• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G01R
管理番号 1315677
異議申立番号 異議2016-700207  
総通号数 199 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2016-07-29 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-03-09 
確定日 2016-06-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第5778787号「電力回路におけるアーク故障を検出するための方法およびシステム」の請求項1ないし5、9、10、13ないし15に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第5778787号の請求項1ないし5、9、10、13ないし15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5778787号(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成23年2月28日に特許出願され、平成27年7月17日に特許の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人 山田宏基より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし5、9、10、13ないし15に係る発明(以下、本件発明1ないし5、9、10、13ないし15という。)は、それぞれ、下記の特許請求の範囲の請求項1ないし5、9、10、13ないし15に記載された事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
電力回路におけるアーク故障を検出する方法であり、
a.前記電力回路内を流れる電流(I)に関連した第1の信号を判別するステップと、
b.前記第1の信号を分析し、前記信号が、前記電力回路内での電気アーク(7、8)の存在を示すかどうかを判別するステップと、
c.前記第1の信号が、前記電力回路内での電気アーク(7、8)の存在を示す場合、
電気アークを抑制するための手段を作動するステップと、
d.前記電力回路内を流れる電流(I)に関連した第2の信号を判別し、分析するステップと、
e.前記第2の信号が、電気アーク(7、8)の存在を示さない場合、前記電力回路内でのアーク故障の発生を報知するステップと
を備える方法。
【請求項2】
前記第1および/または第2の信号を分析する前記ステップは、AC成分が前記信号に含まれるかどうかを判別するステップを備え、前記信号内にAC成分が存在することは、電気アーク(7、8)の存在を示すとみなされる
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
電気アークを抑制するための前記手段を作動するステップは、交流電流(I)が前記電力回路内で流れることを妨害しない
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気アーク(7、8)を抑制するための手段を作動する前記ステップは、短絡スイッチ(17)および/または回路遮断器(18)を動作させる
請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
電気アークを抑制するための前記手段は、アーク故障の発生を報知した後、作動し続ける
請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
アークインジケータと、電気アークを抑制するための手段とを有する制御ユニット(11)を備え、請求項1から8のいずれかによる方法を実行するよう設計されたアーク故障検出システム(10)。
【請求項10】
電気アークを抑制するための前記手段は、短絡スイッチ(17)および/または回路遮断器(18)を備える
請求項9に記載のアーク故障検出システム。
【請求項13】
ピックアップコイルが、前記制御ユニット(11)の前記アークインジケータに接続された電流センサ(16)として使用される
請求項9から12のいずれかに記載のアーク故障検出システム。
【請求項14】
請求項9から13のいずれかによるアーク故障検出システム(10)を備える電力システム、特に、光起電発電システム。
【請求項15】
前記アーク故障検出システム(10)が、前記電力システムのインバータ(5)に完全に、または部分的に統合される
請求項14に記載の電力システム。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、次の甲第1号証の1ないし甲第4号証を提出し、以下のとおり主張している。
甲第1号証の1:国際公開第2011/011711号
甲第1号証の2:特表2013-500476号公報
甲第2号証:特開2011-7765号公報
甲第3号証:米国特許出願公開第2008/0204950号明細書及びその抄訳
甲第4号証:特表2010-521686号公報

(1)本件発明1ないし5、9、10、14、15に対して
本件発明1ないし5、9、10、14、15は、甲第1号証の1に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。
また、本件発明2は、甲第1号証の1に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。
(2)本件発明13に対して
本件発明13は、甲第1号証の1に記載された発明、甲第2号証に記載された発明及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当し、その特許は取り消すべきものである。

第4 各甲号証の記載
(1)甲第1号証の1
甲第1号証の1には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。以下同様である。また、翻訳は、甲第1号証の2の記載を参照して合議体が作成した。)。
「[0001] Embodiments of the present disclosure generally relate to renewable energy power systems and, more particularly, to a method and apparatus for detecting series and parallel DC arc faults in a DC circuit of a photovoltaic (PV) system. 」(訳文:本開示の実施形態は、再生可能エネルギー発電システムに関し、より詳細には、光電池(PV)システムのDC回路における直列及び並列のDCアーク故障(arc fault)を検出するための方法及び装置に関する。)

「[0012] Figure 1 is a block diagram of a system 100 for inverting solar generated DC power to AC power in accordance with one or more embodiments of the present invention. This diagram only portrays one variation of the myriad of possible system configurations. The present invention can function in a variety of environments and systems. 」(訳文:図1は、本発明の1つ以上の実施形態によりソーラー発電によるDC電力をAC電力に変換するためのシステム100のブロック図である。この図は、多数の考えられるシステム構成のうちの1つの変形例を示すに過ぎない。本発明は、種々の環境及びシステムにおいて機能することができる。)

「[0013] The system 100 comprises a plurality of power converters 102_( 1), 102_( 2) . . . 102_( n) , collectively referred to as power converters 102, a plurality of PV modules 104_( 1) , 104_( 2) . . . 104_( n) , collectively referred to as PV modules 104, an AC bus 106, and a load center 108. Two input terminals of each power converter 102_( 1), 102_( 2) . . . 102_( n) are coupled to two output terminals of a corresponding PV module 104_( 1), 104_( 2) . . . 104_( n) ; i.e., the power converters 102 and the PV modules 104 are coupled in a one- to-one correspondence. 」(訳文:システム100は、全体的に電力コンバータ102と称される複数の電力コンバータ102_(1)、102_(2)、・・・102_(n)と、全体的にPVモジュール104と称される複数のPVモジュール104_(1)、104_(2)、・・・104_(n)と、ACバス106と、ロードセンター(load center:給電所)108とを備えている。各電力コンバータ102_(1)、102_(2)、・・・102_(n)の2つの入力端子は、それに対応するPVモジュール104_(1)、104_(2)、・・・104_(n)の2つの出力端子に接続され、即ち電力コンバータ102及びPVモジュール104は、1対1の対応関係で接続される。)

