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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1314692 |
審判番号 | 不服2014-21502 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-10-23 |
確定日 | 2016-05-09 |
事件の表示 | 特願2011-536354「冷涼感の強化をもたらすパーソナルケア組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成22年5月27日国際公開、WO2010/059289、平成24年4月12日国内公表、特表2012-508741〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2009年9月22日(パリ条約による優先権主張:2008年11月20日(米国))を国際出願日とする出願であって、平成25年7月4日付けで拒絶理由が通知され、平成26年1月9日に意見書及び手続補正書が提出され、同年6月20日付けで拒絶査定がなされたのに対して、同年10月23日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正書が提出されたものである。 第2 平成26年10月23日付け手続補正についての補正の却下の決定 <補正の却下の決定の結論> 平成26年10月23日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。 <理由> 1 補正の内容 本件補正は特許請求の範囲を補正するものであって、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1について、 「口腔で使用されるパーソナルケア組成物又は香味組成物若しくは香料組成物に組み込まれる1つ以上の冷感剤の活性を強化する方法であって、前記パーソナルケア組成物、香味組成物、又は香料組成物と、カルシウムイオン源及び/又は前記組成物の少なくとも0.1重量%の濃度のカルシウム移動剤とを共に処方する工程を含み、前記1つ以上の冷感剤が、メントングリセロールアセタール、N-(4-シアノメチルフェニル)-p-メンタンカルボキサミド、2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブチルアミド、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド、N-エトキシカルボニルメチル-p-メンタン-3-カルボキサミド、メンチルラクテート、メントキシプロパン-1,2-ジオール、p-メンタン-3,8-ジオール、イソプレゴール及びこれらの混合物のうちの1つ又は混合物から選択され、前記カルシウムイオン源が、前記組成物に少なくとも10ppmのCa^(+2)イオンを提供する無機又は有機カルシウム塩であり、前記カルシウム移動剤が、フィチン酸塩、ポリカルボキシレート、及びそれらの混合物から選択され、前記カルシウムと前記冷感剤との重量比が、少なくとも0.5:1である、方法。」を、 「口腔で使用されるパーソナルケア組成物又は香味組成物若しくは香料組成物に組み込まれる1つ以上の冷感剤の活性を強化する方法であって、前記パーソナルケア組成物、香味組成物、又は香料組成物と、カルシウムイオン源及び/又は前記組成物の少なくとも0.1重量%の濃度のカルシウム移動剤とを共に処方する工程を含み、前記1つ以上の冷感剤が、メントール冷感剤と、メントングリセロールアセタール、及びN-(4-シアノメチルフェニル)-p-メンタンカルボキサミドのうちの1つ又は混合物から選択される非メントール冷感剤とを含み、前記カルシウムイオン源が、前記組成物に少なくとも10ppmのCa^(+2)イオンを提供する無機又は有機カルシウム塩であり、前記カルシウム移動剤が、フィチン酸塩、ポリカルボキシレート、及びそれらの混合物から選択され、前記カルシウムイオンと前記非メントール冷感剤との重量比が、少なくとも0.5:1である、方法。」とする補正(以下、「補正事項1」という。)