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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1315476 |
審判番号 | 不服2015-20487 |
総通号数 | 199 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-07-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-11-17 |
確定日 | 2016-07-04 |
事件の表示 | 特願2014-523248「波長変換部材及び該部材の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 7日国際公開,WO2013/017339,平成26年 8月28日国内公表,特表2014-522116,請求項の数(11)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,2012年6月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年8月1日,ドイツ)を国際出願日とする出願であって,平成27年1月19日付けで拒絶理由が通知され,同年4月27日に手続補正がされ,同年7月30日付けで拒絶査定がされ,これに対し,同年11月17日に審判請求がされたものである。 その後,当審において,平成28年4月28日付けで拒絶理由が通知され,これに対して同年5月12日に手続補正がされた。 2 本願発明 本願の請求項1?11に係る発明は,平成28年5月12日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうち請求項1に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのもの(以下「本願発明」という。)である。 「【請求項1】 入射した1次光(P)から波長変換された光(S)を形成するための波長変換部材(1;11)において, 前記1次光(P)及び前記波長変換された光(S)に対し光透過性のライトガイド部材(2;12)と,蛍光体を有する少なくとも1つの蛍光体部材(6;16)とが設けられており, 前記ライトガイド部材(2;12)は,前記少なくとも1つの蛍光体部材を放熱するために,前記少なくとも1つの蛍光体部材(6;16)とモノリシックに結合され, 前記ライトガイド部材(2;12)はセラミックライトガイド部材であり,前記少なくとも1つの蛍光体部材(6;16)は少なくとも1つのセラミックの蛍光体部材を有することを特徴とする, 波長変換部材(1;11)。」 3 原査定の理由の概要 原査定の拒絶理由は,請求項1に係る発明は,本願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である引用例1ないし3に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものであって,引用例1には,ライトガイド部材と蛍光体部材とが設けられた波長変換部材が記載されているところ,引用例2及び3に開示されているように,導光部材に蛍光体部材をモノリシックに結合することは当業者が適宜に選択しうる事項であるから,引用例1に係る波長変換部材について,導光部材に蛍光体部材をモノリシックに結合することことに格別な困難性は認めらず,また,「透明セラミック」あるいは「セラミック蛍光体」は周知な部材であって,これらをライトガイドに適用することに格別のものはない,というものである。 引用例1: 特開2005-347263号公報 引用例2: 特開2005-136427号公報 引用例3: 特表2003-515899号公報 4 当審の判断 (1)刊行物に記載された発明 ア 引用例1には,図1とともに以下の記載がある。 (ア)「【請求項1】 照明装置であって: 第一の波長範囲を有する光を,第一のビーム経路に沿って放出する光源と; 前記第一のビーム経路内にあり,前記光源から物理的に分離されており,第一の波長範囲を有する光を第二のビーム経路に沿った第二の波長範囲を有する光に変換する波長変換素子と; 前記光源と前記波長変換素子との間に配置され,前記第二の波長範囲を有する実質的に全ての光が前記光源に入射するのを防止する色分離素子と; を具備してなる装置。」 (イ)「【0001】 本発明は照明装置に関し,特に,半導体発光装置を含む高輝度光源によって生じた光の波長変換に関する。 