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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C12N
管理番号 1315960
審判番号 訂正2016-390037  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2016-03-07 
確定日 2016-05-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4739763号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4739763号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4739763号の手続の経緯は、次のとおりである。
平成15年12月16日 特許出願
平成23年 5月13日 特許権の設定登録
平成28年 3月 7日 訂正審判請求
平成28年 3月29日 審判請求書を対象とする手続補正(方式)
平成28年 4月18日 審判請求書を対象とする手続補正

第2 請求の要旨
1 請求の趣旨
本件審判の請求の趣旨は、特許第4739763号の明細書を本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおりに訂正することを認める、との審決を求めるものである。

2 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
配列表の配列番号12の位置61のGluをAlaに訂正する。

(2)訂正事項2
配列表の配列番号23の位置12のGluをAlaに訂正する。

第3 当審の判断
1 訂正事項1と訂正事項2の関係
本件特許明細書において、配列番号12は、HuMab10F8抗体の重鎖V領域のアミノ酸配列を表すものであって(段落【0261】の【図5】)、117アミノ酸からなる(配列表)。また、配列番号23は、HuMab10F8抗体の重鎖V領域のうちCDR2部分のアミノ酸配列を表すものであって(段落【0108】、【図5】)、17アミノ酸からなり、配列番号12の50?66位に一致する(配列表)。したがって、訂正事項1と訂正事項2とは、HuMab10F8抗体の重鎖V領域の同一の位置(以下、「当該位置」という。)のアミノ酸について同じように訂正するものであるから、両者をあわせて判断する。

2 願書に最初に添付した明細書及び図面の記載事項
HuMab10F8抗体の重鎖V領域の当該位置について、願書に最初に添付した明細書及び図面には、次のとおりの事項が記載されている。
(1) 「(e)前記重鎖CDR2領域のアミノ酸配列が、図5(配列番号23)に示すように、・・・そして位置12にアラニン残基を含む」(段落【0110】)
(2) 図1の「10F8V_(H)」は、HuMab10F8抗体のリーダー配列を含む重鎖V領域をコードするヌクレオチド配列であって、当該位置に相当するヌクレオチド(第2行目右から第21?19番目)は、「gca」と記載されている。
(3) 図4の「10F8」は、HuMab10F8抗体の重鎖V領域をコードするヌクレオチド配列であって、当該位置に相当するヌクレオチド(第3行目左から第13ブロック目)は、「---」と記載されている。「VH3-33生殖細胞系」の配列との対応からみて、当該「---」は、「GCA」を意味すると解される。
(4) 図5の「10F8」は、HuMab10F8抗体の重鎖V領域のアミノ酸配列であって、当該位置に相当するアミノ酸(第1行右から第6番目)は、「-」と記載されている。「VH3-33生殖細胞系」の配列との対応からみて、当該「-」は、「A」を意味すると解される。
(5) 配列表の配列番号3は、HuMab10F8抗体のリーダー配列を含む重鎖V領域をコードするヌクレオチド配列と対応するアミノ酸配列を併記したものであって、当該位置に相当するヌクレオチド/アミノ酸(第80番目のアミノ酸)は、「gca/Ala」と記載されている。
(6) 配列表の配列番号4は、HuMab10F8抗体のリーダー配列を含む重鎖V領域のアミノ酸配列であって、当該位置に相当するアミノ酸(第80番目のアミノ酸)は、「Ala」と記載されている。
(7) 配列表の配列番号10は、HuMab10F8抗体の重鎖V領域をコードするヌクレオチド配列であって、当該位置に相当するヌクレオチド(第第181?183番目)は、「gca」と記載されている。
(8) 配列表の配列番号12は、HuMab10F8抗体の重鎖V領域のアミノ酸配列であって、当該位置に相当するアミノ酸(第61番目のアミノ酸)は、「Glu」と記載されている。
(9) 配列表の配列番号20は、HuMab10F8抗体の重鎖V領域のCDR2をコードするヌクレオチド配列であって、当該位置に相当するヌクレオチド(第第34?36番目)は、「gca」と記載されている。
(10) 配列表の配列番号23は、HuMab10F8抗体の重鎖V領域のCDR2のアミノ酸配列であって、当該位置に相当するアミノ酸(第12番目のアミノ酸)は、「Glu」と記載されている。

3 訂正の目的について
本件明細書において、HuMab10F8抗体の重鎖V領域のアミノ酸配列は、HuMab10F8抗体を産生する10F8ハイブリドーマのmRNAから増幅して得た重鎖V領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を決定し、それを翻訳することによって得たものである(実施例2)。そして、上記2(2)、(3)、(5)、(7)及び(9)のとおり、願書に最初に添付した明細書及び図面において、当該位置をコードするヌクレオチドは、いずれも「gca」又は「GCA」と記載され、これは技術常識に照らして「Ala」をコードするものであるから、当業者であれば、当該位置のアミノ酸はAlaであると理解する。発明の詳細な説明において当該位置のアミノ酸について言及した上記2(1)や、アミノ酸配列を示す上記2(4)、(5)及び(6)の記載もそれと整合する。
一方、訂正事項1及び2に係る、配列表の配列番号12及び配列番号23において当該位置は「Glu」と記載されている。願書に最初に添付した明細書及び図面には、当該位置をコードするヌクレオチドとして、Gluをコードするものは記載されていないこと、及び上述のとおりの記載内容からみて、配列番号12及び配列番号23における当該位置の「Glu」は誤記であって、正しくは「Ala」であると認められる。
したがって、上記訂正事項1及び2は、特許法第126条第1項ただし書き第2号に掲げる誤記の訂正を目的とするものである。

