• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04N
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H04N
管理番号 1315615
審判番号 不服2015-11996  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-07-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-24 
確定日 2016-06-28 
事件の表示 特願2014-500994「動きベクトル予測子の選択方法及び動きベクトル予測子の選択方法を利用する装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月27日国際公開,WO2012/128540,平成26年 6月19日国内公表,特表2014-514811,請求項の数(6)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 経緯

1 手続
本願は,2012年(平成24年)3月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2011年3月21日 米国,2011年3月22日 米国)を国際出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 5月22日 :手続補正
平成26年10月 9日付け:拒絶理由の通知
平成27年 1月21日 :手続補正
平成27年 2月17日付け:拒絶査定
平成27年 2月24日 :拒絶査定の謄本の送達
平成27年 6月24日 :拒絶査定不服審判の請求
平成27年 6月24日 :手続補正
平成27年 7月16日付け:前置報告
平成27年 9月17日 :上申書の提出

2 原査定の理由の概要
原査定の理由は,概略,以下のとおりである。

本願の請求項1ないし4に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(引用例1に開示された発明)であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。
また,本願の請求項1ないし7に係る発明は,その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(引用例1に開示された発明)に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
なお,原査定には,周知例を示すものとして,引用例2が示されている。



引用例1:Jian-Liang Lin et al.,Improved Advanced Motion Vector Prediction,Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11,4th Meeting: Daegu, KR,2011年1月,JCTVC-D125_r2,pp.1-8

引用例2:Test Model under Consideration Output Document (draft007),Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11,2nd Meeting: Geneva, CH,2010年10月,JCTVC-B205_draft007,pp.1-6, 83-89

また,平成27年7月16日付けの前置報告において,下記の引用例も引用されている。



引用例3:Akira Fujibayashi and Frank Bossen,CE9 3.2d Simplified Motion vector prediction,Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11,4th Meeting: Daegu, Korea,2011年1月,JCTVC-D231,pp.1-5

引用例4:Joonyoung Park et al.,Improvements on median motion vectors of AMVP,Joint Collaborative Team on Video Coding (JCT-VC) of ITU-T SG16 WP3 and ISO/IEC JTC1/SC29/WG11,4th Meeting: Daegu, KR,2011年1月,JCTVC-D095,pp.1-5

第2 平成27年6月24日付けの手続補正について

1 補正の内容
平成平成27年6月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は,本件補正前の請求項5を削除し,本件補正前の請求項6,7を請求項5,6に繰り上げるとともに,以下に示す本件補正前の請求項1,3の記載を,後掲の補正後の請求項1,3の記載とするものである(下線は,審判請求人が示した補正箇所である。)。

(補正前)
「【請求項1】
現在ブロックに対する動きベクトル予測子を選択するため複数の周辺ブロックを選択するステップと,
前記複数の周辺ブロックの何れか一つが,前記現在ブロックの参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,前記現在ブロックの参照ピクチャリストと同じ参照ピクチャリストと,を有するという第1の条件を満たすか否かを決定するステップと,
前記複数の周辺ブロックの何れか一つが,前記現在ブロックの参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,前記現在ブロックの参照ピクチャリストと異なる参照ピクチャリストと,を有するという第2の条件を満たすか否かを決定するステップと,
前記複数の周辺ブロックのうち前記第1の条件又は前記第2の条件を満たすブロックとして検索されたブロックを,使用可能な候補ブロックの1つとして設定するステップと,
前記現在ブロックに対する動きベクトル予測子の候補として前記使用可能な候補ブロックの動きベクトルを設定するステップと,
前記動きベクトル予測子の候補の中から前記現在ブロックに対する動きベクトル予測子を選択するステップと,を有する,映像のデコーディング方法。」
「【請求項3】
前記第3の条件又は前記第4の条件を満たす前記候補ブロックの動きベクトルを,スケーリングするステップをさらに有する,請求項2に記載の方法。」

(補正後)
「【請求項1】
現在ブロックに対する動きベクトル予測子を選択するため複数の周辺ブロックを選択するステップと,
前記複数の周辺ブロックの何れか一つが,前記現在ブロックの参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,前記現在ブロックの参照ピクチャリストと同じ参照ピクチャリストと,を有するという第1の条件を満たすか否かを決定するステップと,
前記複数の周辺ブロックの何れか一つが,前記現在ブロックの参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,前記現在ブロックの参照ピクチャリストと異なる参照ピクチャリストと,を有するという第2の条件を満たすか否かを決定するステップと,
前記複数の周辺ブロックのうち前記第1の条件又は前記第2の条件を満たすブロックとして検索されたブロックを,使用可能な候補ブロックの1つとして設定するステップと,
前記現在ブロックに対する動きベクトル予測子の候補として前記使用可能な候補ブロックの動きベクトルを設定するステップと,
前記動きベクトル予測子の候補の中から前記現在ブロックに対する動きベクトル予測子を選択するステップと,を有し,
前記周辺ブロックは,前記現在ブロックに隣接する左側周辺ブロックおよび左下側周辺ブロックを第1の候補グループとして有し,
前記左下側周辺ブロックが前記第1の条件および前記第2の条件の両方を満たさない場合,前記左側周辺ブロックが前記第1の条件または前記第2の条件を満たすか否かを決定する,映像のデコーディング方法。」
「【請求項3】
前記第3の条件又は前記第4の条件を満たす前記候補ブロックの動きベクトルを,スケーリングするステップをさらに有し,
前記スケーリングは,Clip3(-4096,4095,(tb*tx+32)>>6)と等しいDistScaleFactorに基づいて行われ,このとき,
tx=(16384+(Abs(td)/2))/td,
tbは,前記現在ブロックの参照ピクチャと現在ピクチャとの間の距離であり,
tdは,前記候補ブロックの参照ピクチャと前記現在ピクチャとの間の距離である,請求項2に記載の方法。」