、及び、同請求項3について、本件補正前の 「口腔ケアに用いるためのパーソナルケア組成物であって、 (a)メントングリセロールアセタール、N-(4-シアノメチルフェニル)-p-メンタンカルボキサミド、2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブチルアミド、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド、N-エトキシカルボニルメチル-p-メンタン-3-カルボキサミド、メンチルラクテート、メントキシプロパン-1,2-ジオール、p-メンタン-3,8-ジオール、イソプレゴール及びこれらの混合物のうちの1つ又は混合物から選択される1つ以上の非メントール冷感剤を含む、香味組成物又は香料組成物と、 (b)前記組成物に少なくとも10ppmのCa^(+2)イオンを提供する無機又は有機カルシウム塩から選択されるカルシウムイオン源及び/又は前記組成物の少なくとも0.1重量%の濃度のフィチン酸塩、ポリカルボキシレート、及びそれらの混合物から選択されるカルシウム移動剤と、 (c)経口で受容可能なキャリアと、 を含み、前記カルシウムと前記冷感剤との重量比が、少なくとも0.5:1である、パーソナルケア組成物。」を、 「口腔ケアに用いるためのパーソナルケア組成物であって、 (a)メントングリセロールアセタール、及びN-(4-シアノメチルフェニル)-p-メンタンカルボキサミドのうちの1つ又は混合物から選択される1つ以上の非メントール冷感剤を含む、香味組成物又は香料組成物と、 (b)前記組成物に少なくとも10ppmのCa^(+2)イオンを提供する無機又は有機カルシウム塩から選択されるカルシウムイオン源及び/又は前記組成物の少なくとも0.1重量%の濃度のフィチン酸塩、ポリカルボキシレート、及びそれらの混合物から選択されるカルシウム移動剤と、 (c)経口で受容可能なキャリアと、 を含み、前記カルシウムイオンと前記非メントール冷感剤との重量比が、少なくとも0.5:1である、パーソナルケア組成物。」とする補正(以下、「補正事項2」という。)を含むものである。 2 補正の目的 補正事項1は、(1)「1つ以上の冷感剤」が、「メントール冷感剤と、メントングリセロールアセタール、及びN-(4-シアノメチルフェニル)-p-メンタンカルボキサミドのうちの1つ又は混合物から選択される非メントール冷感剤とを」含むものとすること、(2)「カルシウムイオン」と「非メントール冷感剤」との重量比を少なくとも0.5:1とすることを含むものであるが、(1)については、「(非メントール)冷感剤」の選択肢を減縮するとともに、本件補正前の請求項2における「メントールを前記組成物に組み込む工程を更に含む、請求項1に記載の方法。」との記載に基づき「メントール冷感剤」を追加するものであり、また(2)については、本件補正前の請求項1において単に「冷感剤」と規定されていた化合物群が上記(1)によって「メントール冷感剤」が追加されたため、これと区別するために「非メントール冷感剤」とし、「カルシウム」を「カルシウムイオン」と明確化するものといえる。 補正事項2は、(3)「非メントール冷感剤」の選択肢を「メントングリセロールアセタール、及びN-(4-シアノメチルフェニル)-p-メンタンカルボキサミドのうちの1つ又は混合物」に減縮し、(4)「冷感剤」は(a)成分として「非メントール冷感剤」と規定されていたことを受けて、「非メントール冷感剤」に統一し、「カルシウム」を「カルシウムイオン」と明確化するものといえる。 このため、補正事項1および2は新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。 また、補正事項1は広義の「冷感剤」(本件補正前の「冷感剤」、すなわち本件補正後の「非メントール冷感剤」と「メントール(冷感剤)」とを合わせたもの)について限定するものと言え、補正事項2は「非メントール冷感剤」の選択肢を限定するものと言え、補正の前後で産業上の利用分野および解決しようとする課題は同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 したがって、補正事項1および2は特許法第17条の2第3項および第5項に規定する要件を満たしている。 3 独立特許要件 補正事項1および2は、特許法第17条の2第5項第2号の場合に該当するから、同条第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合しているか否かを検討する。 (1)補正事項2による本願請求項2に係る発明 補正事項2による本願請求項2に記載される発明(以下、「補正発明」という。)