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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1314821
審判番号 不服2015-6324  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-03 
確定日 2016-05-17 
事件の表示 特願2013- 7727「適応インターフェースシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 1日出願公開、特開2013-149257〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成25年1月18日(パリ条約による優先権主張2012年1月20日、米国)の出願であって、平成26年1月20日付けで拒絶理由通知がなされ、同年5月20日付けで手続補正がなされ、同年11月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年4月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年4月3日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成27年4月3日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1.本件補正の内容

本件補正は、補正前の特許請求の範囲の請求項1を、補正後の特許請求の範囲の請求項1に変更する補正事項を含むものである。
補正前の請求項1に係る発明及び補正後の請求項1に係る発明は、それぞれ以下のとおりである。

<補正前の請求項1に係る発明>

「適応インターフェースシステムであって、
車両システムを制御するユーザインターフェースと、
ユーザの追跡領域を検出し、前記ユーザの前記追跡領域を表すセンサー信号を生成するセンサーと、
前記センサー及び前記ユーザインターフェースと通信するプロセッサであって、前記センサー信号を受信し、命令セットに基づいて前記センサー信号を分析して、前記追跡領域の変位を判定し、前記追跡領域の前記変位に基づいて、前記ユーザインターフェース上に提示された視覚表示器を制御する、プロセッサと、
を備え、
前記追跡領域は、前記ユーザの頭部の少なくとも一部と、前記ユーザの前記頭部に関連付けられた物体の少なくとも一部とのうちの少なくとも一方である、インターフェースシステム。」

<補正後の請求項1に係る発明>

「適応インターフェースシステムであって、
車両システムを制御するユーザインターフェースと、
ユーザの追跡領域を検出し、前記ユーザの前記追跡領域を表すセンサー信号を生成するセンサーと、
前記センサー及び前記ユーザインターフェースと通信するプロセッサであって、前記センサー信号を受信し、命令セットに基づいて前記センサー信号を分析して、前記追跡領域の変位を判定し、前記追跡領域の前記変位に基づいて、前記ユーザインターフェース上に提示された視覚表示器を制御する、プロセッサと、
を備え、
前記追跡領域は、前記ユーザの頭部の少なくとも一部と、前記ユーザの前記頭部に関連付けられた物体の少なくとも一部とのうちの少なくとも一方であり、
複数の制御を含むメニューシステムに対応する前記ユーザインターフェース及び前記視覚表示器の両方は、ヘッドアップディスプレイに表示される、インターフェースシステム。」

2.本件補正に対する判断

上記補正事項は、補正前の請求項1の「車両システムを制御するユーザインターフェース」及び「ユーザインターフェース上に提示された視覚表示器」という発明特定事項について、上記のとおり「複数の制御を含むメニューシステムに対応する前記ユーザインターフェース及び前記視覚表示器の両方は、ヘッドアップディスプレイに表示される、」という限定をするものであり、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そうすると、本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)は、特許出願の際独立して特許を受けることができるもの(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するもの)でなければならない。そこで、この点について以下検討する。

2.1 本願補正発明

本願補正発明は、上記「1.」の<補正後の請求項1に係る発明>の欄に記載したとおりのものである。

2.2 引用文献

原査定の拒絶の理由に引用された特開平9-251539号公報(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0014】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。ここでは、例えば、車両に搭載されるナビゲーション装置の入力手段として本実施形態の視線計測装置を適用し、運転者の視線方向によって目的地設定などの入力操作を可能にした場合について説明する。
【0015】図2は、第1実施形態の全体構成を示す図である。図2において、本装置は、計測対象者となる運転者dの視線を計測し、その視線方向に応じて装置を制御する信号を発生する視線計測部1と、ナビゲーション地図などを表示するナビゲーション表示部3とを備えて構成される。視線計測部1は、運転者dの顔面領域の画像を入力する、例えば、CCDカメラ等を用いた撮像手段Aとしての画像入力部13と、画像入力部13の光軸上で共軸系をなすように配置された、例えば、近赤外LED等の不可視光を発する第1発光手段Bとしての第1照明11と、第1照明11より高輝度で発光し、画像入力部13の光軸からずれた位置で且つ運転者dまでの距離が第1照明11から運転者dまでの距離と略等しい位置に配置された第2発光手段Cとしての第2照明12と、第1照明11及び第2照明12の発光を制御する照明発光制御部16と、画像入力部13からの画像信号をディジタルデータに変換するA/D変換器14と、A/D変換された画像データを保存する画像メモリ15と、視線入力開始を合図する視線入力開始スイッチ17と、校正開始を合図する校正開始スイッチ18と、視線入力開始スイッチ17や校正開始スイッチ18の出力に従って画像データを処理して視線方向や校正データを求め装置を制御する信号を生成する演算手段Dとしてのマイクロコンピュータ20と、マイクロコンピュータ20の演算結果を記憶するメモリ19とで構成される。
【0016】ナビゲーション表示部3は、ナビゲーション地図等を表示するナビゲーション表示画面31と、視線計測部1のマイクロコンピュータ20から出力される制御信号によりナビゲーション表示画面31の地図等の表示を制御するナビゲーション地図制御部32とで構成される。図3は、本装置の車載状態を示す図である。
【0017】図3のように、運転者dが目視可能な位置、例えば、ステアリングの脇でウインドシールド下方の位置にナビゲーション表示画面31が設置される。そのナビゲーション表示画面31の近傍には、視線入力開始スイッチ17及び校正開始スイッチ18が配置され、また、ナビゲーション表示画面31の下方には、画像入力部13及び照明11が共軸系に配置され、その共軸からずれた位置に照明12が配置される。
【0018】マイクロコンピュータ20は、図4の機能ブロック図に示すように、画像メモリ15に保存された画像データに基づいて運転者dの、例えば、網膜反射像や角膜反射像などの眼球特徴を抽出する網膜反射像抽出部21及び角膜反射像抽出部22と、抽出した眼球特徴から運転者dの注視位置(視線方向)を算出する視線方向算出部D3 としてのパラメータ算出部23及び注視位置算出部24と、算出した注視位置より運転者dがナビゲーション表示画面31の予め定めた所定位置を注視しているか否かや注視の継続状態を判断して表示画面制御部32を制御する信号を生成する注視判定部25とを備える。・・・(略)・・・」

「【0022】・・・(略)・・・ステップ104 では、画像入力部13において照明11が点灯し照明12が消灯したときの運転者dの眼球を含む第1画像としての顔画像が撮像される。この画像は、全体制御部28からの信号により各照明の発光に応じて制御されるA/D変換器14でディジタルデータに変換された後、画像メモリ15に保存される。ここでは、照明11が点灯し照明12が消灯したときのディジタルデータを画像データG1とする。
【0023】・・・(略)・・・ステップ106 では、ステップ104 と同様に、画像入力部13において運転者dの眼球を含む第2画像としての顔画像が撮像され、A/D変換器14でディジタルデータに変換された後、画像メモリ15に保存される。ここでは、照明11が消灯し照明12が点灯したときのディジタルデータを画像データG2とする。
【0024】ここで、画像データG1,画像データG2の差異について説明する。画像データG1では、照明11が点灯、即ち、画像入力部13の光軸上から眼球に光が照射されるため、角膜で反射した光による角膜反射像(高輝度の小さなスポット)と、瞳孔を通過した光が網膜で乱反射して再び瞳孔を通過して出て来る光による網膜反射像(角膜反射像よりも低輝度の大きなスポットで瞳孔部と略一致)とが眼球像中に得られる。一方、画像データG2では、照明12が点灯、即ち、画像入力部13の光軸からずれた位置から眼球に光が照射されるため、角膜反射像については画像データG1と同様に得られるが網膜反射像は得られず、画像データG1とは逆に瞳孔部が周囲よりも暗く写る。また、照明11より照明12を高輝度で発光させたため、それぞれの画像データ中の同一部分(ただし、瞳孔部を除く)の明るさを比較すると画像データG2の方が明るく写る。この様子について、図7(a)に画像データG1、図7(b)に画像データG2を示す。ただし、図では網膜反射像の差異を明確にするために角膜反射像が省略されている。
【0025】ステップ107 では、マイクロコンピュータ20の網膜反射像抽出部21において、画像メモリ15に保存された画像データG1,G2がそれぞれ読み込まれ、画像データG1と画像データG2について同一部分の輝度値の差分演算(輝度値〔画像データG1〕-輝度値〔画像データG2〕)を行って差分画像G3が生成される。ただし、差分演算結果が負となった場合には、その部分の差分値を0とする。図7(c)には、図7(a),(b)に示した画像データから得られた差分画像G3を示す。図7(C)のように、差分画像G3は、画像データG1の瞳孔部が画像データG2の瞳孔部より明るいため瞳孔部が強調されたものとなる。また、瞳孔部以外の部分、例えば、肌の部分などは差分値が負になる。従って、差分画像G3では瞳孔部以外の殆どの部分の差分値が0となり、差分演算時にノイズが発生しても、そのノイズの多くは差分値が0とされるためノイズの影響が低減され、瞳孔部が明確に現れる。」