2 新規事項の有無,補正の目的要件等について
本件補正は,本件補正前の請求項5を削除し,本件補正前の請求項6,7を請求項5,6に繰り上げるとともに,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内において,以下の補正事項により,特許請求の範囲を減縮しようとするものであり,かつ,補正前の発明と補正後の発明とは,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。

・請求項1において,「複数の周辺ブロックの何れか一つが」,「第1の条件」又は「第2の条件」を「満たすか否か」の「決定」について,「前記周辺ブロックは,前記現在ブロックに隣接する左側周辺ブロックおよび左下側周辺ブロックを第1の候補グループとして有し,前記左下側周辺ブロックが前記第1の条件および前記第2の条件の両方を満たさない場合,前記左側周辺ブロックが前記第1の条件または前記第2の条件を満たすか否かを決定する」ことを限定する補正事項

・請求項3において,「候補ブロックの動きベクトル」の「スケーリング」について,「Clip3(-4096,4095,(tb*tx+32)>>6)と等しいDistScaleFactorに基づいて行われ」,「このとき,tx=(16384+(Abs(td)/2))/td,tbは,前記現在ブロックの参照ピクチャと現在ピクチャとの間の距離であり,tdは,前記候補ブロックの参照ピクチャと前記現在ピクチャとの間の距離である」ことを限定する補正事項

したがって,本件補正は,特許法第17条の2第3項(新規事項)並びに同法第17条の2第5項第1号及び第2号(補正の目的)の規定に適合している。また,特許法第17条の2第4項(シフト補正)の規定に違反するところもない。

3 独立特許要件について
本件補正は,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであるから,補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か)について,以下に検討する。

(1)補正後発明1
本件補正後の請求項1に係る発明は,平成27年6月24日付けの手続補正書により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項に基づき特定される,以下のとおりの発明(以下「補正後発明1」という。)であると認める。なお,次のように,当審において,(A)から(F)までの記号を説明のために付与した。以下,構成要件(A),構成要件(B)などと称することとする。

(A) 現在ブロックに対する動きベクトル予測子を選択するため複数の周辺ブロックを選択するステップと,
(B-1) 前記複数の周辺ブロックの何れか一つが,前記現在ブロックの参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,前記現在ブロックの参照ピクチャリストと同じ参照ピクチャリストと,を有するという第1の条件を満たすか否かを決定するステップと,
(B-2) 前記複数の周辺ブロックの何れか一つが,前記現在ブロックの参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,前記現在ブロックの参照ピクチャリストと異なる参照ピクチャリストと,を有するという第2の条件を満たすか否かを決定するステップと,
(B-3) 前記複数の周辺ブロックのうち前記第1の条件又は前記第2の条件を満たすブロックとして検索されたブロックを,使用可能な候補ブロックの1つとして設定するステップと,
(B-4) 前記現在ブロックに対する動きベクトル予測子の候補として前記使用可能な候補ブロックの動きベクトルを設定するステップと,
(C) 前記動きベクトル予測子の候補の中から前記現在ブロックに対する動きベクトル予測子を選択するステップと,を有し,
(D) 前記周辺ブロックは,前記現在ブロックに隣接する左側周辺ブロックおよび左下側周辺ブロックを第1の候補グループとして有し,
(E) 前記左下側周辺ブロックが前記第1の条件および前記第2の条件の両方を満たさない場合,前記左側周辺ブロックが前記第1の条件または前記第2の条件を満たすか否かを決定する,
(F)映像のデコーディング方法。

(2)引用例1の記載及び引用発明
(2-1)引用例1の記載
上記引用例1には,「Improved Advanced Motion Vector Prediction」(邦訳:改良された拡張動きベクトル予測)として,図面とともに以下の事項が記載されている。なお,邦訳は当審において付記したものである。

ア 「1 Introduction
In JCTVC-A124 [1], AMVP is proposed to encode the motion vector predictor by utilizing a competition-based scheme from a given candidate set of motion vector predictors. The candidate set is composed of three spatial MVP candidates, median of the three spatial MVP candidates, and one temporal MVP candidate.(中略)
In this proposal, we present a set of surrounding-based MVP candidates to improve the AMVP. (後略)」
(邦訳)
「1 イントロダクション
JCTVC-A124[1]では,動きベクトル予測子の与えられた候補セットに対し,競合ベースのスキームを利用することにより,動きベクトル予測子を符号化することに関し,AMVPが提案されている。
候補セットは,三つの空間MVP候補,三つの空間MVP候補のメジアン,及び一つの時間MVP候補からなる。(中略)
この提案において,我々は,AMVPを改良するために,周辺ベースのMVP候補のセットを提示する。(後略)」

イ 「2.1 Improvement of the MVP candidate set
In the AMVP of TMuC, three spatial MVP candidates, a median MVP candidate derived from the three spatial MVP candidates, and one temporal MVP candidate are included in the candidate set. The five MVP candidates are denoted as
- M (median of A’, B’, and C’)
- A’ (the first available MV from the blocks on the left side)
- B’ (the first available MV from the blocks on the above side)
- C’ (the first available MV from the three neighboring corner blocks, C, E, and D)
- T (the MV from the co-located block)
The four spatial MVP candidates are all chosen from the neighboring blocks on the above and left sides. Even the temporal MVP candidate is chosen from the above left corner relative to the current PU. In order to introduce MVP candidates from the below and right sides, three temporal MVP candidates from the below, right, and below right neighboring corner blocks (G, F, and H) of a co-located picture are added in the candidate set as shown in Figure 1.

