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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1315501
審判番号 不服2014-4724  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-11 
確定日 2016-06-08 
事件の表示 特願2013- 28239「チゲサイクリンの結晶性固体形態およびその調製方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月23日出願公開、特開2013-100354〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2006年5月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年5月27日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2008-513821号の一部を平成25年2月15日に新たな特許出願としたものであって、平成25年2月15日付けで手続補正書が提出され、平成25年3月22日付けで拒絶理由が通知され、平成25年7月5日付けで意見書と手続補正書が提出され、平成25年7月19日付けで拒絶理由が通知され、平成25年10月23日付けで意見書が提出され、平成25年11月7日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成26年3月11日に拒絶査定不服審判が請求され、平成26年4月23日付けで審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書が提出された後、平成27年7月21日付けで当審より拒絶理由が通知され、平成27年10月27日付けで意見書と手続補正書が提出されたものである。



第2 本願発明について
本願の請求項1ないし9に係る発明は、平成27年10月27日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「5.2°±0.2°(2θ)、8.3°±0.2°(2θ)、10.4°±0.2°(2θ)、11.1°±0.2°(2θ)、13.2°±0.2°(2θ)、13.7°±0.2°(2θ)、14.7°±0.2°(2θ)、15.6°±0.2°(2θ)、16.6°±0.2°(2θ)、19.0°±0.2°(2θ)、19.3°±0.2°(2θ)、19.9°±0.2°(2θ)、21.2°±0.2°(2θ)、22.4°±0.2°(2θ)、23.1°±0.2°(2θ)および24.8°±0.2°(2θ)のX線粉末回折ピークおよび170℃?172℃の高温融点開始温度を有するフォームIチゲサイクリン。」



第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が通知した拒絶の理由は、理由1と理由2からなり、そのうちの理由1の概要は、この出願の請求項1ないし10に係る発明は、その出願前に頒布された刊行物A(米国特許第5675030号明細書)及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
そして、上記請求項1ないし10に係る発明のうち、請求項1に係る発明は、「本願発明」に相当するから、当審が通知した拒絶の理由は、本願発明は、その出願前に頒布された刊行物A及び技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。



第4 当審の判断
1 刊行物
刊行物A:米国特許第5675030号明細書(原審における引用文献1)
刊行物B:国際公開第2004/022538号(当審において新たに引用)
刊行物C:国際公開第2004/067526号(同)
刊行物D:国際公開第2004/101551号(同)
刊行物E:Chemistry & Industry,1989,21巻,p.527-529(同)
刊行物F:Pharmaceutical Research,12(7),1995,p.945-954(同)
刊行物G:社団法人日本化学会編、第4版 実験化学講座1 基本操作I、丸善株式会社発行、1996年、p.184-189(同)
(なお、刊行物BないしGは、本願の優先日における周知技術を示すために引用するものである。)


2 刊行物の記載事項
(1)刊行物A
訳文で示す。
(a1)「例8
[4S-(4α,12α)]4,7-ビス(ジメチルアミノ)-9-[[(t-ブチルアミノ)アセチル]アミノ]-1,4,4a,5,5a,6,11,12a-オクタヒドロ-3,10,12,12a-テトラヒドロキシ-1,11-ジオキソ-2-ナフタセンカルボキサミド モノヒドロクロリド
125mlのt-ブチルアミンに対して、アルゴン下、例7からの生成物(当審注:当該生成物は「[4S-(4α,12α)]-9-[(クロロアセチル)アミノ]4,7-ビス(ジメチルアミノ)-1,4,4a,5,5a,6,11,12a-オクタヒドロ-3,10,12,12a-テトラヒドロキシ-1,11-ジオキソ-2-ナフタセンカルボキサミド」である。)25gを滴下し、25?30℃に維持し、2.5gのヨウ化ナトリウムを加える。混合物は、室温にて、5.5時間撹拌される。反応の進行は、HPLCにより観察される。反応物に対し、25mlのメタノールが加えられ、有機溶媒は真空で除去される。残渣に対し、105mlのメタノールと170mlの水が加えられ、混合物は0?2℃まで冷却され、そのpHは、濃塩酸によりpH7.2?7.4に調整される。溶液は、低温冷蔵庫中、8℃にて、一晩、撹拌される。HPLCアッセーは、加水分解が完了したことを示す。全容積は335mlである。水により全容積を2.9Lに調整し、濃塩酸により、pHを4.0?4.2に調整する。濃水酸化アンモニウムによりpHを4.0?4.2に調整した後、216gの湿潤アンバークローム(R)CG151cdを溶液に加え、30分間、室温にて撹拌した。懸濁液はろ過され、溶出液が保存される(溶出液1)。樹脂は、1.2Lの20%メタノール水溶液により、再度スラリー化され、必要に応じてpHは4.0に調整される。スラリーは20分間撹拌され、ろ過され、溶出液を保存する(溶出液2)。この工程を2回繰り返し、それぞれ1.2Lの20%メタノール水溶液により、洗浄する(溶出液3、4)。それぞれ、20%メタノール水溶液による洗浄に先立ち、pHは4.0?4.2に調整される。溶出液1?4は合わされ、水酸化アンモニウムによりpH7.2?7.3に調整される。溶液は、700mlメチレンクロライドにより5回抽出され、それぞれの抽出の前に、10分間撹拌され、pHは7.2?7.3に調整される。メチレンクロライド抽出液は、合わされ、真空で濃縮され、乾燥される。残渣は、45mlの冷却塩化メチレンにより、よく撹拌される。沈殿物は回収され、冷却メチレンクロライドにより2回洗浄され、40℃で真空乾燥され、6.6gの遊離塩基を与える(収率は理論値の26%)。
HPLC面積による純度96.6%、C-4エピマー1.5%。
MS(FAB):m/z 586(M+H); 585(M+)。」(第13カラム第16?58行目参照)

