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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1314738
審判番号 不服2014-17461  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-09-03 
確定日 2016-05-12 
事件の表示 特願2010-532916「アミノ酸組成物を有効成分として含む持久力向上剤、疲労防止剤、又は疲労回復剤」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月15日国際公開、WO2010/041647〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成21年10月 6日(優先権主張 平成20年10月 6日)の出願であって、平成25年12月17日付けで拒絶理由が通知され、平成26年 3月10日に意見書、手続補正書が提出されたが、同年 5月26日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成26年 9月 3日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。

2.平成26年 9月 3日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年 9月 3日付けの手続補正を却下する。

[理由]
(1)補正後の本願発明
この補正は、
補正前の
「【請求項2】
チロシンを必須とするアミノ酸組成物を有効成分とする経口持久力向上剤、経口疲労防止剤、又は経口疲労回復剤。」


「【請求項4】
チロシンを必須とするアミノ酸組成物を有効成分とし、(1)運動後における肝臓、筋肉中のグリコーゲン量を、非投与時と比較し、増加させ、及び/または、(2)運動に伴い血中ケトン値を上昇させる、経口持久力向上剤、経口疲労防止剤、又は経口疲労回復剤。」

とする補正を含むものである。

上記補正は、補正前の請求項2に記載された発明を特定するために必要な事項である、薬剤の用途について、「経口持久力向上剤、経口疲労防止剤、又は経口疲労回復剤。」から、補正後の請求項4の「(1)運動後における肝臓、筋肉中のグリコーゲン量を、非投与時と比較し、増加させ、及び/または、(2)運動に伴い血中ケトン値を上昇させる、経口持久力向上剤、経口疲労防止剤、又は経口疲労回復剤。」に限定したものであり、また、該補正によって、発明が解決しようとする課題や産業上の利用分野は変更されていない。
そうすると、上記補正は、第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、補正後の請求項4に記載した発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか、すなわち、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するかについて、以下、検討する。

(2)引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布されたことが明らかな特開平3-128318号(原審の「引用文献2」に相当。以下、「引用例A」という。)には、次の事項が記載されている。

引用例A
a-1)「【特許請求の範囲】
(1)アミノ酸組成物であって、組成物全量に対しスレオニンを2?15モル%、プロリンを4?30モル%、グリシンを7?20モル%、バリンを4?8モル%、イソロイシンを3?9モル%、ロイシンを2?12モル%、チロシンを1?9モル%、フェニルアラニンを0.5?5モル%、リジンを5?11モル%で含有し、かつそれぞれ5モル%以下のメチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、アルギニンを含むことを特徴とする組成物。
(請求項2?4 省略)」(特許請求の範囲)

a-2)「また、この組成物が血中乳酸値を低下させ、疲労の低下や運動の持続に有効であるということを見出し、本発明を完成するに至った。」(p2 左上欄 9?11行)

a-3)第1表には、Tyrを含有する、キイロスズメバチ、モンスズメバチ、ヒメスズメバチ、コガタスズメバチ、オオスズメバチ由来の組成物が記載されている。オオスズメバチ由来の組成物は、Tau0.5モル%、Asp0.2モル%、Thr6.5モル%、Ser2.4モル%、Glu3.0モル%、Pro7.1モル%、Gly8.2モル%、Ala5.7モル%、Val5.6モル%、Met0.5モル%、I-Leu4.3モル%、Leu5.8モル%、Tyr5.7モル%、Phe3.7モル%、β-Ala0.2モル%、GABA0.3モル%、EtAm1.0モル%、NH_(3)1.1モル%、Orn1.0モル%、Lys8.2モル%、Trp2.1モル%、His2.5モル%、1-MeHis0.4モル%、3-MeHis0.5モル%、Arg3.3モル%からなる。(p2 左下欄?右下欄 第1表)

a-4)「本発明の組成物は微弱な苦味を呈し、血中乳酸値を低下し、かつ疲労の低下や運動、特に筋収縮持続に有用である。・・・本発明の組成物は、ヒト及び運動に対し血中乳酸低下剤、疲労回復剤、筋収縮力持続剤として有用である。また神経作用剤としても有用である。」(p3 右上欄 6?14行)

