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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N |
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管理番号 | 1315251 |
審判番号 | 不服2014-21590 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-10-24 |
確定日 | 2016-06-01 |
事件の表示 | 特願2011-207361「結核菌感染の予防または治療のための新規方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月 5日出願公開、特開2012- 65650〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、2006年(平成18年)4月27日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年4月29日 米国、2006年2月27日 米国)とする特願2008-508169号の一部を、特許法第44条第1項の規定により新たな特許出願としたものであって、その請求項1?8に係る発明は、平成26年10月24日付手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される発明であると認める。 その内、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下の事項により特定される発明である。 「【請求項1】 配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる、ポリペプチド。」 第2 引用例 1.原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前の2004年9月2日に頒布された刊行物である、特表2004-526405号(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審にて付記したものである。) (1-a)「【請求項1】 結核菌群のMycobacterium種由来のMTB39抗原(配列番号12または配列番号14)またはその免疫原性フラグメント、および結核菌群のMycobacterium種由来のMTB32A抗原(配列番号2または配列番号4)またはその免疫原性フラグメントを含有する、組成物。 ・・・ 【請求項4】 請求項1、2または3に記載の組成物であって、前記抗原が共有結合され、それにより融合ポリペプチドが形成される、組成物。 ・・・ 【請求項7】 請求項4に記載の組成物であって、前記融合ポリペプチドが、MTB72FMutSAのアミノ酸配列(配列番号18)を有する、組成物。 ・・・」(【特許請求の範囲】) (1-b)「配列番号17および18:MTB72FMutSA(Ra12-TbH9-Ra35MutSA)、ここで、融合タンパク質のRa35成分において、710位のセリンがアラニンに変更されている。」(【0031】) (1-c)「 」(図5) (1-d)「本発明の抗原は、さらに、抗原の抗原性を増強するため、または他の局面(例えば、抗原の一方の末端でのヒスチジン残基のストレッチの付加を通じたこれらの抗原の単離)においてこれらの抗原を改善するために設計された他の成分を含み得る。・・・」(【0017】) (1-e)「他の組換え構築物は、目的のポリペプチドをコードする配列を、可溶性タンパク質の精製を容易にするポリペプチドドメインをコードするヌクレオチド配列に連結するために使用され得る。このような精製が容易なドメインは、金属キレートペプチド(例えば、固定化された金属上での精製を可能にするヒスヒジン-トリプトファンモジュール)、・・・を含むが、これらに限定されない。精製ドメインとコードされたポリペプチドとの間のFactor 第XA因子またはエンテロキナーゼ(Invitrogen.San Diego,Calif.)に特異的な配列のような切断可能なリンカー配列の包含が、精製を容易にするために使用され得る。1つのこのような発現ベクターは、目的のポリペプチドおよびチオレドキシンまたはエンテロキナーゼ切断部位に先行する6個のヒスチジン残基をコードする核酸を含む融合タンパク質の発現を提供する。Porathら,Prot.Exp.Purif.3:263-281(1992)に記載されるように、これらのヒスチジン残基は、IMIAC上での精製(固定化された金属イオンアフィニティークロマトグラフィー)を容易にするが、エンテロキナーゼ切断部位は、融合タンパク質から所望のポリペプチドを精製するための手段を提供する。・・・」(【0125】) 2.原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前の1988年10月18日に頒布された刊行物である、特開昭63-251095号(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。 (2-a)「1.隣接するヒスチジン残基を含む1種または2種の親和性ペプチドおよびこの1種または2種の親和性ペプチドに直接的または間接的に結合される生物学的に活性なポリペプチドまたは蛋白質からなることを特徴とする融合蛋白質。 ・・・ 3.該親和性ペプチドが次式 Met-His-His、 Met-His-His-His、 Met-His-His-His-His、Met-His-His-His-His-His、Met-His-His-His-His-His-His、Met-His-His-Ala-Gly-Ile-Glu-Gly-Argまたは、 Met-His-His-Ala-Gly-Asp-Asp-Asp-Asp-Lysのペプチド配列を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の融合蛋白質。 