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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1314891
審判番号 不服2015-4271  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-04 
確定日 2016-06-07 
事件の表示 特願2012-531253「空間的な色分離による可変フィルタリングを用いたスペクトル検出器又はレーザ走査顕微鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月 7日国際公開、WO2011/038816、平成25年 2月21日国内公表、特表2013-506162、請求項の数(35)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年)8月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年(平成21年)9月30日、独国)を国際出願日とする出願であって、平成26年3月26日付けで拒絶の理由が通知され、同年10月3日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出され、同年10月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年3月4日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成27年3月4日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)の適否
1 補正の内容
本件補正は、特許請求の範囲についてするものであって、平成26年10月3日になされた手続補正によって補正された本件補正前の請求項1に、
「検出光路と、少なくとも1つの第1の結像光学系とを備えるスペクトル検出器であって、前記第1の結像光学系が、プローブ光をスペクトル分散する分散エレメントを含み、該分散エレメントによりスペクトル分散されたプローブ光をフーリエ面に結像し、それにより、前記フーリエ面で、前記プローブ光の個々のスペクトル成分が空間的に互いに分離され、前記フーリエ面にはマイクロミラーアレイが設けられ、該マイクロミラーアレイのマイクロミラーの制御により、前記検出器に達する検出器光線の有用光成分と、不用光成分とを選択しながら、検出光線のスペクトル選択性偏向が行われる、スペクトル検出器において、
前記第1の結像光学系と前記マイクロミラーアレイの間に、又は前記マイクロミラーアレイの前にTIRプリズムが提供され、前記TIRプリズムが、前記マイクロミラーアレイの方向に検出光を反射し、スペクトル選択後に有用光成分を検出方向に伝送し、不用光成分を非検出方向に伝送することを特徴とする、スペクトル検出器。」とあったものを、

「検出光路と、少なくとも1つの第1の結像光学系とを備えるスペクトル検出器であって、前記第1の結像光学系が、プローブ光をスペクトル分散する分散エレメントを含み、該分散エレメントによりスペクトル分散されたプローブ光を前記プローブ光の個々のスペクトル成分が空間的に互いに分離されるフーリエ面に結像し、前記フーリエ面にはマイクロミラーアレイが設けられ、該マイクロミラーアレイのマイクロミラーの制御により、前記検出器に達する検出器光線の有用光成分と、不用光成分とを同時に選択しながら、検出光線のスペクトル選択性偏向が行われる、スペクトル検出器において、
前記第1の結像光学系と前記マイクロミラーアレイの間に、又は前記マイクロミラーアレイの前にTIRプリズムが提供され、前記TIRプリズムが、遮断すべき不用光成分の光路が、前記マイクロミラーアレイの下流に配置された集光光学系の有効径によって捕捉されないように、前記マイクロミラーアレイの方向に検出光を反射し、前記マイクロミラーアレイによって生成された有用光成分と不用光成分との間の角度差を拡大して、スペクトル選択後に有用光成分を検出方向に伝送し、有用光成分の伝送と同時に不用光成分を非検出方向に伝送することを特徴とする、スペクトル検出器。」
とする補正(以下、「補正事項1」という。)を含むものである(下線は審決で付した。以下同じ。)。

2 補正の適否
(1)本件補正の補正事項1について
本件補正の補正事項1は、以下ア?ウとするものである。
ア 本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「フーリエ面」について、「プローブ光の個々のスペクトル成分が空間的に互いに分離される」とすることで、「フーリエ面」について明瞭でない記載の釈明をするものである。
イ 本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「TIRプリズム」について、「遮断すべき不用光成分の光路が、前記マイクロミラーアレイの下流に配置された集光光学系の有効径によって捕捉されないように」するとともに「マイクロミラーアレイによって生成された有用光成分と不用光成分との間の角度差を拡大」するとの限定を付加するものである。
ウ 本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「不要光成分」の被検出方向への伝送時期について、「有用光成分の伝送と同時に」との限定を付加するものである。
エ 本件補正の補正事項1のうち、アは特許法第17条の2第5項第4号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、補正事項1のうち、イ及びウは補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「補正発明」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

