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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1314882
審判番号 不服2014-25997  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-19 
確定日 2016-05-19 
事件の表示 特願2010- 62402「半導体用接着剤組成物、半導体用接着シートおよび半導体装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月 6日出願公開、特開2011-198914〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成22年3月18日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成25年 1月23日 審査請求
平成25年11月26日 拒絶理由通知
平成26年 1月28日 期間延長請求
平成26年 2月28日 意見書・手続補正書
平成26年 4月30日 拒絶理由通知(最後)
平成26年 6月 5日 意見書・手続補正書
平成26年 9月12日 補正却下・拒絶査定
平成26年12月19日 審判請求(補正却下の決定に対する不服申立て を伴う)
平成27年11月13日 拒絶理由通知
平成28年 1月18日 意見書・手続補正書

2 当審による拒絶理由通知の概要
当審が平成27年11月13日付けで通知した拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由通知」という。)の概要は、以下のとおりである。

(理由1)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(理由2)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
(理由3)この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された特開2009-173796号公報に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
(理由4)この出願の請求項1?3に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された特開2009-173796号公報に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 サポート要件(理由2)について
(1)本願の特許請求の範囲の記載について
本願の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された発明は、平成28年 1月18日付け手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものであって、そのうちの請求項1に記載された発明(以下「本願発明1」という)は次のとおりのものである。
「 【請求項1】
(A)アルキル基の炭素数が1?18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、イミドアクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリル酸およびメタクリル酸から導かれる構造単位ならびに水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルから導かれる構造単位を合計で99重量%以上有し、該水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルから導かれる構造単位を3?7重量%有し、重量平均分子量が100,000?1,000,000であるアクリル共重合体、
(B)エポキシ系熱硬化樹脂、および
(C)前記エポキシ系熱硬化樹脂(B)に対する熱硬化剤
を含む半導体用接着剤組成物。」

(2)本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明について
ア 本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は、当審において付与したものである。)
(ア)「【背景技術】
・・略・・
【0004】
ところで、近年の半導体装置に対する要求物性は非常に厳しいものとなっている。例えば、厳しい熱湿環境下における高いパッケージ信頼性が求められている。また電子部品の接続においては、パッケージ全体が半田融点以上の高温下にさらされる表面実装法(リフロー)が行われている。近年では鉛を含まない半田への移行により、実装温度は260℃程度まで上昇している。このため、半導体パッケージ内部で発生する応力が従来よりも大きくなり、接着界面における剥離やパッケージクラックといった不具合を生じる可能性が高まっている。
【0005】
特開2003-55632号公報(特許文献6)には、粘着成分、特定のエポキシ樹脂および熱活性型潜在性硬化剤からなる粘接着剤層を有する粘接着テープが開示されており、この粘接着テープによれば、粘接着剤硬化物の吸水率が低いためリフロー時のパッケージクラックを防止できる。
・・略・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、厳しい熱湿条件およびリフロー工程を経た場合においても被着部に対し高い接着性を有する半導体用接着剤組成物、該接着剤組成物からなる接着剤層を有する半導体用接着シートおよびこれを用いた半導体装置の製造方法を提供することである。」

(イ)「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、粘着成分として、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルから導かれる構造単位を特定量含有し、かつ特定の範囲の重量平均分子量を有するアクリル共重合体を用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、以下の[1]?[3]に関する。
[1] (A)水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルから導かれる構造単位を3?10重量%有し、重量平均分子量が100,000?1,000,000であるアクリル共重合体、
(B)エポキシ系熱硬化樹脂、および
(C)熱硬化剤
を含む半導体用接着剤組成物。
【0010】
[2] 基材上に形成された上記[1]に記載の半導体用接着剤組成物からなる接着剤層を有することを特徴とする半導体用接着シート。
[3] 上記[2]に記載の半導体用接着シートの接着剤層に半導体ウェハを貼着し、該半導体ウェハをダイシングして半導体チップとし、該半導体チップ裏面に接着剤層を固着残存させて基材から剥離し、該半導体チップを被着部に接着剤層を介して熱圧着する工程を有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、厳しい熱湿条件およびリフロー工程を経た場合においても被着部に対し高い接着性を有する半導体用接着剤組成物、該接着剤組成物からなる接着剤層を有する半導体用接着シートおよびこれを用いた半導体装置の製造方法を提供することができる。」

