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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1314896
審判番号 不服2015-12361  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-30 
確定日 2016-06-07 
事件の表示 特願2011- 6285「負荷制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 2日出願公開、特開2012-147646、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年1月14日の出願であって、平成26年7月30日付けで拒絶理由が通知され、平成27年3月26日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年6月30日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1-8に係る発明は、出願時(平成23年1月14日)の特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「【請求項1】
第1端子と第2端子と制御端子とを有するスイッチング素子を用いたスイッチ部と、前記スイッチ部の前記制御端子に制御電圧を印加して前記スイッチ部の前記第1端子・前記第2端子間のオンオフを切り替える駆動回路とを備え、
前記駆動回路は、前記スイッチ部に前記制御電圧を印加する素子駆動部と、前記素子駆動部を制御し前記制御電圧の大きさを決定する制御部と、前記スイッチ部の両端に掛かる電圧を極間電圧として検出する極間電圧検出部とを有し、前記制御部は、前記極間電圧が高くなるほど前記制御電圧が高くなり、前記極間電圧が低くなるほど前記制御電圧が低くなるように、前記極間電圧検出部で検出された前記極間電圧の大きさに応じて前記制御電圧の大きさを変化させることを特徴とする負荷制御装置。」


第3 原査定の理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項 1
・引用文献等 1
・備考
引用文献1(段落【0006】等参照)には、「第1端子と第2端子と制御端子とを有するスイッチング素子を用いたスイッチ部と、前記スイッチ部の前記制御端子に制御電圧を印加して前記スイッチ部の前記第1端子・前記第2端子間のオンオフを切り替える駆動回路とを備え、前記駆動回路は、スイッチング素子のコレクタ電流が大きくなるほど前記制御電圧が高くなり、前記コレクタ電流が低くなるほど前記制御電圧が低くなるように、前記コレクタ電流の大きさに応じて前記制御電圧の大きさを変化させる負荷制御装置」が記載されている。
また、コレクタ電流の検出に関し、スイッチ部の両端に掛かる電圧を極間電圧として検出し、当該極間電圧からコレクタ電流を導出する構成とすることは、当業者が適宜設計し得た範囲のものである。
引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2004-015884号公報
2.特開2010-187533号公報
3.特開2006-180606号公報
4.特開2006-050776号公報
5.特表2008-547087号公報

出願人は意見書において、特に次のように主張している。『・・・(中略)・・・このように、引用文献1に存在しない上記A構成を採用し、且つ引用文献1に記載の技術的事項からは推定し得ない顕著な効果を奏する本願発明は、当業者といえども引用文献1の記載から容易に想到し得るものではありません。』
しかしながら、例えば、特開平6-201738号公報(段落[0007]を参照)、特開2001-45765号公報(段落[0012]を参照)、特開2003-8416号公報(段落[0007]を参照)に記載されているように、半導体スイッチング素子を流れる電流と極間電圧との間に関連性があることから、極間電圧を検出することによって、半導体スイッチング素子を流れる電流を求めることは、周知の技術である。
そして、引用文献1に記載された負荷制御装置において、電流検出の具体的手段に関し、上述の周知技術を採用して、極間電圧を検出する構成を備えることは、当業者が適宜設計し得た範囲のものである。
したがって、当該主張は採用できない。

第4 当審の判断
1.引用文献の記載事項と、引用発明
原査定で引用された引用文献1である特開2004-015884号公報には、図面とともに、次の記載がある。(下線は、本審決で特に着目した箇所を示す。)

(1) 段落【0006】
「【0006】
前記目的を達成するために、本発明の第1の観点によれば、本発明のスイッチング回路は、スイッチング素子と、前記スイッチング素子からの出力コレクタ電流が所定の電流値以下又は未満の場合には、前記スイッチング回路のゲート端子に所定の第1のゲート電圧を印加し、前記出力コレクタ電流が前記所定の電流値より大きい又は以上の場合には、前記スイッチング回路のゲート端子に前記第1のゲート電圧より大きい所定の第2のゲート電圧を印加するゲート電圧印加回路とを有する。
好適な一具体例としては、前記スイッチング素子は、IGBTである。」

