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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01F
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01F
管理番号 1315603
審判番号 不服2015-10001  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-29 
確定日 2016-06-09 
事件の表示 特願2011- 56130「コモンモードノイズフィルタ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年10月11日出願公開、特開2012-195332〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成23年3月15日の出願であって、平成26年6月30日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年9月1日付けで手続補正がなされたが、平成27年3月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月29日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされたものである。

2.平成27年5月29日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成27年5月29日付けの手続補正を却下する。
[理 由]
(1)補正後の本願発明
平成27年5月29日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、特許請求の範囲の請求項1は、
「【請求項1】
積層体と、この積層体の内部に形成された第1?第4のコイル導体とを備え、前記第1のコイル導体の一端部と前記第2のコイル導体の一端部とを同一平面上で直接接続し、かつ前記第3のコイル導体の一端部と前記第4のコイル導体の一端部とを同一平面上で直接接続するとともに、積層方向に隣り合う前記第1のコイル導体と前記第3のコイル導体とで磁気結合する第1のフィルタ部を構成し、かつ積層方向に隣り合う前記第2のコイル導体と前記第4のコイル導体とで磁気結合する第2のフィルタ部を構成するようにし、さらに、前記第1のフィルタ部と第2のフィルタ部の結合係数を-0.5?+0.5とし、かつ前記第1のフィルタ部を構成する前記第1のコイル導体、前記第3のコイル導体の巻数を、前記第2のフィルタ部を構成する前記第2のコイル導体、前記第4のコイル導体の巻数より少なくしたコモンモードノイズフィルタ。」
と補正された。

上記補正は、請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「第1?第4のコイル導体」について、第1のコイル導体の一端部と第2のコイル導体の一端部との接続、及び第3のコイル導体の一端部と第4のコイル導体の一端部との接続がそれぞれ「同一平面上で直接」なされる旨の限定を付加するものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて以下に検討する。

(2)引用例
(2-1)引用例1
原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-181169号公報(以下、「引用例1」という。)には、「コモンモードフィルタ」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【請求項1】
互いに異なる層に形成され、互いに磁気結合する第1及び第2のスパイラル状導体によって構成される第1のフィルタ部と、
互いに異なる層に形成され、互いに磁気結合する第3及び第4のスパイラル状導体によって構成される第2のフィルタ部と、
前記第1乃至第4のスパイラル状導体の一端にそれぞれ接続された第1乃至第4の端子電極とを備え、
前記第1のスパイラル状導体の他端と前記第3のスパイラル状導体の他端とが接続されており、
前記第2のスパイラル状導体の他端と前記第4のスパイラル状導体の他端とが接続されており、
一方向からみた前記第1のスパイラル状導体の前記一端から前記他端に向かう巻回方向と、前記一方向からみた前記第2のスパイラル状導体の前記一端から前記他端に向かう巻回方向とが互いに同一であり、
前記一方向からみた前記第3のスパイラル状導体の前記一端から前記他端に向かう巻回方向と、前記一方向からみた前記第4のスパイラル状導体の前記一端から前記他端に向かう巻回方向とが互いに同一であることを特徴とするコモンモードフィルタ。」

イ.「【0012】
このように、本発明によるコモンモードフィルタは、コモンモードノイズを除去する第1及び第2のフィルタ部が一体化されていることから、部品点数の増大や特性のばらつきを生じることなく、良好な周波数特性を得ることが可能となる。しかも、各フィルタ部を構成する2つのスパイラル状導体が互いに異なる層に形成されていることから、各フィルタ部が持つキャパシタンスの調整が容易であり、その結果、所望の周波数帯域におけるインピーダンスを高めることが可能となる。」

