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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1315594
審判番号 不服2015-5118  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-17 
確定日 2016-06-09 
事件の表示 特願2011-550050「OLEDパネルの画素回路、および前記画素回路を用いた表示装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月19日国際公開、WO2010/093119、平成24年 8月 9日国内公表、特表2012-518193〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、平成22年1月6日(パリ条約による優先権主張 2009年2月16日 韓国 2009年5月29日 韓国 )を国際出願日とする出願であって、平成25年4月23日付けの拒絶理由通知に対して平成25年8月12日付けで手続補正がなされ、平成26年4月7日付けの最後の拒絶理由通知に対して平成26年7月18日付けで手続補正がなされたが、平成26年11月6日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年3月17日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がなされたものである。

第2 平成27年3月17日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成27年3月17日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正

本件補正は、特許請求の範囲について、本件補正前に、
「【請求項1】
複数の走査線のうち、順次的に選択された走査線を通じて入力される走査信号により駆動され、データ線を通じて入力される輝度データによる駆動電流を伝達するスイッチング素子と、前記スイッチング素子を通じて伝達される駆動電流により発光する有機発光ダイオードを含み、
前記スイッチング素子は、トランジスタを備え、前記トランジスタはゲート端子が前記走査線に接続され、ドレーン端子が前記データ線に接続され、ソース端子が前記有機発光ダイオードに接続され、
前記有機発光ダイオードは、アノードが前記トランジスタのソース端子に接続され、カソードが共通電極に接続され、
前記有機発光ダイオードは、
基板、
前記基板上に形成される第1電極、
前記第1電極上に形成される有機物層、
前記有機物層上に形成される第2電極、及び、
前記有機物層と前記第2電極の間、及び前記第2電極の上部のうち、少なくともいずれか一つに形成され、酸化物系、窒化物系、塩類、及びこれらの複合物のうち、いずれか一つから構成される透光層、を含む、OLEDパネルの画素回路。」
とあったところを、

「【請求項1】
複数の走査線のうち、順次的に選択された走査線を通じて入力される走査信号により駆動され、データ線を通じて入力される輝度データによる駆動電流を伝達するスイッチング素子と、前記スイッチング素子を通じて伝達される前記駆動電流により発光する有機発光ダイオードを含み、
前記スイッチング素子は、トランジスタを備え、前記トランジスタはゲート端子が前記走査線に接続され、ドレーン端子が前記データ線に接続され、ソース端子が前記有機発光ダイオードに接続され、
前記有機発光ダイオードは、アノードが前記トランジスタのソース端子に接続され、カソードが共通電極に接続され、
前記有機発光ダイオードは、
基板、
前記基板上に形成される前記アノード、
前記アノード上に形成される有機物層、
前記有機物層上に形成される前記カソード、及び、
前記有機物層と前記カソードの間、及び前記カソードの上部にそれぞれ形成される第1及び第2透光層、を含み、
前記第1及び第2透光層は、前記カソードと前記透光層から構成されるカソード電極層の光透過率の向上と電気的面抵抗の減少との両立を目的として同一物質で形成され、 前記第1及び第2透光層の合計の厚みは0.1nm以上100nm未満に形成され、 前記第1及び第2透光層は、 MoO_(3)、ITO、IZO、IO、ZnO、TO、TiO_(2)、WO_(3)、Al_(2)O_(3)、Cr_(2)O_(3)、TeO_(2)、SrO_(2)、AlN、Cs_(2)CO_(3)、LiCO_(3)、KCO_(3)、NaCO_(3)、CsF、およびZnSeのうちいずれか1つからなる、 OLEDパネルの画素回路。」
とすることを含むものである。

本件補正について検討する。

本件補正は、本件補正前の請求項1の「第1電極」、「第2電極」を、それぞれ、「アノード」、「カソード」と限定し、本件補正前の請求項1の「前記有機物層と前記第2電極の間、及び前記第2電極の上部のうち、少なくともいずれか一つに形成され、‥‥‥る透光層、を含む、」との特定事項を、「前記有機物層と前記カソードの間、及び前記カソードの上部にそれぞれ形成される第1及び第2透光層、を含み、」と限定し、「第1及び第2透光層」について、「前記第1及び第2透光層は、前記カソードと前記透光層から構成されるカソード電極層の光透過率の向上と電気的面抵抗の減少との両立を目的として同一物質で形成され、前記第1及び第2透光層の合計の厚みは0.1nm以上100nm未満に形成され、」と限定し、さらに、本件補正前の請求項1の「酸化物系、窒化物系、塩類、及びこれらの複合物のうち、いずれか一つから構成される透光層」との特定事項を、「前記第1及び第2透光層は、 MoO_(3)、ITO、IZO、IO、ZnO、TO、TiO_(2)、WO_(3)、Al_(2)O_(3)、Cr_(2)O_(3)、TeO_(2)、SrO_(2)、AlN、Cs_(2)CO_(3)、LiCO_(3)、KCO_(3)、NaCO_(3)、CsF、およびZnSeのうちいずれか1つからなる、」と限定するものである。

