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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02G 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H02G |
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管理番号 | 1314826 |
審判番号 | 不服2015-16547 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-09-08 |
確定日 | 2016-06-07 |
事件の表示 | 特願2011-145265「直流CVケーブルのジョイント部」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月17日出願公開、特開2013- 13271、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成23年6月30日の出願であって、平成26年3月17日付けで拒絶理由が通知され、同年5月19日付けで手続補正がなされ、同年12月10日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月13日付けで手続補正がなされたが、同年5月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年9月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。 第2.平成27年9月8日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)の適否 1.補正の内容 本件補正は、特許請求の範囲の請求項1を、 「【請求項1】 直流CVケーブルの導体接続部とその両側のケーブル絶縁体に跨って、内部電極及び補強絶縁体を有する筒状の補強絶縁ブロックを被せてなる直流CVケーブルのジョイント部において、前記ケーブル絶縁体のシュリンクバックによって前記ケーブル絶縁体の端面の先に発生した空気層に、直流課電時の等電位線が入り込むのを防止するために、前記空気層内に介在する層を設けることなく、前記ケーブル絶縁体の端面に半導電性塗料を塗布してなる高圧側遮蔽用半導電層を設けたことを特徴とする直流CVケーブルのジョイント部。」 とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含んでいる。(下線は補正事項を示している。) 2.補正の適否 本件補正のうち上記補正事項1は、補正前の請求項1に記載された「端面の先に発生した空気層」を、「前記ケーブル絶縁体のシュリンクバックによって前記ケーブル絶縁体の端面の先に発生した空気層」として限定し、さらに、「ケーブル絶縁体の端面に」「高圧側遮蔽用半導電層を設けたこと」を、「前記空気層内に介在する層を設けることなく」設けたものとして限定したものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。 (1)刊行物の記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された実願昭48-142276号(実開昭50-84793号)のマイクロフィルム(以下、「刊行物1」という。)には、次の記載がある。(下線は当審において付加した。また、システムの仕様上,丸囲み数字が使用できないので、「○1」ないし「○3」との表記により代用した。) ア.「2.実用新案登録請求の範囲 接続しようとする各ケーブル絶縁体3の端から、ケーブル軸方向に入り込む電極16をそれぞれ形成し、かつこれらをケーブル導体2と同電位に保つ事を特徴とする高圧ゴムプラスチックケーブルの接続部。」(1頁4-9行) イ.「3.考案の詳細な説明 高圧ゴム・プラスチックケーブルの接続には、 ○1ゴムモールド差込み式 ○2エポキシモールド、プレファブ式 ○3テープ巻きモールド式 などの方法が用いられている。 これらいずれの方法によっても、導体接続部しゃへい電極付近の電界の乱れによる耐電圧特性の低下がみられる。この状態を、上記○1の差し込み式を例にとって簡単に述べると次の通りである。 第1図は従来の1例を示し、1はケーブル、2はケーブル導体、3はケーブル絶縁体、4はケーブルしゃへい層、5は接続スリーブである。6はEPゴムなどからなるハウジングの全体を示し、絶縁体7、内部導電層8、外部導電層9をあらかじめモールドして一体にしたもの、10はEPゴムなどからなるアダプタの全体を示し、絶縁体11、先端埋込導電層12、外部導電層13をあらかじめモールドして一体にしたものである。この差込み式接続部の、交流破壊試験を行なうと、内部導電層8または先端埋込導電層12の先端8aまたは12aからの破壊が大部分を占め、これらの場所に高ストレスがかかっていることが分かる(第2A図参照)。 