ウ.「【0020】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるコモンモードフィルタ100の構造を示す略分解斜視図であり、図2は、本実施形態によるコモンモードフィルタ100を組み立てた状態を示す略斜視図である。
【0021】
図1に示すように、本実施形態によるコモンモードフィルタ100は、基板111,112と、基板111,112間に設けられた絶縁層121?125と、所定の絶縁層に形成された導体パターンとを備えて構成されている。基板111,112の材料については特に限定されないが、透磁率の高い材料、例えばフェライトなどを用いることが好ましい。また、絶縁層121?125の材料については、特に限定されないが、ポリイミドなどを用いることが好ましい。
【0022】
絶縁層に形成された導体パターンは、各絶縁層121?124の表面に形成された第1?第4の内部電極131?134と、絶縁層123の表面に形成された第1のスパイラル状導体141、第3のスパイラル状導体143及び引き出し導体161,163と、絶縁層122の表面に形成された第2のスパイラル状導体142、第4のスパイラル状導体144及び引き出し導体162,164と、絶縁層124の表面に形成された接続導体151と、絶縁層121の表面に形成された接続導体152とを含んでいる。図1に示すように、第1?第4のスパイラル状導体141?144はいずれも平面状コイルである。
【0023】
第1のスパイラル状導体141と第2のスパイラル状導体142は、絶縁層123を介して向かい合うように配置されており、このため、両者は互いに磁気結合している。同様に、第3のスパイラル状導体142と第4のスパイラル状導体144は、絶縁層123を介して向かい合うように配置されており、このため、両者は互いに磁気結合している。後述するように、これらの導体パターンは、絶縁層上に、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法などのいわゆる薄膜プロセスによって形成することができる。」

エ.「【0058】
但し、本発明においてこのような構成とすることは必須でなく、第1?第4のスパイラル状導体141?144の一端141a?144aを内側、他端141b?144bを外側に位置させることにより、接続導体151,152を第1?第4のスパイラル状導体141?144が形成された層と同じ層に形成することも可能である。このような例については追って詳述する。」

オ.「【0064】
図10は、本発明の好ましい他の実施形態によるコモンモードフィルタ200の構造を示す略分解斜視図である。本実施形態によるコモンモードフィルタ200を組み立てた状態は図2に示した構造と同一であり、第1?第4の端子電極101?104を備えている。
【0065】
本実施形態によるコモンモードフィルタ200は、第1?第4のスパイラル状導体141?144の一端141a?144aを内周端、他端141b?144bを外周端に位置させた例である。上記実施形態によるコモンモードフィルタ100と同一の要素については同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0068】
第1のスパイラル状導体141の他端141bと第3のスパイラル状導体143の他端143bについては、これらスパイラル状導体141,143と同一層に形成された接続電極151によって接続されている。同様に、第2のスパイラル状導体142の他端142bと第4のスパイラル状導体144の他端144bについても、これらスパイラル状導体142,144と同一層に形成された接続電極152によって接続されている。
【0069】
このような構成により、第1の端子電極101と第3の端子電極103との間には、第1のスパイラル状導体141と第3のスパイラル状導体143が直列接続されていることになり、第2の端子電極102と第4の端子電極104との間には、第2のスパイラル状導体142と第4のスパイラル状導体144が直列接続されていることになる。したがって、基本的には図4に示した等価回路で表すことができるが、端子電極101?104がスパイラル状導体141?144の内周端に接続されていることから、インダクタンス成分Lとキャパシタンス成分Cとの関係がコモンモードフィルタ100とは若干異なる。」

・上記引用例1に記載の「コモンモードフィルタ」は、上記「イ.」の記載事項によれば、コモンモードノイズを除去する第1及び第2のフィルタ部が一体化されてなるものであり、
より具体的には、上記「ア.」、「ウ.」、「オ.」の記載事項、及び図1、図10によれば、積層された複数の絶縁層121?125と、互いに異なる絶縁層122,123に形成され、互いに磁気結合する第1及び第2のスパイラル状導体141,142によって構成される第1のフィルタ部と、互いに異なる絶縁層122,123に形成され、互いに磁気結合する第3及び第4のスパイラル状導体143,144によって構成される第2のフィルタ部と、前記第1乃至第4のスパイラル状導体141?144の一端にそれぞれ接続された第1乃至第4の端子電極101?104とを備え、前記第1のスパイラル状導体141の他端141bと前記第3のスパイラル状導体143の他端143bとが接続され、前記第2のスパイラル状導体142の他端142bと前記第4のスパイラル状導体144の他端144bとが接続されてるコモンモードフィルタに関するものである。
・上記「ウ.」、「オ.」の記載事項、及び図1、図10によれば、第1のスパイラル状導体141と第3のスパイラル状導体143とが形成される絶縁層123と、第2のスパイラル状導体142と第4のスパイラル状導体144とが形成される絶縁層122とは、積層されて当該コモンモードフィルタを構成するものであり、第1のフィルタ部を構成する第1及び第2のスパイラル状導体141,142は絶縁層123を介して向かい合うように配置されてなり、同様に、第2のフィルタ部を構成する第3及び第4のスパイラル状導体143,144は絶縁層123を介して向かい合うように配置されてなるものである。
・上記「エ.」、「オ.」の記載事項、及び図10によれば、第1のスパイラル状導体141の他端141bと第3のスパイラル状導体143の他端143bとはこれらスパイラル状導体141,143と同一層に形成された接続導体151によって直接接続されることにより、第1の端子電極101と第3の端子電極103との間にこれらスパイラル状導体141,143が直列接続され、同様に、第2のスパイラル状導体142の他端142bと第4のスパイラル状導体144の他端144bとはこれらスパイラル状導体142,144と同一層に形成された接続導体152によって直接接続されることにより、第2の端子電極102と第4の端子電極104との間にこれらスパイラル状導体142,144が直列接続されてなるものである。

