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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B24D
管理番号 1315601
審判番号 不服2015-9142  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-18 
確定日 2016-06-09 
事件の表示 特願2011-58144「切断ブレード」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月11日出願公開、特開2012-192487〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成23年 3月16日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 8月 6日付け:拒絶理由の通知
平成26年10月10日 :意見書、補正書の提出
平成27年 2月 9日付け:拒絶査定
平成27年 2月17日 :拒絶査定の謄本の送達
平成27年 5月18日 :審判請求書の提出、同時に手続補正書の提 出
平成27年10月19日付け:拒絶理由の通知
平成27年12月 4日 :意見書、補正書の提出

2 本願発明について
本願の請求項1及び2に係る発明(以下「本願発明1」などという。)は、平成27年12月4日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2にそれぞれ記載された事項により特定されるものであると認められるところ、そのうち請求項1には、以下のとおり記載されている。
「【請求項1】
円形薄板状をなす基材と、
前記基材の外周縁部に形成された切れ刃と、
前記基材内に分散された砥粒と、を備える切断ブレードであって、
前記基材が、レジンボンドからなり、
前記砥粒は、Niコーティングされたダイヤモンド砥粒であり、
前記基材の厚さが、80μm?300μmであり、
前記基材の厚さ方向の外側には、該基材より静摩擦係数が小さい滑り層が形成されており、
前記基材の半径をRとし、前記滑り層が、前記基材の厚さ方向を向く外面のうち、前記外周縁部から径方向内方へ向かって1/3×Rの切り込み領域をすべて被覆した状態を被覆率100%と仮定して、
前記被覆率が、50%以上であり、
前記滑り層は、前記切り込み領域に周方向に間隔をあけて分散配置されており、
前記切り込み領域において周方向に隣り合う前記滑り層同士の間の周方向に沿う長さが、1mm以下であり、
前記滑り層の厚さが、0.5μm?10μmであることを特徴とする切断ブレード。」

3 刊行物
当審において通知した拒絶の理由に引用された各刊行物には、次の事項が記載されている。

(1)刊行物1の記載事項及び刊行物1記載の発明
本願出願日前に頒布された刊行物である特開2009-6409号公報(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項、及び発明が記載されている(下線は理解の便宜のため、当審にて付与、以下同。)。

ア.段落【0005】
「しかるに、これに対して特許文献3に記載の薄刃砥石では、母体金属の表面すなわち砥粒層の側面にコーティングされたダイヤモンド状カーボンの摩擦係数が小さいため、該側面に目詰まりが生じるのを防ぐとともに加工時の抵抗も低減することはできるが…」

イ.段落【0006】
「本発明は、このような背景の下になされたもので、砥粒層への切屑の付着による目詰まり等を防ぎつつ砥粒層の幅痩せを抑制し、特にワークが上述のような樹脂中に金属リードフレーム、めっき、電極等が配置されたものである場合でも、バリの発生等を抑えて高品位の加工を行うことが可能な薄刃砥石を提供することを目的としている。」

ウ.段落【0009】
「また、このような高硬度のコーティング層が側面に被覆されることで砥石自体の剛性や強度も向上させることができるので、砥粒層の厚さを薄くしても直進性を確保して高精度の加工を行うことができ、例えば切断代を出来るだけ小さくして製品歩留まりの向上を図ったり、発振子等に挟ピッチで溝入れ可能を行うような場合にもこれに確実に対応したりすることが可能となる。その一方で、かかるTiCよりなるコーティング層は、砥粒層における金属結合相から容易に剥離することがなく、長期に亙って上述のエッジ形状を維持することができるとともに、潤滑性に優れていて切屑の付着性は低いために目詰まり等の発生を防ぐことができ、抵抗の増大や加工中の焼き付きを防止することが可能となる。」

