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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04L |
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管理番号 | 1315255 |
審判番号 | 不服2014-25482 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-12-12 |
確定日 | 2016-06-01 |
事件の表示 | 特願2012-553985「パケットネットワークにおけるクロック分配のためのレート変動型マルチキャスト伝送」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月25日国際公開,WO2011/103155,平成25年 5月30日国内公表,特表2013-520137〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本願発明 本願は,2011年2月16日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年2月16日 米国)を国際出願日とする出願であって,平成26年8月11日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月12日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに同日付けで手続補正がなされ,平成27年7月23日付けで当審から拒絶理由が通知され,同年10月26日付けで手続補正がなされたものである。 その請求項1に係る発明は,明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,平成27年10月26日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める(以下,「本願発明」という。)。 「【請求項1】 複数のパケットをマルチキャストするパケットベースネットワークにおけるルートノードであって,前記パケットは同期情報を含む,ルートノードと, 前記ルートノードに結合された中間ノードと, 前記中間ノードに結合された複数のリーフノードと を備え, 前記ルートノード,前記中間ノードおよび前記複数のリーフノードは,ツリートポロジで構成され, 前記リーフノードのデータレートは前記中間ノードに通知され,次に前記中間ノードは前記リーフノードのデータレートのうちの最大データレートを前記ルートノードに通知し,前記ルートノードは最大データレートを有する前記リーフノードのデータレートに等しいデータレートで前記パケットを送信し,前記パケットは,最大データレートを有する前記リーフノードのデータレートに等しいデータレートで,前記ルートノードから前記中間ノードにおいて受信され, 前記パケットは,パケットの一部を除外して下流データレートと合致するように前記最大データレートを低減させることにより,複数の様々なデータレートで,前記中間ノードから前記複数のリーフノードの各々へマルチキャストされ,それにより,前記複数のリーフノードのうちの各々の特定の1つは,前記複数のリーフノードのうちの前記特定の1つにおけるデータレートに対応するデータレートで前記パケットを受信し,前記中間ノードは,上流データレートに対する下流データレートの比率に応じてパケットを通過させ,各々のリーフノードのデータレートは該リーフノードで要求される同期情報のレートである,システム。」 2 引用発明 (1)当審の拒絶の理由に引用された特開2006-180414号公報(以下「引用例1」という。)には,「ファイル配信システム」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,サーバから,文章,図表,写真,音声,映像,測定値などの誤りの許されない各種データファイルを,複数の受信端末に配信するシステムに利用する。」(3?4ページ) イ 「【0006】 従来のファイル配信システムを図5を参照して説明する。図5に示すファイル配信システムでは,文章,図表,写真,音声,映像,測定値などの誤りの許されない各種データファイルを複数のパケット等に分割し,サーバ1からデータカルーセル伝送方式で複数の受信端末13a,13b,14a,14b,15a,15bに向けて繰り返しパケット10を配信し,中継ネットワークのルータ2a,2k,2nでマルチキャスト配信される。20a,20b,20cは,サーバ1が出力したパケット10のコピーである。 【0007】 マルチキャスト配信可能なルータ2a,2k,2nとしては,ネットワークの全装置がIPマルチキャストで動作している場合にはIPマルチキャストルータがある。また,必ずしもネットワークの全装置がIPマルチキャストで動作していない,すなわち,一部がユニキャストで動作している場合には,例えば,Flexcastプロトコルを搭載したルータがある。 【0008】 各受信端末13a,13b,14a,14b,15a,15bは,各種アクセス系に接続されているルータ2k,2nからパケットを受信する。 【0009】 33a,33bは光ファイバ等の高速アクセス回線を,34a,34bはADSL等の中速アクセス回線を,35a,35bはISDNやモデムを用いたアナログ回線等の低速アクセス回線を想定している。 【0010】 これにより,受信端末13a,13bは高速でパケット受信でき,受信端末14a,14bは中速でパケット受信でき,受信端末15a,15bは低速でパケット受信できる。 【0011】 各受信端末13a,13b,14a,14b,15a,15bでは,各受信者並びに各受信端末の都合により,任意の時刻に所望のデータファイル,すなわち,分割されたパケット等を受信開始し,パケットに付与された一連のIDによって受信できなかったパケットを検出し,サーバに再送要求40を出す。 【0012】 これを受信したサーバ1はデータカルーセル伝送方式での配信を一時中止し,前記要求されたパケットを配信する。 【0013】 パケットロスは,中継ネットワークでは瞬間的に起こる輻輳によって発生するが,アクセス回線の速度が低い場合は,中継ネットワークとアクセス回線の間にあるルータで速度変換となってバッファ溢れが発生し,大量のパケットロスが発生する。」