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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09C
管理番号 1314663
審判番号 不服2014-24499  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-01 
確定日 2016-05-11 
事件の表示 特願2010-538418「導電性コアを有する濃色および/または光学可変性の顔料」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月25日国際公開、WO2009/077123、平成23年 3月 3日国内公表、特表2011-506700〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 出願の経緯
本願は、2008年12月11日の国際出願日(パリ条約に基づく優先権主張:2007年12月19日 (DE)ドイツ)に出願されたものとみなされる特許出願であって、平成25年4月24日付けの拒絶理由通知に対して、その指定期間内である同年11月7日付けで手続補正書が提出されたが、平成26年7月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年12月1日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出されたものである。

第2 平成26年12月1日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年12月1日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
(2-1)補正事項
本件補正は、請求項1、12についてする補正を含むものであって、その補正前後の記載は次のとおりである。(当審注:下線部は、補正箇所である。)

ア 補正前(平成25年11月7日付け手続補正書)
「【請求項1】
フレーク状の透明または半透明の導電性コアと、該導電性コアを取り囲む少なくとも1つの着色用誘電体層とを有する顔料であって、該導電性コアが、透明または半透明のフレーク状基体と、該フレーク状基体のすべての面または両面に配置されたコーティング層とを有し、該コーティング層が単層または多層の構造を有し、少なくとも該コーティング層の外層が導電層であり、該導電層が1種または複数種のドープした金属酸化物を含む、厚みが15nm以上の層である顔料。」
「【請求項12】
請求項1?11のいずれかの一項に記載の顔料の製造方法であって、次のステップを含む方法:
a)任意選択で、フレーク状の透明または半透明の基体を、1つまたは複数の誘電体層でコーティングするステップと、
b)前記基体の両面またはすべての面を、1種または複数種のドープした金属酸化物を含む、厚みが15nm以上である導電層でコーティングして、導電性コアを得るステップと、
c)前記導電性コアのすべての面を、少なくとも1つの着色用誘電体層でコーティングするステップ。」

イ 補正後
「【請求項1】
フレーク状の透明または半透明の導電性コアと、該導電性コアを取り囲む少なくとも1つの着色用誘電体層とを有する顔料であって、該導電性コアが、透明または半透明のフレーク状基体と、該フレーク状基体のすべての面または両面に配置されたコーティング層とを有し、該コーティング層が単層または多層の構造を有し、少なくとも該コーティング層の外層が導電層であり、該導電層が1種または複数種のドープした金属酸化物を含む、厚みが15nm以上の層であり、フレーク状基体を基準とする導電層の割合が40?75重量%である顔料。」
「【請求項12】
請求項1?11のいずれかの一項に記載の顔料の製造方法であって、次のステップを含む方法:
a)任意選択で、フレーク状の透明または半透明の基体を、1つまたは複数の誘電体層でコーティングするステップと、
b)前記基体の両面またはすべての面を、1種または複数種のドープした金属酸化物を含む、厚みが15nm以上であり、フレーク状基体を基準とする導電層の割合が40?75重量%である導電層でコーティングして、導電性コアを得るステップと、
c)前記導電性コアのすべての面を、少なくとも1つの着色用誘電体層でコーティングするステップ。」

(2-2)補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1、12におけるフレーク状基体と導電層の質量的関係を、任意のものから、「フレーク状基体を基準とする導電層の割合が40?75重量%である」に限定するものであり、かつ、本件補正前後で、各請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であるから、上記補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

(2-3)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(2-3-1)引用例に記載の事項
(2-3-1-1)本願優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな特表2003-530457号公報(原査定の引用文献1:以下、「引用例A」という。)には、以下の記載がある。
(A1)
「【請求項1】 角度選択的反射または透過特性および/または吸収特性を有する薄片状基材をベースにした多層顔料を含んでなる透明媒体であって、その媒体の夏季における太陽光透過度(55?70°の太陽光入射角)と冬季における太陽光透過度(5?20°の太陽光入射角)との比が10?60%の範囲にあることを特徴とする透明媒体。」

(A2)
「【0007】
DE 197 56 037 A1に開示されている顔料添加透明媒体は、冬季に太陽光を利用するのみならず、夏季に建物を過熱から保護することにより、この問題を解決した。この目的において、例えば真珠光沢顔料のような角度選択的透過性を有する顔料を用いて建物および部屋の過熱が防止される。空で太陽の低い冬季月よりも太陽が高い夏季において、0.25?2.5μmの波長領域における太陽光が顔料添加領域によりより少ない程度に透過される。真珠光沢顔料の透過特性は、被覆材料の屈折率および吸収特性、層厚および層配列順により決められる。
【0008】
本発明の目的は、TTIの角度選択的遮光の効果を著しく増加させることにある。
【0009】
多層顔料は、その着色特性のために興味深いのみならず、機能領域においてますます多く使用されている。多層顔料は、可視波長領域において、色印象の原因となる特性である選択的反射性および透過性を示す。この波長依存性反射性または透過性は、近紫外領域まで拡張することができ、農業用シートにおいて部分的に利用される。一方、多層顔料は、入射光の入射角度に依存して、異なる反射または透過および吸収を示す。このように、多層顔料の適用の完全に新しい機能領域は、建物壁の設計における構造分野において見られるはずである。
【0010】
光学的特性の角度依存性は、異なる屈折率の被覆材料の適当な選択および組み合わせにより増すことができる。顔料の最大透過率の波長と最大太陽エネルギーの波長は、垂直太陽光の場合、理想的には一致するが、平坦入射の場合、すなわち、垂直から60°を超える角度の入射の場合は、最大値は互いに大きく変化する。入射角0°と60°とにおける透過度間の比は、このように、従来の真珠光沢顔料についての0.6から理想的多層顔料についての0.1まで下げることができる。
【0011】
驚くべきことに、多層顔料の使用時に、従来の真珠光沢顔料の場合よりも、かなり大きな遮光効果を達成し得ることが発見された。複数層の適当な組み合わせにより、顔料の角度依存透過挙動を補強し、特定の建物壁の要求に合わせることができる。多層顔料の使用は、冬季と夏季とにおける太陽光透過率間の比を、従来の真珠光沢顔料についての0.5?0.85から多層顔料についての0.1?0.6に低下可能にする。
【0012】
これらの多層顔料の建物壁への対応する用途において、冬季には太陽光の透過、すなわち建物壁の加熱を達成し得るが、夏季には太陽光の反射/吸収、すなわち、建物壁の遮光を達成し得る。」(当審注:TTIとは、引用例Aの【0003】によれば、「透明断熱」のことである。)