エ.段落【0010】
「ここで、上記コーティング層は、砥粒層の円形の側面全体に被覆されていてもよいが、例えば砥粒層の両側面が一対のフランジによって挟持されて加工に供される円環薄板状の薄刃砥石では、少なくともこのフランジよりも外周側にはみ出す部分にコーティング層が被覆されていれば、コーティング層を介して確実に砥粒層を指示することができるので、このコーティング層は砥粒層の外周から該砥粒層の半径方向の幅の1/2以上の幅で被覆されていればよい。」

オ.段落【0014】
「図1ないし図3は、本発明の薄刃砥石の一実施形態を示す概略図である。本実施形態の薄刃砥石は図1に示すように軸線Oを中心とした円環形で厚さ0.05?0.5mm程度の薄肉板状(ただし、図2では説明のため厚さが大きく示されている。)をなしており、かかる円環薄板状の砥粒層1とその側面1Aに被覆されたコーティング層2とから構成されていて、砥粒層1の内径部1Bが図示されない加工装置の主軸に挿入されるとともに、両側面1A,1Aのコーティング層2を含めた内周側部分が一対のフランジ等によって挟着されることにより該主軸に取り付けられる。そして、上記軸線O回りに回転されつつ該軸線Oに垂直な方向に送り出されることにより、その外周縁部によって、例えば上述したQFNやIrDA規格の光伝送モジュールあるいはLEDワークのような電子部品の切断、溝入れなどの超精密加工に使用される。」

カ.段落【0015】
「上記砥粒層1は、Cu-SnまたはCo、Ni等を主成分とする金属結合相3にダイヤモンドやcBN等の超砥粒4を均一に分散したものであって、このような金属の粉末よりなる結合剤(メタルボンド)と超砥粒4とを混合して上述のような形状に成型し、必要に応じて所定の加圧下で、上記金属結合剤の焼結温度に加熱することにより形成され、さらにその側面1A,1Aには目立てが施される。」

キ.段落【0020】
「また、このようなTiCよりなるコーティング層2は、従来のダイヤモンド状カーボンよりなるコーティング層のように加工時に発生する熱によって容易に剥離するようなことがなく、より長期に亙って安定的に上述の効果を奏功することができる。その一方で、かかるTiCコーティング層2は潤滑性に優れるため、切断抵抗そのものを低く抑えることができるのは勿論、例えばNi等の金属結合相3がむき出しのままの砥粒層などに比べては切屑の付着が少なく、従って切屑による目詰まり等による加工時の抵抗増大も防ぐことができ、加工時の発熱やこれに伴う焼き付きも抑えて一層長期に亙る鋭い切れ味の持続を図ることが可能となる。」

ク.段落【0024】
「一方、本実施形態では上記コーティング層2が超砥粒4の平均粒径の1/2以下の厚さtとされていて、上述のように砥粒層1の両側面1Aから平均粒径の1/2以上突出した超砥粒4がそのままコーティング層2の表面からも突出するようにされており、このため切断や溝入れの際の加工壁面とコーティング層2の表面との間に僅かながらでもクリアランスを確保することができる。従って、加工時の抵抗を一層低減することができるとともに、このクリアランスを介して切屑の円滑な排出を図ることもでき、目詰まりの発生等をより確実に防止することが可能となる。ただし、このコーティング層2の厚さtがあまり小さすぎると剛性や強度の確保が困難となるおそれがあるので、厚さtは砥粒の平均粒径の1/5以上、または0.5μm以上とされるのが望ましく、1.0μm以上とされるのがより望ましい。」

ケ.段落【0026】
「以下、本発明の薄刃砥石について、より具体的な実施例により説明する。本実施例ではまず、平均粒径25μm(粒度#600)のダイヤモンド超砥粒を集中度100でCu-Sn-Co-Niよりなる金属結合相に均一に分散した外径58mm、内径40mm、厚さ0.2mmの砥粒層1をベースブレードとして製造した。次いで、このベースブレードの砥粒層1の両側面1A,1Aそれぞれに、上述した条件の熱CVD法によって厚さtを10μm、5μm、15μmとしたTiCよりなるコーティング層2を被覆して、本発明に基づく3種の薄刃砥石を製造した。これらを上記厚さtの順に実施例1?3とする。なお、これら実施例1?3においてコーティング層2の砥石外周からの幅Xは砥粒層1の幅W=9mmの1/2の4.5mmであった。」