は次のとおりである。 「口腔ケアに用いるためのパーソナルケア組成物であって、 (a)メントングリセロールアセタール、及びN-(4-シアノメチルフェニル)-p-メンタンカルボキサミドのうちの1つ又は混合物から選択される1つ以上の非メントール冷感剤を含む、香味組成物又は香料組成物と、 (b)前記組成物に少なくとも10ppmのCa^(+2)イオンを提供する無機又は有機カルシウム塩から選択されるカルシウムイオン源及び/又は前記組成物の少なくとも0.1重量%の濃度のフィチン酸塩、ポリカルボキシレート、及びそれらの混合物から選択されるカルシウム移動剤と、 (c)経口で受容可能なキャリアと、 を含み、前記カルシウムイオンと前記非メントール冷感剤との重量比が、少なくとも0.5:1である、パーソナルケア組成物。」 (2)引用刊行物 原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願(優先日)前に頒布された刊行物には、次の刊行物1が含まれている。 刊行物1:国際公開第2007/110790号 (3)引用刊行物の記載事項 刊行物1には、次の事項が記載されている。なお、刊行物1は英語で記載されているところ、下記摘示はその訳である。 a 「 技術分野 本発明は、特定の成分に起因する、望ましくない味及び感覚を効果的にマスキングする香味系を含有する口腔ケア組成物に関する。… 発明の背景 … 従って、家庭における毎日の口腔ケアは、異なる機構により機能する複数の成分を含み、抗虫歯、抗微生物、抗歯肉炎、抗歯垢及び抗結石、並びに、抗臭、口内清涼、着色汚れ除去、着色汚れ制御及び歯のホワイトニングを含む治療的及び審美的効果の全種類を提供する製品を必要としている。歯磨剤及び洗浄剤などの毎日使用するための口腔ケア製品により完全な口腔ケアを提供するために、活性物質と添加剤を組み合わせることが必要であり、これらの多くは使用中、負の美的特徴、具体的には不快な味及び感覚並びに着色汚れ促進の原因となるという不利点を有する。不快な味及び口内感覚は、一種以上の苦み、金属感、渋み、塩辛み、しびれ、刺痛、熱感、穿痛、及びさらに刺激性局面を有すると記載されている。これらの審美的欠点に関連する口腔ケア用途のための典型的な成分としては、塩化セチルピリジニウム、クロルヘキシジン、スズ塩類及び亜鉛塩類などの抗微生物剤;過酸化物類などの歯の漂白剤;ピロホスフェート、トリポリホスフェート及びヘキサメタホスフェートなどの抗歯石剤;並びに重曹及び界面活性剤などの賦形剤が挙げられる。これらの成分由来の審美的欠点を軽減するために、口腔ケア製品は典型的には着香剤及び甘味剤を配合し、味をできる限り良好にするとともに消費者に許容可能にする。 近年、口腔ケア製品製剤においては多くの進展があったが、改善された製品、具体的には美的特徴及び味の改善された過酸化物含有製品に対する要求が依然として存在する。過酸化物由来の不快な味及び感覚はマスキングすることが困難であり、従来の香味成分の多くは過酸化物の存在下で十分に安定ではないため、過酸化物含有製品を香味付けすることは、配合者に対して重要な課題を提示する。本発明は、メントールと少なくとも一種の他の冷感剤との混合物と組み合わせた、選択された従来の香味成分を含む、改善された香味系を提供する。改善された香味系は、過酸化物由来の不快な味及び感覚を効果的にマスキングし、消費者の好む爽快な味及び感覚を提供する。 発明の概要 本発明は、 (a)過酸化物源、 (b)メントールと、第二の冷感剤と、過酸化物の存在下で安定なプロフィールを維持する選択された一種の香味成分又は香味成分の混合物と、を含む香味組成物、並びに (c)賦形剤及び希釈剤を含む経口で許容可能な担体であって、実質的に組成物の安定性を低下させる方法で過酸化物と実質的に相互作用することなく、過酸化物と混合することができる担体、を含む口腔ケア組成物を目的とする。」(1頁4行-2頁30行) b 「過酸化物源 …好適な過酸化化合物類としては…、過酸化カルシウム…が挙げられる。…歯磨剤製剤に使用するために好ましい過酸化物源としては、過酸化カルシウム…が挙げられる。…以下の量は過酸化物原料物質の量を示すが、過酸化物源は過酸化物原料物質以外の成分を含有してもよい。本組成物は、組成物の約0.01重量%?約30重量%、好ましくは約0.1重量%?約10重量%、より好ましくは約0.5重量%?約5重量%の過酸化物源を含有してよい。」