Figure 1 The candidate set of the IAMVP.」
(邦訳)
「2.1 MVP候補セットの改良
TMuCのAMVPにおいて,三つの空間MVP候補,三つの空間MVP候補から導出されるメジアンMVP,及び一つの時間MVP候補が,候補セットに含まれる。五つのMVP候補は以下のように示される。
-M(A’,B’,及びC’のメジアン)
-A’(左側のブロックにおける第1の使用可能なMV)
-B’(上側のブロックにおける第1の使用可能なMV)
-C’(三つの隣接コーナーのブロックC,E,及びDにおける第1の使用可能なMV)
-T(対応ブロックにおけるMV)
四つの空間MVP候補は,全て上側及び左側の隣接ブロックから選択される。一方,時間MVP候補は,現在PUに対する左上のコーナーから選択される。さらに,図1に示されるように,下側及び右側からのMVP候補を導入するために,対応ピクチャの下,右,及び右下の隣接コーナーのブロック(G,F,及びH)からの三つの時間MVP候補が,候補セットに加えられる。
図1 IAMVPの候補セット」

ウ 「2.3 Improvement of spatial MVP candidates
A priority-based scheme is applied for deriving each spatial MVP candidate. In the AMVP of TMuC, only the MV with the same reference list and the same reference picture index is considered as an available spatial MVP candidate. In the proposed priority-based scheme, a spatial MVP candidate can be derived from different list and different reference picture. (中略)
Figure 3 shows another example of a B-slice with two reference pictures per list (pictures j and i for list 0, pictures m and j for list 1). The current list is list 0, and the current reference picture is j. The dotted purple arrow, the dotted red arrow, the dotted green arrow, and the dotted blue arrow denote the possible list 0 MV for picture j, the possible list 0 MV for picture i, the possible list 1 MV for picture m, and the possible list 1 MV for picture j, respectively. The solid arrows denote the scaled MVs of the four possible MVs to the current reference picture, j. The scaling factors are based on relative temporal distances. The numbers denote the priorities of scaled MVs for deriving the spatial MVP candidate. The general rule is stated as follows. There is one (list 0) or two MVs (list 0 and list 1) in a neighboring block. The MV of the neighboring block with the reference picture same as the current reference picture is used as the spatial MVP candidate. When the two MVs of the neighboring block both have the reference picture same as the current reference picture, the one with the list same as the current list is used as the spatial MVP candidate. When the two MVs of the neighboring block both have reference pictures different from the current reference picture, the one with the list same as the current list is scaled and then used as the spatial MVP candidate.

Figure 3 Example of deriving a spatial MVP candidate for a B-slice with multiple reference pictures per list.」
(邦訳)
「2.3 空間MVP候補についての改良

各空間MVP候補の抽出について,優先度ベースのスキームが適用される。TMuCのAMVPにおいては,同じ参照リスト,及び同じ参照ピクチャ・インデックスを有するMVだけが,使用可能な空間MVP候補として考慮される。提案される優先度ベースのスキームにおいて,空間MVP候補は,リストが異なり,及び参照ピクチャが異なるものからも,空間MVP候補が導出され得る。(中略)

図3は,リストごとに二つの参照ピクチャ(リスト0に対してピクチャj及びi,リスト1に対してピクチャm及びj)を有するB-スライスに関し,他の実施例を示している。現在リストはリスト0であり,現在参照ピクチャはjである。紫の破線矢印,赤の破線矢印,緑の破線矢印,及び青の破線矢印は,それぞれ,ピクチャjについて可能性のあるリスト0のMV,ピクチャiについて可能性のあるリスト0のMV,ピクチャmについて可能性のあるリスト1のMV,及びピクチャjについて可能性のあるリスト1のMVを示す。実線矢印は,現在参照ピクチャjへの可能性のある四つのMVである,スケーリング処理後のMVを示す。スケーリングファクタは,相対的な時間的距離に基づく。数字は,空間MVP候補を導出するための,スケーリング処理後のMVについての優先度を示す。一般的なルールは,以下のとおりである。ある隣接ブロックには,一つのMV(リスト0)又は二つのMV(リスト0及びリスト1)が存在する。現在参照ピクチャと同じ参照ピクチャを有する,隣接ブロックのMVが,空間MVPの候補として用いられる。隣接ブロックの二つのMVが,共に現在参照ピクチャと同じ参照ピクチャを有するときは,現在リストと同じリストを有するものが,空間MVP候補として用いられる。隣接ブロックの二つのMVが,共に現在参照ピクチャと異なる参照ピクチャを有するときは,現在リストと同じリストを有するものが,空間MVP候補として用いられる。

図3 リストごとに複数の参照ピクチャを有するB-スライスについての空間MVP候補の導出例」

(2-2)引用発明
上記(2-1)の摘記事項アないしウ及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると,引用例1には,以下のことが開示されている。

a)空間MVP候補を選択するブロックについて

・動きベクトルの符号化に当たり,MVP候補を抽出する方法であって,現在ブロックに対する空間MVP(動きベクトル予測子)候補が複数の隣接ブロックから選択されること(上記ア,イ及び図1)。

・前記複数の隣接ブロックとして,左側の複数のブロック,上側の複数のブロック,及びコーナーの複数のブロックが用いられること(上記ア,イ及び図1)。

・隣接ブロックのグループとして,前記左側の複数のブロックで構成されるグループ,前記上側の複数のブロックで構成されるグループ,前記コーナーの複数のブロックで構成されるグループとがあること(上記イ及び図1,3)。

b)空間MVP候補を抽出する条件について

・空間候補MVPの抽出に当たり,ある隣接ブロックが,現在参照ピクチャと同じ参照ピクチャを有し,現在リストと同じリストを有する,という条件を,最も優先度の高いもの(図3において番号1で示されているもの)とすること(上記ウ及び図3)。

・また,ある隣接ブロックが,現在参照ピクチャと同じ参照ピクチャを有し,現在リストと異なる参照リストを有する,という条件を,次に優先度の高いもの(図3において番号2で示されているもの)とすること(上記ウ及び図3)。

・さらに,ある隣接ブロックが,現在参照ピクチャと異なる参照ピクチャを有し,現在リストと同じ参照リストを有する,という条件を,優先度が三番目のもの(図3において番号3で示されているもの)とし,また,ある隣接ブロックが,現在参照ピクチャと異なる参照ピクチャを有し,現在リストと異なる参照リストを有する,という条件を,優先度が四番目のもの(図3において番号4で示されているもの)として想定していること(上記ウ及び図3)。

c)空間MVP候補を抽出する一般的なルールについて

・ある隣接ブロックが,少なくとも,現在参照ピクチャと同じ参照ピクチャを有するときには,その隣接ブロックのMV(動きベクトル)が,空間MVP候補として用いられること(上記ウ及び図3)。

