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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02M
管理番号 1314755
審判番号 不服2015-7811  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-27 
確定日 2016-05-12 
事件の表示 特願2014-137340号「内燃機関の燃費削減装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月30日出願公開、特開2014-206172号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2013年4月30日(優先権主張 2012年4月27日 日本国)を国際出願日とする特願2013-537963号の一部を、平成26年7月3日に新たな特許出願としたものであって、平成26年8月7日に上申書が提出され、平成26年10月10日付けで拒絶理由が通知され、平成26年12月22日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年1月21日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成27年4月27日に拒絶査定不服審判が請求され、平成27年6月11日に手続補正書(方式)が提出されて審判請求書の請求の理由が補正され、平成27年11月11日付けで当審において拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年1月18日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、平成28年1月18日提出の手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
空気導入管ならびに上部開口を備えたクリーナ本体と、清浄化された空気を内燃機関に供給するための空気供給管を備え前記クリーナ本体に被着される蓋体と、前記蓋体の内部に張設され通過する空気を清浄化するフィルタ本体とを有し、全体として箱形に形成されたクリーナ本体からなるエアクリーナ内に、空気に対し波長850?1450nmの近赤外領域の光を照射する複数の発光ダイオードを基板に整列配置し、空気中の気相水をそのまま前記内燃機関に導入するために気相水に前記各発光ダイオードからの近赤外領域の光の振動エネルギを担持させるようにしたことを特徴とする内燃機関の燃費削減装置。」

第3 当審拒絶理由
当審拒絶理由は、概ね次のとおりである。

「A.本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

1.本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明(以下、それぞれを「本願発明1」ないし「本願発明3」という。)は、本件出願当初における特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものと認める。

2.刊行物
刊行物1:特開2010-185356号公報
刊行物2:特開2006-242166号公報
刊行物3:特開2005-307905号公報
刊行物4:特開2002-70665号公報
刊行物5:J.R.ホールマン著/平田 賢監訳、「伝熱工学 下」、ブレイン図書出版株式会社、昭和57年3月3日、標題紙、p.306-309、奥付ページ
・・・(略)・・・
3.対比・判断
(1)本願発明1について
・・・(略)・・・
よって、本願発明1は、引用発明、刊行物2記載の技術、刊行物3記載の技術及び刊行物5の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものである。
・・・(略)・・・

B.本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(1)明細書の段落【0082】及び【0083】における「緩和時間」及び「分子振動の励起」について
「励起」とは、一般的に、量子力学において基底状態より高いエネルギー準位に移行することを意味すると考えられるが、本件明細書の記載における「分子振動の励起」とは、そのようなことを意味するのか、あるいは、外部から加えられたエネルギーによって、温度上昇が生じることを意味するのか不明である。
仮に、本件明細書の記載における「分子振動の励起」が、外部から加えた熱エネルギーによって内燃機関の吸入空気の温度上昇が生じることを意味するのであれば、「分子運動の寿命に当たる緩和時間」及び「熱エネルギへ緩和される時間は0.01ミリ秒のオーダーである」の意味が不明確なものとなる。
また、いずれを意味するとしても、「熱エネルギへ緩和される時間は0.01ミリ秒のオーダー」であるとすると、仮に、エアクリーナを通過する空気の流速が吸入空気の流速であるとして(通常、エアクリーナを通過する流速は、エンジンの吸気流速よりも小さい値であると考えられる)、エンジンの一般的な吸気流速は70m/s程度(必要があれば、Weblio辞書(http://www.weblio.jp/content/吸気流速)を参照)であるから、緩和時間が0.01ミリ秒であるとすると、分子振動が励起する場所からシリンダ内部までの距離はわずか0.7mm程度となるから、どのようにすればエアクリーナーから内燃機関のシリンダ内部までの距離をわずか0.7mm程度のものとして発明が実施できるのか不明である。
さらに、0.01ミリ秒は、シリンダ内での吸気圧縮行程に要する時間と比べると、はるかに短い時間であるから、シリンダ内で着火する前に励起が収まって緩和するとも考えられるので、この点においても、どのようにすれば発明が実施できるのか不明である。・・・(略)・・・」
(以下、特許法第29条第2項の当審拒絶理由を「理由A」といい、特許法第36条第4項第1号の当審拒絶理由を「理由B」という。)

第4 当審の判断
1.[理由A]について
1-1.刊行物
(1)刊行物1の記載等
当審拒絶理由で引用された特開2010-185356号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。

