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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1315585
審判番号 不服2015-83  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-01-05 
確定日 2016-06-09 
事件の表示 特願2010-114052「生薬及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月27日出願公開、特開2011- 16788〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成22年5月18日(優先権主張平成21年6月9日)の出願であって、平成26年6月10日付け拒絶理由通知書に対して応答がなく、平成26年10月24日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年1月5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

2.本願発明

本願の請求項1?16に係る発明は、平成27年1月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載された事項により特定されるとおりのものと認められる。それらのうち請求項9に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「カラスビシャクを、温度0?30℃(0℃及び30℃は除く)及び湿度10?70%で乾燥減量1?20%に乾燥させることを特徴とする、生薬の製造方法。」

3.原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、本願の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという理由(理由2)を含んでいる。

4.当審の判断
(1)特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)について

特許法第36条第6項第1号には、特許請求の範囲の記載について、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」と規定されている。当該規定を満たすか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本願明細書の発明の詳細な説明における記載事項

本願明細書の発明の詳細な説明の記載を検討すると、発明の詳細な説明には、本願発明の課題について、以下の記載がある。
なお、以下には平成27年1月5日付け手続補正書による補正後の発明の詳細な説明の記載を示す。また、下線は当審による。

a.「【0003】
従来、国内の市場における半夏の性状として、その表面や内部の色調が白いことが品質評価の重要な指標とされており(非特許文献1、2参照)、海外から輸入されるもののうち、色が白く光沢があるものが良品とされている。」

b.「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術では、硫黄くん蒸や薬品処理等を行わずに、従来の市場品と同様の、白色の半夏を製造することができないという問題があった。
【0007】
本発明は上記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、安全性が高く、且つ優れた外観を有する生薬及びその製造方法を提供することにある。」

c.「【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、カラスビシャクを、温度0?30℃(0℃及び30℃は除く)及び湿度10?70%で乾燥減量1?20%に乾燥させるので、硫黄くん蒸や薬品処理等を行わずに、従来の市場品と同様の、白色の生薬を製造することができる。」