(A3)
「【0015】
角度選択的反射または透過特性および吸収特性を有すると共に、夏季における太陽光透過度(55?70°の太陽光入射角)と冬季における太陽光透過度(5?20°の太陽光入射角)との比が0.1?0.6、好ましくは0.5未満、特に0.3?0.5の範囲にある、当業者に知られた全ての多層顔料が、本発明において適している。」

(A4)
「【0019】
例えばDE-A 196 18 563、DE-A 196 18 566、DE-A 196 18 569、DE-A 197 07 805、DE-A 197 07 806およびDE-A 197 46 067に開示された多層顔料は、例えば雲母(合成または天然)、SiO_(2)、ガラス、TiO_(2)、グラファイトまたはAl_(2)O_(3)薄片からなり、通常は厚さが0.3?5μm、特に0.4?2.0μmである薄片状の透明、着色または無色マトリックスに基づく。他の2つの寸法の程度は通常1?250μm、好ましくは2?100μm、特に5?40μmである。多層顔料は、着色または無色金属酸化物(少なくとも2種)、希土類金属硫化物、例えば、Ce_(2)S_(3)、オキシスルフィドまたは金属スルフィドで被覆されたマトリックス(基材)からなる。複数層による基材薄片の被覆は、屈折率が低いものと高いものの交互層からなる層構造が形成されるように行われる。多層顔料は、好ましくは2、3、4、5、6または7層、特に3、4または5層を含む。
【0020】
屈折率の高い適当な金属酸化物は、例えば、二酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化鉄(Fe_(2)O_(3)またはFe_(3)O_(4))、鉄/チタン酸化物(チタン酸鉄)および/または酸化クロム、BiOCl、FeO(OH)、スピネル、チタン酸塩、アルミン酸塩、クロム酸塩、タングステン青銅、酸化錫(ドープされたもの)、または窒化物、例えば、TiN、特に、TiO_(2)および/またはFe_(2)O_(3)である。ドープされた酸化錫は、好ましくは、アンチモン、フッ素および/またはリンが、ドープされたSnを基準に0.5?15重量%の量で提供された酸化錫である。特に好ましいのは(Sn,Sb)O_(2)である。
【0021】
用いられる低屈折率金属酸化物はSiO_(2)およびAl_(2)O_(3)である。MgF_(2)、有機ポリマー(例えば、アクリレート)、B_(2)O_(3)、ゼオライトまたはホウ珪酸塩も好適である。基材薄片の被覆は、例えば、WO93/08237(湿潤化学的被覆)またはDE-A-196 14 637(CVD法)に記載のように行うことができる。
【0022】
要すれば、特に基材がSiO_(2)またはAl_(2)O_(3)の場合、透明基材に多層システムの光学的機能を持たせることができる。」

(A5)
「【0041】
(実施例)
実施例1
Cerdecフリット10049(独国、Cerdec社製のガラス粉末)中に33%含まれるTimiron(登録商標)Splendid Red(独国、Merck KGaA社製のTiO_(2)、SiO_(2)およびTiO_(2)で被覆された雲母薄片に基づく多層顔料)、焼成品
被覆処方:
ボールミル中で1:1の重量比で粉砕されたCerdec社製のCerdecフリット10049/スクリーン印刷媒体80683(2-エトキシエタノールおよびエタノール中にヒドロキシプロピルセルロースエーテルを含んでなるバインダー)
10g
Timiron(登録商標)Splendid Red(Merck KGaA社製の多層顔料)
2.5g
700℃で10分間焼成された、51Tスクリーン繊維上に印刷されたスクリーン印刷媒体80683
20g
【0042】(省略)
【0043】(省略)
【0044】(省略)
【0045】
実施例5
Cerdecフリット10049中に25%含まれる、(Sn,Sb)O_(2)で被覆され続いてSiO_(2)およびTiO_(2)で被覆された粒径10?60μmのAl_(2)O_(3)薄片、焼成品
被覆処方:
ボールミル中で1:1の重量比で粉砕されたCerdecフリット10049/スクリーン印刷媒体80683
15g
(Sn,Sb)O_(2)で被覆され続いてSiO_(2)およびTiO_(2)で被覆された粒径10?60μmのAl_(2)O_(3)薄片
2.5g
700℃で10分間焼成された、51Tスクリーン繊維上に印刷されたスクリーン印刷媒体80683
30g
【0046】
比較例(単層顔料)
Cerdecフリット10049中に33%含まれるIriodin(登録商標)219(Merck KGaA社製のTiO_(2)(ルチル)で被覆された雲母薄片をベースにした単層顔料)、焼成品
被覆処方:
ボールミル中で1:1の重量比で粉砕されたCerdecフリット10049/スクリーン印刷媒体80683
10g
Iriodin(登録商標)219(Merck KGaA社製の単層顔料)
2.5g
700℃で10分間焼成された、51Tスクリーン繊維上に印刷されたスクリーン印刷媒体80683
20g
Timiron(登録商標)Splendid Red(実施例1)については、入射角を8°から60°に変化させたとき、VIS透過最大値が短波長側に40nm移動するが、この移動はIriodin(登録商標)219については僅かに13nmである。」

