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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04M
管理番号 1315529
審判番号 不服2014-24697  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-03 
確定日 2016-06-08 
事件の表示 特願2010-234897「異種ネットワーク環境における移動体及び電子商取引に対する集中通信プラットホーム及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月31日出願公開,特開2011- 66910〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,2012年3月19日を国際出願日とする出願である特願2003-509751号(パリ条約優先権主張外国庁受理 2001年6月29日 米国,2002年3月14日 米国)の一部を,平成21年10月5日に新たな特許出願とした特願2009-231974号の一部を,平成22年10月19日に更に新たな特許出願としたものであって,平成26年7月31日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年12月3日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正がなされ,平成27年7月15日付けで当審より拒絶理由が通知され,同年11月24日付けで意見書と手続補正書が提出されたものである。

第2 当審の拒絶理由
当審より通知した拒絶理由の概要は以下のとおりである。

「 理 由

1.(新規事項)平成26年12月3日付けでした手続補正は,下記の点で外国語書面の翻訳文(又は誤訳訂正書による補正後の明細書若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
2.(サポート要件)…(省略)…
3.(明確性)…(省略)…
4.(進歩性)…(省略)…

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)

●理由1(新規事項)について
(1)補正後の請求項1には,「所定レベルより低いアカウント残高の値がユーザの事前認可済アカウントに記憶されている前記ユーザ装置のユーザへ通知するために,警告信号を,…前記ユーザ装置へ送信する」及び「前記警告信号に応じて,リプライ信号を,…前記ユーザ装置から受信する」と記載され,補正後の請求項11には,「所定レベルより低いアカウント残高の値が前記ユーザの事前認可済アカウントに記憶されているユーザ装置のユーザへ通知するために,警告信号を,…前記ユーザ装置へ送信し,リプライ信号を,…前記ユーザ装置から受信する」と記載されている。これらの記載からすると,補正後の請求項1及び11には,「アカウント残高の値」が「所定レベルより低い」場合に「警告信号」を通知し,これに応じて「リプライ信号」を受信する,という発明特定事項が読み取れる。
ここで,「所定レベルより低いアカウント残高の値」が記憶されている場合の処理に関して,上記翻訳文の明細書における対応箇所は,段落【0061】の「残高がある額を下回っている場合に自動的に別の特定アカウント(銀行デビット/クレジットあるいは任意のタイプのアカウント)から再入金」,段落【0293】の「(4)残高がある金額を下回る場合,別の特定アカウント(銀行デビットあるいはクレジットあるいは任意のタイプのアカウント)から自動的に行う自動再入金」のみであり,また,「警告信号」に関して,出願当初の明細書における対応箇所は,段落【0264】の「残高制御2210は,ユーザのアカウントの現在の残高を監視し続けることができる,あるいはユーザのアカウントが所定レベルに達している場合に警告を提供することができる。」のみである。
しかしながら,これらの段落とその前後の記載をみても,「所定レベルより低いアカウント残高の値」が記憶されている場合の処理と,「警告信号」との処理の間の関係については,具体的に記載がなく,上記翻訳文には,上記発明特定事項は記載されていない。また,請求人は,請求の理由において,「しかしながら,引用文献1において,上記の開示が無いのは,口座からの引き落としが「自動引落」であることの記載があるとおり,「自動」を目的としたものであって警告メッセージの受領,引き落としの要求という処理をユーザが行わないことを前提としているためです。」と自らが述べていることからすると,上記翻訳文の明細書の上記記載においては「所定レベルより低いアカウント残高の値」が記憶されている場合には「自動的に」再入金する処理を行うことしか記載がないため,警告信号の受信,リプライの要求という処理をユーザが行わないことを前提としているものと解するのが合理的である。
よって,補正後の請求項1及び11に記載された上記発明特定事項は,上記翻訳文に記載したものではない。
…(省略)…
(2)…(省略)…

