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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A62C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A62C
管理番号 1315019
審判番号 不服2014-20945  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-16 
確定日 2016-06-15 
事件の表示 特願2010-105342「ガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッド」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月30日出願公開、特開2011-125673、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年4月30日(優先権主張平成21年11月2日、平成21年11月18日)の出願であって、平成25年12月2日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年2月17日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年3月4日付けで最後の拒絶理由が通知されたのに対し、平成26年5月12日に意見書が提出されたが、平成26年7月7日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成26年10月16日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成26年11月28日に手続補正書(方式)が提出され、当審において平成27年8月17日付けで拒絶理由が通知され、平成27年10月16日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、当審において平成28年2月8日付けで最後の拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年4月6日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年4月6日に提出された手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される次のとおりのものであると認める。

「 【請求項1】
消火剤ガスを使用するガス系消火設備において消火対象区画に消火剤ガスを放出するために設置される噴射ヘッドに消音手段を備え、該消音手段が、消火剤ガスが供給される配管に接続された噴射ヘッドに設けられた複数個のオリフィスと、該オリフィスを通過した気体が流通可能な3次元の網目状組織からなる円筒又は円柱形状の気流の乱れをなくす金属多孔性材料とからなり、該金属多孔性材料が、中心部に3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料と、外周部に中心部の金属多孔性材料より空隙の孔径が小さな3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料とを層状に、かつ、前記中心部の金属多孔性材料が前記オリフィスの出口部に接して配設してなり、外周部の金属多孔性材料の外側円周面のすべてが大気に開放されてなるとともに、前記金属多孔性材料の端面に接して円板形状のデフレクタを設けてなることを特徴とするガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッド。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献等一覧
1.特表2003-530922号公報
2.実願昭57-000408号(実開昭58-103100号)のマイクロフィルム
3.実願昭62-173681号(実開平01-078216号)のマイクロフィルム
4.特開平11-325655号公報
5.特開2005-002873号公報
6.特開2006-194157号公報
7.実願平01-148647号(実開平03-088561号)のマイクロフィルム

周知例一覧
1.欧州特許出願公開第1151800号明細書
2.米国特許第3949828号明細書
3.独国特許出願公開第19719535号明細書
4.米国特許第5197548号明細書
5.欧州特許出願公開第0700693号明細書

・請求項 1
・引用文献等 1ないし3
・備考
引用文献1については、消火剤ガスを噴射する噴射ヘッドに消音器を設けている点を参照のこと(例えば段落【0093】,図10等参照)。
引用文献2については、噴射ヘッド(ノズル2)にオリフィスが設けられている例を参照のこと(例えば第1図等参照)。
引用文献3については、高圧ガス等を噴射する噴射ヘッドに設けた消音器に、機械強度の高い多孔性の焼結金属を用いている例を参照のこと(例えば第1頁第19行ないし第5頁第6行、第10頁第4及び5行並びに第1図等参照)。なお、多孔性の焼結金属は、技術常識に照らせば、3次元の網目状組織から構成されているといえる。
引用文献1ないし3に記載のものは、技術分野は相違するものの、高圧ガス等を噴射するときに生じる騒音を低減するという共通の課題を有するものであるから、これらの文献を組み合わせることに格別の困難性があるとはいえない。したがって、引用文献1に記載の消音器の噴射ヘッドに引用文献2に記載のようにオリフィスを設けるとともに、引用文献1に記載の消火剤ガスを噴射する噴射ヘッドに設ける消音器を引用文献3に記載のように機械強度の高い多孔性の焼結金属を用いて構成することに格別の困難性があるとは認められない。
また、ガス系消火設備用を含む様々な設備用の消音機能を有する噴射ヘッドにおいて、3次元の網目状組織からなる円筒又は円柱形状の金属多孔性材料を用いることは、従来より周知である(必要ならば、周知例1の段落【0001】、【0034】及びFIG.8、周知例2の第3欄第37ないし62行及びFig.1並びに周知例3の第4欄第63ないし67行及びFig.2等参照)。
さらにいえばガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッドにおいて、3次元の網目状組織ではないものの、多孔性の焼結金属材料からなる金属多孔性材料を用いることも、従来より周知である(例えば、周知例4の第3欄第24ないし35行及びFig.2、周知例5の第2欄第34ないし40行並びに第5欄第33ないし36行及びFig.2等参照)。以上のように、ガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッドに用いる金属多孔材料として3次元の網目状組織からなる円筒又は円柱形状の金属多孔性材料を用いるか、多孔性の焼結金属材料を用いるかは、いずれも周知であるから、当業者が消音効果を考慮しつつ適宜選択し得る事項であるともいえる。
よって、請求項1に係る発明は、引用文献1ないし3に記載の技術思想及び周知技術から当業者が容易になし得たものである。