(2-3-1-2)本願優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな特表2005-502738号公報(原査定の引用文献2:以下、「引用例B」という。)には、以下の記載がある。
(B1)
「【請求項1】
ガラスフレークが高屈折率層と低屈折率層で交互に被覆されていることおよびガラスフレークが少なくとも3層に被覆されていることを特徴とするガラスフレークを基礎とする多層顔料。
【請求項2】
顔料が下記被覆からなる一層配列を少なくとも有することを特徴とする請求項1に記載の多層フレーク:
(A)屈折率n>1.8である被覆、
(B)屈折率n≦1.8である被覆、および、
(C)屈折率n>1.8である被覆、
および、もし必要ならば、
(D)保護外層。
但し、層束(A)+(B)が標準層集合(A)+(B)+(C)4回まで存在してもよい。
【請求項3】
ガラスフレークが厚み1μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の多層顔料。
【請求項4】
(省略)
【請求項5】
高屈折率層がTiO_(2)、Fe_(2)O_(3)、TiFe_(2)O_(5)、Fe_(3)O_(4)、BiOCl、Cr_(2)O_(3)、ZrO_(2)、ZnO、SnO_(2)、CoO、Co_(3)O_(4)、VO_(2)、V_(2)O_(3)、チタン酸鉄、酸化鉄水和物、チタンサブオキサイド、バナジン酸ビスマス、アルミン酸コバルト、金属硫化物、金属カルコゲナイド、金属窒化物、金属酸化窒化物、金属カーバイド、あるいはこれらの混合物からなることを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の多層顔料。
【請求項6】
低屈折率層がSiO_(2)、Al_(2)O_(3)、AlO(OH)、B_(2)O_(3)、MgF_(2)、あるいはこれらの混合物からなることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の多層顔料。
【請求項7】
下記層構造を有することを特徴とする請求項2に記載の多層顔料:
【表1】

そして、もし必要ならば、
(D)保護外層。」

(B2)
「【0003】
高屈折率層と低屈折率層を交互にした多層干渉顔料は公知である。それらは担体物質のおよび個別層の物質の点において、および製造工程において異なる。層は湿式工程での製造によるか真空下における気相蓄積かスパッタリングによって形成される。担体にあるいはリリース層に付け加える層は、すべて光学的に活性であり、干渉色の発生に寄与する。」

(B3)
「【0021】
好ましいガラスフレークは1μm未満、好ましくは0.8μm未満の厚みを有している。特に厚み0.5μm以下のガラスフレークが好ましい。ガラスは、例えばAガラス、Cガラス、Eガラス、ECRガラスのように分類できる。本発明では石英ガラスが好ましいがこのガラスは非常に高価である。
【0022】
EP 0 289 240 B1に従って好ましく製造された適当なガラスフレークは、5?1000μmの範囲、好ましくは5?150μmの範囲内の平均粒子サイズであることを特徴とする。好ましいガラスフレークは平均粒子サイズ5?150μmで、厚み0.1?0.8μm、好ましくは0.2?0.5μmである。ガラスフレークのアスペクト比は10?300の範囲、好ましくは50?200の範囲である。
【0023】
ガラスフレークは通常の真珠光沢顔料と同様の方法で被覆される。金属酸化物での被覆は、引き続いての焼成される、水和された金属酸化物を堆積する、金属塩の加熱あるいはアルカリ状態下の加水分解のような、いかなる公知の方法によってなされても良い。一般に、工程はガラスフレークを分散させることおよびフレーク上に水和金属酸化物フィルム被覆を形成する前駆体と該分散物をあわせることを含む。
【0024】
基材上の高屈折率および低屈折率の個々の層の厚みは顔料の光学的性質に欠くことができない。意図した干渉色を有する顔料のためには、個々の層の厚みは互いに関して正確に調整されねばならない。
【0025】
nを薄層の屈折率とし、dをその厚みとした時、この層の干渉色は積n・d(n・d=光学厚み)で定義される。垂直の光照射下に反射光にそのようなフィルムから生じる色は波長[λ={4/(2N-1)}・n・d]の光の増強からと波長[λ={2/N}・n・d]光の減衰による結果である。ここでNは正の整数である。
【0026】
フィルム厚みを増すことによりもたらされる色の変化は干渉によりある波長の光が強められたり弱められたりする結果である。多層顔料の2以上の層が同じ光学厚みを有しているならば、反射された光の色は層の数が増すにつれて濃くなる。加えて、層厚みの適切な選択により視野角の作用として特に強調された多様色を達成することができる。きわだった、いわゆるカラーフロップ(color flop)が達成される。個々の層、好ましくは金属酸化物の層は、屈折率に関係なく、使用分野に依存し、一般に10?1000nm、好ましくは15?800nm、特に好ましくは20?600nmである。」