(2)刊行物B
(b1)「一般的に非晶質形の場合溶解性は向上するものの、安定性が悪く、また比容積が一定になりにくく、溶媒が付着しやすく、吸湿しやすいなどの性質を有することが多く、経口用固形医薬に使用するには不適である場合が多い。一方、結晶の場合は溶解性が低下する傾向があるが、安定性が高く、賦形剤等との配合変化若しくは経時変化を受けにくい。また吸湿性が低く、比容積も一定になりやすいので含有量の調整が容易である。従って、経口用固形医薬の場合、溶解性に問題がない限り、活性成分は結晶の方が好ましい。
また、化合物によっては結晶形の異なる複数の結晶形、すなわち結晶多形が存在することがあり、結晶形の相違によって溶解性や安定性が異なり、吸収性や体内動態に影響することもあるため、医薬の活性成分については、結晶多形が存在する場合はその特性を確認することが求められている。」(第4頁第9?19行目参照)

(3)刊行物C
(c1)「一般的に、医薬原薬の製造において、原薬を結晶状態、さらには結晶形の特定された結晶状態で得ることは、非晶質体で得ることに比較して、原薬および医薬組成物の保存安定性や製造工程のコントロール等において有利である。」(第1頁第16?18行目参照)

(4)刊行物D
(d1)「一般的に、医薬原薬の製造において、原薬を結晶状態で得ることは、原薬及び医薬組成物の保存安定性や製造工程のコントロール等において有利である。
さらに2つ以上の結晶形が存在する化合物を医薬品として利用する場合、それぞれの結晶によって、その融点、溶解度、又は安定性等の物理化学的及び体内動態(吸収性、分布、代謝、又は排泄等)が異なり、結果として薬効発現等の生物学的性質が異なる場合がある。医薬品としてこれらの性質が一定であることを保証するためには、特定の結晶形の原薬を製造することが求められることが多い。また、原薬を製造する過程においても、収率や精製効果を一定に保持するためには晶析操作において特定の結晶形を析出させることがしばしば重要になる。」(第1頁下から5行目?第2頁第7行目参照)

(5)刊行物E
訳文で示す。
(e1)「プロセスの開発における多形」(第527頁、標題参照)
(e2)「結晶性製品は、一般に、単離し、精製し、乾燥するのに、そしてバッチプロセスにおいては取扱い、製剤化するのに、最も容易である。」(第527頁左欄第1?3行目参照)
(e3)「多形は、同一分子の単位セル内での結合方法が異なる結晶格子をもつ。その相違は、セル内の分子の詰め込み方の違いや立体配置の変化を反映しており、大きなものであり得る。水素結合は、医薬産業にとって興味のあるほとんどの分子に関係するであろう。」(第527頁左欄第15?20行目参照)
(e4)「可能性のあるいかなる多形が得られるかは、結晶化が生じる温度、溶媒の性質(親水性か、疎水性か)、そして結晶化が始まる過飽和の程度、といった様々なファクターに依存するようである。種結晶の使用は、目的とする多形を得るために有用である。」(第527頁右欄第9?14行目参照)
(e5)「少数の化合物しか開発に至らないうえ、市販されるものはさらに少ない。各開発候補品に進展のための最良の機会を与えるには、多形が現れるのを成行き任せにしてその結果混乱を来すよりも、多形について調査するほうが良いと思われる。多形を得ようとする試みにおいて用いられる手法には、急速に溶液を冷却するか、溶質の溶けにくい第二の溶媒を加えるか、過剰の固体を溶媒と共に激しく攪拌するか、過剰の固体を高沸点溶媒と共に加熱するか、昇華させるか、及び溶液のpHを急激に変化させて酸性又は塩基性の物質を沈殿させるかという方法により、異なる温度下で様々な溶媒(極性及び非極性、親水性及び疎水性)から結晶化させることが含まれる。」(第528頁左欄第2?14行目参照)

