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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1315248
審判番号 不服2014-20471  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-10-09 
確定日 2016-06-01 
事件の表示 特願2010-536354「経口で分散可能な錠剤」拒絶査定不服審判事件〔平成21年6月11日国際公開、WO2009/071219、平成23年3月3日国内公表、特表2011-506279〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2008年11月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2007年12月8日、欧州特許庁(EP))を国際出願日とする出願であって、平成25年6月21日付けで拒絶理由が通知され、同年10月15日付け意見書及び手続補正書が提出されたが、平成26年6月4日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月9日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、平成25年10月15日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
有効量の少なくとも1種の医薬活性物質、非水溶性部分、界面活性剤および崩壊剤を、医薬活性物質、界面活性剤および崩壊剤中に含まれる非水溶性部分を含めた総非水溶性部分が錠剤全体の少なくとも50%(w/w)を占め、かつ錠剤が口腔内で崩壊可能または分散可能であるように含む、経口投与用の非発泡性錠剤であって、該医薬活性物質が、結晶または凝集物形態のアカルボース、ミグリトールおよびボグリボースから選択され、125μm-800μmの粒径を有する、錠剤。」

第3 引用例、周知例、及びそれらの記載事項
1 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前である平成18年11月2日に頒布された「特表2006-524650号公報」(原査定の引用文献5。以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。なお、以下、下線は当審で付したものである。

(1a)「【請求項27】
実質的に50%?90%のケイ化微結晶セルロース、0%?20%の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、潤滑剤、及び有効量の医薬活性物質からなり、インビトロ崩壊試験において試験したとき1?15秒以内に崩壊を示す、口腔内崩壊性医薬錠剤。」

(1b)「【0010】
口腔内崩壊の問題とは別に、特に直接圧縮錠剤製剤において、微結晶セルロースが結合剤として使用されてきた。修飾形態の微結晶セルロースは、米国特許第5,585,115号において教示されており、微結晶セルロースを二酸化ケイ素と共処理して緊密な混合物を形成する。そのような修飾セルロースはケイ化微結晶セルロースと称される。米国特許第5,585,115号によれば、ケイ化微結晶セルロースは、特に湿式造粒条件下で、高い圧縮率特性を有しており、それによってこの物質を極めて多様な錠剤形成工程における結合剤又は希釈剤としてより魅力的なものとする。ケイ化微結晶セルロースはPROSOLVの商標名でPenwestから市販されている。」

(1c)「【0017】
本発明は、ケイ化微結晶セルロースを使用して口腔内崩壊錠剤を提供することができるという驚くべき発見に関する。この能力は、前記で引用した先行特許開示からは既知ではなかった。実際に、ケイ化微結晶セルロースは水不溶性の錠剤マトリックス形成賦形剤であるので、口腔内崩壊を提供する上でのその使用は、口腔内崩壊錠剤についての当分野における従来のアプローチに反する。本発明の口腔内崩壊錠剤は、典型的には、少なくとも30%、典型的には50%?90%、より典型的には60%?80%の量で、マトリックス形成賦形剤としてケイ化微結晶セルロースを含む。」

(1d)「【0020】
ケイ化微結晶セルロース(・・・)は、・・・。例えば、ProSolv 50及びProSolv 90(Penwest)は、それぞれ50及び90ミクロンの平均粒径を有する市販のケイ化(2%SiO_(2))微結晶セルロースであり、本発明において好都合に使用される。意外にも、ProSolv 50はProSolv 90に比べて口腔内での味/触感が劣る。そこで、おそらくこの見通しから、75?125ミクロンの範囲内、特に約90ミクロンの平均粒径を有するケイ化微結晶セルロースが好ましい。」

(1e)「【0022】
崩壊剤の一例は、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、特に米国薬局方において定義される低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L-HPC)である。他の適切な崩壊剤は、グリコール酸デンプンナトリウム、カルボキシメチルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン及びデンプンを含む。崩壊剤は水溶性又は水不溶性でもよいが、典型的には、その崩壊能力の原因となる、水膨張性である。崩壊剤は非吸湿性であり得る。好ましくは、崩壊剤は水溶性ではない。」

(1f)「【0023】
口腔内崩壊に影響を及ぼし得るもう1つの賦形剤は潤滑剤である。より速い崩壊速度を促進する傾向がある好ましい潤滑剤は、ステアリルフマル酸ナトリウムであるが、ステアリン酸マグネシウムなどの他の潤滑剤も使用できる。一般に、潤滑剤は吸湿性であるべきである。」