以上によれば,引用例1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が開示されている。なお,以下のとおり,当審において,(a)ないし(d)の記号を説明のために付与した。以下,構成要件a,構成要件bなどと称することとする。

(引用発明)
(a) 現在ブロックに対する動きベクトル予測子を選択するため,複数の隣接ブロックを用い,
(b) 動きベクトル予測子を抽出するために想定された四つの条件のうち,
少なくとも,ある隣接ブロックが,現在参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,現在リストと同じリストを有するという最も優先度の高い条件か,
ある隣接ブロックが,現在参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,現在リストと異なるリストを有するという次に優先度の高い条件を満たすときには,
その隣接ブロックの動きベクトルを,動きベクトル予測子の候補とし,
(c) 前記隣接ブロックは,前記現在ブロックに隣接する左側のブロックを一つのグループとしている,
(d) 映像の符号化のために動きベクトル予測子を選択する方法。

(3)引用例2の記載及び技術事項
(3-1)引用例2の記載
上記引用例2には,「Test Model under Consideration」(邦訳:検討中のテストモデル)として,図面とともに以下の事項が記載されている。なお,邦訳は当審において付記したものである。

「6.3.1.4.2 Derivation process for motion vector predictor candidates
Inputs to this process are
- the prediction unit partition index puPartIdx,
- the reference index of the current prediction unit partition refIdxLX (with X being 0 or 1),
Outputs of this process are (with N being replaced by A, B, or C)
- the motion vectors mvLXN of the neighbouring partitions,
- the availability flags availableFlagLXN of the neighbouring partitions.

Fig. 6-1 Spatial motion vector neighbours

The motion vector mvLXA and the availability flag availableFlagLXA are derived in the following ordered steps:(中略)
The motion vector mvLXB and the availability flag availableFlagLXB are derived in the following ordered steps:(中略)
The motion vector mvLXC are derived in the following ordered steps:
3. The derivation process for neighbouring partitions in subclause 4.3.4.4 is invoked with lcuAddr, puIdx and puPartIdx as input and the output is is assigned to lcuAddrN, puIdxN and puPartIdxN with N being replaced by C, D or E.(後略)」
(邦訳)
「6.3.1.4.2 動きベクトル予測子の候補の導出プロセス
このプロセスに対するインプットは,
-予測ユニット・パーティション・インデックス puPartIdx,
-現在予測ユニット・パーティションの参照インデックス refldxLX(ここで,Xは,0又は1。)であり,
このプロセスに対するアウトプット(ここで,Nは,A,B,又はCに置き換えられる。)は,
-隣接パーティションの動きベクトル mvLXN,
-隣接パーティションの有効性フラグ availableFlagLXN
である。

図6-1 隣接領域における空間動きベクトル

動きベクトルmvLXA及び有効性フラグavailableFlagLXAは,以下の手順により導き出される。(中略)
動きベクトルmvLXB及び有効性フラグavailableFlagLXBは,以下の手順により導き出される。(中略)
動きベクトルmvLXCは,以下の手順により導き出される。
3. 上記4.3.4.4項における,隣接パーティションに係る導出プロセスは,インプットとして,lcuAddr,puIdx及びpuPartIdxを用いて援用される。そして,アウトプットは,lcuAddrN,puIdxN及びpuPartIdxNとされ,ここで,Nは,C,D又はEに置き換えられる。」

(3-2)引用例2記載の技術事項
上記(3-1)の摘記事項及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると,引用例2には,以下の技術事項が開示されている。

「隣接ブロックのうち,左側のグループ,上側のグループ及びコーナーのグループから,動きベクトル予測子の候補を選択すること」

(4)引用例3の記載及び技術事項
(4-1)引用例3の記載
上記引用例3には,「CE9 3.2d Simplified Motion vector prediction」(邦訳:CE9 3.2d 単純化された動きベクトル予測子)として,図面とともに以下の事項が記載されている。なお,邦訳は当審において付記したものである。

「2.3 Changing the selection manner of left/top predictor
Addition to two modifications described above, the selection manner of PMV candidates is modified. The number of PMV candidates is changed to be formed from up to three motion vector predictors: a left, a top and a collocated predictor.
The process of getting a left and a top predictor is modified like Figure 1.

Figure 1: Search directions and range for left and top predictor

For the left predictor, the first available motion vector is searched from the group of neighboring blocks left of the current block. For this group, block “I” is also included addition to the conventional group of neighboring blocks (F, G, H). A motion vector (MV) is considered available if the vector exists and the reference frame index of the searched block is identical to the reference index of the current block. The search is performed from bottom to top that is inverse order to conventional manner, and only the first available predictor is added to the list of candidates.
The top predictor is derived in a similar fashion but block A,B,C,D and E are listed to neighboring blocks top of the current block . The search order to the group of top neighboring blocks is also reversed to be performed from right to left. If a MV is found and the MV is identical to the left predictor, it is not considered as available and the search is continued.
The third predictor is derived from the collocated block as conventional and the list of predictors is then decimated by removing duplicate predictors.
Unlike to conventional manner, block A,E and I are grouped as a one of left or top neighboring blocks and are not independently considered as a corner predictor. Therefore, maximum number of motion vector predictor is reduced to be three. (後略)」
(邦訳)
「2.3 左/上側予測子の選択方法の変更

上述のように,二つの修正を加え,PMV候補の選択方法が修正される。PMV候補の数については,動きベクトル予測子が最大三つ(左側,上側,及び対応箇所)まで生成されるように,変更される。