なお,当該補正がなされた明細書又は図面における請求項1,3乃至7,11,13乃至17に記載した事項は外国語書面の翻訳文(又は誤訳訂正書による補正後の明細書若しくは図面)に記載した事項の範囲内にないことが明らかである…(以下省略)」

第3 請求人の対応
1 補正の概要
平成27年11月24日付けの手続補正書による手続補正は,特許請求の範囲の請求項1を次のようにする補正(以下「本件補正」という。)を含むものである。

「 通信方法が異なるタイプの複数のネットワークに接続されている集中通信プラットホームとコンピュータシステムを介して接続されるユーザ装置との間で信号を送信する方法であって,
所定レベルより低いアカウント残高の値がユーザの事前認可済アカウントに記憶されている前記ユーザ装置のユーザへ通知するために,警告信号を,第1ネットワークを介して前記集中通信プラットホームから前記ユーザ装置へ送信するステップと,
前記警告信号に応じて,再入金メカニズムを認可することを含むリプライ信号を,前記ユーザ装置から受信するステップと,
前記ユーザの別のアカウントについての情報を記憶するコンピュータシステムによって使用されるフォーマットで,取引信号として,前記別のアカウントから前記ユーザの事前認可済アカウントへ追加の金額の送金を認可する取引信号を前記集中通信プラットホームによって生成し,前記取引信号を,前記第1ネットワークとは異なるタイプの第2ネットワークを介して前記コンピュータシステムへ送信するステップと,
前記集中通信プラットホームの外部にある異なるタイプのネットワーク群のうち無線ネットワークの基地局には接続されず前記集中通信プラットホームに接続された少なくとも1つのネットワークを介して前記追加の金額を送金する前記コンピュータシステムであって当該コンピュータシステムから返信信号が受信される場合,提供される複数の通信サービスあるいは実現される複数の取引の少なくとも一方に対する支払で使用するための前記事前認可済アカウントに対して前記別のアカウントから引き落として前記追加の金額を追加するリアルタイム金融決済を完了するために,前記集中通信プラットホームで再入金信号を処理するステップと
を備えることを特徴とする方法。」

2 意見書の主張の概要
平成27年11月24日付けの意見書の概要は以下のとおりである。

「(3)拒絶理由に対する反論
(3-1)理由1:特許法第17条の2第3項
(3-1-1A)翻訳文の明細書には,「所定レベルより低いアカウント残高の値」が記憶されている場合には「自動的に」再入金する処理を行うことしか記載がない,という指摘について
本願明細書には,以下の事項が示されています。
(a)段落0068:集中通信プラットホームは,ユーザアカウントが支払うための十分な金額を持っていることを検証すること,ユーザアカウント残高が所定レベルに達する場合,信号を送信すること。
(b)段落0069:複数のネットワークを介してプリペイドローミング通信サービスを提供する装置は,有効なユーザアカウントが所定のレベルに達する場合信号を送信する送信部を有すること。
(c)段落0057:ローミング加入者,特にプリペイドローマに対する消費者ケア解決策は,少なくとも,ローミング中に消費者が自信のプリペイドアカウントに再入金することができること。
(d)段落0061:方法およびシステムでは,移動電話による消費者からの再入金を可能とすることが必要とされていること。
(e)段落0087:再入金ルーチンが有する機能には,送金のための再入金ユーザアカウントの判定及び事前認可済み送金を少なくとも1つ照会することによる送金の認可及び認可済みユーザからの認可の要求を含むこと。
(f)段落0240(図12):移動電話のプリペイドユーザであるティム(Tim)が,自身のプリペイド消費者アカウントに再入金しようとするときに,ローミングネットワークに接続すること

(a)(b)によれば警告信号が自動的に送信されること,(c)?(f)によれば,消費者によって再入金が指示され,自動的に再入金がされるものではないことが開示されていると思料いたします。

(3-1-1B)「前記リプライ信号」が「ユーザPIN」等であることが,翻訳文に記載されていない,という指摘について
段落0087には,「認可済みユーザからの認可の要求」が「PINの要求」等であることが開示されています。また,同段落には,再入金ルーチンの機能として送金の認可及び認可済みユーザからの認可の要求を含んでいるとの記載があります。認可済みユーザからの認可はユーザ装置からのリプライ信号によることは明らかですから,これがPIN等を含んでいることも明らかであると思料いたします。
…(以下省略)」