(2) 段落【0013】-【0027】
「【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の一実施の形態について、図1?図3を参照して説明する。
図1は、IGBTを用いた3相交流インバータの、1相分のインバータ回路100を示す回路図である。
このインバータ回路100においては、基準電位VSと負荷用電源VBの間に直列に2つのIGBTQ1,Q2及びダイオードD1,D2が接続されており、これらIGBTQ1,Q2が交互にオン/オフすることにより、負荷L1へ交流電流Ioを出力する。
【0014】
IGBTQ1,Q2のゲートは、それぞれ、ゲート抵抗R1,R2を介してバッファ101,102の出力に接続されている。
バッファ101,102の電源は、電源回路103によって供給される互いに絶縁された電源VN,VPに接続されており、またバッファ101,102の入力は、制御装置110が出力する制御信号であるND、PDに、フォトカプラ108,109を介して絶縁された状態で接続されている。
これにより、制御装置110からの所定の周波数のPWM制御信号に基づいて、IGBTQ1,Q2が交互にオン/オフされて、負荷L1に対して所定の正弦波の出力電流Ioが生成される。
【0015】
電源回路103は、制御用電源VCCから絶縁した電源VN,VPを生成する回路であり、本実施の形態においてはフライバックコンバータである。すなわち、電源回路103は、トランスL2の一次側巻線の通電時に蓄えたエネルギーを、遮断時に2次側に伝達する構成であり、トランスL2の他に、逆流防止ダイオードD3,D4、平滑コンデンサC1,C2、一次側巻線への通電をオン/オフするトランジスタQ3、トランジスタQ3をPWM駆動する電源制御回路104、及び、出力電圧をモニタし電源制御回路104へ通知するためのフィードバック回路を有する。
【0016】
そのフィードバック回路は、出力電圧を分圧する抵抗R5?R7、分圧した電圧が所定の電圧以上となると電流をシンクするシャントレギュレータ105、シャントレギュレータ105がシンクする電流によってオンするフォトカプラ106、及び、フォトカプラの入力電流を制限する制限抵抗R8を有する。そして、制御装置110が出力する電流通知信号OCがハイレベル(Hレベル)の時にはフォトカプラ107がオンし、抵抗R7の両端を短絡する構成となっている。
【0017】
このような構成のインバータ回路100においては、出力電流Ioのピークを所定の電流Ith以下で動作させる場合、制御装置110は電流通知信号OCをロウレベル(Lレベル)とする。この時、フォトカプラ107はオフのため、電源回路103のシャントレギュレータ105の入力電圧VIは、式(1)のようになる
【0018】
【数1】
VI=VN×(R6+R7)/(R5+R6+R7) …(1)
【0019】
シャントレギュレータ105が出力電流をシンクし始める入力電圧をVrefとすれば、式(2)の条件を満たす時にフォトカプラ106はオンする。
【0020】
【数2】
VN×(R6+R7)/(R5+R6+R7)>Vref …(2)
【0021】
電源制御回路104は、フォトカプラ106のオン/オフに応じて、式(3)を満たすように、トランジスタQ3のオン/オフ時間を調整する。
なお、VPにはVNと同等の負荷が接続されているものとし、1次側と2次側の巻数比もVNと同一であるため、VPは常にVNと同じ電圧に保たれる。
【0022】
【数3】
VN×(R6+R7)/(R5+R6+R7)=Vref
∴ VN=Vref×{1+R5/(R6+R7)} …(3)
【0023】
一方、出力電圧Io(審決注:「出力電流Io」の誤記と認める)を大きくし、ピーク電流を所定の電流Ith以上とするときは、制御装置110は電流通知信号OCをハイレベル(Hレベル)とする。このときフォトカプラ107はオンとなるため抵抗R7の両端は短絡され、電源回路103のシャントレギュレータ105の入力電圧VIは、式(4)のようになる。
【0024】
【数4】
VI=VN×R6/(R5+R6) …(4)
【0025】
これより、シャントレギュレータ105が出力電流をシンクし始める入力電圧をVrefとすると、式(5)の条件を満たすときにフォトカプラ106がオンすることとなり、さらにこの結果、電源制御回路104は、フォトカプラ106のオン/オフに基づいて、式(6)を満たすようにトランジスタQ3のオン/オフ時間を調整することとなる。
【0026】
【数5】
VN×R6/(R5+R6)>Vref …(5)
【0027】
【数6】
VN×R6/(R5+R6)=Vref
∴ VN=Vref×{1+R5/R6} …(6)」