「[0017]・・・(中略)・・・The DC arc fault may consist of a parallel arc across the power converter input terminals or across output terminals of the DC/DC conversion module of the power converter 102. Alternatively, the DC arc fault may consist of a series arc, for example, between one of the PV module output terminals and the coupled power conversion module input terminal, or between an output terminal of the power converter DC/DC conversion module and the coupled DC/AC inversion module terminal. 」(訳文:DCアーク故障は、電力コンバータの入力端子にわたる又は電力コンバータ102のDC/DCコンバータモジュールの出力端子にわたる並列アークで構成される。或いはまた、DCアーク故障は、例えば、PVモジュール出力端子の1つと、接続された電力コンバータモジュール入力端子との間、或いは電力コンバータのDC/DCコンバータモジュールの出力端子と、接続されたDC/ACインバータモジュールの端子との間の直列アークからなる。)

「[0018] Figure 2 is a block diagram of a power converter 102 in accordance with one or more embodiments of the present invention. The power converter 102 comprises a power conversion circuit 202, a controller 204, a DC current sampler 206, a DC voltage sampler 208, an AC current sampler 210, an AC voltage sampler 212, and a DC input shorting mechanism 228. 」(訳文:図2は、本発明の1つ以上の実施形態による電力コンバータ102のブロック図である。電力コンバータ102は、電力コンバータ回路202、コントローラ204、DC電流サンプラー206、DC電圧サンプラー208、AC電流サンプラー210、AC電圧サンプラー212、及びDC入力短絡メカニズム228を備えている。)

「[0024] As part of controlling power production by the power conversion circuit 202, the DC current sampler 206 and the DC voltage sampler 208 sample the DC current and voltage, respectively, generated by the PV module 104 and provide such sampled DC current and voltage values to the controller 204. Additionally, the AC current sampler 210 and the AC voltage sampler 212 sample the AC current and voltage, respectively, at the output of the power conversion circuit 202 and provide such sampled AC current and voltage values to the controller 204. The input signals to each of the samplers are filtered, for example via traditional analog filter techniques, digital signal processing, or similar techniques, and an analog-to-digital (A/D) conversion is performed utilizing standard A/D technology. The resulting instantaneous values, or samples, of DC current, DC voltage, AC current, and AC voltage may be stored digitally in the database 224 for use by the waveform processing module 226 in determining whether a DC arc faults exists, as described below. 」(訳文:電力コンバータ回路202による電力発生の制御の一部分として、DC電流サンプラー206及びDC電圧サンプラー208は、PVモジュール104により発生されたDC電流及び電圧を各々サンプリングし、そしてそのようにサンプリングされたDC電流及び電圧値をコントローラ204に与える。加えて、AC電流サンプラー210及びAC電圧サンプラー212は、電力コンバータ回路202の出力においてAC電流及び電圧を各々サンプリングし、そしてそのようにサンプリングされたAC電流及び電圧値をコントローラ204に与える。各サンプラーへの入力信号は、例えば、慣習的なアナログフィルタ技術、デジタル信号処理、又は同様の技術を経てフィルタリングされると共に、標準的なA/D技術を使用してアナログ/デジタル(A/D)変換が行われる。それにより得られるDC電流、DC電圧、AC電流及びAC電圧の瞬時値又はサンプルは、以下に述べるように、DCアーク故障が存在するかどうか決定する際に波形処理モジュール226により使用するためにデータベース224にデジタルで記憶される。)

「[0025] In accordance with one or more embodiments of the present invention, the waveform processing module 226 utilizes the sampled DC current and voltage values, which respectively define DC current and voltage signatures that characterize the DC circuit current and voltage over time, to determine an occurrence of a DC arc fault. The characteristics of an arc fault may be extracted from the sampled current and voltage values by filtering unwanted artifacts from the sampled data and quantizing the dynamic behavior of the voltage and current values, as well as their relationship to each other. In some embodiments, the waveform processing module 226 analyzes, for example, generally every millisecond (msec) but as often as every microsecond (μsec), the DC current and voltage signatures defined by at least a portion of the DC current and voltage samples in order to identify an arc fault; for such analysis, sampled current and/or voltage values may be averaged over a period of, for example, approximately 1 msec for analysis. In other embodiments, the signatures may be updated analyzed more or less frequently. In some embodiments, the waveform processing module 226 may analyze at least several tens of microseconds to a few milliseconds of data to identify characteristics indicating a DC arc fault (i.e., a series arc or a parallel arc). 」(訳文:本発明の1つ以上の実施形態によれば、波形処理モジュール226は、時間に伴うDC回路電流及び電圧を特徴付けるDC電流及び電圧シグネチャを各々定義するサンプリングされたDC電流及び電圧値を使用して、DCアーク故障の発生を決定する。サンプリングされたデータから望ましからぬアーチファクトをフィルタリングして、電圧及び電流値の動的な振舞い並びにそれらの互いの関係を量子化することにより、サンプリングされた電流及び電圧値からアーク故障の特性を抽出することができる。ある実施形態では、波形処理モジュール226は、例えば、一般的にはミリ秒(msec)ごとであるが、マイクロ秒(μsec)ごとの頻度で、DC電圧及び電圧サンプルの少なくとも一部分により定義されたDC電流及び電圧シグネチャを分析して、アーク故障を識別する。このような分析のために、サンプリングされた電流及び/又は電圧値は、例えば、約1msecの期間にわたって平均化することができる。他の実施形態では、シグネチャは、より高い又はより低い頻度で更新分析されてもよい。ある実施形態では、波形処理モジュール226は、少なくとも数十マイクロ秒ないし数ミリ秒のデータを分析して、DCアーク故障(即ち、直列アーク又は並列アーク)を指示する特性を識別することができる。)