(2)補正発明の特許法第29条2項についての検討
ア 刊行物の記載事項
(ア)本願の優先権主張の日(以下、「優先日」という。)前に頒布され原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された刊行物である特開2000-314839号公報(以下、「引用例1」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
a 「【請求項1】レーザ走査型顕微鏡において、標本に照射されるべきレーザ光を射出して該標本から異なる波長域の蛍光を発生させるためのレーザ光源と、標本からの蛍光を検出する光検出装置と、標本と前記光検出装置との間に配置されていて標本からの光を空間的にスペクトル分解するスペクトル分解部材と、該スペクトル分解部材と前記光検出装置との間に配置されていて前記スペクトル分解部材によりスペクトル分解された光を受ける夫々が偏向角度を変え得る複数の微小光偏向素子で構成された微小光偏向素子アレイと、前記光検出装置からの出力をサンプリングし得る出力信号処理装置とを備え、前記微小光偏向素子アレイの少なくとも二つの微小光偏向素子により偏向された光を前記光検出装置に所定の時間差を以て入射させ、前記光検出装置からの出力を前記出力信号処理装置により前記時間差を以てサンプリングするようにしたことを特徴とするレーザ走査型顕微鏡。」
b 「【0006】しかしながら、光学フィルタを用いる上記従来の蛍光用レーザ走査型顕微鏡は下記の如き問題点を有する。即ち、1)光学フィルタは、製造上の制限から自在にその分光特性を決定することができないので、蛍光光量やS/Nに限界がある。特に、吸収フィルタでは励起光を完全に遮断する必要があるが、励起波長近傍の最も蛍光強度が強い波長領域の蛍光を光量損失なしに透過させるように設計し製造することは不可能であること、2)励起波長、蛍光色素毎に専用の高価な光学フィルタを用意せねばならず、様々な多重励起を想定した場合はフィルタ枚数の膨大化、装置構成の複雑化及び大型化が避けられないこと、3)図9から明らかなように、蛍光用レーザ走査型顕微鏡では、多重蛍光の分光は複数の光学フィルタを介して行われるため、蛍光が光検出器に到達するまでに相当の光量損失があること、等である。」
c 「【0012】本発明は、従来の技術の有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、光学フィルタや高度な位置再現精度を要する機械駆動部を必要とせず、励起波長や蛍光色素の様々な組み合わせに対しても装置構成の変更を必要としない、多重染色された標本の多重励起蛍光像を蛍光の数だけ光検出器を用いずに高いS/Nをもって得ることの出来る、簡易な構成のレーザ走査型顕微鏡を提供しようとするものである。」
d 「【0019】
・・・略・・・
図1は本発明に係るレーザ走査型顕微鏡の第1実施例を示す図である。図中、14は波長488nmと568nmと647nmの光を同時発振するマルチラインKr-Arレーザから成る光源、15は波長351nmの光を発振するArレーザから成る光源、16はレーザラインフィルタ、17はファイバカップリングレンズ、18はシングルモードファイバ、19はビームコリメートレンズ、20はダイクロイックミラー、21はコリメートレンズ、22はスペクトル分解部材であるプリズム、23は集光レンズ、24は多数の微小ミラー25で構成されるミラーアレイ(微小光偏向素子アレイ)、26は光検出装置、27は光トラップ、28はコントローラー、29はメモリー部、30は入力部、31は出力信号処理装置である。
・・・略・・・
【0021】かくして、レーザ光の照射により励起された標本8からの蛍光は、対物レンズ7からダイクロイックミラー4に至る経路を戻り、ダイクロイックミラー4を透過して結像レンズ10で集光され、共焦点絞り11を通過する。共焦点絞り11を通りコリメートレンズ21で平行光にされた蛍光光束は、プリズム22によってその波長情報が出射角度の差異に変換され、更に集光レンズ23を経てミラーアレイ24上に結像される。この時、プリズム22からの出射角度の差異に変換された波長情報は、ミラーアレイ24上の位置情報に置換され、微小ミラー素子25の位置がそのまま波長に対応せしめられるようになる。この場合、プリズム22の代わりに、グレーティング,音響光学素子,ホログラフィック素子など他のスペクトル分解素子が用いられても良い。また、集光レンズ23は、シリンドリカルレンズ等スペクトル分解方向にパワーを有するどのような光学系により置換されても良い。
【0022】微小ミラー素子25は、各々がそこに入射した光束を検出装置26へ向けて反射する偏向角と光トラップ27へ向けて反射する偏向角とを選択することができ、その角度選択は入力部30から出力信号処理装置31を経てコントローラ28からの電気信号で一素子単位で行うことが出来る。また、入力部30を介してレーザや蛍光色素に対する何らかの入力を行うと、コントローラ28がメモリー部29に記憶されている各微小ミラー素子25の角度状態を呼び出し、何時でも最適な測定状態を再現することが出来るようになっている。反対に、微小ミラー素子25の角度状態をメモリー部29へ記憶させることも出来る。
【0023】以下、多重化された蛍光の分光作用について説明する。先ず、総ての波長に対応する微小ミラー素子25が、入力光を光トラップ27へ向けて反射するようにセットされる。そして、第一の蛍光波長に対応する微小ミラー素子がその蛍光を検出装置26へ向けて反射するように制御される。これにより、光検出装置26からの信号を出力信号処理装置31がサンプリングし、第一の蛍光の強度が検出され、検出された信号を受け、コントローラ28によりその微小ミラー素子は、入射光を光トラップ27へ向けて反射させるか、又はメモリー29に記録された一定時間だけその微小ミラー素子は入射光を光検出装置26へ向けて反射させ、その後再び入射光を光トラップ27へ向けて反射させる。その後、第二の蛍光波長に対応する微小ミラー素子が同様の動作を行い、第二の蛍光の強度がサンプリングされる。この繰り返しにより、観察される総ての蛍光波長の強度が検出される。
・・・略・・・
【0026】図3はミラーアレイ24における微小ミラー素子25の配置を示している。図3(a)において、微小ミラー素子25e,25f,25g,25hは夫々351nm,488nm,568nm,647nmのレーザ波長に対応していて、入射光を光トラップ27へ偏向させる向きに配置されている。微小ミラー素子25a,25b,25c,25dは夫々波長351nm,488nm,568nm,647nmで励起された蛍光波長域に対応し、入射光を光検出装置26へ入射させるように偏向させる向きと、光検出装置26から外れるように偏向させる向きとに切り替えられるようになっている。標本8は、四種類の波長の光で同時に励起されると、四つの異なった波長域の蛍光を発する。今、ミラーアレイ24は微小ミラー素子25aの領域に入射する光のみを光検出装置26へ向かわせるような状態にあるものとすると、波長351nmの励起光で励起される色素の蛍光のみが検出装置26により検出される。一定時間経過後ミラーアレイ24の微小ミラー素子の向きが変わって微小ミラー素子25bの領域に入射する光のみを光検出装置26へ向かわせるようにすると、波長488nmの励起光で励起される色素の蛍光のみが光検出装置26により検出されるようになる。同様にして、波長568nm及び647nmの励起光で夫々励起される色素の蛍光が光検出装置26により順次検出される。従って、この一連の動作が一画素を走査するのに要する時間内で完了するように設定しておけば、標本8を複数波長のレーザビームで走査することにより四重染色蛍光画像を得ることが出来る。
・・・略・・・
【0028】同様に、レーザ光源自体が変更された場合でも、入射した光束を光検出装置26へ向けて反射させたり、光トラップ27に向けて反射させたりする微小ミラー素子を、どのミラー素子にするか適当に選択することにより対応することが出来る。このように、励起波長と蛍光色素の様々な組み合わせに対し常に最適な分光が行えるのは、各微小ミラー素子の向きを任意に制御して、各蛍光毎に光検出装置26に入射している時に必ずサンプリングがなされるからである。このように、本実施例によれば、光学フィルタを使用することなく、また高度な位置再現精度を要する機械駆動部を必要としない簡易な構成で、更に、励起波長や蛍光色素の様々な組み合わせに対しても、装置構成を変更することなしに多重染色された標本の多重励起蛍光像を高いS/Nをもって得ることが出来る。また、本実施例によれば、標本から発生した蛍光と標本面で反射したレーザ光源からの光を空間的にスペクトル分解した後、スペクトル分解された光を微小の波長幅毎に時間差をもって光検出装置へ導き、多重染色された標本の蛍光波長域に応じてサンプリングする時刻を少しずつ変えることによって、検出したい蛍光毎に光検出装置を設けることなく、単一の光検出装置で多種類の多重励起蛍光を分光し検出することが出来る。また、微小ミラー素子の光偏向角度をステップ状に変化させること以外に機械的駆動部を必要とせず、検出したい蛍光波長が変わっても装置の変更や部品の入れ替えも不要である。また、微小ミラー素子の光偏向角度は電気的デジタル信号で制御可能であるから、装置自体に高い精度も複雑な構成も必要としない。また、レーザ光源は連続発振でもパルス発振でも構わない。また、前述の時間差を十分小さくすることにより夫々の蛍光を殆ど同時に検出することができる。」
e 「【図1】

