2及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
よって、相違点7及び相違点8について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明2及び甲第2号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

この点に関して請求人は、「刊行物2発明も刊行物1発明も、いずれも従来のエンジン自動車の変速機を用いるという共通の技術分野において、既存のエンジン自動車の変速機を利用した場合には車両駆動用の原動機(電気自動車にあっては車両駆動用のモータ、エンジン自動停止車両にあってはエンジン)が停止した際に、クラッチ圧回路に圧をかけることができないという課題を解決するものですから、共通の課題があるということができるのです。刊行物1発明と刊行物2発明とは、そのような共通の課題を解決する発明ですから、刊行物2発明を刊行物1発明のようなハイブリッドシステム車両に適用する動機付けがあるのです。」(口頭審理陳述要領書第27ページ第15ないし23行)と主張している。
この点について検討すると、請求人の「刊行物2発明を刊行物1発明のようなハイブリッドシステム車両に適用する動機付けがある」という主張は、甲第2号証に記載された発明(請求人のいう「刊行物1発明」に相当。)をいわゆる主引用例とし、甲第3号証に記載された発明1(請求人のいう「刊行物2発明」に相当。)をいわゆる副引用例として適用するものである。
無効理由3においては、甲第3号証に記載された発明2を主引用例とするものであるから請求人の主張は採用できない。
また、請求人は、「しかしながら、複数の刊行物に記載された発明を組み合わせる動機付けの有無を論ずるに際して、必ず、組み合わされる装置側を主引用例としなければならないというものではありません。動機付けが論理的に説明できればよいのです。甲3発明を主引用例とする論理付けは、甲3発明に本件特許発明1が特徴とする部分がほとんど記載されており、これを甲2発明のうち、変速機の油圧回路が適用されるハイブリッド車両(ハイブリッド車両自体は、周知といってよいものです。)に適用することが容易というものですから、甲3発明を主引用例とすることが合理的なのです。」(弁駁書第14ページ第23行ないし第15ページ第3行)旨主張する。
しかしながら、甲第3号証に記載された発明2(請求人のいう「甲3発明」に相当。)には、本件特許発明1が特徴とする「エンジンによって駆動され自動変速機に作動油を供給する機械式オイルポンプ」及び「エンジン自動停止車両」が全く特定されていないから、甲第3号証に記載された発明2に本件特許発明1が特徴とする部分がほとんど記載されているという請求人の主張は採用できない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1は、甲第3号証に記載された発明2及び甲第2号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、請求項1に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
したがって、無効理由3によって、請求項1に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

4-2.本件特許発明2は、甲第3号証(主引用例)及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることについて
(1)判断
本件特許発明2は、本件特許発明1の内容を全て含むものであるから、本件特許発明1と同様に甲第3号証に記載された発明2及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)まとめ
以上のとおり、本件特許発明2は、甲第3号証に記載された発明2及び甲第2号証に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、請求項2に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
したがって、無効理由3によって、請求項2に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

4-3.本件特許発明3及び4は、甲第3号証(主引用例)、甲第2号証及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることについて
(1)判断
本件特許発明3及び4は、本件特許発明1の内容を全て含むものであるから、本件特許発明1と同様に甲第3号証に記載された発明2、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)まとめ
