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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G03G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1314661
審判番号 不服2014-24113  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-27 
確定日 2016-05-11 
事件の表示 特願2011- 90184「トナー組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月17日出願公開、特開2011-232749〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年4月14日(パリ条約による優先権主張2010年4月27日、米国)の出願であって、平成26年4月9日及び同年7月17日に手続補正がなされ、同年8月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年11月27日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年11月27日になされた手続補正についての補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成26年11月27日になされた手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成26年11月27日になされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、同年7月17日になされた手続補正によって補正された(以下、「本件補正前」という。)請求項1に、
「少なくとも1つの非晶質樹脂、少なくとも1つの結晶性樹脂、および脂肪酸塩を含むバインダー樹脂と、
着色剤、ワックスおよびその組み合わせからなる群から選択された1つ以上の任意選択の成分と、
を含み、
前記脂肪酸塩は、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛ラウレート、パルミチン酸亜鉛及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選ばれ、
脂肪酸塩は、トナー組成物の5重量%から10重量%の量で存在する
トナー組成物。」とあったものを、

「少なくとも1つの非晶質樹脂、少なくとも1つの結晶性樹脂、および脂肪酸塩を含むバインダー樹脂と、
着色剤、ワックスおよびその組み合わせからなる群から選択された1つ以上の任意選択の成分と、
を溶融混合することにより得られるトナー組成物であって、
前記脂肪酸塩は、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛ラウレート、パルミチン酸亜鉛及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選ばれ、
脂肪酸塩は、トナー組成物の5重量%から10重量%の量で存在する
トナー組成物。」と補正するものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「トナー組成物」が「少なくとも1つの非晶質樹脂、少なくとも1つの結晶性樹脂、および脂肪酸塩を含むバインダー樹脂と、着色剤、ワックスおよびその組み合わせからなる群から選択された1つ以上の任意選択の成分と、を」「含」むものから、前記各成分を「溶融混合することにより得られる」ものへと限定する補正からなるものである。

2 本件補正の目的
(1)上記1(2)の補正は、本件補正前の請求項1において記載されていた「少なくとも1つの非晶質樹脂、少なくとも1つの結晶性樹脂、および脂肪酸塩を含むバインダー樹脂と、着色剤、ワックスおよびその組み合わせからなる群から選択された1つ以上の任意選択の成分と、を含」むものを、願書に最初に添付された明細書(以下、「出願当初明細書」という。)の【0008】、【0030】の記載に基づいて、「溶融混合することにより得られる」ものに限定するものである。
(2)上記(1)からみて、本件補正後の請求項1は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。また、本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が補正の前後において同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。