(3) 段落【0030】-【0032】
「【0030】
図2に、負荷L1に流れる出力電流Ioと、制御装置110が出力する電流通知信号OCの関係を示す。
また、図3に、IGBTコレクタ電流Ic-コレクタ・エミッタ間電圧Vce特性における、ゲート・エミッタ間電圧Vge依存性を示す。
図示のごとく、同じ出力コレクタ電流Icで比較した場合、Vgeが大きいほどVceが小さくなる。IGBTがオンしているときの定常損失はIc×Vceであるから、Vgeが大きいほど定常損失は小さく、Icが大きくなるほどその差は顕著になり、逆にIcが小さいときはその差は小さい。
【0031】
このように、従来の設計手法では、出力電流Ioの大小に関係なく、電源回路の出力電圧はVGHで一定であり、その結果、図3に示す曲線a-c上でIGBTを使用することになっていた。これに対して、本実施の形態の電源回路においては、出力電流Ioのピークが所定の電流値Ith以下の場合には、電源回路の出力電圧をVGHより低いVGLとし、図3に示す曲線a-b上でIGBTを使用するようにしている。
通常は、最大電流条件下での損失を前提に熱設計を行うことが多く、出力電流Ioが小さい場合には、Ic,Vceともに小さいため発生する損失も小さく、Vgeの低下に伴いVceが少々大きくなっても問題にならないことが多い。
【0032】
例えば、電気自動車やハイブリッドカー等のモータ駆動にインバータを用いる場合には、常に最大の出力電流が要求されるのではなく、運転状況に応じて最適な出力電流を制御することになる。システムによっては、最大電流で動作する割合が極めて小さいこともある。従来の構成では、出力電流の大小に関係なく駆動回路の消費電力は一定であったが、上記のような構成とすれば、出力電流が小さいときは電源回路の出力電圧を小さくするため、駆動回路の平均消費電力を抑え、制御用電源VCCを供給しているバッテリーの負担を軽減することが可能となる。」

そして、引用文献1の上記記載事項を引用文献1の関連図面である図1、図3と技術常識に照らし、下線部に着目すれば、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「スイッチング回路は、
スイッチング素子と、
前記スイッチング素子からの出力コレクタ電流が所定の電流値以下又は未満の場合には、前記スイッチング回路のゲート端子に所定の第1のゲート電圧を印加し、前記出力コレクタ電流が前記所定の電流値より大きい又は以上の場合には、前記スイッチング回路のゲート端子に前記第1のゲート電圧より大きい所定の第2のゲート電圧を印加するゲート電圧印加回路とを有し、
前記スイッチング素子は、IGBTであり、

IGBTを用いた3相交流インバータの、1相分のインバータ回路100においては、基準電位VSと負荷用電源VBの間に直列に2つのIGBTQ1,Q2及びダイオードD1,D2が接続されており、これらIGBTQ1,Q2が交互にオン/オフすることにより、負荷L1へ交流電流Ioを出力し、
IGBTQ1,Q2のゲートは、それぞれ、ゲート抵抗R1,R2を介してバッファ101,102の出力に接続され、
バッファ101,102の電源は、電源回路103によって供給される互いに絶縁された電源VN,VPに接続されており、またバッファ101,102の入力は、制御装置110が出力する制御信号であるND、PDに、フォトカプラ108,109を介して絶縁された状態で接続され、
これにより、制御装置110からの所定の周波数のPWM制御信号に基づいて、IGBTQ1,Q2が交互にオン/オフされて、負荷L1に対して所定の正弦波の出力電流Ioが生成され、