【図8】


f 上記dの【0022】【0023】【0026】【0028】からみて、先ず、レーザ光の照射により励起された標本8からの蛍光の総ての波長に対応する微小ミラー素子25が、蛍光を光トラップ27へ向けて反射するようにセットされた後、第一の蛍光波長に対応する微小ミラー素子が一素子単位で、第一の蛍光波長に対応した入力光を検出装置26へ向けて反射しており、このとき第一の蛍光波長に対応する微小ミラー素子以外の微小ミラー素子は、第一の蛍光波長に対応する蛍光以外の蛍光を含んだ入力光を依然として光トラップに向けて反射するようにセットされていることは明らかであるから、制御微小光偏向素子アレイは、入射した蛍光を、検出装置及び光トラップに向けて同時に反射させるものである。
g 上記aないしfから、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「標本からの蛍光を検出する光検出装置を有するレーザ走査型顕微鏡において、
標本と前記光検出装置との間に配置されていて標本からの光を空間的にスペクトル分解するスペクトル分解部材と、
スペクトル分解部材によりスペクトル分解された光を受ける夫々が偏向角度を変え得る複数の微小光偏向素子で構成された微小光偏向素子アレイとを有し、
スペクトル分解部材によりスペクトル分解された光は集光レンズを経て微小光偏向素子アレイ上に結像し、
微小光偏向素子は、各々がそこに入射した光束を検出装置へ向けて反射する偏向角と光トラップへ向けて反射する偏向角とを選択することができ、
入射した光束を検出装置と光トラップに同時に反射させる、
レーザー走査型顕微鏡。」

