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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A01N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A01N
管理番号 1314977
審判番号 不服2013-22394  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-15 
確定日 2016-05-18 
事件の表示 特願2010-292019「殺菌剤の組み合わせ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月 2日出願公開、特開2011-105732〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2004年7月20日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2003年7月23日、ドイツ(DE))を国際出願日とする特願2006-520766号の一部を平成22年12月28日に新たな特許出願としたものであって、平成23年1月26日付けで手続補正書及び上申書が提出され、平成24年6月21日付けで手続補正書及び上申書が提出され、平成25年1月24日付けの拒絶理由が通知され、同年4月26日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月9日付けで拒絶査定がされ、同年11月15日付けで拒絶査定不服審判請求がなされ、同年12月26日付けで手続補正書(方式)が提出され、平成27年4月24日付けで当審から拒絶理由が通知され、同年10月27日付けで意見書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)は、平成25年4月26日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】

【化1】

で示される2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリド、
及び
(3)式
【化2】

〔式中、R^(3)は以下に定義する通りである:
(IV-a)R^(3)=-CF_(3)(フィプロニル)
又は
(IV-b)R^(3)=C_(2)H_(5)(エチプロール)〕
で示されるフェニルピラゾール誘導体
からなる活性化合物の組み合わせと、さらに増量剤及び/又は界面活性剤とを含有してなることを特徴とする、殺菌剤組成物。」

第3 平成27年4月24日付けの拒絶の理由
平成27年4月24日付けの拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
理由1:本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
理由2:本願の特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないので、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

そして、当該下記の点として、次の事項が記載されている。
「理由1について・・・
本願発明1は、殺菌剤組成物という物の発明であり、

【化1】

で示される2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリド、
及び
(3)式
【化2】



〔式中、R^(3)は以下に定義する通りである:
(IV-a)R^(3)=-CF_(3)(フィプロニル)
又は
(IV-b)R^(3)=C_(2)H_(5)(エチプロール)〕
で示されるフェニルピラゾール誘導体
からなる活性化合物の組み合わせと、さらに増量剤及び/又は界面活性剤とを含有してなることを特徴とする(請求項1)。

これに対し、発明の詳細な説明には、 ・・・
本願発明1で配合される2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリドを単独で用いた場合と、
(3)式
【化2】


〔式中、R^(3)は以下に定義する通りである:
(IV-a)R^(3)=-CF_(3)(フィプロニル)
又は
(IV-b)R^(3)=C_(2)H_(5)(エチプロール)〕
で示されるフェニルピラゾール誘導体を単独で用いた場合と、
これらの活性化合物を組合せて用いた場合の具体例が記載されておらず、本願発明1の活性化合物の組合せにおいて、殺菌活性に関する相乗効果の具体的なデータは記載されていない。

確かに、発明の詳細な説明には、本発明の活性化合物の組み合わせにより、殺菌活性は、個々の活性化合物の活性の総和よりも相当に高く、予測し得ないまさしく相乗効果が存在することが一応記載されている(摘記(e)、(f))が、これらの記載は、本願発明1の活性化合物の組合せを明示的に特定し、その組合せについて殺菌活性が予測できない相乗効果があることを示すものではなく、具体的なデータに裏付けられた記載でもない。そして、本願発明1の活性化合物の組合せについて、どの程度の殺菌活性が得られたのかは何ら具体的に記載されていない。

また、(IV-a)又は(IV-b)で示されるフェニルピラゾール誘導体は、殺虫活性が良好な化合物であり、顕著な殺菌活性を有しないと記載されており(摘記(c))、そして、殺虫活性が良好であるが顕著な殺菌活性を有しないことは技術常識であることからみて、本願の実施例において、(II-a)化合物に代えて(IV-a)又は(IV-b)で示されるフェニルピラゾール誘導体を用いた場合であっても、殺菌活性に関する相乗効果が生じることはいえない。

以上のことからみて、技術常識を勘案しても、発明の詳細な説明には、本願発明1における活性化合物の組合せの相乗効果が示されているとはいえないため、本願発明1である殺菌剤組成物が使用できる程度に明確かつ十分に記載がされているとはいえない。・・・