したがって、特に図10に示される実施形態に係るものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「積層された複数の絶縁層と、
互いに異なる前記絶縁層に形成され、1層の絶縁層を介して向かい合うように配置されて互いに磁気結合する第1及び第2のスパイラル状導体によって構成される第1のフィルタ部と、
前記互いに異なる絶縁層に形成され、前記1層の絶縁層を介して向かい合うように配置されて互いに磁気結合する第3及び第4のスパイラル状導体によって構成される第2のフィルタ部と、
前記第1乃至第4のスパイラル状導体の一端にそれぞれ接続された第1乃至第4の端子電極とを備え、
前記第1のスパイラル状導体の他端と前記第3のスパイラル状導体の他端とはこれらスパイラル状導体と同一層に形成された接続導体によって直接接続されることにより、前記第1の端子電極と前記第3の端子電極との間にこれらスパイラル状導体が直列接続され、
前記第2のスパイラル状導体の他端と前記第4のスパイラル状導体の他端とはこれらスパイラル状導体と同一層に形成された接続導体によって直接接続されることにより、前記第2の端子電極と前記第4の端子電極との間にこれらスパイラル状導体が直列接続されてなる、コモンモードノイズを除去するためのコモンモードフィルタ。」

(2-2)引用例2
同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開平1-109811号公報(以下、「引用例2」という。)には、「ノイズフィルタ」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「〔発明が解決しようとする問題点〕
上述したノイズフィルタで、低域側のノイズをより強く除去しようとする場合、一般には、安全規格の点からコンデンサの容量が制限されているためこれを変えることは得策ではなく、コモンモード・チョークコイルのインダクタンス値を大きくして(自己インダクタンスL1、L1>L2)低域側の減衰特性を向上させる。しかし、コモンモード・チョークコイルのインダクタンス値を大きくするためには、コイルの巻数を増す必要があり、その結果、巻線間の分布容量が増加して高周波側のインダクタンスが低下してしまう。このときノイズフィルタの減衰特性は、第4図の曲線Bのようになり、低周波側では減衰特性が向上するものの、高周波側では劣化する。
逆に、ノイズフィルタの減衰特性を高周波側で向上させようとすると、コモンモード・チョークコイルの分布容量を小さくする必要があり、コイルの巻数を減らすか、または特殊な巻き方をしたコモンモード・チョークコイルを用いなければならない。そして、コイルの巻数を減らした場合は、インダクタンスが低下し、ノイズフィルタの低周波側の減衰特性が劣化することになり、また、特殊なコモンモード・チョークコイルを使用した場合にはコスト高となる。
すなわち、従来のノイズフィルタでは、広帯域でかつ高い減衰特性を容易に実現することは不可能である。
本発明の目的は、このような問題を解決し、広帯域の減衰特性を容易に実現するノイズフィルタを提供することにある。」(2頁左上欄5行?同頁右上欄15行)

