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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 H01L 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 H01L |
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管理番号 | 1314888 |
審判番号 | 不服2015-15136 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-08-12 |
確定日 | 2016-05-19 |
事件の表示 | 特願2014- 78735「光反射用熱硬化性樹脂組成物,これを用いた光半導体素子搭載用基板及びその製造方法,並びに光半導体装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月 9日出願公開,特開2014-195081〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,平成21年4月28日を出願日とする特願2009-109692号の一部を,平成24年4月11日に新たな出願とした特願2012-90405号について,さらにその一部を,平成26年4月7日に新たな出願としたものであって,平成27年1月16日付けで拒絶理由が通知され,同年3月26日に意見書が提出され,同年5月8日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年8月12日に審判請求がされると同時に手続補正がされたものである。 2 平成27年8月12日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)について (1)本件補正の内容 本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,本件補正の前後で,特許請求の範囲の記載は以下のとおりである。 〈補正前〉 「【請求項1】 底面及び壁面から構成される凹部を有する光半導体素子搭載用基板と, 前記光半導体素子搭載用基板の前記凹部の底面に設けられた光半導体素子と, 前記凹部を充填して前記光半導体素子を封止する蛍光体含有封止樹脂部と, 前記半導体素子とボンディングワイヤ又ははんだバンプにより電気的に接続された金属配線と,を備え, 前記凹部の内周側面の少なくとも一部が, エポキシ樹脂,硬化剤,及び白色顔料を含み,前記エポキシ樹脂として,前記硬化剤と互いに相溶であり,エポキシ基が150?350g/eq且つ数平均分子量が700?50000である,ポリオルガノシロキサン骨格と2つ以上のエポキシ基とを有する化合物を少なくとも含む光反射用熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる,光半導体装置。」 〈補正後〉 「【請求項1】 底面及び壁面から構成される凹部を有する光半導体素子搭載用基板と, 前記光半導体素子搭載用基板の前記凹部の底面に設けられた光半導体素子と, 前記凹部を充填して前記光半導体素子を封止する蛍光体含有封止樹脂部と, 前記半導体素子とボンディングワイヤ又ははんだバンプにより電気的に接続された金属配線と,を備え, 前記凹部の内周側面の少なくとも一部が, エポキシ樹脂,硬化剤,及び白色顔料を含み,前記エポキシ樹脂として,前記硬化剤と互いに相溶であり,エポキシ基が150?350g/eq且つ数平均分子量が700?5000である,ポリオルガノシロキサン骨格と2つ以上のエポキシ基とを有する化合物を少なくとも含む光反射用熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる,光半導体装置。」 (2)本件補正の内容及び補正事項についての検討 上記のとおり,本件補正は,補正前の請求項1の「数平均分子量が700?50000である,」を,補正後の請求項1の「数平均分子量が700?5000である,」と補正するものであって,補正後の当該事項は,願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)の段落【0013】等に記載されているから,当初明細書の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものである。また,本件補正は,誤記の訂正を目的とするものに該当する。 (3)まとめ 上記(2)において検討したとおり,本件補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてなされ,特許法第17条の2第3項に規定された要件を満たすものであり,また,特許法第17条の2第5項第3号に掲げる誤記の訂正を目的とするものであるから,適法になされたものである。 