また、実施例及び比較例として、以下の記載がある。

d.「[比較例1]
【0025】
7月に採取したカラスビシャク(伊豆在来系)の塊茎部の表皮をはく皮して流水で洗浄した後に冷蔵庫内で水切りした。次いで、はく皮したカラスビシャクの塊茎部を、温度(設定)が70℃、湿度(実測)が10?50%である乾燥機を用いて3日間乾燥して比較例のカラスビシャク乾燥体を得た。
【0026】
[比較例2]
【0027】
温度(設定)が50℃である乾燥機を用いた以外は比較例1と同様にして乾燥して比較例のカラスビシャク乾燥体を得た。
【0028】
[比較例3]
【0029】
温度(設定)が30℃である乾燥機を用いた以外は比較例1と同様にして12日間乾燥して比較例のカラスビシャク乾燥体を得た。
【0030】
[実施例1]
【0031】
温度(設定)が5℃である以外は比較例1と同様にして、13日間乾燥して本発明のカラスビシャク乾燥体を得た。
【0032】
得られた本発明のカラスビシャク乾燥体の乾燥減量を、第十五改訂日本薬局方に規定の方法(非特許文献2参照)に準じて測定したところ(n=3)、8.6%であった。これにより、本実施例のカラスビシャク乾燥体は、第十五改訂日本薬局方に示されたカラスビシャク(生薬「半夏」)の乾燥減量の条件(初期乾燥時間6時間で乾燥減量14%以下)を満たすことが確認できた。
【0033】
また、比較例1?3及び実施例1で得られたカラスビシャク乾燥体並びに市場品のカラスビシャク(生薬「半夏」、中国四川省産)の外観の様子を写真撮影した結果を図1?5に示した。図1?5に示す通り、比較例1?3のカラスビシャク乾燥体の外観は、大部分が茶色に変色していたのに対し、実施例1のカラスビシャク乾燥体の外観は、市場品のカラスビシャク(生薬「半夏」)と殆ど変らない白色を維持できていることが確認できた。
【0034】
[実施例2]
【0035】
8月に採取したカラスビシャク(伊豆在来系)の塊茎を水道水で洗浄した後、Mサイズ(目開き22.4mmを通過し11.2mmを通過しないもの)及びLサイズ(目開き22.4mmを通過しないもの)の塊茎(図6及び図7参照)を篩で選別した。次いで、選別した塊茎の表皮をはく皮して流水で洗浄した後に冷蔵庫内で水切りした。次いで、はく皮したカラスビシャクの塊茎を、容量40Lの密閉容器(カメラ用ドライボックス)にSP除湿器ロサール(菱彩テクニカ社製「RDHC-7J1」)を装着した除湿装置を用いて、設定温度5℃及び設定湿度10%の条件で40日間乾燥させ、その間の所定日にカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を、第十五改訂日本局方に規定の方法(非特許文献2参照)に準じて測定した。なお、本試験では初期乾燥時間を24時間とした。
【0036】
[実施例3]
【0037】
湿度を30%に設定して乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0038】
[実施例4]
【0039】
湿度を50%に設定して乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0040】
実施例2?4で乾燥減量を測定した結果を図8及び図9に示した。図8及び図9に示す通り、乾燥減量が14%以下に達するのに要した日数は、実施例2では16日、実施例3では6?9日、実施例4では16?20日であった。乾燥開始から20日以降の乾燥減量は、実施例2では10%から7.0%に緩やかに減少し、実施例3では10%前後を維持し、実施例4では12%前後を維持していた。また、実施例2?4で得られたカラスビシャクの塊茎の外観の様子を写真撮影した結果を図10に示した。図10に示す通り、これらの塊茎の外観は、市場品のカラスビシャク(生薬「半夏」、図6参照)と殆ど変らない白色を維持できていることが確認できた。
【0041】
[実施例5]
【0042】
温度を15℃に設定して20日間乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0043】
[実施例6]
【0044】
温度を15℃に、湿度を30%に設定して20日間乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0045】
[実施例7]
【0046】
温度を15℃に、湿度を50%に設定して20日間乾燥させた以外は実施例2と同様にしてカラスビシャクの塊茎の乾燥減量を測定した。
【0047】
実施例5?7で乾燥減量を測定した結果を図11及び図12に示した。図11及び図12に示す通り、乾燥減量が14%以下に達するのに要した日数は、実施例5では6日、実施例6では6日、実施例7では6?9日であった。乾燥開始から12日以降の乾燥減量は、実施例5では9.0%から7.0%に緩やかに減少し、実施例6では10%前後を維持し、実施例7では10?12%前後を維持していた。
【0048】
以上の結果より、実施例2?7の各温度及び湿度条件を比較すると、高温条件(15℃)の方が短い日数で乾燥減量が14%に達し、低湿度条件(10%及び30%)の方が短い日数で乾燥減量が14%に達することが確認できた。従って、理想的な乾燥条件は、設定温度15℃程度(平均温度14?16℃程度)及び設定湿度10?30%程度(平均湿度17?40%程度)であることが示唆された。ただし、設定温度15℃程度では、カラスビシャクの塊茎の水切りが不十分な状態で乾燥機内の加湿状態が続くと、その表面にカビが発生する危険性があり、防カビ対策としては、設定温度をおよそ10℃以下にして乾燥処理を施すことが好ましく、また、産業的に乾燥機内の湿度をおよそ20%以下に保つにはコスト高となり、実用的な設定湿度としては、30?40%程度が好ましい。」