(イ) 本願の優先日前に頒布され原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された刊行物である特開2002-6257号公報(以下、「引用例2」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
a 「【請求項1】光源からの光を照明光学系でTIRプリズムに導き、そのTIRプリズムで全反射した光をDMDで反射させる事により光変調を行い、その光変調後に前記TIRプリズムを透過した光を投影光学系で被投影面上に投影する投影システムであって、
前記照明光学系が前記光源からの光を平滑化する機能を備え、
前記TIRプリズムが、前記照明光学系から射出した光を全反射させる第1プリズムと、前記DMDでの光変調後に前記第1プリズムを透過した光を透過させる第2プリズムと、から成り、
以下の条件式を満足する事を特徴とする投影システム;・・・略・・・」
b 「【0006】図14,図15は、上記DMDを備えた投影システムの第2従来例の要部を示す光学構成図である。図14はDMD2のマイクロミラーがON状態のときの投影光の光路を示しており、図15はDMD2のマイクロミラーがOFF状態のときの投影光の光路を示している。この投影システムは、第1プリズムPR1と第2プリズムPR2から成るTIR(Total Internal Refrection)プリズムPRを備えている。ここで、PLは投影光学系であり、AXは光軸である。
【0007】DMD2のミラー回転角、つまりDMD2を構成しているマイクロミラーの回転角が±10゜の場合、TIRプリズムPRを用いる事により、完全テレセントリックの構成でFナンバーを最大の3.0にする事ができる。従って、光の利用効率が高くなって、明るい投影画像を得る事ができる。
【0008】図16,図17は、上記DMDを備えた投影システムの第3従来例の要部を示す光学構成図である。図16はDMD2のマイクロミラーがON状態のときの投影光の光路を示しており、図17はDMD2のマイクロミラーがOFF状態のときの投影光の光路を示している。第3従来例は、上述した第2従来例よりも投影光学系PLのバック長が長く確保された構成をとっている。このため、OFF状態のマイクロミラーで反射された投影光学系PL寄りの光が、投影光学系PL内に入射するのを回避する事ができる。
【0009】【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記第1従来例の構成では、投影光学系PLの光路と照明光学系ILの光路とを分離するために、フルシフトの像円径が必要になる。つまり図13(A)に示すように、イメージサークル3のうちの極一部しかDMD2の配置に使用する事ができない。このため、広い画角が必要とされるリアプロジェクション方式の投影システムにおいては、投影光学系PLの低コスト化が困難になる。また、投影光学系PLと照明光学系ILとの干渉を避けるためには、投影光学系PLの後ろ絞り化やDカットレンズの使用が必要になるが、図13(B)に示すように、照明光学系ILにDカットレンズを用いると、照度分布を一様にするのが困難になる。
【0010】また、上記第2従来例のようにDMD2から投影光学系PLまでの距離が短い1チップタイプの投影システムでは、図15に示すようにOFF状態のマイクロミラーで反射された光のうち、投影光学系PL寄りの反射光と、第2プリズムPR2の側面で内面反射された光とが、投影光学系PL内に入射してしまう。これらの反射光はゴースト光になり、コントラスト低下の原因となる。またDMD2側にテレセントリックな構成では、テレセントリック側の正レンズに対して光線が高い位置で入射するため、倍率色収差を小さくする事が困難になる。
【0011】 また、上記図16,図17に示した第3従来例では、投影光学系PLのレンズバック長が長く確保された構成をとっているため、投影光学系PLが大型化して低コスト化が困難になり、倍率色収差も悪化してしまう。そして、図17に示すように、OFF状態のマイクロミラーで反射された光のうち、投影光学系PL寄りの反射光は投影光学系PL外へと射出するが、第2プリズムPR2の側面で内面反射された光は投影光学系PL内に入射してしまう。このような反射光はゴースト光になり、コントラスト低下の原因となる。
【0012】特開平8-251520号公報で提案されているビデオプロジェクターでは、これらの問題を解決するために、OFF状態のマイクロミラーで反射された光を光源に戻す構成を採用している。しかし、照明光学系と投影光学系との共有部分があるため、その共有部分の面間ゴーストによるコントラストの低下は避けられない。
【0013】また、デジタルテレビ用の投影システムとしては、コントラストアップ、投影光学系のコンパクト化,低コスト化や、倍率色収差の充分な補正が要求される。特に最近では、いわゆるデジタル放送の立ち上げ時期が近づくにつれて、小型,低コストで高性能な背面投影型デジタルテレビ用光学系の需要が高まってきている。また背面投影デジタルテレビとしては、装置全体の薄型化や小型化が要求されている。さらに、投影画像に対しては、高コントラスト,高解像力,及び低歪曲収差等の性能が要求されている。
【0014】装置全体の薄型化は、投影光学系の広角化によって達成されるが、広角化と高性能化を同時に達成しようとした場合、一般的にはレンズ枚数,レンズ全長,及びレンズ径等が増大し、コストアップが避けられなくなる。特にこの影響は、広角化つまり短焦点化にもかかわらず長いレンズバックを必要とする光学系において顕著となる。加えてDMD側にテレセントリック性を要求されると、その困難さは著しく増大する。
【0015】1チップDMD用投影システムにおいて広角化が要求される場合、一般的には大きなTIRプリズムとテレセントリック性が必要である。具体的には、画角2ω=80゜程度の投影光学系において、レンズバック長が空気換算で2f?3f程度(fは焦点距離)必要とされている。この事が、小型,低コストで高性能な背面投影型デジタルテレビ用光学系の実現を阻んでいた。
【0016】本発明は、このような問題点に鑑み、投影光学系の小型化,広角化が達成可能で、しかも高いコントラストの投影画像が得られる高性能の投影システムを提供する事を目的とする。