4.1つの親和性ペプチドが該生物学的に活性なポリペプチドまたは蛋白質のアミノ末端アミノ酸またはカルボキシ末端アミノ酸に直接的または間接的に結合していることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の融合蛋白質。 ・・・」(特許請求の範囲) (2-b)「本発明により、少なくとも2個の隣接するヒスチジン残基を有する親和性ペプチドが、ニトリロトリ酢酸(NTA)樹脂上での金属キレートアフィニティークロマトグラフィーによる組換え蛋白質の精製に特に適していることが見出された。」(3ページ左上欄最終行から右上欄4行) (2-c)「[実施例22] 6Mグアニジン・HCl中のNTA樹脂による(His)_(6)-mDHFRの精製 実施例19と同様の方法によって、(His)_(6)-mDHFR(実施例9)をE.coli中に発現させた。該細胞を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)中の6Mグアニジン・HClで抽出した(1gの細胞に対して5mlの緩衝液、1時間、22℃,磁気撹拌機)。かくして調製した粗抽出物を、続いて遠心分離し、上澄み液を実施例18で述べたと同一のNTAカラムにポンプで送った。使用された緩衝液を除き、実施例19と同様にして、クロマトグラフィーを行なった。使用した緩衝液は、それぞれの場合、以下のpH値を有する0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液中に6Mグアニジン・HClを含んでいた。蛋白質を適用するためにpH8.0、非結合E.coli蛋白質を洗出するためにpH6.0および(His)_(6)-mDIIFRを溶出するためにpH4.5、得られた溶出液を水に対して透析し、次いで凍結乾燥した。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって、得られた蛋白質は純粋な(His)_(6)-mDHFR(純度>90%)であることが分った。」(22ページ右下欄6行?23ページ左上欄7行) (2-d)「[実施例25] NTA樹脂によるMet-mDHFR-(His)_(2)の精製 実施例19と同様の方法によって、Met-mDHFR-(His)_(2)(実施例15)を、E、coli中に発現させた。0.1M塩化カリウムおよび0.1%のトウイーン20を含む0.05Mリン酸カリウム緩衝液中(pH8.0)の遠心分離した細胞を、氷浴中で15分間、超音波で処理した(1gの細胞に対して10mlの緩衝液)。 次いで細胞破片を遠心分離し、清澄な上澄み液を、抽出緩衝液で、平衡化したNTAカラム(4.6cm×2.6cmにかけた。カラムを抽出緩衝液で洗浄し、Met-mDHFR-(His)_(2)を融合蛋白質を、1時間当り50mlのポンプ流速で10時間、pH8.0(抽出緩衝液)からpH5.0(0.1M塩化カリウムおよび0.1%ツイーン20を含む0.05Mリン酸カリウム緩衝液)の直線pH勾配を用いて容出させた。SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって、ピークフラクションの溶出液を分析した。7mgのMet-mDHFR-(His)_(2)融合蛋白質を純度>85%で得た。」(23ページ右上欄下から3行?左下欄下から5行) 第3 対比 上記記載事項(1-a)より、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認める。 「配列番号18で表されるアミノ酸配列を有する融合ポリペプチド」 ここで、引用発明1における「配列番号18」とは、上記記載事項(1-b)及び(1-c)によれば、6HisタグがN末端に付加されたMTB72Fにおいて710位のセリンがアラニンに変更されたものである。 一方、本願発明における「配列番号4」は、本願明細書【0043】、【0251】、【0252】の記載を参酌すると、6HisタグがN末端に付加されたMtb72fにおいて710位のセリンがアラニンに変更され、4HisがN末端のHisタグから除去され、2Hisタグとなったものである。 よって、本願発明と引用発明1とを対比すると、HisタグがN末端に付加されたMtb72fにおける710位のセリンがアラニンに変更されたポリペプチドである点で共通し、以下の点でのみ相違する。 (相違点)Hisタグの長さが、本願発明は2であるのに対し、引用発明1は6である点。 第4 判断 上記相違点について検討する。 上記記載事項(1-d)及び(1-e)を参酌すれば、引用発明1におけるN末端に付加された6Hisタグが、金属イオンアフィニティークロマトグラフィーによるポリペプチドの精製を改善するために付加されたものであることは明らかである。 一方、引用例2には、上記記載事項(2-a)、(2-b)によれば、ポリペプチドのアミノ末端またはカルボキシル末端に結合させ、金属キレートアフィニティークロマトグラフィーによる組換えポリペプチドの精製に適している親和性ペプチドとして、Met-His-His、すなわち、2Hisタグ、が記載されており、記載事項(2-c)、(2-d)によれば、C末端に2Hisタグを結合した場合(純度>85%)、N末端に6Hisタグを用いた場合(純度>90%)とほぼ同様に、高純度で組換えポリペプチドの精製ができたことが具体的に記載されている。 そうすると、引用発明1において、ポリペプチドの精製を改善するために付加されている6Hisタグを、引用例2において、同様の目的で使用できることが記載されている2Hisタグにかえてみることは当業者が容易に想到し得ることである。 