よって、本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)について以下に検討する。


2 引用例及びその記載事項

(1)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2002-62845号公報(平成14年2月28日公開、以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

a「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はEL(エレクトロルミネッセンス)素子を基板上に作り込んで形成された電子表示装置に関する。特に半導体素子(半導体薄膜を用いた素子)を用いた表示装置に関する。またEL表示装置を表示部に用いた電子機器に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、自発光型素子としてEL素子を有したEL表示装置の開発が活発化している。EL表示装置は有機ELディスプレイ(OELD:Organic EL Display)又は有機ライトエミッティングダイオード(OLED:Organic Light EmittingDiode)とも呼ばれている。」

b「【0103】(実施例2)図13に、本発明のアクティブ型EL表示装置の画素部の構成を示す。
【0104】ゲート信号線駆動回路からの選択信号を入力するゲート信号線(G1?Gy)は、各画素が有するスイッチング用TFTのゲート電極に接続されている。また各画素の有するスイッチング用TFTのソース領域とドレイン領域は、一方が電流を入力するソース信号線(S1?Sx)に、もう一方が各画素が有するEL素子に接続されている。
【0105】なお本発明において、スイッチング用TFTはnチャネル型TFTでもpチャネル型TFTでもどちらでも用いることが可能である。
【0106】本実施例のアクティブ型EL表示装置の駆動方法について説明する。ゲート信号線G1が選択されると、そこに接続された全てのスイッチング用TFTは、ゲート電極に電圧が印加されオンの状態になる。このとき、ソース信号線(S1?Sx)より同時に、電流がスイッチング用TFTを介してEL素子に流れる。EL素子はこの電流量に応じて発光する。
【0107】同様の操作を、全てのゲート信号線(G1?Gy)に対して行うと、1画像が表示される。」

c「【0222】(実施例13)本実施例では、本発明のEL表示装置について図21(A)、(B)を用いて説明する。図21(A)は、EL素子の形成されたTFT基板において、EL素子の封入まで行った状態を示す上面図である。点線で示された6801はソース信号側駆動回路、6802はゲート信号側駆動回路、6803は画素部である。また、6804はカバー材、6805は第1シール材、6806は第2シール材であり、第1シール材6805で囲まれた内側のカバー材とTFT基板との間には充填材6807(図21(B)参照)が設けられる。
【0223】なお、6808はソース信号側駆動回路6801、ゲート信号側駆動回路6802、及び画素部6803に入力される信号を伝達するための接続配線であり、外部機器との接続端子となるFPC(フレキシブルプリントサーキット)6809からビデオ信号やクロック信号を受け取る。
【0224】ここで、図21(A)をA-A’で切断した断面に相当する断面図を図21(B)に示す。なお、図21(A)、(B)では同一の部位に同一の符号を用いている。
【0225】図21(B)に示すように、基板6800上には画素部6803、ソース信号側駆動回路6801が形成されており、画素部6803はEL素子に流れる電流を制御するためのTFT(以下、スイッチング用TFTという)6851とそのドレインに電気的に接続された画素電極6852を含む複数の画素により形成される。本実施例ではスイッチング用TFT6851をpチャネル型TFTとする。また、ソース信号側駆動回路6801はnチャネル型TFT6853とpチャネル型TFT6854とを相補的に組み合わせたCMOS回路を用いて形成される。

(略)

【0229】次に、画素電極6852は透明導電膜で形成され、EL素子の陽極として機能する。また、画素電極6852の両端には絶縁膜6857が形成され、さらに白色に発光する発光層6858が形成される。
【0230】なお、発光層6858の材料として有機材料だけでなく無機材料を用いることができる。また、発光層だけでなく電子注入層、電子輸送層、正孔輸送層または正孔注入層を組み合わせた積層構造としても良い。
【0231】また、各発光層の上にはEL素子の陰極6860が遮光性を有する導電膜でもって形成される。この陰極6860は全ての画素に共通であり、接続配線6808を経由してFPC6809に電気的に接続されている。」


ア 上記aの「【0001】‥‥‥本発明はEL(エレクトロルミネッセンス)素子を基板上に作り込んで形成された電子表示装置に関する。‥‥‥またEL表示装置を表示部に用いた電子機器に関する。」との記載から、引用例1には、「EL(エレクトロルミネッセンス)素子を基板上に作り込んで形成されたEL表示装置を表示部に用いた電子機器」が記載されているということができる。
ここで、上記aの「【0002】‥‥‥EL表示装置は‥‥‥有機ライトエミッティングダイオード(OLED:Organic Light EmittingDiode)とも呼ばれている。」との記載を参酌すれば、EL(エレクトロルミネッセンス)表示装置に用いるEL素子は、OLED(Organic Light EmittingDiode)を用いているものといえ、また、「EL表示装置を表示部に用いた電子機器」は、EL素子、すなわち、OLED(Organic Light EmittingDiode)を表示部に用いた電子機器と捉えることができるから、引用例1には、「EL(エレクトロルミネッセンス)素子を基板上に作り込んで形成されたOLED(Organic Light EmittingDiode)を表示部に用いた電子機器」が記載されているということができる。