(1g)「【0027】
崩壊特性に全く又はほとんど影響を及ぼさないと考えられる付加的な補助賦形剤が錠剤組成物中に存在してもよい。補助賦形剤の例は、矯味剤、安定剤、天然又は人工甘味料(例えばアスパルテーム)、香味料(例えばミントフレーバー)、防腐剤及びpH調整剤を含む。他の補助賦形剤も必要に応じて使用してもよい。糖、糖アルコール又はポリオル(例えばマンニトール)などの、他の口腔内崩壊錠剤において一般的に使用される水溶性充填剤及び結合剤は存在する必要がなく、好ましくは排除される。それらは、小量で、例えば一般に5%未満、好ましくは1%未満、最も好ましくは0%で存在し得る。実際に、好ましい実施形態では、いかなる種類の水溶性賦形剤も、錠剤の総質量の10%以下、より好ましくは5%以下、より典型的には3%以下に制限され、一部の実施形態では0%である。」

(1h)「【0028】
同様に、炭酸カルシウムのような発泡性賦形剤は本発明の組成物中に存在する必要がなく、好ましくは排除される。」

(1i)「【0034】
単独で又は組合せとして、本発明の錠剤中に製剤し得る医薬有効成分の例示的な非制限的例は以下を含む。イブプロフェン、アセトアミノフェン、ピロキシカム(抗炎症薬)、レフルノミド(抗リウマチ薬)、オンダンセトロン、グラニセトロン(鎮吐薬)、パラセタモール(鎮痛薬)、カルバマゼピン、ラモトリジン(抗てんかん薬)、クロザピン、オランザピン、リスペリドン、シタロプラム、パロキセチン、セルトラリン、フルオキセチン、フルボキサミン(抗精神病薬/抗うつ薬)、ゾピクロン、ゾルピデム(催眠薬)、シメチジン、ラニチジン、オメプラゾール(抗潰瘍薬)、メトクロプラミド、シサプリド、ドンペリドン(運動促進剤)、ザフィルルカスト、モンテルカスト(抗喘息薬)、プラミペキソール、セレギリン(抗パーキンソン病薬)、ゾルピデム、ゾピクロン(催眠薬)、ドキサゾシン、テラゾシン、アテノロール、ビソプロロール、アムロジピン、ニフェジピン、ジルチアゼム、エナラプリル、カプトプリル、ラミプリル、ロサルタン(心臓血管薬)、グリセロールトリニトレート(血管拡張薬)、アルフゾシン、フィナステリド(泌尿器科薬)、プラバスタチン、アトロバスタチン、シンバスタチン、ゲンフィブロジル(血中脂質低下薬)、メトホルミン(抗糖尿病薬)、テルフェナジン、ロラタジン(抗ヒスタミン薬)、セレコキシブ、リフェコキシブ、リバスチグミン。
【0035】
オランザピン、パロキセチン、ゾルピデム、モンテルカスト、ピオグリタゾン、ドネペジル、アムロジピン、アナストロゾール、ピオグリタゾンは、それらの不快な味を隠すために被覆による前処理を適用し得る活性物質の例である。」

2 原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前である平成17年6月16日に頒布された「特表2005-517690号公報」(原査定の引用文献6。以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(2a)「【請求項1】
(a)噴霧乾燥によって形成された固体分散物であって、低溶解度薬物及び濃度向上ポリマーを含んでなり、当該ポリマーが、本質的に同等量の当該薬物単独からなる対照組成物と比較して使用環境における当該薬物の濃度を向上させるのに十分な量で当該分散物中に存在する固体分散物を、少なくとも30重量%;
(b)崩壊剤を少なくとも5重量%;及び
(c)ポロシゲン(porosigen)
を含んでなり、崩壊媒体への導入後10分以下で崩壊する高負荷即時放出剤形。
・・・
【請求項12】
薬物が、抗高血圧剤、抗不安剤、抗凝固剤、抗痙攣剤、血糖低下剤、鬱血除去剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳剤、抗新生物剤、ベータ遮断剤、抗炎症剤、抗精神病剤、向知性剤、抗アテローム性動脈硬化症剤、コレステロール減少剤、抗肥満剤、自己免疫性疾患剤、抗インポテンス剤、抗細菌及び抗真菌剤、催眠剤、抗パーキンソン病剤、抗アルツハイマー病剤、抗生物質、抗鬱剤、抗ウイルス剤、グリコーゲンホスホリラーゼ阻害剤、並びにコレステロールエステル運搬タンパク質阻害剤からなる群から選択される、請求項1-4のいずれか1項に記載の剤形。」