(ウ)「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の半導体用接着剤組成物、半導体用接着シートおよび半導体装置の製造方法の詳細を説明する。なお、以下では本発明の半導体用接着剤組成物から形成された接着剤層を単に「接着剤層」とも記載する。
【0013】
〔半導体用接着剤組成物〕
本発明の半導体用接着剤組成物は、(A)特定のアクリル共重合体、(B)エポキシ系熱硬化樹脂、および(C)熱硬化剤を含有する。また、前記接着剤組成物の各種物性を改良するため、必要に応じて他の成分が配合されてもよい。以下、これら各成分について具体的に説明する。
【0014】
アクリル共重合体(A);
本発明の半導体用接着剤組成物は、粘着成分として、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルから導かれる構造単位を3?10重量%を有し、重量平均分子量が100,000?1,000,000であるアクリル共重合体(A)を含有する。このため、本発明の半導体用接着剤組成物は、厳しい熱湿条件およびリフロー工程を経た場合においても被着部に対し高い接着性を有する。
【0015】
水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルから導かれる構造単位の量は、アクリル共重合体(A)の量を100重量%とすると、3?10重量%、好ましくは5?7重量%である。この量が3重量%以上であることにより、本発明の半導体用接着剤組成物からなる接着剤層は、半導体ウェハ等に対する優れた接着力を示す。また、この量が10重量%以下であることにより、本発明の半導体用接着剤組成物からなる接着剤層は、高湿高熱環境に曝された後であっても、半導体ウェハ等に対する優れた接着力を示す。
・・略・・
【0018】
アクリル共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-20?70℃であり、より好ましくは0?50℃である。アクリル共重合体(A)のTgが低過ぎると、接着剤層と基材との剥離力が大きくなってチップのピックアップ不良が起こることがある。アクリル共重合体(A)のTgが高過ぎると、ウェハを固定するための接着力が不充分となるおそれがある。
・・略・・
【0023】
エポキシ系熱硬化樹脂(B);
エポキシ系熱硬化樹脂(B)としては、従来公知の種々のエポキシ樹脂を用いることができる。前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェニレン骨格型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、縮合環芳香族炭化水素変性エポキシ樹脂や、これらのハロゲン化物などの構造単位中に2つ以上の官能基が含まれるエポキシ樹脂が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は1種単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、特に限定されないが、好ましくは150?1000g/eqである。なお、エポキシ当量は、JIS K7236に準じて測定される値である。
本発明の接着剤組成物において、エポキシ系熱硬化樹脂(B)の含有量は、アクリル共重合体(A)100重量部に対して、通常は1?1500重量部、好ましくは3?1000重量部である。エポキシ系熱硬化樹脂(B)の含有量が前記範囲を下回ると、充分な接着力を有する接着剤層が得られないことがある。また、エポキシ系熱硬化樹脂(B)の含有量が前記範囲を上回ると、接着剤層と基材との接着力が高くなり過ぎ、チップのピックアップ不良が起こることがある。
【0025】
熱硬化剤(C);
熱硬化剤(C)は、エポキシ系熱硬化樹脂(B)に対する熱硬化剤として機能する。
熱硬化剤(C)としては、エポキシ基と反応しうる官能基を分子中に2個以上有する化合物が挙げられ、その官能基としてはフェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基などが挙げられる。これらの中では、フェノール性水酸基、アミノ基および酸無水物基が好ましく、フェノール性水酸基およびアミノ基がより好ましい。
・・略・・
【0027】
本発明の接着剤組成物において、熱硬化剤(C)の含有量は、エポキシ系熱硬化樹脂(B)100重量部に対して、通常は0.1?500重量部、好ましくは1?200重量部である。熱硬化剤(C)の含有量が前記範囲を下回ると、接着剤組成物の硬化性が不足して充分な接着力を有する接着剤層が得られないことがある。熱硬化剤(C)の含有量が前記範囲を上回ると、接着剤組成物の吸湿率が高まり、半導体パッケージの信頼性が低下することがある。
【0028】
硬化促進剤(D);
本発明において、接着剤組成物の硬化速度を調整するため、硬化促進剤(D)を用いてもよい。硬化促進剤(D)としては、エポキシ基とフェノール性水酸基などとの反応を促進し得る化合物が挙げられ、具体的には、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノールなどの3級アミン類;2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールなどのイミダゾール類;トリブチルホスフィン、ジフェニルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの有機ホスフィン類;テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィンテトラフェニルボレートなどのテトラフェニルボロン塩などが挙げられる。硬化促進剤(D)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明の接着剤組成物において、硬化促進剤(D)の含有量は、エポキシ系熱硬化樹脂(B)および熱硬化剤(C)の合計100重量部に対して、好ましくは0.001?100重量部、より好ましくは0.01?50重量部、さらに好ましくは0.1?10重量部である。硬化促進剤(D)の含有量が前記範囲を上回ると、接着剤組成物や接着シートの保存安定性に劣ることがある。
【0030】
エネルギー線重合性化合物(E);
本発明の接着剤組成物は、エネルギー線重合性化合物(E)を含有してもよい。エネルギー線重合性化合物(E)をエネルギー線照射によって重合させることで、接着剤層の接着力を低下させることができる。このため、半導体チップのピックアップ工程において、基材と接着剤層との層間剥離を容易に行えるようになる。
・・略・・
【0033】
エネルギー線重合性化合物(E)の分子量(オリゴマーまたはポリマーの場合は重量平均分子量)は、通常は100?30000、好ましくは200?9000程度である。
本発明の接着剤組成物において、エネルギー線重合性化合物(E)の含有量は、アクリル共重合体(A)100重量部に対して、通常は1?400重量部、好ましくは3?300重量部、より好ましくは10?200重量部である。エネルギー線重合性化合物(E)の含有量が前記範囲を上回ると、有機基板やリードフレームなどに対する接着剤層の接着力が低下することがある。
【0034】
光重合開始剤(F);
本発明の接着剤組成物の使用に際して、紫外線などのエネルギー線を照射して、接着剤層の接着力を低下させることが好ましい。接着剤組成物中に光重合開始剤(F)を含有させることで、重合・硬化時間および光線照射量を少なくすることができる。
・・略・・
【0036】
光重合開始剤(F)の配合割合は、理論的には、接着剤組成物中に存在する不飽和結合量やその反応性および使用される光重合開始剤の反応性に基づいて決定されるべきであるが、複雑な混合物系においては必ずしも容易ではない。一般的な指針として、光重合開始剤(F)の含有量は、エネルギー線重合性化合物(E)100重量部に対して、通常は0.1?10重量部、好ましくは1?5重量部である。光重合開始剤(F)の含有量が前記範囲を下回ると光重合の不足で満足なピックアップ性が得られないことがあり、前記範囲を上回ると光重合に寄与しない残留物が生成し、接着剤組成物の硬化性が不充分となることがある。
【0037】
カップリング剤(G);
本発明において、接着剤組成物の被着体に対する接着力および密着力をより向上させるため、カップリング剤(G)を用いてもよい。また、カップリング剤(G)を使用することで、接着剤組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性を損なうことなく、その耐水性をより向上させることができる。
【0038】
カップリング剤(G)としては、アクリル共重合体(A)やエポキシ系熱硬化樹脂(B)などが有する官能基と反応する基を有する化合物が好ましく使用される。カップリング剤(G)としては、シランカップリング剤が好ましい。
・・略・・
【0040】
本発明の接着剤組成物において、カップリング剤(G)の含有量は、アクリル共重合体(A)およびエポキシ系熱硬化樹脂(B)の合計100重量部に対して、通常は0.1?20重量部である。カップリング剤(G)の含有量が前記範囲を下回ると上記効果が得られないことがあり、前記範囲を上回るとアウトガスの原因となることある。
【0041】
無機充填材(H);
本発明において、無機充填材(H)を用いてもよい。無機充填材(H)を接着剤組成物に配合することにより、該組成物の熱膨張係数を調整することが可能となる。半導体チップ、リードフレームおよび有機基板に対して硬化後の接着剤層の熱膨張係数を最適化することで、パッケージ信頼性をより向上させることができる。また、接着剤層の硬化後の吸湿率をより低減することも可能となる。
【0042】
無機充填材(H)としては、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維、ガラス繊維などが挙げられる。これらの中でも、シリカフィラーおよびアルミナフィラーが好ましい。無機充填材(H)は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の接着剤組成物において、無機充填材(H)の含有量は、接着剤組成物全体に対して、通常は0?80重量%である。
【0043】
その他の成分;
本発明の接着剤組成物には、上記各成分の他に、必要に応じて各種添加剤が含有されてもよい。各種添加剤としては、ポリエステル樹脂のような可とう性成分、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、顔料、染料などが挙げられる。」