第4 当審の判断
当審より通知した拒絶理由の理由1(新規事項)の(1)(以下「当審拒絶理由」という。)の趣旨は,補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載の「所定レベルより低いアカウント残高の値がユーザの事前認可済アカウントに記憶されている前記ユーザ装置のユーザへ通知するために,警告信号を,…前記ユーザ装置へ送信する」及び「前記警告信号に応じて,リプライ信号を,…前記ユーザ装置から受信する」(以下,これらの記載を「補正前記載事項」という。)が,外国語書面の翻訳文に記載したものではないから,平成26年12月3日付けでした手続補正が,特許法第17条の2第3項
新規事項)に規定する要件を満たしていない,ということである。
そして,補正前記載事項は,その内容からして,補正後の「所定レベルより低いアカウント残高の値がユーザの事前認可済アカウントに記憶されている前記ユーザ装置のユーザへ通知するために,警告信号を,…前記ユーザ装置へ送信する」及び「前記警告信号に応じて,再入金メカニズムを認可することを含むリプライ信号を,前記ユーザ装置から受信する」(以下「補正後記載事項」という。)に対応している。
よって,補正後記載事項が,外国語書面の翻訳文に記載したものであるか否かについて検討することにより,当審拒絶理由が解消したか否かについて検討する。
まず,補正後記載事項からは,
・所定レベルより低いアカウント残高の値がユーザの事前認可済アカウントに記憶されているユーザ装置のユーザへ通知するために,警告信号を,前記ユーザ装置に送信すること(以下「事項1」という。),
及び,
・前記警告信号に応じて,再入金メカニズムを認可することを含むリプライ信号を,前記ユーザ装置から受信すること(以下「事項2」という。)
を把握することができるので,事項1及び事項2のそれぞれが,外国語書面の翻訳文に記載されているか否かについて検討する。

1 事項1について
事項1の「所定レベルより低いアカウント残高の値がユーザの事前認可済アカウントに記憶されている」とは,「ユーザの事前認可済アカウント」の「残高の値」が「所定レベルより低い」ことを意味している。よって,事項1は,「ユーザの事前認可済アカウント」の「残高の値」が「所定レベルより低い」ときに,「警告信号」を「ユーザ装置」に送信するものと解される。
そして,「ユーザの事前認可済アカウント」の「残高の値」が「所定レベルより低い」ときの処理,又は,「警告信号」を送信することに関して,外国語書面の翻訳文の明細書(以下「翻訳文明細書」という。)には,次のような記載がある。(下線は強調のために当審が付与した。以降も同じ。)

(1)「【0061】
プリペイドサービス及び商取引を成立させるために,特に,移動商取引では,方法及びシステムに対して,次の任意のものからの再入金を可能にすることが必要とされている:再入金証書,保証人アカウント(クレジット/デビット/任意の他のタイプのアカウント)との直接連携,移動電話あるいは固定電話による消費者からの再入金,保証人アカウント(クレジット/デビット/任意の他のタイプのアカウント)からの直接課金,銀行ATMからの消費者による再入金,あるいは現金窓口での現金支払による再入金である。各プリペイド消費者には,次の方法で再入金に対する自身の条件を構成することを可能にするべきである:電話(移動電話あるいは固定電話)からのみからの再入金,ネットからの再入金(インターネット,モバイルインターネットあるいは任意の他のタイプの公衆あるいは専用ネットワーク),消費者が再入金に対して明確に問い合わせている場合にのみ再入金(IVR,ネットあるいは立ち寄り,あるいは任意の別の方法によって),残高がある額を下回っている場合に自動的に別の特定アカウント(銀行デビット/クレジットあるいは任意のタイプのアカウント)から再入金,プリペイドアカウントに対して支払保証とする別のアカウントを使用している場合は,そのアカウントに再入金はしない,メインアカウントからの予め構成されているいくつかのサブアカウントへの再入金,定期的な再入金(例えば,日毎,月毎,週毎等),ユーザによって定義される使用基準に基づいて判定される金額での再入金(例えば,過去7日間の使用及び平均再入金金額の参照,あるいは再入金金額が,過去「x」日間で指示された最も高額取引の金額と等しくなっている等)がある。」