以上のとおり、本件特許発明3及び4は、甲第3号証に記載された発明2、甲第2号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、請求項3及び4に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反するものではない。
したがって、無効理由3によって、請求項3及び4に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

第7 むすび
以上のとおり、請求人の主張するいずれの無効理由によっても、請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
エンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路及び油圧制御装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンによって駆動され自動変速機に作動油を供給する機械式オイルポンプとその油圧回路を備えているエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路であって、前記油圧回路に機械式オイルポンプの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路を設け、このバイパス通路に機械式オイルポンプと並列に電動式オイルポンプを接続し、上記バイパス通路の電動式オイルポンプ下流側に、機械式オイルポンプから電動式オイルポンプへの作動油の逆流を防止する逆止弁を設け、前記逆止弁と前記電動式オイルポンプとの間に電動式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第一の圧力調整手段を設け、上記機械式オイルポンプの前記下流側に、吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段を備え、上記第一の圧力調整手段の設定圧を前記第二の圧力調整手段の設定圧よりも低くし、前記電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生した油圧が前記第二の圧力調整手段から排出されるのを防止することを特徴とするエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路。
【請求項2】
上記バイパス通路、電動式オイルポンプ、逆止弁、第一の圧力調整手段を一体構造として、自動変速機用油路に付加して構成されることを特徴とする請求項1に記載のエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路。
【請求項3】
エンジンの停止指令を受けて前記電動式オイルポンプを起動させ、エンジン再始動指令を受けて前記電動式オイルポンプを停止させる電動式オイルポンプ制御手段を有し、該電動式オイルポンプ制御手段は、エンジン再始動後所定時間経過後に前記電動式オイルポンプの作動を停止させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路に用いられる油圧制御装置。
【請求項4】
エンジンの停止指令を受けて前記電動式オイルポンプを起動させ、エンジン再始動指令を受けて前記電動式オイルポンプを停止させる電動式オイルポンプ制御手段を有し、該電動式オイルポンプ制御手段は、エンジン再始動時にエンジンの完爆判定を検出して前記電動式オイルポンプの作動を停止させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路に用いられる油圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、エンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路に係るものであり、特に、変速機への油圧供給の立ち上がりを早めることができるエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、車両の運転状態に応じてエンジンを停止し、所定の条件が満たされた場合にエンジンを始動するエンジン自動停止車両が知られている。この種の車両においては、エンジン停止により燃費向上を図ることができる反面、自動変速機を備えた車両に適用した場合に、エンジン停止と共にポンプも停止するため自動変速機の油圧回路における油圧を確保するための対策を施す必要がある。
エンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路を備えたものとしては、例えば、特開平10-324177号公報に示されたものがある。この車両はエンジンと第1モータジェネレータ及び第2モータジェネレータと組み合わせて走行可能なハイブリッド車両であり、車両の運転中にクリープを発生する第2モータジェネレータと、トルクコンバータを介してエンジンに連結された自動変速機と、エンジンにより駆動される第一の油圧ポンプと、マニュアルバルブを備えたものであって、前後進クラッチが締結直前となる油圧を供給可能な第二の油圧発生手段を備えたものである。図8に示すように、上記第二の油圧発生手段50は、電動モータ51により駆動される第二の油圧ポンプ52と、マニュアルバルブ53からの第二の油圧ポンプ52への流れを規制する第一の逆止弁54と、リリーフ弁55と、マニュアルバルブ53から第一の油圧ポンプ56への流れを規制する第二の逆止弁57を備えている。尚、図8において、Eはエンジン、58は前進クラッチ、59は後進クラッチ、60は油圧機器群、61は第一の油圧発生手段を示している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来技術にあっては、もっとも簡素化された第二の油圧発生源50を採用したこの実施施形態においても、第二の逆止弁57が不可欠となる。つまり、エンジンEの停止時に第二の油圧発生手段50によりマニュアルバルブ53に作動油を供給している場合に、この油圧を第一の油圧発生手段61側に作用させないように第二の逆止弁57が不可欠なのである。
そのため、上記ハイブリッド車両を製造する場合に既存の自動変速機を利用しようとしても、第一の油圧発生手段61の自動変速機の油圧回路に前記第二の逆止弁57が必要となるため、既存の自動変速機をそのまま流用することはできず改造を余儀なくされてしまうという問題がある。
したがって、上記第二の逆止弁を必要とせず、既存の自動変速機をそのまま流用可能となるような構造が望まれている。
そこで、この発明は、エンジン始動時の自動変速機の油圧上昇を早め発進応答遅れを改善することを前提として、既存の自動変速機の油圧回路を流用できるエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路を提供するものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1に記載した発明は、エンジン(例えば、実施形態におけるエンジン1)によって駆動され自動変速機に作動油を供給する機械式オイルポンプ(例えば、実施形態における機械式オイルポンプ2)とその油圧回路(例えば、実施形態における油圧回路C1)を備えているエンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路であって、前記油圧回路に機械式オイルポンプの上流側と下流側とを結ぶバイパス通路(例えば、実施形態におけるバイパス通路7)を設け、このバイパス通路に機械式オイルポンプと並列に電動式オイルポンプ(例えば、実施形態における電動式オイルポンプ8)を接続し、上記バイパス通路の電動式オイルポンプ下流側に、機械式オイルポンプから電動式オイルポンプへの作動油の逆流を防止する逆止弁(例えば、実施形態における逆止弁12)を設け、前記逆止弁と前記電動式オイルポンプとの間に電動式オイルポンプの吐出側圧力を調整する第一の圧力調整手段(例えば、実施形態におけるリリーフ弁B)を設け、上記機械式オイルポンプの前記下流側に、吐出側圧力を調整する第二の圧力調整手段(例えば、実施形態におけるリリーフ弁A)を備え、上記第一の圧力調整手段の設定圧(例えば、実施形態における圧力VB)を前記第二の圧力調整手段の設定圧(例えば、実施形態における圧力VA)よりも低くし前記電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生した油圧が前記第二の圧力調整手段から排出されるのを防止することを特徴とする。
このように構成することで、エンジン停止中に電動式オイルポンプを作動させ、自動変速機の油路に作動油を充填しておくことが可能となる。
また、機械式オイルポンプが作動している際に電動式オイルポンプ側の油圧回路への作動油の逆流を防止できると共に、第一の圧力調整手段により電動式オイルポンプ側の油圧回路を保護することが可能となる。
そして、電動式オイルポンプ側の油圧回路(例えば、実施形態における油圧回路C2)で発生した油圧が機械式オイルポンプ側の油圧回路の第二の圧力調整手段から排出されるのを防止する。
【0007】
請求項2に記載した発明は、上記バイパス通路、電動式オイルポンプ、逆止弁、第一の圧力調整手段を一体構造として、自動変速機用油路に付加して構成されることを特徴とする。
このように構成することで、構造が簡単で既存の量産タイプの自動変速機に付加するだけで製造することが可能となる。
請求項3に記載した発明は、エンジンの停止指令を受けて前記電動式オイルポンプを起動させ(例えば、実施形態におけるステップS43)、エンジン再始動指令を受けて前記電動式オイルポンプを停止させる(例えば、実施形態におけるステップS42)電動式オイルポンプ制御手段(例えば、実施形態におけるモータECU11)を有し、該電動式オイルポンプ制御手段は、エンジン再始動後所定時間経過後に前記電動式オイルポンプの作動を停止させることを特徴とする。
