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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23L
管理番号 1315000
審判番号 不服2014-23191  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-14 
確定日 2016-05-18 
事件の表示 特願2010- 5197号「流通に適した食品素材の製造法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 7月28日出願公開,特開2011-142849号〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成22年1月13日を出願日とする特許出願であって,平成26年8月13日付けで拒絶査定され,平成26年11月14日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出された後,平成27年10月19日付けで当審の拒絶理由が通知され,平成27年12月10日に意見書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成26年11月14日提出の手続補正書によって補正された明細書および特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。
「生の食品素材を分割した後、天日乾燥して、生の食品素材の水分活性より少なくとも0.25減少させ、食品素材の水分活性を0.4?0.75に調整することを特徴とする、流通に適した半乾燥の食品素材の製造法。」

3 刊行物
本願の出願前に日本国内において頒布され,当審の拒絶理由に引用した特開昭62-210946号公報(以下,「引用例」という。)には,次の事項が記載されている。

(ア) 「(1)0.5 ?0.85の範囲の水分活性で微生物学的に安定であり、微生物による損傷を防ぐため使用する添加剤が必要でない半乾燥植物製品を製造するため、果物又は野菜を水分含量が10?50%になるまで乾燥する工程と、その後製品を無酸素又は実質的に無酸素の雰囲気に保持する工程とから成る半乾燥植物の製法。」(1ページ左下欄5?11行)

(イ) 「本発明は、半乾燥の果物及び野菜(以下「植物製品」と称する)の製造法に関するものである。本明細書中で用いる「野菜」なる語は、葉、根、球根、茎、未熟及び成熟果実を含む、通常野菜として扱われるすべてのタイプの産物を示す。同用語は、また非食用植物をも含む。果物なる語は、通常果物として扱われる植物の甘い肉質の果物をいう。」(2ページ右上欄1?7行)

(ウ) 「脱水野菜は永く市販の製品であった。それらは、熱気乾燥、凍結乾燥、膨張又は爆発乾燥、滲透圧乾燥、その他の方法によって製造することができる。乾燥方法とは無関係に、脱水野菜の商業上の流通及び使用は、水分含量が約2?8%で水分活性が通常0.5 以下の通常堅く且つ脆い製品に限定されていた。水分含量や水分活性がこれらの水準より高くなると、製品は色、味及び芳香について比較的早く、且つ望ましくない劣化が伴って不安定とされている。水分活性が0.6 より高くなると、製品は微生物学的作用を受けやすい。」(2ページ右上欄8行?17行)

(エ) 「その水分活性までの脱水の間の野菜の水分含量について、出願人が実験した結果、野菜の水分含量が減少するにつれて水分活性が新鮮野菜についての丁度1.0 から、野菜が水分含量10%またはその近くに減少するときの0.5 より下に落ちることが判明した。野菜の水分含量がこれより下に減少すると、野菜は段々と一層堅く、且つ一層脆くなり、復元時間が増加する。」(2ページ右下欄8?14行)

(オ) 「出願人は水分活性0.5 ?0.85の範囲内で、一部乾燥した野菜は一般に優れた色を持ち、大部分が依然として柔軟であり、非常に早く復元し、且つ復元したときに優れた味と肉質と芳香を有していることを発見した。
水分活性0.5 ?0.85まで、一部脱水した野菜の大部分は、味と色とが徐々に劣化し、そして保存剤で処理しなければ微生物学的損傷を蒙ることがあるが、出願人は、驚くべきことにこの水分活性範囲の実験した果物と野菜とが無酸素雰囲気で包装したとき、相当な期間、或るケースでは周囲温度で2年以上も優れた状態を保持することを発見した。」(3ページ左上欄11行?右上欄1行)