(2)「【0068】
本発明の更なる別の構成は,複数のネットワークを介してプリペイドローミング通信サービスを提供する方法を提供することであり,この方法は,ローミングネットワークで,ユーザ装置から,識別番号及び宛先装置番号を受信し,前記識別番号及び前記宛先装置番号に,サービスプロバイダ識別番号及びローミング通信サービスの料金を追加して,前記ローミングネットワークからホームネットワークへ送信し,前記ホームネットワークに配置される集中通信プラットホームによって,前記識別番号が有効ユーザアカウントに関連し,前記ユーザ装置が前記サービスを受信するために認可され,前記有効ユーザアカウントが前記サービスの初期費用に対する支払を行うための十分な金額を持っていることを検証し,前記識別番号が有効ユーザ情報に関連し,前記ユーザ装置が前記サービスを受信するために認可され,前記有効ユーザアカウントが前記サービスの初期費用に対する支払を行うための十分な金額を持っている場合,前記ローミングネットワークに認可を提供し,前記サービスを提供するために,前記有効ユーザアカウントから課金し,前記ユーザアカウント残高が所定レベルに達する場合,信号を送信する。」

(3)「【0069】
本発明の別の構成は,複数のネットワークを介してプリペイドローミング通信サービスを提供する装置を提供することであり,この装置は,サービスリクエストを受信する受信部と,前記リクエストは,ローミングネットワークに配置されているユーザ装置からの識別番号及び宛先装置番号と,サービスプロバイダに関するサービスプロバイダ識別番号及び前記ローミングネットワークからのサービスの料金を含み,前記識別番号が有効ユーザアカウントに関連し,前記ユーザ装置が前記ローミングネットワーク上の前記サービスを受信するために認可され,前記有効ユーザアカウントが前記サービスに対する支払を行うための十分な金額を持っていることを検証する検証部と,前記識別番号が前記有効ユーザアカウントに関連し,前記ユーザ装置が前記サービスを受信するために認可され,前記有効ユーザアカウントが十分な金額を持っている場合,前記サービスプロバイダに認可を送信し,かつ前記ユーザアカウントが所定レベルに達する場合,信号を送信する送信部と,前記サービスを提供するために,前記有効ユーザアカウントから課金する課金部を備える。」

(4)「【0264】
図22は,集中通信プラットホームで使用するスイッチマネージャー2200の一例を示すブロック図である。スイッチマネージャー2200は,レイティング2230,発呼制御2220及び残高2210を含むことができる。レイティング2230はリアルタイムであり得り,あるいは,様々な利益によって,リクエストされたサービスのコストのレイティングであり得る。また,レイティングは,商取引に含まれる不足金あるいはリスクを判定することができる。発呼制御2220は,ユーザのアカウントへの課金のすべてを同時に監視し続けることができ,ユーザアカウントへ再入金する追加金を認可する,あるいは再入金を指示するための認可を行う,あるいは発呼を終了する,ユーザあるいは様々なサードパーティのどちらかに信号を送信する。残高制御2210は,ユーザのアカウントの現在の残高を監視し続けることができる,あるいはユーザのアカウントが所定レベルに達している場合に警告を提供することができる。」

(5)「【0293】
各プリペイド消費者は,以下の方法の少なくとも1つで,再入金に対する自身の条件を構成することができる,(1)電話(移動電話あるいは固定電話)からのみの再入金,(2)ネット(インターネット,モバイルインターネットあるいは公衆あるいは専用ネットワークの任意のタイプ)からの再入金(IVR,あるいは立ち寄りを介して,あるいは他の方法を介して),(3)消費者が再入金に対して明確に問い合わせている場合のみの再入金,(4)残高がある金額を下回る場合,別の特定アカウント(銀行デビットあるいはクレジットあるいは任意のタイプのアカウント)から自動的に行う自動再入金,(5)アカウントに再入金しないが,プリペイドアカウントに対する支払保証として別のアカウントを使用して,メインアカウントから予め構成されている制限を持ついくつかのサブアカウントに再入金する,(34)定期的(例えば,日毎,月毎,週毎等)な再入金,(7)ユーザによって定義される使用条件に基づいて判定される再入金金額(例えば,過去7日間の使用及び平均再入金金額の参照,あるいは再入金金額が,過去「x」日間で指示された最も高額取引の金額と等しくなっている等),(8)サービスプロバイダに従う再入金ルール,(9)消費者の「オーナー」に従う再入金ルール(様々なサービスプロバイダの1つであり得る,あるいは消費者を「所有」し,かつその消費者にルールを指示することができるものの2つ以上の組み合わせであり得る),(10)サブアカウントホルダー(例えば,親/子,あるいは階層状況での)以外のメイン「アカウントホルダー」に基づく再入金ルール,(11)再入金を提供する装置(即ち,電話,エージェント,ATM,POS等)のオーナーによって指示される再入金ルールがある。」

前記(1)及び(5)の記載から,「ユーザの事前認可済アカウント」の「残高の値」が「所定レベルより低い」場合に,自動的に再入金を行うことを把握することができる。また,自動的に再入金をするにあたり,ユーザ装置から何らかの信号を受信することは記載されておらず,前後の記載を参酌しても,また,「自動的に」との語意からしても,自明とはいえない。
また,前記(2)及び(3)の記載から,「ユーザの事前認可済アカウント」の「残高の値」が「所定レベルより低い」場合に,何らかの信号をどこかに送信することまでは把握できるが,前後の記載を参酌しても,どのような信号をどこに送信するのか不明であるから,信号の送信先がユーザ装置であることは,これらの記載からは導き出すことはできない。
また,前記(4)の記載から,「残高制御」なる機能が,ユーザのアカウントの残高を監視し,「ユーザの事前認可済アカウント」の「残高の値」が「所定レベルより低い」場合に,「警告信号」を送信することまでは把握することができるが,当該「警告信号」をどこに送信するのかは特定されていない。ここで,前述のように,前記(1)及び(5)の記載から,「ユーザの事前認可済アカウント」の「残高の値」が「所定レベルより低い」場合には自動的に再入金を行うものと把握でき,「自動的に」との語意から,自動的に再入金を行うにあたり,ユーザからの再入金の認可を要しないと解されるから,前記「警告信号」は,「ユーザ装置」に送信されるのではなく,自動的に再入金を行うための手段(例えば,「ユーザの事前認可済アカウント」に追加される追加の金額が引き出される金融機関のコンピュータシステム,当該コンピュータシステムから引き出された追加の金額を「ユーザの事前認可済アカウント」に追加する「集中通信プラットフォーム」のアカウント管理装置など)に送信されると解するのが自然である。また,上記(4)の記載から,「発呼制御」なる機能が,ユーザのアカウントへの課金を監視して,再入金を指示するための認可を行うユーザに信号を送信することを把握することができるが,当該処理は,「残高制御」による,ユーザのアカウントの残高を監視する処理とは区別して記載されており,かつ,「残高制御」と「発呼制御」との連関について具体的な記載もないことから,ユーザのアカウントへの課金を監視するときの処理を,「残高制御」による,ユーザのアカウントの残高を監視するときの処理にそのまま適用することは想定されていないと考えるのが合理的である。
よって,上記事項1を付加する補正は,外国語書面の翻訳文のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであるから,上記事項1は,外国語書面の翻訳文に記載したものではない。