・請求項 2及び3
・引用文献等 1ないし3
・備考
噴射されたガスの騒音を低減するための消音器の技術分野において、金属多孔性材料の空隙の孔径を、気体が流通する方向に変化させるようにすることや、気体が流通する方向に小さくすることは、従来より周知である(必要ならば、引用文献4の段落【0034】、【0066】ないし【0071】及び図2、引用文献5の段落【0031】並びに引用文献6の段落【0043】等参照)。
よって、請求項2及び3に係る発明は、引用文献1ないし3に記載の技術思想及び周知技術から当業者が容易になし得たものである。

・請求項 4
・引用文献等 1ないし3及び7
・備考
引用文献7については、ガス系消火装置用ノズルの放出口の先にデフレクタが設けられている例を参照のこと(例えば請求項1等参照)。
よって、請求項4に係る発明は、引用文献1ないし3及び7に記載の技術思想及び周知技術から当業者が容易になし得たものである。

2 原査定の理由の判断
(1) 引用文献
(1-1) 引用文献1の記載
引用文献1(特表2003-530922号公報)には、「排出ノズル」に関し、図面とともに次の記載がある。

a「【0001】
発明の技術分野
本発明は、低酸素濃度環境を利用して燃焼する火災を瞬時に消火し、火災の発生を防止する火災防止システム及び火災抑止システムの方法、装置及び組成物に属する。」(段落【0001】)

b「【0091】
図10は、火災抑止モードで設置されたビルFirePASSを備える多層建築物101の概略図である。
【0092】
建築物101の屋根に設置される大型なFirePASSブロック(ハイポキシコ社から市販)は、周辺空気から酸素を抽出して低酸素濃度空気(又は消火剤)を供給する低酸素空気発生装置102を備える。低酸素空気発生装置102は、圧縮機103に連結して、貯蔵容器104に高圧で低酸素濃度空気を供給する。そこで一旦、約200バールの一定圧力で貯蔵容器104内に低酸素濃度空気が保持される。
【0093】
図10に示すように、エレベータシャフトの外部又は内部の何れかに沿って建築物の全体にわたり、各階に排出ノズル106を有する垂直火災抑止剤供給管105を設置できる。排出ノズル106は、高圧火災抑止剤の放出により生じる騒音を減少させる消音器を備えている。
【0094】
火災が検知されると、中央制御盤からの信号により、放出弁107の開放が開始され、貯蔵された低酸素濃度空気(火災抑止剤)を分配管105内に圧送する。FirePASSが迅速な反応時間で対応すれば、火災を検知した階に呼吸可能な火災抑止環境を形成すれば十分のはずである。しかしながら、付加的な予防措置として、低酸素濃度薬剤を隣接階にも放出すべきである。ビル用FirePASSは、十分な量の低酸素火災抑止剤(酸素含有率10%以下で)を所望の階に放出して、約12%-15%の酸素含有率を有する呼吸可能な火災抑止大気を形成する。
【0095】
低酸素濃度大気の正圧は、確実に全部屋に浸透して、あらゆる室の火元を瞬時に鎮火する。また、隣接する階に低酸素濃度環境を形成することにより、建築物の上部に火災が拡大しない。本システムの重要な長所は、現在、適当な場所に配置された(例えばスプリンクラシステム、気体火災抑止システム等により使用される)火災検出装置/消火装置を容易に組み込める点にある。
【0096】
図10の下部に示すように、独立した階に個々のフロアFirePASSに接続した個々の火災検出システムを設けてもよい。高圧の低酸素濃度気体容器108は、各室に排出ノズルを有する分配管109を通じて階の全体にわたって低酸素薬剤を放出できる。約12%?15%の酸素含有率を有する安全な呼吸可能大気を各室に確立すれば、非常に低濃度の酸素の貯蔵気体を使用して、容器の貯蔵圧力及びサイズを減少できる。低酸素火災抑止薬剤を有する独立する消火装置を建築物の選択された室で使用できる。図12についてこの装置を後述する。」(段落【0091】ないし【0096】)