c 「【0024】図1,図2は、本発明の投影システムの一実施形態を示す光学構成図である。図1はDMD2のマイクロミラーがON状態のときの投影光の光路を示しており、図2はDMD2のマイクロミラーがOFF状態のときの投影光の光路を示している。本実施形態は、光源5,照明光学系IL,TIRプリズムPR,DMD2,及び投影光学系PLを備えた、主としてデジタルテレビ用の投影システムである。」
d 「【0029】TIRプリズムPRは、第1プリズムPR1と第2プリズムPR2とから成っており、各プリズム間に微小なエアギャップがもうけてある。このTIRプリズムPRによって、DMD2に対する入力光と出力光との分離が行われる。第1プリズムPR1は、照明光学系ILから射出した光を全反射面PR1aで全反射させる。そして、第1プリズムPR1で全反射した光はDMD2を照明し、その照明光がDMD2での反射により光変調される。
【0030】第2プリズムPR2は、DMD2での光変調後に第1プリズムPR1を透過した光を透過させる。このようにしてDMD2による光変調後にTIRプリズムPRを透過した光は、複数のレンズ等から成る投影光学系PLによって、図示しない被投影面上に投影される。但し、投影光学系PLに入射して投影されるのは、後述するON状態のマイクロミラーMで反射された光のみである。ここで、投影光学系PLのレンズ等は、部分的に図示を省略している。なお、本実施形態での被投影面(不図示)はスクリーン面に相当する。」
e 「【0032】図3,図4は、本発明の投影システムにおけるDMD近傍の光路を示す光学構成図であり、これによりDMDによる光変調を詳しく説明する。図3はDMD2のマイクロミラーMがON状態のときの光路を示しており、図4はDMD2のマイクロミラーMがOFF状態のときの光路を示している。DMD2は、多数のマイクロミラーMがマトリックス状に配置された表示面を有しており、そのマイクロミラーM1枚で表示画像の1画素(例えば16μmピッチ)を構成する。
【0033】光変調のために、各マイクロミラーMの傾きは、例えばミラー回転角±10゜の傾斜で個別に駆動制御される構成になっており、各マイクロミラーMは、図3に示すON状態と図4に示すOFF状態との2つの傾き状態をとり得るようになっている。ON状態のマイクロミラーMでは、照明光が投影光学系PL内に向けて反射される。この反射光を以下「ON光」とも言う。また、OFF状態のマイクロミラーMでは、照明光が投影光学系PL外に向けて反射される。この反射光を以下「OFF光」とも言う。
【0034】従って、ON状態のマイクロミラーMで反射されたON光のみが投影光学系PLによって被投影面上に到達し、その結果、明暗のパターンから成る表示画像が被投影面上に形成される。OFF光は被投影面上での画像形成には必要ない不要光であり、このOFF光が投影光学系PL内に入射してしまうと、上述したようにコントラストの低下を招いてしまう。本発明の実施形態では、照明光学系ILと投影光学系PLとの間での光の伝達を非テレセントリック状態で行う事により、OFF光、特に投影光学系PL寄りのOFF光が、投影光学系PL内に入射するのを防ぎ、また投影光学系PLの収差補正の負担を軽くしている。」
f 「【図1】

【図2】


g 上記dの【0029】【0030】、上記eの【0034】、上記fの【図1】【図2】からみて、TIRプリズムはマイクロミラーMで反射されたON光とOFF光との間の角度を拡大しているものである。
h 上記aないしgからみて、引用例2には、次の技術(以下、「引用例2の記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「光を投影光学系で被投影面上に投影する投影システムであって、
照明光学系ILから射出した光を全反射面PR1aで全反射させることで、マイクロミラーMを有するDMDを照明し、
個々のマイクロミラーMは投影光学系PLに向けて反射されるON光と、投影光学系PL外に向けて反射されるOFF光とを選択的に反射し、
TIRプリズムが、個々のマイクロミラーMで反射されたON光とOFF光との間の角度を拡大する技術。」