2 事項2について
事項2において,「リプライ信号」という語は,外国語書面の翻訳文には記載されていないものの,「リプライ」(reply)とは,応答する,返事する,といった意味であることから,当該「リプライ信号」は,応答信号のことと解される。そして,事項2の「前記警告信号に応じて,…を含むリプライ信号を,…受信する」は,「リプライ信号」の受信が,「警告信号」に応じたものであることを意味するから,受信される「リプライ信号」もまた,「警告信号」に応じた応答信号であると解するのが合理的である。そうすると,逆に,「警告信号」は,その応答として「再入金メカニズム」の「認可」を要求する信号であると解するのが合理的である。
そして,事項2の,「再入金メカニズムを認可することを含むリプライ信号」を「ユーザ装置」から受信することに関し,翻訳文明細書には,次のような記載がある。

(6)「【0087】
上述のシステム及び方法に対する様々な構成には,取引に対して課金される認可済ユーザアカウントに,認可済ユーザが十分な金額を持っているかの判定,いくつかの機能を有する再入金ルーチンの完了後に認可済ユーザアカウントへの再入金を含むことができ,この機能は,送金ための再入金ユーザアカウントの判定及び事前認可済送金を少なくとも1つ照会することによる送金の認可及び認可済ユーザからの認可の要求を含んでいる。他の構成は,複数の再入金ユーザアカウントを利用して,再入金が実行されることを含んでいる。他の構成は,認可済ユーザからの認可の要求が,PINの要求,手動エントリの要求,ユーザパスフレーズの要求及び生体測定手段を介するユーザ識別子の確認の少なくとも1つであることである。」

前記(6)から,再入金の際には,認可済ユーザに対して認可の要求を行い,これに応じて,認可済ユーザからPIN等を受信することにより認可を得ること,すなわち,再入金の認可の要求に応じて,再入金メカニズムを認可することを含むリプライ信号を受信すること,を把握することができる。しかしながら,再入金の認可の要求が,「前記警告信号」であること,すなわち,「ユーザの事前認可済アカウント」の「残高の値」が「所定レベルより低い」場合に再入金の認可の要求が行われることは,前記(6)の前後の記載を含め,外国語書面の翻訳文の全体から把握することはできない。
前記「1 事項1について」の項で述べたように,外国語書面の翻訳文には,前記(1)及び(5)に記載のように,「ユーザの事前認可済アカウント」の「残高の値」が「所定レベルより低い」場合に,自動的に再入金を行うことしか記載がなく,かつ,「自動的に」との語意から,自動的に再入金を行うにあたり,ユーザからの再入金の認可を要しないと解されるから,前記(1)及び(5)に記載した,「ユーザの事前認可済アカウント」の「残高の値」が「所定レベルより低い」場合に,自動的に再入金を行うこと,前記(4)に記載した,「ユーザの事前認可済アカウント」の「残高の値」が「所定レベルより低い」場合に,「警告信号」を送信すること,及び,前記(6)に記載した,再入金の認可の要求に応じて,再入金メカニズムを認可することを含むリプライ信号を受信すること,を組み合わせることはできない。
よって,上記事項2を付加する補正は,外国語書面の翻訳文のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであるから,上記事項1は外国語書面の翻訳文に記載したものではない。

3 請求人の主張について
当審拒絶理由に対する請求人の主張の概要は,上記第3の「2 意見書の主張の概要」の項のとおりである。
請求人の上記主張の趣旨は,外国語書面の翻訳文には,警告信号が自動的に送信されること,消費者によって再入金が指示され,自動的に再入金がされるものではないこと,及び,認可済みユーザからの認可はユーザ装置からのリプライ信号(PIN等を含む。)によることが記載されている,ということに留まり,補正後記載事項が,外国語書面の翻訳文から導き出し得ることの根拠について何ら具体的な主張をしていない。