イ.「第1図は本実施例を示す回路図である。図において、1,2はコモンモード・チョークコイル、3?6は容量が等しいコンデンサ(第3図に示したコンデンサと同じ容量を持つとする)、7?10は電源線に接続するノイズフィルタの信号線端子、そして11は接地線端子である。
なお、コモンモード・チョークコイル1,2の自己インダクタンスはここではそれぞれLl、L2(Ll>L2)とする。上述のようにLlは第3図に示したコモンモード・チョークコイル12の変更前の自己インダクタンスであり、L2は変更後の自己インダクタンスである。
コモンモード・チョークコイル1の一対の端子103、104とコモンモード・チョークコイル2の一対の端子201.202とをそれぞれ接続してこれらチョークコイルを従属接続する。
・・・・・(中 略)・・・・・
このような構成とすることにより、ノイズフィルタの信号線端子7.8と信号線端子9.10との間の減衰特性は第2図の曲線Cのようになる。すなわち、自己インダクタンスがLl、L2という2つのコモンモード・チョークコイルを従属接続したため、このノイズフィルタの減衰特性は、低域側ではコモンモード・チョークコイル1とコンデンサの組合せで第4図の曲線Bの低域側の減衰特性に、高域側では、コモンモード・チョークコイル2とコンデンサとの組合せで第4図の曲線Aの高域側の減衰特性に対応したものとなり、第2図の曲線Cで表される広帯域の減衰特性が実現されている。」(2頁左下欄16行?3頁左上欄15行)

ウ.「〔発明の効果〕
以上説明したように本発明によれば、自己インダクタンスの異なる2つのコモンモード・チョークコイルを従属接続してノイズフィルタを構成するため、特殊な巻き方をしたコモンモード・チョークコイルを使用することなく、広帯域でかつ高い減衰特性を備えたノイズフィルタを容易に実現できる。」(3頁左上欄17行?同頁右上欄3行)

・上記引用例2に記載の「ノイズフィルタ」は、上記「イ.」、「ウ.」の記載事項、及び第1図、第2図によれば、広帯域の減衰特性を実現するために、自己インダクタンスの異なる2つのコモンモード・チョークコイルを従属接続してなるノイズフィルタ、すなわちコモンモードノイズフィルタに関するものである。
・上記「ア.」?「ウ.」の記載事項によれば、自己インダクタンスの異なる2つのコモンモード・チョークコイルのうち、自己インダクタンスが大きい方のコモンモード・チョークコイルは低域側の減衰特性を向上させるためのものであり、自己インダクタンスを大きくするためにコイルの巻数を増やしたものであると理解することができ、逆に、自己インダクタンスが小さい方のコモンモード・チョークコイルは高域側の減衰特性を向上させるためのものであり、特殊な巻き方をしたコモンモード・チョークコイルを使用することなく高域側の減衰特性を向上させるためにコイルの巻数を減らしたものであると理解することができる。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例2には、次の技術事項が記載されている。
「コモンモードノイズフィルタにおいて、
広帯域の減衰特性を実現するために自己インダクタンスの異なる2つのコモンモード・チョークコイルとして、低域側の減衰特性を向上させるためにコイルの巻数を増やして自己インダクタンスを大きくしたコモンモード・チョークコイルと、高域側の減衰特性を向上させるためにコイルの巻数を減らして自己インダクタンスを小さくしたコモンモード・チョークコイルとを従属接続すること。」

(2-3)引用例3
同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-180073号公報(以下、「引用例3」という。)には、「フィルタ素子」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0007】
このような構造を有する素子のフィルタ特性は、巻線の巻回数やコアの構造などによって変化する。このため、所望のフィルタ特性を得るために2つの同じフィルタを連結して用いたり、異なる2種類のフィルタを連結して用いたりする方法が考えられる。図14は、2つのフィルタ31,32を接着材38によって連結した従来のフィルタ素子30の構造を模式的に示す側面図であり、プリント基板39上に搭載された状態を示している。」

イ.「【0013】
本発明において、前記連結部は、第1の巻芯部側に位置する第1の部分と、第2の巻芯部側に位置する第2の部分とを含んでおり、第1及び第2の部分が連結されていることが好ましい。これによれば、フィルタの組み合わせが任意となることから、種々の特性を有する様々なフィルタ素子を作製することが可能となる。この場合、第1の部分と第2の部分との間に磁気ギャップが設けられていることが好ましい。これによれば、2つのフィルタが互いに磁気結合しなくなることから、2つのフィルタの相互干渉を抑制することができる。」

ウ.「【0015】
本発明において、第1及び第2のコイルは第1のコモンモードフィルタを構成しており、第3及び第4のコイルは第2のコモンモードフィルタを構成していることが好ましい。このように2つのコモンモードフィルタを連結を低下させることなく、コモンモードノイズに対するインピーダンスを高めることが可能となる。このような効果は、連結部に磁気ギャップを設けたり、板状コアを連結部において分断した場合において顕著となる。」