(ウ) 本願の優先日前に頒布され原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された刊行物である特開2008-286584号公報(以下、「引用例3」という。)」には、次の事項が図とともに記載されている。
a 「【0044】分光測定部60は、ピンホールミラー32を通過した測定反射光のスペクトルを測定し、その測定結果をデータ処理部70へ出力する。より詳細には、分光測定部60は、回折格子(グレーティング)62と、検出部64と、カットフィルタ66と、シャッタ68とを含む。
【0045】カットフィルタ66と、シャッタ68と、回折格子62とは、光軸AX1上に配置される。カットフィルタ66は、ピンホールを通過して分光測定部60に入射する測定反射光に含まれる測定範囲外の波長成分を制限するための光学フィルタであり、特に測定範囲外の波長成分を遮断する。シャッタ68は、検出部64をリセットするときなどに、検出部64に入射する光を遮断するために使用される。シャッタ68は、代表的に電磁力によって駆動する機械式のシャッタからなる。
【0046】回折格子62は、入射する測定反射光を分光した上で、各分光波を検出部64へ導く。具体的には、回折格子62は、反射型の回折格子であり、所定の波長間隔毎の回折波が対応する各方向に反射するように構成される。このような構成を有する回折格子62に測定反射波が入射すると、含まれる各波長成分は対応する方向に反射されて、検出部64の所定の検出領域に入射する。回折格子62は、代表的にフラットフォーカス型球面グレーティングからなる。
【0047】検出部64は、測定反射光のスペクトルを測定するために、回折格子62で分光された測定反射光に含まれる各波長成分の光強度に応じた電気信号を出力する。検出部64は、代表的にフォトダイオードなどの検出素子をアレイ状に配置したフォトダイオードアレイや、マトリックス状に配置されたCCD(Charged Coupled Device)などからなる。」
b 「【図1】


c 上記bの【図1】からみて、引用例3の回折格子62は凹面形状を有するとともに、検出部64上で分光した測定反射光を結像させるものである。
d 上記aないしcからみて、引用例3には、次の技術(以下、「引用例3の記載事項」という。)が記載されていると認められる。
「凹面形状を有した反射型の回折格子であって、
入射する測定反射光を分光した上で、分光した反射光を結像させる技術。」

イ 対比
(ア) 補正発明と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「レーザー走査型顕微鏡」は、「標本からの蛍光を検出する光検出装置」を具備するから、引用発明の「標本と前記光検出装置との間」の光の経路は、補正発明の「検出光路」に相当する。
b 引用発明の「標本からの蛍光」は、技術常識を考慮すると、補正発明の「プローブ光」に相当する。
c 引用発明の「スペクトル分解部材」は、「標本と前記光検出装置との間に配置されていて標本からの光を空間的にスペクトル分解する」するものであるところ、補正発明の「分散エレメント」は、「プローブ光をスペクトル分解する」ものである。したがって、引用発明の「スペクトル分解部材」は、補正発明の「分散エレメント」に相当する。
d 引用発明において「スペクトル分解部材」によりスペクトル分解された光は「集光レンズ」を経て微小光偏向素子アレイ上に結像しているから、引用発明の「スペクトル分解部材」及び「集光レンズ」は、補正発明の「プローブ光をスペクトル分散する分散エレメント」を含む「第1の結像光学系」に相当する。
e 引用発明において、「スペクトル分解部材」によりスペクトル分解された光は微小光偏向素子アレイ上に結像していることから、引用発明の「微小光偏向素子アレイ」は、補正発明の「プローブ光の個々のスペクトル成分が空間的に互いに分離されるフーリエ面」に配置されていると認められる。
f 引用発明において、「スペクトル分解された光を受ける夫々が偏向角度を変え得る複数の微小光偏向素子で構成された微小光偏向素子アレイ」は、「入射した光束を検出装置と光トラップに同時に反射させる」ものであることから、引用発明の「微小光偏向素子アレイ」は、補正発明の「マイクロミラーの制御により、前記検出器に達する検出器光線の有用光成分と、不用光成分とを同時に選択しながら、検出光線のスペクトル選択性偏向」を行う「マイクロミラーアレイ」に相当する。
g 引用発明の「レーザ走査型顕微鏡」は、上記aないしfからみて、スペクトル分解された光を検出するのであるから、補正発明の「スペクトル検出器」に相当する。
h 上記aないしgから、補正発明と引用発明とは、
「検出光路と、少なくとも1つの第1の結像光学系とを備えるスペクトル検出器であって、前記第1の結像光学系が、プローブ光をスペクトル分散する分散エレメントを含み、該分散エレメントによりスペクトル分散されたプローブ光を前記プローブ光の個々のスペクトル成分が空間的に互いに分離されるフーリエ面に結像し、前記フーリエ面にはマイクロミラーアレイが設けられ、該マイクロミラーアレイのマイクロミラーの制御により、前記検出器に達する検出器光線の有用光成分と、不用光成分とを同時に選択しながら、検出光線のスペクトル選択性偏向が行われる、スペクトル検出器」である点で一致し、次の点で相違する。