「【0029】ステップ112 では、角膜反射像抽出部22において角膜反射像の位置が決定される。角膜反射像の抽出には、まずステップ111 で抽出した網膜反射像の重心位置の画像上の座標(xg,yg )を求める。そして、ステップ107 で得た差分画像G3上で、網膜反射像の重心位置(xg,yg )を中心とし、網膜反射像を包含する小領域Aを設定する。更に、その小領域A内で最大輝度を有する点を求め角膜反射像とし、その点の座標を(Px,Py )とする。
【0030】ステップ113 では、パラメータ算出部23において、網膜反射像の重心位置、即ち、瞳孔重心(xg,yg )と角膜反射像の座標(Px,Py )とから、2つのパラメータδx=xg -Px , δy=yg -Py を求める。このよううにして、同一位置の校正用視標について、パラメータδx,δyが所定の回数(N回とする)求められるまで上記ステップ103 ?ステップ112 の動作が繰り返される。N回求められるとステップ114 に進む。
【0031】ステップ114 では、得られたN個のパラメータδx,δyをそれぞれ平均化し、その時の校正用視標iに対するパラメータδxi ,δyi としてメモリ19に記憶される。上記のようにして、全ての校正用視標i(例えば、図6(b)に示す1?10の視標)についてパラメータδxi ,δyi が算出されるまで、上記ステップ102?ステップ114 の動作が繰り返された後、ステップ115 に進む。
【0032】ステップ115 では、校正データ算出部27において、パラメータδxi ,δyiを画像上の視標位置に変換する変換式が算出される。この変換式は、メモリ19に記憶された校正用視標iの位置(Xi,Yi )とその校正用視標について算出されたパラメータδxi ,δyi との関係より求められる。ここでは例えば、メモリ19に記憶されたパラメータδxi ,δyi のうちで、水平方向について算出されたパラメータδxi のグループと、垂直方向について算出されたパラメータδyi のグループとの各々について変換式を算出する。一般に、視線の偏角が小さい領域においては、水平方向のパラメータδxと視標位置X、垂直方向のパラメータδyと視標位置Yが次の1次式(2)で表すことができる。
【0033】
X=aX δx+bX , Y=aY δy+bY ・・・(2)
従って、校正用視標の位置(Xi,Yi )及びその校正用視標について算出されたパラメータδxi ,δyi より、例えば最小2乗法を用いて上式の各定数aX,bX ,aY ,bY を決定して、パラメータδx,δyを視標位置に変換する変換式が求められる。この変換式の各定数は、校正データとしてメモリ19に記憶される。」

「【0035】ナビゲーション装置の目的地設定が必要になると、図8のステップ201 において、運転者dはナビゲーション表示画面31の近傍に設けられた視線入力開始スイッチ17を手などで押して校正が開始される。ステップ202 では、ステップ201 で視線入力の開始が合図されると、運転者dの視線方向を計測するためパラメータδx,δyが算出される。パラメータδx,δyの算出動作は、上述のステップ103 ?ステップ113 の動作と同様であるのでここでの説明を省略する。
【0036】ステップ203 では、注視位置算出部24において、ステップ202 で算出されたパラメータδx,δyに応じて運転者dがナビゲーション表示画面上のどこの位置を注視しているかが求められる。この注視位置の算出は、メモリ19に記憶された校正データを用い(2)式に従って、パラメータδx,δyをナビゲーション表示画面上の位置座標に変換して求められる。算出された注視位置を示す信号が表示画面制御部32に出力されて、ナビゲーション表示画面31に、例えば、図9に示すようなポインタカーソルpが表示され目的地入力を受け入れる状態となる。ナビゲーション表示画面31には、ポインタカーソルpの他にナビゲーション地図、その地図を移動させるためのスクロールマーカm1 ?m4 、及び地図のスケールを変更するための広域表示マーカm5 、詳細表示マーカm6 が表示される。
【0037】このステップ202,203 の動作は、視線入力操作の間随時繰り返され、運転者dの視線方向の移動に追従してポインタカーソルpが移動する。ステップ204 では、ナビゲーション表示画面31内に目的地を表示させる。この目的地を表示させる動作の一例を図10を用いて説明する。まず、ナビゲーション地図のスケールを変更して広域を表示させるため、図10のステップ301 で、運転者dが広域表示マーカm5 を注視する。注視位置の移動に伴ってポインタカーソルpも広域表示マーカm5 上に移動する。このときのナビゲーション表示画面31を図11(a)に示す。
【0038】ステップ302 では、ポインタカーソルpが広域表示マーカm5 上に移動したことを運転者dが確認した後、広域表示マーカm5 の選択が確定される。この選択確定動作は、例えば、運転者dが広域表示マーカm5 を注視した後、暫くの間(300 msec程度)目を閉じることにより行われる。・・・(略)・・・」