(エ)「【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、各評価は以下のようにして行った。
・・略・・
【0068】
チップをダイボンドする配線基板として、銅箔張り積層板(三菱ガス化学社製、BTレジンCCL-HL832HS)の銅箔に回路パターンが形成され、パターン上にソルダーレジスト(太陽インキ社製、PSR-4000 AUS303)を有している2層両面基板(日立超LSIシステムズ社製、LNTEG0001、サイズ 157mm×70mm×0.22t、最大凹凸15μm)を用いた。5mm×5mmのサイズでダイシングされたシリコンチップを接着剤層ごとピックアップし、接着シートの接着剤層を介して100℃かつ300gf/chip、1秒間の条件にてボンディングし、その後、125℃で60分間加熱し、さらに175℃で120分間加熱し接着剤層を硬化させ、試験片を得た。この硬化直後の試験片を、以下「試験片(ア)」と記す。
・・略・・
【0072】
[実施例および比較例]
表1に記載の組成の接着剤組成物を使用した。表1中、各成分の数値は固形分換算の重量部を示し、本発明において固形分とは溶剤以外の全成分をいう。表1に記載の組成の接着剤組成物をシリコーン処理された剥離フィルム(SP-PET3811(S))上に乾燥後厚みが約60μmになるように塗布・乾燥した後に、基材であるポリエチレンフィルム(厚み100μm、表面張力33mN/m)と貼り合せて、接着剤層を基材上に転写することで、実施例1?4及び比較例1、2の接着シートを得た。
【0073】
【表1】