コ.段落【0031】
「また、これら実施例1?3同士で比較すると、切断幅の差については、実施例1、3では大きな相違はなかったのに対し、コーティング層2の厚さtが小さくされた実施例2ではこれら実施例1、3よりも大きくなる傾向にあった。また、角欠けについては、実施例3では切断長100mから品位を損なう程度ではないものの小さな欠けが見受けられたのに対し、コーティング層2の厚さtが砥粒4の平均粒径の1/2以下とされた実施例1、2では切断長1000mまで認められなかった。」

サ.刊行物1記載の発明
上記エ.及びケ.の摘示から、コーティング層2は、砥粒層1(外径:58mm、内径:40mm)の半径方向の幅の1/2以上の幅で被覆されていると認められる。

また、上記コ.に摘示したとおり、コーティング層の厚さについては、実施例では、5μm、10μmのものが、角欠けが生じない好適な実施例として記載されている。

以上の記載事項を、技術常識を踏まえて整理すると、刊行物1には、以下の発明(以下、「刊行物1記載の発明」という)が記載されていると認められる。
「外周縁部が切断、溝入れなどの超精密加工に使用される薄刃砥石であって、円環薄板状の砥粒層1内にダイヤモンドの超砥粒4が分散されており、その砥粒層1の厚さが200μmであり、砥粒層1の側面1Aには、切断抵抗を低く抑えるため、コーティング層2が形成されており、コーティング層2は、砥粒層1(外径:58mm、内径:40mm)の半径方向の幅の1/2以上の幅で被覆されており、コーティング層の厚さが、5μm、10μmであること。」

(2)刊行物2の記載事項及び刊行物2記載の技術的事項
本願出願日前に頒布された刊行物である特開2011-36945号公報(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。

ア.段落【0001】
「本発明は、例えば水晶や石英等の硬脆材料の精密切断加工に使用される切断ブレードに関するものである。」

イ.段落【0002】
「従来、半導体製品などに用いられる水晶や石英等の硬脆材料(被切断材)に溝加工を施したり、切断することによって個片化したりする加工には、高精度が要求されており、このような溝加工や切断加工等(以下「切断加工」と省略する)には、円形薄板状の切断ブレードが使用されている。とりわけ、被切断材として、水晶等のようにチッピングの生じやすい硬脆材料を精密切断加工する場合には、被切断材に及ぼされる加工負荷の衝撃を緩和するため、弾性のある樹脂相内にダイヤモンド砥粒を分散したレジンボンド砥石からなる切断ブレードを用いて、チッピングを抑制させている。」

ウ.段落【0003】
「また、近年では、半導体部品の製品歩留まりの向上を目的として、このような切断ブレードを極薄刃に形成することが要求されている。しかしながら、レジンボンド砥石からなる切断ブレードを単に極薄刃に形成した場合、その剛性を確保することが難しく、加工中に切断ブレードが折損することがある。」

エ.段落【0007】
「本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、刃の厚さを極薄に形成しても剛性を充分に確保でき、安定して被切断材を切断加工できる切断ブレードを提供することを目的としている。」

オ.段落【0008】
「前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提案している。
すなわち本発明は、砥粒が樹脂相に分散されてなる円形薄板状の基材と、前記基材の外周縁部に形成された切刃と、を有し、前記基材が軸周りに回転されるとともに、前記切刃で被切断材を切断加工する切断ブレードであって、前記基材の厚さ方向の中央部には、前記樹脂相以上の強度を有する網状部材を含む第1クロス層が形成されていることを特徴とする。」