イ 上記bの「【0103】‥‥‥EL表示装置の画素部の構成‥‥‥」は、OLED(Organic Light EmittingDiode)を表示部に用いたものであるから(上記ア第2段落)、「OLED(Organic Light EmittingDiode)を用いた画素部の構成」ということができる。
したがって、上記b(【0103】、【0104】)の記載から、引用例1には、「OLED(Organic Light EmittingDiode)を用いた画素部の構成として、ゲート信号線駆動回路からの選択信号を入力するゲート信号線(G1?Gy)は、各画素が有するスイッチング用TFTのゲート電極に接続され、各画素の有するスイッチング用TFTのソース領域とドレイン領域は、一方が電流を入力するソース信号線(S1?Sx)に、もう一方が各画素が有するEL素子に接続され」ることが記載されているということができる。

ウ 上記b(【0106】、【0107】)の記載から、引用例1には、「ゲート信号線G1が選択されると、そこに接続された全てのスイッチング用TFTは、ゲート電極に電圧が印加されオンの状態になり、このとき、ソース信号線(S1?Sx)より同時に、電流がスイッチング用TFTを介してEL素子に流れ、EL素子はこの電流量に応じて発光し、同様の操作を、全てのゲート信号線(G1?Gy)に対して行うと、1画像が表示され」ることが記載されている。

エ したがって、上記引用例1に記載された事項、図面の記載、及び上記アないしウを総合すると、引用例1には、次の事項が記載されている(以下、引用発明という。)。

「EL(エレクトロルミネッセンス)素子を基板上に作り込んで形成されたOLED(Organic Light EmittingDiode)を表示部に用いた電子機器であって、
OLED(Organic Light EmittingDiode)を用いた画素部の構成として、ゲート信号線駆動回路からの選択信号を入力するゲート信号線(G1?Gy)は、各画素が有するスイッチング用TFTのゲート電極に接続され、各画素の有するスイッチング用TFTのソース領域とドレイン領域は、一方が電流を入力するソース信号線(S1?Sx)に、もう一方が各画素が有するEL素子に接続され、
ゲート信号線G1が選択されると、そこに接続された全てのスイッチング用TFTは、ゲート電極に電圧が印加されオンの状態になり、このとき、ソース信号線(S1?Sx)より同時に、電流がスイッチング用TFTを介してEL素子に流れ、EL素子はこの電流量に応じて発光し、同様の操作を、全てのゲート信号線(G1?Gy)に対して行うと、1画像が表示される、
OLED(Organic Light EmittingDiode)を表示部に用いた電子機器。」

オ 上記c(【0222】、【0231】、図21(B))の記載から、「発光層の上にはEL素子の陰極6860が導電膜でもって形成され、EL素子の陰極6860は全ての画素に共通である」ことが記載されているといえ、ここで、図21(B)を参酌すると、EL素子の陰極6860が、隣接するEL素子素子の陰極と共通の電極を有することが見て取れる。したがって、引用例1には、次の技術事項が記載されているということができる。

「EL素子の陰極が共通電極に接続されている、EL表示装置。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2008-277264号公報(平成20年11月13日公開、以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

a「【0065】
次に上記のような副画素の形状と配列を有する画像表示パネルの層構成例について説明する。なお、本発明は層構成、構成材料、各層の厚み等により制限されるものではない。図8は各有機EL素子の層構成例を説明する断面図である。(a)は基板側陽極型の模式図で第1の電極が陽極、第2の電極が陰極である。(b)は基板側陰極型の模式図で第1の電極が陰極、第2の電極が陽極である。図において101は基板、102は第1の電極、301はホール注入層、302はホール輸送層、303は発光層、304は電子輸送層、305は電子注入層、104は第2の電極、111は保護層である。301から305の各層は図11及び図12において有機化合物層103とまとめて記載されたものと同じものを表す。図8は素子の発光が起こる部分の説明の図であるため、図12に記載の素子分離膜110は不図示である。また、各素子の駆動にアクティブマトリクス回路が用いられる場合は駆動用トランジスタや第1の電極への接続部などが基板101の表面に形成されるが、これも不図示である。」

b「【0089】
電子注入層305は必須な層ではないが、界面に大きな電位降下を生じることなく、接する電極から電子を取り出す効果が期待できる。また、図8(a)の構成の素子を作成する場合、第2の電極104を堆積する工程で電子輸送層304以下の有機化合物層が受けるダメージを低減する効果が期待できる。電子注入層305は良好な電子注入性や前記のダメージ低減効果等を確保するために2nmから100nm程度挿入するのが好ましい。
場合によっては、作成された素子が酸素や水分等と接触することを防止する目的で保護層111が設けられる。保護層111としては、窒化シリコン、窒化酸化シリコン等の金属窒化物膜や、酸化タンタル等の金属酸化物膜、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)薄膜が挙げられる。また、フッ素樹脂、ポリパラキシレン、ポリエチレン、シリコーン樹脂、ポリスチレン樹脂等の高分子膜、さらには、光硬化性樹脂等が挙げられる。」