【背景技術】 【0002】 青色の光または紫外もしくは近紫外の光を放出する効率の良い発光ダイオード(LED)の開発と共に,LEDの一次発光の一部(または一次発光全体)をより長い波長に燐光変換(phosphor conversion)することにより光を生じるLEDの製造が容易になってきている。LEDの一次発光をより長い波長に変換することは,通常,一次発光の下方変換と称されている。幾つかのシステムでは,望ましい色の光(例えば白色光)を生じるために,LEDの一次発光の未変換部分がより長い波長の変換光と組み合わされる。或いは,一次発光の全体がより長い波長をもった光に変換され,次いで望ましい光を生じるように組み合わされる。 【0003】 従来,LEDの一次発光の波長変換は,エポキシ,シリコーンまたは他の類似材料のような結合媒体中に保持された燐光体を用いて達成されている。燐光体は一般に,硬化前の結合材料中に混合される粉末の形状である。燐光体粉末を含有する未硬化のスラリーは,LED上に堆積されてLEDを封止し,続いて硬化される。 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 しかし,例えば投影機,自動車のヘッドライト,光ファイバー,および劇場の光のような多くの照明用途においては,高輝度の燐光変換されたLEDを使用するのが望ましい。しかし,燐光体封止されたLEDに伴う一つの困難は,高温に曝されると結合媒質が不透明になり,褐色に変化することである。従って,封止剤のこの温度制限はLEDを駆動できる電流を制限し,これは燐光変換型LEDの輝度を制限する。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明の一つの実施形態に従えば,照明装置は,発光ダイオードもしくは発光ダイオードアレイ,キセノンランプ,または水銀ランプのような光源から物理的に分離された,波長変換素子を使用する。加えて,この波長変換素子(例えば燐光体層であってよい)は,波長変換素子によって放出される変換光が光源に入射しないように,光源から光学的に分離される。波長変換素子を光源から物理的に分離することによって,波長変換素子の温度制限が除かれ,それによって,該光源を,より高い輝度を生じる増大した電流で駆動させることが可能になる。 【0006】 従って,本発明の一つの側面において,照明装置は,第一のビーム経路に沿って第一の波長範囲を有する光を放出する光源,および該第一のビーム経路内にある波長変換素子を含んでいる。この波長変換素子は,光源から物理的に分離される。該波長変換素子は,第一の波長範囲を有する光を,第二のビーム経路に沿った第二の波長範囲を有する光に変換する。当該装置は,更に,前記光源と前記波長変換素子との間に配置された色分離素子を含んでいる。この色分離素子は,前記第二の波長範囲を有する実質的に全ての光が,前記光源に入射するのを防止するように構成される。」 (ウ)「【0009】 本発明の一つの実施形態に従えば,前記波長変換素子は前記光源から物理的に分離され,これは許容可能な温度,従って,半導体発光装置が駆動され得る電流(光源として使用される場合)を増大させる。従って,波長変換媒体の温度限界は,もはや光源の輝度に対する制限とはならないであろう。光源は,例えば半導体発光装置,またはキセノンランプもしくは水銀ランプのような他の短波長光源であってよい。加えて,波長変換された光のビーム経路は光源から分離される。即ち,変換された光は,光源に入射するのを防止される。従って,光源において生じ得る吸収ロスが有利に低減され,それにより変換およびリサイクルにおける大きな効率の利得を提供されて,これにより輝度が増大する。 【0010】 図1は,本発明の一実施形態に従う照明装置100を示している。図1は光源102を含んでおり,単純化のために,以下ではこれを発光装置(LED)102と称する。この光源は,発光ダイオードもしくは発光ダイオードアレイのような半導体発光装置,またはキセノンランプもしくは水銀ランプのような短波長の光を発生できる他の種類の光源であってよい。一例として,LED102は,本開示と同じ譲受人を有する,2003年8月29日に提出された「半導体発光装置のためのパッケージ」と題するFrank Wall et al.の米国出願番号10/652,348に記載されたタイプの高輝度装置であってよく,この出願を本明細書の一部として援用する。LED102は任意のサブマウント104上に示されており,これはヒートシンク106上に装着される。 【0011】 図1に示すように,照明装置100は,LED102から物理的に分離された波長変換素子112を含んでいる。LED102および波長変換素子112は,例えば空気,ガスまたは真空によって,ビーム経路に沿って分離されてよい。LED102と波長変換素子112との物理的分離の長さは変化してよいが,一つの実施形態では,1 mmよりも大きい。