電源回路103は、制御用電源VCCから絶縁した電源VN,VPを生成する回路であり、フライバックコンバータであり、すなわち、電源回路103は、トランスL2の一次側巻線の通電時に蓄えたエネルギーを、遮断時に2次側に伝達する構成であり、トランスL2の他に、逆流防止ダイオードD3,D4、平滑コンデンサC1,C2、一次側巻線への通電をオン/オフするトランジスタQ3、トランジスタQ3をPWM駆動する電源制御回路104、及び、出力電圧をモニタし電源制御回路104へ通知するためのフィードバック回路を有し、
そのフィードバック回路は、出力電圧を分圧する抵抗R5?R7、分圧した電圧が所定の電圧以上となると電流をシンクするシャントレギュレータ105、シャントレギュレータ105がシンクする電流によってオンするフォトカプラ106、及び、フォトカプラの入力電流を制限する制限抵抗R8を有し、
制御装置110が出力する電流通知信号OCがハイレベル(Hレベル)の時にはフォトカプラ107がオンし、抵抗R7の両端を短絡する構成となっており、

このような構成のインバータ回路100においては、出力電流Ioのピークを所定の電流Ith以下で動作させる場合、制御装置110は電流通知信号OCをロウレベル(Lレベル)とし、この時、フォトカプラ107はオフのため、電源回路103のシャントレギュレータ105の入力電圧VIは、
VI=VN×(R6+R7)/(R5+R6+R7)
のようになり、
シャントレギュレータ105が出力電流をシンクし始める入力電圧をVrefとすれば、
VN×(R6+R7)/(R5+R6+R7)>Vref
の条件を満たす時にフォトカプラ106はオンし、
電源制御回路104は、フォトカプラ106のオン/オフに応じて、
VN=Vref×{1+R5/(R6+R7)}
を満たすように、トランジスタQ3のオン/オフ時間を調整し、
一方、出力電流Ioを大きくし、ピーク電流を所定の電流Ith以上とするときは、制御装置110は電流通知信号OCをハイレベル(Hレベル)とし、このときフォトカプラ107はオンとなるため抵抗R7の両端は短絡され、電源回路103のシャントレギュレータ105の入力電圧VIは、
VI=VN×R6/(R5+R6)
のようになり、
これより、シャントレギュレータ105が出力電流をシンクし始める入力電圧をVrefとすると、
VN×R6/(R5+R6)>Vref
の条件を満たすときにフォトカプラ106がオンすることとなり、さらにこの結果、電源制御回路104は、フォトカプラ106のオン/オフに基づいて、
VN=Vref×{1+R5/R6}
を満たすようにトランジスタQ3のオン/オフ時間を調整することとなる、
スイッチング回路。」


2.本願発明と引用発明との対比
(1) 引用発明の「スイッチング素子(IGBTQ1,Q2)」は、「基準電位VSと負荷用電源VBの間に直列に2つのIGBTQ1,Q2及びダイオードD1,D2が接続されており、これらIGBTQ1,Q2が交互にオン/オフすることにより、負荷L1へ交流電流Ioを出力し、IGBTQ1,Q2のゲートは、それぞれ、ゲート抵抗R1,R2を介してバッファ101,102の出力に接続され」るから、本願発明の「第1端子と第2端子と制御端子とを有するスイッチング素子を用いたスイッチ部」に相当する。

(2) 引用発明の「ゲート電圧印加回路(電源回路103、制御回路110)」は、「IGBTQ1,Q2が交互にオン/オフする」ように制御するものであって、「前記スイッチング素子からの出力コレクタ電流が所定の電流値以下又は未満の場合には、前記スイッチング回路のゲート端子に所定の第1のゲート電圧を印加し、前記出力コレクタ電流が前記所定の電流値より大きい又は以上の場合には、前記スイッチング回路のゲート端子に前記第1のゲート電圧より大きい所定の第2のゲート電圧を印加する」から、本願発明の「前記スイッチ部の前記制御端子に制御電圧を印加して前記スイッチ部の前記第1端子・前記第2端子間のオンオフを切り替える駆動回路」に相当する。