左側の予測子,及び上側の予測子を得る方法は,図1のように修正される。

図1 左側の予測子,及び上側の予測子を探索する方向及び範囲

左側の予測子に関し,第一の使用可能な動きベクトルが,現在ブロックの左にある隣接ブロックのグループにおいて探索される。このグループに関し,隣接ブロックの従来のグループ(F,G,H)に加え,ブロック“I”が含められている。動きベクトルは,もし,ベクトルが存在し,かつ,探索されているブロックにおける参照フレームのインデックスが,現在ブロックにおける参照フレームのインデックスと同じであれば,使用可能とみなされる。探索は,従来の方法とは逆に,下から上に向かって実行され,第一の使用可能な予測子だけが,候補のリストに加えられる。

上側の予測子は,同様に導き出されるが,現在ブロックの上側の隣接ブロックとしては,A,B,C,D及びEがリストされる。上側の隣接ブロックのグループに対する探索手順も逆転され,右から左へと探索が実行される。もし,MVが見つかり,そのMVが左側の予測子と同じであれば,それは使用可能であるとはみなされず,探索は続けられる。

第三の予測子は,従来どおり,対応箇所のブロックから導出される。そして,予測子のリストは,重複する予測子を除くことで,縮小される。

従来の方法とは異なり,ブロックA,E及びIは,左側又は上側の隣接ブロックの一つとしてグループ化され,コーナーの予測子として,独立したものとはみなされない。それゆえ,動きベクトル予測子の最大数は,三に減少する。(後略)」

(4-2)引用例3記載の技術事項
上記(4-1)の摘記事項及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると,引用例3には,以下のa)及びb)の点が開示されている。

a) 動きベクトル予測子の候補の探索に用いられる,現在ブロックの左にある隣接ブロックのグループが,左側周辺のブロックだけでなく,左下側周辺のブロック(図1のブロックI)を含むこと。
b) 当該グループにおける探索が,当該左下側周辺のブロックから上のブロックに向かって実行されること。

以上によれば,引用例3には,次の技術事項1,2が開示されている。
(技術事項1)
「動きベクトル予測子の候補の探索に用いられる,左側の隣接ブロックのグループが,左下側周辺のブロックを有していること。」
(技術事項2)
「左側の隣接ブロックのグループの探索が,まず左下側周辺のブロックについて実行され,その後,左側周辺のブロックについて実行されること。」

(5)引用例4の記載及び技術事項
(5-1)引用例4の記載
上記引用例4には,「Improvements on median motion vectors of AMVP」(邦訳:ANVPにおけるメジアン・動きベクトルの改良)として,図面とともに以下の事項が記載されている。なお,邦訳は当審において付記したものである。

「1 Introduction
For the current HEVC Test Model (HM), AMVP is adopted as a method of motion vector prediction [1]. In AMVP, The motion vector predictor list, mvpListLX, is constructed of elements which are followed as {mvLXMed, mvLXA, mvLXB, mvLXC, mvLXCol}. mvLXMed is calculated from the motion vectors mvLXN and the availability flags availableFlagLXN with N being replaced by A, B, or C.


Figure 1. spatial motion vector neighbours

The motion vector mvLXN and the availability flag availableFlagLXN are derived in the following steps (with N being replaced by A, B, or C).(中略)

2 Proposed algorithm
We propose some additional process for obtaining three spatial motion vectors mvLXN (with N being replaced by A, B, or C), which are used in the calculation of a median vector. In the proposed method, it is scanned and checked if there is a neighboring MV which satisfies each following condition in order.
1. same reference picture and same reference list (with those of current prediction unit)
2. same reference picture and different reference list
3. different reference picture and same reference list
4. different reference picture and different reference list
The first available MV is chosen in the above process. And then, the chosen MV is scaled by a factor of (tb / td), and inverted if its prediction direction is different from that of current MV, as figure 2 shows.

Figure 2. The example for MV scaling

The condition 1 represents original AMVP method. And the condition 2, 3, and 4 are added parts in this proposal.
The three spatial motion vectors, obtained by the above proposed method, are used only to calculate a median vector. Other MVP candidates are derived as AMVP does.」
(邦訳)
「1 イントロダクション

現在のHEVCテストモデル(HM)では,動きベクトル予測の方法としてAMVPが用いられている。AMVPでは,動きベクトル予測子のリストmvpListLXが,以下の{mvLXMed,mvLXA,mvLXB,mvLXC,mvLXCol}という要素から構成される。mvLXMedは,動きベクトルmvLXN,及び有効性フラグavailableFlagLXNから算出される。ここで,Nは,A,B,又はCに置き換えられる。

図1 隣接領域における空間動きベクトル

動きベクトルmvLXN及び有効性フラグabailableFlagLXNは,以下のステップにより導き出される(ここで,Nは,A,B,又はCに置き換えられる。)。(中略)

2 提案するアルゴリズム
我々は,メジアン・ベクトルを算出するために用いられる,三つの空間動きベクトルmvLXN(ここで,Nは,A,B,又はCに置き換えられる。)を得るための,追加的なプロセスを提案する。提案する方法においては,以下の条件を満たす隣接MVがあるか否かについて,順に,探索,検証される。
1.参照ピクチャが同じで,かつ,参照リストも同じ(現在予測ユニットにおける参照リストに対して)。
2.参照ピクチャが同じで,かつ,参照リストが異なる。
3.参照ピクチャが異なり,かつ,参照リストが同じ。
4.参照ピクチャが異なり,かつ,参照リストが異なる。

第一の使用可能なMVは,上記のプロセスにより選択される。そして,選択されたMVは,ファクターtb/tdによりスケーリングされ,図2に示すように,その予測方向は,現在MVの予測方向と異なって場合に,逆にされる。

図2 MVスケーリングの例

条件1は,オリジナルのAMVPの手法に該当する。そして,条件2,3及び4は,本提案において,付加された部分である。上記の提案された方法で得られた,三つの空間動きベクトルは,メジアン・ベクトルを算出するためにのみ用いられる。他のMVP候補は,AMVPでなされているのと同様にして,導出される。」

(5-2)引用例4記載の技術事項
上記(5-1)の摘記事項及び関連する図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると,引用例4には,以下の技術事項が開示されている。