カ.段落【0019】
「詳しくは、この切断ブレード10は、例えば、外径が58mm程度、取付孔2の内径が40mm程度とされ、軸O方向に沿う厚さ寸法Tが50?1000μmの範囲内に設定されている。」

キ.段落【0020】
「基材1は、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂(樹脂材料)が固化し形成された樹脂相からなり、この樹脂相には、ダイヤモンド砥粒(砥粒)3が分散されている。ダイヤモンド砥粒3は、例えば、その平均粒径が37μm?513μm(粒度#400?#30)の範囲内に設定されている。」

ク.刊行物2記載の技術的事項
以上の記載事項を、技術常識を踏まえて整理すると、刊行物2には、以下の技術的事項(以下、「刊行物2記載の技術的事項」という)が記載されていると認める。
「円形薄板状をなす基材と、基材の外周縁部に形成された切刃と、基材内に分散された砥粒と、を備える切断ブレードであって、基材がフェノール樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂相からなり、基材の厚さが50?1000μmであること。」

(3)刊行物3の記載事項及び刊行物3記載の技術的事項
本願出願日前に頒布された刊行物である特開2000-144477号公報(以下、「刊行物3」という)には、以下の事項が記載されている。

ア.段落【0001】
「・・・本発明は、切削装置に搭載されて被加工物の切削を行うブレードに関し、詳しくは、ダイヤモンド等の砥粒をニッケル等の母体金属で電着して形成した電着ブレードに関する。」

イ.段落【0010】
「本発明に係る電着ブレード、及び、本発明に係る電着ブレード製造方法により製造された電着ブレードにおいては、母体金属の表面の所定領域にダイヤモンド状カーボンがコーティングされており、ダイヤモンド状カーボンの摩擦係数が小さいため、PZT、生セラミックス、ゴム、樹脂、シリコン、ガリウム砒素等の難切削材を切削しても電着ブレードの側面に目詰まりが生じない。また、摩擦係数が小さいため切削時に被加工物の切削面に与える衝撃が少なく、チッピングが生じにくい。」

ウ.段落【0029】
「また、マスキング箇所を変更することにより、DLCをコーティングする箇所を変更して種々のタイプのブレードを製造することができる。例えば、図8(B)に示すワッシャーブレード42bは、ワッシャーブレードの側面の外周部に断続的にDLCによるコーティング層43を形成した場合、図8(C)に示すワッシャーブレード42cは、ワッシャーブレードの側面の全体にDLCによるコーティング層44を形成した場合を示している。」

エ.段落【0030】
「また、図8(D)に示すハブブレード42dは、ハブブレードの外周部に断続的にDLCによるコーティング層45を形成した場合、図8(E)に示すハブブレード42eは、ハブブレードの外周部の全体にDLCによるコーティング層46を形成した場合を示している。更に、このほかにも種々のバリエーションが考えられる。」

オ.段落【0035】
「このようにしてハブブレード42aまたはワッシャーブレード42eが装着されたスピンドルユニット58を用いて被加工物51の切削が行われると、DLCコーティング層の表面は摩擦係数が小さくすべすべして滑りやすいため、側面抵抗が少なく、切削を円滑に遂行できる。更に、図8(B)、(C)に示したワッシャーブレード42b、42cや図8(D)に示したハブブレード42d等を用いた場合にも上記と同様の効果を得ることができる。」

カ.段落【0039】
「また、摩擦係数が小さいため切削時に被加工物の切削面に与える衝撃が少なく、チッピングが生じにくいため、被加工物の品質が向上する。」

キ.図8
図8には、電着ブレードが円形薄板状であり、基材の外周縁部に切れ刃が形成されていることが図示されている。

ク.刊行物3記載の技術的事項
以上の記載事項を、技術常識を踏まえて整理すると、刊行物3には、以下の技術的事項(以下、「刊行物3記載の技術的事項」という)が記載されていると認める。
「砥石の母体を金属で形成し、円形薄板状をなす基材の外周縁部に切れ刃が形成されている切削を行うブレードの外周部に、ダイヤモンド状カーボンからなるコーティング層を全体的に、又は断続的に形成したこと。」