(3) 引用発明の「ゲート電圧印加回路(電源回路103、制御回路110)」における「電源回路103」のうちの、「トランスL2の一次側巻線の通電時に蓄えたエネルギーを、遮断時に2次側に伝達する構成であり、トランスL2の他に、逆流防止ダイオードD3,D4、平滑コンデンサC1,C2、一次側巻線への通電をオン/オフするトランジスタQ3」からなる部分、及び、バッファ101,102は、「制御用電源VCCから絶縁した電源VN,VPを生成する回路であり、フライバックコンバータであ」るから、本願発明の「前記駆動回路」における「前記スイッチ部に前記制御電圧を印加する素子駆動部」に相当する。

(4) 引用発明の「ゲート電圧印加回路(電源回路103、制御回路110)」における、上記(3)で言及した以外の部分、すなわち、「電源回路103」のうちの、「トランジスタQ3をPWM駆動する電源制御回路104、及び、出力電圧をモニタし電源制御回路104へ通知するためのフィードバック回路を有し、そのフィードバック回路は、出力電圧を分圧する抵抗R5?R7、分圧した電圧が所定の電圧以上となると電流をシンクするシャントレギュレータ105、シャントレギュレータ105がシンクする電流によってオンするフォトカプラ106、及び、フォトカプラの入力電流を制限する制限抵抗R8を有し、制御装置110が出力する電流通知信号OCがハイレベル(Hレベル)の時にはフォトカプラ107がオンし、抵抗R7の両端を短絡する構成」は、「出力電流Ioのピークを所定の電流Ith以下で動作させる場合、制御装置110は電流通知信号OCをロウレベル(Lレベル)とし」、これによって、「VN=Vref×{1+R5/(R6+R7)}を満たすように、トランジスタQ3のオン/オフ時間を調整し」、「一方、出力電流Ioを大きくし、ピーク電流を所定の電流Ith以上とするときは、制御装置110は電流通知信号OCをハイレベル(Hレベル)とし」、これによって、「VN=Vref×{1+R5/R6}を満たすようにトランジスタQ3のオン/オフ時間を調整する」から、本願発明の「前記駆動回路」における「前記素子駆動部を制御し前記制御電圧の大きさを決定する制御部」に相当する。

(5) 引用発明の「スイッチング回路」は、ゲート電圧印加回路の制御に応じて、「IGBTQ1,Q2が交互にオン/オフすることにより、負荷L1へ交流電流Ioを出力」するから、本願発明の「負荷制御装置」に相当するといえる。

したがって、本願発明と引用発明との一致点・相違点は次のとおりである。

<一致点>
「第1端子と第2端子と制御端子とを有するスイッチング素子を用いたスイッチ部と、前記スイッチ部の前記制御端子に制御電圧を印加して前記スイッチ部の前記第1端子・前記第2端子間のオンオフを切り替える駆動回路とを備え、
前記駆動回路は、前記スイッチ部に前記制御電圧を印加する素子駆動部と、前記素子駆動部を制御し前記制御電圧の大きさを決定する制御部と、を有する、負荷制御装置。」
である点。

<相違点>
「駆動回路」に関して、本願発明では、さらに、「前記スイッチ部の両端に掛かる電圧を極間電圧として検出する極間電圧検出部」を設けて、「前記制御部は、前記極間電圧が高くなるほど前記制御電圧が高くなり、前記極間電圧が低くなるほど前記制御電圧が低くなるように、前記極間電圧検出部で検出された前記極間電圧の大きさに応じて前記制御電圧の大きさを変化させる」のに対して、引用発明の「ゲート電圧印加回路(電源回路103、制御回路110)」では、「出力電流Ioのピークを所定の電流Ith以下で動作させる場合」、又は、「出力電流Ioを大きくし、ピーク電流を所定の電流Ith以上とするとき」に、制御装置110が「電流通知信号OC」を「ハイレベル(Hレベル)」、又は、「ロウレベル(Lレベル)」とすることによって、IGBTのゲート端子に印可される電源の電圧VNを、「Vref×{1+R5/(R6+R7)}」、又は、「VN=Vref×{1+R5/R6}」を満たすように、トランジスタQ3のオン/オフ時間を調整するように制御するものであって、「前記スイッチ部の両端に掛かる電圧を極間電圧として検出する極間電圧検出部」を設けて、「前記制御部は、前記極間電圧が高くなるほど前記制御電圧が高くなり、前記極間電圧が低くなるほど前記制御電圧が低くなるように、前記極間電圧検出部で検出された前記極間電圧の大きさに応じて前記制御電圧の大きさを変化させる」制御をしていない点。