3 本願発明 本件補正は適法になされたものであるから,本願の請求項1に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下「本願発明」という。) 「【請求項1】 底面及び壁面から構成される凹部を有する光半導体素子搭載用基板と, 前記光半導体素子搭載用基板の前記凹部の底面に設けられた光半導体素子と, 前記凹部を充填して前記光半導体素子を封止する蛍光体含有封止樹脂部と, 前記半導体素子とボンディングワイヤ又ははんだバンプにより電気的に接続された金属配線と,を備え, 前記凹部の内周側面の少なくとも一部が, エポキシ樹脂,硬化剤,及び白色顔料を含み,前記エポキシ樹脂として,前記硬化剤と互いに相溶であり,エポキシ基が150?350g/eq且つ数平均分子量が700?5000である,ポリオルガノシロキサン骨格と2つ以上のエポキシ基とを有する化合物を少なくとも含む光反射用熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる,光半導体装置。」 4 検討 (1)本願明細書の記載事項 本願明細書には以下の記載がある(下線は当審において付加。以下同様。)。 ・「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 ところで,LEDパッケージの製造では,光半導体素子搭載用基板と光半導体素子との接続,光半導体素子の樹脂封止,及び基板実装時のはんだリフローなどの高温プロセスを経る。樹脂は酸化劣化すると変色しやすいため,光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いて作製された光半導体素子搭載用基板の場合,LEDパッケージにおける初期の光学特性の確保が困難となる傾向にある。 【0007】 一方,トランスファー成形に用いられる光反射用熱硬化性樹脂組成物には,金型内への均一な充填を可能とする成形加工性を有していることが求められる。 【0008】 本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであり,十分な光反射率及び成形加工性を有し,しかも耐熱着色性に優れた光反射用熱硬化性樹脂組成物,それを用いた光半導体素子搭載用基板およびその製造方法,並びに,光半導体装置を提供することを目的とする。」 ・「【発明の効果】 【0025】 本発明によれば,十分な光反射率及び成形加工性を有し,しかも耐熱着色性に優れた光反射用熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。すなわち,本発明によれば,可視光から近紫外光の波長領域における光反射率が高い硬化物が得られ,且つ,LEDパッケージなどの光半導体装置の製造時や高温環境での使用時に変色の少ない硬化物を得ることが可能な光反射用熱硬化性樹脂組成物を提供することができる。また,そのような樹脂組成物を用いることによって,光学特性に優れ,信頼性の高い光半導体素子搭載用基板及び光半導体装置を製造することが可能となる。」 ・「【0030】 本発明で用いられるポリオルガノシロキサン骨格を有する上記エポキシ化合物(以下の段落で,本発明で用いられるエポキシ樹脂という場合もある。)は,結合エネルギーの高い結合を有するとともに,オルガノシロキサン骨格が疎水性を示し,光反射用熱硬化性樹脂組成物の硬化成型物表面の表面自由エネルギーを低下させる性質を有する。このような性質から,トランスファー成形時に成形金型への張り付くことを抑制することが可能となる。そして,このような化合物と上記(B)?(D)成分とを組み合わせることにより,高温環境下での酸化劣化による着色を抑制しつつ,高温で金型を用いる成形加工を行って十分な光反射率を有する成形体を製造する場合であっても,金型成形時に成形金型との離型性を十分確保することができ,高い光反射率,耐熱着色性及び成形加工性のすべてを高度に満足させることができる。 【0031】 本発明で用いられるエポキシ樹脂は,そのエポキシ当量が150?350g/eqであるものが好ましく,200?300g/eqであるものがより好ましい。エポキシ当量が150g/eq未満であると,エポキシ樹脂中に含まれるシロキサン重量比が低下し,耐熱性,耐着色性が十分に得られなくなる傾向にある。一方,エポキシ当量が350g/eqを越えると,例えば,他のエポキシ樹脂,硬化剤,添加剤などの成分と加熱混合して光反射用硬化性樹脂組成物を調製する際の相溶性が低下する傾向にあり,結果として,硬化性樹脂組成物の熱硬化反応性が低下したり,溶融させて流動状態として成形するときの加工特性が低下する場合がある。 【0032】 また,上記エポキシ樹脂の数平均分子量は,700?5000であることが好ましい。数平均分子量が700未満である場合,エポキシ樹脂におけるシロキサンユニットの重量比が低下し,耐熱性,耐着色性が十分に得られなくなる傾向にある。