また,請求人は,審判請求書において,次のように主張している。
「 なお,審査官殿が拒絶査定の備考において述べているように,引用文献1には,前払い額の残高が所定金額を下回った場合に,ネットワークシステムからの警告メッセージに応じて,前払い額の残高に追加の引き落としを要求する信号を携帯電話機から送信し,ネットワークシステムにて当該信号を受信することについては,開示がありません。この点について,審査官殿は,引用文献3の周知技術を適用すれば,当業者が容易に想到し得たことであると指摘しています。
しかしながら,引用文献1において,上記の開示が無いのは,口座からの引き落としが「自動引落」であることの記載があるとおり,「自動」を目的としたものであって警告メッセージの受領,引き落としの要求という処理をユーザが行わないことを前提としているためです。したがって,引用文献3の技術を組み合わせようとする動機が生じるものではありません。
また,審査官殿は,引用文献3には「プリペイドの残高が所定の額より不足している場合に,課金の許可をユーザに求め」る周知技術が開示されていると指摘されていますが,引用文献3の開示(例えば[0022])によれば,金額が不足している通知が(制御装置から)行われるだけであって,課金の許可をユーザに求めているわけではありません。これは,ユーザは別途プリペイドセンタ103にプリペイド金額の増加を要請することが,この通知とは関係なく実施されることからも明らかです。」
ここで,当該主張において参照される,「引用文献1」(特開平9-312708号公報)には,残高が所定金額を下回ると自動引落による再入金が行われること(【0066】,【0067】)及びユーザに警告メッセージを送信すること(【0055】)が記載され,「引用文献3」(特開平6-121075号公報)には,残高が不足している場合にはその旨をユーザの携帯端末に通知し,ユーザによりプリペイド金額を増額する操作が携帯端末を介して行われること(【0015】,【0016】,【0022】)が記載されている。
そうすると,前記主張によると,残高が所定金額を下回るときに自動的な引き落とし(再入金)を行うことを前提としている場合には,警告メッセージ(警告信号)の送信,及び,警告メッセージに応じた,引き落としの要求(再入金の認可)をユーザが行おうとすることに動機付けが存在しないこととなる。よって,外国語書面の翻訳文に,警告信号が自動的に送信されること,消費者によって再入金が指示され,自動的に再入金がされるものではないこと,及び,認可済みユーザからの認可はユーザ装置からのリプライ信号(PIN等を含む。)によることが記載されているとしても,これらを組み合わせることには動機付けが存在しないから,上記補正後記載事項を付加する補正は,外国語書面の翻訳文のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものといわざるを得ない。

よって,意見書における請求人の上記主張は,それ自体は根拠を欠き,また,審判請求書における自身の主張とも矛盾するから,採用することができない。

4 小括
以上のように,外国語書面の翻訳文には,「ユーザの事前認可済アカウント」の「残高の値」が「所定レベルより低い」場合に,自動的に再入金を行うこと,「ユーザの事前認可済アカウント」の「残高の値」が「所定レベルより低い」場合に「警告信号」を送信すること,及び,再入金の認可の要求に応じて,再入金メカニズムを認可することを含むリプライ信号を受信することが記載されているが,これらの記載事項を適宜統合して,残高が所定レベルより低いアカウント残高の値になるとその旨の警告信号をユーザ装置に送信し,その応答として,再入金メカニズムを認可することを含むリプライ信号を受信するという,上記補正後記載事項を付加することは,外国語書面の翻訳文のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものである。
そうすると,補正後記載事項を含む本願発明は,外国語書面の翻訳文に記載したものではない。
よって,本件補正を含む,平成27年11月24日付けの手続補正は,外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものではない。

第5 まとめ
以上のとおりであるから,平成27年11月24日付けの手続補正は,特許法第17条の2第3項(新規事項)に規定する要件を満たしていないので,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-25 
結審通知日 2016-01-05 
審決日 2016-01-18 
出願番号 特願2010-234897(P2010-234897)
審決分類 P 1 8・ 55- WZ (H04M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 丸山 高政白川 瑞樹戸次 一夫  
特許庁審判長 菅原 道晴
特許庁審判官 林 毅
山中 実
発明の名称 異種ネットワーク環境における移動体及び電子商取引に対する集中通信プラットホーム及び方法  
代理人 特許業務法人高橋・林アンドパートナーズ  

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