(6)刊行物F
訳文で示す。
(f1)「医薬品固体:法規制考慮への戦略的アプローチ」(第945頁、標題参照)
(f2)「医薬品固体の対象における興味は、“適切な”分析手法を用いて原薬の多形、水和、又は無定形を検出すべきであるとする、食品医薬品局(FDA)の原薬ガイドラインに部分的に由来する。これらのガイドラインは、原薬の結晶形態を制御することの重要性を示す。ガイドラインはまた、原薬の結晶形態を制御すること、及びバイオアベイラビリティが影響されるならば、その制御方法の妥当性を実証することは、申請者の責任であるとしている。
したがって、新薬申請(NDA)は、特にバイオアベイラビリティが問題となる場合には、固体状態に関する情報が含まれていなければならないことが明らかである一方で、申請者は、情報収集への科学的アプローチやどのような情報が必要とされるのかについて、確信が持てないであろう。この総説は、一連のガイドラインや規則ではなく、フローチャートの形でコンセプトやアイディアを示すことにより、こうした不確かさの大部分を取り除くための戦略的なアプローチを提供することを目的とする。個別の化合物はそれぞれ、アプローチの柔軟性を必要とする特有の特性を有するため、このことは特に重要である。ここで提案されるこの研究は、臨床試験用新医薬品(IND)申請プロセスの一部分である。
固体の医薬物質は、広範囲であり且つ概して予測のできない、様々な固体状態特性を示す。それでもなお、多くの事例において、適切な分析的手法を用いて基本的な物理化学的性質を申請することは、固体状態での挙動に関する科学的及び規制上の決定のための戦略を提供する。医薬品開発の初期段階において、固体状態での挙動に関する基本的な疑問に取り組むことにより、申請者とFDAの両者は、医薬物質の固体状態特性の何らかの変動が与え得る効果を評価しやすくなる。この分野に関してはその結果としてもたらされる両者の初期段階での関わりは、臨床試験中に用いられる物質の均質性を保障しやすくするだけではなく、医薬品開発の臨床段階に入る前に固体状態での問題点を完全に解決することにもつながる。これらの科学的研究がもたらす更なる利益は、医薬物質の固体形態を充分に記述する、固体状態についての有意義な規格の確立である。これらの規格はしたがって、サプライヤー又は化学工程における一部変更承認を促進する。」(第945頁左欄第1行目?右欄第15行目参照)
(f3)「既に述べたように、原薬の多形及び水和物の存在について調べることが得策である。というのは、これらは医薬品製造プロセスの何れかの段階で、又は原薬若しくは製剤の貯蔵に際して遭遇し得るからである。」(第946頁左欄下から5行目?末行参照)
(f4)「A.多形の形成?多形は発見されているか?
多形決定ツリーの最初のステップは、多形は可能かという質問への回答を試みるために、その物質を多数の異なる溶媒から結晶化させることである。溶媒は、最終結晶化工程で用いられるもの、及び製剤化や加工工程で用いられるものを含み、水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、アセトン、アセトニトリル、酢酸エチル、ヘキサン、及び適切であればこれらの混合物を使用できる。」(第946頁右欄第19?28行目参照)
(f5)「フローチャート/多形決定ツリー」と題する図1(946頁)は、左上の「多形は発見されているか?」で始まり、左下には以下の記載がある。
「多形のための試験
-X線粉末回折
-示差走査熱量分析
-顕微鏡
-赤外吸収スペクトル
-固体NMR」
「溶媒和物又は水和物のためのフローチャート」と題する図6(第949頁)、「脱溶媒した溶媒和物のためのフローチャート」と題する図9(第951頁)、「非晶質固体のためのフローチャート」と題する図11(第952頁)にも試験の手段が挙げられている。
(f6)「大変少ない例外を除き、市販されている結晶性医薬物質に含まれている構造的な溶媒は、水である。」(第949頁左欄第19?20行目参照)
(f7)「フローチャートの次の質問は、“アモルファス形態は、異なる物理的特性を有するか?”である。この質問に対する回答は、ほとんどの場合において確実に“イエス”であろう。一般に、結晶形態とは異なる点が3つ考えられる。1)アモルファス形態のほうが、溶解性が高いであろうこと。2)アモルファス形態のほうが、より広範に水を吸収すること。3)アモルファス形態のほうがしばしば、化学的に安定性が低いこと。アモルファス形態への別の重要な疑問は、“結晶化するか、それはどのように、いつ”ということである。予期しない結晶化は、溶解性と溶解速度に影響し、製剤化での別な障害につながるため、この疑問は非常に重要である。アモルファス形態を意図的に結晶化させる試みは、アモルファス形態の結晶化に関連するパラメータ情報をもたらす。特有な質問として、(1)“アモルファス形態は、熱及び/又は湿気にさらすことで結晶化するか?”、(2)“いかなるその他の要因(たとえば、機械的圧力及び種晶添加がアモルファス形態の結晶化をもたらすか?”、が挙げられる。」(第952頁右欄第10?27行目参照)