3 引用例
本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に頒布され原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された刊行物である特開2007-127828号公報(以下、「引用例」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
(1)「【0018】
次に、トナー処方について説明する。結晶性を有するポリエステル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)において結晶転移を起こすと同時に、固体状態から急激に溶融粘度が低下し、紙などの記録媒体への定着機能を発現する。一方、通常トナー用樹脂として用いられる非晶性樹脂は、Tgから徐々に溶融粘度が低下し、Tgと定着機能を発現するほど溶融粘度が低下する温度(たとえば軟化温度T(F1/2))との間には数10℃の差がある。したがって、非晶性樹脂のみを用いたトナーを低温定着にするためには、樹脂Tgを低くしたり、分子量を低くするなどして、T(F1/2)を下げる必要があるが、副作用として耐熱保存性や耐ホットオフセット性が不十分になりやすい。
そこで、結晶性を有するポリエステル樹脂と非晶性樹脂とを組み合わせることにより、非晶性樹脂だけではできなかった、耐熱保存性や耐ホットオフセット性の悪化を伴なわない溶融粘度の低下による低温定着化を達成できる。
【0019】
次に、脂肪酸金属塩の内添について説明する。本発明では、結晶性ポリエステル樹脂100重量部に対して脂肪酸金属塩を3乃至20重量部加え、溶融混練することが好ましい。本発明で用いられる脂肪酸金属塩としては、結晶構造を有するステアリン酸などの脂肪酸金属塩が好ましく、具体的にはステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等が好ましい。また、結晶性ポリエステル樹脂を結晶化させるためには、脂肪酸金属塩が結晶構造を有することと、脂肪酸金属塩の凝固温度が結晶性ポリエステル樹脂の凝固温度より高いことが必要である. また、脂肪酸金属塩の軟化温度が結晶性ポリエステル樹脂の軟化温度より高いことが必要である.
結晶性ポリエステル樹脂に脂肪酸金属塩を加えることにより、これらが溶融混練された後に圧延冷却される際に、まず最初に凝固点の高い脂肪酸金属塩が高温で結晶化する。次に、脂肪酸金属塩より凝固点の低い結晶性ポリエステル樹脂が、先に形成された脂肪酸金属塩の結晶を核として結晶化する。一方、脂肪酸金属塩が存在しない場合には、結晶核が存在しないため結晶性ポリエステル樹脂が結晶化しにくく、凝固点が低くなる。すなわち、脂肪酸金属塩を添加することにより結晶性ポリエステル樹脂の凝固点が上昇し高温で結晶化しやすくなる。
【0020】
次に、トナー構造について説明する。記録媒体である紙繊維に浸透し、かつトナーが融解して紙上で十分に広がりを持ち高い画像濃度を得ると同時に、耐熱保存性に優れたトナーとするための結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、低温定着性への効果を発現するために、結着樹脂全体量に対して5重量部以上必要である。この量が多くなると低温定着化への効果が大きいが、多すぎると結晶性を有する樹脂が耐ホットオフセット性が悪化する。したがって、多くても50重量%以下であることが好ましい。より好ましくは40重量%以下である。結晶性を有する樹脂は、ガラス転移温度(Tg)において急激に溶融粘度が低下するので、その含有量だけでなく、TgとT(F1/2)によっても定着下限温度を制御することが可能である。本発明においては、耐熱保存性が悪化しない範囲で低いことが好ましく、結晶性を有するポリエステル樹脂のTgが80乃至130℃の範囲、T(F1/2)が80乃至130℃の範囲にあることが好ましい。TgおよびT(F1/2)が上記範囲より低くなると、シャープメルト性を有し、低温定着性に効果を発現しやすい結晶性ポリエステルは合成が困難であり、130℃より高い場合には、定着下限温度が高くなるため低温定着性が得られなくなる。
本発明のトナーは、該トナー中に実質上相互に非相溶性の結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性樹脂とを含有させ、両者をトナー中に非相溶の相分離状態に存在させたことから、すぐれた耐ホットオフセット性と低温定着性を有する。即ち、本発明のトナーでは、結晶性ポリエステル樹脂、と非結晶性樹脂は、相分離状態で存在することから、結晶性ポリエステル樹脂、と非結晶性樹脂はそれぞれの固有の特性を発現する。即ち、高いT(F1/2)を有する非結晶性樹脂はトナーの弾性を高め、耐ホットオフセット性を向上させ、一方、低いT(F1/2)を有する結晶性ポリエステル樹脂は低温定着性を向上させる。
【0021】
なお、トナー中において、結晶性ポリエステル樹脂と非結晶性樹脂が相分離状態で存在するか否かは、以下に示すいずれかの方法により確認することができる。
(I)トナーのDSC1回目の昇温による吸熱ピーク測定により相分離構造の形成の有無を確認できる。DSC吸熱ピーク測定において、少なくとも非晶質樹脂、離型剤及び結晶性ポリエステル樹脂にそれぞれ帰属される3つの吸熱ピーク(A)、(B)、(C)が存在し、非結晶性樹脂に帰属される吸熱ピーク(A)が40乃至70℃の範囲にピークトップを有するものであり、離型剤に帰属される吸熱ピーク(B)が70乃至90℃の範囲にピークトップを有するものであり、結晶性ポリエステル樹脂に帰属される吸熱ピーク(C)が80乃至130℃の範囲にピークトップを有するものである。
(II)トナーの粉末X線回折装置によるX線回折パターン測定により、相分離構造の形成の有無を確認できる。これは、本発明のトナーの場合、結晶性を有するポリエステル樹脂が結晶性を保持した状態で非晶質のポリエステル樹脂と相分離した状態でトナー中に存在することから、結晶性ポリエステル樹脂に帰属される回折ピークが少なくとも2θ=20°乃至25°の位置に存在する。相分離構造が形成されていない場合は、結晶性ポリエステル樹脂の結晶構造が維持されずに非晶質のポリエステル樹脂と相溶するために結晶性ポリエステル樹脂に帰属する回折ピークが現れない。」