エ.「【0035】
本実施形態においては、図4に示すように、第1の部分151と第2の部分152との間に非磁性材202を介在させることも可能である。このような非磁性材202を介在させれば、第1及び第2のコイル131,132からなる部分によって構成される第1のコモンモードフィルタと、第3及び第4のコイル133,134からなる部分によって構成される第2のコモンモードフィルタとの間に磁気ギャップが形成される。つまり、第1のコモンモードフィルタと第2のコモンモードフィルタとを、回路的に分離して考えることが可能となる。
【0036】
図5は、第1の部分151と第2の部分152との間に非磁性材202を介在させた例によるフィルタ素子200の等価回路図である。
【0037】
図5に示すフィルタ素子200は、第1及び第2のコイル131,132からなる部分によって構成される第1のコモンモードフィルタF1と、第3及び第4のコイル133,134からなる部分によって構成される第2のコモンモードフィルタF2を有しており、これら2つのコモンモードフィルタF1,F2が、第1及び第2の端子電極141,142と第3及び第4の端子電極143,144との間に直列接続された構成を有している。
【0038】
これら2つのコモンモードフィルタF1,F2は、いずれも単独でコモンモードフィルタとして機能する回路である。つまり、フィルタ素子200は、2つのコモンモードフィルタが内部で直列接続された構成を有していることになる。したがって、フィルタ素子200の共振特性は、図6に示すように、2つのLCR共振回路が直列接続された回路として考えればよい。」

・上記引用例3に記載の「フィルタ素子」は、上記「ア.」?「エ.」の記載事項、及び図4、図5等によれば、所望のフィルタ特性を得るために、2つの同じフィルタ、あるいは異なる2種類のフィルタを連結してなるものであり、例えば、第1及び第2のコイルからなる部分によって構成される第1のコモンモードフィルタと、第3及び第4のコイルからなる部分によって構成される第2のコモンモードフィルタを直列接続してなるものである。
・上記「イ.」?「エ.」の記載事項、及び図4、図5によれば、2つのコモンモードフィルタの間に磁気ギャップを設けるなどして当該2つのコモンモードフィルタが互いに磁気結合しなくなるようにし、相互干渉を抑制することができるものである。

したがって、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例3には、次の技術事項が記載されている。
「第1及び第2のコイルからなる部分によって構成される第1のコモンモードフィルタと、第3及び第4のコイルからなる部分によって構成される第2のコモンモードフィルタを直列接続してなるフィルタ素子において、
所望のフィルタ特性を得るために、2つのコモンモードフィルタの間に磁気ギャップを設けるなどして当該2つのコモンモードフィルタが互いに磁気結合しなくなるようにし、相互干渉を抑制するようにしたこと。」

(3)対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、
ア.引用発明における「積層された複数の絶縁層と、互いに異なる前記絶縁層に形成され、1層の絶縁層を介して向かい合うように配置されて互いに磁気結合する第1及び第2のスパイラル状導体によって構成される第1のフィルタ部と、前記互いに異なる絶縁層に形成され、前記1層の絶縁層を介して向かい合うように配置されて互いに磁気結合する第3及び第4のスパイラル状導体によって構成される第2のフィルタ部と」によれば、
(a)引用発明における「第1のスパイラル状導体」、「第2のスパイラル状導体」、「第3のスパイラル状導体」、「第4のスパイラル状導体」、「第1のフィルタ部」、「第2のフィルタ部」が、それぞれ本願補正発明における「第3のコイル導体」、「第1のコイル導体」、「第4のコイル導体」、「第2のコイル導体」、「第1のフィルタ部」、「第2のフィルタ部」に相当し、
(b)引用発明においても積層された複数の絶縁層により、本願補正発明でいう「積層体」が構成され、引用発明の第1?第4のスパイラル状導体はその積層体の内部に形成されているといえることは明らかであり、
(c)また、引用発明において、「第1のフィルタ部」を構成し、互いに磁気結合する第1及び第2のスパイラル状導体は、1層の絶縁層を介して向かい合うように配置されてなるものであるから、絶縁層の積層方向に隣り合うものであり、同様に、「第2のフィルタ部」を構成し、互いに磁気結合する第3及び第4のスパイラル状導体は、1層の絶縁層を介して向かい合うように配置されてなるものであるから、絶縁層の積層方向に隣り合うものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは、「積層体と、この積層体の内部に形成された第1?第4のコイル導体と」を備え、「積層方向に隣り合う前記第1のコイル導体と前記第3のコイル導体とで磁気結合する第1のフィルタ部を構成し、かつ積層方向に隣り合う前記第2のコイル導体と前記第4のコイル導体とで磁気結合する第2のフィルタ部を構成する」ようにしたものである点で一致する。