このように構成することで、エンジン再始動後所定時間経過後に電動式オイルポンプの作動を停止させ電動式オイルポンプの駆動時間を最小限に抑えることができる。
請求項4に記載した発明は、エンジンの停止指令を受けて前記電動式オイルポンプを起動させ(例えば、実施形態におけるステップS60)、エンジン再始動指令を受けて前記電動式オイルポンプを停止させる(例えば、実施形態におけるステップS59)電動式オイルポンプ制御手段を有し、該電動式オイルポンプ制御手段は、エンジン再始動時にエンジンの完爆判定を検出して前記電動式オイルポンプの作動を停止させることを特徴とする。
このように構成することで、エンジンの完爆を判定した時点で電動式オイルポンプの作動を停止させ電動式オイルポンプの駆動時間を最小限に抑えることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下この発明の実施形態を図面と共に説明する。この実施形態はエンジン自動停止機能を備えた車両であって、車速=0、アクセルOFF、ブレーキON、バッテリ残容量が所定値以上等の条件を満たした場合にエンジン停止が許可され、上記条件の一つが解除されるとエンジンが始動するものである。図1はこの発明の実施形態を示すものであり、車両の変速機であるCVT駆動用の油圧回路である。
同図においてエンジン1にはCVT用の機械式オイルポンプ2が接続され、この機械式オイルポンプ2の上流側には、吸入側配管5がストレーナ3を介してオイルパン4に臨設されている。また、機械式オイルポンプ2の下流側の吐出側配管6にはリリーフ弁Aが接続されている。これら機械式オイルポンプ2、ストレーナ3、オイルパン4、リリーフ弁A等は図1の鎖線の左側に位置する既存の油圧回路C1である。尚、機械式オイルポンプ2の下流側の吐出側配管6にはCVTの駆動プーリに接続されるシフトバルブSV、前後進クラッチに接続されるマニュアルバルブMV、発進クラッチに接続されるリリーフ弁RV等の油圧機器が接続されている。
【0009】
一方、鎖線の右側に位置するのは後付け、つまり既存のCVT用の油圧回路C1に付加増設した油圧回路C2である。この後付の油圧回路C2は前記オイルパン4にワンユニットとして図中に破線矢印で示すように取り付けられ、必要な配管を接続するものである。
具体的には機械式オイルポンプ2の上流側の吸込側配管5と下流側の吐出側配管6とを結ぶバイパス通路7が設けられ、このバイパス通路7に電動式オイルポンプ8が機械式オイルポンプ2と並列に接続されている。また、バイパス通路7には電動式オイルポンプ8の下流側に逆止弁12が設けられている。前記電動式オイルポンプ8はモータ9によって駆動するものであり、モータ9は後述するメインECU13からエンジン停止指令を受けたモータECU11によって駆動するようになっている。逆止弁12と電動式オイルポンプ8との間にはリリーフ弁Bが接続されている。
尚、逆止弁12により機械式オイルポンプ2側からの作動油の逆流は確実に防止できるが、この逆止弁12を直列に少なくとも2つ設けることで、一方の逆止弁12が開状態で故障した場合に他方の逆止弁12が機能するようにしてもよい。
【0010】
上記実施形態の作用を図3に示すフローチャートに基づいて説明する。尚、説明にあたっては図2の既存回路の概念フローチャートと比較して説明する。
図2において機械式オイルポンプ2のみを有する既存(量産変速機)の油圧回路の場合は、ステップS1においてエンジン始動指令があると、ステップS2においてスタータ起動を行いステップS3においてクランキングの後、ステップS4でエンジンが始動する。そして、ステップS5で油路に作動油充填がなされ、ステップS6で油圧が発生する。したがって、既存の油圧回路のみの場合にはエンジンにより駆動し、アイドル回転数以下で駆動することは想定していないためクランキング回転での機械式オイルポンプ12の吐出量では十分な吐出量が得られず、エンジン始動から作動油が充填されるまでかなりの時間を有してしまう。
【0011】
一方、電動式オイルポンプ8を備えたこの実施形態では、図1に示すように「エンジン始動・停止指令」を専用のメインECU13にて判別し、それぞれエンジン側の制御を行うエンジンECU(図示せず)とモータECU11に信号を送り、図3に示す概念フローチャートにしたがって処理がなされる。ステップS10においてエンジン停止指令があると、ステップS11で燃料カットがなされ、ステップS12においてエンジンが停止し、ステップS13において、エンジン停止に伴ない機械式オイルポンプ2が停止し油圧が消滅する。また、これと並行してステップS10においてエンジン停止指令があるとステップS14で電動式オイルポンプ8が起動し、ステップS15で設定油圧が発生し、ステップS16において油路に作動油が充填される。これにより、ステップS13で機械式オイルポンプ2による油圧が消滅していても、電動式オイルポンプ8により油路の作動油は抜けることなく充填されていることになる。通常、変速機の作動油圧は10?15kgf/cm2程度であるが、電動式オイルポンプ8の吐出設定圧は前進クラッチ、後進クラッチのクラッチピストンのリターンスプリングを押しつぶす程度の圧力でよいから、およそ2kgf/cm2程度で十分である。ステップS16ではすでに油路に作動油が充填されているため少しでも作動油が流れ込めば瞬時に油圧が立ち上がる状態にある。