「【0039】ステップ303 では、注視判定部25から広域表示マーカm5 の選択確定を示す信号が表示画面制御部32に出力され、ナビゲーション地図のスケールが1ステップ縮小され広域の地図が表示される。このときのナビゲーション表示画面31を図11(b)に示す。このステップ302,303 の動作を必要に応じて繰り返し、ナビゲーション表示画面31内に目的地を表示させる。」

【0043】ステップ309 では、注視判定部25から詳細表示マーカm6 の選択確定を示す信号が表示画面制御部32に出力され、ナビゲーション地図のスケールが1ステップ拡大され詳細な地図が表示される。このときのナビゲーション表示画面31を図11(d)に示す。このようにステップ301 ?ステップ309 の動作によって、ナビゲーション表示画面31内に目的地が詳細に表示され、図8のステップ205 に移る。」

「【0050】また、上述の実施形態では、ナビゲーション装置の入力手段として視線計測装置を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、ラジオ、エアコン等他の車載装置、更には、マンマシン・インターフェースを要する種々の装置に応用することができる。」

ここで、上記記載を本願優先日前からの技術常識等に照らせば、以下のことがいえる。

(1)段落【0014】及び段落【0035】から段落【0038】までの記載並びに図3の「ナビゲーション表示画面3」の図からみて、引用文献1には、ナビゲーションに用いるユーザインターフェースを表示画面に表示してユーザが操作するインターフェースシステムが記載されているといえる。

(2)段落【0015】、段落【0029】から段落【0033】まで及び段落【0035】から段落【0038】までの記載から、上記インターフェースシステムにおいては、マイクロコンピュータが、撮像手段からの運転者の複数の顔画像に基づいて目の網膜反射像の重心位置の座標及び角膜反射像の座標を算出し、当該座標の情報から所定のパラメータδx、δyを算出し、当該パラメータδx、δyに基づいて視線方向の移動を判定しており、これらの処理を行うために所定のプログラムが用いられていることは明らかである。
また、上記マイクロコンピュータは、上記視線方向の移動に基づいて、上記ユーザインターフェース上に提示されたポインタカーソルも制御している。

(3)段落【0039】及び段落【0043】並びに図11の記載から、引用文献1のインターフェースシステムは、「詳細」「広域」という複数の制御を含むメニューシステムに対応するユーザインターフェースを表示画面に表示するものである。

(4)段落【0050】の記載から、引用文献1のインターフェースシステムは、エアコン等の車載装置の制御も、ナビゲーション装置の制御に用いるものと同様のユーザインターフェースを用いて行うことができるといえる。

したがって、引用文献1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「インターフェースシステムであって、
ナビゲーション装置、エアコン等の車載装置を制御するユーザインターフェースと、
運転者の顔画像を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段及び前記ユーザインターフェースと通信するマイクロコンピュータであって、前記撮像手段より前記顔画像を受信し、所定のプログラムにより前記顔画像を分析して視線方向の移動を判定し、前記視線方向の移動に基づいて、前記ユーザインターフェース上に提示されたポインタカーソルを制御する、マイクロコンピュータと、
を備え、
複数の制御を含むメニューシステムに対応する前記ユーザインターフェース及び前記ポインタカーソルの両方は、表示画面に表示される、インターフェースシステム。」