(B4)
「【0029】
高屈折率の層(A)は屈折率n>1.8、好ましくはn≧2.1を有する。層物質(A)として適当な、高屈折率を有する物質は技術労働者にとって総て公知の物質であり、フィルム様であり、基材粒子に均一に塗布できる。特に適当な物質は、TiO_(2)、Fe_(2)O_(3)、TiFe_(2)O_(5)、Fe_(3)O_(4)、BiOCl、CoO、Co_(3)O_(4)、Cr_(2)O_(3)、VO_(2)、V_(2)O_(3)、Sn(Sb)O_(2)、ZrO_(2)、ZnOまたはSnO_(2)、チタン酸鉄、酸化鉄水和物、チタンサブオキサイド(酸化状態4未満から2である還元されたチタン種)、バナジン酸ビスマス、アルミン酸コバルトのような、金属酸化物、金属硫化物あるいは金属酸化物であり、これら化合物の互いのあるいは他の金属酸化物との混合物あるいは混合層である。
【0030】
好ましくは、金属硫化物は、スズ、銀、ランタン、希土類金属(好ましくはセリウム)、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、コバルトおよび/またはニッケルの硫化物から選ばれる。
【0031】
層(A)の厚みは10?550nm、好ましくは15?400nm、特に好ましくは20?350nmである。
【0032】
被覆(B)に適当な低屈折率無色の物質としては、SiO_(2)、MgF_(2)、Al_(2)O_(3)、AlO(OH)、B_(2)O_(3)、あるいはこれらの混合物のような金属酸化物あるいは相当する金属酸化物水和物が好ましい。層(B)の厚みは10?1000nm、好ましくは20?800nm、特に好ましくは30?600nmである。
【0033】
高屈折率被覆(C)に特に適当な物質はTiO_(2)、Fe_(2)O_(3)、TiFe_(2)O_(5)、Fe_(3)O_(4)、BiOCl、CoO、Co_(3)O_(4)、Cr_(2)O_(3)、VO_(2)、V_(2)O_(3)、Sn(Sb)O_(2)、ZrO_(2)、ZnOまたはSnO_(2)、チタン酸鉄、酸化鉄水和物、チタンサブオキサイド、バナジン酸ビスマス、アルミン酸コバルトであり、これら化合物の互いのあるいは他の金属酸化物との混合物あるいは混合層である。加えるにTiO_(2)層は吸蔵される物質、例えば炭素をふくむことあるいはそれで被覆されることができる。TiO_(2)被覆(C)が部分的に還元されている、およびTiO_(2)とともに酸化状態が4未満から2である還元されたチタン種(Ti_(3)O_(5)、Ti_(2)O_(3)、TiOまで、チタン酸化窒化物のような低級酸化物、およびチタン窒化物も)を含む多層の被覆されたガラスフレークが特に有利である。金属酸化物層に着色剤を取り込むことによって、選択的に金属カチオンを吸収させて該層に吸蔵させることによってあるいは例えばプルシアンブルーやカーミンのような着色剤と共に金属層を被覆することによって、選択的に吸収した着色剤で着色された無色の高屈折率物資、例えば酸化ジルコニウム、特に二酸化チタンのような金属酸化物も用いることができる。層(C)の厚みは10?550nm、好ましくは15?400nm、特に好ましくは20?350nmである。」

(2-3-2)引用例A記載の発明
上記(A1)によれば、引用例Aには、塗料等の透明媒体に配合する「角度選択的反射または透過特性および/または吸収特性を有する薄片状基材をベースにした多層顔料」に関する発明が記載されており、上記(A3)によれば、当該多層顔料として、「角度選択的反射または透過特性および吸収特性を有すると共に、夏季における太陽光透過度(55?70°の太陽光入射角)と冬季における太陽光透過度(5?20°の太陽光入射角)との比が0.1?0.6、好ましくは0.5未満、特に0.3?0.5の範囲にある、当業者に知られた全ての多層顔料」が適している旨記載されている。
そして、(A5)の実施例5では、そのような多層顔料として、「(Sn,Sb)O_(2)で被覆され続いてSiO_(2)およびTiO_(2)で被覆された粒径10?60μmのAl_(2)O_(3)薄片」が示されている。

したがって、引用例Aには、
「角度選択的反射または透過特性および吸収特性を有すると共に、夏季における太陽光透過度(55?70°の太陽光入射角)と冬季における太陽光透過度(5?20°の太陽光入射角)との比が0.1?0.6の範囲にある、(Sn,Sb)O_(2)で被覆され続いてSiO_(2)およびTiO_(2)で被覆された粒径10?60μmのAl_(2)O_(3)薄片である多層顔料」(以下、「引用例A記載の発明」という。)が記載されていると認められる。

(2-3-3)対比・検討

本件補正発明と引用例A記載の発明とを対比する。

(2-3-3-1) 本願明細書の【0021】に「透明」、「半透明」の定義として、それぞれ「可視光線を、実質的にすなわち少なくとも90%程度、透過する」、「少なくとも10%、しかし、90%未満の可視光線を透過する」ことを意味するとあり、【0025】に、透明または半透明であるべき「フレーク状基体」として、「フレーク状Al_(2)O_(3)」が例示され、さらに、上記(A4)の【0022】に、「基材がSiO_(2)またはAl_(2)O_(3)の場合、透明基材」であると記載されていることからして、引用例A記載の発明の「Al_(2)O_(3)薄片」は、本件補正発明の『「フレーク状の透明または半透明の」「コア」』、「透明または半透明のフレーク状基体」に相当する。