【0012】
したがって、ステップS17でエンジン始動指令があり、ステップS18でスタータが起動し、ステップS19でクランキングする時点でエンジン駆動の機械式オイルポンプ2からは不充分ではあるが、ある程度高圧(2以上10kgf/cm2以下)の作動油が流入するため、変速機の油圧は徐々に上昇する。そして、ステップS20でエンジンが始動(完爆)するころには変速機を作動させるに十分な油圧が発生する。よって、ステップS21においてエンジン1の始動後に瞬時に油圧が発生することとなる。
このように、量産変速機に電動式オイルポンプユニットを付加することにより、エンジン再始動時における変速機油圧の立ち上がりを効果的に早めることができ(詳細は後述するが図4に矢印で示す)、延いては変速機の摩擦要素の係合遅れによる発進遅れを効果的に防止できる。
一方、エンジン始動(完爆)と同時にステップS22においてタイマーを起動し、エンジン始動後、機械式オイルポンプ2が十分な油圧を発生するまでの時間的余裕をタイマーで設定し、ステップS23においてタイマー終了と同時に電動式オイルポンプ8の作動を停止する。これにより、電動式オイルポンプ8の作動をエンジン始動後、最小限に抑えることができるため、電力の節減、電動式オイルポンプ8の耐久性の向上を図ることができる。
【0013】
図4はタイムチャート図を示し、図2,3の各ステップに対応するステップ番号を併記したものである。同図において上から順に、エンジン回転数、機械式オイルポンプのみの油圧、電動式オイルポンプ付きの油圧、電動式オイルポンプ作動、タイマ、エンジン停止フラグの状態を各々示している。尚、エンジン停止フラグとはエンジン停止を許可するフラグであり、燃料カット(図3のS11)と同時に「1」がセットされエンジン停止が許可されるものである。
エンジン停止フラグがセットされ、エンジンが停止すると(図3のS12)、エンジン停止フラグがリセットされるまでの間、機械式オイルポンプのみの油圧は図4のXの部分で抜けてしまう。このとき、電動式オイルポンプ付きの場合は、エンジン停止フラグがセットされると同時に電動式オイルポンプ8が作動し(図3のS14)、油圧がYの部分で発生し、設定油圧が確保される。
よって、エンジン停止フラグが「0」になり、エンジン始動指令があり(図2のS1)、徐々にエンジン回転数が立ち上がると(図2のS2,S3)、電動式オイルポンプ付きでは油圧の立ち上がりを効果的に早めることができるのである(図4に矢印で示す)。そして、タイマが終了した時点で(図3のS23)、電動式オイルポンプ8を停止して(図3のS24)、機械式オイルポンプ2により油圧は確保される。
したがって、上記タイムチャートによれば、電動式オイルポンプ付きの油圧に示すように、電動式オイルポンプにより設定油圧が確保されているため、エンジン始動時において油圧の確保ができ、瞬時に油圧発生が実現でき、機械式オイルポンプのみの油圧グラフでは油圧が抜けてしまうXの部分を補うように電動式オイルポンプ付きの場合の油圧を早めに立ち上げる(Yの部分)ことができる。
【0014】
次に、図5のフローチャートを説明する。
ステップS30においてエンジンが運転中か否かを判定する。尚、運転中か否かの判定はエンジン回転数が200rpm以上を基準にして判定することができる。ステップS30における判定の結果「NO」、つまり停止中であると判定された場合は、ステップS31においてエンジン始動指令の有無を判定する。ステップS31において始動指令があると判定された場合は、ステップS32においてスタータを作動させてステップS33に進む。尚、クランキング回転数は300rpm程度である。ステップS31における判定の結果、エンジン始動指令がないと判定された場合は、ステップS33において電動式オイルポンプ8を作動させ、ステップS34でタイマー起動フラグをセットし、ステップS35においてエンジン停止指令をリセットして制御を終了する。
【0015】
ステップS30の判別の結果、エンジンが運転中であると判定された場合はステップS36に進み、エンジン停止指令の有無を判定する。ステップS36においてエンジン停止指令があると判定された場合は、ステップS37において燃料カットを行い、ステップS43に進む。ステップS36においてエンジン停止指令がないと判定された場合は、ステップS38でタイマー起動フラグを判定する。判定の結果、タイマー起動フラグがセットされている場合は、ステップS39においてタイマーを起動し、ステップS40においてタイマー起動フラグをリセットしてステップS43に進む。