「[0027] In order to identify a DC arc fault, the waveform processing module 226 analyzes the DC current signature for a change in polarity or a rapid change in slope (e.g., on the order of 0.1 amp/microsecond in some embodiments) indicating a potential DC arc fault. During normal operating conditions (i.e., no arc faults), the DC current polarity should always be positive and change in slope of DC current is normally due to changes in the commanded output current of the power converter 102; any fast change in current polarity or a change in slope that is not due to a change in commanded output current is suspect as being due to an arc fault. Slower changes may be due to changes in irradiance, and will not be detected as an arc fault. If a potential DC arc fault is identified, the waveform processing module 226 compares the DC current signature to the DC voltage signature, e.g., the DC current and voltages are analyzed for coincidence and polarity that are not the result of changes in commanded output current of the power converter 102. If, based on such comparison, it is determined that a DC arc fault signature match exists (i.e., one or more characteristics of the DC current and/or DC voltage signature are indicative of a DC arc fault), the DC current polarity is utilized to differentiate whether the DC circuit is experiencing a series or parallel arc event. In some embodiments, a DC arc fault signature match may be determined based on current and/or voltage changes, such as a maximum change in current and/or voltage over time. 」(訳文:DCアーク故障を識別するために、波形処理モジュール226は、潜在的なDCアーク故障を指示する極性変化又は急速な勾配変化(例えば、ある実施形態では、0.1アンペア/マイクロ秒程度)についてDC電流シグネチャを分析する。通常の動作状態(即ち、アーク故障なし)中には、DC電流極性が常に正でなければならず、且つDC電流の勾配の変化は、通常、電力コンバータ102の指令された出力電流の変化によるものであり、電流極性の速い変化、又は指令された出力電流の変化によるものでない勾配の変化は、アーク故障によるものである疑いがある。ゆっくりした変化は、光照度の変化によるものであり、アーク故障として検出されない。潜在的なDCアーク故障が識別された場合には、波形処理モジュール226がDC電流シグネチャをDC電圧シグネチャと比較し、例えば、DC電流及び電圧が、電力コンバータ102の指令された出力電流の変化の結果ではない一致及び極性について分析される。このような比較に基づき、DCアーク故障シグネチャの一致が存在する(即ち、DC電流及び/又はDC電圧シグネチャの1つ以上の特性がDCアーク故障を表している)と決定された場合には、DC電流極性を使用して、DC回路が直列のアーク事象に遭遇したか並列のアーク事象に遭遇したか区別する。ある実施形態では、時間に伴う電流及び/又は電圧の最大変化のような電流及び/又は電圧の変化に基づいてDCアーク故障シグネチャの一致を決定することができる。)

「[0028] If the DC current polarity has remained positive, a series arc has occurred and the waveform processing module 226 causes the power converter 102 to cease power production. If the DC current polarity has a negative occurrence, a parallel arc has potentially occurred. During normal operation, i.e., when no arc faults exist, the DC current polarity should always be positive. However, when a parallel arc occurs, a large amount of negative current occurs for a time on the order of a millisecond (e.g., due to a violent discharge of one or more capacitors located across the DC input of the power converter; such a discharge does not occur in the event of a series arc). As a result of determining that the DC current polarity is negative, the waveform processing module 226 drives the controller 204 to inhibit power production by the power converter 102 and to lock the DC input shorting mechanism 228, which provides a short circuit across the input to the power conversion circuit 202. In order to verify that a parallel arc has, in fact, occurred, the waveform processing module 226 analyzes the DC current signature for DC current fluctuations, for example, as determined by comparison to a threshold (e.g., changes in current that are much more rapid than under normal operating conditions). Specific di/dt will depend on the length of the DC wire run, the normal DC voltage, and the power rating of the DC source as it interacts with the input characteristics of the power converter 102; di/dt in excess of the normal control mechanism (e.g., as compared to a threshold) may be indicative of an arc fault. If the DC current is not fluctuating, a parallel arc is confirmed and the DC input shorting mechanism 228 remains locked. If the DC current is fluctuating, the arc is a series arc and the waveform processing module 226 drives the controller 204 to unlock the DC input shorting mechanism 228 (i.e., to open the DC terminals) while continuing to lock out the power production. 」(訳文:DC電流の極性が正のままである場合は、直列アークが発生しており、波形処理モジュール226は、電力コンバータ102が電力の発生を中止するようにさせる。DC電流の極性が負になった場合には、潜在的に並列アークが発生している。通常の動作中、即ちアーク故障が存在しないときには、DC電流の極性が常に正でなければならない。しかしながら、並列アークが発生するときには、1ミリ秒程度の時間中に多量の負の電流が発生する(例えば、電力コンバータのDC入力にまたがって配置された1つ以上のキャパシタの激しい放電のために、このような放電は、直列アークの場合には生じない)。DC電流の極性が負であるという決定の結果として、波形処理モジュール226は、コントローラ204を駆動して、電力コンバータ102による電力の発生を禁止すると共に、電力コンバータ回路202に対する入力にまたがって短絡回路を与えるDC入力短絡メカニズム228をロックする。実際上、並列アークが生じたことを検証するために、波形処理モジュール226は、DC電流シグネチャを、例えば、スレッシュホールドとの比較により決定されるDC電流変動(例えば、通常の動作状態の場合より著しく急速な電流の変化)について分析する。特定のdi/dtは、電力コンバータ102の入力特性と相互作用するDC電源のDCワイヤ延長長さ、通常のDC電圧、及び電力定格に依存し、即ち(例えば、スレッシュホールドに比して)通常の制御メカニズムを越えるdi/dtは、アーク故障を表し得る。DC電流が変動しない場合には、並列アークが確認され、DC入力短絡メカニズム228は、ロックされたままとなる。DC電流が変動する場合には、アークが直列アークであり、波形処理モジュール226は、コントローラ204を駆動して、DC入力短絡メカニズム228をアンロックする(即ち、DC端子をオープンする)が、電力の発生はそのまま停止し続ける。)