このLED102と波長変換素子112との間の物理的分離は,LED102による波長変換素子112の実質的な熱伝導加熱を防止するために充分である(理想的には,この分離は如何なる熱伝導加熱を分離するためにも充分である)。 【0012】 波長変換素子112は,例えば,慣用的に製造された,エポキシまたはシリコーンのような結合媒体中の燐光体または他の波長変換材料の層であってよい。この波長変換素子112の中に使用される燐光体の種類および量は,LED102の一次発光波長範囲および望ましい変換光波長等の因子に依存する。LED102は,一般に,或る波長範囲を有する一次発光を生じることが理解されるべきである。この波長範囲は一般に狭く,従って,LEDはときには,生じたスペクトルにおける支配的波長またはピーク波長である単一の波長によって特徴付けられる。LED102が青,紫外もしくは近紫外スペクトルの波長を生じる一つの実施形態において,波長変換素子112は,光を緑色スペクトルの変換光を生じるためのチオ没食子酸塩(TG),SrSiON:EU,SrBaSiO:Eu;琥珀色スペクトルの変換光を生じるためのBaSrSiN:Eu;赤色スペクトルの変換光を生じるためのCaS:Eu,(Sr0.5,Ca0.5)S:Eu,SrS:Eu,SrSiN:Eu;白色の変換光を生じるためのYAGのような燐光体を使用してよい。参照を容易にするために,場合によって,ここでは波長変換素子を燐光体素子と称するが,色素のような他の波長変換材料も使用し得ることが理解されるべきである。 【0013】 燐光体素子112は,3Mによって製造されたESR正反射膜,またはトーレによって製造されたE60L白色拡散反射膜のような高反射率基板115上に装着され,ヒートシンク116に熱的に結合される。所望の場合に,もしヒートシンクが燐光体112の顕著な熱伝導加熱を防止するのに充分に大きければ,LED102および燐光体素子112は同じヒートシンクを共有してもよいことに留意すべきである。燐光体素子112はLED102から物理的に分離されるので,LED102によって生じた熱は,燐光体素子112の動作に対して僅かしか影響せず,または全く影響しないであろう。従って,LED102は,高輝度を生じるための高い電流で駆動されることができる。更に,シートシンク116(審決注;「ヒートシンク116」の誤記と認める。)を使用すれば,燐光変換によって生じた燐光体素子112からの熱を消失させることができる。燐光体の加熱は約20?30パーセントだけその特性を劣化させ得るので,ヒートシンク116の使用により,燐光体素子112の特性を劇的に増大させることができる。 【0014】 加えて,LED102から放出される光のビーム経路103の少なくとも一部は,燐光体112からの変換光のビーム経路113から離間される。装置100は色分離素子110を使用しており,該色分離素子は,LED102によって放出された一次光波長を反射し,燐光体素子112によって放出された変換光波長を透過させる。一つの実施形態において,色分離素子110は例えば二色性ミラーであってよく,参照を容易にするために,場合によってはこの色分離素子を二色性ミラーと称する。しかし,本発明と共に,二色性キューブ,回折光学素子またはホログラムのような他の色分離素子を使用してもよいことが理解されるべきである。充分な二色性ミラーは,例えば,リヒテンシュタインに所在のUnaxis Balzers Ltd.,またはカリホルニア州サンタローザに所在のオプティカル・コーティング・ラボラトリーズInc.から購入すればよい。 【0015】 色分離素子110は,燐光体112によって放出された実質的な量の変換光が,LED102に入射するのを防止するために使用される。理想的には,変換光は全くLED20に入射しないが,二色性ミラーのような色分離素子は理想的なものではなく,変換光の0?30パーセントがリークする可能性がある。従って,LED102による変換光の吸収は低減され,それにより変換およびリサイクルの効率が改善されて,当該装置100の輝度が改善される。 【0016】 一次光,および二色性ミラーに入射する前の変換光をコリメートするために,光学素子が使用される。例えば,LED102によって放出された光をコリメートするために,LED102と二色性ミラー110との間にコリメータ108が使用される。燐光体素子112と二色性ミラー110との間のもう一つのコリメータ114は,燐光体素子112によって放出された変換光をコリメートするために,また二色性ミラー110によって反射された一次光を燐光体素子112上に集光させるために使用される。これらの光学素子はコリメータである必要はなく,他の光学素子,例えば反射性複合パラボラ集光素子,内部全反射光学素子,矩形反射角トランスフォーマ(rectangular reflective angle transformer),コンデンサレンズ,レンズアセンブリー,またはこれら素子の組み合わせであってもよいことが理解されるべきである。