【0016】
ステップS38の判定の結果、タイマー起動フラグがセットされていないと判定された場合は、ステップS41においてタイマーが終了しているか否かを判定し、タイマーが終了していると判定された場合はステップS42において電動式オイルポンプ8を停止しステップS44に進む。ステップS41における判定の結果、タイマーが終了していないと判定された場合は、ステップS43で電動式オイルポンプ8を作動させステップS44に進む。ステップS44においてはエンジン始動指令をリセットして制御を終了する。
【0017】
したがって、上記実施形態によれば、既存の量産タイプの変速機が既に備えている機械式オイルポンプ2に対して、これに並列に電動式オイルポンプ8をリリーフ弁B、逆止弁12をユニット化して後付けにより取り付けることができる。
また、逆止弁12により機械式オイルポンプ2からの作動油の逆流を防止することができる。また、電動式オイルポンプ8から機械式オイルポンプ2への逆流は電動式オイルポンプ8の吐出圧を低く設定することにより、機械式オイルポンプ2のシールで防止できる。このため、量産タイプの変速機の油圧回路C1にはほとんど改造の必要はない。
尚、上記逆止弁12は電動式オイルポンプ8の吸入側に配置しても同様の効果があるが、この場合は機械式オイルポンプ2の吐出圧が直接電動式オイルポンプ8に作用することとなるため電動式オイルポンプの8の耐圧性を高める必要がある。
【0018】
また、既存の油圧回路C1には逆止弁が設けられていないため、電動式オイルポンプ8の油圧回路C2に設置するリリーフ弁Bの開弁圧VBは油圧回路C1のリリーフ弁Aの開弁圧VAよりも小さく(VA>VB)設定されている。これにより、油圧回路C2で発生した油圧が油圧回路C1のリリーフ弁Aから排出されることはない。実際、油圧回路C1に作動油を充填するために必要な圧力は通常の変速機の作動油圧より低い値でよく(例えば、通常油圧を10?15kgf/cm2に対してせいぜい2kgf/cm2程度)、電動式オイルポンプ8のユニット内のリリーフ弁Bの設定圧も同様に低圧にでき、ポンプの仕事も少なくて済む。
【0019】
そして、エンジン停止と同時に電動式オイルポンプ8を起動し、油圧回路C1に常に作動油を充填した状態にしておくため、エンジン1を再始動したときの機械式オイルポンプ2による油圧の立ち上がり遅れを防止し、発進応答遅れを改善することができる。エンジン始動後は電動式オイルポンプ8は不要になるため、所定時間の後に作動停止することにより無駄に電動式オイルポンプ8を作動させることはない。
【0020】
次に、この発明の他の実施形態を図6、図7によって説明する。
この実施形態は、前述した実施形態の電動式オイルポンプ8の作動停止をタイマにより行う代わりに、エンジンの完爆判定の信号をエンジンECUから得て、完爆を判定した時点で電動式オイルポンプ8の作動を停止させるものである。
図6に示すように、前記実施形態と同様に「エンジン始動・停止指令」メインECU13にて判別し、それぞれエンジンECU20とモータECU11に信号を送る。また、エンジンECU20からのエンジン1の完爆判定の信号はモータECU11に入力され、この信号に基づいて、モータECU11はモータ9を停止して、電動式オイルポンプ8の作動を停止する。図7はこの実施形態の図5に対応するフローチャートを示す。
ステップS50においてエンジンが運転中か否かを判定する。ステップS50における判定の結果「NO」、つまり停止中であると判定された場合は、ステップS51においてエンジン始動指令の有無を判定する。ステップS51において始動指令があると判定された場合は、ステップS52においてスタータを作動させてステップS53に進む。尚、クランキング回転数は300rpm程度である。ステップS51における判定の結果、エンジン始動指令がないと判定された場合は、ステップS53において電動式オイルポンプ8を作動させ、ステップS55においてエンジン停止指令をリセットして制御を終了する。
【0021】
ステップS50の判別の結果、エンジンが運転中であると判定された場合はステップS56に進み、エンジン停止指令の有無を判定する。ステップS56においてエンジン停止指令があると判定された場合は、ステップS57において燃料カットを行い、ステップS60に進む。ステップS56においてエンジン停止指令がないと判定された場合は、ステップS58でエンジンの完爆を判定する。判定の結果、エンジンが完曝していない場合は、ステップS60に進む。ステップS58の判定の結果エンジンが完曝している場合は、ステップS59において電動式オイルポンプ8を停止しステップS61に進む。ステップS60では電動式オイルポンプ8を作動させステップS61に進み、さらにステップS61においてエンジン始動指令をリセットして制御を終了する。