相違点:
補正発明では、「前記第1の結像光学系と前記マイクロミラーアレイの間に、又は前記マイクロミラーアレイの前にTIRプリズムが提供され、前記TIRプリズムが、遮断すべき不用光成分の光路が、前記マイクロミラーアレイの下流に配置された集光光学系の有効径によって捕捉されないように、前記マイクロミラーアレイの方向に検出光を反射し、前記マイクロミラーアレイによって生成された有用光成分と不用光成分との間の角度差を拡大して、スペクトル選択後に有用光成分を検出方向に伝送し、有用光成分の伝送と同時に不用光成分を非検出方向に伝送する」ているのに対して、
引用発明は、TIRプリズムを有していない点。

ウ 判断
(ア) 上記相違点について検討する。
a 上記ア(イ)のfにおいて認定しているように、引用例2には光を投影光学系で被投影面上に投影する投影システムの技術分野において、DMDの前にTIRプリズムを配置して、TIRプリズムが、個々のマイクロミラーMで反射されたON光とOFF光との間の角度を拡大する技術が記載されているが、当該技術は投影システムに関する技術であって、引用例1に記載されたスペクトル検出器とは、技術分野が異なる。すなわち、レーザ走査型顕微鏡の技術分野に属する当業者が、投影システムの技術分野に属する引用例2に接することはないというべきである。また、仮に、レーザー走査型顕微鏡の技術分野に属する当業者が引用例2の記載に接することがあったとしても、TIRプリズムを備えることに関する引用例2の記載は、投影システムを前提とした記載となっており(【0006】?【0016】参照。)、このような引用例2の記載内容では、当業者が、投影システムとスペクトル検出器の技術分野の違いを超えて引用例2の記載事項と引用発明を組み合わせることの知見を得ることができるとするには無理があるというべきである。
b 引用発明は、微小光偏向素子が、入射した光束を検出装置と光トラップとに向けて同時に反射するものの、微小偏向素子及び微小偏向素子アレイの前に、検出装置と光トラップとに向けて同時に反射されたそれぞれの光の角度差を拡大するTIRプリズムを配置することについて、記載ないし示唆がない。すなわち、引用例1の全体の記載を参照しても、引用例2の【0006】?【0016】に開示されているような技術的課題を把握することはできないことに加えて、引用例1の【図1】等に記載されたレーザー走査型顕微鏡の実施例を示す図が、光学配置が正確に描かれていない模式図にすぎないものであることも併せ考慮すると、当業者が引用例1の記載内容からTIRプリズムを設けることについての示唆を得ることができるとすることには、無理がある。かえって、引用例1には、【図8】のような、光トラップ27、光検出器26a、光検出器26bの3方向に光を向かわせる実施例も開示されているから、引用例1の記載に接した当業者ならば、引用発明においては、ミラーアレイ24による光の角度選択能力は十分確保されている(仮に、マイクロミラーアレイを備える光学系において、前記マイクロミラーアレイを構成する各マイクロミラーにより光学系の外に反射する光が不要光であり、当該不要光が光学系の光路内に入ることをできるだけ低減したい、不要光の影響をできるだけ低減したいという課題が周知かつ自明であるとしても、引用例1の記載内容から当該課題に導かれることはない)と理解するのが相当である。
c 引用例3にも、スペクトル検出器において、TIRプリズムを配置することについての記載ないし示唆がない。
d したがって、引用発明に、引用例2に記載されたTIRプリズムを適用する動機づけが導き出せないので、引用発明に引用例2の記載事項を適用することは、当業者が適宜なし得る事項とはいえない。
したがって、補正発明は、引用発明及び引用例2、引用例3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
e 本件補正により補正された請求項2に係る発明についても、補正発明同様にTIRプリズムを適用する技術であるので、補正発明同様に、引用発明及び引用例2、引用例3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたとはいえない。

