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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08F
管理番号 1314740
審判番号 不服2014-20264  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-07 
確定日 2016-05-12 
事件の表示 特願2012-507072「新規共重合体およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月29日国際公開、WO2011/118728〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 主な手続の経緯
本願は、平成23年3月24日(優先権主張 平成22年3月25日)を国際出願日とする出願であって、平成26年2月3日付けで拒絶理由が通知され、同年5月9日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月12日に手続補足書が提出されたが、同年8月27日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年10月7日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、同年12月22日付けで前置報告がなされ、平成27年2月26日付けで上申書が提出されたものである。

第2 平成26年10月7日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成26年10月7日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正
平成26年10月7日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の全文を変更する補正事項からなるものであり、そのうち本件補正前の請求項1の記載並びに当該請求項に対応する本件補正後の請求項1の記載は、それぞれ以下のとおりである(審決注:補正箇所に下線を付した。)。

○本件補正前(平成26年5月9日に提出された手続補正書)
「【請求項1】1質量%以上、90質量%以下のヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート由来の構造単位(a)、及び、10質量%以上、99質量%以下のカルボキシル基含有単量体由来の構造単位(b)を必須構造単位として有し、重量平均分子量が4,000?50,000(但し、50,000を除く。)である共重合体。」

○本件補正後
「【請求項1】1質量%以上、90質量%以下のヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート由来の構造単位(a)、及び、10質量%以上、99質量%以下のカルボキシル基含有単量体由来の構造単位(b)を必須構造単位として有し、重量平均分子量が4,000?18,000である共重合体。」

2 本件補正の目的
本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である共重合体の「重量平均分子量」について、その範囲の上限をより小さい分子量に変更し、その範囲を限定する補正である。そして、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、請求項1についてする補正については、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると認める。

3 独立特許要件違反の有無について
上記2に記載したとおりであるから、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(いわゆる独立特許要件違反の有無)について検討すると、以下のとおり、本件補正は当該要件に違反すると判断される。

すなわち、本願補正発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(なお、引用文献1は、原査定の理由で引用された「引用文献1」と同一の文献である。)。

○引用文献1:特開昭61-246299号公報

4 本願補正発明
本願補正発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。

「1質量%以上、90質量%以下のヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート由来の構造単位(a)、及び、10質量%以上、99質量%以下のカルボキシル基含有単量体由来の構造単位(b)を必須構造単位として有し、重量平均分子量が4,000?18,000である共重合体。」

5 本願補正発明が特許を受けることができない理由
(1)刊行物の記載事項
引用文献1には、以下の記載がある。
ア 「1、(a)不溶性アルミノシリケート陽イオン交換物質約5?約50重量%、および
(b)単量体重量基準で
(i)C_(3)?C_(10)モノオレフィン系モノカルボン酸約5%?約70%、
(ii)C_(4)?C_(6)モノオレフィン系ジカルボン酸約5%?約70%、および
(iii)C_(3)?C_(10)モノオレフィン系モノカルボン酸、C_(4)?C_(6)モノオレフィン系ジカルボン酸およびC_(2)?C_(6)モノオレフィン系アルコールのC_(1)?C_(6)アルキルおよびヒドロキシアルキルエステル類から選択されるエステル、またはC_(2)?C_(6)モノオレフィン系アルコール類から選択されるアルコールである非イオンスペーサー約1%?約80%からなるポリカルボキシレート重合体約0.1?約20重量%
によって特徴づけられるリン含量5%未満を有する粒状洗剤組成物。」(請求項1)
イ 「2、重合体が、単量体重量基準で
(i)モノオレフィン系モノカルボン酸約10%?約45%、好ましくは約20%?約40%、
(ii)モノオレフィン系ジカルボン酸約10%?約45%、好ましくは約20%?約40%、および
(iii)C_(3)?C_(10)モノオレフィン系モノカルボン酸およびC_(4)?C_(6)モノオレフィン系ジカルボン酸のC_(1)?C_(6)アルキルおよびヒドロキシアルキルエステル類から選択される非イオンスペーサー約10%?約50%、好ましくは約20%?約45%
からなる特許請求の範囲第1項に記載の組成物。」(請求項2)
ウ 「4、モノカルボン酸が、アクリル酸、メタクリル酸およびそれらの混合物から選択され、ジカルボン酸が、マレイン酸、イタコン酸およびそれらの混合物から選択され、そして非イオンスペーサーが、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよびブタンジオールモノ(メタ)アクリレートから選択される特許請求の範囲第1項?第3項のいずれかに記載の組成物。」(請求項4)
エ 「ゼオライトビルダー入り洗剤組成物の漂白、クリーニング性能および布帛損傷特性は、所定割合のモノカルボン酸単位、ジカルボン酸単位および非イオンスペーサー(spacer)単位を有するポリカルボキシレート重合体のそれへの添加によって著しく改善できることが今発見された。」(第3頁左上欄18行から同右上欄3行)
オ 「本発明で使用するのに好適なポリカルボキシレート共重合体の2つの主要タイプがある。第一タイプにおいては、重合体は、非イオン重量基準で
(i)モノオレフィン系モノカルボン酸約10%?約45%、好ましくは約20%?約40%、
(ii)モノオレフィン系ジカルボン酸約10%?約45%、好ましくは約20%?約40%、および
(iii)C_(3)?C_(10)モノオレフィン系モノカルボン酸およびC_(4)?C_(6)モノオレフィン系ジカルボン酸のC_(1)?C_(6)アルキルおよびヒドロキシアルキルエステル類から選択される非イオンスペーサー約10%?約50%、好ましくは約20%?約45%
からなる。
この種の共重合体においては、非イオンスペーサーは、好ましくは特定のモノ-およびジ-カルボン酸のC_(2)?C_(6)ヒドロキシアルキルエステル、特にヒドロキシプロビル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、またはブタンジオール(メタ)アクリレートから選択される。」(第4頁右下欄15行から第5頁左上欄14行)
カ 「本発明で使用するのに好適なポリカルボキシレート重合体は、一般にK値約8?約100、好ましくは約20?約80、更に好ましくは約20?約60を有する。K値(=10^(3)K)は、H.フィケンシャーによってCe1lulosechemie,14,58?64および71?74(1932)に記載されており、そしてここでは25℃の水中で2重量%において重合体のナトリウム塩について測定される。」(第5頁右上欄13-20行)
キ 「PC3:アクリル酸/マレイン酸/アクリル酸ヒドロキシプロピル(30/30/40)の共重合体、K値47.3」(第12頁右下欄16-18行)
ク 「PC5:アクリル酸/マレイン酸/アクリル酸ヒドロキシプロピル(40/40/20)の共重合体、K値43.1」(第13頁左上欄1-3行)

(2)引用発明
上記(1)での摘示、特に上記ア?ウ、オ、キ、クの記載から、引用文献1には、次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「粒状洗剤組成物に約0.1?約20重量%含まれるポリカルボキシレート重合体であって、単量体重量基準で
(i)モノオレフィン系モノカルボン酸約10%?約45%、(ii)モノオレフィン系ジカルボン酸約10%?約45%、および(iii)ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよびブタンジオールモノ(メタ)アクリレートから選択される非イオンスペーサー約10%?約50%からなるポリカルボキシレート重合体。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「モノオレフィン系モノカルボン酸」及び「モノオレフィン系ジカルボン酸」は、それぞれ「不飽和モノカルボン酸」及び「不飽和ジカルボン酸」であるところ、本願明細書の【0019】の記載からみて、これらはいずれも本願補正発明の「カルボキシル基含有単量体」に相当する。そして、引用発明のポリカルボキシレート重合体は上記(i)?(iii)の単量体からなり、各単量体の合計の含有量は100%であるところ、(iii)非イオンスペーサーの含有量が「約10%?約50%」であるので、引用発明のポリカルボキシレート重合体における「(i)モノオレフィン系モノカルボン酸」と「(ii)モノオレフィン系ジカルボン酸」との合計の含有量は「約50?約90%」であるといえる。また、引用発明における「ポリカルボキシレート重合体」は、上記(i)?(iii)の異なる単量体から構成される共重合体であるといえ、本願発明は共重合体の利用分野を何ら特定するものではないから「粒状洗剤組成物に約0.1?約20重量%含まれる」ものも包含するものといえるので、引用発明における「粒状洗剤組成物に約0.1?約20重量%含まれるポリカルボキシレート重合体」は、本願補正発明の「共重合体」に相当する。加えて、引用発明における「(iii)ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよびブタンジオールモノ(メタ)アクリレートから選択される非イオンスペーサー」由来の構造単位は、引用発明のポリカルボキシレート重合体に必須の構造単位であるから、本願補正発明の「構造単位(a)」に相当するといえる。
以上のことから、本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点(相違点1?2)は以下のとおりである。