(7)刊行物G
(g1)「a.再結晶
物質の精製法として蒸留法,および再結晶法は基本的操作である.再結晶は,加熱下で溶質を溶媒に溶解して飽和溶液とし,次にこの溶液を冷却すると溶質の溶解度が下がり,過剰の溶質は沈殿(結晶)し,一方,不純物は飽和溶液に達せず,そのまま溶液に留まる.・・・
(ii)溶媒の選択 再結晶溶媒の選択には一定の規則があるわけでなく,試行錯誤により選択するのが基本である.したがって,試料約20mg程度を試験管で溶媒に対する溶解性や結晶性を調べてみるとよい.既知化合物であれば,化合物辞典などで再結晶溶媒や溶解度を調べるのがよい1).未知化合物においても,同族体の既知化合物のデータを参照するとよい.・・・一般には水素結合性,極性を考慮すれば,次の6種類の溶媒の中から選択すれば十分であろう.
ヘキサン<ベンゼン<酢酸エチル<アセトン<エタノール<水 (極性小から大)
さらにこの中間の極性のものが欲しい場合には,2種の溶媒を混合するか,表4・5を参照されたい.・・・


・・・」(第184頁?第186頁「a.再結晶」欄参照)


3 刊行物に記載された発明
刊行物Aには、[4S-(4α,12α)]4,7-ビス(ジメチルアミノ)-9-[[(t-ブチルアミノ)アセチル]アミノ]-1,4,4a,5,5a,6,11,12a-オクタヒドロ-3,10,12,12a-テトラヒドロキシ-1,11-ジオキソ-2-ナフタセンカルボキサミドの遊離塩基を、実際に合成し、マススペクトルにより化合物を同定したことが記載されている。
したがって、刊行物Aには、
「[4S-(4α,12α)]4,7-ビス(ジメチルアミノ)-9-[[(t-ブチルアミノ)アセチル]アミノ]-1,4,4a,5,5a,6,11,12a-オクタヒドロ-3,10,12,12a-テトラヒドロキシ-1,11-ジオキソ-2-ナフタセンカルボキサミド」
の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。


4 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「[4S-(4α,12α)]4,7-ビス(ジメチルアミノ)-9-[[(t-ブチルアミノ)アセチル]アミノ]-1,4,4a,5,5a,6,11,12a-オクタヒドロ-3,10,12,12a-テトラヒドロキシ-1,11-ジオキソ-2-ナフタセンカルボキサミド」は、本願発明の「チゲサイクリン」の別名であることから、両者は、
「チゲサイクリン」
である点で一致し、以下の点で相違する。

【相違点】
本願発明は、チゲサイクリンが、フォームIの結晶性のものであり、X線回折パターンの2θの数値と高温融点開始温度により特定されたものであるのに対し、引用発明においてはチゲサイクリンがそのように特定されたものではない点。


(2)相違点についての検討
ア 結晶を得ることの動機付けについて
本願優先日前に頒布された刊行物BないしDには、医薬化合物については、安定性や製剤工程における取り扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることが、ごく一般的なこととして記載されていることから、本願優先日当時、医薬化合物を結晶化することについては強い動機付けがあり、結晶化条件を検討したり、結晶多形を調べることは、当業者がごく普通に行うことであったと認められる。
そして、チゲサイクリンは、治療上有効とされる抗生物質であって、医薬化合物なのである(なお、この点については、本願優先日前に頒布された種々の刊行物に記載されていることが、本願明細書の段落【0003】の記載からも明らかである。)から、刊行物Aに開示されたチゲサイクリンについて、当業者が、結晶を得ようとして結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することには、十分な動機付けを認めることができる。