(3)補正発明の特許法第36条についての検討
ア 原審における拒絶の理由のうち、理由B(特許法第36条)は概ね以下のものである。
「理由B.のうち、理由B-1.について
出願人は、意見書において、「請求項1-4、6、及び12において「前記第1の結像光学系が、プローブ光をスペクトル分散する分散エレメントを含み、該分散エレメントによりスペクトル分散されたプローブ光をフーリエ面に結像し」と補正し、本願の発明の詳細な説明に記載されたように、分散エレメント(結像回折格子2)によってスペクトル分散されたプローブ光が第1の結像光学系(結像回折格子2およびTIRプリズム3)によりフーリエ面(デジタルミラーデバイス(DMD)4の平面)に結像されるので、技術的な矛盾は存在しないものと思料する。と主張している。」
しかしながら、上記手続補正後の請求項1ないし4、6及び12に記載では、結局のところ、当該請求項に記載されている「フーリエ面」がどのような面に対するフーリエ面なのか依然として不明であり、また、当該請求項に記載されている前記第1の結像光学系が、プローブ光をスペクトル分散する分散エレメントを含み、該分散エレメントによりスペクトル分散されたプローブ光を結像」することと、「結像」する面が「フーリエ面」であることとは、どのような関係にあり、また、技術的にどのようなことを特定しようとしているのか依然として不明である。
そうすると、理由B-1.で指摘の理由は、依然として解消しておらず、出願人の当該理由に係る主張は採用できない。」
イ 請求人の主張
これに対し、請求人は平成27年3月4日付けの審判請求書【請求の理由】において以下のように反論している。
「 (d)記載不備の指摘事項に対する対処
手続補正後の請求項1ないし4、6及び12に記載では、結局のところ、当該請求項に記載されている「フーリエ面」がどのような面に対するフーリエ面なのか依然として不明であるとの指摘を受け、請求項1ないし4、6及び12における「該分散エレメントによりスペクトル分散されたプローブ光をフーリエ面に結像し、それにより、前記フーリエ面で、前記プローブ光の個々のスペクトル成分が空間的に互いに分離され、」の記載を「該分散エレメントによりスペクトル分散されたプローブ光を前記プローブ光の個々のスペクトル成分が空間的に互いに分離されるフーリエ面に結像し、」と補正した。この補正により、フーリエ面が分散エレメントによりスペクトル分散されたプローブ光の個々のスペクトル成分が空間的に互いに分離されて結像される面であることが明確となり、請求項1ないし4、6及び12に係る発明は明確であるものと思料する。」
ウ 当審の判断
上記アの拒絶理由に関し、本願の願書に最初に添付された特許請求の範囲及び明細書の関連する記載事項を摘記すると以下のとおりである。
(ア)「【0023】
図1:
ピンホール又はファイバ端部1からの多色光が、ミラーによって偏向された後に、結像回折格子2によってスペクトル分解され、TIRプリズム3を通ってDMD4に結像される。
【0024】
TIRプリズムは、好ましくは、空気ギャップを有して接着された2つの個別のプリズムからなる。実質的に垂直な光はプリズム間の境界面を通り抜けるが、斜めの光は(対応する角度で)全反射される。
【0025】
プリズム3の前の視野レンズ5が、個々の単色光束のメインビームを平行に揃え、それによりDMD4の平面での入射角を同じにする。
DMD4の個々のミラーの角度調整に対応して、所望でない波長はオフ光チャンネル6へ反射され、所望の波長はオン光チャンネル7へ反射される。オフ光6は光トラップ(図示せず)に至る。オン光7は、レンズ8によって瞳面9に集光される。」
(イ)上記(ア)の記載内容からみて補正発明の「フーリエ面」とは、分散エレメントによりスペクトル分散されたプローブ光の個々のスペクトル成分が空間的に互いに分離されて結像される面のことであると解するのが相当である。
(ウ)したがって、「フーリエ面」に関する本件補正後の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものである。

(4)本件補正のその他の補正事項について
ア 本件補正の補正事項1以外の補正事項(以下、「その他の補正事項」という。)は、以下の通りである。
イ 本件補正前の請求項2ないし4、6及び12に、上記(1)のアと同様に明瞭でない記載の釈明をするものである。
ウ 本件補正前の請求項2に、上記(1)のイと同様の限定を付加するものである。
エ 本件補正前の請求項2に、上記(1)のウと同様の限定を付加するものである。
オ 本件補正のその他の補正事項のうち、上記イは特許法第17条の2第5項第4号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。また、本件補正のその他の補正事項のうち、上記ウ及びエは補正前の請求項2に記載された発明と補正後の請求項2に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

(5)上記(1)?(4)からみて、本件補正の補正事項1及びその他の補正事項は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

本件補正のその余の補正事項についても、特許法第17条の2第3項ないし第6項に違反するところはない。

3.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1-35に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?35に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-05-24 
出願番号 特願2012-531253(P2012-531253)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
P 1 8・ 537- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 森内 正明  
特許庁審判長 鉄 豊郎
特許庁審判官 樋口 信宏
渡邉 勇
発明の名称 空間的な色分離による可変フィルタリングを用いたスペクトル検出器又はレーザ走査顕微鏡  
代理人 恩田 誠  
代理人 本田 淳  
代理人 恩田 博宣  

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