(2b)「【0006】
理想的な即時放出剤形のためには、剤形は、固体状態において高い強度及び耐久性を有していなければならないが、摂取された場合には、錠剤は迅速に崩壊し、そして薬物を分散しなければならない。・・・」

(2c)「【0108】
本発明の剤形はポロシゲンも含む。“ポロシゲン(porosigen)”は、固体非晶質分散物を含有する製剤中に存在した場合、配合物の錠剤への圧縮後に高い空隙率及び高い強度をもたらす物質である。・・・ポロシゲンの例は・・・微結晶セルロース・・・を包含する。これらの中で、微結晶セルロース、両方の形態の二塩基性リン酸カルシウム(無水物及び二水和物)、及びこれらの混合物が好ましい。・・・」

(2d)「【0117】
好ましい態様において、即時放出剤形は、固体非晶質分散物、崩壊剤、及びポロシゲンを含んでなり、崩壊剤は、クロスポビドン、クロスカルメロースナトリウム、低級アルキル置換ヒドロキシプロピルセルロース及びこれらの混合物から選択され、そしてポロシゲンは、微結晶セルロース、二塩基性リン酸カルシウム(無水物及び/又は二水和物)及びこれらの混合物から選択される。・・・
【0118】
他の慣用的な製剤賦形剤も本発明の剤形に使用することができ、それには、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(18th ed.1990)に記載されているような当該技術分野において周知の賦形剤を含まれる。一般的に、界面活性剤、pH改善剤、充填剤、マトリックス物質、複合化剤、可溶化剤、顔料、潤滑剤、滑剤、芳香剤等のような賦形剤は、組成物の特性に不都合な影響を与えることなく、慣習的な目的で、典型的な量で使用することができる。
【0119】
一つの非常に有用な賦形剤の群は、界面活性剤であり、好ましくは0ないし10重量%存在する。適した界面活性剤は・・・ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(・・・TWEEN(登録商標)・・・)のような商業的な界面活性剤;・・・を包含する。このような物質を、例えば湿潤化を促進することによって溶解速度を増加し、又はさもなければ剤形からの薬物の放出の速度を増加するために、好都合に使用することができる。
・・・
【0122】
表面活性剤の例は、ラウリル硫酸ナトリウム及びポリソルベート80を包含する。
・・・
【0123】
潤滑剤の例は・・・ステアリルフマル酸ナトリウム・・・を包含する。」

(2e)「【0149】
[実施例7-9]
・・・実施例1の分散物を、20%の特別(extra)顆粒状微結晶セルロース(AVICEL PH102)か、20%の微結晶セルロース及びコロイド状二酸化ケイ素の混合物(PROSOLV 90)か、又は20%の無水の二塩基性リン酸カルシウム(EMCOMPRESS)とともに、全て乾燥顆粒化配合物として潤滑剤なしで製剤した。・・・
・・・
【実施例8】
【0151】
実施例8においては、70重量%の実施例1の分散物、20.0重量%のProsolv 90及び10.0重量%のクロスポビドンを含有する即時放出錠剤を実施例7のように製造した。
・・・
【0155】
表3に報告されている値から明白であるように、実施例7-9の錠剤の全ては、水性の使用環境において迅速に崩壊した。・・・」

3 本願の優先権主張の日前から知られていた周知の事項を示す、「特表2006-528243号公報」(原査定の引用文献4。以下、「周知例A」という。)には、次の事項が記載されている。

(A1)「【請求項1】
頬腔で急速に溶けることが可能な錠剤であって、多数の高可塑性顆粒を含んでおり、前記顆粒が多孔性の可塑性物質と、透水向上剤と、結合剤とを含んでいる、前記錠剤。
・・・
【請求項21】
さらに、界面活性剤、超崩壊剤、超多孔性ヒドロゲル粒子、発泡剤、滑沢剤、着香剤、および着色剤からなる群から選ばれた少なくとも一つの追加成分を含んでいる、請求項1の錠剤。」