c「【0095】
第2の電極104及び保護層111を透光性とした場合、発光層303で生じた光を基板101と反対側から取り出せるトップエミッション構成の画像表示パネルとなる。この場合、前記第2の電極104及び保護層111は、発光層303に生じる光の主要波長に対して50%以上の透過率を有するべきである。トップエミッション構成の画像表示パネルでは、第1の電極102側に光反射面を設けることにより、基板101と反対側に取り出せる光を増して表示される画像を明るくすることができる。上記のボトムエミッション構成の場合と同様に、反射面としては金属面や、屈折率の異なる透明層の界面などを用いることができる。前記光反射面の反射率は発光層303に生じる光の主要波長に対して70%以上とすべきである。」

上記aないしcの記載、及び図8(a)の記載から、引用例2には、「基板101上に、陽極である第1の電極102、ホール注入層301、ホール輸送層302、発光層303、電子輸送層304、電子注入層305、陰極である第2の電極104、保護層111が、順に積層される」ことが記載されているということができ(【0065】、図8(a))、ここで、301から305の各層は有機化合物層とまとめて記載することができ(【0065】)、また、保護層111は、金属酸化物膜を用いることができ(【0089】)、第2の電極104及び保護層111を透光性とした場合、発光層303で生じた光を基板101と反対側から取り出せるトップエミッション構成の画像表示パネルとなる(【0095】)ものである。そして、保護層111を透光性とする場合、すなわち透光層において、金属酸化物を用いることは常套手段であるから、引用例2には、次の技術事項が記載されているということができる。

「基板、陽極である第1の電極、有機化合物層、陰極である第2の電極、金属酸化物の保護層を順に積層した有機EL素子において、第2の電極及び保護層を透光性として、光を基板と反対側から取り出すことができる画像表示パネル。」

(3)本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開2002-289362号公報(平成14年10月4日公開、以下「引用例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付した。)。

a「【0008】本発明の有機EL素子としては、例えば、図1に示すように、透明基板1上に透明陽極電極2が形成され、その表面に発光層3が形成され、さらにその表面に陰極電極4が形成されて構成されたもの、もしくは、図2に示すように、透明基板1上に陰極電極4が形成され、その表面に発光層3が形成され、さらにその表面に透明陽極電極2が形成されて構成されたもの等をあげることができる。なお、図において、矢印方向は光の取り出し方向を示す。そして、本発明は、上記陰極電極4が金属薄膜と金属酸化物薄膜とからなる透明電極であることが最大の特徴である。」

b「【0022】上記陰極電極4は、金属薄膜と金属酸化物薄膜とからなる多層構造であれば特に限定はないが、金属薄膜と金属酸化物薄膜との2層構造、金属薄膜を金属酸化物薄膜でサンドイッチした3層構造のもの(金属酸化物薄膜/金属薄膜/金属酸化物薄膜)が好ましい。そして、発光層3上に、金属薄膜と金属酸化物薄膜とを成膜して2層構造の陰極電極4を形成する場合、透明性、発光性の観点から、発光層3上に金属薄膜を成膜し、その表面に金属酸化物薄膜を成膜することが好ましい。
【0023】上記金属酸化物薄膜用材料としては、例えば、酸化チタン(TiO_(2) )、酸化ジルコニウム(ZrO_(2) )、酸化インジウム(In_(2) O_(3) )、酸化インジウム錫(ITO)、酸化アルミニウム(Al_(2) O_(3) )、酸化タンタル(Ta_(2) O_(5) )、酸化錫(SnO_(2) )、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物があげられる。これらのなかでも、透明性の点から、TiO_(2) が好ましい。」

c「【0039】
【実施例4】透明基板〔PETフィルム(25mm×75mm、厚み0.1mm)〕を準備し、この表面に、マグネトロンスパッタ蒸着装置を用いてITOを蒸着しITO膜(厚み400nm)を成膜し、これを透明陽極電極とした。つぎに、このITO膜の表面にアルミキノリーム錯体(Alq3 )を真空蒸着機を用いて蒸着して発光層(厚み50nm)を成膜した。この発光層の表面にマグネトロンスパッタ蒸着装置を用いて、酸化チタンを蒸着し金属酸化物薄膜(厚み30nm)を成膜した。つぎに、この金属酸化物薄膜の表面にAg系合金を蒸着し金属薄膜(厚み7nm)を成膜した後、この表面にマグネトロンスパッタ蒸着装置を用いて酸化チタンを蒸着し金属酸化物薄膜(厚み30nm)を成膜し、金属酸化物薄膜と金属薄膜と金属酸化物薄膜との3層構造からなる透明陰極電極を形成した。このようにして、有機EL素子を作製した。」