「[0033] The method 300 begins at step 302 and proceeds to step 304, where DC current and DC voltage from the PV module(s) coupled to a power converter in the power conversion system are sampled. The measured DC current and DC voltage may be filtered, for example by traditional analog filter techniques, digital signal processing, or similar techniques, and an A/D conversion may be performed utilizing standard A/D technology. The resulting instantaneous DC current value and instantaneous DC voltage value (i.e., the DC current and voltage samples) may be stored, for example, within a memory of the power converter, such as memory 218. In one or more embodiments, AC current and/or AC voltage generated by the power converter may be analogously sampled and stored for use in identifying and managing DC arc faults, such as a DC arc fault at the input or the output of the power converter's DC/DC conversion module. 」(訳文:方法300は、ステップ302において開始されて、ステップ304へ進み、そこで、電力コンバータシステムの電力コンバータに接続されるPVモジュール(1つ又は複数)からのDC電流及びDC電圧がサンプリングされる。測定されたDC電流及びDC電圧は、例えば、慣習的なアナログフィルタ技術、デジタル信号処理、又は同様の技術によりフィルタリングされると共に、標準的なA/D技術を使用してA/D変換が行われる。それにより得られる瞬時DC電流値及び瞬時DC電圧値(即ち、DC電流及び電圧のサンプル)は、例えば、メモリ218のような電力コンバータのメモリ内に記憶される。1つ以上の実施形態において、電力コンバータのDC/DCコンバータモジュールの入力又は出力におけるDCアーク故障のようなDCアーク故障を識別及び管理するのに使用するために、電力コンバータにより発生されたAC電流及び/又はAC電圧が同様にサンプリングされて記憶される。)

「[0034] At step 308, a DC current signature is analyzed to determine whether a potential arc has occurred. The DC current signature is defined by the sampled DC current and characterizes the DC current over time. In some embodiments, the DC current signature is analyzed for a rapid change in slope (e.g., on the order of 0.1 amp/microsecond in some embodiments) or a change in polarity to indicate a potential arc, as previously described. 」(訳文:ステップ308において、DC電流シグネチャを分析して、潜在的アークが発生したかどうか決定する。DC電流シグネチャは、サンプリングされたDC電流により定義され、時間に伴うDC電流を特徴付ける。ある実施形態では、DC電流シグネチャは、上述したように、潜在的アークを指示するために、急速な勾配変化(例えば、ある実施形態では、0.1アンペア/マイクロ秒程度)又は極性の変化について分析される。)

「[0037] At step 316, the DC current polarity is utilized to differentiate whether the DC circuit is experiencing a series or parallel arc event. If the DC current polarity has remained positive, it is determined that a series arc has occurred; if the DC current polarity has a negative occurrence, it is determined that a parallel arc has potentially occurred. At step 318, a determination is made whether a series or a parallel arc is identified based on the analysis of step 316. If the result of such determination is that a series arc has occurred, the method 300 proceeds to step 330. At step 330, power production by the power converter is inhibited; the method 300 then proceeds to step 336 where it ends. 」(ステップ316において、DC電流極性を使用して、DC回路が直列のアーク事象に遭遇したか並列のアーク事象に遭遇したか区別する。DC電流極性が正のままである場合には、直列アークが発生したと決定され、DC電流極性が負になった場合には、潜在的に並列アークが生じたと決定される。ステップ318において、ステップ316の分析に基づいて直列アークが識別されたか並列アークが識別されたかの決定がなされる。このような決定の結果が、直列アークが発生したとのことである場合に、方法300は、ステップ330へ進む。ステップ330において、電力コンバータによる電力の発生が禁止され、方法300は、次いで、ステップ336へ進み、そこで、終了となる。)

「[0038] If, at step 318, the result of the determination is that a parallel arc has potentially occurred, the method 300 proceeds to step 320. At step 320, power production by the power converter is inhibited. At step 322, DC terminals at the input of the power converter are shorted, for example by locking a DC input shorting mechanism (e.g., DC input shorting mechanism 228). At step 324, the DC current signature is analyzed for DC current fluctuations, for example as determined by comparison to a threshold (e.g., changes in current that are much more rapid than under normal operating conditions); if the DC current is not fluctuating, a parallel arc is confirmed. At step 326, a determination is made whether the parallel arc is confirmed based on the analysis of step 324. If the result of such determination is no, the arc is determined to be a series arc and the method 300 proceeds to step 328, where the shorted DC terminals are opened, for example by unlocking the DC input shorting mechanism. The method 300 then proceeds to step 330 and the power production by the power converter remains locked out. If, at step 326, the result of such determination is yes (i.e., a parallel arc is confirmed), the method 300 proceeds to step 332, where the DC input terminals remain shorted. The method 300 then proceeds to step 336 where it ends. 」(訳文:ステップ318において、決定の結果が、並列アークが潜在的に発生したとのことである場合に、方法300は、ステップ320へ進む。ステップ320において、電力コンバータによる電力の発生が禁止される。ステップ322において、例えば、DC入力短絡メカニズム(例えば、DC入力短絡メカニズム228)をロックすることにより電力コンバータの入力のDC端子が短絡される。ステップ324において、例えば、スレッシュホールドとの比較により決定されるDC電流変動(例えば、通常の動作状態の場合より著しく急速な電流の変化)についてDC電流シグネチャが分析され、DC電流に変動がない場合には、並列アークが確認される。ステップ326において、ステップ324の分析に基づき並列アークが確認されるかどうかの決定がなされる。このような決定の結果がノーの場合には、アークが直列アークであると決定され、方法300は、ステップ328へ進み、そこで、例えば、DC入力短絡メカニズムをロック解除することにより、短絡されたDC端子がオープンにされる。方法300は、次いで、ステップ330へ進み、電力コンバータによる電力の発生が閉鎖されたままとなる。ステップ326において、そのような決定の結果がイエスである(即ち、並列アークが確認される)場合には、方法300は、ステップ332へ進み、そこで、DC入力端子が短絡状態のままとされる。方法300は、次いで、ステップ336へ進み、終了となる。)