(A2)「【0067】
有効医薬成分
本発明は個別にここで言及するには膨大すぎる広範囲の有効医薬成分と共に使用できる。たとえば、本発明の速く溶ける錠剤の中に配合することができる代表的なクラスの薬物は以下のものを包含する:
・・・
【0071】
・・・;
カルシウムチャンネル遮断剤・・・たとえばアムロジピン・・・;
・・・
【0072】
抗うつ薬・・・たとえば・・・パロキセチン・・・;
抗精神病薬・・・たとえば・・・オランザピン・・・リスペリドン・・・;
不安寛解剤・・・、鎮静剤・・・、および催眠薬・・・たとえば・・・ゾルピデム・・・;
【0073】
神経変性疾患治療薬・・・たとえば・・・ドネペジル・・・プラミペキソール・・・;
・・・
制吐薬・・・たとえば・・・オンダンセトロン・・・;
【0074】
・・・
抗糖尿病薬・・・たとえばアカルボース・・・メトホルミン・・・;
・・・
【0076】
・・・
抗喘息薬・・・たとえば・・・モンテルカストナトリウム・・・;
・・・」

4 本願の優先権主張の日前から知られていた周知の事項を示す、「特開2004-2326号公報」(原査定で周知の事項を示すために参照された文献。以下、「周知例B」という。)には、次の事項が記載されている。

(B1)「【請求項1】
α-グルコシダーゼ阻害剤、糖類、ヒドロキシプロピルセルロース、崩壊剤および結晶セルロースを含有してなる速崩壊性固形製剤。
・・・
【請求項3】
錠剤である請求項1記載の製剤。
・・・
【請求項8】
α-グルコシダーゼ阻害剤がボグリボースである請求項1記載の製剤。」

(B2)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
糖尿病治療薬として有用なα-グルコシダーゼ阻害剤を含有する速崩壊性固形製剤に関し、適度な硬度と速やかな崩壊性を有し、かつ、製造工程におけるα-グルコシダーゼ阻害剤の損失の小さい、優れた速崩壊性固形製剤の提供が求められていた。」

(B3)「【0006】
・・・該α-グルコシダーゼ阻害剤としては、例えばボグリボース、アカルボース、ミグリトール、エミグリテートなどが挙げられる。なかでも、ボグリボースが好ましい。・・・」

(B4)「【0012】
本発明の速崩壊性固形製剤は、発明の効果に支障のない限り、製剤技術分野において慣用の添加剤を適当量含んでいてもよい。
このような添加剤として、例えば賦形剤、酸味料、発泡剤、甘味料、香料、滑沢剤、着色剤、安定化剤、pH調整剤、界面活性剤などが挙げられる。
・・・
界面活性剤としては、例えばラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート80、ポリオキシエチレン(160)ポリオキシプロピレン(30)グリコールなどが挙げられる。
上記した添加剤の粒子径は、口腔内でのザラツキ感を生じにくい500μm以下であることが好ましい。・・・」

5 本願の優先権主張の日前から知られていた周知の事項を示す、「特表2002-505269号公報」(以下、「周知例C」という。)には、次の事項が記載されている。

(C1)「【請求項3】一つ又はそれ以上の水に不溶な無機賦形剤;一つ又はそれ以上の崩壊剤;及び選択的に一つ又はそれ以上の実質上水に可溶な賦形剤、前記諸成分の量及び錠剤の物理的耐性(硬度又は引張り強度)が錠剤が2%以下、なるべくなら1.5%以下最も好ましくは約1%又はそれ以下の脆さ値を有し且つ口中で約75秒以下で崩壊するのに適応するようになっている、多粒子形状の薬品より成っている口中で急速に崩壊する錠剤。
・・・
【請求項27】存在する時の実質的に水に可溶な成分が一つ又はそれ以上の下記:圧縮砂糖又は可溶性賦形剤(・・・)、調味剤、甘味剤(・・・)、pH調整剤(・・・)、結合剤(・・・)、表面活性剤(例えばソルビタンエステル、ドキュセートナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、セトリミド等)、可溶性無機塩(・・・)、である請求項1乃至26の何れか一つにでも記載の処方又は錠剤。」

(C2)「【0027】
・・・コートされた又はコートされていない薬品のマイクロカプセルは代表的には近似的に20から約1000ミクロンまでの粒子サイズ分布範囲を持つ。平均粒子サイズは例えば120乃至150ミクロン又はそれ以上、例えば200ミクロンであり得る。ざらざらさのない口内美味感覚を作るためには、700ミクロン以下の最大粒子サイズを持つ微小粒子が好まれる。・・・」