ア 上記a(【0008】)の「本発明の有機EL素子としては、例えば、図1に示すように、透明基板1上に透明陽極電極2が形成され、その表面に発光層3が形成され、さらにその表面に陰極電極4が形成されて構成されたもの、‥‥‥をあげることができる。なお、図において、矢印方向は光の取り出し方向を示す。そして、本発明は、上記陰極電極4が金属薄膜と金属酸化物薄膜とからなる透明電極である」との記載、及び図1において、上向きの矢印が示されていることから、陰極側からも発光を取り出せるようにしていることが見て取れる。
したがって、引用例3には、「透明基板1上に透明陽極電極2が形成され、その表面に発光層3が形成され、さらにその表面に陰極電極4が形成されて構成された有機EL素子において、上記陰極電極4は、金属薄膜と金属酸化物薄膜とからなる透明電極を用い、陰極側からも発光を取り出せるようにする」点が記載されているということができる。
そして、上記b(【0022】、【0023】)には、「上記陰極電極4を、金属薄膜を金属酸化物薄膜でサンドイッチした3層構造とし(金属酸化物薄膜/金属薄膜/金属酸化物薄膜)、上記金属酸化物薄膜用材料として酸化チタン(TiO_(2) )を用いる」ことが記載されていることから、引用例3には、次の事項が記載されているということができる。

「透明基板1上に透明陽極電極2が形成され、その表面に発光層3が形成され、さらにその表面に陰極電極4が形成されて構成された有機EL素子において、上記陰極電極4は、金属薄膜と金属酸化物薄膜とからなる透明電極を用い、陰極側からも発光を取り出せるようにするものであって、上記陰極電極4を、金属薄膜を金属酸化物薄膜でサンドイッチした3層構造(金属酸化物薄膜/金属薄膜/金属酸化物薄膜)とし、上記金属酸化物薄膜用材料として酸化チタン(TiO_(2) )を用いる」点。

イ 上記c(【0039】)の記載から、引用例3には、次の事項が記載されているということができる。

「発光層の表面に酸化チタンを蒸着し金属酸化物薄膜(厚み30nm)を成膜し、この金属酸化物薄膜の表面に金属薄膜(厚み7nm)を成膜し、この表面に酸化チタンを蒸着し金属酸化物薄膜(厚み30nm)を成膜し、金属酸化物薄膜と金属薄膜と金属酸化物薄膜との3層構造からなる透明陰極電極を形成して、有機EL素子を作製する」点。


3 対比

本願補正発明と引用発明とを対比する。

(1)
ア 引用発明は、「OLED(Organic Light EmittingDiode)を用いた画素部の構成として、ゲート信号線駆動回路からの選択信号を入力するゲート信号線(G1?Gy)は、各画素が有するスイッチング用TFTのゲート電極に接続され、」「ゲート信号線G1が選択されると、そこに接続された全てのスイッチング用TFTは、ゲート電極に電圧が印加されオンの状態にな」るものであるから、「スイッチング用TFT」は、選択されたゲート信号線G1を通じて入力される電圧によって、ゲート電極がオンの状態になるものである。そして、「同様の操作を、全てのゲート信号線(G1?Gy)に対して行うと、1画像が表示される、」ものであるから、「各画素が有するスイッチング用TFT」は、複数のゲート信号線のうち、順次、選択されたゲート信号線を通じて入力される電圧により駆動されるものと捉えることができる。したがって、ゲート信号線は、本願補正発明の「走査線」に相当し、また、ゲート信号線を通じて入力される信号は、本願補正発明の「走査信号」に相当するものであるから、引用発明の「スイッチング用TFT」は、本願補正発明の、「複数の走査線のうち、順次的に選択された走査線を通じて入力される走査信号により駆動され」「るスイッチング素子」に相当する。

イ 引用発明は「OLEDを用いた画素部の構成として、‥‥‥各画素の有するスイッチング用TFTのソース領域とドレイン領域は、一方が電流を入力するソース信号線(S1?Sx)に、‥‥‥接続され、」「ソース信号線(S1?Sx)より同時に、電流がスイッチング用TFTを介してEL素子に流れ、EL素子はこの電流量に応じて発光」するものである。
ここで、EL素子は、ソース信号線(S1?Sx)より流れる電流の電流量に応じて発光するものであって、「ソース信号線より流れる電流」はEL素子の輝度を決めるものであるということができるから、「ソース信号線」は、本願補正発明の「データ線」に相当し、また、「ソース信号線(S1?Sx)より流れる電流」は、本願補正発明の「データ線を通じて入力される輝度データによる駆動電流」に相当する。
そして、引用発明は、「ソース信号線(S1?Sx)より同時に、電流がスイッチング用TFTを介してEL素子に流れ、」ることから、引用発明の「スイッチング用TFT」は、「ソース信号線(S1?Sx)より流れる電流」(本願補正発明の「データ線を通じて入力される輝度データによる駆動電流」に相当(前記段落)。)を伝達するスイッチングトランジスタと捉えることができる。
したがって、引用発明の「スイッチング用TFT」は、本願補正発明の「データ線を通じて入力される輝度データによる駆動電流を伝達するスイッチング素子」に相当する。