したがって、この実施形態においても、前述実施形態と同様にエンジン始動後の電動式オイルポンプのポンプ仕事を最小限に抑えることができ、無駄に電動式オイルポンプ8を作動させることがなくなる。
尚、この発明は上記実施形態に限られるものではなく、例えば、図7においてステップS57の燃料カットからステップS60で電動式オイルポンプ作動としているが、これをステップS57の燃料カットの後に「エンジン停止判定」を入れ「NO」ならステップS61に進み、「YES」でステップS60に進むようにし、電動式オイルポンプ8のポンプ仕事を更に減らすことも可能である。また、上記各実施形態ではメインECU13によりエンジン始動・停止指令を判定する場合について説明したが、エンジンECUによりこれを行うようにしてもよい。
【0022】
【発明の効果】
以上説明してきたように、請求項1に記載した発明によれば、エンジン停止中に電動式オイルポンプを作動させ、自動変速機の油路に作動油を充填しておくことが可能となるため、エンジンを再始動した場合の油圧の立ち上がり遅れを防止し、延いては発進応答遅れを防止することができる効果がある。
また、機械式オイルポンプが作動している際に電動式オイルポンプ側の油圧回路への作動油の逆流を防止できると共に、第一の圧力調整手段により電動式オイルポンプ側の油圧回路を保護することが可能となるため、電動式オイルポンプの破損を防止することができる効果がある。
そして、電動式オイルポンプ側の油圧回路で発生した油圧が機械式オイルポンプ側の油圧回路の第二の圧力調整手段から排出されるのを防止することができるため、第一の圧力調整手段の設定圧力を小さくでき、電動式オイルポンプのポンプ仕事も少なくて済む効果がある。
【0024】
請求項2に記載した発明によれば、構造が簡単で既存の量産タイプの自動変速機に付加するだけで製造することが可能となるため、低コストで製造することができる効果がある。
【0025】
請求項3に記載した発明によれば、エンジン再始動後所定時間経過後に電動式オイルポンプの作動を停止させ電動式オイルポンプの駆動時間を最小限に抑えることができるため、電動式オイルポンプを無駄に作動させることはなく、したがって、消費電力を節約することができると共に電動式オイルポンプの耐久性を向上することができる効果がある。
【0026】
請求項4に記載した発明によれば、エンジンの完爆を判定した時点で電動式オイルポンプの作動を停止させ電動式オイルポンプの駆動時間を最小限に抑えることができるため、電動式オイルポンプのポンプ仕事を最小限に抑えることができ電動式オイルポンプを無駄に作動させることはなく、したがって、消費電力を節約することができると共に電動式オイルポンプの耐久性を向上することができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施形態の概略構成図である。
【図2】 従来のフローチャート図である。
【図3】 この発明の実施形態の図2に対応する概念フローチャート図である。
【図4】 この発明のタイムチャート図である。
【図5】 この発明の実施形態のメインフローチャート図である。
【図6】 この発明の他の実施形態の図1に対応する要部概略構成図である。
【図7】 この発明の他の実施形態の図5に対応するフローチャート図である。
【図8】 従来技術の構成図である。
【符号の説明】
1 エンジン
2 機械式オイルポンプ
7 バイパス通路
8 電動式オイルポンプ
11 モータECU
12 逆止弁
A リリーフ弁(第二の圧力調整手段)
B リリーフ弁(第一の圧力調整手段)
C1 油圧回路
C2 油圧回路
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-02-03 
結審通知日 2016-02-05 
審決日 2016-02-23 
出願番号 特願2000-219393(P2000-219393)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (F16H)
P 1 113・ 121- YAA (F16H)
P 1 113・ 113- YAA (F16H)
最終処分 不成立  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 森川 元嗣
中川 隆司
登録日 2006-07-14 
登録番号 特許第3827926号(P3827926)
発明の名称 エンジン自動停止車両の自動変速機用油圧回路及び油圧制御装置  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 田▲崎▼ 聡  
代理人 田部 元史  
代理人 小椋 正幸  
代理人 小椋 正幸  
代理人 田部 元史  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 鈴木 慎吾  

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