1a)「【0010】
(1)微弱赤外線を放出する物質を空気と接触させることにより、該空気に含まれている水蒸気を前記微弱赤外線によって分子振動を励起させ、該励起された水蒸気を含む空気をエンジンの燃焼用としてエンジンルームに送風することを特徴とするエンジン燃焼効率改善方法。
【0011】
(2)前記(1)記載のエンジンの燃焼方法を用いたことを特徴とするエンジン燃焼効率改善装置。
【0012】
(3)前記エンジン燃焼効率改善装置が、既設のエンジンルーム用の空気取入れ系統に組み込まれたことを特徴とする前記(2)記載のエンジン燃焼効率改善装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエンジン燃焼効率改善方法及びエンジン燃焼効率改善装置によれば、エンジンルーム内に設置されている全てのエンジンに対応し、運転中でも設置作業が出来、しかも燃焼効率改善の結果、エンジンの燃料消費量は少なくとも20%は節減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ダクトタイプのエンジンの燃焼効率改善装置で、その中のパイプをダクトから引き出した状態を示す図
【図2】メインエンジンルーム2室の空気吸込み系統図で、既存の有圧送風機が吹き出し口側に設置されている状態を示す図
【図3】空調、照明用の補助エンジンルームの空気吸込み系統図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下本発明を実施するための形態を、実施例により詳しく説明する。
【0016】
尚、本実施例に示した空気取り入れ系統に設置される赤外線放射物質の形状は、エンジンの仕様、空気取り入れ口等により、その形状、サイズが異なるため本発明を制限するものではない。」(段落【0010】ないし【0016】)

1b)「【0017】
空気を構成している物質のうち水蒸気を除けば赤外線吸収率は非常に少なく、無視してもよい数値だが、赤外線のうち波数が約3600cm^(-1)?3800cm^(-1)附近の赤外線領域は水蒸気に対して最大の吸収帯になっている。その結果、これを吸収した水蒸気は分子振動を励起され、運動エネルギーに変換するものと思われる。
【0018】
従って、本発明に採用する赤外線放射物質は先に記載した波数の範囲内で赤外線を多く放射するものであれば良い結果が得られる。
【0019】
水蒸気の分子振動を、基底状態から励起状態に変化させると、なぜ燃焼効率が良くなるのか、その確定的理由は不明であるが、エンジンの燃焼効率改善装置設置以前のエンジンルーム内の空気中の水蒸気分子の状態は(H_(2)O)nで、それが赤外線の吸収によりn数のクラスターが小さくなるか或は0となり、多くの水蒸気の分子は単分子で存在するものと推定される。単分子になった水蒸気の分子量は18で、これは乾燥空気の分子量28.8より小さく、そして軽くなる。化石燃料は炭化水素の混合物で、その混合比率は一様ではないが、分子量は226?282の範囲である。
【0020】
エンジンのシリンダー内における空気と燃料の混合状態は、分子量の大きい燃料分子に空気と水蒸気の分子が取り囲んだ状態になるので、この際、水蒸気の分子が単分子で小さくなれば、その分空気の燃料に接する領域が増え、燃焼が良くなるものと思われる。」(段落【0017】ないし【0020】)

上記1a)及び1b)並びに図面の記載を総合すると、刊行物1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「ダクト内にエンジンの燃焼に用いられる空気に対して波数が約3600cm^(-1)?3800cm^(-1)付近の赤外線を放射する複数の赤外線放射物質を設置し、空気に含まれる水蒸気の分子運動が励起された状態でエンジンに導入するために、空気に含まれる水蒸気に前記各赤外線放射物質からの赤外線を照射して分子運動を励起するエンジン燃焼効率改善装置。」

(2)刊行物2の記載等
当審拒絶理由で引用された特開2006-242166号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。