ウ 引用発明は、「ソース信号線(S1?Sx)より同時に、電流がスイッチング用TFTを介してEL素子に流れ」ることから、「スイッチング用TFT」は、「ソース信号線(S1?Sx)より流れる電流」(本願補正発明の「データ線を通じて入力される輝度データによる駆動電流」に相当(上記イ)。)を伝達するスイッチングトランジスタと捉えることができる。
ここで、「EL素子」が「OLED(Organic Light EmittingDiode)」から構成されていることは明らかであるから、引用発明の「ソース信号線(S1?Sx)より同時に、電流がスイッチング用TFTを介してEL素子に流れ」る、「EL素子」は、本願補正発明の「前記スイッチング素子を通じて伝達される前記駆動電流により発光する有機発光ダイオード」に相当する。

(2)上記(1)を踏まえると、引用発明の「OLED(Organic Light EmittingDiode)を用いた画素部の構成として、ゲート信号線駆動回路からの選択信号を入力するゲート信号線(G1?Gy)は、各画素が有するスイッチング用TFTのゲート電極に接続され、各画素の有するスイッチング用TFTのソース領域とドレイン領域は、一方が電流を入力するソース信号線(S1?Sx)に、もう一方が各画素が有するEL素子に接続され」ることは、本願補正発明の「前記スイッチング素子は、トランジスタを備え、前記トランジスタはゲート端子が前記走査線に接続され、ドレーン端子が前記データ線に接続され、ソース端子が前記有機発光ダイオードに接続され、」ることに相当する。

(3)引用発明の「OLED(Organic Light EmittingDiode)を用いた画素部の構成として、‥‥‥スイッチング用TFTのソース領域‥‥‥は、‥‥‥各画素が有するEL素子に接続され」ることにおいて、スイッチング用TFTのソース領域に、EL素子を構成するOLED(Organic Light EmittingDiode)のアノードを接続すること、及びカソードを電極に接続することは常套手段であることから、本願補正発明の「前記有機発光ダイオードは、アノードが前記トランジスタのソース端子に接続され、カソードが共通電極に接続され」ることとは、「前記有機発光ダイオードは、アノードが前記トランジスタのソース端子に接続され、カソードが電極に接続され」る点で共通する。

(4)引用発明は、「EL(エレクトロルミネッセンス)素子を基板上に作り込んで形成された」ものであって、「EL(エレクトロルミネッセンス)素子」は、「OLED(Organic Light EmittingDiode)」と捉えることができるから、引用発明と、本願補正発明の「前記有機発光ダイオードは、基板、前記基板上に形成される前記アノード、前記アノード上に形成される有機物層、前記有機物層上に形成される前記カソード、及び、前記有機物層と前記カソードの間、及び前記カソードの上部にそれぞれ形成される第1及び第2透光層、を含」むこととは、「前記有機発光ダイオードは、基板、を含」む点で共通する。

(5)引用発明の、「OLED(Organic Light EmittingDiode)を表示部に用いた電子機器」において、表示部をパネル状とすることは常套手段であって、電子機器に用いる表示部を、OLED(Organic Light EmittingDiode)パネルと捉えることができ、また、引用発明は、「OLED(Organic Light EmittingDiode)を用いた画素部の構成として、」回路構成が示されているから(上記(2))、引用発明の「OLED(Organic Light EmittingDiode)を表示部に用いた電子機器」は、本願補正発明の「OLEDパネルの画素回路」を含むものである。

すると、本願補正発明と引用発明とは、次の<一致点>及び<相違点>を有する。

<一致点>
「複数の走査線のうち、順次的に選択された走査線を通じて入力される走査信号により駆動され、データ線を通じて入力される輝度データによる駆動電流を伝達するスイッチング素子と、前記スイッチング素子を通じて伝達される前記駆動電流により発光する有機発光ダイオードを含み、
前記スイッチング素子は、トランジスタを備え、前記トランジスタはゲート端子が前記走査線に接続され、ドレーン端子が前記データ線に接続され、ソース端子が前記有機発光ダイオードに接続され、
前記有機発光ダイオードは、アノードが前記トランジスタのソース端子に接続され、カソードが電極に接続され、
前記有機発光ダイオードは、
基板、
を含む、
OLEDパネルの画素回路。」

<相違点>
(ア)有機発光ダイオードについて、本願補正発明は、カソードが「共通」電極に接続されているのに対し、引用発明は、「共通」電極に接続されていることについて特定がない点。

(イ)有機発光ダイオードについて、本願補正発明は、「前記基板上に形成される前記アノード、前記アノード上に形成される有機物層、前記有機物層上に形成される前記カソード、及び、前記有機物層と前記カソードの間、及び前記カソードの上部にそれぞれ形成される第1及び第2透光層」を含むのに対し、引用発明は、このような層構造について特定がない点。