(4?5ページ) ウ 「【発明が解決しようとする課題】 【0016】 このような従来のファイル配信システムでは,中継ネットワークで輻輳が起こりパケットロスが発生しても,サーバの送信レートは何ら変わることがないため,その後も輻輳が起こり,サーバから輻輳発生場所までのネットワークで無駄なパケットが転送されていた。 【0017】 また,TCPのように輻輳でパケットロスを検出すると送信レートを下げるようなプロトコルと共用されている場合には,TCPが一方的に送信レートを下げることになり,不公平な状況が発生していた。 【0018】 また,中継装置やエンドユーザの受信端末の受信能力を超えてパケットが到着した場合には,それらのパケットを完全には受信できないので,廃棄されるパケットがそれまでの中継ネットワーク内を転送されており,無駄な転送が行われていた。 【0019】 本発明は,このような背景に行われたものであって,このような問題点を解決することができるファイル配信システムおよび受信端末を提供することを目的とする。 (中略) 【0021】 ここで,本発明の特徴とするところは,中継ネットワークでの輻輳や受信端末での受信能力不足によるパケットロスを反映している実際の受信レートまたはパケット受信率(=受信パケット数/受信パケットの通し番号から推定されるサーバ送信パケット数)を,一定時間毎に各受信端末から送り,中継する途中の各中継装置で,最大の受信レートに集約して上流(サーバ側)の中継装置に送り,最終的にサーバに通知して,サーバからの送信レートをその量に変更するところにある。 【0022】 また,各中継装置においても,同様に,各下流から送られてくる最大または実際の受信レートをそれぞれ記憶しておき,上流から送られてきた一連のデータパケットを,各下流(受信端末側)の出力先のそれぞれの最大または実際の受信レートになるように廃棄する。 (中略) 【発明の効果】 【0039】 本発明によれば,中継ネットワークで輻輳が起こりパケットロスが発生することによる,サーバから輻輳発生場所までのネットワークでの無駄なパケット転送がなくなる。また,TCPのように輻輳でパケットロスを検出すると送信レートを下げるようなプロトコルと共用されている場合には,TCPが一方的に送信レートを下げることになり,不公正な状況が発生していたが,そのような状況をなくすことができる。また,中継装置や受信端末の受信能力を超えてパケットが到着した場合には,それらのパケットを完全には受信できないため,廃棄されるパケットがそれまでの中継ネットワーク内を転送されて無駄な転送が行われていたが,そのような状況をなくすことができる。」(5ページ,6ページ,7?8ページ) エ 「【0041】 本実施例のファイル配信システムは,図1に示すように,一連のデータファイルが複数のパケットに分割され,この複数のパケットを繰り返して配信するデータカルーセル伝送手段を備えたサーバ1と,図3に示すように,この複数のパケットの中から所望するデータファイルを再構成するためのパケットを抽出して受信するパケット識別モジュール51,パケットチェックモジュール52,一般処理モジュール53,ファイル再構成モジュール54,再送要求判断モジュール55,再送要求パケット作成モジュール56を備えた受信端末5a?5fとを備え,パケットチェックモジュール52は,前記所望するデータファイルを再構成するためのパケットの欠落を検出し,再送要求判断モジュール55は,当該欠落したパケットの再送を要求する手段を備え,サーバ1のデータカルーセル伝送手段は,この再送の要求を受け取ると前記データカルーセル伝送によるパケット配信を一時停止させ,当該再送の要求を送出した受信端末5a?5fに対して前記欠落したパケットを再送する手段を備えたファイル配信システムである。 【0042】 ここで,本実施例の特徴とするところは,受信端末5a?5fとサーバ1との間には中継装置としてのルータ3a?3cまたはゲートウェイ2,4a?4fが設けられ,受信端末5a?5fは,図3に示すように,自受信端末の受信情報量を一定時間毎に特定パケットに記述してゲートウェイ4a?4fに通知する受信情報量測定モジュール58および受信情報量書込モジュール59を備え,ゲートウェイ4a?4fまたはルータ3a?3cは,図2に示すように,受信端末5a?5fから到着する前記特定パケット内から前記受信情報量を読み出し,下流の隣接するゲートウェイまたはルータまたは受信端末毎に記憶し,同一サーバ1の同一ファイル宛毎に最大受信レートを検出し,その検出結果を特定パケット内に記述して上流(サーバ1側)のゲートウェイまたはルータまたはサーバ1に通知する受信情報量抽出モジュール152を備え,サーバ1は,前記最大受信レートの通知に基づき下流(受信端末側)へのパケットの送出レートを調整する手段を備えたところにある。 【0043】 この送出レートを調整する手段は,通知された前記最大受信レートの値が自ゲートウェイまたは自ルータまたは自サーバの下流への現在の送出レート未満のときには,当該送出レートをその値に下げ,通知された前記最大受信レートの値が自ゲートウェイまたは自ルータまたは自サーバの現在の送出レート以上のときには,当該送出レートに予め設定された所定値を加えた値に送出レートを上げる手段を備える。 【0044】 ルータ3a?3cおよびゲートウェイ2,4a?4fは,サーバ1から受信端末5a?5fに向かうパケットの送出レートが自中継装置が検出した前記最大受信レート以下になるように過剰なパケットを廃棄する手段を一般処理モジュール153に備える。」(8ページ) オ 「【0050】 図1に示すファイル配信システムでは,文章,図表,写真,音声,映像,測定値などの誤りの許されない各種データファイルは,複数のパケットに分割されて一連のデータパケットに作られ,サーバ1からデータカルーセル方式で受信端末5a?5fに向けて送信される。なお,本実施例は,IPマルチキャストプロトコルを用いた多地点配信を前提としており,各エンドユーザの受信端末5a?5fがサーバ1に向けて,所望のファイルの送信を要求するパケット(Joinパケットという)を送信する。」(9ページ) カ 「【0053】 このようにして,受信端末5a?5fからのJoinパケットを受信したサーバ1は,ファイル分割して作られた一連のデータパケットをデータカルーセル方式で,ルータ3aに向けて送出する。もし,サーバ1がFlexcastプロトコルを搭載していない場合には,ゲートウェイ2でIPマルチキャストプロトコルからFlexcastプロトコルに変換する。 