以上より、甲第1号証の1には、次の発明が記載されているものと認められる(以下、「甲1発明」という。)
「光電池(PV)システムのDC回路における直列及び並列のDCアーク故障(arc fault)を検出するための方法であって、
ソーラー発電によるDC電力をAC電力に変換するためのシステム100は、電力コンバータ102と、PVモジュール104と、ACバス106と、ロードセンター(load center:給電所)108とを備え、電力コンバータの2つの入力端子は、それに対応するPVモジュールの2つの出力端子に接続され、即ち電力コンバータ102及びPVモジュール104は、1対1の対応関係で接続され、
DCアーク故障は、電力コンバータ102の入力端子にわたる並列アークで構成され、或いはまた、DCアーク故障は、PVモジュール出力端子の1つと、接続された電力コンバータモジュール入力端子との間の直列アークからなり、
電力コンバータ102は、電力コンバータ回路202、コントローラ204、DC電流サンプラー206、DC電圧サンプラー208、及びDC入力短絡メカニズム228を備え、
波形処理モジュール226は、時間に伴うDC回路電流及び電圧を特徴付けるDC電流及び電圧シグネチャを各々定義するサンプリングされたDC電流及び電圧値を使用して、DCアーク故障の発生を決定するが、DCアーク故障を識別するために、波形処理モジュール226は、潜在的なDCアーク故障を指示する極性変化又は急速な勾配変化についてDC電流シグネチャを分析し、
潜在的なDCアーク故障が識別された場合には、波形処理モジュール226がDC電流シグネチャをDC電圧シグネチャと比較し、このような比較に基づき、DCアーク故障シグネチャの一致が存在する(即ち、DC電流及び/又はDC電圧シグネチャの1つ以上の特性がDCアーク故障を表している)と決定された場合には、DC電流極性を使用して、DC回路が直列のアーク事象に遭遇したか並列のアーク事象に遭遇したか区別し、
DC電流の極性が正のままである場合は、直列アークが発生しており、DC電流の極性が負になった場合には、潜在的に並列アークが発生しており、
DC電流の極性が負であるという決定の結果として、波形処理モジュール226は、電力コンバータ102による電力の発生を禁止すると共に、電力コンバータ回路202に対する入力にまたがって短絡回路を与えるDC入力短絡メカニズム228をロックし、並列アークが生じたことを検証するために、波形処理モジュール226は、DC電流シグネチャを、DC電流変動について分析し、DC電流が変動しない場合には、並列アークが確認され、DC入力短絡メカニズム228は、ロックされたままとなり、DC電流が変動する場合には、アークが直列アークであり、波形処理モジュール226は、コントローラ204を駆動して、DC入力短絡メカニズム228をアンロックする(即ち、DC端子をオープンする)が、電力の発生はそのまま停止し続ける、
方法。」

(2)甲第2号証
甲第2号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0014】
上記課題を解決するため、本発明のアーク検出手段は、端子台への入力側配線と前記端子台からの出力側配線との間の電圧値を測定する電圧検出手段と、前記端子台からの出力側配線の電流値を測定する電流検出手段と、前記電圧検出手段の電圧値の変動及び前記電流検出手段の電流値の変動を同時に検出可能な検出回路とを有するものである。」
「【0022】
これにより、太陽電池電源2からの接続点に不具合があり、アーク発生が生じた際においても電源機器を適性に停止させるという効果を有するものである。」
「【0040】
つまり、制御回路7においては電圧検出手段4(IN側電圧検出端子)と電圧検出手段9(OUT側電圧検出端子)との間の電位差の上昇変動及び電流検出手段10の電流振動変動の両条件をもって、入力側の端子部においてアークが発生したことを判断し、電力変換装置1の動作の停止やエラー表示、警告等の適切な処置を行うことが可能となるものである。」
「【0056】
さらに、本発明の実施形態に係る出力手段は、前記検出手段から発せられた出力信号が入力されることによって、前記電源供給が停止したことを知らせるための連絡手段を有することが好ましい。
【0057】
これにより、直流電源からの接続点に不具合があり、アークが生じた際においても適性に停止を知らせるというものである。」

以上より、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「太陽電池電源2からの接続点にアークが発生したことを判断するアーク検出手段から発せられた出力信号が入力されることによって、前記電源供給が停止したことを知らせるための連絡手段。」

(3)甲第3号証
甲第3号証には、図面とともに、次の事項が記載されている(翻訳は、甲第3号証の抄訳を参照して合議体が作成した。)。
「Known technology for arc fault detection typically utilizes a current signature at the fundamental frequency (e.g., 50 or 60 Hz) and other relatively low frequencies (e.g., below 100 kHz). 」(第1頁右欄第20?23行)(訳文:基本周波数(例えば50Hzや60Hz)と他の比較的低い周波数(例えば100kHz未満)の電流シグネチャを利用するアーク故障検知の技術が知られている。)