(ウ)本願補正発明は、「前記第1及び第2透光層は、前記カソードと前記透光層から構成されるカソード電極層の光透過率の向上と電気的面抵抗の減少との両立を目的として同一物質で形成され、前記第1及び第2透光層の合計の厚みは0.1nm以上100nm未満に形成され、前記第1及び第2透光層は、 MoO_(3)、ITO、IZO、IO、ZnO、TO、TiO_(2)、WO_(3)、Al_(2)O_(3)、Cr_(2)O_(3)、TeO_(2)、SrO_(2)、AlN、Cs_(2)CO_(3)、LiCO_(3)、KCO_(3)、NaCO_(3)、CsF、およびZnSeのうちいずれか1つからなる」のに対し、引用発明は、このような特定がない点。


4 判断

<相違点>(ア)について
EL素子の陰極(カソード)を共通電極に接続することは、周知技術であるから(例えば、引用例1(上記2(1)オ))、当業者が適宜なし得る事項である。

したがって、本願補正発明の<相違点>(ア)に係る構成とすることは格別なことではない。

<相違点>(イ)について
引用例2、3には、有機EL素子において、基板、陽極(アノード)、有機化合物層、陰極(カソード)、金属酸化物の透明層を順に積層して、陰極側から光を取り出すようにすることが記載されており(上記2(2)、上記2(3)ア)、また、引用例3には、陰極に対応する金属薄膜を、金属酸化物薄膜からなる透明電極でサンドイッチ構造とすることが記載されているから(上記2(3)ア)、引用例2、引用例3に記載された層構造を、引用発明の「EL素子」に用いて、「基板上に形成される前記アノード、前記アノード上に形成される有機物層、前記有機物層上に形成される前記カソード、及び、前記有機物層と前記カソードの間、及び前記カソードの上部にそれぞれ形成される第1及び第2透光層を設けることは当業者が容易になし得る事項である。

したがって、本願補正発明の<相違点>(イ)に係る構成とすることは格別なことではない。

<相違点>(ウ)について
引用例3には、「発光層の表面に酸化チタンを蒸着し金属酸化物薄膜(厚み30nm)を成膜し、この金属酸化物薄膜の表面に金属薄膜(厚み7nm)を成膜し、この表面に酸化チタンを蒸着し金属酸化物薄膜(厚み30nm)を成膜し、金属酸化物薄膜と金属薄膜と金属酸化物薄膜との3層構造からなる透明陰極電極を形成して、有機EL素子を作製する」点が記載されており(上記2(3)イ)、金属薄膜(厚み7nm)を挟んで形成される金属酸化物薄膜(本願補正発明の「第1及び第2透光層」に相当)は、共に酸化チタンからなるものであるから、本願補正発明のように、「同一物質で形成され」るということができる。そして、引用例3において、それぞれの金属酸化物薄膜の厚みは30nmであり、また、両者は酸化チタン(本願補正発明の「TiO_(2)」に相当。)からなることから、本願補正発明のように、「第1及び第2透光層の合計の厚みは0.1nm以上100nm未満に形成され、前記第1及び第2透光層は、TiO_(2)からなるようにする」ものということができる。
したがって、引用発明において、引用例2、引用例3に記載された層構造を用いる際、陰極として、引用例3に記載された3層構造からなる透明陰極電極を用い、本願補正発明のように「前記第1及び第2透光層は、」「同一物質で形成され、前記第1及び第2透光層の合計の厚みは0.1nm以上100nm未満に形成され、前記第1及び第2透光層は、 MoO_(3)、ITO、IZO、IO、ZnO、TO、TiO_(2)、WO_(3)、Al_(2)O_(3)、Cr_(2)O_(3)、TeO_(2)、SrO_(2)、AlN、Cs_(2)CO_(3)、LiCO_(3)、KCO_(3)、NaCO_(3)、CsF、およびZnSeのうちいずれか1つからなる」ようにすることに格別の困難性を有しない。
そして、「前記第1及び第2透光層は、前記カソードと前記透光層から構成されるカソード電極層の光透過率の向上と電気的面抵抗の減少との両立を目的として」することも、引用例3に記載されたような酸化チタンからなる金属酸化物薄膜(厚み30nm)」(本願補正発明の「第1及び第2透光層」に相当)を設けることにより、普通に生じる作用効果である。

したがって、本願補正発明の<相違点>(ウ)に係る構成とすることは格別なことではない。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願補正発明が奏する効果は引用発明、引用例2、3に記載された発明及び周知な事項から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

よって、本願補正発明は、引用発明、引用例2、3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。


5 本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明

平成27年3月17日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2[理由]1 」の本件補正前の「請求項1」として記載したとおりのものである。

2 引用例

原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、上記「第2[理由]2 引用例及びその記載事項(1)、(2)」に記載したとおりである。