イ.引用発明における「前記第1乃至第4のスパイラル状導体の一端にそれぞれ接続された第1乃至第4の端子電極とを備え、前記第1のスパイラル状導体の他端と前記第3のスパイラル状導体の他端とはこれらスパイラル状導体と同一層に形成された接続導体によって直接接続されることにより、前記第1の端子電極と前記第3の端子電極との間にこれらスパイラル状導体が直列接続され、前記第2のスパイラル状導体の他端と前記第4のスパイラル状導体の他端とはこれらスパイラル状導体と同一層に形成された接続導体によって直接接続されることにより、前記第2の端子電極と前記第4の端子電極との間にこれらスパイラル状導体が直列接続されてなる・・」によれば、
引用発明の第1?第4のスパイラル状導体におけるそれぞれの「他端」は、本願補正発明でいう第1?第4のコイル導体におけるそれぞれの「一端部」に相当し、引用発明においても、第1のスパイラル状導体の他端と第3のスパイラル状導体の他端とは同じ絶縁層上、すなわち同一平面上で直接接続され、同様に、第2のスパイラル状導体の他端と第4のスパイラル状導体の他端とは同じ絶縁層上、すなわち同一平面上で直接接続されてなるものであるから、
本願補正発明と引用発明とは、「前記第1のコイル導体の一端部と前記第2のコイル導体の一端部とを同一平面上で直接接続し、かつ前記第3のコイル導体の一端部と前記第4のコイル導体の一端部とを同一平面上で直接接続する」ものである点で一致する。

ウ.そして、引用発明における、コモンモードノイズを除去するための「コモンモードフィルタ」は、本願補正発明における「コモンモードノイズフィルタ」に相当する。

よって、本願補正発明と引用発明とは、
「積層体と、この積層体の内部に形成された第1?第4のコイル導体とを備え、前記第1のコイル導体の一端部と前記第2のコイル導体の一端部とを同一平面上で直接接続し、かつ前記第3のコイル導体の一端部と前記第4のコイル導体の一端部とを同一平面上で直接接続するとともに、積層方向に隣り合う前記第1のコイル導体と前記第3のコイル導体とで磁気結合する第1のフィルタ部を構成し、かつ積層方向に隣り合う前記第2のコイル導体と前記第4のコイル導体とで磁気結合する第2のフィルタ部を構成するようにしたコモンモードノイズフィルタ。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

[相違点1]
本願補正発明では、「前記第1のフィルタ部と第2のフィルタ部の結合係数を-0.5?+0.5」とする旨特定するのに対し、引用発明では、そのような結合係数についての明確な特定を有していない点。

[相違点2]
本願補正発明では、「前記第1のフィルタ部を構成する前記第1のコイル導体、前記第3のコイル導体の巻数を、前記第2のフィルタ部を構成する前記第2のコイル導体、前記第4のコイル導体の巻数より少なくした」と特定するのに対し、引用発明では、そのような特定がない点。

(4)判断
まず先に上記[相違点2]について検討する。
引用例1の段落【0028】には「本実施形態においては、第1?第4のスパイラル状導体141?144の巻数はいずれも約3回である。もちろん、本発明において第1?第4のスパイラル状導体141?144の巻数はこれに限定されず、何回であっても構わない。但し、第1及び第2のスパイラル状導体141,142の対称性を保つためには、第1のスパイラル状導体141の巻数及び第2のスパイラル状導体142の巻数については同一とする必要がある。同様に、第3及び第4のスパイラル状導体143,144の対称性を保つためには、第3のスパイラル状導体143の巻数及び第4のスパイラル状導体144の巻数については同一とする必要がある。」と記載され、第1のフィルタ部を構成する第1のスパイラル状導体141の巻数と第2のスパイラル状導体142の巻数が同一であり、同様に、第2のフィルタ部を構成する第3のスパイラル状導体143の巻数と第4のスパイラル状導体144の巻数が同一でさえあれば、第1及び第2のスパイラル状導体141,142の巻数と、第3及び第4のスパイラル状導体143,144の巻数とが異なってもよいと解されるところ、引用例2には、コモンモードノイズフィルタにおいて、広帯域の減衰特性を実現するために自己インダクタンスの異なる2つのコモンモード・チョークコイルとして、低域側の減衰特性を向上させるためにコイルの巻数を増やして自己インダクタンスを大きくしたコモンモード・チョークコイルと、高域側の減衰特性を向上させるためにコイルの巻数を減らして自己インダクタンスを小さくしたコモンモード・チョークコイルとを従属接続すること、すなわち、一方のコモンモード・チョークコイル(フィルタ部)を構成するコイルの巻数を、他方のコモンモード・チョークコイル(フィルタ部)を構成するコイルの巻数より少なくすることにより、周波数特性の異なる2つのコモンモード・チョークコイル(フィルタ部)を従属(直列)接続するようにした技術事項が記載〔前記(2-2)を参照〕されており、引用発明においても、かかる技術事項を採用し、相違点2に係る構成とすることは当業者であれば容易になし得ることである。