(2-3-3-2) 上記(A4)の【0020】に、「ドープされた酸化錫は、好ましくは、アンチモン、フッ素および/またはリンが、ドープされた・・酸化錫である。特に好ましいのは(Sn,Sb)O_(2)である」と記載されているように、(Sn,Sb)O_(2)は、アンチモン(Sb)がドープした酸化スズ(SnO)を表すものであるから、引用例A記載の発明の「(Sn,Sb)O_(2)」は、本件補正発明の「1種の」「ドープした金属酸化物」に相当する。

(2-3-3-3) 引用例A記載の発明の「(Sn,Sb)O_(2)で被覆」は、上記(A4)の【0021】によれば、(Sn,Sb)O_(2)をAl_(2)O_(3)薄片(フレーク状基体)に湿潤化学的被覆又はCVD法で被覆することであるが、この場合、(Sn,Sb)O_(2)での被覆が「すべての面または両面」に「単層の構造」で「コーティング」されるものと解されることから、引用例A記載の発明の「Al_(2)O_(3)薄片」が「(Sn,Sb)O_(2)で被覆され」は、本件補正発明の「フレーク状基体のすべての面または両面に配置されたコーティング層とを有し、該コーティング層が単層の構造を有し」に相当するといえる。

(2-3-3-4) 本件補正発明の「導電層」は、本願明細書の【0032】、【0054】、【0084】によれば、アンチモンでドープされた酸化スズであることから、引用例A記載の発明の「(Sn,Sb)O_(2)で被覆」と本件補正発明の「コーティング層・・が導電層」とは、「コーティング層が(Sn,Sb)O_(2)」である点で一致する。
また、引用例A記載の発明の「(Sn,Sb)O_(2)で被覆され・・薄片」と本件補正発明の「導電性コア」とは、「(Sn,Sb)O_(2)で被覆されたコア」である点で一致する。

(2-3-3-5) 本件補正発明の「着色用誘電体層」の原料は、本願明細書の【0035】、【0036】、【0043】、【0044】、【0064】?【0069】、【0085】によれば、SiO_(2)やTiO_(2)であるから、引用例A記載の発明の「SiO_(2)およびTiO_(2)で被覆」と本件補正発明の「誘電体層」とは、「SiO_(2)およびTiO_(2)の層」である点で一致する。
また、上記(A2)の【0009】に「多層顔料は、その着色特性のために興味深い・・。多層顔料は、可視波長領域において、色印象の原因となる特性である選択的反射性および透過性を示す。」と記載されているように、多層顔料は着色顔料として周知であり、また、干渉色の発光(着色)がその多層構造に由来することも周知事項であるから〔上記(B2)の【0003】参照〕、多層構造を形成する「SiO_(2)およびTiO_(2)」自身が無色透明であるとしても、多層顔料の着色に寄与することは自明であり、引用例A記載の発明の「SiO_(2)およびTiO_(2)」は、「(Sn,Sb)O_(2)で被覆され」た「Al_(2)O_(3)薄片」をさらに被覆するものであるから、本件補正発明の「導電性コアを取り囲む少なくとも1つの着色用誘電体層」と、「(Sn,Sb)O_(2)で被覆された透明または半透明のフレーク状基体を取り囲む少なくとも1つの着色用のSiO_(2)およびTiO_(2)の層」である点で一致する。

上記(2-3-3-1)ないし(2-3-3-5)より、本件補正発明と引用例A記載の発明とは、
「フレーク状の透明または半透明の(Sn,Sb)O_(2)で被覆されたコアと、該(Sn,Sb)O_(2)で被覆されたコアを取り囲む少なくとも1つの着色用のSiO_(2)およびTiO_(2)の層とを有する顔料であって、該(Sn,Sb)O_(2)で被覆されたコアが、透明または半透明のフレーク状基体と、該フレーク状基体のすべての面または両面に配置されたコーティング層とを有し、該コーティング層が単層の構造を有し、該コーティング層が(Sn,Sb)O_(2)の層であり、該(Sn,Sb)O_(2)の層が1種のドープした金属酸化物を含む、顔料。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「(Sn,Sb)O_(2)で被覆されたコア」、「(Sn,Sb)O_(2)の層」が、本件補正発明では、「導電性コア」、「導電層」であると特定され、また、「SiO_(2)およびTiO_(2)の層」が、本件補正発明では、「誘電体層」であると特定されているのに対し、引用例A記載の発明では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点2>
本件補正発明は、(Sn,Sb)O_(2)の層の厚みが15nm以上の層であることが特定されているのに対し、引用例A記載の発明では斯かる特定がされていない点。

<相違点3>
本件補正発明は、フレーク状基体を基準とする(Sn,Sb)O_(2)の層の割合が40?75重量%であることが特定されているのに対し、引用例A記載の発明では斯かる特定がされていない点。

以下、検討する。
<相違点1>について
通常、「導電」とは、電流が流れる現象をいい、また、電流が流れるという物質が有する性質(導電性)を指す際などに用いられる用語である。そして、アンチモンをドープした酸化スズが導電性を示すことは技術常識である〔なお、下記(2-3-4)の(a)の主張に対する検討箇所も参照されたい。〕。すなわち、引用例A記載の発明の「(Sn,Sb)O_(2)の層」は、意図するせざるに関わらず、「導電(性)層」である。
同様に、「SiO_(2)およびTiO_(2)の層」も、「SiO_(2)およびTiO_(2)」が有する性質からして、「誘電体層」である。
そして、顔料という「物」の発明である本件補正発明及び引用例A記載の発明において、どのような意図で特定の物質が用いられたかに関係なく、ある性質を有する物質が用いられているか否かで「物」としての相違が判断されるところ、用いられているものが、両者とも「(Sn,Sb)O_(2)」、「SiO_(2)およびTiO_(2)」という同一のものであるから、上記相違点1において、本件補正発明と引用例A記載の発明とは実質的に相違するとは認められない。