a-5)「投与形態は特に限定されないが、経口投与、直腸投与、注射による投与等の一般的投与経路を経ることができる。経口投与の場合には、上記組成物自体、あるいは医薬上許容される担体、賦形剤、希釈剤等とともに混合し、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、シロップ剤等として用いてもよい。ただし、固体散剤、錠剤では吸収に時間がかかる場合もあるので、経口投与が好ましい。その場合には適当な添加剤、例えば塩化ナトリウム等の塩類、pH調節剤、キレート剤等と共に水溶液として投与することが好ましい。本発明の組成物には他のアミノ酸、水溶性ビタミン類、クエン酸等の酸類を添加してもよく、また、適当な風味を加えてドリンク剤としてもよい。」(p3 右上欄 15行?左下欄 8行)

a-6)「実施例
第1表中オオスズメバチの組成を有する本発明の組成物を、室温下蒸留水に成分アミノ酸を加えて溶解することにより、16mg/mlの水溶液として製造した。
この組成物について、運動持久力の増進及び血中乳酸値低下作用について栄養学的および生化学的試験により説明する。
実施例1. 栄養学的試験
(1)強制遊泳試験
A.試験方法
5週令(19?20g)のddy系雄マウスを1群5匹とし、直径32cm、深さ30cmの水槽に4?8m/分の流速を作り、強制遊泳を行なわせ、遊泳限界時間を測定した。
B.試験結果
a)投与量の変化に伴う限界遊泳時間の変化
本発明のアミノ酸組成物水溶液(第1表の組成物中、オオスズメバチのもの、16mg/ml、以下同じ)をマウスg体重当り12,5.25、37.5及び50μlを経口投与し、60分後に遊泳を開始した。限界遊泳時間は第1図に示すごとく、無投与時の100分から25μlと37.5μlの130分へと有意差をもって増加した。しかし、50μlでは減少を示した。これは、投与量の増加に伴う体液過剰が遊泳に悪影響を与えたものである。」(p3 右下欄 1行?p4 左上欄 7行、第1図)

a-7)「c)水温の変化に伴う遊泳時間の変動
上記で得られた投与時間60分、投与量25μl/gの条件下で遊泳水槽の水温を25℃から5℃おきに45℃まで変化させ、マウスの遊泳限界時間を測定したところ、35℃で255分の最長遊泳時間を得た(第3図)。
これはコントロールと有意差がみられた。以後の実験は40℃の条件下で行った。
d)マウス週令による遊泳時間の変化
本アミノ酸組成物の投与量を25μl/gとし、水温40℃、遊泳開始時間60分で4.5.8及び100週令マウスの遊泳時間を測定したところ、5週令でコントロール群と有意差を示す180分の遊泳限界時間を得た(第4図)。」(p4 左下欄 1?15行、第3図、第4図)

a-8)「2.生化学的試験
(1)血中乳酸テスト
A.試験方法
乳酸デヒドロゲナーゼによって乳酸がピルビン酸に変わる時に1分子生成するNADHを340nmの吸収測定によって求めた。シグマ社の臨床試薬を用いて行った。
B.試験結果
a)本発明組成物投与による血中乳酸値の低下作用
・・・
b)本発明の組成物の遊泳後の血中乳酸値への影響
5週令マウスに25μl/g体重の検体を経口投与で与え、60分後に遊泳を開始し、1時間後に血中乳酸値を測定した。20%ブドウ糖のみでは 53.3mg/dl(A)と高い値を示した(第7図)。BはCAAMだけ投与した場合で、CはCAAMに20%ブドウ糖を加えた場合、DはVAAMだけを投与した場合を示す。ブドウ糖にカゼイン・アミノ酸組成物を加えた場合(E)には、血中乳酸値はブドウ糖が単独の場合(A)と変らず55.0mg/dlであった。この値は本発明の組成物を投与した場合の約1.5倍であり、ブドウ糖量を40%に増加しても(F)その値は変らなかった。従って、強制運動中のブドウ糖による乳酸値の上昇にも、抑制的に本アミノ酸組成物が働くことが明らかである。」(p4 右下欄 10行?p5 左上欄 11行、第7図)