「動きベクトル予測子の導出にあたり,隣接MV(隣接するブロックの動きベクトル)が,現在ブロックに対し,以下の条件を満たすか否かが順に探索されること。
(i)参照ピクチャが同じで,かつ,参照リストも同じ。
(ii)参照ピクチャが同じで,かつ,参照リストが異なる。
(iii)参照ピクチャが異なり,かつ,参照リストが同じ。
(iv)参照ピクチャが異なり,かつ,参照リストも異なる。」

(6)対比
補正後発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明における「隣接ブロック」,「ある隣接ブロック」,「現在参照ピクチャ」,「現在リスト」,「リスト」,「左側のブロック」が,それぞれ,補正後発明1の「周辺ブロック」,「複数の周辺ブロックの何れか一つ」,「現在ブロックの参照ピクチャ」,「現在ブロックの参照ピクチャリスト」,「参照ピクチャリスト」,「左側周辺ブロック」に相当することは,明らかである。

イ 構成要件Aと構成要件aとの対比
引用発明において,動きベクトル予測子を選択するため,複数の隣接ブロックを「用い」るということは,その前提として,当該隣接ブロックの選択がなされることになるから,引用発明は,当該隣接ブロックを「選択するステップ」を備えているといえる。
そうすると,引用発明の構成要件aは,補正後発明1の構成要件Aに相当する。

ウ 構成要件B-1ないしB-4と構成要件bとの対比
(ア) 引用発明における「最も優先度の高い条件」,「次に優先度の高い条件」を,それぞれ,「第1の条件」,「第2の条件」と称することは任意である。

(イ) 上記ア及びウ(ア)を踏まえると,引用発明における「ある隣接ブロックが,現在参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,現在リストと同じリストを有するという最も優先度の高い条件」は,補正後発明1の構成要件B-1における「前記複数の周辺ブロックの何れか一つが,前記現在ブロックの参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,前記現在ブロックの参照ピクチャリストと同じ参照ピクチャリストと,を有するという第1の条件」に相当する。
また,上記ア及び上記ウ(ア)を踏まえると,引用発明における「ある隣接ブロックが,現在参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,現在リストと異なるリストを有するという次に優先度の高い条件」は,補正後発明1の構成要件B-2における「前記複数の周辺ブロックの何れか一つが,前記現在ブロックの参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,前記現在ブロックの参照ピクチャリストと異なる参照ピクチャリストと,を有するという第2の条件」に相当する。

(ウ) 引用発明における,「動きベクトル予測子を抽出するために想定された四つの条件のうち,少なくとも」,最も優先度の高い条件か,次に優先度の高い条件「を満たすときには,」その隣接ブロックの動きベクトルを,動きベクトル予測子の候補とすることについてみると,これらの二つの条件のいずれかが満たされることを決定しなければならないのであるから,引用発明は,当該最も優先度の高い条件「を満たすか否かを決定するステップと」,及び当該次に優先度の高い条件「を満たすか否かを決定するステップと」を有しているということができる。

(エ) 上記ア及びウ(ア)を踏まえると,引用発明における,最も優先度の高い条件か,次に優先度の高い条件を満たす「その隣接ブロック」の動きベクトルは,「前記複数の周辺ブロックのうち前記第1の条件又は前記第2の条件を満たすブロックとして検索されたブロック」の動きベクトルということができる。
また,引用発明における,当該隣接ブロック「の動きベクトルを,動きベクトル予測子の候補と」することは,「現在ブロックに対する動きベクトルの予測子として」,その「動きベクトルを設定するステップ」といえる。

(オ) 以上によれば,引用発明の構成要件bと,補正後発明の構成要件B-1ないしB-4とは,「前記複数の周辺ブロックの何れか一つが,前記現在ブロックの参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,前記現在ブロックの参照ピクチャリストと同じ参照ピクチャリストと,を有するという第1の条件を満たすか否かを決定するステップと,
前記複数の周辺ブロックの何れか一つが,前記現在ブロックの参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,前記現在ブロックの参照ピクチャリストと異なる参照ピクチャリストと,を有するという第2の条件を満たすか否かを決定するステップと,
前記複数の周辺ブロックのうち前記第1の条件又は前記第2の条件を満たすブロックとして検索されたブロックの動きベクトルを,前記現在ブロックに対する動きベクトル予測子の候補として設定するステップと」を有する点で共通する。
しかしながら,条件を満たすブロックの動きベクトルを,現在ブロックに対する動きベクトル予測子の候補として設定するに当たり,補正後発明1では,条件を満たすブロックを,「使用可能な候補ブロックの1つとして設定するステップ」を有し,「前記使用可能な候補ブロック」の動きベクトルを,動きベクトル予測子の候補として設定しているのに対し,引用発明では,使用可能な候補ブロックを設定するというステップを経ているか否か明らかでない点で,両発明は相違する。

エ 構成要件Cについて
動きベクトル予測子の候補について,引用発明では,当該候補の中から前記現在ブロックに対する動きベクトル予測子を選択するステップを有しているか否かが不明であり,引用発明は,補正後発明1の構成要件Cを備えているとはいえない。
したがって,補正後発明1では,「前記動きベクトル予測子の候補の中から前記現在ブロックに対する動きベクトル予測子を選択するステップ」を有しているのに対し,引用発明では,動きベクトル予測子の候補の中から,動きベクトル予測子を選択するステップを備えているか否かが不明である点において,両発明は相違する。

オ 構成要件Dと構成要件cとの対比
引用発明における,左側のブロックの「一つのグループ」は,動きベクトル予測子の候補を探索するためのグループの一つであるから,「候補グループ」ということができる。また,これを「第1の」候補グループと呼ぶことは任意である。
また,引用発明における,左側のブロックを一つのグループ「としている」ことは,隣接ブロックが,左側のブロックをグループ「として有し」ていることといえる。
そうすると,上記アも踏まえれば,引用発明の構成要件cと,補正後発明1の構成要件Dとは,「前記周辺ブロックは,前記現在ブロックに隣接する左側周辺ブロックを第1の候補グループとして有」する点で共通する。
しかしながら,第1の候補グループが有する周辺ブロックにつき,補正後発明1では,当該周辺ブロックが左下側周辺ブロックを有しているのに対し,引用発明では,当該周辺ブロックが左下側周辺ブロックを有していない点で,両発明は相違する。