<相違点2>について
まず、引用例A記載の発明の多層顔料における(Sn,Sb)O_(2)の層の厚みの決定要因について検討すると、上記(A4)の【0019】によれば、「多層顔料は、着色または無色金属酸化物(少なくとも2種)・・で被覆されたマトリックス(基材)からなる。複数層による基材薄片の被覆は、屈折率が低いものと高いものの交互層からなる層構造が形成されるように行われる。」ことが記載されている。そして、上記(A2)の【0009】ないし【0011】によれば、それぞれ「多層顔料は、入射光の入射角度に依存して、異なる反射または透過および吸収を示す。」、「光学的特性の角度依存性は、異なる屈折率の被覆材料の適当な選択および組み合わせにより増すことができる。」、「複数層の適当な組み合わせにより、顔料の角度依存透過挙動を補強し、特定の建物壁の要求に合わせることができる。」と記載されているから、引用例A記載の発明の「角度選択的反射または透過特性および吸収特性を有すると共に、夏季における太陽光透過度(55?70°の太陽光入射角)と冬季における太陽光透過度(5?20°の太陽光入射角)との比が0.1?0.6の範囲にある」は、被覆材料の適当な選択および組み合わせにより調整されるものであって、その際、(Sn,Sb)O_(2)の層の厚みは特段考慮されていないものと推察される〔このことは、上記(A5)の【0041】で、実施例1として「Timiron(登録商標)Splendid Red(独国、Merck KGaA社製のTiO_(2)、SiO_(2)およびTiO_(2)で被覆された雲母薄片に基づく多層顔料)」を用い、【0046】で、比較例として「Iriodin(登録商標)219(Merck KGaA社製のTiO_(2)(ルチル)で被覆された雲母薄片をベースにした単層顔料)」を用い、被覆層の材質の違いによる作用効果の差異について検討しているのみであり、被覆層の厚みについては検討していないことからも明らかである。〕。
とするならば、引用例A記載の発明において、(Sn,Sb)O_(2)の層の厚みは任意であり、常識の範囲内で適宜決定しうるものであることが理解される。
そこで、次に、常識の範囲内で選択した場合に、「15nm以上」の厚みを取り得るかについて検討する。
まず、引用例Aの実施例1で用いられている「Timiron(登録商標)Splendid Red」は、一般に光干渉性を有する着色顔料として市販されているものである。また、本件補正発明と同一課題を前提とした「冬季に太陽光を利用するのみならず、夏季に建物を過熱から保護する」「顔料添加透明媒体」に関する上記(A2)に記載の「DE 197 56 037 A1」〔当該文献は、優先権主張番号が「197 56 037.7」であり、優先権主張国がドイツである国際特許出願(国際公開第99/31023号。特表2002-508497号公報参照。)のことと推察される。〕でも、市販の着色顔料が実施例で用いられていることからして、引用例A記載の発明の「(Sn,Sb)O_(2)で被覆され・・た・・Al_(2)O_(3)薄片」は着色したものであるといえ、また、少なくとも着色していて構わないことは明らかである。
そして、多層の着色顔料についての技術が記載されている引用例Bには、上記(B1)の【請求項5】によれば、「ガラスフレーク+(Sn,Sb)O_(2)+SiO_(2)+TiO_(2)」と引用例A記載の発明と類似の層構成を有する多層顔料が許容されることが示されているが、上記(B3)の【0024】、【0026】によれば、「基材上の高屈折率および低屈折率の個々の層の厚みは顔料の光学的性質に欠くことができない。意図した干渉光を有する顔料のためには、個々の層の厚みは互いに関して正確に調整されねばならない」こと、「層厚みの適切な選択により視野角の作用として特に強調された多様色を達成することができる」こと、及び、「好ましくは金属酸化物の層は、屈折率に関係なく、使用分野に依存し、一般に10?1000nm、好ましくは15?800nm、特に好ましくは20?600nmである」ことが記載されており、また、上記(B4)の【0031】ないし【0033】によれば、「層(A)の厚みは10?550nm、好ましくは15?400nm、特に好ましくは20?350nmである」、「層(B)の厚みは10?1000nm、好ましくは20?800nm、特に好ましくは30?600nmである」、「層(C)の厚みは10?550nm、好ましくは15?400nm、特に好ましくは20?350nmである」ことが記載されている。そして、所望の干渉色を得るために必要な層厚を層(A)?(C)それぞれが「互いに関して正確に調整されねばならない」〔上記(B3)の【0024】参照〕ことが知られているものの、上記のとおり、少なくとも、引用例Bにおける高屈折率被覆層である層(A)に位置する引用例A記載の発明の「(Sn,Sb)O_(2)」は、「好ましくは15?400nm」から選択され得るといえる。
とするならば、引用例A記載の発明において、引用例Bにおける高屈折率被覆層である層(A)に位置する「(Sn,Sb)O_(2)」〔なお、上記(A4)の【0020】に記載されているように、引用例Aにおいても、(Sn,Sb)O_(2)は屈折率の高い金属酸化物として用いられている。〕の層厚を15nm以上とすることは、当業者が容易になし得ることでしかない。