(2)「【0030】
次に、非晶質製樹脂について説明する。結晶性を有するポリエステル樹脂と併用する結着樹脂は非晶性(非結晶性)樹脂であり、これには従来公知の樹脂がすべて使用可能である。・・・」

(3)「【0034】
次に、離型剤について説明する。本発明においてトナーに使用される離型剤としては公知のものが全て使用できるが、特に脱遊離脂肪酸型カルナウバワックス、ポリエチレンワックス、モンタンワックス及び酸化ライスワックスを単独又は組み合わせて使用することができる。カルナウバワックスとしては、微結晶のものが良く、酸価が5以下であり、トナーバインダー中に分散した時の粒子径が1μm以下の粒径であるものが好ましい。モンタンワックスについては、一般に鉱物より精製されたモンタン系ワックスを指し、カルナウバワックス同様、微結晶であり、酸価が5乃至14であることが好ましい。酸化ライスワックスは、米ぬかワックスを空気酸化したものであり、その酸価は10乃至30が好ましい。その理由は本発明のトナー結着樹脂に対してこれらのワックスは適度に微分散するため後述するようにオフセット防止性と転写性・耐久性ともに優れたトナーとすることが容易なためである。これらワックス類は1種又は2種以上を併用して用いることができる。
その他の離型剤としては、固形シリコーンワックス、高級脂肪酸高級アルコール、モンタン系エステルワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等、従来公知のいかなる離型剤をも混合して使用できる。
本発明のトナーに使用する離型剤のTgは70乃至90℃が好ましい。70℃未満ではトナーの耐熱保存性が悪化し、90℃超では低温での離型性が発現されず、耐コールドオフセット性の悪化、定着機への紙の巻付きなどが発生する。これらの離型剤の使用量は、トナー樹脂成分に対し、1乃至20重量部、好ましくは3乃至10重量部である。1重量%未満ではオフセット防止効果が不十分であり20重量%を超えると転写性、耐久性が低下する。【0035】
次に、着色剤について、説明する。本発明のカラートナーに用いられる着色剤としては、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック各色のトナーを得ることが可能な公知の顔料や染料が使用できる。例えば、黄色顔料としては、カドミウムイエロー、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキが挙げられる。また、橙色顔料としては、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、インダンスレンブリリアントオレンジRK、ベンジジンオレンジG、インダンスレンブリリアントオレンジGKが挙げられる。赤色顔料としては、ベンガラ、カドミウムレッド、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウォッチングレッドカルシウム塩、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3Bが挙げられる。
紫色顔料としては、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキが挙げられる。青色顔料としては、コバルトブルー、アルカリブルー、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダンスレンブルーBCが挙げられる。緑色顔料としては、クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキが挙げ
られる。黒色顔料としては、カーボンブラック、オイルファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、アニリンブラック等のアジン系色素、金属塩アゾ色素、金属酸化物、複合金属酸化物が挙げられる。これらは、1種または2種以上を使用することができる。
【0036】
次に、荷電制御剤について、説明する。本発明のカラートナーは必要に応じ荷電制御剤をトナー中に含有させることができる。例えば、ニグロシン、炭素数2?16のアルキル基を含むアジン系染料(特公昭42-1627号公報)、塩基性染料、例えばC.I.Basic Yello 2(C.I.41000)、C.I.Basic Yello 3、C.I.Basic Red 1(C.I.45160)、C.I.Basic Red 9(C.I.42500)、C.I.Basic Violet 1(C.I.42535)、C.I.Basic Violet 3(C.I.42555)、C.I.Basic Violet 10(C.I.45170)、C.I.Basic Violet 14(C.I.42510)、C.I.Basic Blue 1(C.I.42025)、C.I.Basic Blue3(C.I.51005)、C.I.Basic Blue 5(C.I.42140)、C.I.Basic Blue 7(C.I.42595)、C.I.Basic Blue 9(C.I.52015)、C.I.Basic Blue 24(C.I.52030)、C.I.Basic Blue 25(C.I.52025)、C.I.Basic Blue 26(C.I.44045)、C.I.Basic Green 1(C.I.42040)、C.I.Basic Green 4(C.I.42000)など及びこれらの塩基性染料のレーキ顔料、C.I.Solvent Black 8(C.I.26150)、ベンゾイルメチルヘキサデシルアンモニウムクロライド、デシルトリメチルクロライド等の4級アンモニウム塩、或いはジブチル又はジオクチルなどのジアルキルスズ化合物、ジアルキルスズボレート化合物、グアニジン誘導体、アミノ基を含有するビニル系ポリマー、アミノ基を含有する縮合系ポリマー等のポリアミン樹脂、特公昭41-20153号公報、特公昭43-27596号公報、特公昭44-6397号公報、特公昭45-26478号公報に記載されているモノアゾ染料の金属錯塩、特公昭55-42752号公報、特公昭59-7385号公報に記載されているサルチル酸、ジアルキルサリチル酸、ナフトエ酸、ジカルボン酸のZn、Al、Co、Cr、Fe等の金属錯体、スルホン化した銅フタロシアニン顔料、有機ホウ素塩類、含フッ素四級アンモニウム塩、カリックスアレン系化合物等が挙げられる。ブラック以外のカラートナーは、当然目的の色を損なう荷電制御剤の使用は避けるべきであり、白色のサリチル酸誘導体の金属塩等が好適に使用される。