【0074】
【表2】


表2より、実施例では、促進処理後においても高いせん断接着力(100N/chip以上)を維持し、また厳しいリフロー条件に曝された場合であっても高いパッケージ信頼性を有している。一方比較例では、湿熱耐久試験後の強度に劣り、またパッケージ信頼性も低下している。
表1の各材料は、下記に示すとおりである。
【0075】
(A)アクリル共重合体
(A)-1:アクリル酸メチル(MA)および2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)(MA/HEA=90重量%/10重量%)からなるアクリル酸エステル共重合体(Mw=30万、Tg=7℃)
(A)-2:MAおよびHEA(MA/HEA=93重量%/7重量%)からなるアクリル酸エステル共重合体(Mw=31万、Tg=8℃)
(A)-3:MAおよびHEA(MA/HEA=95重量%/5重量%)からなるアクリル酸エステル共重合体(Mw=30万、Tg=9℃)
(A)-4:MAおよびHEA(MA/HEA=97重量%/3重量%)からなるアクリル酸エステル共重合体(Mw=31万、Tg=9℃)
(a)-1:MAおよびHEA(MA/HEA=100重量%/0重量%)からなるアクリル酸エステル重合体(Mw=31万、Tg=10℃)
(a)-2:MAおよびHEA(MA/HEA=80重量%/20重量%)からなるアクリル酸エステル共重合体(Mw=31万、Tg=5℃)
【0076】
(B)エポキシ系熱硬化樹脂
(B)-1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂
(ジャパンエポキシレジン(株)製:jER828、エポキシ当量184?194g/eq)
(B)-2:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂
(日本化薬(株)製:ECON-104S、エポキシ当量213?223g/eq)
(B)-3:多官能エポキシ樹脂
(日本化薬(株)製:EPPN-502H、エポキシ当量158?178g/eq)
(B)-4:ジシクロペンタジエン(DCPD)型エポキシ樹脂
(DIC製:EPICLON HP-7200HH、エポキシ当量265?300g/eq)
【0077】
(C)熱硬化剤:ノボラック型フェノール樹脂
(昭和高分子(株)製:ショウノールBRG-556)
(D)硬化促進剤:2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール(四国化成工業(株)製:キュアゾール2PHZ)
(E)エネルギー線重合性化合物:ジシクロペンタジエンジメトキシジアクリレート(日本化薬(株)製:KAYARAD R-684)
(F)光重合開始剤:α-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン
(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製:イルガキュア184
(G)カップリング剤:シランカップリング剤(三菱化学(株)製:MKCシリケートMSEP2)
(H)無機充填材:Siフィラー((株)アドマテックス製:アドマファインSC2050)
(I)その他成分:熱可塑性ポリエステル樹脂(東洋紡社製:バイロン220)」