(カ) 「本発明はその一態様では0.5 ?0.85の範囲の水分活性で、微生物学的に安定であり、微生物による損傷を防ぐため使用する薬品(保存剤)が必要でない半乾燥植物製品を製造するため、果物又は野菜を水分含量が10?45%になるまで一部乾燥する工程と、その後製品を無酸素又は実質的に無酸素の雰囲気に保持する工程とから成る半乾燥植物の製法を提供する。好適には、製品を酸素透過性の低い容器に包装し、全部の又は実質的に全部の遊離酸素ガスを容器から除き、且つ任意に無酸素の不活性ガスで置換し、又は製品を真空下に貯蔵する。
食品の所謂ガス包装は、それ自体新規なものではない。しかしながら、大体において不活性ガス又は真空を使用することは、例えば粉ミルク、コーヒー、ナッツなどの製品における悪臭の発生を防止するために行われた。ガス包装はまた、例えばニンジンなど従来の完全乾燥野菜についても、これら製品のあるものに発生する干し草様の臭いを減らす目的で使用された。ガス包装はまた、新鮮な果物や野菜についても、冷凍下で貯蔵寿命を長くするために使用されたが、これらの環境での使用は主たる目的は植物組織の呼吸をコントロールすることである。
酸素が乾燥果物劣化に与える効果についての研究が、文献(アドバンシーズ・イン・フード・リサーチ(Advances in Food Research)、第1巻、342 ?346 頁、1948年、アカデミック・プレス、アメリカ,ニューヨーク)に報告されている。しかしながら、これらの研究は従来の水分レベルにおいて果物が薄黒くなることに関する。通常よりも高い水分含量での果物の微生物学的安定性及び品質について酸素の与える効果は、報告されていないし企図されてもいない。無酸素包装は水分含有量10?45%及び水分活性レベル0.5 ?0.85、周囲温度での良好な貯蔵寿命及び優れた色及び品質の半乾燥製品の製造を可能にする。冷凍貯蔵を更に用いることによって、0.85より高い水分活性レベルで無酸素又は実質的に無酸素雰囲気で貯蔵される植物製品について、有用な貯蔵寿命が得られる。」(3ページ右下欄12行?4ページ右上欄8行)

(キ) 「本発明の一実施態様においては、果物又は野菜は脱水のため適当であると所望される様に皮むきなどのトリミングをし且つ切断される。それらは、次いで水分活性が野菜については0.5 ?0.85及び果物については0.70?0.90の範囲になる段階まで蒸気、水に前もって通すか通さずに、又は他の手段によって通常の方法で脱水される。」(4ページ右下欄3?9行)

(ク) 「実施例1 サツマイモ
オレンジ色肉質のサツマイモの皮をむいて、厚さ3mmのスライスに切った。これらのスライスを2分間蒸気に通し、次いで水スプレーで洗い、脱水器中の皿の上に載せた。
サツマイモは、水分含有量18.3%、14.8%及び10.7%に乾燥した。これらの水分含量では、水分活性はそれぞれ0.82,0.77及び0.61であった。
すべての試料をアルミニウム箔とポリエチレンとのラミネート袋に包装し、窒素雰囲気で密封した(排気後)。それぞれの水分含量をもった試料を40℃と周囲温度(約22℃)とで貯蔵した。40℃で貯蔵した試料は、味及び色に関して、4ケ月間の貯蔵後なお優れた状態にあった。
周囲温度では、サツマイモは13ケ月間の貯蔵後優れた状態にあった。40℃における貯蔵安定性に基づいて、製品は周囲温度では約2ケ年間の貯蔵寿命を有するであろうと評価された。」(5ページ左上欄2?19行)

(ケ) 「実施例3 ニンジン
ニンジンの皮をむき、(断面3mm×3mmの片に切った。これらを4分間蒸気中に通し、70℃でスルーベッド乾燥器中で乾燥した。試料を水分含量29.7%、13.6%及び10.0%で取り出した。これら試料の水分活性はそれぞれ0.82,0.65及び0.50であった。
沸騰水に入れると、試料は3?5分で煮えた。煮えた時に全部が優れた味と質とを有していた。
試料を塩化ポリビニリデン、ナイロン及びポリエチレンの層からできた透き通ったラミネートフィルムに包装し、酸素吸収剤の小袋を加えた後に密封した〔日本国東京都、三菱ガス化学株式会社製“エイジレス”(Ageless)〕。
周囲温度で13ケ月間貯蔵した後、全3個の試料は、優れた香りと味と色を保持した。」(5ページ右上欄14行?左下欄8行)

(コ) 「実施例4 赤トウガラシ
赤ピーマンを除芯して、約7mmの賽の目に切った。それらを強制空気スルーベッド脱水器中70℃で乾燥し、水分含量20%とした。この水分含量では、水分活性は0.67であった。ピーマンは明るい赤色で、柔軟な肉質を有していた。煮ると、色、肉質及び味において新鮮な煮たピーマンと似ていた。乾燥ピーマンを酸素吸収剤の小袋と共に酸素透過ラミネートフィルムに包装した。
ピーマンは40℃で貯蔵したとき、約8週間明るい色を保持し、且つ周囲温度で13ケ月貯蔵した後も色と味においてやはり優れていた。」(5ページ左下欄9?20行)