4 対比
本願発明1と、刊行物1記載の発明とを対比すると、刊行物1記載の発明の「円環薄板状の砥粒層1」が、本願発明1の「円形薄板状をなす基材」に相当する。
刊行物1記載の発明には、薄刃砥石の「外周縁部が切断、溝入れなどの超精密加工に使用され」と、「薄刃砥石」が「切断」に使用されることが記載されていることから、刊行物1記載の発明における「薄刃砥石」は、本願発明の「切断ブレード」に相当する。
刊行物1記載の発明の薄刃砥石の「外周縁部が切断、溝入れなどの超精密加工に使用され」る構成は、本願発明1における切断ブレードが「基材の外周縁部に形成された切れ刃」を備えることに相当する。
刊行物1記載の発明の「砥粒層1内にダイヤモンドの超砥粒4が分散されて」いる構成は、本願発明1の「基材内に分散された砥粒と、を備える」構成及び「砥粒は、ダイヤモンド砥粒であ」る構成に相当する。
刊行物1記載の発明の「コーディング層」は、請求項1に係る発明における「滑り層」に相当し、刊行物1記載の発明のコーディング層が「側面1Aに被覆された」構成は、本願発明1における滑り層が「厚さ方向の外側に」形成された構成に相当する。
刊行物1のTiCは、一般的に静摩擦係数は0.1?0.25程度であることから、刊行物1記載の発明における「切断抵抗を低く抑え」る構成は、本願発明1における、滑り層の「基材より静摩擦係数が小さい」構成に相当する。

刊行物1記載の発明の「円環薄板状の砥粒層1」(上述のように、本願発明における「基材」に相当)の厚さは、200μmであるから、請求項1に係る発明の「基材の厚さが、80μm?300μmであり」の範囲内にある。

本件明細書の段落【0021】には、「切断ブレード1は、取付孔5を用いて不図示の切断加工装置の主軸に装着され、その中心軸(以下「軸」)O回りに回転されつつ軸Oに垂直な方向に送り出されることにより、基材2外周の環状をなす切れ刃3を被切断材に切り込んで被切断材を切断加工し、例えば矩形状の切断片(チップ)を複数形成する。
本実施形態の切断ブレード1は、外径が58mm程度、取付孔5の内径が40mm程度となっている。」と記載されている。
また、本件明細書の段落【0029】には、「滑り層6は、基材2の外面2aのうち、少なくとも切れ刃3から径方向内方へ向かって被切断材に切り込まれる領域(切り込み領域)に形成されていればよく、被切断材に接触しない領域(例えば取付孔5回り)には形成されていなくてもよい。詳しくは、滑り層6は、基材2の半径Rに対して、基材2の外周縁部(切れ刃3)から径方向内方に向かって1/3×Rの切り込み領域に形成されていればよく、この領域における前記被覆率が50%以上となっている。」と記載されている。
これらの記載から、本願発明1の「外周縁部から径方向内方に向かって1/3×Rの切り込み領域」とは、実施形態を参照すると内径40mm程度から外径58mm程度の切断ブレードの全体を意味するものを含むものである。
刊行物1記載の発明の「コーティング層」(上述のように、請求項1に係る発明における「滑り層」に相当)は、外径が58mm、内径が40mmである砥粒層(請求項1に係る発明における「基材」に相当)の半径方向の幅の1/2以上の幅で被覆されており、本願発明1における「本願の被覆率が50%以上であ」る構成に相当する。