理由2について・・・
本願発明1及び2の課題は、本願発明1の活性化合物の組合せを少量使用した場合であっても、殺菌活性が高い殺菌剤組成物を提供することであるといえる。・・・

本願発明の詳細な説明において、本願発明1及び2の課題である、本願発明1の活性化合物の組合せを少量使用した場合であっても、殺菌活性が高い殺菌剤組成物となることが記載されているところを検討すると、実施例において、2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾールと、式(II-a)で示されるネオニコチル化合物とを混合して用いた場合に、それぞれ単独で使用した場合と比較して相乗効果が記載されている(摘記(g))のみであって、本願発明1及び2で規定される(IV-a)化合物、(IV-b)化合物を使用した相乗効果を具体的に記載したところはない。 ・・・

技術常識を加味して発明の詳細な説明の記載をみても、(IV-a)又は(IV-b)化合物を使用した場合に、同様に相乗的な殺菌活性が奏されることが記載されていないことは、上記「第3 1(4)ア」において示したとおりであり、本願発明1及び2における、2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリドと(IV-a)又は(IV-b)化合物とを組合せて少量使用した場合であっても、殺菌活性が高い殺菌剤組成物を提供するという課題を解決できるとはいえないから、本願発明1及び2が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。 ・・・

本願発明1及び2が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。・・・

以上のとおりであるから、本願特許請求の範囲は、本願発明1?5が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。」

第4 理由1についての当審の判断
1 特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
よって、この観点に立って、本願の実施可能要件の判断をする。

2 本願発明1
上記「第2」に記載したとおりである。

3 発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(a)「本発明は、一方の成分として公知の2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリドと、他方の成分として別の公知の殺虫活性化合物とを含有してなり、植物病原菌を防除するのに極めて適している新規な活性化合物の組み合わせに関する。」(段落【0001】)

(b)「2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリドが殺菌性を有することは、既に知られている(国際公開第WO99/024413号公報参照)。この物質の活性は、良好である;しかし、低施用量で不満足な場合が多い。」(段落【0002】)

(c)「また、多数のネオニコチニル類、カルバメート類、ピレスロイド類及びフェニルピラゾール類が昆虫の防除に使用できることは、既に知られている〔欧州特許出願公開第0192060号公報、同第0580553号公報、Pesticidal Manual,第11版(1997)No.109,110,172,323及び376 並びにドイツ特許出願公開第19653417号公報参照)。これらの物質の殺虫活性は良好である;しかし、これらの物質は顕著な殺菌活性を有していない。」(段落【0003】)

(d)「今般、式
【化1】

で示される2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリド、
及び
(1)式
【化2】

で示されるネオニコチニル、
及び/又は
(2)式
【化3】

〔式中、R^(1)及びR^(2)は以下に定義する通りである:
(III-a)R^(1)=
【化4】


R^(2)=CH_(3)(ベンフラカルブ)
(III-b)R^(1)=
【化5】

R^(2)=CH_(3)(フラチオカルブ)
(III-c)R^(1)=CH_(3)
R^(2)=H(カルボフラン)
又は
(III-d)R^(1)=-S-N[-(CH_(2))_(3)-CH_(3)]_(2)
R^(2)=-CH_(3)(カルボスルファン)〕
で示されるカルバメート、
及び/又は
(3)式
【化6】

〔式中、R^(3)は以下に定義する通りである:
(IV-a)R^(3)=-CF_(3)(フィプロニル)
又は
(IV-b)R^(3)=C_(2)H_(5)(エチプロール)〕
で示されるフェニルピラゾール誘導体、
及び/又は
(4)式
【化7】

で示されるピレスロイド、
及び/又は
(5)式
【化8】

で示されるピレスロイド誘導体、
及び/又は
(6)式
【化9】

で示されるジチオール誘導体、
及び/又は
(7)式
【化10】

で示されるトリアジン誘導体、
及び/又は
(8)スピノサドという一般名をもつマクロライド(IX)
を含有してなる新規な活性化合物の組み合わせが、極めてよい殺菌活性を有することが見出された。」(段落【0007】?【0024】)

(e)「意外にも、本発明の活性化合物の組み合わせの殺菌活性は、個々の活性化合物の活性の総和よりも相当に高い。従って、予測し得ないまさしく相乗効果が存在し、これはまさに活性の付加ではない。」(段落【0025】)