(4)甲第4号証
甲第4号証には、図面とともに、次の事項が記載されている。
「【0002】
時間的に変化する電流、特に急勾配の急速な電流変化を有する電流を測定するために、強磁性の結合要素と、これを取り囲む2次巻線またはセンサ巻線と、急速な電流変化が検出されるべきである電流を導く1次巻線もしくは励磁巻線とを備えたセンサを使用することは公知である(例えば、特許文献1参照)。」
「【0021】
図2によれば、電流センサ10は、励磁巻線3と一緒に共通な結合要素4の周りに巻回されているセンサ巻線またはセンサコイル2から構成されている。励磁巻線3がセンサ巻線2の上にあって、センサ巻線2が結合要素4を取り囲んでいる。円筒状または棒状に形成された強磁性の結合要素4が一体的に両巻線2,3を貫通している。複数のセンサ巻回層からなるセンサ巻線2と、同様に複数の巻回層からなり得る励磁巻線3とが、互いに電気的に絶縁されて結合要素4上に取り付けられている。」

第5 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「光電池(PV)システムのDC回路における直列及び並列のDCアーク故障(arc fault)を検出するための方法」が、本件発明1における「電力回路におけるアーク故障を検出する方法」に相当する。
次に、甲1発明において「時間に伴うDC回路電流及び電圧を特徴付けるDC電流及び電圧シグネチャを各々定義する」「DC電流及び電圧値」を「サンプリング」するステップが、本件発明1における「a.前記電力回路内を流れる電流(I)に関連した第1の信号を判別するステップ」に相当する。
次に、甲1発明における「DCアーク故障を識別するために、波形処理モジュール226は、潜在的なDCアーク故障を指示する極性変化又は急速な勾配変化についてDC電流シグネチャを分析し、潜在的なDCアーク故障が識別された場合には、波形処理モジュール226がDC電流シグネチャをDC電圧シグネチャと比較し、このような比較に基づき、DCアーク故障シグネチャの一致が存在する(即ち、DC電流及び/又はDC電圧シグネチャの1つ以上の特性がDCアーク故障を表している)と決定」するステップが、本件発明1における「b.前記第1の信号を分析し、前記信号が、前記電力回路内での電気アーク(7、8)の存在を示すかどうかを判別するステップ」に相当する。
次に、甲1発明における「DCアーク故障シグネチャの一致が存在する(即ち、DC電流及び/又はDC電圧シグネチャの1つ以上の特性がDCアーク故障を表している)と決定された場合には、DC電流極性を使用して、DC回路が直列のアーク事象に遭遇したか並列のアーク事象に遭遇したか区別し、DC電流の極性が正のままである場合は、直列アークが発生しており、DC電流の極性が負になった場合には、潜在的に並列アークが発生しており、DC電流の極性が負であるという決定の結果として、波形処理モジュール226は、電力コンバータ102による電力の発生を禁止すると共に、電力コンバータ回路202に対する入力にまたがって短絡回路を与えるDC入力短絡メカニズム228をロック」するステップと、本件発明1における「c.前記第1の信号が、前記電力回路内での電気アーク(7、8)の存在を示す場合、電気アークを抑制するための手段を作動するステップ」とは、「c.前記第1の信号が、前記電力回路内での電気アーク(7、8)の存在を示す場合、電気アークを抑制するための手段を作動することがあるステップ」の点で共通する。
次に、甲1発明における「並列アークが生じたことを検証するために、波形処理モジュール226は、DC電流シグネチャを、DC電流変動について分析」するステップが、次の相違点は除いて、本件発明1における「d.前記電力回路内を流れる電流(I)に関連した第2の信号を判別し、分析するステップ」に相当する。
次に、甲1発明における「DC電流が変動しない場合には、並列アークが確認され、DC入力短絡メカニズム228は、ロックされたままとな」るステップと、本件発明1における「e.前記第2の信号が、電気アーク(7、8)の存在を示さない場合、前記電力回路内でのアーク故障の発生を報知するステップ」とは、「e.前記第2の信号が、電気アーク(7、8)の存在を示さない場合、所定の対処をするステップ」の点で共通する。

以上のことから、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「電力回路におけるアーク故障を検出する方法であり、
a.前記電力回路内を流れる電流(I)に関連した第1の信号を判別するステップと、
b.前記第1の信号を分析し、前記信号が、前記電力回路内での電気アーク(7、8)の存在を示すかどうかを判別するステップと、
c.前記第1の信号が、前記電力回路内での電気アーク(7、8)の存在を示す場合、電気アークを抑制するための手段を作動することがあるステップと、
d.前記電力回路内を流れる電流(I)に関連した第2の信号を判別し、分析するステップと、
e.前記第2の信号が、電気アーク(7、8)の存在を示さない場合、所定の対処をするステップと
を備える方法。」

(相違点1)
本件発明1では、「c.前記第1の信号が、前記電力回路内での電気アーク(7、8)の存在を示す場合、電気アークを抑制するための手段を作動するステップ」を備えているのに対し、甲1発明では、「DCアーク故障シグネチャの一致が存在する(即ち、DC電流及び/又はDC電圧シグネチャの1つ以上の特性がDCアーク故障を表している)と決定された場合」には、「DC電流極性を使用して、DC回路が直列のアーク事象に遭遇したか並列のアーク事象に遭遇したか区別し」、潜在的に並列アークが発生していると決定された結果として、波形処理モジュール226は、「電力コンバータ回路202に対する入力にまたがって短絡回路を与えるDC入力短絡メカニズム228をロック」しているが、「直列アークが発生して」いると決定された場合には、「電力コンバータ回路202に対する入力にまたがって短絡回路を与えるDC入力短絡メカニズム228をロック」することを行わない点。