2a)「【0006】
本発明は、一重項酸素を発生させる手段を吸気流路内に有する内燃機関であり、好ましくは前記の一重項酸素を発生させる手段が、光の吸収により三重項励起状態となり得る有機色素および/またはフラーレン類を表面に担持した固体担体と、該固体担体表面に紫外線および/または可視光線および/または近赤外線を照射する光源から構成される内燃機関であり、更に好ましくは前記の有機色素および/またはフラーレン類を担持する固体がカーボンファイバーである内燃機関である。また、本発明は、一重項酸素を含む空気を支燃ガスに用いることを特徴とする内燃機関の運転方法であり、更に、光の吸収により三重項励起状態となり得る有機色素および/またはフラーレン類および/またはカーボン繊維を表面に担持した固体担体に紫外線および/または可視光線および/または近赤外線を照射し、該固体担体表面を通過した空気または混合気を用いる内燃機関の運転方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明で使用する一重項酸素は、例えば特許文献1や特許文献2に記載したように、光の吸収により三重項励起状態となり得る有機色素および/またはフラーレン類を固体担体の表面に担持し、これに空気中で光を照射して一重項酸素を発生させることができる。本発明者等は、内燃機関のインテークマニフォールドの上流に接続されているエアフィルターの下流側に有機色素および/またはフラーレン類を表面に担持した固体担体を設置し、更にこれに隣接して設置したランプによりこの固体担体に可視光を照射し、内燃機関を運転した結果、燃費が5パーセントないし15パーセント向上し、ディーゼルエンジンの場合には黒煙の発生が著しく減少することを見出した。更に排気ガス中の有害成分である一酸化炭素、炭化水素についても減少することが認められた。」(段落【0006】及び【0007】)

2b)「【0013】
本発明で用いる光源としては、通常のタングステンランプの他に、太陽光、水銀灯、ナトリウム灯、蛍光灯、LED、キセノン灯、等を用いることができる。
【実施例1】
【0014】
電子式空燃比制御システムの排気量1600ccのガソリンエンジンを搭載した乗用車について、吸気エアフィルターの下流側に、100mm×300mm×5mmのポリエステル繊維の不織布にローズベンガルのアルコール溶液に浸した後アルコールを蒸発させたものを貼りつけ、これに光源として白色LEDを設置して50ワット電力で点灯してその光を照射した。この乗用車をシャーシーダイナモメーター上で10・15モード試験を行った。その結果、表1に示すようにCO、HCが20パーセント程度減少し、燃費は15パーセント程度向上した。」(段落【0013】及び【0014】)

2c)上記2a)の記載における、近赤外線は、赤外線を近赤外線、中間赤外線、遠赤外線に分類したうちの一つに相当するから、赤外線に含まれるといえる。

上記2a)ないし2c)によれば、刊行物2には以下の技術(以下、「刊行物2記載の技術」という。)が記載されている。

「赤外線を照射するLEDを、インテークマニフォールドの上流に接続されている吸気エアフィルターに隣接して設けることにより燃費削減を行う技術。」

(3)刊行物3の記載等
当審拒絶理由で引用された特開2005-307905号公報(以下、「刊行物3」という。)には、以下の事項が図面とともに記載されている。

3a)「【0059】
[第6実施形態]
次に、本発明におけるエンジンの吸気系装置及びエアクリーナを具体化した第6実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
【0060】
この実施形態では、光触媒装置61をエアクリーナ4にユニット化して設けた点で、前記各実施形態と構成が異なる。図14に、この実施形態のエンジンシステムを概略構成図により示す。図15に、この実施形態のエアクリーナ4を断面図により示す。すなわち、この実施形態で、エアクリーナ4は、エンジン1に吸入される空気が流れるケーシング62と、そのケーシング62の中に設けられ、空気を濾過するためのエレメント63とを備える。ケーシング62は、上下に配置されて結合された上箱64及び下箱65から構成される。上箱64と下箱65は、それぞれの開口64a,65aを整合させて結合される。そして、これら開口64a,65aの部分にエレメント63が配置される。エレメント63は、波板状に形成される。上箱64には、エアダクト3に通じる空気出口64bが設けられる。下箱65には、外部に通じる空気入口65bが設けられる。図15において、太線矢印の方向は、エアクリーナ4における空気流の方向を示す。この実施形態で、上箱64の天井壁面には、図15に太破線で示すように、光触媒66が塗布され、担持されている。また、上箱64の中には、光触媒66に光を照射するための本発明の光照射手段に相当する複数の紫外線LED67が設けられる。これら紫外線LED67、上箱64の内壁に片持ち支持されたブラケット68の上面に固定される。このブラケット68の基端部において、上箱64の外側には、各紫外線LED67を駆動するための駆動回路69が固定される。この駆動回路69が、ECU20に接続される。」(段落【0059】及び【0060】)

3b)上記3a)の記載によれば、紫外線LED67は光エネルギー照射手段であるといえる。

3c)上記3a)の記載によれば、複数の紫外線LED67は、上箱64の内壁に片持ち支持されたブラケット68の上面に固定されるのであるから、紫外線LED67が上面に配置されたブラケット68は、その機能からみて基板であるといえる。