(1-2) 上記(1-1)及び図面の記載から分かること
上記(1-1)及び図10の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。

c 上記(1-1)a及びb並びに図10の記載から、排出ノズル106は、高圧火災抑止剤を使用する、燃焼する火災を瞬時に消火する火災抑止システムに備えられていることが分かる。

d 上記(1-1)b及び図10の記載から、排出ノズル106は、建築物の各階に高圧火災抑止剤の放出するために設置され、高圧火災抑止剤の放出により生じる騒音を減少させる消音器を備えていることが分かる。

e 上記(1-1)b及び図10の記載から、排出ノズル106は、高圧火災抑止剤が供給される垂直火災抑止剤供給管105に接続されていることが分かる。

(1-3) 引用文献1記載の発明
上記(1-1)及び(1-2)並びに図10の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1記載発明」という。)が記載されているといえる。

「高圧火災抑止剤を使用する燃焼する火災を瞬時に消火する火災抑止システムにおいて、建築物の各階に高圧火災抑止剤を放出するために設置される排出ノズル106に消音器を備え、消音器が、高圧火災抑止剤が供給される垂直火災抑止剤供給管105に接続された排出ノズル106に設けられている、
燃焼する火災を瞬時に消火する火災抑止システム用の消音器を備えている排出ノズル106」

(2-1) 引用文献2記載の事項
引用文献2(実願昭57-000408号(実開昭58-103100号)のマイクロフィルム)には、「空気パージ用消音器」に関し、図面とともに次の記載がある。

f「本考案は、空気パージ用消音器に関するものであつて、比較的簡単な構成で優れた消音効果を発揮する新規な消音器を提供するものである。」(明細書第1ページ14行ないし16行)

g「第1図は、本考案の一実施例を示す構成説明図であつて、1はケース、2はノズル、3はスペーサ、4はキヤツプ、5,6は仕切板、7は吸音材、8は整流板、9は取付部材、10は機器本体である。
ケース1は筒状に形成されていて、一端にはパージ用の空気の入力部が設けられ、他端には内部に入力された空気の出力部が設けられている。本実施例では、入力部としてノズル2が設けられ、出力部として環状に形成されたキヤツプ4が設けられている。」(明細書第2ページ17行ないし第3ページ7行)

h「吸音材7は、通気性を有するものであつて、仕切板5,6間に充填されている。このような吸音材7としては、ガラス繊維や石綿等が好適である。」(明細書第3ページ20行ないし第4ページ2行)

(2-2) 引用文献2記載の技術
上記(2-1)fないしh及び第1図の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。
「ノズル2の出口とガラス繊維または石綿等からなる吸音材7とが接するように配設した空気パージ用消音器。」

(3-1) 引用文献3記載の事項
引用文献3(実願昭62-173681号(実開平01-078216号)のマイクロフィルム)には、「サイレンサー」に関し、図面とともに次の記載がある。

g「この考案は、液化ガス、圧縮ガス等を貯蔵するタンクや、タンクローリー車、ガスボンベ等の貯槽より、ガスを排出するに際して用いられる騒音抑制用のサイレンサーに関する。」(明細書第1ページ18行ないし第2ページ2行)

h「以下、この考案を具体的に説明すると、消音部材は多孔性材料からなるものであり、多孔性材料としては多孔性の焼結金属、メッシュ状に成形したセラミックス、さらには多孔性を有するケイ酸カルシウム等の無機材料からなる成形体などが使用され、なかでも機械強度が高く、成形性にも優れていることなどから焼結金属が好適に用いられる。また、消音部材の形状は、貯槽の排出口に取り付けられた際、この排出口を覆える形であればよく、有蓋中空筒体状、半球面状、板状などのものとされる。」(明細書第4ページ8行ないし第4ページ18行)