一方,数平均分子量が5000を超える場合,硬化性樹脂組成物の溶融粘度が増加し,溶融させて流動状態として成形するときの加工特性が低下する場合がある。」 ・「【実施例】 【0089】 以下,実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し,本発明はこれら実施例に限定されるものではない。 【0090】 <光反射用熱硬化性樹脂組成物の調製> (実施例1?5及び比較例1?6) 実施例1?4及び比較例1?2については,表1及び表2に示す配合割合(質量部)に従って,各成分を配合し,ミキサーによって十分に混練分散した後,ミキシングロールにより35℃で15分溶融混練することによって混練物を得た。次に,得られた混練物を冷却し,それらを粉砕することによって,白色固体状の光反射用熱硬化性樹脂組成物をそれぞれ調製した。 【0091】 実施例5及び比較例3?6については,表1及び表2に示す配合割合(質量部)に従って,各成分を配合し,自転公転式攪拌混合機を使用して回転数2000rpmで2分間混合することにより,ペースト状の光反射用熱硬化性樹脂組成物をそれぞれ調製した。 【0092】 なお,各表に示した各原料の配合量の単位は全て質量部であり,「-」の記載部分は該当する原料の配合がないことを意味している。 【0093】 表1及び2中,*1?15の詳細は以下のとおりである。*1?9の,ポキシ当量,溶融粘度,軟化点(融点),及び数平均分子量については表1及び2中に示す。 【0094】 *1:エポキシシリコーンA *2:エポキシシリコーンB *3:エポキシシリコーンC *4:エポキシシリコーンD *5:トリスグリシジルイソシアヌレート(日産化学社製,商品名:TEPIC-S) *6:3,4-エポキシシクロヘキセニルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(ダイセル化学社製,商品名:セロキサイド2021P) *7:ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル(阪本薬品社製,商品名:SR-HHPA) *8:エポキシシリコーン(信越化学社製,商品名:KF101) *9:エポキシシリコーン(信越化学社製,商品名:KF105) *10:メチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業社製) *11:ヘキサヒドロ無水フタル酸(和光純薬工業社製) *12:テトラ-n-ブチルホスホニウム-o,o-ジエチルホスホロジチエート(日本化学工業社製,商品名:PX-4ET) *13:溶融シリカ(電気化学工業社製,商品名:FB-950) *14:溶融シリカ(アドマテックス社製,商品名:SO-25R) *15:酸化チタン(堺化学工業社製,商品名:FTR-700)」 ここで,表1及び表2は以下のものである。 【表1】 【表2】 (2)本願明細書の発明の詳細な説明の記載が,請求項1に係る発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分になされているか否か(いわゆる実施可能要件)について 上記(1)に摘記したとおり,本願発明は,本願明細書の段落【0008】(以下においては,「本願明細書の段落【○○○○】」を,単に「段落【○○○○】」と略記する。)に記載された,「十分な光反射率及び成形加工性を有し,しかも耐熱着色性に優れた光反射用熱硬化性樹脂組成物,それを用いた光半導体素子搭載用基板およびその製造方法,並びに,光半導体装置を提供する」という課題を解決しようとするものであって,段落【0025】には,「発明の効果」として上記課題が解決される旨の記載がある。 そして,前記3に記載したとおり,本願発明は「凹部の内周側面の少なくとも一部が,エポキシ樹脂,硬化剤,及び白色顔料を含み,前記エポキシ樹脂として,前記硬化剤と互いに相溶であり,エポキシ基が150?350g/eq且つ数平均分子量が700?5000である,ポリオルガノシロキサン骨格と2つ以上のエポキシ基とを有する化合物を少なくとも含む光反射用熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる」との構成を備えるものであるところ,段落【0030】?【0032】には,エポキシ樹脂について,エポキシ当量は150?350g/eqであることが好ましく,数平均分子量が700?5000であることが好ましいとの記載があり,当該数値範囲内外における材料特性の変化「傾向」について,一般化した記載がなされている。 一方,段落【0089】?【0104】に記載された実施例においては,「実施例1」ないし「実施例5」において用いられた「エポキシ樹脂」である「エポキシシリコーンA」ないし「エポキシシリコーンD」について,「【0093】 表1及び2中,*1?15の詳細は以下のとおりである。*1?9の,ポキシ当量,溶融粘度,軟化点(融点),及び数平均分子量については表1及び2中に示す。 