○一致点
「10質量%以上、50質量%以下の構造単位(a)、及び、50質量%以上、90質量%以下のカルボキシル基含有単量体由来の構造単位(b)を必須構造単位として有する共重合体」である点

○相違点1
共重合体(カルボキシレート重合体)中の構造単位(a)として、本願補正発明は「ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート由来の構造単位」を有するのに対し、引用発明は「ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートおよびブタンジオールモノ(メタ)アクリレートから選択される非イオンスペーサー」由来の構造単位を有する点

○相違点2
共重合体(カルボキシレート重合体)の重量平均分子量について、本願補正発明は「4,000?18,000」であるのに対し、引用発明は特定していない点

(4)相違点についての判断
ア 相違点1について
引用文献1には、非イオンスペーサーとして「ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート」が具体的に例示されているのであるから(摘示ウ、オ、キ、ク)、引用発明の非イオンスペーサーとして「ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート」を用いることは当業者であれば容易になしえることである。
そして、本願補正発明は「共重合体」そのものの発明であり、洗剤ビルダーに係る発明であるとか、洗剤ビルダーを用途とする発明ではない。したがって、仮に本願補正発明の共重合体が上記「構造単位(a)」として「ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート」を採用することにより、洗剤ビルダーに用いた場合において顕著な効果が得られるとしても、そのような効果は、洗剤ビルダーとは関係のない本願補正発明における格別の効果であるとすることはできない。

イ 相違点2について
引用文献1には、引用発明のカルボキシレート重合体についてK値約20?約60を有することが好ましいと記載されており(摘示カ)、上記K値は、重合体の重合度を表示する方法であるといえる(例えば、瀬戸正二監修、実用プラスチック用語辞典、株式会社プラスチックス・エージ、第2版、昭和45年6月20日、p.156を参照。)。そうすると、引用文献1には、引用発明の共重合体の重合度を好ましい範囲に調整することが記載されているといえるから、引用発明において共重合体の重合度を好ましい範囲に調整することにより、その重量平均分子量を適切な範囲に定めることは当業者であれば容易になしえることである。
そして、本願補正発明の共重合体を洗剤ビルダーに用いた場合に、該共重合体の重量平均分子量を本願補正発明の範囲とすることにより、再汚染防止能が向上するとしても、本願補正発明は、上記5(4)アに記載したとおり「共重合体」そのものの発明であるから、そのような効果が本願補正発明の顕著な効果であるとすることはできない。

(5)小括
よって、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないといえる。

6 まとめ
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記第2に記載したとおり、本件補正は決定をもって却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成26年5月9日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりものである。

「1質量%以上、90質量%以下のヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート由来の構造単位(a)、及び、10質量%以上、99質量%以下のカルボキシル基含有単量体由来の構造単位(b)を必須構造単位として有し、重量平均分子量が4,000?50,000(但し、50,000を除く。)である共重合体。」

2 原査定の理由
原査定の理由は、要するに、この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に頒布された引用文献1に記載された発明(引用発明)に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、という理由を含むものである。

3 引用発明
引用発明は、上記第2 5(2)において認定したとおりのものである。

4 対比・判断
本願発明は、本願補正発明において重量平均分子量の範囲を「4,000?50,000(但し、50,000を除く。)」としたものであり(上記第2 1を参照)、本願補正発明は、本願発明の構成を包含するものであるといえる。
そして、本願発明の特定事項を全て含む本願補正発明が、上述のとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである以上、本願発明も、同様の理由により、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるといえる。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、本願の優先日前に頒布された刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、この出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-10 
結審通知日 2016-03-15 
審決日 2016-03-29 
出願番号 特願2012-507072(P2012-507072)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 英樹  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 田口 昌浩
柴田 昌弘
発明の名称 新規共重合体およびその製造方法  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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