・・・略・・・

【0038】
次に、トナー製造工法について、説明する。本発明のトナーの製造法は溶融混練-粉砕法、重合法など従来公知の方法が適用できる。また、その製造工程では、少なくとも下記工程を有するものである。
工程1 原材料を攪拌混合する工程
工程2 工程1の混合物を溶融混錬する工程
工程3 工程2の溶融混練物を圧延冷却する工程
工程4 工程3の圧延冷却物を粉砕する工程
工程5 工程4の粉砕物を分級する工程
工程6 工程5の分級物に添加剤を混合する工程
なお、工程1の工程において、結晶性ポリエステル樹脂と脂肪酸金属塩を他の原材料と同時に投入する代わりに、結晶性ポリエステル樹脂と脂肪酸金属塩の攪拌混合物、あるいは結晶性ポリエステル樹脂と脂肪酸金属塩の溶融混練物を用いることにより、結晶性ポリエステル樹脂と脂肪酸金属塩を均一に混合された状態にして用いることが好ましい。」

(4)「【実施例】
【0039】
以下、本発明を下記の実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、トナー現像剤処方における部数はすべて重量部である。
<トナー現像剤>
<トナーの製造例1>
結晶性ポリエステル樹脂A1 16部
非結晶性ポリエステル樹脂B-H1 65部
非結晶性ポリエステル樹脂B-L1 10部
ステアリン酸亜鉛(日本油脂MZ-2、軟化温度133℃) 4部
サリチル酸Zr塩(保土ヶ谷化学TN-105) 1部
脱遊離脂肪酸型カルナウバワックス(Tg:83℃) 5部
カーボンブラック(三菱化学 #44) 10部
上記のトナー構成材料をヘンシェルミキサー中で十分撹拌混合した後、Buss社コニーダにてスクリュー回転数80rpm、混合物の供給速度を10kg/hとし、混錬条件については、混練物を低温(混練物が溶融状態になる範囲での最低温度)の状態で混錬を行うべく、混錬機の温度設定を行った結果、スクリュー温度を40℃として混練機出口での混錬品の温度が120℃となるよう混錬機の温度設定を行った。次にこの混練物を圧延ロールにて6mmの厚みになるよう圧延冷却し圧延物を得た。この圧延物をホソカワミクロン社製APパルペライザーを用いて粒経1mm以下に粗粉砕し、続いてターボ工業社製ターボミルを用いて微粉砕し重量平均粒径6.5μmのトナー母体を得た。得られたトナー母体を分級し疎水性シリカ(平均一次粒径20nm、かさ密度0.15mg/cm^(2))0.5wt%と酸化チタン0.3wt%を添加混合し、最終的なトナーとした。ここで、結晶性ポリエステル樹脂A1の16部に対してステアリン酸亜鉛は4部である。したがって、ステアリン酸亜鉛は結晶性ポリエステル樹脂A1の100重量部に対して、25重量部になる。」