【0094】 *1:エポキシシリコーンA *2:エポキシシリコーンB *3:エポキシシリコーンC *4:エポキシシリコーンD ・・・(以下略)」 と記載されているにもかかわらず,前記表1及び表2においては,該当するエポキシ当量,溶融粘度,軟化点(融点),及び数平均分子量の欄は空欄となっており,不明である。 ここで,実施例1ないし5については具体的な特性データが示されているから,「エポキシシリコーンA」ないし「エポキシシリコーンD」が,エポキシ当量,溶融粘度,軟化点(融点),及び数平均分子量について具体的な数値を有していることは当然であり,当該各数値は,上記各実施例を通じて具体的に得られた各データを,課題解決との関連において把握するために必須のものといえる。 しかしながら,本願明細書においては,実施例に係る「エポキシシリコーンA」ないし「エポキシシリコーンD」について,エポキシ当量,溶融粘度,軟化点(融点),及び数平均分子量についての具体的な数値が不明であるから,本願発明が解決しようとする課題と,本願発明に係る「エポキシ樹脂」に係る各数値範囲との関連を理解するために必要な事項が記載されていないといわざるを得ない。 また,本願発明に係る「エポキシ樹脂」に係る各数値範囲と,当該数値範囲内外における材料特性の変化「傾向」については,段落【0030】?【0032】に一般化した記載がなされているが,ここに記載された内容がすべて技術常識であると認めることはできず,上記のとおり,具体的な実施例におけるデータが示されていないので,当該各記載は裏付けを欠くものであって,出願時の技術常識に照らしても,当業者が,現実に当該各記載のとおりであると理解できるものとはいえない。 よって,本願明細書の記載は,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 (3)本件補正後の特許請求の範囲の記載と本願明細書の発明の詳細な説明の欄の記載との整合(いわゆるサポート要件)について 前記3に記載したとおり,本願特許請求の範囲には「前記エポキシ樹脂として,前記硬化剤と互いに相溶であり,エポキシ基が150?350g/eq且つ数平均分子量が700?5000である,ポリオルガノシロキサン骨格と2つ以上のエポキシ基とを有する化合物を少なくとも含む光反射用熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる」との構成を備えることが記載されているところ,上記(2)において指摘したとおり,本願明細書には,実施例に関し,本願発明が解決しようとする課題と,本願発明に係る「エポキシ樹脂」に係る各数値範囲との関連を理解するために必要な事項が記載されておらず,また,段落【0030】?【0032】における,本願発明に係る「エポキシ樹脂」についての各数値範囲と,当該数値範囲内外における材料特性の変化「傾向」の一般化した記載は,具体的な実施例におけるデータが示されておらず,当該各記載は裏付けを欠くものであり,出願時の技術常識に照らしても,当業者が,現実に当該各記載のとおりであると理解できるとはいえないものである。 それゆえ,本願明細書には,本願特許請求の範囲に係る,「エポキシ樹脂として,前記硬化剤と互いに相溶であり,エポキシ基が150?350g/eq且つ数平均分子量が700?5000である,ポリオルガノシロキサン骨格と2つ以上のエポキシ基とを有する化合物を少なくとも含む光反射用熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる」構成を備える発明が,実質的に開示されているとはいえない。 よって,本願特許請求の範囲に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない。 (4)小括 以上のとおりであるから,本願は,特許法第36条第4項第1号,および第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 5 むすび したがって,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-03-17 |
結審通知日 | 2016-03-22 |
審決日 | 2016-04-05 |
出願番号 | 特願2014-78735(P2014-78735) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
Z
(H01L)
P 1 8・ 537- Z (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小濱 健太 |
特許庁審判長 |
小松 徹三 |
特許庁審判官 |
近藤 幸浩 河原 英雄 |
発明の名称 | 光反射用熱硬化性樹脂組成物、これを用いた光半導体素子搭載用基板及びその製造方法、並びに光半導体装置 |
代理人 | 城戸 博兒 |
代理人 | 古下 智也 |
代理人 | 池田 正人 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |