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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C01G
管理番号 1314746
審判番号 不服2015-471  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-08 
確定日 2016-05-12 
事件の表示 特願2009-275867「リチウム複合化合物粒子粉末及びその製造方法、非水電解質二次電池」拒絶査定不服審判事件〔平成22年7月15日出願公開、特開2010-155775〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成21年12月3日(優先権主張 平成20年12月4日)の出願であって、平成26年9月30日付けで拒絶査定され、平成27年1月8日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書により特許請求の範囲が補正され、同年11月24日付けの補正却下の決定により前記平成27年1月8日付けの手続補正は却下され、同日付けの当審の拒絶理由通知に対して、平成28年2月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1?9に係る発明は、平成28年2月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
組成式1で示されるリチウム複合化合物粒子粉末において、該リチウム複合化合物粒子粉末の粒子表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置で分析したときの、イオン強度比A(LiO^(-)/NiO_(2)^(-))が0.3以下であって、且つ、イオン強度比B(Li_(3)CO_(3)^(+)/Ni^(+))が20以下であり、カーボン含有率が300ppm以下であることを特徴とするリチウム複合化合物粒子粉末。
組成式1
Li_(1+x)Ni_(1-y-z)Co_(y)M_(z)O_(2)
M=B,Alの少なくとも1種以上、-0.02≦x≦0.02、0<y≦0.20、0<z≦0.10」

3 当審の拒絶理由
当審において通知した拒絶の理由は、概ね次の理由を含むものである。
この出願の、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明は、その優先日前に日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
刊行物:Jisuk Kim. et al, Washing Effect of a LiNi_(0.83)Co_(0.15)Al_(0.02)O_(2) Cathode in Water, Electrochem. and Solid-State Lett., 2005年11月21日、Vol.9, No.1, p.A19-A23 (以下、「引用例」という。)
なお、本願発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項4を独立形式で記載した発明にあたる。

4 当審の判断
請求人の提出した意見書及び手続補正書の内容を検討したが、当審は、上記の拒絶理由のとおり次の理由により、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。

(1)刊行物に記載された発明
ア 引用例の記載事項
(ア)「The formation of LiOH and Li_(2)CO_(3) impurities on high Ni content LiNi_(0.83)Co_(0.15)Al_(0.02)O_(2) powders due to H_(2)O and CO_(2) absorption from the air can be reduced without structural degradation by washing in water 」(A19頁要約の欄)(当審の訳:空気からH_(2)OとCO_(2) を吸収することにより、NiリッチなLiNi_(0.83)Co_(0.15)Al_(0.02)O_(2) 粉末上に形成された不純物であるLiOHとLi_(2)CO_(3)は、水で洗浄することにより構造の劣化を伴うことなく減少させることができる。)
(イ)「The electrochemical properties were tested in a coin-type 2016R cell with lithium metal as an anode,・・・・」(A19頁右欄22?23行)(当審の訳:金属リチウムを負極として使うコイン型電池2016Rにおいて、電気化学的特性を評価した。)
(ウ)「Table I shows the moisture and carbon content of the LiNi_(0.83)Co_(0.15)Al_(0.02)O_(2) powders only ・・・・・. When the CO_(2) in air reacts with H_(2)O, H_(2)CO_(3) is formed, which decreases the pH to ?5.5. Acidic CO_(3)^(2-) ions then attack the particle surface, and Li^(+) ions can be easily leached from the bulk, forming LiOH and Li_(2)CO_(3). Hence, the amounts of LiOH and Li_(2)CO_(3) are expected to increase with increasing air exposure time.」(A19頁右欄 Resultsand Discussionの欄1?12行)(当審の訳:表1にLiNi_(0.83)Co_(0.15)Al_(0.02)O_(2)粉末の・・・水分と炭素の含有量を示す。空気中のCO_(2)がH_(2)Oと反応するとH_(2)CO_(3)を形成し、pHを約5.5程度に引き下げる。酸性のCO_(3)^(2-)イオンは粒子表面に作用し、Li^(+)イオンが容易にバルクから溶出し、LiOHとLi_(2)CO_(3)を形成する。このため、LiOHとLi_(2)CO_(3)の量は、空気に露出される時間が増えるにつれて増加する。)
(エ)「When the air-exposed LiNi_(0.83)Co_(0.15)Al_(0.02)O_(2) was heat-treated at 700℃ for 2h, the moisture content in the powder stored in a dry keeper was 250ppm, but its value rapidly increased to 2576ppm after being exposed to air again. 」(A20頁左欄6?9行)(当審の訳:空気中に露出したLiNi_(0.83)Co_(0.15)Al_(0.02)O_(2)粉末は、700℃で2時間熱処理されると、乾燥容器内に保管された粉末の水分は250ppmであるが、再び空気中に露出されると急激に増加して2576ppmとなる。)
(オ)「However, the moisture contents of the annealed sample after the first wash and subsequent heat- treatrnent after being stored in a dry holder and in air were 150 and 870 ppm, respectively, indicating that some portion of the Li_(2)CO_(3) and LiOH had been washed away by water.」(A20頁左欄14?18行)(当審の訳:しかし、第1回の水洗とこれに続く加熱処理の後に、乾燥容器内に保存されたサンプルと空気中で保管されたサンプルの水分含有量は、それぞれ、150及び870ppmであり、このことは、Li_(2)CO_(3)とLiOHのいくらかは水洗により除去されていることを示している。)
(カ)「Using reflection Fourier transform infrared (FTIR) spectroscopy・・・, the evolution of the Li_(2)CO_(3) or LiOH vibration peaks was investigated with increasing washing frequency.・・・・.After washing, the Li_(2)CO_(3) and LiOH peaks disappeared, suggesting that both Li_(2)CO_(3) and LiOH had been rinsed away by the water.」(A22頁左欄下から6行?同頁右欄2行)(当審の訳:FTIR(reflection Fourier transform infrared spectroscopy)を使って、水洗の頻度の増加につれてLi_(2)CO_(3)やLiOHのピークがどのように変化するかを調べた。・・・水洗の後に、Li_(2)CO_(3)とLiOHのピークは消失しており、このことは、Li_(2)CO_(3)とLiOHは水洗により洗い流されたことを示唆している。)
(キ)「The initial capacities and cycling life of the bare and washed samples (after heat-treatment at 700℃) were compared in order to determine the effect of washing on the electrochemical properties, ・・・・. 」(A22頁右欄5?7行)(当審の訳:電気化学的特性に及ぼす洗浄の効果を確認するために、そのままのサンプルと洗浄後に700℃で熱処理したサンプルについて、初期容量とサイクル寿命を比較した。)

イ 引用発明
記載事項(ア)によれば、引用例には、LiNi_(0.83)Co_(0.15)Al_(0.02)O_(2) 粉末上に形成された不純物であるLiOHとLi_(2)CO_(3)は、水で洗浄することにより構造の劣化を伴うことなく減少させることができることが記載されている。具体的には、同(ウ)によれば、LiNi_(0.83)Co_(0.15)Al_(0.02)O_(2)粉末の表面には、空気中の水分及び二酸化炭素との反応によりLiOHとLi_(2)CO_(3) が形成されるが、同(エ)(オ)によれば、1回の水洗と700℃で2時間での熱処理により、Li_(2)CO_(3)とLiOHがある程度は除去されることが記載されている。このことは、同(カ)にも記載されている。
したがって、これらの事項をLiNi_(0.83)Co_(0.15)Al_(0.02)O_(2) 粉末という物の観点から整理すると、引用例には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「水洗及びこれに続く700℃で2時間の熱処理により、表面に形成された不純物であるLi_(2)CO_(3)とLiOHを除去してなるLiNi_(0.83)Co_(0.15)Al_(0.02)O_(2)粉末」

(2)対比と判断
ア 対比
引用発明の「LiNi_(0.83)Co_(0.15)Al_(0.02)O_(2)粉末」は、「組成式Li_(1+x)Ni_(1-y-z)Co_(y)M_(z)O_(2) M=B,Alの少なくとも1種以上、-0.02≦x≦0.02、0<y≦0.20、0<z≦0.10」に含まれる組成を有することは明らかであるので、本願発明の「組成式1で示されるリチウム複合化合物粒子粉末」に相当する。
とすると、本願発明と引用発明とは、「組成式1で示されるリチウム複合化合物粒子粉末。
組成式1 Li_(1+x)Ni_(1-y-z)Co_(y)M_(z)O_(2)、M=B,Alの少なくとも1種以上、-0.02≦x≦0.02、0<y≦0.20、0<z≦0.10」である点で一致し、次の点(以下、「相違点」という。)で相違する。
本願発明のリチウム複合化合物粒子粉末は、該粒子粉末の「粒子表面を飛行時間型二次イオン質量分析装置で分析したときの、イオン強度比A(LiO^(-)/NiO_(2)^(-))が0.3以下であって、且つ、イオン強度比B(Li_(3)CO_(3)^(+)/Ni^(+))が20以下であり、カーボン含有率が300ppm以下である」のに対し、引用発明のリチウム複合化合物粒子粉末表面のイオン強度比A、B及びカーボン含有率が明らかでない点。

イ 判断
そこで、上記相違点の構成に想到することは、当業者が容易になしうることであるかを検討する。
本願発明の粒子粉末は、水洗後に500?850℃の温度で2時間程度熱処理されるので(本願明細書の段落【0042】、実施例1?6)、引用発明のリチウム複合化合物粒子粉末は、本願発明の粒子粉末と同様に、水洗及びこれに続く700℃で2時間の熱処理により、表面に形成されたLi_(2)CO_(3)とLiOHが除去されている。また、引用発明の水洗及び熱処理の目的は、記載事項(イ)(キ)によれば、二次電池の正極活物質としての特性を向上することであり、これは本願発明と同様の目的である。
そうすると、引用発明は本願発明と同様の処理によって得られる同様の目的のものを包含するから、そのような引用発明については、Li_(2)CO_(3)とLiOHの除去の程度は本願発明と同程度であると認められる。
次に、本願発明においては、該粒子粉末表面からのLi_(2)CO_(3)とLiOHの除去の程度を、LiOHについては、飛行時間型二次イオン質量分析装置(以下、「TOF-SIMS」という。)で分析したイオン強度比A(LiO^(-)/NiO_(2)^(-))、Li_(2)CO_(3)については同じくイオン強度比B(Li_(3)CO_(3)^(+)/Ni^(+))及びカーボン含有率の観点からの数値範囲で特定しており、このような具体的数値範囲は、請求人も主張するように引用例には記載も示唆もされていない。
しかし、試料表面の元素組成や化学構造を分析する装置としてTOF-SIMSは周知の装置であるので、引用発明における粒子粉末表面の表面状態をTOF-SIMSを用いて評価することは、当業者が必要に応じて適宜行うことに過ぎない。
このため、引用発明において、リチウム二次電池の充放電サイクル特性を向上することという目的を達成するために、リチウム複合化合物粒子粉末表面のリチウム化合物系不純物として認識されていたLi_(2)CO_(3)とLiOHを適切な程度まで除去することは、当業者であれば容易に想到するところであり、これを周知の測定手段であるTOF-SIMSによって測定して本願発明で特定する数値範囲に設定することに、格別困難性があるといえないし、それによって顕著な効果があるとすることはできない。
また、カーボン含有率が300ppm以下とすることについても、格別の困難性がなく効果も顕著とはいえない。なぜなら、リチウム複合化合物粒子粉末表面のLi_(2)CO_(3)を適切な程度まで除去すれば、該粒子粉末表面のカーボン含有率が低下することは明らかだからである。
したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得たものであり特許を受けることができない。

5 結論
以上のとおりであるので、本願の請求項1に係る発明は、刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易になしえたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-11 
結審通知日 2016-03-15 
審決日 2016-03-28 
出願番号 特願2009-275867(P2009-275867)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C01G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大城 公孝  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 永田 史泰
真々田 忠博
発明の名称 リチウム複合化合物粒子粉末及びその製造方法、非水電解質二次電池  
代理人 岡田 数彦  

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