(5)上記(1)ないし(4)から、引用例には次の発明が記載されているものと認められる。
「結晶性ポリエステル樹脂100重量部に対して脂肪酸金属塩を3乃至20重量部加えて撹拌混合し、混合物を溶融混練したトナー用溶融混練物であって、
他に、結晶性を有するポリエステル樹脂と併用する結着樹脂としての非晶性樹脂、離型剤及び着色剤を含み、
結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、結着樹脂全体量に対して5重量%以上50重量%以下であり、
離型剤の使用量は、トナー樹脂成分に対し、1乃至20重量部である、
トナー用溶融混練物。」(以下、「引用発明」という。)

4 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「非晶性樹脂」、「『結晶性ポリエステル樹脂』又は『結晶性を有するポリエステル樹脂』」、「脂肪酸金属塩」、「着色剤」、「離型剤」及び「トナー用溶融混練物」は、それぞれ、本願補正発明の「非晶質樹脂」、「結晶性樹脂」、「脂肪酸塩」、「着色剤」、「ワックス」及び「トナー組成物」に相当する。

(2)ア 引用発明は、「結晶性樹脂(結晶性ポリエステル樹脂)」(引用発明の用語を本願補正発明の用語に置き換えた。()内は置き換え前の引用発明の用語。以下同様。)100重量部に対して「脂肪酸塩(脂肪酸金属塩)」を3乃至20重量部加えて撹拌混合し、混合物を溶融混練した「トナー組成物(トナー用溶融混練物)」であって、他に「非晶質樹脂(非晶性樹脂)」、「ワックス(離型剤)」及び「着色剤(着色剤)」を含むものである。
イ 引用発明において、結着樹脂は、「結晶性樹脂」と「非晶質樹脂」とからなるが、引用例の【0019】(上記3(1))に記載されているように、「結晶性樹脂」は、その結晶化に際し、高温で結晶化した「脂肪酸塩」を核として結晶化するものであるから、引用発明の「非晶質樹脂」、「結晶性樹脂」及び「脂肪酸塩」が、本願補正発明の「少なくとも1つの非晶質樹脂、少なくとも1つの結晶性樹脂、および脂肪酸塩を含むバインダー樹脂」であるといえることは明らかである。
ウ 上記アのように、引用発明は、「ワックス」及び「着色剤」を含むから、本願補正発明の「着色剤、ワックスおよびその組み合わせからなる群から選択された1つ以上の任意選択の成分」を含むことは明らかである。
エ 引用例の【0038】(上記3(3))には、原材料を撹拌混合する工程1において結晶性ポリエステル樹脂と脂肪酸金属塩を他の原材料と同時に投入することが記載されており、例えば【0039】(上記3(4))には、具体的に、結晶性ポリエステル樹脂A1、非結晶性ポリエステル樹脂B-H1、非結晶性ポリエステル樹脂B-L1、ステアリン酸亜鉛(日本油脂MZ-2、軟化温度133℃)、サリチル酸Zr塩(保土ヶ谷化学TN-105)、脱遊離脂肪酸型カルナウバワックス(Tg:83℃)及びカーボンブラック(三菱化学 #44)のトナー構成材料をヘンシェルミキサー中で十分撹拌混合した後、混練物が溶融状態になる範囲での最低温度の状態で混錬を行ってトナー母体を得ていることが記載されている。当該記載は、「非晶質樹脂」である「非結晶性ポリエステル樹脂B-H1、非結晶性ポリエステル樹脂B-L1」、「結晶性樹脂」である「結晶性ポリエステル樹脂A1」、「脂肪酸塩」である「ステアリン酸亜鉛」、「着色剤」である「カーボンブラック」、及び、「ワックス」である「脱遊離脂肪酸型カルナウバワックス」を溶融混合してトナー用溶融混練物を得ていることを示したものである。
オ 上記アないしエからみて、引用発明においては、溶融混練する「混合物」として、「少なくとも1つの非晶質樹脂、少なくとも1つの結晶性樹脂、および脂肪酸塩を含むバインダー樹脂」と、「着色剤、ワックスおよびその組み合わせからなる群から選択された1つ以上の任意選択の成分」とを含むこともその一例と解されるから、引用発明と、本願補正発明とは、「少なくとも1つの非晶質樹脂、少なくとも1つの結晶性樹脂、および脂肪酸塩を含むバインダー樹脂と、着色剤、ワックスおよびその組み合わせからなる群から選択された1つ以上の任意選択の成分と、を溶融混合することにより得られる」点で一致する。