e.「【0049】
[比較例4]
【0050】
12月に採取したヤマノイモ(福種種苗系)の根茎の周皮をはく皮して流水で洗浄した後に冷蔵庫内で水切りした。次いで、このはく皮したヤマノイモの根茎を、温度(設定)が30℃、湿度(実測)が20?40%であるファイトトロンを用いて5日間乾燥して比較例のヤマノイモ乾燥体を得た。
【0051】
[比較例5]
【0052】
温度(設定)が25℃であるファイトトロンを用いた以外は比較例4と同様にして乾燥し比較例のヤマノイモ乾燥体を得た。
【0053】
[比較例6]
【0054】
温度(設定)が20℃であるファイトトロンを用いた以外は比較例4と同様にして乾燥し比較例のヤマノイモ乾燥体を得た。
【0055】
[比較例7]
【0056】
温度(設定)が15℃である除湿機を設置した保冷庫を用いた以外は比較例4と同様にして乾燥しヤマノイモ乾燥体を得た。
【0057】
得られたヤマノイモ乾燥体の乾燥減量を、実施例1と同様にして測定したところ(n=2)、10.0%であった。これにより、ヤマノイモ乾燥体は、第十五改訂日本薬局方に示されたヤマノイモ(生薬「山薬」)の乾燥減量の条件(初期乾燥時間6時間で乾燥減量14%以下)を満たすことが確認できた。
【0058】
また、比較例4?6及び実施例8で得られたヤマノイモ乾燥体並びに市場品のヤマノイモ(中国福建省産の丸切り山薬及び広東省産の毛山薬)の外観の様子を写真撮影した結果を図13?17に示した。図13?17に示す通り、比較例4?6のヤマノイモ乾燥体の外観は、大部分が茶色に変色したのに対し、実施例8のヤマノイモ乾燥体の外観は、市場品のヤマノイモ(生薬「山薬」)と殆ど変らない白色を維持できていることが確認できた。」
(なお、【0055】における「比較例7」は、平成27年1月5日付け手続補正書によって「実施例8」から補正されたものである。したがって、【0058】は補正されていないが、【0058】における「実施例8」は、「比較例7」を意味するものと解される。)


(3)検討

本願発明は、上記2.に示したとおり、「カラスビシャクを、温度0?30℃(0℃及び30℃は除く)及び湿度10?70%で乾燥減量1?20%に乾燥させることを特徴とする、生薬の製造方法。」である。
そして、本願発明が解決しようとする課題として、「安全性が高く、且つ優れた外観を有する生薬及びその製造方法を提供すること」が記載されている(上記記載事項b.参照)。ただし、上記記載事項a.?c.の記載を考慮すると、ここでいう「安全性が高」い生薬とは、「硫黄くん蒸や薬品処理等を行わずに」製造された生薬を意味しており、また、「優れた外観を有する生薬」とは、「従来の市場品と同様の、白色の生薬」を意味するものと解される。したがって、本願発明の解決しようとする課題は、実質的に、「硫黄くん蒸や薬品処理等を行わず、従来の市場品と同様の、白色の生薬及びその製造方法を提供すること」であると認められる。

まず、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例及び比較例について検討すると、カラスビシャクに関する実施例及び比較例(上記記載事項d.参照)においては、5℃(湿度10?50%)でカラスビシャクを乾燥させた場合に、市場品と殆ど変わらない白色を維持できていることが確認されており(実施例1?4、【0033】及び【0040】参照)、一方、30℃、50℃、及び70℃(湿度10?50%)でカラスビシャクを乾燥させた場合には、大部分が茶色に変色していたことが示されている(比較例1?3、【0033】参照)。なお、本願明細書の発明の詳細な説明には、15℃(湿度10?50%)でカラスビシャクを乾燥させた実施例(実施例5?7)も示されているが、得られたカラスビシャクの色については言及されていない。
また、ヤマノイモに関する比較例 (上記記載事項e.参照)においては、15℃(湿度20?40%)でヤマノイモを乾燥させた場合に、市場品のヤマノイモ(生薬「山薬」)と殆ど変わらない白色を維持できていることが確認されており(比較例7、【0058】参照)、一方、20℃、25℃、及び30℃(いずれも湿度20?40%)でヤマノイモを乾燥させた場合には、大部分が茶色に変色したことが記載されている(比較例4?6、【0058】参照)。