イ 上記ア(ア)及び(イ)より、本願明細書の発明の詳細な説明には、従来技術では、厳しい熱湿環境下における高いパッケージ信頼性が求められているところ、実装温度が260℃程度まで上昇しているため、半導体パッケージ内部で発生する応力が従来よりも大きくなり、接着界面における剥離やパッケージクラックといった不具合を生じる可能性が高まっているとの課題が存在していたので、本願に係る発明は、厳しい熱湿条件およびリフロー工程を経た場合においても被着部に対し高い接着性を有する半導体用接着剤組成物、該接着剤組成物からなる接着剤層を有する半導体用接着シートおよびこれを用いた半導体装置の製造方法を提供するようにしたものであることが記載されていると認められる。

そして、上記ア(ウ)より、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願に係る発明における半導体用接着剤組成物は、(A)特定のアクリル共重合体、(B)エポキシ系熱硬化樹脂、及び(C)熱硬化剤を含有し、上記接着剤組成物の各種物性を改良するため、必要に応じて他の成分が配合されてもよいことが記載され、そのうえで、上記半導体用接着剤組成物に含まれる各成分について、以下のことが記載されていると認められる。

・本願に係る発明の半導体用接着剤組成物において、アクリル共重合体(A)の量を100重量%とすると、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルから導かれる構造単位の量は3?10重量%であり、本願に係る発明の半導体用接着剤組成物からなる接着剤層は、この量が3重量%以上であることにより、半導体ウェハ等に対する優れた接着力を示し、この量が10重量%以下であることにより、高湿高熱環境に曝された後であっても、半導体ウェハ等に対する優れた接着力を示すものであり、また、アクリル共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-20?70℃であり、アクリル共重合体(A)のTgが高過ぎると、ウェハを固定するための接着力が不充分となるおそれがあること。
・本願に係る発明の半導体用接着剤組成物において、エポキシ系熱硬化樹脂(B)としては、従来公知の種々のエポキシ樹脂を用いることができ、エポキシ系熱硬化樹脂(B)の含有量は、アクリル共重合体(A)100重量部に対して通常は1?1500重量部で、エポキシ系熱硬化樹脂(B)の含有量が上記範囲を下回ると、充分な接着力を有する接着剤層が得られないことがあること。
・本願に係る発明の半導体用接着剤組成物において、熱硬化剤(C)としては、エポキシ基と反応しうる官能基を分子中に2個以上有する化合物が挙げられ、熱硬化剤(C)の含有量は、エポキシ系熱硬化樹脂(B)100重量部に対して、通常は0.1?500重量部、好ましくは1?200重量部で、熱硬化剤(C)の含有量が上記範囲を下回ると、接着剤組成物の硬化性が不足して充分な接着力を有する接着剤層が得られないことがあり、また、熱硬化剤(C)の含有量が上記範囲を上回ると、接着剤組成物の吸湿率が高まり、半導体パッケージの信頼性が低下することがあること。
・本願に係る発明の半導体用接着剤組成物において、接着剤組成物の硬化速度を調整するため、硬化促進剤(D)を用いてもよく、硬化促進剤(D)としては、エポキシ基とフェノール性水酸基などとの反応を促進し得る化合物が挙げられ、硬化促進剤(D)の含有量は、エポキシ系熱硬化樹脂(B)および熱硬化剤(C)の合計100重量部に対して、好ましくは0.001?100重量部であり、硬化促進剤(D)の含有量が上記範囲を上回ると、接着剤組成物や接着シートの保存安定性に劣ることがあること。
・本願に係る発明の半導体用接着剤組成物において、紫外線や電子線などのエネルギー線の照射を受けると重合・硬化する化合物であるエネルギー線重合性化合物(E)を含有し、エネルギー線重合性化合物(E)をエネルギー線照射によって重合させることで、接着剤層の接着力を低下させることができ、エネルギー線重合性化合物(E)の含有量は、アクリル共重合体(A)100重量部に対して、通常は1?400重量部で、エネルギー線重合性化合物(E)の含有量が上記範囲を上回ると、有機基板やリードフレームなどに対する接着剤層の接着力が低下することがあること。
・本願に係る発明の接着剤組成物の使用に際して、紫外線などのエネルギー線を照射して、接着剤層の接着力を低下させることが好ましく、接着剤組成物中に光重合開始剤(F)を含有させることで、重合・硬化時間および光線照射量を少なくすることができ、光重合開始剤(F)の含有量は、エネルギー線重合性化合物(E)100重量部に対して通常は0.1?10重量部で、上記範囲を上回ると光重合に寄与しない残留物が生成し、接着剤組成物の硬化性が不充分となることがあること。
・本願に係る発明における接着剤組成物の被着体に対する接着力および密着力をより向上させるため、カップリング剤(G)を用いてもよく、カップリング剤(G)を使用することで、接着剤組成物を硬化して得られる硬化物の耐熱性を損なうことなく、その耐水性をより向上させることができ、カップリング剤(G)としては、アクリル共重合体(A)やエポキシ系熱硬化樹脂(B)などが有する官能基と反応する基を有する化合物が好ましく、カップリング剤(G)の含有量は、アクリル共重合体(A)およびエポキシ系熱硬化樹脂(B)の合計100重量部に対して、通常は0.1?20重量部で、カップリング剤(G)の含有量が上記範囲を下回ると上記効果が得られないことがあること。
・無機充填材(H)を本願に係る発明の接着剤組成物に配合することにより、該組成物の熱膨張係数を調整することが可能となり、また、接着剤層の硬化後の吸湿率をより低減することも可能となり、シリカ、アルミナ、タルク、炭酸カルシウム、チタンホワイト、ベンガラ、炭化珪素、窒化ホウ素等の粉末、これらを球形化したビーズ、単結晶繊維、ガラス繊維などが挙げられ、無機充填材(H)の含有量は、接着剤組成物全体に対して、通常は0?80重量%であること。
・本発明の接着剤組成物には、上記各成分の他に、必要に応じて各種添加剤が含有されてもよく、各種添加剤としては、ポリエステル樹脂のような可とう性成分、可塑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、顔料、染料などが挙げられること。