(4頁24行-5頁23行) c 「香味系 過酸化物成分に起因する不快な味及び感覚を効果的にマスキングする香味系は、組成物の第二の必須成分である。…本香味系は、過酸化物の存在下で比較的安定であることが見出されている選択された従来の香味成分とともに、少なくとも一種の第二の冷感剤と併用する第一の冷感剤としてのメントールを含む。… 口腔ケア組成物は、少なくとも約0.015重量%のメントールを含む、約0.04重量%?1.5重量%の総冷感剤(メントール+第二の冷感剤)を含む。典型的には、最終組成物中のメントール濃度は、約0.015%?約1.0%の範囲であり、第二の冷感剤(1種又は複数種)の濃度は、約0.01%?約0.5%の範囲である。好ましくは、総冷感剤濃度は、約0.03%?約0.6%の範囲である。 メントールとともに使用するのに好適な第二の冷感剤は、カルボキサミド類、ケタール類、ジオール類、メンチルエステル類及びこれらの混合物などの広範な物質を含む。本組成物中の第二の冷感剤の例は、「WS-3」として商業的に既知である、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド、「WS-23」として既知であるN,2,3-トリメチル-2-イソプロピルブタンアミド、並びにWS-5、WS-11、WS-14及びWS-30のような、このシリーズの他のもののようなパラメンタンカルボキサミド剤である。さらなる好適な冷感剤としては…;MGAとして既知のメントングリセロールアセタール;…が挙げられる。」(5頁24行-6頁19行) d 「経口で許容可能な担体物質 経口で許容可能な担体は、局所的経口投与に好適な一種以上の混和性のある固体若しくは液体賦形剤、又は希釈剤を含む。本明細書で使用する時、「混和性のある」とは、組成物の成分が、実質的に組成物の安定性及び/又は有効性を低下させるような方法で相互作用することなく混合し得ることを意味する。 本発明の担体又は賦形剤は、以下でより詳細に記載するように、歯磨剤、非研磨剤ゲル、歯肉縁下用ゲル、うがい薬又は口内洗浄剤、口内スプレー、チューインガム、薬用キャンディー、及び口臭予防用ミントキャンディーの通常及び従来の構成成分を含むことができる。」(8頁12-20行) e 「歯直接剤 本発明は、高分子界面活性剤(PMSA)のような歯直接剤を含んでよく…。 好ましいPMSAは、ポリホスフェートである。… 他のポリリン酸化化合物を、ポリホスフェート、具体的には、フィチン酸…のような、ポリリン酸化イノシトール化合物に加えて又はその代わりに用いてよい。本明細書では、ミオ-イノシトール1,2,3,4,5,6-ヘキサキス(二水素リン酸)としても既知であるフィチン酸又はイノシトール六リン酸及びそのアルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウム塩が好ましい。本明細書では、用語「フィチン酸塩」は、フィチン酸及びその塩、並びにそ他のポリリン酸化イノシトール化合物を含む。 歯直接剤の量は、典型的には、総口腔用組成物の約0.1重量%?約35重量%である。歯磨剤製剤では、該量は好ましくは約2%?約30%、より好ましくは約5%?約25%、最も好ましくは約6%?約20%である。口内洗浄剤組成物では、歯直接剤の量は好ましくは約0.1%?5%、より好ましくは約0.5%?約3%である。」(10頁13行-14頁5行) f 「実施例I 口内洗浄剤組成物 本発明による口内洗浄剤組成物(IA-IF)を、以下に組成物の量を重量%で示す。これらの組成物は従来の方法を用いて作製する。口内洗浄剤組成物は、使用中快適な高衝撃のミント味を有し、著しく爽やかな息を提供すると、消費者試験で判定された。 【表1】 1 人工ミント香味は、サリチル酸メチル、ケイ皮アルコール、ユーカリプトール、メントン及び他の香味剤を含む。天然油(ペパーミント、アニス、クローブ芽油、レンタカンバ)を含むミント香味を、人工ミント香味の代わりに用いてよい。 2 ポリホスフェートは、Astarisより供給されるGlass H(n≒21)である。 実施例II 二相歯磨剤組成物 本発明による二相歯磨剤組成物は、好ましくは50:50の比率で処方される、過酸化物を含有する第一の歯磨剤(IIA-IIC)及び第二の歯磨剤(IID-IIE)からなる。これらの組成物は従来の方法を用いて作製する。 【表2】 1 人工ミント香味は、サリチル酸メチル、ケイ皮アルコール、ユーカリプトール、メントン及び他の香味剤を含む。