【0054】 ルータ3aは中継ネットワーク内の要求のあったルータ3bまたは3cに向けて,一連のデータパケットを複製して送信する。このようにして,ルータ3b,3cにパケットが到着し,複製されたパケットが要求に応じて受信端末5a?5fに向けて送信される。 【0055】 受信端末5a?5fがFlexcastプロトコルを搭載していない場合にはゲートウェイ4a,4b,4c,4d,4e,4fでFlexcastプロトコルからIPマルチキャストプロトコルに変換される。 【0056】 上述のようなファイル配信システムにおいて,パケットロスは,中継ネットワークでは他のトラヒックとの競合により瞬間的に起こる輻輳によって発生するが,ルータ3a,3b,3cなどで断続的に輻輳が発生する場合には,サーバ1から送出されるUDPパケットの送信レートが高いことが考えられる。また,もし,TCPプロトコルのパケットが同一ネットワーク内を流れている場合には,TCPプロトコルのパケットを圧迫している可能性がある。 【0057】 また,アクセス回線の速度が低い場合は,中継ネットワークとアクセス回線との間にあるルータ3b,3cで速度変換しなければならず,速度変換バッファでバッファ溢れが発生し,大量のパケットロスが発生する。これは,それまでの中継ネットワーク部分で無駄なパケットを転送していることになる。 【0058】 また,受信端末5a?5fの受信能力が低い場合には,到着したパケットを完全には受信できないため,それまでの中継ネットワーク部分で無駄なパケットを転送していることになる。 【0059】 このような問題を解決するために,まず,受信端末5a?5fは,一定時間T(例えば,3秒,1秒など)毎の受信レート(bps)をある特定のパケット(例えば,IGMP,IGAP,MLDまたはMLDAのIPMulticast系のプロトコルのJoinパケットの改良型)のペイロード等に記入してゲートウェイ4a?4fに送信する。 【0060】 このパケットを受信したゲートウェイ4a?4fは,一定時間T毎に,同一サーバ1の同一ファイル宛のパケット毎に,パケット内に記入された受信レート(bps)を読み出し,最大の受信レートを特定パケット(IPMulticast系のプロトコルのJoinパケットの改良型またはFlexcastプロトコルのJoinパケットなど)に記述し,ルータ3b,3cに送信する。 【0061】 これを受信した中継ネットワーク内のルータ3b,3cは,同一サーバ1の同一ファイル宛のパケット毎に,パケット内に記入された受信レート(bps)を読み出し,最大の受信レートを特定パケット(IPMulticast系のプロトコルのJoinパケットの改良型またはFlexcastプロトコルのJoinパケット等)に記述し,よりサーバ1に近いルータ3aに送信する。 【0062】 上記動作が繰り返されることにより,ルータ3aからサーバ1に向けて,集約された最大の受信レートが送信される。」(9?10ページ) キ 「【0065】 最大受信レートを集約した特定パケットを受信したサーバ1は,もし,その値がサーバ1の送信レート未満だった場合には送出レートをその値に下げ,もし,その値がサーバ1の送出レート以上の場合,すなわち,パケットロスが発生しなかった場合には,送出レートを事前に設定された値を加えたレートに変更する。 (中略) 【0067】 さらに,送信レート制御をネットワーク中のルータ3a?3cおよびゲートウェイ2,4a?4fでも行う。すなわち,ルータ3a?3cおよびゲートウェイ2,4a?4fが上流(サーバ側)から受信したパケットを複製して各下流(受信端末側)に送信する際に,各下流から上がってきた最大の受信レートを集約した特定パケットに記載されたレートで送出する。これにより,下流で捨てられるパケットを事前に廃棄し,ネットワーク内の無駄なトラヒックを削減する。 【0068】 このような中継装置による送信レート制御を行うことにより,サーバ1から受信端末5a?5fに向かう途中に,複数の中継装置においても,個々の中継装置がそれぞれ適正な送出レートとなるようにパケットを廃棄するので,受信端末または自中継装置よりもさらに受信端末側の他の中継装置により廃棄される過剰なパケットが無くなるか,または,少なくなる。これによりネットワーク内を無駄なパケットが転送されることを回避できる。」(11ページ) ク 「【0071】 受信情報量抽出モジュール152は,受信レート(またはパケット受信率)が記述された特定パケット(例えば,Joinパケット)を検出し,その中に書かれた最大受信レートを読み出し,同一サーバの同一ファイル宛毎に,一定時間T毎に,その中の最大値をサーバアドレスとファイル番号などと共に,マルチキャストプロトコル処理モジュール154に通知する。 【0072】 マルチキャストプロトコル処理モジュール154は,マルチキャストプロトコルのJoinパケットを終端する等のマルチキャストプロトコル処理を行うと共に,受信情報量抽出モジュール152から通知されたサーバアドレスとファイル番号と最大受信レートなどを基に,受信レート(またはパケット受信率)を特定パケット(例えば,Joinパケット)に記述し,出力インタフェース156に転送する。 【0073】 出力インタフェース156は,一般処理モジュール153から出力されたパケット(例えば,Joinパケット)と多重(サーバ1にとっての特定パケットになる)して上流(サーバ側)に向けて送信する。 【0074】 マルチキャスト配信可能なルータ3a,3b,3cとしては,ネットワークの全装置がIPマルチキャストで動作している場合にはIPマルチキャストルータがある。また,必ずしもネットワークの全装置がIPマルチキャストで動作していない,すなわち,中継ネットワークがIPマルチキャストプロトコルをサポートしていない,すなわち,ユニキャストで動作している場合には,例えば,ユニキャストネットワークでマルチキャスト可能なFlexcastプロトコルを搭載したルータがある。」(11?12ページ) ケ 「【0076】 本発明によれば,中継ネットワークで輻輳が起こりパケットロスが発生することによる,サーバから輻輳発生場所までのネットワークでの無駄なパケット転送がなくなる。また,TCPのように輻輳でパケットロスを検出すると送信レートを下げるようなプロトコルと共用されている場合には,TCPが一方的に送信レートを下げることになり,不公正な状況が発生していたが,そのような状況をなくすことができる。また,中継装置や受信端末の受信能力を超えてパケットが到着した場合には,それらのパケットを完全には受信できないため,廃棄されるパケットがそれまでの中継ネットワーク内を転送されて無駄な転送が行われていたが,そのような状況をなくすことができる。」