また、上記ア(エ)より、本願明細書の発明の詳細な説明には、表1に記載の特定の組成の接着剤組成物、すなわちアクリル酸メチル(MA)及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)を、所定の比率(MA/HEA=90重量%/10重量%,93重量%/7重量%、95重量%/5重量%、及び97重量%/3重量%)で含み、重量平均分子量が30ないし31万の範囲内で、ガラス転位温度Tgが7ないし9℃の範囲内である(A)アクリル共重合体、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、多官能エポキシ樹脂、及びジシクロペンタジエン(DCPD)型エポキシ樹脂を含む(B)エポキシ系熱硬化樹脂、ノボラック型フェノール樹脂からなる(C)熱硬化剤、並びにそれぞれ特定の材料からなる(D)硬化促進剤、(E)エネルギー線重合性化合物、(F)光重合開始剤、(G)カップリング剤、(H)無機充填材及び(I)その他成分を、それぞれ、固形分換算の重量部で所定の重量部含有する接着剤組成物を、シリコーン処理された剥離フィルム上に乾燥後厚みが約60μmになるように塗布・乾燥した後に、基材であるポリエチレンフィルム(厚み100μm、表面張力33mN/m)と貼り合せ、実施例1ないし4の接着シートを形成して、これらの吸湿率と、硬化直後及び湿熱耐久後におけるせん断接着力とを測定した結果(表2)、上記実施例1ないし4の接着シートについて、促進処理後においても高いせん断接着力(100N/chip以上)を維持し、また厳しいリフロー条件に曝された場合であっても高いパッケージ信頼性を有していることが記載されていると認められる。