二色性ミラーのような色分離素子は角度依存性なので,これらの光学素子は,好ましくは狭い光コーンを生じる。これらの光学素子は,例えば円形または矩形の形状を有していてよく,また,モールドされたプラスチックまたはアルミニウムもしくは金属アロイのような金属等の材料で慣用的に形成されてよい。LED102が高温で駆動されるときは,金属またはガラスのような,温度感受性のない材料を使用するのが特に有利である。 【0017】 動作において,燐光体素子112はLED102から一次光を受光し,該一次光を吸収して変換光を放出することにより,一次光をもう一つの波長範囲に変換する。燐光体素子112に吸収されなかったLED102からの光は,反射性基板115によって反射され,二色性ミラー110によってLED102へと逆に反射され,そこで光が反射されて燐光体素子112へと戻される。こうして,吸収されなかった一次光は,少なくとも部分的には,照明装置100の中でリサイクルされる。加えて,燐光体素子112は全方向に向けて光を放出するので,反射性基板115は,変換された光の一部を二色性ミラー110の方に向けて反射するために使用される。次いで,この変換光は二色性ミラー110を透過する。」 イ 以上の各記載から,引用例1には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「照明装置であって: 第一の波長範囲を有する光(一次光)を,第一のビーム経路に沿って放出する光源と; 前記第一のビーム経路内にあり,前記光源から物理的に分離されており,第一の波長範囲を有する光を第二のビーム経路に沿った第二の波長範囲を有する光(変換光)に変換する波長変換素子と; 前記光源と前記波長変換素子との間に配置され,前記第二の波長範囲を有する実質的に全ての光が前記光源に入射するのを防止する色分離素子である二色性ミラーと; を具備してなり, 波長変換素子は,例えば,慣用的に製造された,エポキシまたはシリコーンのような結合媒体中の燐光体または他の波長変換材料の層であり, さらに,燐光変換によって生じた波長変換素子からの熱を消失させることができるヒートシンクが備えられており, さらに,一次光,および二色性ミラーに入射する前の変換光をコリメートするために,光学素子が備えられ,波長変換素子と二色性ミラーとの間の当該光学素子であるコリメータは,波長変換素子によって放出された変換光をコリメートするために,また二色性ミラーによって反射された一次光を波長変換素子上に集光させるために使用され,これらの光学素子は,モールドされたプラスチックまたはアルミニウムもしくは金属アロイのような金属等の材料で慣用的に形成されてよいものである, 照明装置。」 (2)対比 引用発明と本願発明とを対比する。 ア 引用発明の「第一の波長範囲を有する光を」「第二の波長範囲を有する光(変換光)に変換する波長変換素子」は,本願発明の「蛍光体を有する少なくとも1つの蛍光体部材(6;16)」に相当する。 イ 引用発明の「一次光,および二色性ミラーに入射する前の変換光をコリメートするために」備えられた「光学素子」であって「波長変換素子と二色性ミラーとの間の当該光学素子であるコリメータは,波長変換素子によって放出された変換光をコリメートするために,また二色性ミラーによって反射された一次光を波長変換素子上に集光させるために使用され」るものであるから,当該「波長変換素子と二色性ミラーとの間の当該光学素子であるコリメータ」は,本願発明の「前記1次光(P)及び前記波長変換された光(S)に対」する「光透過性のライトガイド部材(2;12)」に相当する。 ウ 引用発明における,「波長変換素子」と「波長変換素子と二色性ミラーとの間の当該光学素子であるコリメータ」とを合わせたものは,本願発明の「入射した1次光(P)から波長変換された光(S)を形成するための波長変換部材(1;11)」に相当する。 エ 以上から,引用発明と本願発明とは以下の点で一致する。 「入射した1次光(P)から波長変換された光(S)を形成するための波長変換部材(1;11)において, 前記1次光(P)及び前記波長変換された光(S)に対し光透過性のライトガイド部材(2;12)と,蛍光体を有する少なくとも1つの蛍光体部材(6;16)とが設けられている, 波長変換部材(1;11)。」 オ 一方,両者は以下の各点で相違する。 《相違点1》 本願発明においては,「前記ライトガイド部材(2;12)は,前記少なくとも1つの蛍光体部材を放熱するために,前記少なくとも1つの蛍光体部材(6;16)とモノリシックに結合され」ているのに対して,引用発明においては,「波長変換素子からの熱を消失させることができるヒートシンクが備えられて」はいるが,上記本願発明に係る構成は備えない点。 