(3-2) 引用文献3記載の技術
上記(3-1)g及びh並びに第1図の記載から、引用文献3には、次の技術(以下、「引用文献3記載の技術」という。)が記載されているといえる。
「貯槽よりガスを排出するに際して用いられる、多孔性の焼結金属からなる消音部材を備えたサイレンサー。」

(4-1) 対比・判断

本願発明と引用文献1記載の発明とを対比すると、
引用文献1記載の発明における「高圧火災抑止剤」は、その機能、構成及び技術的意義から、本願発明における「消火剤ガス」に相当し、以下同様に、「燃焼する火災を瞬時に消火する火災抑止システム」は「ガス系消火設備」に、「建築物の各階」は「消火対象区画」に、「排出ノズル106」は「噴射ヘッド」に、「消音器」は「消音手段」に、「垂直火災抑止剤供給管105」は「配管」にそれぞれ相当する。
また、消音器が消音機能を有することは明らかであるから、引用文献1記載の発明における「消音器を備えている排出ノズル106」は「消音機能を有する噴射ヘッド」に相当する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「消火剤ガスを使用するガス系消火設備において消火対象区画に消火剤ガスを放出するために設置される噴射ヘッドに消音手段を備え、該消音手段が、消火剤ガスが供給される配管に接続された噴射ヘッドに設けられた、
ガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッド。」

<相違点1>
本願発明においては「消音手段」が「消火剤ガスが供給される配管に接続された噴射ヘッドに設けられた複数個のオリフィス」と「オリフィスを通過した気体が流通可能な3次元の網目状組織からなる円筒又は円柱形状の気流の乱れをなくす金属多孔性材料」とからなるのに対し、引用文献1記載の発明においては「消音器」がどのような構成なのか不明な点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
本願発明においては「消音手段」を構成する「金属多孔性材料」が「中心部に3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料と、外周部に中心部の金属多孔性材料より空隙の孔径が小さな3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料とを層状に、かつ、中心部の金属多孔性材料がオリフィスの出口部に接して配設してなり、外周部の金属多孔性材料の外側円周面のすべてが大気に開放されて」なるのに対し、引用文献1記載の発明においては「消音器」がどのような構成なのか不明な点(以下、「相違点2」という。)。

<相違点3>
本願発明においては「消音手段」を構成する「金属多孔性材料」「の端面に接して円板形状のデフレクタを設けて」なるのに対し、引用文献1記載の発明においては「消音器」がどのような構成なのか不明な点(以下、「相違点3」という。)。

事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。

<相違点2について>
引用文献2記載の技術における「ノズル2の出口とガラス繊維または石綿等からなる吸音材7とが接するように配設した空気パージ用消音器」は、吸音材7が金属多孔性材料であるのか不明であるとともに、吸音材7が中心部と外周部とで異なる材料または特性で層状に形成されたものではない。
また、引用文献3記載の技術における「貯槽よりガスを排出するに際して用いられる、多孔性の焼結金属からなる消音部材を備えたサイレンサー」は、消音部材が多孔性の焼結金属からなるものであるが、消音部材が中心部と外周部とで異なる材料または特性で層状に形成されたものではない。

すなわち、引用文献2記載の技術及び引用文献3記載の技術はいずれも、相違点2に係る本願発明の発明特定事項のうちの、「金属多孔性材料」が「中心部に3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料と、外周部に中心部の金属多孔性材料より空隙の孔径が小さな3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料とを層状に」「配設してなり」という事項に対応する構成を備えていない。

したがって、引用文献1記載の発明において、引用文献2記載の技術及び引用文献3記載の技術を適用して、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

よって、相違点1及び3について検討するまでもなく、本願発明は、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術及び引用文献3記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)まとめ
本願発明は、引用文献1記載の発明、引用文献2記載の技術及び引用文献3記載の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