上記3a)ないし3c)並びに図面の記載を参照すると、刊行物3には以下の事項(以下、「刊行物3の記載事項1」という。)が記載されている。

「エアクリーナ4が、空気入口65bと上部開口とを備えた下箱65と、エレメントを通過した空気をエンジンに供給するための空気出口64bとを備えており、下箱65に整合されて結合する上箱64と、上箱64内部に配置されたエレメント63とを有しており、全体として箱形をなしていること。」

上記3a)ないし3c)並びに図面の記載を参照すると、刊行物3には以下の技術(以下、「刊行物3の記載事項2」という。)が記載されている。

「エアクリーナ4内において、エレメント63に隣接して光エネルギーを照射する手段である複数のLEDを基板に整列配置すること。」

(4)刊行物5の記載等
当審拒絶理由で引用された「J.R.ホールマン著/平田 賢監訳、「伝熱工学 下」、ブレイン図書出版株式会社、昭和57年3月3日、標題紙、p.306-309、奥付ページ」(以下、「刊行物5」という。)の図8-31(p.308)からは、光線の水蒸気の単色吸収率についての曲線が図示されており、「水蒸気層に関する赤外線の吸収帯は、約2.4?3.4μmの波長領域だけではなく、約1.33?1.5μmの波長領域及び約1.8?2.0μmの波長領域にも存在すること。」(以下、「刊行物5の記載事項」という。)が看取できる。

1-2.対比・判断
(1)本願発明について
本願発明と引用発明とを対比すると、
引用発明における「エンジンの燃焼に用いられる空気」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「空気」に相当し、以下同様に、「放射する」は「照射する」に、「空気に含まれる水蒸気」は「空気中の気相水」に、「エンジン」は「内燃機関」に、「空気に含まれる水蒸気の分子運動が励起された状態でエンジンに導入する」は「空気中の気相水をそのまま内燃機関に導入する」に、「赤外線を照射して分子運動を励起する」ことは「近赤外領域の光の振動エネルギを担持させる」ことに、「エンジン燃焼効率改善装置」は「内燃機関の燃費削減装置」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明における「波数が約3600cm^(-1)?3800cm^(-1)付近の赤外線」と、本願発明における「波長850?1450nmの近赤外領域の光」とは、「所定領域の赤外線」という限りにおいて一致し、
引用発明における「赤外線放射物質」と、本願発明における「発光ダイオード」とは、「赤外線源」という限りにおいて一致し、
引用発明における「複数の赤外線放射物質を設置」することと、本願発明における「複数の発光ダイオードを基板に整列配置」することとは、「複数の赤外線源を配置」するという限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「空気に対し所定領域の赤外線を照射する複数の赤外線源を配置し、空気中の気相水をそのまま内燃機関に導入するために気相水に各赤外線源からの近赤外領域の光の振動エネルギを担持させるようにした内燃機関の燃費削減装置。」

[相違点1]
複数の赤外線源を配置する場所が、本願発明においては「空気導入管ならびに上部開口を備えたクリーナ本体と、清浄化された空気を内燃機関に供給するための空気供給管を備え前記クリーナ本体に被着される蓋体と、前記蓋体の内部に張設され通過する空気を清浄化するフィルタ本体とを有し、全体として箱形に形成されたクリーナ本体からなるエアクリーナ内」であるのに対して、引用発明においては「ダクト内」である点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
所定領域の赤外線に関して、本願発明においては「波長850?1450nmの近赤外領域の光」であるのに対して、引用発明においては「波数が約3600cm^(-1)?3800cm^(-1)付近の赤外線」である点(以下、「相違点2」という。)。

[相違点3]
赤外線源に関して、本願発明においては、「発光ダイオード」であるのに対して、引用発明においては、「赤外線放射物質」である点(以下、「相違点3」という。)。

[相違点4]
複数の赤外線源を配置することに関して、本願発明においては「複数の発光ダイオードを基板に整列配置」するのに対して、引用発明においては「複数の赤外線放射物質を設置」する点(以下、「相違点4」という。)。