(3)サポート要件についての検討
ア 上記(1)によれば、本願発明1では、半導体用接着剤組成物が含む(A)のアクリル共重合体が有する構造単位について、「(A)アルキル基の炭素数が1?18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、イミドアクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリル酸およびメタクリル酸から導かれる構造単位」、及び「水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルから導かれる構造単位」と特定されているから、本願発明1の半導体用接着剤組成物における(A)のアクリル共重合体には、「アルキル基の炭素数が1?18である(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、イミドアクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アクリル酸およびメタクリル酸から導かれる」任意の「構造単位」と、「水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルから導かれる」任意の「構造単位」とを有する、様々な構成のものが含まれ得ると解される。
また、本願発明1では、半導体用接着剤組成物が含む(B)のエポキシ系熱硬化樹脂、及び(C)の熱硬化剤について、「(B)エポキシ系熱硬化樹脂」及び「(C)前記エポキシ系熱硬化樹脂(B)に対する熱硬化剤」と特定されているから、本願発明1の半導体用接着剤組成物における(B)のエポキシ系熱硬化樹脂、及び(C)の熱硬化剤には、上記の特定に該当する任意の材料が含まれ得ると解される。
そして、本願発明1では、(A)のアクリル共重合体、(B)のエポキシ系熱硬化樹脂、及び(C)の熱硬化剤それぞれの、半導体用接着剤組成物全体に対する重量比について特定されていないから、本願発明1には、上記三つの成分を任意の重量比で含む半導体用接着剤組成物が含まれ得ると解される。
さらに、本願発明1では、(A)のアクリル共重合体、(B)のエポキシ系熱硬化樹脂、及び(C)の熱硬化剤を含むことが特定されているものの、上記三つの成分のみからなることは特定されておらず、上記三つの成分以外に、どのような材料を、半導体用接着剤組成物全体に対してどのような重量比で含むのかについて特定されていないから、本願発明1には、上記三つの成分以外の任意の材料を、半導体用接着剤組成物全体に対して任意の重量比で含む半導体用接着剤組成物が含まれ得ると解される。
そうすると、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載より、本願発明1には、(A)のアクリル共重合体、(B)のエポキシ系熱硬化樹脂、及び(C)の熱硬化剤それぞれの材料と半導体用接着剤組成物全体に対する重量比、並びに上記三つの成分以外に含まれる材料、及び半導体用接着剤組成物全体に対する重量比の点で、様々な構成を備えた半導体用接着剤組成物が含まれ得るということができる。

イ 他方、上記(2)のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1における(A)のアクリル共重合体、(B)のエポキシ系熱硬化樹脂、及び(C)の熱硬化剤それぞれについての説明と、上記三つの成分以外の他の成分それぞれについての説明が記載されていると認められる。
しかし、上記の記載は、本願発明1の半導体用接着剤組成物に含まれる成分それぞれについての説明にとどまり、これらの成分によって製造された、本願発明1の構成を備える半導体用接着剤組成物の接着力や吸湿率等について記載されたものではない。
また、半導体用接着剤組成物に含まれる成分それぞれに関する上記の記載によっても裏付けられるように、接着シートや接着剤の接着力や吸湿性等の特性は、接着剤組成物に含まれる成分、及び接着剤組成物全体における各成分の比率に依存することは明らかである。
そうすると、半導体用接着剤組成物に含まれる成分それぞれに関する上記の記載が、本願発明1の構成を備えた半導体用接着剤組成物によって、従来技術における課題が解決され、厳しい熱湿条件およびリフロー工程を経た場合においても被着部に対し高い接着性を有する半導体用接着剤組成物、該接着剤組成物からなる接着剤層を有する半導体用接着シートおよびこれを用いた半導体装置の製造方法を提供するとの所期の効果が得られることを、当業者において認識できることを裏付ける具体的な記載であるとは認められない。
そして、上記(2)より、本願明細書の発明の詳細な説明において、本願発明1の構成により従来技術における課題が解決され、所期の効果が得られることを、当業者において認識できることを裏付ける具体的な記載は、本願発明1における(A)のアクリル共重合体、(B)のエポキシ系熱硬化樹脂、及び(C)の熱硬化剤それぞれの材料と固形分換算の重量部、並びに上記三つの成分以外に含まれる材料、及び固形分換算の重量部が特定された、表1及び2の実施例2ないし4(当審注.平成28年1月18日付け手続補正書による補正で、実施例1は、本願発明1の実施例ではなくなった。)の3つの実施例に関する記載のみと認められ、このほかに存在するとは認められない。