6 本願の優先権主張の日前から知られていた周知の事項を示す、「国際公開第00/48575号」(以下、「周知例D」という。)には、次の事項が記載されている。

(D1)「【請求項1】少なくとも、主薬、水に濡れやすい糖類及び崩壊剤を含む混合粉体を、水に濡れやすい糖類を含む結合剤で結合して造粒物を得て、この造粒物を圧縮成形して得られる、錠剤。
・・・
【請求項6】前記結合剤中に、更に、界面活性剤を含む、請求項1?5のいずれかに記載の錠剤。」

(D2)「技術分野
本発明は、錠剤及び錠剤の製造方法に関し、特に、口腔内において速やかに崩壊する錠剤及びそのような錠剤の製造方法に関する。」(4頁2?4行)

(D3)「(6)本発明は、請求項1?5のいずれかに記載の錠剤が、結合剤中に、更に、界面活性剤を含む、錠剤に関する。
界面活性剤としては、アニオン活性剤、カチオン活性剤、非イオン活性剤、両性活性剤であってもよく、また、これらに分類されない、プルロン(Pluron)系やポロクサマー(Poloxamer)系等の高分子活性剤のいずれでもよい。
より具体的には、アニオン活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム・・・をその好ましい例として挙げることができる。
また、非イオン活性剤としては、例えば、・・・ポリソルベート80をその好ましい例として挙げることができる。
・・・
したがって、この錠剤は、口腔内に入れると、口腔内の唾液により、結合剤中の、界面活性剤により唾液中の水の界面張力が低下するので、結合剤が水に濡れ易くなる。」(16頁1?21行)

(D4)「主薬(粒子)2としては、有効成分を含む粒子や顆粒、薬効成分を含む顆粒が機能性剤皮によりコーティングされたものや、ワックスマトリックス構造中に有効成分を分散させたものや、固体分散型顆粒等が用いられる。
尚、用いる主薬(粒子)2の粒径は、10μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましくは、20μm以上300μm以下、更に好ましくは、20μm以上200μm以下である。
主薬(粒子)2として、上記範囲内の粒径のものを使用した造粒物1aは、錠剤化が容易であり、この造粒物1aを圧縮成形した錠剤(・・・)は、口腔内での崩壊性が優れている。」(20頁3?11行)

7 本願の優先権主張の日前から知られていた周知の事項を示す、「国際公開第2007/119792号」(2007年10月25日国際公開。以下、「周知例E」という。)には、次の事項が記載されている。

(E1)「【請求項1】
エリスリトール、キシリトール、マンニトール、乳糖、ショ糖からなる群から選ばれる一種以上の矯味剤と、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、カルメロースカリウムからなる群から選ばれる一種以上の結合剤の粉体を混合し、還元麦芽糖水アメの水溶液を噴霧して得た造粒物を用いることを特徴とする乾式直打速崩壊性錠剤。」

(E2)「【0026】
この場合の本発明の乾式直打速崩壊性錠剤に用いる薬効成分としては、特に制限されるものではない。例えば・・・糖尿病薬、高脂血症治療剤・・・鎮静・催眠薬・・・胃炎用薬、制吐薬・・・等を挙げることができる。
・・・
【0032】
・・・
糖尿病用剤としては、例えば、トルブタミド、アセトヘキサミド、クロルプロパミド、グリクロピラミド、グリブゾール、グリベンクラミド、グリメピリド、塩酸ブホルミン、塩酸メトホルミン、ナテグリニド、アカルボース、ボグリボース、塩酸ピオグリタゾン、エパルレスタット等を挙げることができる。
【0033】
高脂血症治療剤としては、例えば・・・シンバスタチン・・・を挙げることができる。
・・・
鎮静・催眠薬としては、例えば・・・酒石酸ゾルピデム・・・が挙げられる。
・・・
【0037】
・・・
胃炎用薬としては、例えば・・・塩酸オンダンセトロン・・・が挙げられる。
制吐剤としては、例えば・・・塩酸オンダンセトロン・・・が挙げられる。」

8 本願の優先権主張の日前から知られていた周知の事項を示す、「国際公開第2007/026864号」(2007年3月8日国際公開。以下、「周知例F」という。)には、次の事項が記載されている。