同様に、上記○2のエポキシプレファブ式の場合は、しゃへい金属21の先端に(第6図参照)、また○3のテープ巻きモールドの場合は接続スリーブ5の先端に(第7図参照)、それぞれ電界が集中する傾向がある。 本考案は、これらの場所にかかるストレスを緩和することによって、接続部の耐電圧特性の改善を計ったもので、各ケーブル絶縁体3の端からケーブル軸方向に入り込む電極16をそれぞれ形成し、かつこれをケーブル導体2と同電位に保つことを特徴とする。」(1頁10行-3頁4行) ウ.「次に実施例について説明する。 第1実施例(第3図、第2B図) ゴムモールド差込み式の場合である。ケーブル絶縁体3の端から、ケーブル軸方向に凹部14を作る。凹部14はケーブル導体2の回りを一巡し、かつその先端14aは、導電層12の先端12aより中まで入り込むようにする。凹部14の内面に導電塗料15(銀ペイントなど)を塗り、内部に導電ゴムなどを充てんして電極16を形成する。電極16は導電層12,ケーブル内部半導体層17と電気的に接続し、ケーブル導体2と同電位を保つ。 以上のようにすると、電界の模様は第2B図のようになる。導電層12の端部12aへの電界集中が防がれ、絶縁破壊値が向上する。」(3頁5-19行) エ.「第2実施例(第4図) 第1実施例をさらに発展させたものである。現場作業性を考慮して、凹部14の形を削り易くする。また、電極16を形成する導電体を、アダプタ10と一体にあらかじめモールドする。18は押し金具、19は圧縮バネである。なお、凹部14の形状は第4図点線(矢印で示した)のようにしてもよい。」(3頁20行-4頁7行) オ.「第3実施例(第5図) ワンピース型埋込み式の場合である。電極16は内部導電層8およびケーブル導体2と接触する。」(4頁8-10行) カ.「以上述べたように、本考案においては、ケーブル絶縁体3の端からケーブル軸方向に入り込む電極16を形成し、これをケーブル導体2と同電圧に保つようにしたので、この電極16を適当な形状にすることによって、導体接続部付近における電界の集中を緩和することが可能になり、接続部における絶縁破壊値を向上させることができるようになる。」(5頁9-16行) 上記刊行物1の記載を統合すると、第5図の第3実施例のものは、上記ウ及び第3図、第2B図に記載の第1実施例のものにおいて、「アダプタ10」を無くしたものであり、また、第1実施例のものにおける「ハウジング6」は、上記イ及び第1図に○1の差し込み式の従来例として記載するものの「ハウジング6」と同様の構成を有しているものと認められる。そして、この分野の技術常識を考慮すると次のことがいえる。 a.上記ア.の記載によれば、刊行物1には、高圧ゴムプラスチックケーブルの接続部が記載されている。 b.上記ア.、上記イ.、及び、上記第5図を参照すると、刊行物1には、高圧ゴムプラスチックケーブルの接続スリーブ5とその両側のケーブル絶縁体3に跨って、内部導電層8及び絶縁体7を有するハウジング6を被せてなる高圧ゴムプラスチックケーブルの接続部、が記載されているといえる。 c.上記ア.、上記ウ.、及び図5の記載によれば、刊行物1には、 ケーブル絶縁体3の端から、ケーブル軸方向に凹部を作り、凹部はケーブル導体2の回りを一巡し、凹部14の内面に導電塗料15(銀ペイントなど)を塗り、内部に導電ゴムなどを充てんして電極16が形成される、ことが記載されている。 d.上記オ.の記載によれば、電極16は内部導電層8およびケーブル導体2と接触して接続すること、さらに、上記ア.、上記カ.の記載によれば、電極16とケーブル導体2を同電位に保ち、電極16を適当な形状にすることによって、導体接続部付近における電界の集中を緩和することが可能となる、ことが記載されている。 以上総合すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 〈引用発明〉 「高圧ゴムプラスチックケーブルの接続スリーブ5とその両側のケーブル絶縁体3に跨って、内部導電層8及び絶縁体7を有するハウジング6を被せてなる高圧ゴムプラスチックケーブルの接続部において、 前記ケーブル絶縁体3の端から、ケーブル軸方向に凹部を作り、該凹部はケーブル導体2の回りを一巡し、前記凹部14の内面に導電塗料15を塗り、内部に導電ゴムなどを充てんして電極16が形成され、 該電極16は前記内部導電層8および前記ケーブル導体2と接触して接続され、前記電極16とケーブル導体2を同電位に保ち、前記電極16を適当な形状にすることによって、導体接続部付近における電界の集中を緩和することが可能となる、 高圧ゴムプラスチックケーブルの接続部。」 (2)対比 補正発明と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。 ア.引用発明の「高圧ゴムプラスチックケーブル」と、補正発明の「直流CVケーブル」は、「プラスチックで導体が絶縁被覆されたケーブル」の点で共通する。 イ.