そして、本願明細書においては、本願発明のポリペプチドについて、該ポリペプチドを発現させるための発現ベクターを構築したことが具体的に記載されているのみで、該ポリペプチドの生産は、HisタグなしのMtb72fと同様の方法(封入体ペレットの精製に続き、Q Sepharose Fast Flow(QFF)クロマトグラフィー、Ceramic Hydroxyapatite(CHT)クロマトグラフィー、ダイアフィルトレーション(diafilitration)、および滅菌ろ過を行う方法)を使用してもよいと記載するに留まっており、引用例の記載から予測できない程の格別な効果を奏するものとは認められない。 したがって、本願発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて、容易に発明することができたものである。 第5 審判請求人の主張 審判請求人は、審判請求書及び上申書において、以下の点について主張している。 (1)タンパク質を精製するための親和性タグとしてのヒスチジンタグは一般的には5-15残基であることが知られており(参考文献1)、2013年に公開された参考文献2によれば、今日においては、少なくとも3つのヒスチジン残基が適切なキレート化に必要であることが示されていること、及び、文献2(当審注:引用例2)の発明者らによってなされたものである、参考資料2のTable2(1324頁)の結果によれば、His残基の数、その位置、及び溶液条件の違いによって、融合タンパク質精製の特性に違いがあることは明らかであり、N末端に2-Hisを伴う「(His)2-DHFR」はいずれの条件においても十分な結合は認められず、そして不十分な回収率であった(10%)であったことが示されていることから、2つのヒスチジン(2-His)が、6つのヒスチジン(6-His)とその作用ないし機能が同等であるとする技術常識は存在せず、参考資料3により、6-HisMtb72fはNi-NTA樹脂により精製できるが、2-HisM72は、Ni-NTA樹脂による精製において有用でなかったことを実際に確認した。 (2)本願優先日当時において、当業者にヒスチジンタグ自体に対して誘発され得る有害な反応について認識があったとは認められないから、Hisタグ自体に対する有害な免疫反応が誘発されるといけないという課題に対する効果は有利な効果であるという点。 上記主張(1)について検討する。 たとえ、タンパク質を精製するためのヒスチジンタグとして、2Hisが一般的ではなく、上記上申書における参考資料2のTable2において、N末端に2-Hisを伴う「(His)2-DHFR」はいずれの条件においても十分な結合は認められず、不十分な回収率であった(10%)というデータを参酌したとしても、引用例2において、タンパク質を精製するための親和性タグとして、2Hisを用いることが記載されており、実際に、2HisタグをC末端に融合させたタンパク質を85%を超える純度で精製できたことが開示されているのであるから、引用例2の記載に接した当業者であれば、2Hisであっても、ある程度はタンパク質を精製するための親和性タグとして利用できることを理解できるはずであり、2Hisタグを用いてみる動機付けは十分にあるといえる。 また、本願明細書の【0022】の「例えば、該抗原の一端に対して一続きのヒスチジン残基を付加することによって、該融合ポリペプチド抗原の単離の改善を促してよい。」との記載、及び【0065】の「「Hisタグ」とは、N末端の、通常、開始Met残基の直後に挿入されているか、あるいはC末端に挿入されている一連のHis残基、典型的に6残基を表す。それらは、通常、天然配列に対して異種性であるが、それらは、固定化金属アフィニティークロマトグラフィー樹脂(IMAC)に対するタンパク質結合を向上させることによって単離を容易にするために組み込まれる。」との記載によれば、本願発明におけるHisタグは、タンパク質を精製を容易にするために利用されるものであることが記載されているにもかかわらず、本願発明に相当する2-HisM72が、Ni-NTA樹脂による精製において有用でなかったことを示すデータ(参考資料3)は、本願明細書の記載と矛盾するものといえる。 上記主張(2)について検討する。 2Hisタグを有する本願発明のポリペプチドが、6Hisタグを有するものと比較して、有害な免疫反応が誘発されないものであることについては何ら具体的に示されていない。仮にそのことが示されていたとしても、ワクチンとして使用するポリペプチドについて、該ポリペプチド以外の成分が少なければ、より、所望の免疫反応以外が誘発されないということは、当業者にしてみれば、自明の効果であり、予想外に格別なものであるとは認められない。 したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明については言及するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-12-24 |
結審通知日 | 2016-01-05 |
審決日 | 2016-01-18 |
出願番号 | 特願2011-207361(P2011-207361) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(C12N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 佐藤 巌 |
特許庁審判長 |
田村 明照 |
特許庁審判官 |
中島 庸子 飯室 里美 |
発明の名称 | 結核菌感染の予防または治療のための新規方法 |
代理人 | 藤田 節 |
代理人 | 田中 夏夫 |
代理人 | 新井 栄一 |
代理人 | 平木 祐輔 |