(F1)「【0001】
本発明は、崩壊剤と水溶性塩類、具体的には、崩壊剤と2.5%濃度の水溶液pHが3?9である水溶性無機塩類の両者を配合することにより医薬品の崩壊性を改善し、崩壊時間の速い医薬組成物を製造する方法に関するものである。とりわけ、本発明は、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースと水溶性塩類を配合することにより医薬品の崩壊性を改善する方法に関するものである。・・・」

(F2)「【0024】
(薬効成分)
本発明に用いる薬効成分は、生体内で吸収されることにより治療効果を発揮するものであれば特に限定されないが、製剤中で薬効成分が電気的に中性又は正に荷電している場合が好ましい。・・・
【0025】
本発明に用いる薬効成分の具体例としては、例えば、塩酸ドネペジル・・・のような抗痴呆薬、ナテグリニド、メトホルミン、α-グリコシダーゼ阻害剤(例:ボグリボース)・・・等の糖尿病治療薬・・・が挙げられる。・・・」

9 本願の優先権主張の日前から知られていた周知の事項を示す、「特開2007-51109号公報」(平成19年3月1日公開。以下、「周知例G」という。)には、次の事項が記載されている。

(G1)「【0001】
本発明は圧縮成型製剤に関し、更に詳細には、少量で、且つ簡易に処理した添加剤を用い、速やかに崩壊するように設計された圧縮成型製剤に関し、特にこの技術を利用して、口腔内で速やかに崩壊する口腔内速崩錠等として使用される圧縮成型製剤に関する。」

(G2)「【0027】
本発明の圧縮成型製剤において、配合される薬効成分は特に限定されず、種々のものを使用することができる。例えば・・・精神神経用剤・・・高脂血症用剤・・・ホルモン剤・・・糖尿病用剤・・・等の有効成分として知られる薬効成分を配合することができる。
【0028】
このうち・・・精神神経用剤の薬効成分としては、例えば・・・オランザピン・・・リスペリドン等が・・・挙げられる。
【0029】
また・・・高脂血症用剤の場合は、例えば・・・シンバスタチン等が挙げられる。
【0030】
・・・
【0031】
更にまた、ホルモン剤としては、例えば・・・タムスロシン・・・等が、・・・糖尿病用剤としては、例えば、・・・メトホルミン、アカルボース、ボグリボース等が・・・挙げられる。」

第4 引用例に記載された発明
引用例1の上記(1a)からみて、引用例1には次の発明(以下、「引用例1発明」という。)が記載されていると認められる。

「実質的に50%?90%のケイ化微結晶セルロース、0%?20%の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、潤滑剤、及び有効量の医薬活性物質からなり、インビトロ崩壊試験において試験したとき1?15秒以内に崩壊を示す、口腔内崩壊性医薬錠剤。」

第5 対比
本願発明と引用例1発明とを対比する。

1 引用例1発明の「ケイ化微結晶セルロース」は、引用例1の上記(1b)、(1c)のとおり、PROSOLVの商標名で市販されている、水不溶性の錠剤マトリックス形成賦形剤である。
一方、本願明細書の請求項3の「該非水溶性部分が・・・ケイ化結晶セルロース・・・から選択される」との記載及び実施例の「Prosolv (SMCC 90)」との記載からみて、本願発明の「非水溶性部分」は、ケイ化結晶セルロース(Prosolv)であってよい。
よって、引用例1発明の「ケイ化微結晶セルロース」は、本願発明の「非水溶性部分」に相当する。
そして、引用例1発明の「ケイ化微結晶セルロース」は、「口腔内崩壊性医薬錠剤」中に「実質的に50%?90%」含まれるから、本願発明でいうところの「非水溶性部分」が錠剤全体の実質的に50%?90%含まれることになる。
よって、引用例1発明の「実質的に50%?90%のケイ化微結晶セルロース」は、本願発明の「医薬活性物質、界面活性剤および崩壊剤中に含まれる非水溶性部分を含めた総非水溶性部分が錠剤全体の少なくとも50%(w/w)を占め」ることに相当する。

2 引用例1発明の「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」は、引用例1の上記(1e)のとおり崩壊剤であり、本願の請求項6に、「該崩壊剤が、低置換ヒドロキシプロピルセルロース・・・からなる群から選択される、請求項1・・・に記載の錠剤」と記載されている崩壊剤とも一致する。
よって、引用例1発明の「低置換度ヒドロキシプロピルセルロース」は、本願発明の「崩壊剤」に相当する。