カ 構成要件Eについて
上記オで示したように,第1の候補グループが有する周辺ブロックにつき,引用発明では,左下側周辺ブロックを有していないから,引用発明は,当該左下側周辺ブロックについての構成を前提とした,補正後発明1の構成要件Eを備えていない。
したがって,補正後発明1では,左下側周辺ブロックが第1の条件及び第2の条件の両方を満たさない場合,左側周辺ブロックが前記第1の条件又は前記第2の条件を満たすか否かを決定するのに対し,引用発明では,そのようなことを行っていない点で,両発明は相違する。

キ 構成要件Fと構成要件dとの対比
引用発明は,映像の符号化のために動きベクトル予測子を抽出する方法である。
したがって,補正後発明1と,引用発明とは,「方法」の発明という点で共通し,補正後発明1が,映像のデコーディングの発明であるのに対し,引用発明は,映像の符号化のための発明である点で,両発明は相違する。

ク まとめ
上記アないしキに示した対比結果に基づき,補正後発明1と,引用発明との一致点と相違点とをまとめると,以下のとおりである。

(一致点)
「現在ブロックに対する動きベクトル予測子を選択するため複数の周辺ブロックを選択するステップと,
前記複数の周辺ブロックの何れか一つが,前記現在ブロックの参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,前記現在ブロックの参照ピクチャリストと同じ参照ピクチャリストと,を有するという第1の条件を満たすか否かを決定するステップと,
前記複数の周辺ブロックの何れか一つが,前記現在ブロックの参照ピクチャと同じ参照ピクチャと,前記現在ブロックの参照ピクチャリストと異なる参照ピクチャリストと,を有するという第2の条件を満たすか否かを決定するステップと,
前記複数の周辺ブロックのうち前記第1の条件又は前記第2の条件を満たすブロックとして検索されたブロックの動きベクトルを,前記現在ブロックに対する動きベクトル予測子の候補として設定するステップと,を有し,
前記周辺ブロックは,前記現在ブロックに隣接する左側周辺ブロックを第1の候補グループとして有する,
方法。」

(相違点1)
補正後発明1が,映像のデコーディングの発明であるのに対し,引用発明は,映像の符号化のための発明である点

(相違点2)
条件を満たすブロックの動きベクトルを,現在ブロックに対する動きベクトル予測子の候補として設定するに当たり,補正後発明1では,条件を満たすブロックを,「使用可能な候補ブロックの1つとして設定するステップ」を有し,「前記使用可能な候補ブロック」の動きベクトルを,動きベクトル予測子の候補として設定しているのに対し,引用発明では,使用可能な候補ブロックを設定するというステップを経ているか否か明らかでない点

(相違点3)
補正後発明1では,「前記動きベクトル予測子の候補の中から前記現在ブロックに対する動きベクトル予測子を選択するステップ」を有しているのに対し,引用発明においては,動きベクトル予測子の候補の中から,動きベクトル予測子を選択するステップを備えているか否かが不明である点

(相違点4)
第1の候補グループが有する周辺ブロックにつき,補正後発明1では,当該周辺ブロックが左下側周辺ブロックを有しているのに対し,引用発明では,当該周辺ブロックが左下側周辺ブロックを有していない点

(相違点5)
補正後発明1では,左下側周辺ブロックが第1の条件及び第2の条件の両方を満たさない場合,左側周辺ブロックが前記第1の条件又は前記第2の条件を満たすか否かを決定するのに対し,引用発明では,そのようなことを行っていない点

(7)当審の判断
ア 上記(相違点1)について
動きベクトルを予測する技術において,復号化装置で符号化装置と同じ予測処理を行うことは,本願出願前における周知技術である。
したがって,引用発明における,映像の符号化のために動きベクトル予測子を抽出する,予測処理の工程を,復号化装置で同様に行うこととし,映像の復号化のために動きベクトル予測子を抽出する工程として構成すること,すなわち,「映像のデコーディング」方法として構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

イ 上記(相違点2)について
条件を満たすブロックの動きベクトルを,現在ブロックに対する動きベクトル予測子の候補として設定するに当たり,引用発明では,使用可能な候補ブロックを設定するステップを経ているか否かが明らかでない。
しかしながら,使用可能な候補ブロックの設定というステップを経ても,経なくても,当該ブロックの動きベクトルが,動きベクトル予測子の候補とされるのであれば,当該ステップを経ることは,単なる工程の多段階化にすぎず,格別の技術的な意義も見出せないから,当該ステップを経ることは,単なる設計的事項といわざるを得ない。
したがって,引用発明において,条件を満たすブロックを,いったん「使用可能な候補ブロックの1つとして設定」することとし,その「使用可能な候補ブロック」の動きベクトルを,動きベクトル予測子の候補として設定するように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 上記(相違点3)について
引用発明においては,動きベクトル予測子の候補の中から,動きベクトル予測子を選択するステップを備えているか否かが不明である。
しかしながら,動きベクトル予測子が,現在ブロックに対する動きベクトルとの差分をとり,伝送する動きベクトルの符号量を削減するために用いられるものであることは,本願の出願時における技術常識であるから,動きベクトル予測子の候補の中から,動きベクトル予測子を選択することは,前記差分をとる対象を特定するために,通常なされる工程であるといえる。
したがって,引用発明において,動きベクトル予測子の候補の中から現在ブロックに対する動きベクトル予測子を選択するステップを備えるようにすることは,本願の出願時の技術常識を踏まえ,当業者が容易に想到し得たことである。