4 新規事項の追加、並びに実質上特許請求の範囲を拡張し若しくは変更するものか否かについて
訂正事項1及び2の訂正は、いずれも、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面に記載された事項の範囲内においてなされたものといえ、同明細書、特許請求の範囲及び図面の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではなく、新規事項を追加するものではない。
また、訂正事項1及び2の訂正は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1及び2の訂正は、特許法第126条第5項及び第6項に規定される要件に適合する。

5 独立特許要件
上記4で検討したとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許請求の範囲に記載される技術的事項を変更するものではないから、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?23に記載された発明は、特許された発明と同一であり、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?23に記載された事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見当たらない。
したがって、上記訂正事項に係る訂正は、特許法第126条第7項に規定する要件に適合する。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本件審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書き第2号に掲げる事項を目的とし、かつ同条第5項ないし第7項に規定される要件に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
インターロイキン8(IL-8)に対するヒトモノクローナル抗体
【背景技術】
【0001】
発明の背景
ケモカインは、炎症反応の重要な惹起物質及び伝達物質として作用する約30種の化学走性サイトカインから成るスーパーファミリである。これらは分子量で8乃至11kDの幅があり、1乃至100ng/mLの濃度範囲で活性であり、幅広い細胞種によって産生される。
【0002】
インターロイキン8(IL-8)は以前、単球由来好中球化学走性因子(MDNCF)又は好中球誘引性/活性化タンパク質-1(NAP-1)と呼ばれ、特定の種類の白血球に対して化学走性活性を示すケモカインであり、またサイトカイン・ファミリの一メンバである。IL-8は、4つの保存度の高いシステイン残基のうちの最初の2つの間に一個のアミノ酸が存在するCXCケモカイン・ファミリの一メンバである。IL-8は、そのうちの2つの主要な形が72個のアミノ酸及び77個のアミノ酸から成るポリペプチドである。単球、マクロファージ、好中球、リンパ球、皮膚線維芽細胞、ケラチノサイト、血管内皮細胞、メラノサイト、肝細胞、及び多種の腫瘍細胞株がIL-8を産生する。IL-8は強力な好中球ケモカインであり、好中球の炎症部位への遊走に参与する。好中球の表面上に存在するその高親和受容体(CXCR1及びCXCR2)に結合すると、IL-8は、脱顆粒を促進し、細胞質内の遊離Ca^(2+)濃度を上昇させることにより、好中球を活性化すると共に、好中球の遊走を誘導して、浸潤された組織を破壊する。
【0003】
好中球炎症応答は、身体に侵入してくる細菌の破壊に必須であるが、不適切な好中球活性化は、数多くの炎症性異常を起こすことがある。例えば、IL-8は、例えば掌蹠膿疱症(PPP)病変、乾癬の鱗屑、リウマチ性関節炎(RA)患者の滑液、膿胸患者の胸膜液、特発性肺線維症の肺からの肺胞マクロファージなどの炎症部位、成人呼吸窮迫症候群、嚢胞性線維症、慢性気管支炎、及び気管支拡張症患者からの細気管支肺胞潅注液、から採集されてきた。IL-8はまた、敗血症、喘息、糸球体腎炎、炎症性腸疾患(IBD)、虚血-再潅流損傷及び多発性骨髄腫とも関連する。このような状態は、好中球の浸潤及び組織損傷が伴う炎症を特徴とする。
【0004】
IL-8はまた、血管新生、ひいては腫瘍の成長を促進することも知られている。このような活性は、IL-8配列内のELRモチーフとも関連付けられている。甲状腺癌、移行上皮癌、外毛根鞘腫、扁平細胞癌、及び黒色腫などのヒト腫瘍細胞系は、腫瘍の浸潤及び転位で役割を果たすIL-8を構成的に発現する。
【0005】
従って、IL-8に特異的な抗体は、IL-8活性により媒介される疾患を治療するために治療上、重要である。2C6と呼ばれる、ヒトIL-8に対するヒト抗体を産生するハイブリドーマが以前に解説されて(Lonberg and Kayによる米国特許第6,300,129号)いる。しかし、IL-8に特異的な更なる抗体が依然、求められている。
【0006】
発明の概要