天然油(ペパーミント、アニス、クローブ芽油、レンタカンバ)を含むミント香味を、人工ミント香味の代わりに用いてよい。 2 27.9%溶液 3 50%溶液」(23頁18行-25頁5行) g 「1.口腔ケア組成物 (a)組成物の0.01重量%?30重量%の過酸化物源 (b)メントールと少なくとも一種の第二の冷感剤との冷感剤の組み合わせ、並びに、過酸化物の存在下で一貫した香味プロフィールを維持する一種の香味成分又は香味成分の混合物を含む香味組成物 (c)経口で受容可能なキャリア ここで、該香味組成物が、過酸化物由来の望ましくない美的特徴を効果的にマスキングし、高衝撃の爽快な味及び爽快感を提供する。」(請求の範囲) (4)刊行物1に記載された発明 刊行物1には、香味組成物を含有する口腔ケア組成物に関し、過酸化物源、メントールと第二の冷感剤、経口で受容可能なキャリアから構成され(上記(3)a、g)、実施例IIA-IIC(上記(3)f)において、過酸化カルシウム、メントール、第二の冷感剤であるN-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド(WS-3)あるいはN,2,3-トリメチル-2-イソプロピルブタンアミド(WS-23)、並びに水等の経口で受容可能なキャリアから歯磨剤組成物を構成することが記載されている。この点を踏まえると、刊行物1には以下の刊行物発明が記載されていると認められる。 「口腔ケア組成物であって、 (a)メントールと第二の冷感剤を含む、香味組成物又は香料組成物と、 (b)過酸化カルシウムと、 (c)経口で受容可能なキャリアと、 を含む口腔ケア組成物。」 (5)対比 補正発明と刊行物発明とを対比する。 刊行物発明の「口腔ケア組成物」は補正発明の「(口腔ケアに用いるための)パーソナルケア組成物」に相当する。また、実施例IIA-IICの歯磨剤組成物では、第一の歯磨剤と第二の歯磨剤とを合わせて、Ca^(+2)イオンが少なくとも10ppm含まれており、カルシウムイオンと、WS-3あるいはWS-23とは、重量比で少なくとも0.5:1存在することは明らかである。ここで、過酸化カルシウムは無機カルシウム塩であり、WS-3、WS-23、あるいは上記(3)cに列記される第二の冷感剤は非メントール冷感剤である。 そうすると、補正発明と刊行物発明とは、 「口腔ケアに用いるためのパーソナルケア組成物であって、 (a)メントールと非メントール冷感剤を含む、香味組成物又は香料組成物と、 (b)前記組成物に少なくとも10ppmのCa^(+2)イオンを提供する無機カルシウム塩から選択されるカルシウムイオン源と、 (c)経口で受容可能なキャリアと、 を含み、前記カルシウムイオンと前記非メントール冷感剤との重量比が、少なくとも0.5:1である、パーソナルケア組成物。」 の点で一致し、次の点で一応相違するものと言える。 一応の相違点: 補正発明では、香味組成物又は香料組成物は「メントングリセロールアセタール、及びN-(4-シアノメチルフェニル)-p-メンタンカルボキサミドのうちの1つ又は混合物から選択される1つ以上の非メントール冷感剤を含む」ものであるのに対し、刊行物発明では「メントールと非メントール冷感剤を含む」ものである点。 (6)判断 上記相違点について検討する。 補正発明は、実施例において使用されるように、メントールの使用を排除しない。また、刊行物発明は、非メントール冷感剤として、WS-3やWS-23と並記しつつ、メントングリセロールアセタールを「さらなる好適な冷感剤」としており(上記(3)c)、メントングリセロールアセタールは刊行物1に記載されているに等しい事項と言える。そうすると、刊行物発明において非メントール冷感剤をメントングリセロールアセタールとすることにおいて、実質的な差異は見いだせない。 このため、上記一応の相違点に関し、補正発明と刊行物発明とは実質的に相違しない。 (7)まとめ 以上のことからみて、補正発明は、刊行物発明と相違する点が実質的に存在せず、刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。したがって、補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。 4 請求人の主張 請求人は審判請求の理由において「引用文献1には…補正後の請求項2に記載される口腔ケアに用いるためのパーソナルケア組成物は、開示も示唆もされておりません。 具体的には、引用文献1には、補正後の特定の非メントール冷感剤を、特定の比率でカルシウムイオンと組み合わせることを何ら開示しておりません。