イ 特定の工程を採用する点及びX線粉末回折の2θの数値、高温融点開始温度により特定されたものである点について
(ア)フォームIの結晶を得るために本願明細書が開示した方法は、実施例1の「保存された塩化メチレン抽出物を、250gの無水硫酸ナトリウムに通して濾過し、500mLに濃縮し、0-3℃に冷却する。生成物は晶出した。スラリーを0-3℃で1時間攪拌し、固体を濾過し、2x50mLの冷却塩化メチレンで洗浄し、真空中にて40℃で乾燥」するというものである。
結晶多形を得るために、溶液から結晶化させる方法は、極めて一般的なものである。冷却し、撹拌する方法も、刊行物E(化学物質の結晶、特に結晶多形の研究の重要性を指摘する文献である。)、刊行物G(書籍名のとおり、化学実験における基本操作を教示する文献である。)にも記載されるように当業者が通常採用する方法である(摘示(e5)、摘示(g1))。また、結晶化の溶媒として塩化メチレンは極めてありふれたものであり(摘示(g1)の表4・5)、刊行物Aの記載から、塩化メチレンがチゲサイクリンを溶解し得ることも明らかである。
そうすると、本願明細書が開示した方法は、当業者が通常採用しないような手法を用いているものではなく、特殊な条件設定が必要であるというものでもないから、フォームIは、当業者が通常なし得る範囲の試行錯誤で得られた結果物である結晶に過ぎないものというべきである。

(イ)そして、結晶性が期待される医薬化合物の分析のために、X線粉末回折を行ったり、融点の測定を行うことは、通常のことであるから(例えば、刊行物F(医薬品固体を得るための手法に係る総説的な文献である。)の摘示(f5)参照。)、相違点1に係る、X線回折パターンの2θの数値、高温融点開始温度により特定されたものである点は、当業者が、得られた結晶について、その分析において通常用いるX線粉末回折を行った場合に得られる結果を、提示しただけのことに過ぎない。

ウ 以上(2)ア、イによれば、本願発明は、チゲサイクリンの特定の結晶性形態(フォームI)に係る発明であるところ、刊行物Aに開示されたチゲサイクリンについて、結晶を得ることを意図し、塩化メチレンに溶解させて、結晶化させるという、当業者が通常採用する手法を採用して、諸条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより得られた結果物である結晶に過ぎないものであるから、引用発明において、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。


(3)効果について
本願発明の効果は、本願明細書の段落【0004】の記載からみて、非晶質のチゲサイクリンに比べて、結晶性固体形態とすることにより、安定性を高められることであると認められる。
しかし、上記(2)アに示したとおり、結晶が非晶質よりも安定性を有することは、当業者の技術常識であるということができる。
その上で、本願明細書には、結晶性形態のチゲサイクリンが、非晶質のそれよりも安定性を有する旨が記載されているが、その記載から、フォームIの安定性が、通常の結晶から予測し得る範囲を超える顕著なものであるとまで認めることはできない。


(4)小括
以上(1)?(3)に示したとおり、本願発明は、本願優先日前に頒布された刊行物である刊行物Aに記載された発明及び技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。



第5 むすび
本願請求項1に係る発明は、上記したとおりの理由によって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-08 
結審通知日 2016-01-12 
審決日 2016-01-25 
出願番号 特願2013-28239(P2013-28239)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 爾見 武志  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 辰己 雅夫
齊藤 真由美
発明の名称 チゲサイクリンの結晶性固体形態およびその調製方法  
代理人 青山 葆  
代理人 青山 葆  
代理人 落合 康  
代理人 山田 卓二  
代理人 落合 康  
代理人 青山 葆  
代理人 山田 卓二  
代理人 松谷 道子  
代理人 青山 葆  
代理人 山田 卓二  
代理人 落合 康  
代理人 青山 葆  
代理人 落合 康  
代理人 松谷 道子  
代理人 松谷 道子  
代理人 山田 卓二  
代理人 松谷 道子  
代理人 山田 卓二  
代理人 松谷 道子  
代理人 山田 卓二  
代理人 落合 康  
代理人 松谷 道子  
代理人 落合 康  
代理人 青山 葆  
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