(3)上記(1)及び(2)からみて、本願補正発明と引用発明とは、
「少なくとも1つの非晶質樹脂、少なくとも1つの結晶性樹脂、および脂肪酸塩を含むバインダー樹脂と、
着色剤、ワックスおよびその組み合わせからなる群から選択された1つ以上の任意選択の成分と、
を溶融混合することにより得られるトナー組成物。」である点(以下、「一致点」という。)で一致し、次の点で相違する。

・相違点:
前記「脂肪酸塩」が、
本願補正発明では、「ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛ラウレート、パルミチン酸亜鉛及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選ばれ」、「トナー組成物の5重量%から10重量%の量で存在する」のに対し、
引用発明では、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛ラウレート、パルミチン酸亜鉛及びステアリン酸マグネシウムからなる群から選ばれておらず、トナー組成物の5重量%から10重量%の量で存在するかどうかが明らかでない点。

5 判断
(1)上記相違点について検討する。
ア トナーに添加される脂肪酸金属塩として、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛ラウレート、パルミチン酸亜鉛又はステアリン酸マグネシウムを用いることは周知(以下、「周知技術」という。例.原査定で引用された特開平6-19188号公報(「【請求項1】トナー粒子と、無機化合物微粉末で表面が被覆された滑剤微粒子とを含有することを特徴とする静電荷像現像用乾式トナー。」との記載、「【0014】・・・本発明において滑剤微粒子を構成する材料としては、・・・、ラウリン酸亜鉛、・・・、パルミチン酸亜鉛、・・・、ステアリン酸マグネシウム、・・・等の脂肪族金属塩類、・・・を例示することができるが、これらに限定されるものではない。」との記載参照。)、原査定で引用された特開2005-78081号公報(「【0038】・・・粒子サイズを減少させ分級した後、トナーに、2.8%の二酸化シリカ、2.1%の二酸化チタン、および0.24%のラウリン酸ステアリン酸亜鉛の外部添加剤を添加した。」との記載参照。)、特開2001-117275号公報(「【0026】<電子写真用カラートナー>前記本発明の電子写真用カラートナーは、少なくとも結着樹脂、着色剤及び淡色若しくは無色の微粒子からなるトナー粒子を含んでなり、必要に応じて、他の成分を有していてもよい。」との記載、「【0108】(他の成分)前記他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択すればよい。例えば、低融点滑剤、帯電制御剤等の内添剤、他の無機微粒子、他の有機微粒子等の外添剤等、公知の各種添加剤が挙げられる。前記低融点滑剤は、一般に耐オフセット性を向上させる目的で用いられ、具体的には、・・・脂肪酸金属塩(例えば、・・・、ステアリン酸マグネシウム、・・・等が挙げられる。」との記載参照。))である。
イ 引用例には、その【0019】(上記3(1))に「脂肪酸金属塩としては、結晶構造を有するステアリン酸などの脂肪酸金属塩が好ましく、具体的にはステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等が好ましい」と記載され、当該記載からみて、脂肪酸金属塩として、具体的に「ステアリン酸亜鉛」及び「ステアリン酸カルシウム」を例示しているものの、その他の脂肪酸金属塩を排除するものではないと解される。
ウ 本願の明細書には、具体的な脂肪酸塩の例示としては、「【0022】 本開示によれば、前記結晶性および非晶質樹脂に脂肪酸塩を付加して、前記バインダー樹脂の形成における前記結晶性および非晶質樹脂の可塑化効果を低減する。適切な脂肪酸塩を非限定的に挙げると、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛ラウレート、ステアリン酸カルシウム、その組み合わせなどがある。より長いかまたはより短い炭素鎖長脂肪酸塩(例えば、パルミチン酸亜鉛)も適切であり、他の金属の他の脂肪酸塩(例えば、ステアリン酸マグネシウム)も適切であると考えられる。」とだけ記載され、「ラウリン酸亜鉛」、「ステアリン酸亜鉛ラウレート」、「パルミチン酸亜鉛」及び「ステアリン酸マグネシウム」からなる群から選ばれる「脂肪酸塩」を用いた「トナー組成物」が、「ステアリン酸亜鉛」及び「ステアリン酸カルシウム」からなる群から選ばれる「脂肪酸塩」を用いた「トナー組成物」に比べ、格別顕著な効果を奏するものとは認められず、脂肪酸金属塩として「ステアリン酸亜鉛」及び「ステアリン酸カルシウム」を選択せずに、「ラウリン酸亜鉛」、「ステアリン酸亜鉛ラウレート」、「パルミチン酸亜鉛」及び「ステアリン酸マグネシウム」のいずれかを選択をすることについて格別の技術的意義を見出すことができない。
エ 上記アないしウからみて、引用発明において、脂肪酸金属塩として、ステアリン酸亜鉛に換えて、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛ラウレート、パルミチン酸亜鉛及びステアリン酸マグネシウムのうち、いずれかを選択することは当業者が周知技術に基づいて適宜なし得たものである。