以上から、本願発明1と刊行物1記載の発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

<一致点>
「円形薄板状をなす基材と、
前記基材の外周縁部に形成された切れ刃と、
前記基材内に分散された砥粒と、を備える切断ブレードであって、
前記砥粒は、ダイヤモンド砥粒であり、
前記基材の厚さが、80μm?300μmであり、
前記基材の厚さ方向の外側には、該基材より静摩擦係数が小さい滑り層が形成されており、
前記基材の半径をRとし、前記滑り層が、前記基材の厚さ方向を向く外面のうち、前記外周縁部から径方向内方へ向かって1/3×Rの切り込み領域をすべて被覆した状態を被覆率100%と仮定して、
前記被覆率が、50%以上であり、
前記滑り層の厚さが、0.5μm?10μmである」点。

<相違点1>
基材が、本願発明1では、「レジンボンドからな」るのに対して、刊行物1記載の発明では、金属である点。

<相違点2>
砥粒が、本願発明1では、「Niコーティングされたダイヤモンド砥粒」であるのに対して、刊行物1記載の発明では、「ダイヤモンド砥粒」である点。

<相違点3>
滑り層が、本願発明1では、「前記切り込み領域に周方向に間隔をあけて分散配置されており、前記切り込み領域において周方向に隣り合う前記滑り層同士の間の周方向に沿う長さが、1mm以下である」のに対して、刊行物1記載の発明では、周方向に間隔を空けることが示されていない点。

5 当審の判断
(1)相違点1について
刊行物1記載の発明と、刊行物2記載の技術的事項(3(2)ク.参照)は、いずれも円形薄板状をなす基材と、基材の外周縁部に形成された切れ刃と、基材内に分散された砥粒と、を備える切断ブレードに関する技術として共通するし、基材が薄くても、剛性を確保するという課題も共通する。
また、基材として様々な種類のものが存在することは、技術常識であり、当業者が当然に認識していたことにすぎない。
してみると、刊行物1記載の発明における切断ブレードの基材について、刊行物2記載の技術的事項を適用して、フェノール樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂相とすることは、単なる材料の選択に過ぎず、当業者にとって、格別困難な事項ではない。

そして、本願明細書の段落【0022】には、「基材2は、レジンボンド(樹脂結合剤)からなる。すなわち、基材2は、弾性のある樹脂相からなり、この樹脂相としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂或いはポリ尿素樹脂等が用いられる。」と記載されており、本願発明1と刊行物2記載のものとで材料が共通していることから、刊行物1記載の発明における切断ブレードの基材について、刊行物2記載の技術的事項を適用したもの(基材がフェノール樹脂やエポキシ樹脂等の樹脂相)は、請求項1に係る発明における「基材が、レジンボンドからな」る構成に相当する。

この点、審判請求人は、平成27年5月18日提出の審判請求書において、「たとえ当業者であっても、基材がレジンボンドからなる…に対して、基材が金属結合相(メタルボンド)からなる上記引用文献2に記載の砥石厚さ(0.05?0.5mm)を単純に適用することは、ブレード剛性が大きく異なることから、想到容易ではない。」と主張しているが、被加工物等に応じて、切断ブレードの基材の材質や厚さを変更することは当業者であれば、通常行うことであり(例えば、刊行物2に関する摘示3(2)イ.参照)、また、レジンボンドからなる基材であって、厚さが50?1000μmである刊行物2記載の技術的事項においても、剛性を確保しているのであるから、基材の材質(金属相かレジンボンドか)が上記適用の阻害要因になるとは認められない。