(相違点2)
本件発明1では、該電気アークを抑制するための手段を作動させた場合に前記電力回路内を流れる電流(I)に関連した第2の信号を判別し、分析し、「e.前記第2の信号が、電気アーク(7、8)の存在を示さない場合、前記電力回路内でのアーク故障の発生を報知するステップ」を備えている(言い換えると、「前記電力回路内でのアーク故障の発生を報知する」契機が、「前記第2の信号が、電気アーク(7、8)の存在を示さない」ことである)のに対し、甲1発明では、波形処理モジュール226が、電力コンバータ回路202に対する入力にまたがって短絡回路を与えるDC入力短絡メカニズム228をロックし、「DC電流が変動しない場合には、並列アークが確認され、DC入力短絡メカニズム228は、ロックされたままとな」る点(言い換えると、DC入力短絡メカニズム228をロックし、「DC電流が変動しない場合には、並列アークが確認され」ることは、発生したアーク故障が「直列アーク」ではなく「並列アーク」であることを確認する契機であって、アーク故障の発生自体を報知する契機ではない点。)。

イ そこで、上記相違点について以下、検討する。
甲2発明(上記「第4」「(2)」)を再掲すれば、次のとおりである。
「太陽電池電源2からの接続点にアークが発生したことを判断するアーク検出手段から発せられた出力信号が入力されることによって、前記電源供給が停止したことを知らせるための連絡手段。」
甲1発明と、甲2発明とは、ソーラー発電による電力給電(太陽電池電源)におけるアーク検出技術の点で共通するものの、
(ア)甲2発明には、本件発明1の上記相違点1に係る構成は示されていない。また、甲2発明には、上記相違点2に係る本件発明1の部分的な構成(電力回路内でのアーク故障の発生を報知する点)が示されているに過ぎない。
(イ)甲1発明において、「DCアーク故障」が発生したことが(潜在的にではなく)確定的に判断される時点(甲2発明における、「アークが発生したことを判断する」時点に相当する。)は、「極性変化又は急速な勾配変化についてDC電流シグネチャを分析し」て「潜在的なDCアーク故障が識別された場合」に「波形処理モジュール226がDC電流シグネチャをDC電圧シグネチャと比較し、このような比較に基づき、DCアーク故障シグネチャの一致が存在する(即ち、DC電流及び/又はDC電圧シグネチャの1つ以上の特性がDCアーク故障を表している)と決定された」時点であって、該時点以降に引き続いてなされる「DC電流極性を使用して、DC回路が直列のアーク事象に遭遇したか並列のアーク事象に遭遇したか区別し」、「DC電流の極性が負になった場合には、潜在的に並列アークが発生しており」、「DC電流の極性が負であるという決定の結果として、波形処理モジュール226は、電力コンバータ102による電力の発生を禁止すると共に、電力コンバータ回路202に対する入力にまたがって短絡回路を与えるDC入力短絡メカニズム228をロック」し、「DC電流が変動しない場合には、並列アークが確認され」た時点ではない。
よって、甲1発明における「DC入力短絡メカニズム228をロック」し、「DC電流が変動しない場合には、並列アークが確認され」た時点に甲2発明を適用する動機付けがない。
(ウ)甲1発明における「DC入力短絡メカニズム228をロック」し、「DC電流が変動しない場合には、並列アークが確認され」た時点に甲2発明を適用したとしても、報知されるのは、「並列アーク」による「アーク故障の発生」した場合に限られ、「直列アーク」による「アーク故障の発生」した場合には、「アーク故障の発生」が報知されることにならないから、本件発明1に係る「e.前記第2の信号が、電気アーク(7、8)の存在を示さない場合、前記電力回路内でのアーク故障の発生を報知するステップ」の構成とはならない。

本件発明1は、上記相違点1及び相違点2に係る構成を備えることにより、本件明細書の段落【0008】に記載されたとおり、「アークを抑制するための手段を作動するかどうかを試験するこの方法は、アーク故障の存在を示す信号をもたらす。この試験の結果がポジティブである場合のみ、観測された信号は非常に高い確率で電気アークから起因し、アーク故障が報知される。妨害源から起因する信号が、アークを抑制するための手段に影響しないと仮定すると、試験の結果がネガティブであることは、アーク以外の妨害源が観測された信号の源であることを示す。したがって、本方法は、アークと妨害源とを区別する可能性をもたらす。アーク故障はより確実に検出され、それに応じて、厄介な警告状況を防ぐことができる。」という、格別の作用効果を奏するものと認められる。