<相違点3>について
引用例A記載の発明において、薄片(フレーク状基体)は、上記(A4)の【0019】によれば、「通常は厚さが0.3?5μm、特に0.4?2.0μm」である。また、上記「<相違点3>について」で検討したように、(Sn,Sb)O_(2)からなる層の厚さは、「10?550nm、好ましくは15?400nm、特に好ましくは20?350nm」であることが知られている。そして、薄片(フレーク状基体)の素材であるAl_(2)O_(3)の密度及び(Sn,Sb)O_(2)の密度から、引用例A記載の発明における、薄片(フレーク状基体)を基準とする(Sn,Sb)O_(2)からなる層の割合の許容される範囲を算出すれば、40?75重量%を含むような(それよりも広い)数値範囲が得られると推察される(平成27年11月20日付け上申書の2?3頁の「(4)引用文献2に基づく導電層の割合の計算例」の欄参照)。とするならば、引用例A記載の発明でも、薄片(フレーク状基体)を基準とする(Sn,Sb)O_(2)からなる層の割合が40?75重量%である多層顔料が許容されているといえ、そのような多層顔料を用いることは、当業者が適宜なし得ることでしかない。

<効果>について
本願明細書の記載、例えば、【0033】、【0046】、【0083】?【0091】の記載を検討しても、本件補正発明において「(ドープした金属酸化物を含む導電層の)厚みが15nm以上の層」であること、又は、「フレーク状基体を基準とする導電層の割合が40?75重量%」であることによって、当業者にとって格別予想外の効果が奏されることが示されているものとはいえない。
また、「容易に見ることができて識別可能な魅力的な光学特性を有し、同時に、これを電磁場へ導入した場合または高周波の電磁場によって励起した場合、塗布媒体中で検知するのに十分に強い信号を発生させるまたは引き起こすことができ、顔料の使用濃度が比較的高いときに生じる塗布媒体中での短絡を形成することのない」(本願明細書【0011】)との作用効果は、顔料の使用形態に依存して限定的に奏されるものであると認められるところ、本件補正発明は使用形態の限定されていない単なる「顔料」についての発明であるから、このような限定的に奏される効果をもって、本件補正発明を非容易想到であると認めることはできない。

(2-3-4)上申書における主張について
審判請求人は、特に、平成27年11月20日付けで上申書を提出しているので、以下、その主張について検討する。
上記上申書においては、
(a)引用例A及びBの顔料の非導電性、
(b)引用例Aと引用例Bと組み合わせることの困難性、
(c)本願発明における導電層の厚みと導電層の割合、
(d)引用例Bに基づく導電層の割合、
(e)基体の重量と導電層の重量との関係、
の5つの観点から、本件補正発明の非容易想到性を主張している。