引用発明の「接続スリーブ5」、「ケーブル絶縁体3」、「内部導電層8」、「絶縁体7」、「ハウジング6」、及び、「接続部」は、補正発明の「導体接続部」、「ケーブル絶縁体」、「内部電極」、「補強絶縁体」、「補強絶縁ブロック」、及び、「ジョイント部」に相当する。 ウ.引用発明の、「ケーブル絶縁体3の端から、ケーブル軸方向」に作られた「凹部14」に塗った「導電塗料15」と、補正発明の「ケーブル絶縁体の端面に半導電性塗料を塗布してなる高圧側遮蔽用半導電層」は、「ケーブル絶縁体の端面に導電性のある塗料を塗布してなる導電層」の点で共通するといえる。 よって、補正発明と引用発明は、以下の点で一致、ないし相違している。 (一致点) 「プラスチックで導体が絶縁被覆されたケーブルの導体接続部とその両側のケーブル絶縁体に跨って、内部電極及び補強絶縁体を有する筒状の補強絶縁ブロックを被せてなるケーブルのジョイント部において、前記ケーブル絶縁体の端面に導電性のある塗料を塗布してなる導電層を設けた、ケーブルのジョイント部」 (相違点1)「ケーブル」が、補正発明では「直流CVケーブル」であるのに対して、引用発明では、「ケーブル」が「直流CV」とは特定されていない点。 (相違点2)補正発明では、「ケーブル絶縁体の端面に導電性のある塗料を塗布してなる導電層」が、「前記ケーブル絶縁体のシュリンクバックによって前記ケーブル絶縁体の端面の先に発生した空気層に、直流課電時の等電位線が入り込むのを防止するために、前記空気層内に介在する層を設けることなく」、「半導電性塗料を塗布」した「高圧側遮蔽用半導電層」であるのに対して、引用発明では、そのような空気層が発生することは特定されておらず、「凹部14」に塗った「導電塗料15」は、内部に導電ゴムなどを充てんして電極16を形成して、導体接続部付近における電界の集中を緩和するものであり、半導電性とも特定されていない点。 (3)判断 当審は次のとおり判断する。 下のア.?ウ.に示す理由で、引用発明において上記相違点2に係る補正発明の構成を採用することは、当業者といえども容易に推考し得たこととはいえない。 したがって、その他の点について判断するまでもなく、補正発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。 ア.引用発明を開示する刊行物には、引用発明において上記相違点に係る補正発明の構成を採用することについての記載も、それを示唆する記載もない。 イ.「シュリンクバック」によって、「ケーブル絶縁体」がケーブル軸方向に収縮することは、当該技術分野において周知の事実である。 ここで、引用発明は、「電極16」と「ケーブル導体2を同電位に保つようにし」、「電極16を適当な形状にすることによって、導体接続部付近における電界の集中を緩和する」ものであり、「電極16」は「導電塗料15」の塗られた「ケーブル絶縁体3」の「凹部14」内に導電ゴムを充てんして形成されるものである。 してみると、仮に、引用発明において「シュリンクバック」によって、「ケーブル絶縁体3」がケーブル軸方向に収縮した際にも、引用発明では、「電極16」は「凹部14内」に配置され、「凹部14」内に充てんした導電ゴムと「導電塗料15」の接触が維持されるように構成される必要があるものと認められ、「ケーブル絶縁体3」が収縮した際に「導電塗料15」の塗られた「ケーブル絶縁体3」の端面に「空気層」は形成されないものであるから、上記相違点2に係る補正発明の構成は導出されない。 したがって、引用発明において上記相違点2に係る補正発明の構成を採用することが当業者にとって容易であったとはいえない。 ウ.ほかに引用発明において上記相違点2に係る補正発明の構成を採用することが当業者にとって容易であったといえる根拠は見当たらない。 よって、本件補正の補正事項1は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。 本件補正のその余の補正事項についても、特許法第17条の2第3項ないし第6項に違反するところはない。 3.むすび 本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。 第3 本願発明 本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1-3に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-05-26 |
出願番号 | 特願2011-145265(P2011-145265) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H02G)
P 1 8・ 575- WY (H02G) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 久保 正典 |
特許庁審判長 |
和田 志郎 |
特許庁審判官 |
山澤 宏 稲葉 和生 |
発明の名称 | 直流CVケーブルのジョイント部 |
代理人 | 中澤 昭彦 |