ウ よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1を引用してさらに限定したものであるから、本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者は、上記「(1)」「ア」の(相違点1)及び(相違点2)の点で少なくとも相違する。
しかし、甲第3号証には、該(相違点1)および(相違点2)に係る本件発明2の構成は示されていない。
したがって、本件発明2は、上記「(1)」「イ」で述べたのと同様の理由により、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、また、甲1発明、甲2発明、及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(3)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を引用してさらに限定したものであるから、上記「(1)」「イ」で述べたのと同様の理由により、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明4について
本件発明4は、本件発明1を引用してさらに限定したものであるから、上記「(1)」「イ」で述べたのと同様の理由により、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)本件発明5について
本件発明5は、本件発明1を引用してさらに限定したものであるから、本件発明5は、上記「(1)」「イ」で述べたのと同様の理由により、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)本件発明9について
本件発明9は、本件発明1を引用してさらに限定して、「アーク故障検出システム」として表現した発明であるから、上記「(1)」「イ」で述べたのと同様の理由により、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)本件発明10について
本件発明10は、実質的に、本件発明1を引用してさらに限定して、「アーク故障検出システム」として表現した発明であるから、上記「(1)」「イ」で述べたのと同様の理由により、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(8)本件発明13について
本件発明13は、実質的に、本件発明1を引用してさらに限定して、「アーク故障検出システム」として表現した発明であるから、本件発明13と甲1発明とを対比すると、両者は、上記「(1)」「ア」の(相違点1)及び(相違点2)の点で少なくとも相違する。
しかし、甲第4号証には、該(相違点1)及び(相違点2)に係る本件発明13の構成が示されていない。
よって、本件発明13は、上記「(1)」「イ」で述べたのと同様の理由により、甲1発明、甲2発明、及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(9)本件発明14について
本件発明14は、実質的に、本件発明1を引用してさらに限定して、「光起電発電システム」として表現した発明であるから、上記「(1)」「イ」で述べたのと同様の理由により、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(10)本件発明15について
本件発明15は、実質的に、本件発明1を引用してさらに限定して、「電力システム」として表現した発明であるから、上記「(1)」「イ」で述べたのと同様の理由により、甲1発明及び甲2発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 申立人の主張について
ア 本件発明1について
申立人は、本件発明1と甲1-1(甲第1号証の1)に記載された発明との相違点について、
「<構成要件F>
甲1-1の段落【0028】には、並列アークが確認され、DC入力短絡メカニズム228がロックされたままとなり、電力コンバータの入力のDC端子が短絡されたままとなることが記載されているが、アーク故障の発生を報知する処理については開示されていない。
よって、甲1-1には、本件発明1の構成要件Fに相当する構成が開示されていない。本件特許発明1と甲1-1に記載された発明とでは、本件発明1が構成Fを備えているのに対し、甲1-1に記載された発明が当該構成Fを備えていない点(相違点1)でのみ相違する。」(申立書第16頁第4?13行)
とした上で、「甲2の段落【0040】【0056】【0057】には、「アーク故障が発生したと判断した場合に、アーク故障の発生を連絡する連絡手段が開示されている。」(申立書第16頁第15?17行)とし、申立書第16頁第20行?第17頁21行にて、甲1-1および甲2の技術分野の関連性と、発熱や発火の危険性を招く現象であるアーク故障は放置されるべきではなく、修復を早く行う必要があるとの課題の共通とを根拠に、甲1-1に記載された発明に甲2の「連絡手段」を組合せ、構成Fとすることは当業者が容易になし得たことである旨、主張している。
しかし、本件発明1と甲1発明との相違点は、上記「第5」「(1)」「ア」で述べたとおりであって、相違点についての申立人の主張は採用できない。
また、仮に、本件発明1と甲1発明との相違点が申立人の主張するとおりであって、甲第2号証に「アーク故障が発生したと判断した場合に、アーク故障の発生を連絡する連絡手段」が開示されているとしても、甲1発明において、アーク故障が発生したと判断する時点を、アーク故障が発生していることが確定的に判断された時点(つまり、「潜在的なDCアーク故障が識別された場合」に、「波形処理モジュール226がDC電流シグネチャをDC電圧シグネチャと比較し、このような比較に基づき、DCアーク故障シグネチャの一致が存在する(即ち、DC電流及び/又はDC電圧シグネチャの1つ以上の特性がDCアーク故障を表している)と決定された」時点。)とせずに、これに引き続いて、該生じたアーク故障の区別がなされ、該生じたアーク故障が「並列アーク」であることが確認された時点(つまり、「DC入力短絡メカニズム228をロック」し、その結果「DC電流が変動しない場合には、並列アークが確認され」た時点。)にまで遅延させることは、アーク故障が、申立人のいうとおり、早急に対処の必要な故障である点に鑑みれば、合理的な理由を欠き、通常考えられないことである。
また、申立人の主張に従えば、甲1発明において生じたアーク故障が、「直列アーク」である場合には、アーク故障の発生が連絡されないことになるから、この点からも申立人の主張は不合理である。
よって、本件発明1についての申立人の主張は採用できない。

イ 本件発明2ないし5、9、10、13ないし15について
申立人は、申立書第18頁第2行?第31頁第6行において、
(ア)本件発明2ないし5、9、10、14、15は、甲1-1(甲第1号証の1)に記載された発明と甲2(甲第2号証)に記載された発明との組合せによって当業者が容易に発明をすることができたものである。
(イ)本件発明2は、甲1-1(甲第1号証の1)に記載された発明と、甲2(甲第2号証)に記載された発明と、甲3(甲第3号証)に記載された発明との組合せによって容易に発明をすることができたものである。
(ウ)本件発明13は、甲1-1(甲第1号証の1)に記載された発明と、甲2(甲第2号証)に記載された発明と、甲4(甲第4号証)に記載された発明との組合せによって容易に発明をすることができたものである。
と主張している。
しかし、本件発明2ないし5、9、10、13ないし15は、実質的に、本件発明1を引用してさらに限定した発明であるから、甲1発明とは、上記「第5」「(1)」「ア」の(相違点1)及び(相違点2)の点で少なくとも相違する。
そして、該(相違点1)及び(相違点2)に係る本件発明2ないし5、9、10、13ないし15の構成は、甲第1号証の1、甲第2号証、甲第3号証及び甲第4号証の何れにも記載されていないから、本件発明2ないし5、9、10、13ないし15についての申立人の主張は、上記「ア」で述べたのと同様の理由によって、いずれも採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし5、9、10、13ないし15に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1ないし5、9、10、13ないし15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2016-05-23 
出願番号 特願2013-555764(P2013-555764)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (G01R)
最終処分 維持  
前審関与審査官 菅藤 政明  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 清水 稔
関根 洋之
登録日 2015-07-17 
登録番号 特許第5778787号(P5778787)
権利者 エスエムエー ソーラー テクノロジー アーゲー
発明の名称 電力回路におけるアーク故障を検出するための方法およびシステム  
代理人 西村 弘  
代理人 大田 英司  
代理人 永田 良昭  
代理人 永田 元昭  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