まず、上記(a)について検討すると、引用例A記載の発明では、引用例Aの上記(A4)の【0020】等を参照する限り、(Sn,Sb)O_(2)が導電性を有する物質であるとの認識の上で用いられていないものと認められる。しかしながら、同じく上記(A4)の【0020】に、「ドープされた酸化錫は、好ましくは、アンチモン・・が、ドープされたSnを基準に0.5?15重量%の量で提供された酸化錫である」旨記載されているが、本願明細書の【0084】には、「Sn:Sb比は85:15」であることが記載されており、「ドープされたSnを基準に15重量%の量で提供された酸化錫」、すなわち、「Sn:Sb比は100:15」(87:13)も導電性を有するものと解されるから、引用例A記載の発明の(Sn,Sb)O_(2)も必然的に導電性を有することになるから、上記(a)の主張に基づいて、本件補正発明である顔料の非容易想到性を認めることはできない。
次に、上記(b)について検討する。平成26年7月24日付け拒絶査定の備考欄では、「角度により光透過度が変化する多層顔料において、高屈折率層の層厚を15nm以上にすることは極めて一般的であり、引用文献2(段落〔0026〕等参照)にも記載されている。」(当審注:「引用文献2」とは上記「引用例B」のことである。以下同様。)と記載されており、「角度により光透過度が変化する多層顔料において、高屈折率層の層厚を15nm以上にすることは極めて一般的であ」ること、それは、「引用文献2(段落〔0026〕等参照)にも記載されている」事項であるとの認識が示されたと理解される。すなわち、「角度により光透過度が変化する多層顔料において、高屈折率層の層厚を15nm以上にすること」が本願出願前周知・慣用技術であることの証拠として、「引用文献2(段落〔0026〕等参照)」が引用されているのであって、引用例A記載の発明と引用例B記載の発明とを組み合わせることの容易性については特に言及していない。したがって、上記(b)の主張は、拒絶査定の備考欄に対する誤った理解に基づいてされたものであり、妥当でない。
次に、上記(c)について検討すると、審判請求人は、「導電層の厚みを15nm以上とすること及び導電層の割合を40?75重量%にすることの理由」として、「顔料が有効に作用してこの目的を達成するためには、顔料の中間層である導電層、即ち導電性コアの外層である導電層、が所定の重量割合と厚みを有することが重要である」からと述べている〔当審注:「この目的」とは、『容易に見ることができて識別可能な魅力的な光学特性を有し、同時に、これを電磁場へ導入した場合または高周波の電磁場によって励起した場合、適用媒体中で検知するのに十分に強い信号を発生させるまたは引き起こすことができ、顔料の使用濃度が比較的高いときに生じる適用媒体中での短絡を形成することのない顔料を提供すること』(【0011】)である。〕。
しかしながら、本件補正発明には、当該目的を意識することで「導電層の厚み」及び「導電層の割合」を特定の範囲に調整したものの他、当該目的を認識せずに「導電層の厚み」及び「導電層の割合」を特定の範囲に調整したものまで包含するから、上記の主張に基づき本件補正発明の非容易想到性を認めることはできない。しかも、上記「<効果>について」で述べたとおり、本願明細書には、上記の目的と「導電層の厚み」及び「導電層の割合」の個々の数値との関係についての直接的な記載や具体的な検討結果が示されていないので、本件補正発明の発明特定事項と本件補正発明の目的との関連性を本願明細書から把握することができず、この点からも、上記(c)の主張を受け入れることはできない(本願明細書の【0046】には、導電層の厚みが15nm以上であっても上記目的との関係で問題ないことが示されているが、上記目的との関係で「15nm以上」が必須の技術事項であることを意味するものでないと認められる。)。
次に、上記(d)について検討すると、審判請求人は、引用例Aから、導電層の割合を「自動的に40?75重量%の値が導かれることはない」旨主張する。確かに「自動的に40?75重量%の値が導かれることはない」が、上記「<相違点3>について」で検討したとおり、「引用例A記載の発明1、2における、薄片(フレーク状基体)を基準とする(Sn,Sb)O_(2)からなる層の割合の許容される範囲を算出すれば、40?75重量%を含むような(それよりも広い)数値範囲が得られる」こととなり、その許容される範囲から適宜選択する程度のことは、それにより、新たな効果が奏されるのでなれば、数値の好適化を超えるものとは認められない。
そして、本願明細書では、実施例(比較例)における「導電層の割合」が開示されておらず、実施例で確認されている効果がどのような「導電層の割合」であるときの奏されるものか分からないし、また、実施例(比較例)より、「導電層の割合」が40?75重量%の範囲に入る場合と外れる場合でどのような効果の差異が生じるかの確認がされておらず、【0033】等の実施例以外の記載箇所を参酌しても、本願明細書より、「導電層の割合」が40?75重量%の範囲であることを特定することにより、どのような効果の差異が生じるかをうかがい知ることはできない。
(しかも、本願明細書の【0084】によれば、実施例で用いられている干渉顔料の導電性コーティング層の層厚みは25nmであるところ、上申書の【表1】、【表2】によれば、(Sn,Sb)O_(2)層の厚みT_(Sn)が20nmである場合に、いずれの例でも導電層の割合が40重量%を大きく下回っており、層厚みを25nmにしたとして40重量%を超えるとはおよそ考えづらいことから、本願明細書に開示の実施例は本件補正発明の要件を満たしていないものと推察され、本件補正発明は、実質的に検討がされていないような顔料へと限定されている蓋然性が高い。)。
したがって、上記(d)の主張に基づいて、本件補正発明の非容易想到性を認めることはできない。
そして、上記(e)の主張についても、上記(d)に対する検討結果と同様のことがいえる。

したがって、審判請求人の上申書における主張はいずれも当を欠くものであるので、これを採用することはできない。

(2-3-5)結論
以上のとおり、本件補正発明は、引用例A記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでない。

(2-4)まとめ
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
(3-1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし22に係る発明は、平成25年11月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし22に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのもの(以下、「本願発明」という。)である。

「【請求項1】
フレーク状の透明または半透明の導電性コアと、該導電性コアを取り囲む少なくとも1つの着色用誘電体層とを有する顔料であって、該導電性コアが、透明または半透明のフレーク状基体と、該フレーク状基体のすべての面または両面に配置されたコーティング層とを有し、該コーティング層が単層または多層の構造を有し、少なくとも該コーティング層の外層が導電層であり、該導電層が1種または複数種のドープした金属酸化物を含む、厚みが15nm以上の層である顔料。」

(3-2)原査定の拒絶の理由の概要
これに対して、原査定の拒絶の理由である理由3は、要するに、
「請求項1ないし22に係る発明は、引用文献1に記載された発明を主発明とし、引用文献2,3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。」
というものである。

(3-3)引用例記載の発明
原査定の拒絶の理由において引用された引用文献1である特表2003-530457号公報(引用例A)記載の発明は、上記「第2 (2-3-2)」において示したとおりものである。

(3-4)当審の判断
上記「第2 (2-3)」において、その特許独立要件を検討した本件補正発明は、上記「第2 (2-2)」に記載したとおり、本願発明において、フレーク状基体と導電層の質量的関係を、「フレーク状基体を基準とする導電層の割合が40?75重量%である」に限定するものであるから、本願発明の発明を特定するために必要な事項をさらに限定するものである。
そして、このような発明を特定するために必要な事項をより狭い範囲に限定的に減縮した本件補正発明が、引用例A記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記「第2 (2-3-3)」に記載したとおりであるから、本願発明についても、上記「第2 (2-3-3)」に記載したものと同様の理由により、引用例A記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
したがって、本願発明は、引用例A記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
それゆえ、請求項2ないし22に係る発明を検討するまでもなく、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-10 
結審通知日 2015-12-15 
審決日 2015-12-25 
出願番号 特願2010-538418(P2010-538418)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C09C)
P 1 8・ 575- WZ (C09C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁科 努  
特許庁審判長 國島 明弘
特許庁審判官 星野 紹英
岩田 行剛
発明の名称 導電性コアを有する濃色および/または光学可変性の顔料  
復代理人 杉森 修一  
代理人 宮崎 昭夫  
代理人 緒方 雅昭  

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