この点、引用発明は、「出力電流Ioのピークを所定の電流Ith以下で動作させる場合」、又は、「出力電流Ioを大きくし、ピーク電流を所定の電流Ith以上とするとき」、それに応じて、IGBTのゲート端子に印可される電源の電圧VNの大きさを変化させるものであって、出力電流を検出して、それに応じて、ゲート電圧の大きさを変化させることが記載されているともいえない。

3.判断
上記<相違点>について検討する。
上記相違点に係る構成は、引用文献1-5に記載も示唆もなく、周知技術ともいえないから、引用発明において、上記相違点に係る構成を採用することは、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。
また、引用文献1の段落【0032】における「例えば、電気自動車やハイブリッドカー等のモータ駆動にインバータを用いる場合には、常に最大の出力電流が要求されるのではなく、運転状況に応じて最適な出力電流を制御することになる」などの記載に基づいて、仮に、「運転状況に応じて最適な出力電流を制御する」ために、「出力電流」を検出することが、引用文献1から容易といえたとしても、これは、本願発明のように「極間電圧」を検出する極間電圧検出部とは異なる。
むしろ、引用文献1のものは、図3、及び、段落【0003】、【0030】に記載されるように、ゲート(・エミッタ)電圧により、コレクタ・エミッタ間電圧(極間電圧)とコレクタ電流(出力電流)の特性が変化するものであり、本願の図2に示されるような、ゲート電圧を変化させても、電流の不飽和部における電圧・電流特性が変化しないという本願発明の前提は該当しないから、拒絶査定時に周知文献として引用された、上記特開平6-201738号公報の段落【0007】に「FETのドレイン・ソース間のON抵抗RDSがドレイン電流ID に対してほぼ一定であるという特性を利用し」と記載され、上記特開2001-45765号公報の段落【0012】に「MOSFETは、流れる電流とそれによる電圧降下との間に極めて良好な直線関係を広い範囲に亘って有しており、その範囲では純抵抗と見なせるから、電圧降下により負荷電流を精度良く検出することができる。」と記載されような、電流と電圧の比例関係を利用して、電圧の測定値から電流を推定する周知技術を採用しようとする起因や動機がない。
(なお、拒絶査定時に周知文献として引用された、上記特開2003-8416号公報は、段落【0007】?【0008】に「パワー素子101の電流が流れている部分の両端の電圧差VDS(ドレイン-ソース間電圧等)を検出する。このパワー素子の保護回路において、パワー素子101に過電流IDが流れると、電圧差VDSが上昇する。」と記載されるように、「過電流」の検出技術であって適用技術が異なる。また、段落【0011】に「パワー素子の電流が流れている部分の両端の電圧差だけを利用しているので、パワー素子に流れている電流が直接正確に判らない。このため、最悪の場合には、デバイスのバラツキ等により、ASO保護がかかっても電流値が大きすぎて、パワー素子を保護できずに破損するおそれがあった。」と記載されるように、電圧の計測値からは「電流値が直接正確に判らない」技術である。)

4.小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2-8に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。


第5 むすび
以上のとおり、本願の請求項1-8に係る発明は、いずれも、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-05-23 
出願番号 特願2011-6285(P2011-6285)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 今井 貞雄  
特許庁審判長 小曳 満昭
特許庁審判官 山田 正文
稲葉 和生
発明の名称 負荷制御装置  
代理人 坂口 武  
代理人 西川 惠清  
代理人 北出 英敏  
代理人 仲石 晴樹  

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