(12ページ) 上記引用例1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると, a 上記オの【0050】の記載,上記クの【0074】の記載,及び図1によれば,サーバ1は,複数のパケットを受信端末5a?5fに向けてIPマルチキャストプロトコルを用いて送信するものであるから,サーバ1が接続されているネットワークがパケットベースネットワークであることは明らかである。 したがって,引用例1には,「複数のパケットをマルチキャストするパケットベースネットワークにおけるサーバ1」が記載されていると認められる。 b 上記エの【0042】の記載によれば,ルータ3a?3c,ゲートウェイ2,4a?4fは,サーバ1と受信端末5a?5fとの間に設けられる中継装置である。また,図1の記載によれば,ゲートウェイ2はサーバ1の下流側のリンクに接続され,ルータ3aはゲートウェイ2の下流側のリンクに接続され,ルータ3b,3cは,ルータ3aから下流側に枝分かれするリンクにそれぞれ接続され,ゲートウェイ4a?4c,4d?4fはルータ3b,3cから下流側に枝分かれするリンクにそれぞれ接続され,受信端末5a?5fはゲートウェイ4a?4fの下流側のリンクにそれぞれ接続されているから,サーバ1,ゲートウェイ2,ルータ3a?3c,ゲートウェイ4a?4f,受信端末5a?5fは,サーバ1をルートノード,受信端末5a?5fをリーフノードとするツリートポロジを構成しているといえる。 したがって,引用例1には,「サーバ1と,前記サーバ1に結合された中継装置と,前記中継装置に結合された複数の受信端末5a?5fとを備え,前記サーバ1,前記中継装置および前記複数の受信端末5a?5fは,ツリートポロジで構成され」ることが記載されていると認められる。 c 上記カの【0059】?【0062】の記載及び図1によれば,受信端末5a?5fは,受信レートを記入した特定パケットをゲートウェイ4a?4fに送信し,このパケットを受信したゲートウェイ4a?4fは,特定パケット内に記入された受信レートを読み出し,最大の受信レートを特定パケットに記入してルータ3b,3cに送信し,この特定パケットを受信したルータ3b,3cは,特定パケット内に記入された受信レートを読み出し,最大の受信レートを特定パケットに記入してルータ3aに送信する,という動作を繰り返すことにより,集約された最大の受信レートがサーバ1に送信される。 したがって,引用例1には,「前記受信端末5a?5fの受信レートは前記中継装置に通知され,次に前記中継装置は前記受信端末5a?5fの受信レートの最大の受信レートを前記サーバ1に通知」することが記載されていると認められる。 d 上記エの【0042】?【0043】の記載及び図1によれば,サーバ1は,最大受信レートを通知されると,当該最大受信レートの値が下流への現在の送出レート未満のときには,当該送出レートを最大受信レートと等しい値とし,現在の送出レート以上のときには,当該送出レートに予め設定された所定値を加えた値に送出レートを上げる。 したがって,引用例1には,「前記サーバ1は,最大受信レートが現在の送出レート未満のときには,前記最大受信レートに等しい送出レートで前記パケットを送信し,前記最大受信レートが前記現在の送出レート以上のときには,当該現在の送出レートに予め設定された所定値を加えた送出レートで前記パケットを送信」することが記載されていると認められる。 e 上記エの【0044】,キの【0067】?【0068】の記載及び図1によれば,ゲートウェイ2,ルータ3a?3c,ゲートウェイ4a?4fは,上流から受信したパケットを複製して各下流(受信端末側)に送信する際に,各下流から特定パケットで通知された最大受信レートに等しい送出レートとなるよう,パケットを廃棄する。 ここで,ゲートウェイ4a?4fの下流側に接続されている装置は,受信端末5a?5fであるから,ゲートウェイ4a?4fは,受信端末5a?5fから通知された当該受信端末5a?5fの受信レートと合致する送出レートで受信端末5a?5fにパケットを送信することになる。 また,上記aで述べたとおり,パケットは,サーバ1から受信端末5a?5fにマルチキャストされている。 したがって,引用例1には,「前記パケットは,パケットの一部を廃棄して各下流から通知された最大受信レートに等しい送出レートとなるように送出レートを低減させることにより,前記受信端末5a?5fの各々から通知された受信レートと等しい送出レートで前記中継装置から前記受信端末5a?5fの各々へマルチキャストされ」ることが記載されていると認められる。 f 上記オの【0050】の記載によれば,サーバ1から受信端末5a?5fにマルチキャストされるパケットには,文章,図表,写真,音声,映像,測定値などの誤りの許されない各種データファイルを分割したパケットが含まれるから,上記カの【0059】における,受信端末5a?5fから特定パケットを用いて通知される受信レートには,文章,図表,写真,音声,映像,測定値などの誤りの許されない各種データファイルの受信レートが含まれることは明らかである。 したがって,引用例1には,「各々の受信端末5a?5fの受信レートは,該受信端末5a?5fで受信される文章,図表,写真,音声,映像,測定値などの誤りの許されない各種データファイルの受信レートである」ことが記載されていると認められる。 そして,上記ウの【0021】の記載によれば,受信レートは,中継ネットワークでの輻輳や受信端末での受信能力不足によるパケットロスを反映している実際の受信レートまたはパケット受信率(=受信パケット数/受信パケットの通し番号から推定されるサーバ送信パケット数)であり,上記ウの【0039】の記載によれば,中継装置や受信端末の受信能力を超えてパケットが到着した場合には,それらのパケットを完全には受信できないため,廃棄されるパケットがそれまでの中継ネットワーク内を転送されて無駄な転送が行われていたが,そのような状況をなくすことができるものである。 g 上記オの【0050】の記載によれば,引用例に記載のファイル配信システムは,多地点配信を前提としたものである。 以上を総合すると,引用例1には以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。 