オ 引用発明は、結晶性ポリエステル樹脂100重量部に対して脂肪酸金属塩を3乃至20重量部加え、結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、結着樹脂全体量に対して5重量%以上50重量%以下であり、離型剤の使用量がトナー樹脂成分、すなわち結着樹脂成分に対して1乃至20重量部である。また、引用発明では、着色剤の含有量が不明であるが、引用例の【0039】(上記3(4))の記載より、カーボンブラックは10部含有されているから、結着樹脂に対して11重量%(=10÷(16+65+10))程度であると推認できる。
カ 上記オからみて、引用発明において、結着樹脂全体量を100部とすると、結晶性ポリエステル樹脂が5ないし50部、脂肪酸金属塩が0.15部(=5×0.03)ないし10部(=50×0.2)、離型剤が1ないし20部、着色剤11部であるから、脂肪酸金属塩がトナーの全体量に対して、0.11重量%(=0.15÷(100+0.15+20+11))ないし8.20重量%(=10÷(100+10+1+11))程度となる。
キ 本願明細書の【0023】には、「前記脂肪酸塩は、適切な量で前記非晶質樹脂および前記結晶性樹脂に付加することができる。そのため、トナー中に含まれる前記脂肪酸塩の量は、前記トナーの約0.5%重量パーセント?約12%重量パーセント(実施形態において、前記トナーの約5%重量パーセント?約10%重量パーセント)であり得る。」と記載され、本願明細書のその他の箇所にも、トナー中に含まれる脂肪酸塩が「約0.5重量パーセント?約12重量パーセント」の範囲のうち、特に「約5重量パーセント?約10重量パーセント」の範囲が、格別顕著な効果を奏することの記載はなく、脂肪酸塩の含有量が「5重量パーセント」?「10重量パーセント」の範囲であることに臨界的意義があるとはいえないから、この点に格別の技術的意義を見出すことはできない。
ク 引用発明は、脂肪酸金属塩がトナー用溶融混練物の0.11ないし8.20重量%の範囲で存在し得るといえるが、上記オないしキからみて、引用発明において、脂肪酸塩(脂肪酸金属塩)が、トナー組成物(トナー用溶融混練物)の5重量%から8.20重量%の量で存在するようになすことは当業者が適宜なし得た事項である。
ケ 上記アないしクからみて、引用発明において、上記相違点に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が周知技術に基づいて容易になし得たことである。

(2)本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測することができた程度のものである。

(3)よって、本願補正発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。
本願補正発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

6 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年7月17日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定されるものであるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記「第2〔理由〕1(1)」に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 引用例
引用例及びその記載事項は、上記「第2〔理由〕3」に記載したとおりである。

3 対比・判断
本願発明は、上記「第2〔理由〕1(2)」に記載したとおり、「溶融混合することにより得られる」という限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、上記「第2〔理由〕4(3)」に記載した上記相違点で相違する。
そして、引用発明において、相違点に係る本願補正発明の構成となすことは、上記「第2〔理由〕5(1)」に記載したとおり、当業者が容易になし得たものであるから、本願発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-08 
結審通知日 2015-12-09 
審決日 2015-12-22 
出願番号 特願2011-90184(P2011-90184)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G03G)
P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高松 大  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 鉄 豊郎
清水 康司
発明の名称 トナー組成物  
代理人 辻居 幸一  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 市川 さつき  
代理人 箱田 篤  
代理人 山崎 一夫  
代理人 浅井 賢治  

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