また、特開2007-263931号公報(以下「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0020】
図4は本発明の実施の形態に係るドライバ思考推定装置におけるHUDに表示されるサービスメニューの一例を示す図である。図5は本発明の実施の形態に係るドライバ思考推定装置におけるHUDに表示される他のサービスメニューの一例を示す図である。図6(a)は本発明の実施の形態に係るドライバ思考推定装置による左折時での運転支援についての説明の中で用いられるドライバの視線が左ドアミラーにある場合の図である。図6(b)は本発明の実施の形態に係るドライバ思考推定装置による左折時での運転支援についての説明の中で用いられるドライバの視線がルームミラーにある場合の図である。図7は本発明の実施の形態に係るドライバ思考推定装置におけるHUDに表示される他のサービスメニューの一例を示す図である。」

「【0023】
また一方で、思考推定部13は、ドライバに提供される対象物の情報や制御メニューに対するドライバの顔又は視線の動きを監視してドライバが所望する情報や操作を推定する。具体的には、思考推定部13は音声やHUD/WSD8aで案内される制御コマンドに対してある一定時間のドライバの顔又は視線の動きを監視し、その動きの軌跡からドライバの意図を推定し、推定結果をナビゲーション装置20の制御部22に出力する。制御部22はドライバが所望しているサービスを提供するよう処理を行う。」

「【0026】
次に、本発明の実施の形態に係るドライバ思考推定装置によるランドマーク案内方法について図2を用いて説明する。なお、以下ではランドマーク案内について説明しているが、ランドマークに限られるものではなく観光名所やお店などの案内であっても同様に考えられる。まず、エンジン始動からドライバ思考推定装置10の動作を開始し、ドライバ思考推定装置10はドライバの視線や顔向きなどの監視を行う(ステップS201)。ここでは、ドライバの顔の検出方法は多数あり、代表的な検出方法は、多数の人物の顔から顔テンプレート(例えば、平均顔)を作成し、そのテンプレートを用いて画像中のドライバの顔を探索するものである。探索方法としては様々なものがあり、単純な方法は画像を一定の大きさに分割し、分割された各画像の輝度値と顔テンプレートの輝度値との差分量又は類似度を算出する。差分量が一定の値以下であれば又は類似度が一定値以上であれば、比較対象の画像を顔画像と判定する。また、視線検出方法も多数あり、代表的な検出方法は、左右目に黒目又は虹彩又は瞳孔を検出してから目尻と目頭の座標を求め、黒目(虹彩又は瞳孔)の中心座標と目尻と目頭の位置情報の関係を用いて視線方向を抽出するものである。また、顔向きの検出方法についても多数あり、代表的な方法として、左右目(黒目など)の位置情報と鼻の位置情報を用いて顔向きを算出するものがある。上述したもの以外のそれぞれの方法を用いることは可能である。」

「【0029】
一方、ステップS205の後、ナビゲーション装置20は、検索されたランドマークの情報を音声などで案内する(ステップS206)。ナビゲーション装置20は、案内終了後に所定のサービスを受けるかどうかについてドライバに音声などで問合せする(ステップS207)。ステップS207が終わった時点で、ドライバ思考推定装置10は、ある一定時間内のドライバの視線や顔などの動きを監視し(ステップS208)、特定の動きが検出されか否かを判断し(ステップS209)、検出された場合、ナビゲーション装置20はHUD、WSDにサービスメニューを表示する(ステップS210)。例えば、特定の動きとして、顔向きが左右に動く場合には「いいえ」と認識し、サービスメニューを表示せずにステップS214に移る。一方、顔向きが上下に動く場合には「はい」と認識し、上述したステップS210を実行する。なお、ステップS208においてドライバの視線や顔などの動きを監視する一定の時間とはわずかな時間であって、例えば1秒間などである。また、表示するサービスメニューの一例を図4に示し、それらの内容は「行先設定」、「詳細案内」、「写真撮影」である。サービスメニューの内容はこれらに限られるものではない。」