3 対比
本願発明と引用発明とを対比する。

本願発明は、上記「第2」で検討した本願補正発明の「アノード」、「カソード」との特定事項を、それぞれ、「第1電極」、「第2電極」とし、本願補正発明の「前記有機物層と前記カソードの間、及び前記カソードの上部にそれぞれ形成される第1及び第2透光層、を含み、」との特定事項を、「前記有機物層と前記第2電極の間、及び前記第2電極の上部のうち、少なくともいずれか一つに形成され、‥‥‥る透光層、を含む、」と上位概念にし、本願補正発明の「前記第1及び第2透光層は、前記カソードと前記透光層から構成されるカソード電極層の光透過率の向上と電気的面抵抗の減少との両立を目的として同一物質で形成され、前記第1及び第2透光層の合計の厚みは0.1nm以上100nm未満に形成され、」と限定を削除し、本願補正発明の「前記第1及び第2透光層は、 MoO_(3)、ITO、IZO、IO、ZnO、TO、TiO_(2)、WO_(3)、Al_(2)O_(3)、Cr_(2)O_(3)、TeO_(2)、SrO_(2)、AlN、Cs_(2)CO_(3)、LiCO_(3)、KCO_(3)、NaCO_(3)、CsF、およびZnSeのうちいずれか1つからなる、」との特定事項を、「酸化物系、窒化物系、塩類、及びこれらの複合物のうち、いずれか一つから構成される透光層」と上位概念にするものである。

そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、更に他の特定事項を付加したものに相当する本願補正発明についての、<一致点>、<相違点>(ア)ないし<相違点>(ウ)(前記「第2 [理由] 3 対比」)は、本願発明においては、次のような<一致点>、<相違点>になる。

<一致点>
「複数の走査線のうち、順次的に選択された走査線を通じて入力される走査信号により駆動され、データ線を通じて入力される輝度データによる駆動電流を伝達するスイッチング素子と、前記スイッチング素子を通じて伝達される駆動電流により発光する有機発光ダイオードを含み、
前記スイッチング素子は、トランジスタを備え、前記トランジスタはゲート端子が前記走査線に接続され、ドレーン端子が前記データ線に接続され、ソース端子が前記有機発光ダイオードに接続され、
前記有機発光ダイオードは、アノードが前記トランジスタのソース端子に接続され、カソードが電極に接続され、
前記有機発光ダイオードは、
基板、
を含む、OLEDパネルの画素回路。」

<相違点>

(エ)有機発光ダイオードについて、本願発明は、カソードが「共通」電極に接続されているのに対し、引用発明は、「共通」電極に接続されていることについて特定がない点(前記<相違点>(ア)(前記「第2 [理由] 3 対比」)に同じ。)

(オ)有機発光ダイオードについて、本願発明は、「前記基板上に形成される第1電極、前記第1電極上に形成される有機物層、前記有機物層上に形成される第2電極、及び、前記有機物層と前記第2電極の間、及び前記第2電極の上部のうち、少なくともいずれか一つに形成され、酸化物系、窒化物系、塩類、及びこれらの複合物のうち、いずれか一つから構成される透光層」を含むのに対し、引用発明は、このような層構造について特定がない点。


4 判断
<相違点>(エ)について
EL素子の陰極(カソード)を共通電極に接続することは、周知技術であるから(例えば、引用例1(上記2(1)オ))、当業者が適宜なし得る事項である。

したがって、本願発明の<相違点>(ア)に係る構成とすることは格別なことではない(前記「<相違点>(ア)について」(前記「第2 [理由] 4 判断」)の判断に同じ。)。

<相違点>(オ)について
引用例2には、有機EL素子において、基板、陽極(アノード)、有機化合物層、陰極(カソード)、金属酸化物の透明層を順に積層して、陰極側から光を取り出すようにすることが記載されており(上記2(2))、ここで、「金属酸化物の透明層」は、本願発明の「酸化物系」「から構成される透光層」に相当するから、引用例2に記載された層構造を、引用発明の「EL素子」に用いて、「前記基板上に形成される第1電極、前記第1電極上に形成される有機物層、前記有機物層上に形成される第2電極、及び、前記有機物層と前記第2電極の間、及び前記第2電極の上部のうち、少なくともいずれか一つに形成され、酸化物系、窒化物系、塩類、及びこれらの複合物のうち、いずれか一つから構成される透光層」とすることは当業者が容易になし得る事項である。

したがって、本願発明の<相違点>(オ)に係る構成とすることは格別なことではない。

そして、上記相違点を総合的に判断しても、本願発明が奏する効果は引用発明、引用例2に記載された発明及び周知な事項から当業者が十分に予測できたものであって格別なものとはいえない。

よって、本願発明は、引用発明、引用例2に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである

5 むすび

以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項に論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-12-21 
結審通知日 2016-01-05 
審決日 2016-01-19 
出願番号 特願2011-550050(P2011-550050)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G09G)
P 1 8・ 121- Z (G09G)
P 1 8・ 575- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 武田 悟  
特許庁審判長 清水 稔
特許庁審判官 堀 圭史
酒井 伸芳
発明の名称 OLEDパネルの画素回路、および前記画素回路を用いた表示装置  
代理人 ▲吉▼川 俊雄  

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