《相違点2》 本願発明は,「前記ライトガイド部材(2;12)はセラミックライトガイド部材であり,前記少なくとも1つの蛍光体部材(6;16)は少なくとも1つのセラミックの蛍光体部材を有する」構成を備えるが,引用発明はそのような構成は備えない点。 (3)判断 上記各相違点について検討する。 《相違点1について》 ア 本願明細書には次の記載がある。 「【0008】 モノリシックな結合により,きわめて安定した波長変換部材が提供され,しかもこの波長変換部材は,ライトガイド部材の側と少なくとも1つの蛍光体部材との側との間でもはや熱抵抗をもたず,あるいはもはや大きな熱抵抗はもたない。ライトガイド部材を熱伝導体または冷却体として用いることができるので,少なくとも1つの蛍光体部材も同じ効果で冷却することができる。ライトガイド部材は1次光に対しても波長変換された光に対しても光透過性であるので,1次光を放射する光源と少なくとも1つの蛍光体部材との間にライトガイド部材を配置することができる。これにより少なくとも1つの蛍光体部材の蛍光体は熱障壁とはならず,このことによって熱の制限がさらに簡単になる。したがって例えば,ライトガイド部材に1次光を入射し,ライトガイド部材から少なくとも1つの蛍光体部材へ1次光を案内することができる。そこにおいて1次光は少なくとも部分的に波長変換され,ついで少なくとも波長変換された光が再びライトガイド部材から出射し,ひいては波長変換部材から出射する。」 以上の記載から,本願発明においては,相違点1に係る「前記ライトガイド部材(2;12)は,前記少なくとも1つの蛍光体部材を放熱するために,前記少なくとも1つの蛍光体部材(6;16)とモノリシックに結合され」た構成を備えることによって,「モノリシックな結合により,きわめて安定した波長変換部材が提供され,しかもこの波長変換部材は,ライトガイド部材の側と少なくとも1つの蛍光体部材との側との間でもはや熱抵抗をもたず,あるいはもはや大きな熱抵抗はもたない」という,放熱に関して顕著な効果を奏するものといえる。 イ 一方,引用例2には次の記載がある。 「【0027】 図1に示されている発光ダイオードチップは,基板14とこの基板14の上に堆積させたエピタキシャル成長半導体層列1を有する半導体本体20を有している。基板14とは逆の方を向いた,半導体層列1の外面が,半導体本体20の放射出力結合面2である。放射出力結合面2の上には接合層30が配置されている。接合層30は,接合層30の上に配置された被覆体6を半導体本体20に接合し,半導体本体20に固定させる。実施例では,接合層30は放射出力結合面2と平行に広がっており,ほぼ放射出力結合面の広がりと相当している。 ・・・(中略)・・・ 【0037】 変換層3は,例えば少なくとも1つの蛍光体から成る発光変換材を有している。このためには,例えば,希土類元素(特にCe)がドープされたガーネットのような無機蛍光体,又は,ペリレン蛍光体のような有機蛍光体が適している。他の適当な蛍光体は例えばWO 98/12757において実施されており,その内容はその限りにおいて参照としてここに取り入れられる。 【0038】 発光変換材はマトリックス材の中に埋め込んでもよい。このマトリックス材は,例えば,被覆体6を形成している材料と同じ材料であってよい。材料が同じであること,したがってまた屈折率が同じであることにより,変換層3と被覆体6との間の境界面での電磁放射の反射が大幅に防止される。 【0039】 被覆体6及び/又は変換層3のマトリックス材の材料としては,例えばホウケイ酸ガラスなどのガラスが適している。ホウケイ酸ガラスは,構造が緻密なため,半導体本体20の膨張係数に合った熱膨張係数を有している。すなわち,変換層3のマトリックス材は半導体本体20の層と同じ又は少なくとも近似した膨張係数を有している。」 上記記載から,引用例2には,被覆体6と同じ材料中に,変換層を構成する発光変換材を埋めこんだものが示されているといえる。 ウ また,引用例3には次の記載がある。 「 【0037】 図5aから図5eは,ディスパーサの様々な実施形態を示すものであるが,他の設計が使用されてもよい。図5aは,セパレータ52の端部に一体化されたディスパーサ51を示すものである。この実施形態において,セパレータは,固体光ファイバまたは光パイプからなり,ディスパーサ51は,研削または研磨されたセパレータ52の端部として形成されている。また,ディスパーサを通過する光を更に散乱させるために,ディスパーサ51をざらつかせたり,つや消し処理したりしてもよい。柔軟性をさらに高めるために,ディスパーサは,光をビームまたは他の所望のパターンに集束させるものであってもよい。