「複数のパケットをマルチキャストするパケットベースネットワークにおけるサーバ1と, 前記サーバ1に結合された中継装置と, 前記中継装置に結合された複数の受信端末5a?5fと を備え, 前記サーバ1,前記中継装置および前記複数の受信端末5a?5fは,ツリートポロジで構成され, 前記受信端末5a?5fの受信レートは前記中継装置に通知され,次に前記中継装置は前記受信端末5a?5fの受信レートの最大の受信レートを前記サーバ1に通知し,前記サーバ1は,最大受信レートが現在の送出レート未満のときには,前記最大受信レートに等しい送出レートで前記パケットを送信し,前記最大受信レートが前記現在の送出レート以上のときには,当該現在の送出レートに予め設定された所定値を加えた送出レートで前記パケットを送信し,前記パケットは,前記サーバ1から前記中継装置において受信され, 前記パケットは,パケットの一部を廃棄して各下流から通知された最大受信レートに等しい送出レートとなるように送出レートを低減させることにより,前記受信端末5a?5fの各々から通知された受信レートと等しい送出レートで前記中継装置から前記受信端末5a?5fの各々へマルチキャストされ,それにより,前記受信端末5a?5fのうちの各々の特定の1つは,前記パケットを受信し,各々の受信端末5a?5fの受信レートは,該受信端末5a?5fで受信される文章,図表,写真,音声,映像,測定値などの誤りの許されない各種データファイルの受信レートである,多地点配信のためのファイル配信システム。」 (2)当審の拒絶の理由に引用された特開2008-60964号公報(以下「引用例2」という。)には,「最低保証転送レートおよび転送データ量を用いたアドミッション制御装置およびシステムならびに方法」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。 「【0042】 トラヒック制御部32は,図10のフローチャートに示すように,パケットpが到着すると(S1),パケットpが属すフローiの転送レートvi(t)を測定し(S2),過負荷状態時に(S3),その測定値をもとに超過トラヒックを制限することで,超過トラヒックによって転送レートがgi以下に低下するフローが生じることを防ぐ。過負荷状態にない場合には,各フローのgiを超える転送レートも許容される(S4)。 【0043】 本実施例では,トラヒック制御部32はキュー長に閾値Qthを設定して,Qthに達した場合を過負荷状態とする(S3)。過負荷状態時に,パケットpが属するフローiのVi(t)を取得し(S5), vi(t)>Vi(t) ならば(S6),各フローのトラヒックに対して下記の廃棄確率Plにしたがってパケットを廃棄する(S7)。 【0044】 Pl=(vi(t)-Vi(t))/vi(t) viはトラヒック制御部32が測定したフローiの転送レート,Viはトラヒック制御部32がフローiに割当てた転送レートである。よって,vi(t)は,時刻tにおけるトラヒック制御部32が測定したフローiの転送レート,Vi(t)は,時刻tにおけるトラヒック制御部32がフローiに割当てた転送レートである。本実施形態では,viおよびViはそれぞれ以下のようにして求める。」(7ページ) 引用例2の上記記載及び図10並びにこの分野における技術常識を考慮すると,引用例2には,パケットの一部を除外してデータレートを低減させるための態様として,「上流データレートに対する下流データレートの比率に応じてパケットを通過させる。」との技術事項が記載されているものと認められる。 (3)原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2007/040222号(以下「周知例1」という。)には,「音声伝送システムにおけるクロック同期システム及び方法」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。 ア 「[0001] 本発明は,ネットワークを介して接続される主装置と遠隔装置から構成される音声伝送システムに設けられるクロック同期システム及び方法に関し,特に,予め設定される1台の主装置(クロックマスター装置)から音声パケットとは別に送信される同期パケットを参照して各遠隔装置(スレーブ装置)がクロック同期を行うクロック同期システム及び方法に関する。 背景技術 [0002] ネットワーク環境が整備されるにつれ,インターネットプロトコル(IP)網を活用した通信サービスの拡大が進んでいる。これらを活用した例として,IP網上で音声を伝送する音声伝送システムが注目されている。これらのシステムは,主に,遠隔地への放送や,多店舗商業施設などの多地点間放送といった用途に使用される。 [0003] ネットワークを介して接続される複数の装置から構成される音声伝送システムにおいて,音声データはパケット化されて送信される。そのため,受信装置は,確実に音声出力できる音声データが揃うまでバッファリングを行う必要がある。このとき,送信装置および受信装置で使用するクロック周波数が一致していないと,いずれは受信装置の音声バッファがオーバーフローあるいはアンダーフローし,出力音声の途切れが発生してしまうという問題が存在していた。 [0004] この点を解決するために,送信装置と受信装置間でクロック同期を行わなければならない。この方法について図12を参照して説明する。 (中略) [0011] 上述の従来技術は,送信側と受信側の位相を合わせる技術である。従来技術は,送信側のパケット間隔と受信側のパケット間隔の差分に基づいてクロック周波数を制御し,送信側と受信側のクロック周波数を一致させている。このように従来技術では,送信側と受信側の位相を合わせることはできる。しかしながら,従来のクロック同期システムは,複数の受信装置間での音声出力時間を正確に一致させるようなクロック同期を実現してはいない。そのため,複数の受信装置間で音声出力時間差が生じる可能性があるという問題がある。この問題について,以下により詳細に説明する。」(1,3ページ) イ 「[0022] 本発明のクロック同期システムは,ネットワークを介して音声伝送を行う主装置と遠隔装置との間のクロック同期を,同期パケットを使用して行うシステムであり,主装置は,クロック源からタイムスタンプ情報を生成するタイムスタンプ生成部と,タイムスタンプ情報が埋め込まれた同期パケットをネットワークに送信するパケット送信部とを備え,遠隔装置は,ネットワークから同期パケットを受信するパケット受信部と,同期パケット内に含まれるタイムスタンプ情報より同期開始からの累計のタイムスタンプ値である主装置累計タイプスタンプ値Toを算出する主装置累計タイムスタンプ算出部と,周波数可変制御が可能なクロック源からタイムスタンプ情報を抽出し同期開始からの累計のタイムスタンプ値である遠隔装置累計タイムスタンプ値Tiを算出する遠隔装置累計タイムスタンプ算出部と,周波数可変制御が可能なクロック源の周波数を,主装置累計タイムスタンプ値Toと遠隔装置累計タイムスタンプ値Tiの差分に基づいて補正する補正演算部と,を備えている。 [0023] この構成により,同期開始時からのタイムスタンプ(To,Ti)を参照することにより,トータルのタイムスタンプがどれだけ離れているかを監視しながら,クロック源の周波数の制御が行われる。したがって,周波数可変クロック源を制御するたびに発生する誤差(すなわち,本来設定したい値と分解能による切捨てを経て実際に設定される値との差分によって発生する誤差)については,誤差が蓄積されていくことはない。そのとき到着した1パケット分の誤差だけが制御に含まれることになる。この1パケット分の誤差は,トータルのタイムスタンプの差分にほとんど影響しない。このようにして,マスター装置とスレーブ装置のタイムスタンプ値の差分を最小限におさえることができ,スレーブ装置間での音声出力時間差を最小限におさえることができる。 (中略) [0033] また,主装置は,同期パケットをIPマルチキャストまたはIPブロードキャストで送信するように構成されてよい。 [0034] この構成により,システム内に多数のスレーブ装置が存在する場合でも,IPマルチキャストまたはIPブロードキャストで同期パケットを送信することにより,ネットワーク上の負荷を一定に保ったまま,容易にすべてのスレーブ装置が同期パケットを受信することが可能である。システム上にスレーブ装置が新たに追加参入された場合などにおいても,特に新たな負荷が増えることなく,ネットワークトラフィックを一定に保ったままクロック同期を開始することができる。」(6?7ページ,9ページ) ウ 「[0059] 図1において,マスター装置11としては,システム内で予め1台の装置が設定されている。マスター装置11は,ネットワーク13を介してスレーブ装置12に対して,自身のタイムスタンプ情報が入ったパケットを送信する機能を備える。 [0060] 本実施の形態のクロック同期システム10は,クロック同期用のタイムスタンプ情報を音声ストリームに付加するタイプではない。クロック同期システム10では,システム内に存在する1台のマスター装置11が,独自のクロック同期パケットを送信する。これは,1つの装置に複数の音声チャンネルが存在する場合を考慮しているためである。仮に,複数チャンネルを所有するスレーブ装置が,別々の音声ストリームに埋め込まれたタイムスタンプ情報からそれぞれクロック同期を行うとする。この場合,プロセッサをはじめとするすべての系統に関し,音声チャンネルの数の構成が必要となるため,構成が効果的とはいえない。1台の設定されたマスター装置11のクロックにしたがいすべてのスレーブ装置12および装置中に存在するすべての音声チャンネルを同期させる構成が有効であるといえる。また,1つの装置に複数の音声チャンネルを実装することは,システム内に存在する装置数を削減でき,コスト面,システム構築面からも効果的な構成を提供することができる。このような観点で,同期パケットが有利に用いられる。」(14ページ) 本願の優先日前に公開された特表2006-518557号(以下「周知例2」という。)には,「パケットネットワークにおけるクロックドメインの調整」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。 エ 「【請求項1】 第1のクロックによって制御された送り元と,第2のクロックによって制御された送り先との間の非同期ネットワークを通じてクロックドメインを調整する方法であって, a)ネットワークを通じた送り元と送り先との間でのパケットの伝送に関して予測される遅延を推定する処理と, b)タイムスタンプが付加された同期化パケットを前記送り先に送信する処理と, c)データポイントのセットを生成するために,前記送り先において同期化パケットのセットを受信する処理と, d)前記予測された遅延から更に離れた遅延を示す同期化パケットが,前記予測された遅延により近い遅延を示す同期化パケットより少ない重みを与えられるように,前記データポイントのセットを重み付けする処理と, e)前記データポイントの異なる重み付けを考慮する前記データポイントのセットに基づいて現在の遅延推定値を生成するために,前記予測された遅延を更新する処理と, f)前記予測された遅延に関する現在の遅延推定値を使用する新しく受信された同期化パケットから生成されたデータポイントの新しいセットに対して,継続的に前記処理“d)”及び前記処理“e)”を繰り返す処理と, g)前記送り元と前記送り先との間のネットワークを横断するパケットに関する現在の遅延推定値に基づいて,前記送り元におけるクロックドメインによって前記送り先におけるクロックドメインを継続的に調整する処理とを有し, 各タイムスタンプが付加された同期化パケットは,前記送り元におけるマスタクロックに基づくタイミング情報を伝送する ことを特徴とする方法。 (中略) 【請求項4】 前記同期化パケットが,送信ノードからマルチキャストされる ことを特徴とする請求項1に記載の方法。」(2ページ) 本願の優先日前に公開された特表2008-544592号(以下「周知例3」という。)には,「ネットワークノードの同期方法」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。 オ 「【請求項1】 各同期ドメインが同期マスタノードと少なくとも1つの同期スレーブノードとを有する複数の同期ドメインと中央ネットワークマスタノードとを含むローカルエリアネットワークのネットワークノードの同期方法であって, 各同期ドメインに対して,該同期ドメインのすべての同期スレーブのMACアドレスを有するマルチキャストグループを設定又は変更するステップと, 時点nにおける第1同期メッセージを前記中央マスタノードから他のすべてのネットワークノードに送信するステップと, 他のすべてのネットワークノードにおいて前記第1同期メッセージを受信するステップと, 他の各ネットワークノードにおいて前記第1同期メッセージを受信する際にローカルクロック値Ax,y(n)を取得するステップと, 各同期ドメイン内の前記同期スレーブノードの関連する同期マスタノードのローカルクロック値Ax,0(n)を含む第2同期メッセージを,前記同期マスタノードによって前記関連する同期ドメイン内で時点n+xにおいて前記同期スレーブノードにマルチキャストするステップと, 前記関連する同期マスタノードのクロック値Ax,0(n)を含む前記第2同期メッセージを前記同期スレーブノードにおいて受信するステップと, 前記第1同期メッセージを受信する際に取得した前記ローカルクロック値Ax,y(n)と,前記第2同期メッセージにより受信した前記クロック値Ax,0(n)とを比較するステップと, 前記比較結果に応じて前記同期スレーブノードにおいて前記ローカルクロックを調整するステップと, を有する方法。」