(f)「本発明の活性化合物の組み合わせの良好な殺菌活性は、以下の実施例から明らかである。個々の活性化合物は殺菌活性に関して弱い活性を示すが、これらの組み合わせは個々の活性化合物の活性の単純な足し算を上回る活性を有する。」(段落【0041】)

(g)「以下の実施例により、本発明を例証する。
【実施例】
実施例1
うどんこ病試験(オオムギ)/保護試験
溶 媒:ジメチルホルムアミド50重量部
乳化剤:アルキルアリールポリグリコールエーテル1重量部
活性化合物の適切な製剤を製造するために、活性化合物又は活性化合物の組み合わせ1重量部を前記の量の溶媒及び乳化剤と混合し、得られた濃厚物を水で所定の濃度に希釈するか、又は活性化合物又は活性化合物の組み合わせの市販の製剤を水で所定の濃度に希釈した。
保護活性について試験するために、稚苗に、得られた活性化合物の製剤を下記の施用量で噴霧した。
処理後1日目に、前記の苗にオオムギうどんこ病菌(Erysiphe
graminis f.sp. hordei)の胞子を散布した。
この苗を約20℃の温度及び約80%の相対大気湿度の温室に入れ、うどんこ病の発生を促進させた。
接種後7日目に評価を行った。0%は、対照の効果に相当する効果を意味し、これに対して100%の効果は、感染が認められなかったことを意味する。
活性化合物、施用量及び試験結果を、以下の表に示す。
【表1】

」(段落【0047】?【0054】)

4 判断
本願発明1は、殺菌剤組成物という物の発明であり、

【化1】

で示される2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリド、
及び
(3)式
【化2】

〔式中、R^(3)は以下に定義する通りである:
(IV-a)R^(3)=-CF_(3)(フィプロニル)
又は
(IV-b)R^(3)=C_(2)H_(5)(エチプロール)〕
で示されるフェニルピラゾール誘導体
からなる活性化合物の組み合わせと、さらに増量剤及び/又は界面活性剤とを含有してなることを特徴とする(請求項1)。

これに対し、発明の詳細な説明には、 2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリド(以下、「イソチアニル」ともいう。)が殺菌性を有することは、既に知られており、フェニルピラゾール類が昆虫の防除に使用できることは、既に知られているが、これらの物質は顕著な殺菌活性を有することは知られていないことが記載されている(摘記(b)、(c))。

また、本発明の活性化合物の組み合わせにより、殺菌活性は、個々の活性化合物の活性の総和よりも相当に高く、予測し得ないまさしく相乗効果が存在することが記載され(摘記(e))、

実施例において、2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリドを100g/ha用いた場合には、効果が0%であること、式(II-a)で示されるネオニコチル化合物を100g/ha用いた場合には、効果は0%であること、両者を混合して用いた場合には、効果が26%であり、計算値の効果0%と比較して相乗効果が示されている(摘記(g))。

しかしながら、本願発明1で配合される2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリドを単独で用いた場合と、
(3)式
【化2】


〔式中、R^(3)は以下に定義する通りである:
(IV-a)R^(3)=-CF_(3)(フィプロニル)
又は
(IV-b)R^(3)=C_(2)H_(5)(エチプロール)〕
で示されるフェニルピラゾール誘導体を単独で用いた場合のみならず、これらの活性化合物を組合せて用いた場合の具体例が記載されておらず、本願発明1の活性化合物の組合せにおいて、殺菌活性に関する相乗効果の具体的なデータは記載されていない。

確かに、発明の詳細な説明には、本発明の活性化合物の組み合わせにより、殺菌活性は、個々の活性化合物の活性の総和よりも相当に高く、予測し得ないまさしく相乗効果が存在することが一応記載されている(摘記(e)、(f))が、これらの記載は、本願発明1の活性化合物の組合せを明示的に特定し、その組合せについて殺菌活性が予測できない相乗効果があることを示すものではなく、具体的なデータに裏付けられた記載でもない。そして、本願発明1の活性化合物の組合せについて、どの程度の殺菌活性が得られたのかは何ら具体的に記載されていない。