「【0031】
なお、上述したステップS213において、注視対象物が車載器である場合にはステップS215及びS216の処理がなされる。これらの処理は車載器操作支援方法を示すフローチャートである。ステップS213において、注視対象物が車載器であると判断された場合、ナビゲーション装置20は特定された車載器に対する現状の設定などを音声などで案内する。例えば、ドライバがエアコンの吹き口を見た場合、現状の温度設定や風の強さなどを音声などで案内する。
【0032】
そして、ナビゲーション装置20は、案内終了後にドライバに対して特定の車載器の操作の要否を音声などで確認する。例えば、「温度設定又は風の強さを変更しますか」という旨の案内をする。そして、案内後に上述したステップS209において特定の動きが検出されたか否かが判断される。ドライバが車載器の操作を行う旨の動きが検出された場合、例えば、ナビゲーション装置20は、図5に示すようにHUD/WSDの画面に操作用のメニューを表示し、設定温度表示部500に表示されている設定温度を下げることを示す表示部分501に視線がある場合には設定温度を下げるようにし、設定温度を上げることを示す表示部分502に視線がある場合には設定温度を上げるようにする。
【0033】
また、上述したステップS217において、注視対象物が左右ドアミラー又はルームミラーである場合にはステップS218の処理がなされる。ステップS217において、注視対象物が左右ドアミラー又はルームミラーであると判断された場合で、ドライバがミラーに搭載されたカメラによって撮影される映像を見たいと望んだ場合、走行制御装置30の制御部33は特定されたミラーに対するそのミラーに搭載されるカメラから撮影される映像をナビゲーション装置20の制御部22に転送し、HUD/WSDの画面に表示する。例えば、図6(a)に示すように、ドライバが左ドアミラーを見た場合、左ドアミラー搭載カメラによって撮影された映像(図7中の左ドアミラー搭載カメラの映像)700及び進行方向表示701を図7に示すようにHUD/WSDの画面に表示する。なお、図6(b)に示すように、ドライバがルームミラーを見た場合には、ルームミラー搭載カメラ1dによって撮影された映像をHUD/WSDの画面に表示する。」

したがって、引用文献2には次の技術的事項発明(以下「引用文献2記載の技術的事項」という。)が記載されているといえる。

(1)HUD(ヘッドアップディスプレイ)に、ナビゲーション装置、エアコン等の車載器を制御するためのメニューを表示すること(段落【0020】、段落【0023】、段落【0029】及び段落【0031】から段落【0033】までの記載並びに図4及び図5)

(2)ドライバの視線が、ヘッドアップディスプレイに表示された特定のメニュー(例えば、設定温度を下げる又は設定温度を上げる等)にある場合は、当該メニューに対応した車載器の制御(例えば、目的地までの経路計算、エアコンの設定温度を下げる又は設定温度を上げる等)を行うこと(段落【0031】から段落【0033】までの記載)

2.3 対比

本願補正発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

(1)引用発明における「車載装置」「顔」「顔画像」「撮像手段」「所定のプログラム」「ポインタカーソル」「インターフェースシステム」はそれぞれ、本願補正発明における「車両システム」「追跡領域」「センサー信号」「センサー」「命令セット」「視覚表示器」「適応インターフェースシステム」に相当する。

(2)引用発明における「マイクロコンピュータ」は、本願補正発明における「プロセッサ」と、センサー信号(顔画像)を受信し、命令セット(所定のプログラム)によりセンサー信号(顔画像)を分析して、その分析結果に基づいて、ユーザインタフェース上の視覚表示器(ポインタカーソル)を制御するものである点で一致する。

(3)引用発明における「表示画面」は、本願補正発明における「ヘッドアップディスプレイ」と、ディスプレイである点で一致する。

したがって、本願補正発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)

「適応インターフェースシステムであって、
車両システムを制御するユーザインターフェースと、
ユーザの追跡領域を検出し、前記ユーザの前記追跡領域を表すセンサー信号を生成するセンサーと、
前記センサー及び前記ユーザインターフェースと通信するプロセッサであって、前記センサー信号を受信し、命令セットに基づいて前記センサー信号を分析して、その分析の結果に基づいて、前記ユーザインターフェース上に提示された視覚表示器を制御する、プロセッサと、
を備え、
複数の制御を含むメニューシステムに対応する前記ユーザインターフェース及び前記視覚表示器の両方は、ディスプレイに表示される、インターフェースシステム。」

(相違点)

(1)本願補正発明は、センサー信号の分析によって、追跡領域の変位を判定し、前記追跡領域の前記変位に基づいて、視覚表示器を制御するものであって、前記追跡領域が、ユーザの頭部の少なくとも一部と、前記ユーザの前記頭部に関連付けられた物体の少なくとも一部とのうちの少なくとも一方であるのに対し、引用発明は、センサー信号の分析によって、視線方向の移動を判定し、前記視線方向の移動によって、視覚表示器を制御するものである点