3 引用例1の上記(1h)には、発泡性賦形剤は好ましくは排除されることが記載されているとおり、引用例1発明には発泡性賦形剤は含まれていない。
そして、引用例1発明の「インビトロ崩壊試験において試験したとき1?15秒以内に崩壊を示す、口腔内崩壊性医薬錠剤」とは、錠剤が、ケイ化微結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどを口腔内で崩壊可能であるように含むことを意味することは明らかである。
よって、引用例1発明の、ケイ化微結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどを含む、「インビトロ崩壊試験において試験したとき1?15秒以内に崩壊を示す、口腔内崩壊性医薬錠剤」は、本願発明の、非水溶性部分、崩壊剤などを、「錠剤が口腔内で崩壊可能または分散可能であるように含む、経口投与用の非発泡性錠剤」に相当する。

4 引用例1発明の「有効量の医薬活性物質」は、本願発明の「有効量の少なくとも1種の医薬活性物質」であって、「該医薬活性物質が、結晶または凝集物形態のアカルボース、ミグリトールおよびボグリボースから選択され、125μm-800μmの粒径を有する」ものと、「有効量の少なくとも1種の医薬活性物質」である点で共通する。

5 引用例1発明には、「潤滑剤」が含まれているところ、その具体例として、引用例1の上記(1f)に、「ステアリルフマル酸ナトリウム」が例示されている。
そして、本願発明の錠剤は、その他の成分を含んでよいものであり、本願発明の実施例でも、「錠剤は、所定の成分(滑沢剤フマル酸ステアリルNaを除く)を・・・混合することにより得ることができる。・・・活性物質としてのアカルボースの場合、アカルボースを0,5%(w/w)フマル酸ステアリルNaと予め混合し、圧縮する。」(【0032】)と記載されているとおり、滑沢剤(審決注:潤滑剤と同義)であるフマル酸ステアリルNaが配合されている。
よって、引用例1発明に「潤滑剤」が含まれていることは、本願発明との相違点とはならない。

6 以上のことから、両発明は、次の一致点及び相違点1?2を有する。

一致点:
「有効量の少なくとも1種の医薬活性物質、非水溶性部分および崩壊剤を、医薬活性物質および崩壊剤中に含まれる非水溶性部分を含めた総非水溶性部分が錠剤全体の少なくとも50%(w/w)を占め、かつ錠剤が口腔内で崩壊可能であるように含む、経口投与用の非発泡性錠剤。」である点

相違点1:
本願発明では、さらに「界面活性剤」を含むのに対し、引用例1発明では、これを含まない点

相違点2:
「有効量の少なくとも1種の医薬活性物質」について、本願発明では、「結晶または凝集物形態のアカルボース、ミグリトールおよびボグリボースから選択され、125μm-800μmの粒径を有する」ものに特定しているのに対し、引用例1発明では、そのように特定していない点

第6 判断
そこで、上記相違点1?2について検討する。

1 相違点1について
引用例1の上記(1g)には、「崩壊特性に全く又はほとんど影響を及ぼさないと考えられる付加的な補助賦形剤が錠剤組成物中に存在してもよい。補助賦形剤の例は、矯味剤、安定剤、天然又は人工甘味料(例えばアスパルテーム)、香味料(例えばミントフレーバー)、防腐剤及びpH調整剤を含む。他の補助賦形剤も必要に応じて使用してもよい。」と記載されているように、引用例1発明に、周知の賦形剤をさらに添加してもよいことが記載されている。
そして、引用例1発明と同様に、医薬活性物質と崩壊剤及びケイ化微結晶セルロースを含み、崩壊性錠剤に関する引用例2(上記(2a)、(2b)、(2c)、(2e))には、他の慣用的な製剤賦形剤も使用することができることが記載されている(上記(2d))。
また、引用例2には、界面活性剤、pH改善剤、可溶化剤、潤滑剤、芳香剤などの賦形剤は、崩壊性錠剤の特性に不都合な影響を与えないこと、有用な賦形剤としては、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの界面活性剤が挙げられ、湿潤化を促進することで溶解速度を増加し、あるいは剤形からの薬物の放出の速度を増加するために好都合に使用することができることが示されている(上記(2d))。
また、周知例A?D(上記(A1)、(B4)、(C1)、(D1)?(D3))にあるように、崩壊性錠剤において、賦形剤として界面活性剤を採用し得ることは、本願の優先権主張の日前から当業者に周知の事項である。
よって、引用例1発明について、さらに界面活性剤を含むものとすることは、引用例2及び周知の事項に基づき、当業者が容易になし得たことである。