また、(IV-a)又は(IV-b)で示されるフェニルピラゾール誘導体は、殺虫活性とともに殺菌活性も有することが技術常識であるとはいえないことからみて、本願の実施例において、(II-a)化合物に代えて(IV-a)又は(IV-b)で示されるフェニルピラゾール誘導体を用いた場合にも、技術常識を参酌しても殺菌活性に関する相乗効果が生じるとはいえない。

以上のことからみて、技術常識を勘案しても、発明の詳細な説明には、本願発明1における活性化合物の組合せの相乗効果が示されているとはいえないため、本願発明1である殺菌剤組成物が使用できる程度に明確かつ十分に記載がされているとはいえない。

5 審判請求人の主張
審判請求人は、平成25年12月26日付けの手続補正書(方式)及び平成27年10月27日付けの意見書において、以下の点を主張している。

(1)主張ア
発明の詳細な説明には、本発明の組合せが明確に記載され、また、使用方法、製造方法等についても記載されているので、本願明細書の記載は、当業者であれば、本発明の組み合わせに係る発明を、試行錯誤することなく作ることができ、且つ、その物を使用できるように記載していることは明らかである旨を主張している。

(2)主張イ
発明の詳細な説明の[0025]及び[0041]等には、本発明の組み合わせを含む組み合わせの殺菌活性が相乗的であることを確認したからこそ可能な記載がされている旨を主張している。

(3)主張ウ
平成25年4月26日付けの意見書にて示した追加実験において、本願発明1の組合せのうち、式(IV-b)のエチプロールを用いた場合に相乗活性があることを示し、そして、式(IV-a)のフィプロニルを用いた場合でも相乗活性があることは当業者であれば理解できる旨を主張している。

(4)主張エ
明細書の段落0025、0029、0041をみれば、式(I)で示される化合物(イソチアニル)と、フィプロニル(式(IV-a))およびエチプロール(式(IV-b))の群(3)の活性化合物との組み合わせが記載され、その重量部比が記載されているので、本発明の活性化合物の組み合わせは、そのような組み合わせが明示的に記載されているに等しいことが十分に理解でき、また、相乗効果についても、実施例としては記載されていないが、同種類の組み合わせである実施例1をみれば、当業者であれば、実施例1と同様の相乗効果を奏することが十分に類推できる旨を主張している。

(5)主張オ
拒絶理由において、(IV-a)又は(IV-b)の化合物は、顕著な殺菌活性を有しないことを立証していないので、((II-a)化合物に代えて(IV-a)又は(IV-b)で示されるフェニルピラゾール誘導体を用いた場合であっても、殺菌活性に関する相乗効果が生じることはいえないという認定が失当である旨を主張している。

そこで、これらの審判請求人の主張について検討する。

(1)主張アについて
実施可能要件を満たすためには、「第4 1」で述べたように、殺菌剤組成物という物の発明においては、その殺菌剤組成物を製造できることを記載しただけにとどまらず、殺菌剤組成物として使用できることを記載することが必要である。
そうすると、本願発明1の殺菌剤組成物の製造方法、その施用方法が記載されている、という審判請求人が主張する内容のみでは足りず、具体的に殺菌剤組成物としての効果を確認する必要があるものと解される。

そこで、発明の詳細な説明の記載をみると、上記「第4 4」で示したとおり、本願発明1における活性化合物の組合せの相乗効果が示されているとはいえず、本願発明1の殺菌剤組成物が使用できる程度に明確かつ十分に記載がされているとはいえないので、本願発明1の殺菌剤組成物として使用できることが記載されているとはいえず、主張アは採用できない。

(2)主張イについて
段落【0025】、【0041】の記載は、上記「第4 4」で示したとおり、本願発明1の活性化合物の組合せにおいて、殺菌剤組成物として何ら具体的に相乗効果を示すものではないから、段落【0025】、【0041】の記載を根拠に本願発明1が相乗効果を有するということはできず、主張イは採用できない。

(3)主張ウについて
上記「第4 4」で示したとおり、発明の詳細な説明には、本願発明1における活性化合物の組合せの相乗効果が示されているとはいえない。そして、発明の詳細な説明に記載されていない技術事項について、後から提出した追加実験を参酌して発明の詳細な説明の記載を補うことは、特段の事情がない限り、許されないものであるから、特許出願後に提出された上記追加実験を参酌することはできない。なお、平成25年4月26日付けの意見書中に記載された追加実験は、実施者、実施時期などが不明であって、そもそも適切な実験データであるかすら確認できないものでもある。
よって、主張ウは採用できない。