…特に、当業者は、通常、使用可能な非メントール冷感剤が多数開示されている場合、メントングリセロールアセタール及びN-(4-シアノメチルフェニル)-p-メンタンカルボキサミドという特定の非メントール冷感剤と特定の比率でカルシウムイオンを組み合わせることに想到できないものと考えます。」と主張する。しかし、上記3(6)で検討したとおり、刊行物1には、非メントール冷感剤として、メントングリセロールアセタールを「さらなる好適な冷感剤」と記載している。そうすると、刊行物1には、刊行物発明において非メントール冷感剤をメントングリセロールアセタールとすることが示唆されていると言える。このため、上記主張を勘案することができない。 5 むすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項の規定に違反しているものと認められるので、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明 上記第2で結論したとおり平成26年10月23日に提出された手続補正書による補正は却下されたので、本願に係る発明は同年1月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1-6にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項3に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「口腔ケアに用いるためのパーソナルケア組成物であって、 (a)メントングリセロールアセタール、N-(4-シアノメチルフェニル)-p-メンタンカルボキサミド、2-イソプロピル-N,2,3-トリメチルブチルアミド、N-エチル-p-メンタン-3-カルボキサミド、N-エトキシカルボニルメチル-p-メンタン-3-カルボキサミド、メンチルラクテート、メントキシプロパン-1,2-ジオール、p-メンタン-3,8-ジオール、イソプレゴール及びこれらの混合物のうちの1つ又は混合物から選択される1つ以上の非メントール冷感剤を含む、香味組成物又は香料組成物と、 (b)前記組成物に少なくとも10ppmのCa^(+2)イオンを提供する無機又は有機カルシウム塩から選択されるカルシウムイオン源及び/又は前記組成物の少なくとも0.1重量%の濃度のフィチン酸塩、ポリカルボキシレート、及びそれらの混合物から選択されるカルシウム移動剤と、 (c)経口で受容可能なキャリアと、 を含み、前記カルシウムと前記冷感剤との重量比が、少なくとも0.5:1である、パーソナルケア組成物。」 第4 当審の判断 1 引用文献及びその記載事項 原査定において引用され、本願出願(優先日)前に外国において頒布された刊行物であることが明らかな下記引用文献1は、上記第2の3(2)における刊行物1と同じ文献であり、したがって、該引用文献1には同箇所に摘示したa-gの事項が記載されている。 引用文献1:国際公開第2007/110790号 2 引用文献1に記載された発明 引用文献1には、上記第2の3(3)において認定した刊行物発明が記載されている。 3 対比・判断 本願発明と刊行物発明とを対比すると、上記第2の3(4)-(6)に示した点を踏まえれば、両者の間に相違点は存在しない。 4 まとめ そうすると、本願発明は、刊行物発明と相違する点が存在せず、したがって引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願については、他の請求項について検討するまでもなく上記理由により拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-12-11 |
結審通知日 | 2015-12-15 |
審決日 | 2015-12-28 |
出願番号 | 特願2011-536354(P2011-536354) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松本 直子 |
特許庁審判長 |
松浦 新司 |
特許庁審判官 |
大熊 幸治 齊藤 光子 |
発明の名称 | 冷涼感の強化をもたらすパーソナルケア組成物 |
代理人 | 磯貝 克臣 |
代理人 | 出口 智也 |
代理人 | 小島 一真 |
代理人 | 勝沼 宏仁 |
代理人 | 永井 浩之 |
代理人 | 中村 行孝 |