「理由1
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

理由2
この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



<理由1について>
本件出願の請求項1に係る発明は、「複数個のオリフィスと、該オリフィスの出口部に接して配設した・・・金属多孔性材料とからなり、かつ、該金属多孔性材料が、中心部に3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料と、外周部に中心部の金属多孔性材料より空隙の孔径が小さな3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料とを層状に配してなり、」という構成を有している。
そして、この構成によれば、複数個のオリフィスの出口部に接して配設した金属多孔性材料としては、中心部に3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料と外周部に中心部の金属多孔性材料より空隙の孔径が小さな3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料の双方が含まれる(例えば、【図8】(a)のような金属多孔性材料において、金属多孔性材料7bの厚みをオリフィス2の出口に接する程度まで厚くしたものも含まれる。)。

しかしながら、段落【0050】ないし【0052】によると、実際に比較試験を行ったのは、「複数個のオリフィス2を備え、その出口に、中心部に空隙の孔径が大きな3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料7aを、外周部にそれより空隙の孔径が小さな金属多孔性材料7bを層状に配して構成した円板形状の多孔性の気流の乱れをなくす材料7を配設したもの」のみであって、複数個のオリフィス2の出口に、金属多孔性材料7aより空隙の孔径が小さな金属多孔性材料7bを配設したものについて、比較試験結果が示されておらず、騒音が一層低減される理由も説明されていない。
要すれば、明細書及び図面には、オリフィス2の出口部に金属多孔性材料7bを接して配設したものは記載されていない。
したがって、出願時の技術常識に照らしても、請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。

<理由2について>
本件出願の請求項1に係る発明は、「複数個のオリフィスと、該オリフィスの出口部に接して配設した・・・金属多孔性材料とからなり、かつ、該金属多孔性材料が、中心部に3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料と、外周部に中心部の金属多孔性材料より空隙の孔径が小さな3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料とを層状に配してなり、」という構成を有している。
しかしながら、該構成ではオリフィスの出口部に接して配設するのが、中心部に3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料なのか、外周部に中心部の金属多孔性材料より空隙の孔径が小さな3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料なのかが不明である。
また、段落【0050】ないし【0052】によると、実際に比較試験を行ったのは、「複数個のオリフィス2を備え、その出口に、中心部に空隙の孔径が大きな3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料7aを、外周部にそれより空隙の孔径が小さな金属多孔性材料7bを層状に配して構成した円板形状の多孔性の気流の乱れをなくす材料7を配設したもの」のみであって、複数個のオリフィス2の出口に、金属多孔性材料7aより空隙の孔径が小さな金属多孔性材料7bを配設したものについて、比較試験結果が示されておらず、騒音が一層低減されるのか否かも不明である(なお、【図8】aのような金属多孔性材料において、オリフィス2の出口に金属多孔性材料7bを配設した場合、ほとんどの消火剤ガスが金属多孔性材料7bのみを通過して外側円周面から大気中に放出されるのであるから、段落【0051】の比較対象と、材料が金属多孔性材料7aと金属多孔性材料7bとの違いはあるが、同程度の騒音が発生すると考えるのが、合理的かつ自然である。)。
要すれば、請求項1に係る発明に、オリフィスの出口部に中心部に3次元の網目状組織からなる金属多孔性材料を接して配設した以外のものが含まれる場合、明確でない。
したがって、請求項1に係る発明は明確でない。」

2 当審拒絶理由についての判断
平成28年4月6日に提出された手続補正書による補正により、当審拒絶理由において記載不備を指摘した請求項1に「前記中心部の金属多孔性材料が前記オリフィスの出口部に接して配設」という記載が追加される補正がされたので、本願の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した発明になるとともに、明確となった。
よって、当審拒絶理由1及び2は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由を検討しても、その理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-05-31 
出願番号 特願2010-105342(P2010-105342)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (A62C)
P 1 8・ 121- WY (A62C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
梶本 直樹
発明の名称 ガス系消火設備用の消音機能を有する噴射ヘッド  
代理人 森 治  

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