ウ 上記アのとおり、本願発明1には、(A)のアクリル共重合体、(B)のエポキシ系熱硬化樹脂、及び(C)の熱硬化剤それぞれの材料と半導体用接着剤組成物全体に対する重量比、並びに上記三つの成分以外に含まれる材料、及び半導体用接着剤組成物全体に対する重量比の点で、様々な構成のものが含まれ得るところ、上記イのとおり、本願明細書の発明の詳細な説明において、本願発明1の構成により従来技術における課題が解決され、所期の効果が得られることを、当業者において認識できることを裏付ける具体的な記載は、本願発明1における(A)のアクリル共重合体、(B)のエポキシ系熱硬化樹脂、及び(C)の熱硬化剤それぞれの材料と固形分換算の重量部、並びに上記三つの成分以外に含まれる材料、及び固形分換算の重量部が特定された、表1及び2の実施例2ないし4に関する記載のみであり、当該実施例2ないし4は、本願発明1に含まれ得る半導体用接着剤組成物のうちのごく一部に対応するものにすぎないと認められる。
そして、上述のとおり、接着シートや接着剤の接着力や吸湿性等の特性は、接着剤組成物に含まれる成分、及び接着剤組成物全体における各成分の比率に依存することは明らかである。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明における、(A)のアクリル共重合体、(B)のエポキシ系熱硬化樹脂、及び(C)の熱硬化剤それぞれの材料と固形分換算の重量部、並びに上記三つの成分以外に含まれる材料、及び固形分換算の重量部が特定された、表1及び2の実施例2ないし4に関する記載のみをもって、(A)のアクリル共重合体、(B)のエポキシ系熱硬化樹脂、及び(C)の熱硬化剤それぞれの材料と半導体用接着剤組成物全体に対する重量比、並びに上記三つの成分以外に含まれる材料、及び半導体用接着剤組成物全体に対する重量比の点で、様々な構成のものが含まれ得る、本願発明1の半導体用接着剤組成物についてまで、従来技術における課題が解決され、所期の効果が得られるものとして拡張ないし一般化することは、当該技術分野における技術常識を参酌しても可能であるとは認められず、本願明細書の発明の詳細な説明における上記実施例2ないし4に関する記載のみをもって、本願発明1における(A)のアクリル共重合体が有する「水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルから導かれる構造単位」の「3重量%」との含有量や「7重量%」との含有量、及びアクリル共重合体の重量平均分子量の「100,000」との値や「1,000,000」との値が、所望の効果が得られる範囲を画する境界であることを的確に裏付けているということはできない。
以上から、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(本願発明1)は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。

エ したがって、本願発明1は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された発明とは認められず、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載が、明細書のサポート要件に適合するということはできない。

(4)請求人の主張について
請求人は、平成28年1月18日付け意見書で、「しかしながら、平成21年(行ケ)第10330号審決取消請求事件の判決(42頁)で述べられているとおり、「特許請求の範囲において発明を特定する際,必ずしも,所望の効果を発揮するために必要な条件をすべて特定しなければならないわけではなく,発明を構成する特徴的な条件のみ特定すれば足りることが通常であって,発明の内容と技術常識に基づき当業者が適宜設定できる条件まで,逐一,発明特定事項とすることが求められるわけではない」のであって、本願発明においては、本願発明を完成させる過程で初めて見い出した特徴的な条件である水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルから導かれる構造単位の比率のみを特定すれば足りるのであり、それ以外の、本願明細書の記載と技術常識に基づき当業者が適宜設定できる条件についてまで、逐一、発明特定事項としなければサポート要件が満たされないとすることは、適切ではない。以上のとおりであるから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。」と主張する。
しかし、請求人の上記の主張は採用することはできない。その理由は以下のとおりである。
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日特別部判決、及び知財高裁平成24年(行ケ)第10292号平成25年6月27日第4部判決)。
そして、上記(3)で検討したとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(本願発明1)は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないから、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載が、明細書のサポート要件に適合するということはできない。

(5)まとめ
以上検討したとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

4 むすび
以上のとおりであるから、本願は、他の拒絶理由について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-18 
結審通知日 2016-03-22 
審決日 2016-04-05 
出願番号 特願2010-62402(P2010-62402)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 萩原 周治  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 綿引 隆
加藤 浩一
発明の名称 半導体用接着剤組成物、半導体用接着シートおよび半導体装置の製造方法  
代理人 特許業務法人SSINPAT  

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