標準的なタングステンをベースとした白熱電球と同様の放射状のほぼ球状である光分布を提供するためには,ディスパーサをつや消し処理またはざらつかせた半球状にしてもよい。代わりに,ディスパーサ51は,セパレータ52の端部に取り付けられる別体の光部品であってもよい。別体の光部品は取り外し可能であり,同一のランプに対して異なるディスパーサの使用を可能にし,ランプの他の部分に先立って故障した際に,ディスパーサの交換を可能にする。 【0038】 ディスパーサは,蛍光燐光体,鉱物,重合体,染料,結晶または薄膜といったような入射光の一部あるいはすべてを異なる波長に変換する物質を含んでいるとよい。また,ディスパーサは,固体または液体の形でダウンコンバート物質を含んでいる水晶,ガラスといった透明材あるいは半透明材の中空シェルから構成され得る。代わりに,ディスパーサは,溶液または懸濁液中にダウンコンバート物質を含んだ固形の本体から構成されていてもよい。例えば,ディスパーサは,固化前に燐光体粒子が全体に均一に分散された成形エポキシ,または,その内部に蛍光染料を溶解させた成形エポキシであるとよい。他の代替として,ディスパーサは,外面または内面がダウンコンバート物質によってコートされた固定の本体から構成されてもよい。」 上記記載から,引用例3には,セパレータ52の端部に一体化されたディスパーサ51であって,ディスパーサ51は,蛍光燐光体,鉱物,重合体,染料,結晶または薄膜といったような入射光の一部あるいはすべてを異なる波長に変換する物質を含んでいるものが示されているといえる。 エ よって,引用例2及び3から,光を透過する材料中の一部に波長変換材料を埋めこみ,「モノリシックに結合」したものとすることで,波長変換を行う技術は,本願の優先日前に既に知られていたといえる。 しかしながら,本願発明のように,「モノリシックな結合」によって「熱抵抗をもたず,あるいはもはや大きな熱抵抗はもたない」状態で,当該波長変換を行う部分で発生する熱を当該光を透過する部材によって積極的に放熱することまでは,引用例2及び3には記載されておらず,また引用例2及び3の記載から自明な事項ともいえない。 オ そして,仮に,引用発明において,上記引用例2及び3に記載された技術を適用でき,引用発明の「波長変換素子と二色性ミラーとの間の光学素子であるコリメータ」を,光を透過する部材で構成し,その端部に波長変換素子を設けたものが得られ,この際,結果として,波長変換素子からの熱が当該光を透過する部材に伝わることがあるとしても,引用発明は「波長変換素子からの熱を消失させることができるヒートシンク」を別個に設けるものであるから,前記光を透過する部材で構成したコリメータを,波長変換素子からの熱を「放熱するため」のものとすることまでは,当業者が容易になし得たこととはいえない。 それゆえ,引用発明において相違点1に係る構成を備えることは,周知技術を勘案しても当業者が容易になし得たこととはいえない。 (4)まとめ よって,相違点2について検討するまでもなく,本願発明は,引用発明及び引用例2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (5)本願の請求項2?11について 本願の請求項2?9は,請求項1を直接あるいは間接に引用するものであるから,本願の請求項2?9に係る発明は請求項1に係る発明の発明特定事項を含むものである。また,請求項10に係る発明は請求項6に,請求項11に係る発明は請求項7又は8に,それぞれ記載された波長変換部材を製造する方法の発明であるから,当該各製造方法は,請求項1に係る発明の発明特定事項を含む波長変換部材の製造方法に限られるものである。 そして,前記(1)?(4)で検討したとおり,請求項1に係る発明は当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから,本願の請求項2?11に係る発明についても,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 5 むすび 以上のとおり,本願の請求項1?11に係る発明は,引用発明及び引用例2及び3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-06-17 |
出願番号 | 特願2014-523248(P2014-523248) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 吉野 三寛 |
特許庁審判長 |
恩田 春香 |
特許庁審判官 |
近藤 幸浩 小松 徹三 |
発明の名称 | 波長変換部材及び該部材の製造方法 |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 星 公弘 |