(2ページ) カ 「【0046】 図6は,本発明に使用されるレイヤモデルの概略を示す。ノード内の各サービスはレイヤ状に構成されている。そこでは,物理レイヤPHYが物理チャネルを提供する。物理レイヤPHYの上位のMACレイヤMACは,SDUやPDUなどの送受信されるデータパケットのアドレッシングを提供し,これらのノードの媒体へのアクセスを構成する。MACレイヤの上位には,アプリケーションレイヤまでRRC,RLC,NW,TRSPなどのいくつかの上位のレイヤが存在する。これらのレイヤUL内において,同期スタートが開始される。さらに,それらはマルチキャストグループの設定及び変更を行う。」(11ページ) 本願の優先日前に公開された特開2008-64474号公報(以下「周知例4」という。)には,「時計装置,時計システム,同期方法,時計装置制御プログラム,および通信装置」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。 キ 「【0012】 図10に示すように,クロックマスタは,定期的に自局時計をサンプリングし,サンプリングにより取得した時刻を,同期用のマルチキャストフレーム(フレームの識別子情報をnと記す)に入れ,時刻を共有したい他の通信装置に対し,送信する。 【0013】 クロックマスタは,自局が同期用マルチキャストフレームの最後尾部を送信または受信した瞬間のタイミングを知ることができ,その瞬間における上位層の時計の時刻(t^(TX)[n]と記す)を記録する。 【0014】 また,非クロックマスタである他の通信装置は,同フレームの最後尾部を受信した瞬間のタイミングを知ることができ,その瞬間における上位層の時計の時刻(t^(RX)[n]と記す)を記録する。」(6ページ) 上記ア?キの記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると,「同期情報を含むパケットをマルチキャストする。」ことは,周知であると認められる。 3 対比・判断 本願発明と引用発明とを対比すると, (1)引用発明の「サーバ1」,「中継装置」,「受信端末5a?5f」を,それぞれ,「ルートノード」,「中間ノード」,「リーフノード」と称することは任意である。 (2)引用発明の「前記受信端末5a?5fの受信レート」は,下記の相違点3は別として,本願発明の「前記リーフノードのデータレート」に対応する。 (3)引用発明の「最大受信レート」は,「受信端末5a?5f」の受信レートのうち最大のものであるから,引用発明の「サーバ1」が「前記最大受信レートに等しい送出レートで前記パケットを送信」することは,本願発明の「ルートノード」が「最大データレートを有する前記リーフノードのデータレートに等しいデータレートで前記パケットを送信」することに相当する。 (4)引用発明の「サーバ1」が「最大受信レートが現在の送出レート未満のときには,前記最大受信レートに等しい送出レートで前記パケットを送信し,前記最大受信レートが前記現在の送出レート以上のときには,当該現在の送出レートに予め設定された所定値を加えた送出レートで前記パケットを送信」することと,本願発明の「ルートノード」が「最大データレートを有する前記リーフノードのデータレートに等しいデータレートで前記パケットを送信」することとは,下記「相違点1」は別として,「最大データレートが現在パケットを送信しているデータレート未満のときには,最大データレートを有する前記リーフノードのデータレートに等しいデータレートでパケットを送信し,最大データレートが現在パケットを送信しているデータレート以上のときには,増加されたデータレートでパケットを送信する」点で一致する。 (5)引用発明の中継装置は,各下流から特定パケットで通知された最大受信レートに等しい送出レートでパケットを送出するものであるから,「各下流から通知された最大受信レート」は,本願発明の「下流データレート」に相当する。また,本願発明の「パケットの一部を除外して」と引用発明の「パケットの一部を廃棄して」とは,表現が異なるのみであって,実質的な差異は無い。 したがって,引用発明の「パケットの一部を廃棄して各下流から通知された最大受信レートに等しい送出レートとなるように送出レートを低減させること」は,本願発明の「パケットの一部を除外して下流データレートと合致するように前記最大データレートを低減させること」に相当する。 (6)引用発明の「前記受信端末5a?5fの各々から通知された受信レート」は,各受信端末の受信レートであり,互いに異なり得るものであるから,引用発明の「前記受信端末5a?5fの各々から通知された受信レートと等しい送出レートで前記中継装置から前記受信端末5a?5fの各々へマルチキャストされ」ることは,本願発明の「複数の様々なデータレートで,前記中間ノードから前記複数のリーフノードの各々へマルチキャストされ」ることに相当する。 (7)引用発明の受信端末5a?5fは,受信レートをゲートウェイ4a?4fに通知することで,ゲートウェイ4a?4fから受信端末5a?5fへの送出レートを上記受信レートに等しくするものであるから,受信装置5a?5fから特定パケットで通知される「受信装置5a?5fで受信される」「受信レート」は,本願発明の「リーフノードで要求される」「レート」に相当する。 (8)引用発明の「多地点配信のためのファイル配信システム」を「装置」と称することは任意である。 以上を総合すると,本願発明と引用発明とは,以下の点で一致し,また,相違している。 (一致点) 複数のパケットをマルチキャストするパケットベースネットワークにおけるルートノードと, 前記ルートノードに結合された中間ノードと, 前記中間ノードに結合された複数のリーフノードと を備え, 前記ルートノード,前記中間ノードおよび前記複数のリーフノードは,ツリートポロジで構成され, 前記リーフノードのデータレートは前記中間ノードに通知され,次に前記中間ノードは前記リーフノードのデータレートを前記ルートノードに通知し,前記ルートノードは最大データレートが現在パケットを送信しているデータレート未満のときには,前記最大データレートを有する前記リーフノードのデータレートに等しいデータレートでパケットを送信し,前記最大データレートが現在パケットを送信しているデータレート以上のときには,増加されたデータレートでパケットを送信し,前記パケットは,前記ルートノードから前記中間ノードにおいて受信され, 前記パケットは,パケットの一部を除外して下流データレートと合致するように前記最大データレートを低減させることにより,複数の様々なデータレートで,前記中間ノードから前記複数のリーフノードの各々へマルチキャストされ,それにより,前記複数のリーフノードのうちの各々の特定の1つは,前記パケットを受信する, 装置。 (相違点1) 本願発明の「ルートノード」は,「前記最大データレートを有する前記リーフノードのデータレートに等しいデータレートでパケットを送信」するのに対し,引用発明の「サーバ1」は,最大受信レートが現在の送出レート未満のときには,最大受信レートに等しい送出レートでパケットを送信するものの,通知された最大データレートが現在パケットを送信しているデータレート以上の場合には,「現在の送出レートに予め設定された所定値を加えた送出レートで前記パケットを送信」するものである点。 (相違点2) 本願発明の「中間ノード」は,パケットの一部を除外して下流データレートと合致するように前記最大データレートを低減させるための態様として,「上流データレートに対する下流データレートの比率に応じて」「パケットを通過させ」るのに対し,引用発明は,当該構成が明らかでない点。 (相違点3) 「パケット」に関し,本願発明は「同期情報を含む」のに対し,引用発明は「文章,図表,写真,音声,映像,測定値などの誤りの許されない各種データファイル」に係るものであり,「同期情報を含む」との構成を有していない点。 これに伴い,通知される「データレート」に関し,本願発明は「各々のリーフノードのデータレートは該リーフノードで要求される同期情報のレートである」のに対し,引用発明は当該構成を有していない点。 以下,上記各相違点について検討する。 (相違点1について) 引用例の【0065】,【0076】に記載されている(上記2(1)キ,ケ参照。)ように,引用発明は,受信能力を超えてパケットが到着することのないようにして無駄なパケット転送をなくすことを目的とするものである。 そして,最大受信レートが前記現在の送出レート以上のときでも最大データレートを有する受信端末5a?5fの受信レートに等しいデータレート(すなわち,受信側の受信能力を超えない最大のデータレート)でパケットを送信しても無駄なパケット転送とはならないことは当業者に自明であるから,引用発明において「前記最大受信レートが前記現在の送出レート以上のときには,当該現在の送出レートに予め設定された所定値を加えた送出レートで前記パケットを送信し」に替えて,「最大データレートを有する前記リーフノードのデータレートに等しいデータレートで前記パケットを送信」する構成とすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得ることである。 (相違点2について) 上記「2 引用発明(2)」の項に記載したように,パケットの一部を除外してデータレートを低減させるための態様として,「上流データレートに対する下流データレートの比率に応じてパケットを通過させる。」ことは,公知である。 したがって,引用発明の「中継装置」において,パケットの一部を廃棄して各下流から通知された最大受信レートに等しい送出レートとなるように送出レートを低減させるための具体的な構成として,本願発明のように,上流からの受信レートに対する下流側への送出レートの比率に応じてパケットを通過させる態様を採るようにすることは,格別困難なことではなく,容易になし得ることである。 (相違点3について) 上記「2 引用発明(3)」の項に記載したように,「同期情報を含むパケットをマルチキャストする。」ことは周知であるから,引用発明において,「パケット」を「同期情報を含む」ものとすることは,格別困難なことではなく,適宜なし得ることである。 また,引用例1には,「受信レート」として「中継ネットワークでの輻輳や受信端末での受信能力不足によるパケットロスを反映している実際の受信レートまたはパケット受信率(=受信パケット数/受信パケットの通し番号から推定されるサーバ送信パケット数)」が示されており(上記2(1)ウの【0021】参照),それにより「中継装置や受信端末の受信能力を超えてパケットが到着した場合には,それらのパケットを完全には受信できないため,廃棄されるパケットがそれまでの中継ネットワーク内を転送されて無駄な転送が行われていたが,そのような状況をなくすことができる。」ことが示されている(上記2(1)ウの【0039】参照)。そして,受信端末がその受信能力以内の最大限のレートで受信することを望むことは自然であり,通知した受信レートと等しい送出レートでマルチキャストがなされるのであることに鑑みれば,当該通知は受信端末の受信能力に見合うレートでの送信を要求しているということができる。してみれば,通知する「データレート」を「各々のリーフノードのデータレートは該リーフノードで要求される同期情報のレートである」とすることは,「パケット」を「同期情報を含む」ものとすることに伴い,容易になし得ることである。 そして,本願発明の作用効果も,引用発明及び公知の技術事項に基づいて当業者が予測できる範囲のものである。 4 むすび 以上のとおり,本願発明は,引用発明及び公知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-12-25 |
結審通知日 | 2016-01-05 |
審決日 | 2016-01-21 |
出願番号 | 特願2012-553985(P2012-553985) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H04L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 廣川 浩、小宮 慎司 |
特許庁審判長 |
大塚 良平 |
特許庁審判官 |
菅原 道晴 山本 章裕 |
発明の名称 | パケットネットワークにおけるクロック分配のためのレート変動型マルチキャスト伝送 |
代理人 | 木内 敬二 |
代理人 | 佐伯 義文 |