(4)主張エについて
段落【0025】、【0029】、【0041】の記載は、上記「第4 4」で示したとおり、本願発明1の活性化合物の組合せにおいて、何ら具体的に相乗効果を示すものではないから、上記記載を根拠に本願発明1が相乗効果を有するということはできない。また、上記「第4 4」で示したとおり、発明の詳細な説明には、実施例1として本願発明1の(IV-a)化合物又は(IV-b)化合物と同種類とはいえない(II-a)化合物を用いた例が記載されているだけであり、本願発明1における活性化合物の組合せの相乗効果が示されているとはいえず、更に、本願の実施例の記載から類推できるとはいえない。そして、類推できるとする技術常識もない。
よって、主張エは採用できない。

(5)主張オについて
例えば、特開2001-81003号公報の段落【0011】には、殺虫剤として使用されるフィプロニルは、有効な殺菌効果は認められない旨の記載がされている。また、特表2003-509345号公報の特許請求の範囲の請求項1及び2をみると、エチプロールを含む殺虫組成物が記載され、段落【0056】には、殺菌剤を含み得ることが記載されており、これは、殺菌のためには殺菌剤を含む必要があることであるといえ、エチプロールが殺菌効果を奏さないことを示唆する記載であるといえる。一方、審判請求人は、フィプロニル、エチプロールが殺菌効果を有することを示す証拠を提示していない。
よって、(IV-a)化合物であるフィプロニル、(IV-b)化合物であるエチプロールが殺菌活性を有することは技術常識であるとはいえず、(II-a)化合物に代えて、(IV-a)化合物又は(IV-b)化合物を用いた場合に相乗的な殺菌活性を示すことは技術常識を参酌してもいえないとする判断に誤りはない。
よって、主張オは採用できない。

以上のとおりであるから、審判請求人の主張はいずれも採用できない。

6 小括
以上のとおり、本願発明の詳細な説明には、当業者が本願発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。

第5 理由2についての当審の判断
1 特許法第36条第6項第1号について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (参考:知財高判平17.11.11(平成17(行ケ)10042)大合議判決)
また、上記大合議判決では、発明の詳細な説明に、当業者が発明の課題を解決できると認識できる程度に具体例を開示せず、技術常識を参酌しても特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないのに、特許出願後に実験データを提出して発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによって、その内容を特許請求の範囲に記載された発明の範囲まで拡張ないし一般化し、明細書のサポート要件に適合させることは、発明の公開を前提に特許を付与するという特許制度の趣旨に反して許されないというべきである、という旨の説示もされている。

以下、この観点に立って検討する。

2 本願発明1について
上記「第2」に記載したとおりである。

3 発明の詳細な説明の記載
上記「第4 3」に記載したとおりである。

4 本願発明1の課題について
発明の詳細な説明には、「本発明は、一方の成分として公知の2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリドと、他方の成分として別の公知の殺虫活性化合物とを含有してなり、植物病原菌を防除するのに極めて適している新規な活性化合物の組み合わせに関する。」と記載されている(摘記(a))。

また、「2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリドが殺菌性を有することは、既に知られている(国際公開第WO99/024413号公報参照)。この物質の活性は、良好である;しかし、低施用量で不満足な場合が多い。」と記載されている(摘記(b))。

更に、「意外にも、本発明の活性化合物の組み合わせの殺菌活性は、個々の活性化合物の活性の総和よりも相当に高い。従って、予測し得ないまさしく相乗効果が存在し、これはまさに活性の付加ではない。」と記載されている(摘記(e))。

そうすると、本願発明1の課題は、本願発明1の活性化合物の組合せを少量使用した場合であっても、相乗効果を有する殺菌活性が高い殺菌剤組成物を提供することであるといえる。

5 判断
本願発明の詳細な説明において、本願発明1の課題である、本願発明1の活性化合物の組合せを少量使用した場合であっても、殺菌活性が高い殺菌剤組成物となることが記載されているところを検討すると、実施例において、2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾールと、式(II-a)で示されるネオニコチル化合物とを混合して用いた場合に、それぞれ単独で使用した場合と比較して相乗効果が記載されている(摘記(g))のみであって、本願発明1で規定される(IV-a)化合物、(IV-b)化合物を使用した相乗効果を具体的に記載したところはない。