これらの事項(特に,上記摘記箇所の(ア)及び(キ)参照。)を総合すると,引用例には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「野菜を切断した後,野菜を水分含量が10?50%になるまで通常の方法で乾燥し,その後製品を無酸素又は実質的に無酸素の雰囲気に保持する,0.5?0.85の範囲の水分活性で微生物学的に安定であり,微生物による損傷を防ぐため使用する添加剤が必要でない半乾燥植物製品の製法。」

4 対比
そこで,本願発明と引用発明とを対比する。
まず,引用発明の「野菜」は本願発明の「食品素材」に相当し,以下同様に,「切断した」態様は「分割した」態様に,「半乾燥植物製品の製法」は「半乾燥の食品素材の製造法」に,それぞれ相当している。
つぎに,本願発明の「天日乾燥」する態様と引用発明の「通常の方法で乾燥」する態様とは,「所定の方法で乾燥」する態様として共通している。
また,本願発明の「天日乾燥して、生の食品素材の水分活性より少なくとも0.25減少させ、食品素材の水分活性を0.4?0.75に調整する、流通に適した半乾燥の食品素材」と引用発明の「野菜を水分含量が10?50%になるまで通常の方法で乾燥し,その後製品を無酸素又は実質的に無酸素の雰囲気に保持する,0.5?0.85の範囲の水分活性で微生物学的に安定であり,微生物による損傷を防ぐため使用する添加剤が必要でない半乾燥植物製品」とは,「所定の方法で乾燥して,食品素材の水分活性を所定の範囲に調整する,半乾燥の食品素材」において一致している。

したがって,両者は,
「食品素材を分割した後,所定の方法で乾燥して,食品素材の水分活性を所定の範囲に調整する,半乾燥の食品素材の製造法。」
である点で一致し,次の点で相違する。

[相違点1]
分割する食品素材が,本願発明では「生の食品素材」であるのに対し,引用発明では「生」であるか明らかでない点。

[相違点2]
本願発明が天日乾燥であるのに対し,引用発明は通常の方法で乾燥する点。

[相違点3]
本願発明では,「生の食品素材の水分活性より少なくとも0.25減少させ」るのに対し,引用発明では不明な点。

[相違点4]
食品素材の水分活性の所定の範囲が,本願発明では「0.4?0.75」であるのに対し,引用発明では「0.5?0.85」である点。

[相違点5]
本願発明が流通に適した半乾燥の食品素材であるのに対し,引用発明は流通に適したものであるか不明である点。

5 判断
上記相違点について検討する。

(1) 相違点1,相違点3,相違点4及び相違点5について
引用発明の乾燥前の切断する野菜として,新鮮な生のものを用いることは当業者が普通に行うことといえるところ,その水分活性がほぼ1.0であることも周知の事項である(例えば,引用例の2ページ右下欄10?12行(上記摘記箇所の(エ))参照。)。また,引用例に記載された実施例において,乾燥後の水分活性の値「0.61」(上記摘記箇所の(ク)参照。),「0.65及び0.50」(上記摘記箇所の(ケ)参照。)及び「0.67」(上記摘記箇所の(コ)参照。)が例示され,各水分活性は新鮮な生のもののほぼ1.0から少なくとも0.25減少させるものといえる。
そうすると,半乾燥した後の野菜の水分活性が「0.5?0.85」である引用発明においては,新鮮な生の野菜を乾燥させることにより,その水分活性を少なくとも0.25減少させるものを採用して,半乾燥した後の野菜の水分活性を「0.5?0.75」の範囲とすることにより,本願発明の水分活性の数値の範囲内とすることは当業者が容易に想到し得たことであって,同時に流通に適したものとすることも当業者が容易に想到し得たことである。

(2) 相違点2について
乾燥方法として天日乾燥は,例示するまでもなく周知の事項であるから,引用発明の乾燥の通常の方法として天日乾燥を採用することにより,引用発明をして上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

また,本願発明の全体構成により奏される効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

したがって,本願発明は引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易になし得たものである。

6 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため,本願の特許請求の範囲の他の請求項2に係る発明について検討するまでもなく,本願は,同法第49条第2号の規定に該当し,拒絶をされるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-09 
結審通知日 2016-03-15 
審決日 2016-03-29 
出願番号 特願2010-5197(P2010-5197)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小暮 道明上條 肇  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 山崎 勝司
田村 嘉章
発明の名称 流通に適した食品素材の製造法  

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