引用例Aには、チロシンを含む組成物が記載されており(上記a-1))、該組成物が、血中乳酸値を低下させ、疲労の低下や運動の持続に有効であり(上記a-2))、ヒト及び運動に対し、血中乳酸低下剤、疲労回復剤として有用である旨(上記a-4))や、その投与形態として経口投与が好ましいこと(上記a-5))が記載されている。
より具体的には、強制遊泳試験において、上記a-3)に摘示したチロシンを含むオオスズメバチ由来の組成物を経口投与されたマウス群が、水を投与されたコントロール群に比べて有意に長い時間遊泳することができた旨(上記a-6)、a-7))、並びに、強制運動中のブドウ糖による乳酸値の上昇に抑制的に働いた旨(上記a-8))が記載されており、これら試験により、上記組成物について、運動持久力の増進及び血中乳酸値低下作用について説明する旨(上記a-6))が記載されている。
以上の記載からみて、引用例Aには、「チロシンを含むオオスズメバチ由来の組成物を含む、経口投与用の、運動持久力の増進剤、運動により上昇する血中乳酸の低下剤、又は運動による疲労の回復剤。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
本願補正発明と引用発明とは、共に、「チロシンを含む、経口医薬組成物。」である点で一致し、前者が、「チロシンを必須とするアミノ酸組成物を有効成分とし、(1)運動後における肝臓、筋肉中のグリコーゲン量を、非投与時と比較し、増加させ、及び/または、(2)運動に伴い血中ケトン値を上昇させる、経口持久力向上剤、経口疲労防止剤、又は経口疲労回復剤。」と規定しているのに対して、引用発明は、「チロシンを含むオオスズメバチ由来の組成物を含む、経口投与用の、運動持久力の増進剤、運動により上昇する血中乳酸の低下剤、又は運動による疲労の回復剤。」である点で一応相違する。

(4)判断
そこで、上記相違点について、以下、検討する。

(4)-1 チロシンを必須とするアミノ酸組成物を有効成分とする、との規定について
本願補正発明は、「チロシンを必須とするアミノ酸組成物」を有効成分とする発明である。「チロシン」が「アミノ酸」の一種であることは当業者に自明であるから、「チロシン」を含む組成物は、アミノ酸組成物であるといえる。また、チロシン以外の組成物含有成分について、本願請求項1に特段の規定はなされていないから、「チロシン」を含む医薬組成物は、すべて、本願補正発明の「チロシンを必須とするアミノ酸組成物を有効成分」とする組成物に該当すると認める。
実際、本願明細書には、実施例として、スズメバチ由来のアミノ酸組成物の水溶液、V.A.A.Mの水溶液そのもの、あるいは、チロシンのみを80%に減じたアミノ酸組成物の水溶液(Tyr80%)などについて、強制遊泳試験を実施し(段落0030?0056)、該組成物が持久力向上、疲労防止、疲労回復などに役立つ医薬などとして利用することができるとの結論を導き出した旨(段落0057)が記載されている。ところで、V.A.A.Mとは、オオスズメバチ由来の組成物を意味することは、たとえば、特許第2518692号公報の記載(特に、p3 右欄 38?39行、第1表のオオスズメバチの項参照)から明らかである。よって、「チロシン」を含む医薬組成物は、すべて、本願補正発明の「チロシンを必須とするアミノ酸組成物」を有効成分とする組成物に該当するとの上記認定は、本願明細書の記載に合致している。
そして、引用発明の「チロシン」は、医薬組成物である「運動により上昇する血中乳酸の低下剤、運動による疲労の回復剤。」に含有される成分であるから、引用発明の「チロシンを含むオオスズメバチ由来の組成物」は、本願補正発明の「チロシンを必須とするアミノ酸組成物を有効成分」とする組成物に相当すると認める。