エ 上記(相違点4)について
第1の候補グループが有する周辺ブロックにつき,引用発明では,当該周辺ブロックが左側周辺ブロックを有しているものの,左下側周辺ブロックを有していない。
しかしながら,引用例3には,上記(4-2)に(技術事項1)として示したように,動きベクトル予測子の候補の探索に用いられる,左側の隣接ブロックのグループが,左下側周辺のブロックを有することについて記載されている。
そして,引用発明と引用例3記載の技術事項とは,現在ブロックに隣接するブロックのグループを対象として,動きベクトル予測子の適切な候補を探索する点で共通する。
したがって,引用発明に引用例3記載の技術を適用し,引用発明における,左側のブロックを有するグループが,左下側周辺ブロックをも有するように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。

オ 上記(相違点5)について
(ア) 補正後発明1は,左下側周辺ブロックが第1の条件及び第2の条件の両方を満たさない場合,左側周辺ブロックが前記第1の条件又は前記第2の条件を満たすか否かを決定する,という(相違点5)に係る構成を有するものである。当該構成は,(i)左下側周辺ブロックを探索し,次に,左側周辺ブロックを探索するものであり,(ii)あるブロックが第1の条件及び第2の条件の両方を満たさない場合,次のブロックが前記第1の条件又は前記第2の条件を満たすか否かを決定するものとして,理解される。

(イ) そこで,まず上記(i)について検討するに,引用発明に引用例3を適用することの容易想到性については,上記エに示したとおりであるところ,引用例3には,上記(4-2)に(技術事項2)として示したように,左側の隣接ブロックのグループの探索が,まず左下側周辺のブロックについて実行され,その後,左側周辺のブロックについて実行されることについても記載されていることから,上記適用により,まず左下側周辺ブロックを探索し,次に,左側周辺ブロックを探索するという構成には到達することになるといえる。

(ウ) 次いで,上記(ii)についてみるに,引用発明を開示する引用例1には,上記(2-2)に示したように,動きベクトル予測子を抽出するために,四つの条件が想定されることや,どの条件を優先させるかについての優先度に関しては,開示されている。
しかしながら,引用例1には,ブロック間の探索順序との関係で,これら四つの条件をどのように用いるのかについて明記されておらず,これら四つの条件のうち,「最も優先度の高い条件」(補正後発明1の「第1の条件」に相当するものである。)と「次に優先度の高い条件」(補正後発明1の「第2の条件」に相当するものである。)とを用い,あるブロックがこれら二つの条件の両方を満たさない場合に,次のブロックがこれら二つの条件のいずれかを満たすか否かを決定するステップへ移行することとし,あるブロックに対する他の条件の適用は後回しにする,又は他の条件の適用は行わないようにすることについては,何ら開示されていない。
また,引用例3には,動きベクトル予測子の候補の抽出に当たり,そもそも複数の条件を用いることについて開示されていない。
よって,引用発明に引用例3を適用したとしても,あるブロックが第1の条件及び第2の条件の両方を満たさない場合,次のブロックが前記第1の条件又は前記第2の条件を満たすか否かを決定するという構成については,到達することができない。

(エ) また,当該構成は,上記(3-2)に示した引用例2記載の技術事項や,上記(5-2)に示した引用例4記載の技術事項においても,開示されていないものである。

(オ) さらに,当該構成は,本願の発明の詳細な説明の段落【0266】に「検討条件1及び検討条件2を優先する方法である。前述したように,検討条件1及び検討条件2の場合に該当するブロックは,現在ブロックと同じ参照ピクチャを有するため,スケーリングせずに該当ブロックの動きベクトルを現在ブロックに対する動きベクトル予測子の候補として利用することができる。したがって,スケーリングの頻度を減らし,複雑さを軽減することができる。」と示されているように,スケーリング頻度を減らし,動きベクトル予測子の候補の選択における複雑さを軽減するという課題を解決するための特徴的構成であって,単に,当業者が適宜選択し得た設計的事項ということもできない。

(カ) よって,(相違点5)に係る構成については,引用例2ないし4記載の技術を踏まえても,引用発明を基に当業者が容易になし得たものということはできない。
また,このことは,引用例2ないし4記載の技術のいずれを主引用発明として検討した場合においても,同様である。

カ 以上のように,上記(相違点1)ないし(相違点5)のうち,上記(相違点5)に係る構成については,当業者が容易に想到し得たということができないから,補正後発明1は,引用発明や引用例2ないし4記載の技術に基づいて,当業者が容易になし得たものであるということはできない。
また,請求項1を引用する請求項2ないし6に係る発明も,上記(相違点5)に係る構成を有しており,当該構成を有する補正後発明1と同様,引用発明や引用例2ないし4記載の技術に基づいて,当業者が容易になし得たものであるということはできない。
さらに,他に独立して特許を受けることができない理由も発見しない。

カ 以上のように,上記(相違点1)ないし(相違点5)のうち,上記(相違点5)に係る構成については,当業者が容易に想到し得たということができないから,補正後発明1は,引用発明や引用例2ないし4記載の技術に基づいて,当業者が容易になし得たものであるということはできない。
また,請求項1を引用する請求項2ないし6に係る発明も,上記(相違点5)に係る構成を有しており,当該構成を有する補正後発明1と同様,引用発明や引用例2ないし4記載の技術に基づいて,当業者が容易になし得たものであるということはできない。
さらに,他に独立して特許を受けることができない理由も発見しない。

4 むすび
よって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

第3 本願発明

本件補正は,上記のとおり,特許法第17条の2第3項から第6項までの規定に適合するから,本願の請求項1ないし6に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6により特定されるとおりのものである。
そして,本願については,原査定の拒絶理由を検討しても,その理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-06-13 
出願番号 特願2014-500994(P2014-500994)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04N)
P 1 8・ 575- WY (H04N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岩井 健二  
特許庁審判長 藤井 浩
特許庁審判官 戸次 一夫
清水 正一
発明の名称 動きベクトル予測子の選択方法及び動きベクトル予測子の選択方法を利用する装置  
代理人 南山 知広  
代理人 青木 篤  
代理人 河合 章  
代理人 鶴田 準一  
代理人 中村 健一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