(2)本願補正発明は、複数の制御を含むメニューシステムに対応する前記ユーザインターフェース及び前記視覚表示器の両方が、ヘッドアップディスプレイに表示されるものであるのに対し、引用発明は、そのようなものであるとはされていない点

2.4 判断

(1)上記相違点について

ア.上記相違点(1)について

ユーザの顔画像等を撮像し、前記撮像した顔画像の目、鼻、口等の特徴点、すなわち、頭部に関連付けられた物体の一部の移動量(変位)を検出し、前記検出した移動量(変位)に基づいて、表示画面上のポインティングデバイス又はカーソルを移動させることは周知技術である。(例として、(a)拒絶査定において引用された特開平7-141098号公報(段落【0016】から【0022】まで)のほか、(b)久保 宏一郎,飯田 行恭,嶌田 聡,大塚 作一、「頭部動作による障害者用PC操作支援ツールの検討」、社団法人 映像情報メディア学会、情報映像メディア学会技術報告、第25巻、第32号、2001年4月27日、第35頁から第42頁まで(VIS2001-64)(「3.頭部動作によるPC操作方法の実現」)、(c)特開2005-352580号公報(段落【0011】、【0015】から【0016】まで)、(d)特開平8-315118号公報(段落【0017】から【0019】まで)、(e)特開2011-243141号公報(段落【0029】、【0044】、【0047】、図5(なお、当公報には、「顔の動作」に基づいて「マウスポインタを動かす」ことについて明記はされていないものの、段落【0044】の、「目の動作」に対応する操作として「マウスポインタを動かす」ことが可能である旨の記載や、段落【0047】の、「目の動作」及び/又は「顔の動作」に基づいて所定の操作が可能であるという旨の記載から、「顔の動作」に基づいて「マウスポインタを動かす」ことも示されているものといえる。)))
そして、引用発明と前記周知技術とは、いずれも人間の顔(頭部に関連付けられた物体)の一部の移動に基づいてポインティングデバイス又はカーソル(視覚表示器)を移動させるという点で共通する機能を有するものであり、引用発明に前記周知技術を適用することを妨げる特別な事情もないから、引用発明に前記周知技術を適用して、視線に代えて、頭部に関連付けられた物体の一部の変位に基づいて、視覚表示器の移動を制御するように構成することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

イ.上記相違点(2)について

引用発明及び引用文献2記載の技術的事項はいずれも、車内のディスプレイに表示されるメニューシステム等のユーザインターフェースを、ユーザの視線という、手を用いない方法によって操作することで車載器の制御を行うという点で共通する機能を有するものであり、引用発明に引用文献2記載の技術的事項を適用することを妨げる特別な事情もないから、引用発明に引用文献2記載の技術的事項を適用して、ヘッドアップディスプレイにメニューシステム等のユーザインターフェース及び視覚表示器を表示することで、当該ユーザインターフェースを操作できるように構成することは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

(2)本願発明の効果について

本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用発明から容易に想到し得た構成のものが奏するであろうと当業者が予測する範囲内のものであり、本願発明の進歩性を肯定する根拠となり得るようなものではない。

2.5 まとめ

以上のとおり、本願補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許出願の際独立して特許受けることができないものである。

3.小括

本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するものではない。
したがって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 上記補正の却下の決定を前提とした本願についての検討

1.本願発明

本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、平成26年5月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりのものであり、上記「第2」の「1.」の<補正前の請求項1に係る発明>の欄に記載したとおりのものである。(以下、当該請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

2.引用文献

原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1及びその記載事項は、上記「第2」の「2.2」の欄に記載したとおりである。

3.対比及び判断

本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明から、発明特定事項の一部を省いたものである。

そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに特定の限定を施したものに相当する本願補正発明が、上記「第2」の「2.」の欄に記載したとおり、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-01 
結審通知日 2015-12-07 
審決日 2015-12-18 
出願番号 特願2013-7727(P2013-7727)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G06F)
P 1 8・ 575- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 高瀬 勤中田 剛史  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 山田 正文
玉木 宏治
発明の名称 適応インターフェースシステム  
代理人 松下 満  
代理人 熊倉 禎男  
代理人 弟子丸 健  
代理人 倉澤 伊知郎  
代理人 井野 砂里  

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