次に上記[相違点1]について検討する。
引用例3に、第1及び第2のコイルからなる部分によって構成される第1のコモンモードフィルタと、第3及び第4のコイルからなる部分によって構成される第2のコモンモードフィルタを直列接続してなるフィルタ素子において、所望のフィルタ特性を得るために、2つのコモンモードフィルタの間に磁気ギャップを設けるなどして当該2つのコモンモードフィルタが互いに磁気結合しなくなるようにし、相互干渉を抑制するようにした技術事項〔前記(2-3)を参照〕が記載されているように、引用発明において、上述のように引用例2に記載の技術事項を採用した際にも、所望のフィルタ特性、すなわちフィルタ全体としての特性が、低域側の減衰特性を向上させるための一方のフィルタ部の特性と高域側の減衰特性を向上させるための他方のフィルタ部の特性のうちのどちらか一方側に偏りすぎることなく、双方の特性を利用して広帯域の減衰特性が得られるように、直列接続した一方のフィルタ部と他方のフィルタ部が例えば磁気結合しない(つまり、結合係数がゼロに近くなる)ようにし、相違点2に係る構成とすることは当業者であれば適宜なし得る設計的事項にすぎない。

そして、上記各相違点を総合的に判断しても本願補正発明が奏する効果は、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び引用例3に記載の技術事項から当業者が十分に予測できたものであって、格別顕著なものがあるとはいえない。

(5)むすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び引用例3に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成27年5月29日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年9月1日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
積層体と、この積層体の内部に形成された第1?第4のコイル導体とを備え、前記第1のコイル導体の一端部と前記第2のコイル導体の一端部とを接続し、かつ前記第3のコイル導体の一端部と前記第4のコイル導体の一端部とを接続するとともに、積層方向に隣り合う前記第1のコイル導体と前記第3のコイル導体とで磁気結合する第1のフィルタ部を構成し、かつ積層方向に隣り合う前記第2のコイル導体と前記第4のコイル導体とで磁気結合する第2のフィルタ部を構成するようにし、さらに、前記第1のフィルタ部と第2のフィルタ部の結合係数を-0.5?+0.5とし、かつ前記第1のフィルタ部を構成する前記第1のコイル導体、前記第3のコイル導体の巻数を、前記第2のフィルタ部を構成する前記第2のコイル導体、前記第4のコイル導体の巻数より少なくしたコモンモードノイズフィルタ。」

(1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は、前記「2.(2)」に記載したとおりである。

(2)対比・判断
本願発明は、前記「2.」で検討した本願補正発明の発明特定事項である「第1?第4のコイル導体」について、第1のコイル導体の一端部と第2のコイル導体の一端部との接続、及び第3のコイル導体の一端部と第4のコイル導体の一端部との接続がそれぞれ「同一平面上で直接」なされる旨の限定を省いたものに相当する。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の限定事項を付加したものに相当する本願補正発明が前記「2.(4)」に記載したとおり、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び引用例3に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用例2に記載の技術事項及び引用例3に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-01 
結審通知日 2016-04-05 
審決日 2016-04-18 
出願番号 特願2011-56130(P2011-56130)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01F)
P 1 8・ 575- Z (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 久保田 昌晴  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 関谷 隆一
井上 信一
発明の名称 コモンモードノイズフィルタ  
代理人 前田 浩夫  
代理人 藤井 兼太郎  
代理人 鎌田 健司  

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