(2)相違点2について
本願出願日前に頒布された刊行物である特開2004-1165号公報の段落【0002】、【0003】に
「【従来の技術】
樹脂を結合材として用いるレジノイドボンド砥石では、他のボンドの砥石に比べてボンド層の研削材保持力が弱いため、研削中に脱落する研削材が多く、砥石の研削比が低くなってしまうという問題を抱えていた。その為、研削材の保持力を向上させる様々な工夫がなされてきた。
立方晶窒化ホウ素の場合を例示すると、研削材表面にニッケル、ニッケル-リン、コバルト、コバルト-リン、チタン等の単層または多層の被覆を施し、被覆表面の凹凸によってボンド層中での保持力を向上させた研削材が開発され(例えば、特許文献1?5)、現在レジノイドボンド砥石に用いられている。」と記載されている。
すなわち、過去の特許文献を例示しつつ、樹脂を結合材として用いる場合に、研削材表面にニッケル等の単層の被覆を施す旨が記載されている。
そして、上記摘示では、研削材として「立方晶窒化ホウ素」が例示されているが、同刊行物の【請求項13】には「砥粒が、立方晶窒化ホウ素、ダイヤモンド、アルミナ、炭化珪素からなる群から選ばれた」と記載されていることから、樹脂を結合材として用いる際に「ダイヤモンド砥粒」に「Niコーティング」することは従来周知な技術的事項にすぎない。
よって、上記相違点1に関して「レジンボンド」を用いる際に、「ダイヤモンド砥粒」に「Niコーティング」することは十分想到しうることである。

この点、審判請求人は、平成27年12月4日提出の意見書において、「Niコーティングしたダイヤモンド砥粒が、レジンボンドの基材に対して濡れ性がよいことや、保持力が高められることについては、必要があれば、例えば本願と同日に出願された特願2011-58145(特許第5676324号公報。出願人は本願と同一)の段落0040、0046等を参照されたい。」と主張している。
しかしながら、「Niコーティングしたダイヤモンド砥粒が、レジンボンドの基材に対して濡れ性がよいことや、保持力が高められること」については、特願2011-58145号の拒絶理由の通知に引用された上記刊行物に示されているように従来周知な技術的事項にすぎず、特願2011-58145号を参照しても、「Niコーティングしたダイヤモンド砥粒が、レジンボンドの基材に対して濡れ性がよいことや、保持力が高められること」が、本願出願時点まで知られていない格別の創意工夫が必要な事項であったものと認めることはできない。

(3)相違点3について
刊行物3記載の技術的事項(3(3)ク.参照)は、ブレードの切り込み領域に周方向に、滑り層を全体的にでも(図8(E))、分散配置させてても(図8(D))、いずれでも、摩擦係数が小さいため切削時に被加工物の切削面に与える衝撃が少なく、チッピングが生じにくいということであり、滑り層を全体的に配置するのか、間隔を空けて配置するのかは適宜設計し得る事項にすぎない。
一方、本願明細書をみても、分散配置させる技術的意義(具体的には、例えば、いかなる理由から、1mm以下であっても、滑り層を分散配置されている方が、全体に配置させるよりも優れているのか等)が不明である。

してみれば、刊行物1記載の発明における滑り層について、上記刊行物3の技術的事項を勘案して、適宜の間隔で分散配置させることは、当業者が格別の困難性を有することなく、想到し得た事項であり、1mm以下と限定した点も格別のものとは認められない。

この点、平成26年10月10日提出の意見書において、出願人は、刊行物3について、「図8(B)に示される周方向に隣り合うコーティング層43同士の間の部分、及び、図8(D)に示される周方向に隣り合うコーティング層45同士の間の部分における、周方向に沿う長さはそれぞれ、一般的なブレード外径(φ60mm程度)を考慮すれば明らかに1mmよりは大きくされており、このような引用文献3では、被切断材の切断面に対して、コーティング層43同士の間の部分及びコーティング層45同士の間の部分が長く接触させられることとなって、切断精度を安定させることはできない。」と主張しているが、一般に、必ずしも図面の記載から、寸法を特定できるとは限らない。

(4)本願発明についてのむすび
したがって、本願発明1は、刊行物1記載の発明、刊行物2記載の技術的事項、刊行物3記載の技術的事項及び従来周知の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-03-31 
結審通知日 2016-04-05 
審決日 2016-04-18 
出願番号 特願2011-58144(P2011-58144)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B24D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大山 健  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 平岩 正一
西村 泰英
発明の名称 切断ブレード  
代理人 山崎 哲男  
代理人 鈴木 慎吾  
代理人 志賀 正武  
代理人 細川 文広  

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