2 相違点2について
(1)引用例1には、錠剤中に製剤し得る医薬活性物質の限定されない例として、様々な薬が例示され、その中には、メトホルミン(抗糖尿病薬)も記載されている(上記(1i))。
そして、崩壊性錠剤に製剤化し得る医薬活性物質として、引用例1に、鎮吐薬、抗精神病薬/抗うつ薬、催眠薬、血中脂質低下薬などとして例示されている薬と同様に、抗糖尿病薬としてメトホルミン以外のアカルボースなども採用し得ることは、上記周知例A、E?G(上記(A2)、(E1)、(E2)、(F1)、(F2)、(G1)、(G2))に記載されているとおり、本願の優先権主張の日前から当業者に周知の事項である。そして、具体的にボグリボースを有効成分とする口腔内崩壊錠剤も上記周知例B(上記(B1)?(B3))に記載されている。

(2)引用例1には、医薬活性物質の具体的な粒径の範囲については記載されていないが、ケイ化微結晶セルロースについて、口腔内での味や触感の観点から、75?125ミクロンの範囲内、特に約90ミクロンの平均粒径を有するケイ化微結晶セルロースが好ましいと記載している(上記(1d))。
そして、崩壊性錠剤では、錠剤を構成する成分について、結合剤や賦形剤のみならず、医薬活性物質に関しても、打錠性、崩壊性、あるいは口腔内での味や感触の観点から、その好ましい粒径を検討すること、その際の粒径が、本願発明で特定されている125μm-800μmの範囲内の程度であることは、上記周知例B?D(上記(B4)、(C2)、(D4))に記載されているとおり、本願の優先権主張の日前から当業者に周知の事項である。

(3)アカルボースなどの抗糖尿病薬を錠剤に製剤化する際に、これらを結晶又は凝集物形態で適宜の粒径を有するものとして配合することは、当業者に自明なことである。
よって、引用例1発明において、医薬活性物質として、結晶又は凝集物形態のアカルボース、ミグリトール及びボグリボースから選択され、125μm-800μmの粒径を有するものを採用することは、周知の事項に基づき、当業者が容易になし得たことである。

3 本願発明の効果について
本願明細書には、本願発明の効果について明確に記載されたところはないが、(1)総非水溶性部分が錠剤全体の少なくとも50%(w/w)を占めること、(2)界面活性剤を含むこと、(3)医薬活性物質が、結晶又は凝集物形態のアカルボース、ミグリトール及びボグリボースから選択され、125μm-800μmの粒径を有することにより、(1)発泡剤や急速に可溶な特化した錠剤補助剤を使用することなく、崩壊錠剤を得ることができ(【0003】、【0006】)、(2)口腔内の水性媒体の粘性を減ずることができ(【0005】、【0010】)、(3)可溶性薬物物質の崩壊時間、内容物の均一性及び錠剤の硬度に関して有利であり得る(【0031】)ことが説明されていると解される。
そこで、これらについて検討するに、(1)引用例1においても、発泡剤や急速に可溶な錠剤補助剤を使用することなく、崩壊錠剤が得られており、(2)周知例Dに、界面活性剤により唾液中の水の界面張力が低下して、結合剤が水に濡れ易くなることが記載されているように(上記(D3))、界面活性剤を配合したことにより予測される効果であり、(3)医薬活性物質の粒径は、可溶性薬物であるか否かに係わらず、崩壊錠剤で当然検討することであって、通常採用される粒径である。
そして、本願明細書の実施例及び他の記載を参酌しても、本願発明の発明特定事項とすることにより、当業者が予測し得ない効果を奏したものということはできない。

4 まとめ
したがって、本願発明は、引用例1発明と引用例2及び周知の事項に基づき、当業者が容易になし得たことである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本願の請求項1に係る発明は、引用例1及び引用例2に記載された事項及び周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-28 
結審通知日 2016-01-05 
審決日 2016-01-18 
出願番号 特願2010-536354(P2010-536354)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 澤田 浩平  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 齊藤 光子
関 美祝
発明の名称 経口で分散可能な錠剤  
代理人 重森 一輝  
代理人 市川 英彦  
代理人 川嵜 洋祐  
代理人 小野 誠  
代理人 城山 康文  
代理人 今藤 敏和  
代理人 坪倉 道明  
代理人 金山 賢教  
代理人 安藤 健司  
代理人 櫻田 芳恵  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 青木 孝博  

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