ここで、ヤマノイモに関する比較例について検討すると、「20℃、25℃、及び30℃(いずれも湿度20?40%)」という、本願発明において規定される「温度0?30℃(0℃及び30℃は除く)」及び「湿度10?70%」という乾燥条件の範囲内の値を採用した場合であっても、大部分が茶色に変色したことが記載されている(上記記載事項e.参照)。しかしながら、カラスビシャクとヤマノイモは、種類・成分共に異なることから、ヤマノイモに関する比較例において茶色に変色したとしても、カラスビシャクを同条件で乾燥させた場合に、同様に茶色に変色するとは限らず、逆に、ヤマノイモに関する比較例において白色の生薬が得られたとしても、カラスビシャクを同条件で乾燥させた場合に、同様に白色の生薬が得られるとは限らないものと認められる。
(この点については、審判請求人も、平成27年1月5日提出の審判請求書の4-1において、「薬草の乾燥の方法は、種類、含有される成分等によって異なります。」と主張している。)

したがって、カラスビシャクに関する実施例及び比較例についてのみ着目すると、本願明細書の発明の詳細な説明において、実際に「硫黄くん蒸や薬品処理等を行わず、従来の市場品と同様の、白色の生薬を製造する」という本願発明の課題を解決できることが裏付けられているのは、「5℃(湿度10?50%)」という特定の乾燥条件を採用した場合のみであり、一方、「30℃(湿度10?50%)」でカラスビシャクを乾燥させた場合には、大部分が茶色に変色することが示されている。
このような実施例及び比較例の記載に接した当業者は、湿度10?50%におけるカラスビシャクの乾燥温度として、30℃未満の温度を採用した場合について、少なくとも30℃の近傍であれば大部分が茶色に変色し、温度を下げるとともに徐々にその変色の度合いは軽減し、少なくとも5℃の近傍まで低下させれば、白色の生薬が製造できることを理解するものと認められる。すなわち、「湿度10?50%」という湿度条件において、乾燥温度として30℃未満の温度を採用し、本願発明において規定される「温度0?30℃(0℃及び30℃は除く)」及び「湿度10?70%」の範囲内の乾燥条件にしたとしても、必ずしも「硫黄くん蒸や薬品処理等を行わず、従来の市場品と同様の、白色の生薬を製造する」という本願発明の課題を解決できるとは限らないことを、当業者は認識するものと認められる。
そして、本願明細書の発明の詳細な説明における実施例及び比較例以外の記載、並びに出願時の技術常識を検討しても、上記認定を覆すに足る根拠は見いだせない。

したがって、出願時の技術常識を考慮しても、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できるように記載された範囲を超えているので、本願発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。

(4)請求人の主張について

審判請求人は、平成27年1月5日提出の審判請求書の4-2において、

「今回の補正により乾燥温度条件を0?30℃に規定すると共に、乾燥温度条件から0℃及び30℃を除きました。また、発明の対象となる基原植物をカラスビシャクに限定しました。
…。
よって、補正後の本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていると思料致します。」

と述べている。しかしながら、上記(3)において指摘したとおり、基原植物がカラスビシャクに限定され、30℃が除かれたとしても、依然として、特許法第36条第6項第1号に記載する要件を満たさないため、出願人の上記主張を採用できない。

5.むすび

以上のとおり、本願は、第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-16 
結審通知日 2016-03-22 
審決日 2016-04-25 
出願番号 特願2010-114052(P2010-114052)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 服部 智杉江 渉福永 千尋  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 渕野 留香
安川 聡
発明の名称 生薬及びその製造方法  
代理人 特許業務法人前田特許事務所  
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