以下、上記相違点について検討する。

[相違点1、3及び4について]
刊行物2記載の技術は、「赤外線を照射するLEDを、インテークマニフォールドの上流に接続されている吸気エアフィルターに隣接して設けることにより燃費削減を行う技術」であって、内燃機関の吸気経路において赤外線を赤外線源から照射することにより燃費削減を行う点において引用発明と共通するから、引用発明において、赤外線源及びその配置に関して刊行物2記載の技術を適用し、複数の赤外線放射物質をダクト内に設けることに代えて、赤外線を照射する複数のLEDを吸気エアフィルターに隣接して設けること、さらに、技術常識から見て、吸気エアフィルターは、エアクリーナ内に設けられることが一般的であるから、赤外線を照射する複数のLEDと吸気エアフィルターを、エアクリーナ内に配置することに困難性はない。
そして、その際のエアクリーナの構成として、刊行物3の記載事項1の「エアクリーナ4が、空気入口65b(空気導入管)と上部開口とを備えた下箱65(クリーナ本体)と、エレメントを通過した空気(清浄化された空気)をエンジン(内燃機関)に供給するための空気出口64b(空気供給管)とを備えており、下箱65(クリーナ本体)に整合されて結合する(被着される)上箱64(蓋体)と、上箱64(蓋体)内部に配置されたエレメント63(フィルタ本体)とを有しており、全体として箱形をなしていること。」(括弧内は本願発明における部材名を表す。)を採用し、エアクリーナ内部において光エネルギーを照射するために、刊行物3の記載事項2の「エアクリーナ4内において、エレメント63に隣接して光エネルギーを照射する手段である複数のLEDを基板に整列配置すること」に倣って、赤外線を照射する複数のLED、すなわち発光ダイオードを基板に整列配置したものをエアクリーナ内に設けることにより上記相違点1、3及び4に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者であれば容易になし得たことである。

[相違点2について]
前記第4 1.1-1.(1)1b)における刊行物1の記載(段落【0017】及び【0018】)によれば、引用発明において、「波数が約3600cm^(-1)?3800cm^(-1)附近の赤外線」(波長が約2630?2780nm附近の赤外線)を選択したのは、波数が約3600cm^(-1)?3800cm^(-1)附近の赤外線領域は水蒸気に対して最大の吸収帯になっていて、分子振動を励起させることができ、これにより、エンジンの燃焼効率改善効果(燃費削減効果)が期待できるからであると認められる。
そして、前記刊行物5の記載事項である「水蒸気層に関する赤外線の吸収帯は、約2.4?3.4μmの波長領域だけでなく、約1.33?1.5μmの波長領域及び約1.8?2.0μmの波長領域にも存在すること。」は、赤外線を用いる技術分野における技術常識であると認められるから、エンジンの燃焼効率改善効果(燃費削減効果)を得るために、赤外線の光の波長領域について、どの吸収帯を用いるかは、当該技術常識を認知している当業者が適宜なし得る設計事項であり、刊行物1に接した当業者が、エンジンの燃焼効率改善効果(燃費削減効果)を得るために、約1.33?1.5μmの波長領域、すなわち近赤外領域の吸収帯を用いる動機付けもあると認められる。
したがって、引用発明において、「波数が約3600cm^(-1)?3800cm^(-1)附近の赤外線」(波長が約2630?2780nm附近の赤外線)に代えて、約1.33?1.5μm(約1330?1500nm)の近赤外領域の光を用いることは、当業者が容易に想到し得るものであると認められる。
そして、本願明細書の記載によれば、本願発明は、「気相水の吸収スペクトルに適合した波長の光」を気相水に照射することによって、この気相水にこの光の振動エネルギを担持させ、気相水としての状態を維持したまま、爆発に関与させ、これにより、燃費を削減する(段落【0020】、【0026】及び【0027】)ものであるから、引用発明と同じ原理により燃費削減効果を達成しようとするものであるといえる。
本願の請求項1では、赤外線の波長に関し、「850?1450nmの近赤外領域」と特定されているが、そのように特定した技術的意義等は記載されておらず明らかではない。また、850?1450nmの波長領域のすべてにわたって吸収帯が存在しているわけではなく、実質的には、約1.33?1.5μm(約1330?1500nm)の波長領域に吸収帯が存在するのみである。
そうすると、本願発明が燃費削減効果を奏し得るものであることを前提とすると、本願発明の「850?1450nmの近赤外領域の光」とは、実質的には、「850?1450nmの近赤外領域の光」のうち、「気相水の吸収スペクトルに適合した波長の光」と解釈するのが相当であり、具体的には、約1.33?1.5μm(約1330?1500nm)の波長領域の光が該当すると認められる。また、吸収体の存在しない波長領域については、技術的意義は認められず、単に、具体的な数値範囲をもって規定したものにすぎないといえるから、本願発明において「850?1450nmの近赤外領域の光」と設定したことは、設計的事項であるといえる。
そうすると、引用発明において、「波数が約3600cm^(-1)?3800cm^(-1)附近の赤外線」(波長が約2630?2780nm附近の赤外線)に代えて、約1.33?1.5μm(約1330?1500nm)の近赤外領域の光を用いて、相違点に係る本願発明の構成「波長850?1450nmの近赤外領域の光」とすることは、当業者が容易に想到し得るものであると認められる。

そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明、刊行物2記載の技術、刊行物3の記載事項1、2及び刊行物5の記載事項から予測される以上の格別の効果を奏するものではない。

1-3 むすび
したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2記載の技術、刊行物3の記載事項1、2及び刊行物5の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

2.[理由B]について
本願明細書の段落【0082】及び【0083】等には、LEDから近赤外領域の光を照射することにより、空気中の気相水分子がエネルギーを吸収して「分子振動の励起」がなされ、励起した気相水分子が「熱エネルギへ緩和される時間は0.01ミリ秒のオーダー」であり、そのために「内燃機関のシリンダに近接しているところで共鳴吸収させなければ、分子振動の効果を活用できない。よって、本発明においては、複数の発光ダイオードをエアクリーナ内に配置している。」旨記載されている。
しかしながら、励起された気相水分子が「熱エネルギへ緩和される時間は0.01ミリ秒のオーダー」であるとすると、仮に、エアクリーナを通過する空気の流速が吸入空気の流速であるとして(通常、エアクリーナを通過する流速は、エンジンの吸気流速よりも小さい値であると考えられる)、エンジンの一般的な吸気流速は70m/s程度(必要があれば、Weblio辞書(http://www.weblio.jp/content/吸気流速)を参照)であるから、緩和時間が0.01ミリ秒であるとすると、分子振動が励起する場所からシリンダ内部までの距離はわずか0.7mm程度となるから、どのようにすればエアクリーナーから内燃機関のシリンダ内部までの距離をわずか0.7mm程度のものとして発明が実施できるのか不明である。
さらに、0.01ミリ秒は、シリンダ内での吸気圧縮行程に要する時間と比べると、はるかに短い時間であるから、シリンダ内で着火する前に励起が収まって緩和するとも考えられるので、この点においても、どのようにすれば発明が実施できるのか不明である。
加えて、本件出願の明細書の段落【0054】に記載された市販自動車においては、吸気系統に、排気再循環(EGR)により吸入空気に排気が混入され、さらに、インタークーラやターボチャージャが設けられることが想定されるから、上記「緩和時間」を考慮する上で、これらにどのように対応するのかも不明である。
したがって、本件出願の発明の詳細な説明には、0.01ミリ秒のオーダーの緩和時間内に励起された気相水を内燃機関のシリンダ内に供給するための構成が、当業者に実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

また、請求人は、上記「緩和時間」について平成28年1月18日提出の意見書において、
「2.明細書の不備について
(1)緩和時間について
緩和時間とは、非常に短い時間ですが、吸収される波長領域の光照射は、担体がエネルギを放出するよりも供給するエネルギ量が多ければ緩和時間は持続されますので、本件の場合距離も短く、照射されるエネルギ量も非常に大きいものであります。当然光は30万km連続して照射されている訳ですから、緩和時間は内燃機関内まで担持したまま吸入されるものであります。」と主張している。
しかしながら、吸気中の気相水は、エアクリーナ中に留まって連続して光照射を受けるのであればともかく、吸気とともに常にエアクリーナや吸気管中を流れるものであって、一度エアクリーナから流出すれば、0.01ミリ秒のオーダーで緩和すると考えるのが自然である。
そして、エアクリーナから内燃機関までの吸気管(吸気マニフォールド)は、一般的には曲線からなるものであって直線で結ばれているわけではないし、また、吸気系統にはインタークーラ、ターボチャージャ及び吸気弁等が設けられることが想定されるから、特定の気相水の分子に対してエアクリーナからのLEDの光が内燃機関のシリンダ内まで連続して届くとは認められない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

以上のとおりであるから、本件出願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
したがって、本件出願は、上記[理由A]または[理由B]によって、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-11 
結審通知日 2016-03-15 
審決日 2016-03-28 
出願番号 特願2014-137340(P2014-137340)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (F02M)
P 1 8・ 121- WZ (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 赤間 充  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
発明の名称 内燃機関の燃費削減装置  
代理人 玉利 房枝  
代理人 伊藤 高英  
代理人 大倉 奈緒子  
代理人 中尾 俊輔  

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