(4)-2 (1)運動後における肝臓、筋肉中のグリコーゲン量を、非投与時と比較し、増加させ、及び/または、(2)運動に伴い血中ケトン値を上昇させる、経口持久力向上剤、経口疲労防止剤、又は経口疲労回復剤、との規定について
本願補正発明の「(1)運動後における肝臓、筋肉中のグリコーゲン量を、非投与時と比較し、増加させ、及び/または、(2)運動に伴い血中ケトン値を上昇させる」との規定は、ケトンが3-ヒドロキシ酪酸を意味していること(本願明細書の段落0049)や、肝グリコーゲンや筋肉グリコーゲンが、運動時のエネルギー源であるとの本願優先日当時の技術常識を考慮するならば、たとえば、国際公開第2008/105368号にも記載があるように、血中ケトン値の量が大きいことは、脂肪の分解量が大きいことを示し(段落0027)、また、脂肪の総酸化量が大きいほど、解糖の抑制をもたらし、グリコーゲンが節約され、結果として、疲労を感じずに長時間運動を続けることが可能であることを示す(段落0016)ものといえる。
そうすると、結局、上記規定は、本願補正発明の特定事項である「経口持久力向上剤、経口疲労防止剤、又は経口疲労回復剤」の「持久力向上」、「疲労防止」、又は「疲労回復」を、運動に関連して引き起こされる体内物質の変化、すなわち、「運動後における肝臓、筋肉中のグリコーゲン量」を増加させる、あるいは、「運動に伴い血中ケトン値」を上昇させる、といった観点に置き換えて表現したにすぎないものであり、「経口持久力向上剤、経口疲労防止剤、又は経口疲労回復剤」に加えて、さらなる用途の特定に寄与していると認められるものではない。
そして、引用例Aに、本願補正発明の「チロシンを必須とするアミノ酸組成物を有効成分」とする組成物に相当する「チロシンを含むオオスズメバチ由来の組成物」が、「運動持久力の増進剤、運動により上昇する血中乳酸の低下剤、又は運動による疲労の回復剤。」として用いうるものである旨が記載されていることは前記検討のとおりである。
よって、本願補正発明が、「(1)運動後における肝臓、筋肉中のグリコーゲン量を、非投与時と比較し、増加させ、及び/または、(2)運動に伴い血中ケトン値を上昇させる、経口持久力向上剤、経口疲労防止剤、又は経口疲労回復剤。」と規定する点は、引用発明の「経口投与用の、運動持久力の増進剤、運動により上昇する血中乳酸の低下剤、又は運動による疲労の回復剤。」の規定と実質的な相違点であるとはいえない。

したがって、本願補正発明は、引用例Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成26年 9月 3日受付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項2に係る発明は、平成26年 3月10日受付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。)

「【請求項2】
チロシンを必須とするアミノ酸組成物を有効成分とする経口持久力向上剤、経口疲労防止剤、又は経口疲労回復剤。」


(1)引用例Aの記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例、及びその記載事項、並びに本件出願日前の技術常識は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明の「経口持久力向上剤、経口疲労防止剤、又は経口疲労回復剤。」について、その用途を「(1)運動後における肝臓、筋肉中のグリコーゲン量を、非投与時と比較し、増加させ、及び/または、(2)運動に伴い血中ケトン値を上昇させる、経口持久力向上剤、経口疲労防止剤、又は経口疲労回復剤。」に限定したものが本願補正発明である(前記「2.(1))。

そして、前記「2.(4)」に記載したとおり、本願補正発明は、引用例Aに記載された発明であるから、当該本願補正発明を包含する本願発明も、同様の理由により、引用例Aに記載された発明である。
したがって、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

(3)むすび
以上のとおりであるから、本願請求項2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶されるべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-07 
結審通知日 2016-03-08 
審決日 2016-03-29 
出願番号 特願2010-532916(P2010-532916)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤田 浩平  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
松澤 優子
発明の名称 アミノ酸組成物を有効成分として含む持久力向上剤、疲労防止剤、又は疲労回復剤  
代理人 平木 祐輔  
代理人 藤田 節  

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