そこで、出願時の技術常識に照らして相乗的殺菌活性が奏されることが予測できるか否かを検討する。

技術常識を参酌して発明の詳細な説明の記載をみても、(IV-a)又は(IV-b)化合物を使用した場合に、同様に相乗的な殺菌活性が奏されることが記載されていないことは、上記「第4 4」において示したとお
りであり、本願発明1における、2’-シアノ-3,4-ジクロロイソチアゾール-5-カルボキサニリドと(IV-a)又は(IV-b)化合物とを組合せて少量使用した場合であっても、殺菌活性が高い殺菌剤組成物を提供するという課題を解決できるとはいえないから、本願発明1が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。

6 審判請求人の主張
審判請求人は、平成25年12月26日付けの手続補正書(方式)及び平成27年10月27日付の意見書において、以下の点を主張している。

(1)主張カ
発明の詳細な説明の[0025]及び[0041]等には、本発明の組み合わせの殺菌活性が相乗的であることを確認したからこそ可能な記載がされ、また、実施例をみれば、本発明の組み合わせについても相乗的殺菌活性を達成できたと認識できるように記載されているか、十分に類推可能である旨を主張している。

(2)主張キ
本願の発明の詳細な説明には、本発明の組み合わせの殺菌活性が相乗的であることを確認したからこそ可能な記載がされているのであるから、追加実験を追認したうえで発明の詳細な説明の記載の内容とすべきである旨を主張し、本願発明の相乗効果が実施例に記載されていないことを理由にサポート要件を満たしていないとすることは誤りである旨の主張をしている。

(3)主張ク
拒絶の理由で引用した大合議判決は、いわゆるパラメータ発明におけるパラメータの技術的意義が、明細書に記載されているといえる否かについて判断されたものであり、一般論として、明細書のサポート要件の判断を判示するに過ぎないものである旨を主張している。

そこで、これらの審判請求人の主張について検討する。

(1)主張カについて
段落【0025】、【0041】の記載は、上記「第4 4」で示したとおり、本願発明1の活性化合物の組合せにおいて、何ら具体的に相乗効果を示すものではないから、段落【0025】、【0041】の記載を根拠に本願発明1が相乗効果を有するということはできず、また、他の記載をみても、本願発明1の活性化合物の組合せにおいて、殺菌活性の相乗効果が示されているとはいえず、本願の実施例の記載から類推できるとはいえない。そして、類推できるとする技術常識もない。
よって、主張カは採用できない。

(2)主張キについて
上記「第4 4」で示したとおり、発明の詳細な説明には、実施例1として本願発明1の(IV-a)化合物又は(IV-b)化合物と同種類とはいえない(II-a)化合物を用いた例が記載されているだけであり、本願発明1の活性化合物の組合せにおいて、何ら具体的に相乗効果が示されているとはいえず、また、本願発明1の組合せにおいて相乗効果を類推できるとすることが技術常識ともいえない。 そして、具体例もなく技術常識を参酌しても発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できないのに、特許出願後に追加実験を提出して、発明の詳細な説明の記載内容を記載外で補足することによってサポート要件に適合させることは許されないことであるから、主張キは採用できない。

(3)主張クについて
特許請求の範囲の記載がサポート要件を満足するか否かは、上記「第5 1」に示した大合議判決の説示、即ち、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かにより検討されるべきであり、この説示がパラメータ発明に限られるとする根拠は認められない。そして、上記「第5 5」において述べたとおり、本願特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない。
よって、主張ケは採用できない。

7 小括
以上のとおりであるから、本願特許請求の範囲は、本願発明1が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおりであるので、本願は、発明の詳細な説明の記載が、当業者が本願発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願は、特許請求の範囲の記載が、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-08 
結審通知日 2015-12-15 
審決日 2016-01-04 
出願番号 特願2010-292019(P2010-292019)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A01N)
P 1 8・ 536- Z (A01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂崎 恵美子杉江 渉  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 木村 敏康
佐藤 健史
発明の名称 殺菌剤の組み合わせ  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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