本発明は、ヒトIL-8に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体や、このような抗体を単独で、又は、付加的な治療薬と組み合わせて含有する二重特異的及び多重特異的分子並びに他の治療用組成物を提供するものである。更に、多種のIL-8媒介性疾患を本発明の抗体及び組成物を用いて治療する方法も提供する。
【0007】
本発明の完全ヒト抗体はIL-8に結合して、IL-8のその受容体への結合を遮断することにより、IL-8機能(及びIL-8が媒介する効果)を阻害する。例えば、本抗体は、白血球のIL-8誘導性化学走性活性やIL-8誘導性カルシウム流束など、IL-8により誘導される炎症誘発性及び血管新生性効果を阻害することができる。更に本抗体は、IL-8により誘導されるCD11b(Mac-1)の発現増加やL-セレクチン(CD62L)の発現減少を阻害することもできる。従って、本発明の具体的な抗体は以下の特徴:
(i)IL-8のその受容体(CXCR1及びCXCR2)への結合を阻害する;
(ii)IL-8誘導性炎症誘発性効果を阻害する;
(iii)好中球のIL-8誘導性化学走性活性を阻害する;
(iv)IL-8誘導性カルシウム流束を阻害する;
(v)好中球上の接着分子の発現レベルにおける、IL-8誘導性変化を阻害する;
(vi)IL-8誘導性のCD11b(Mac-1)発現増加を阻害し、IL-8誘導性の、好中球上のL-セレクチン発現減少を阻害する;
(vii)ヒトGRO-α、ヒトGRO-β、ヒトIP-10及びヒトNAP-2から成る群より選択される関連するケモカインと交差反応しない;
(viii)IL-8を含め複数の化学走性因子を含有する生物学的流体により誘導される化学走性を大きく阻害する
のうちの1つ以上を有する。
【0008】
従って、本発明のヒト抗体は、IL-8活性により媒介される異常を治療及び防止する優れた手段となり、その理由は一部には、その固有の特異性(例えばエピトープ特異性や、関連するケモカインとの交差反応性のないことなど)、親和性、構造、機能的活性や、それらが完全にヒトであるために、ヒトの患者に投与されたときに、これまで作製された他のIL-8抗体(例えばマウス及びヒト化抗体)よりも免疫原性が著しく低く、また治療上、より有効であることである。
【0009】
本発明の単離されたヒト抗体には、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、分泌性IgA、IgD、及びIgEなどの多種の抗体アイソタイプが含まれる。典型的には、これらにはIgG1(例えばIgG1,κ又はIgG1,γ)、IgG3、IgG4及びIgMアイソタイプが含まれる。本抗体はインタクト(例えばIgG1又はIgG3抗体)でもよいが、あるいは、抗原結合部分(例えばFab、F(ab’)_(2)、Fv又は一本鎖Fvフラグメント)のみを含めることもできる。
【0010】
本発明の具体的な治療用抗体には、(a)それぞれ配列番号10及び配列番号6に記載された通りのヌクレオチド配列、及び、それに対して少なくとも95%相同な配列、をそれらの可変領域に含むヒト重鎖及びヒト軽鎖核酸にコードされているか、又は(b)それぞれ配列番号12及び配列番号8に示されたアミノ酸配列、及び、それに対して少なくとも95%相同な配列、を含む重鎖及び軽鎖可変領域を含む、ヒトモノクローナル抗体(HuMab)10F8及び機能的に同等な抗体、が包含される。
【0011】
本発明の更に他の具体的なヒト抗体には、ヒト重鎖及び軽鎖CDR1領域、ヒト重鎖及び軽鎖CDR2領域、及びヒト重鎖及び軽鎖CDR3領域を有するCDRドメインを含むものがあり、この場合、当該抗体は、配列番号16のV_(L)CDR1、配列番号17のV_(L)CDR2、配列番号18のV_(L)CDR3、配列番号22のV_(H)CDR1、配列番号23のV_(H)CDR2、及び配列番号24のV_(H)から成る群より選択される少なくとも1つのCDR配列を含む。少なくとも配列番号24のV_(H)CDR3を含む抗体も、配列番号16のV_(L)CDR1、配列番号17のV_(L)CDR2、配列番号18のV_(L)CDR3、配列番号22のV_(H)CDR1、配列番号23のV_(H)CDR2、及び配列番号24のV_(H)から成る群より選択される少なくとも4つのCDR配列を含む抗体、並びに、6つのCDR配列:配列番号16のV_(L)CDR1、配列番号17のV_(L)CDR2、配列番号18のV_(L)CDR3、配列番号22のV_(H)CDR1、配列番号23のV_(H)CDR2、及び配列番号24のV_(H)を含む抗体と同様に、本発明の包含するところである。
【0012】
更に本発明は、抗体10F8により規定されるヒトIL-8上のエピトープに結合し、及び/又は、IL-8への結合をめぐって抗体10F8と競合するか、又は、抗体10F8が示す他の機能的結合上の特徴を有する、抗体を包含するものである。このような抗体には、約10^(-8)M以下、10^(-9)M以下、10^(-10)M以下、又は更に10^(-11)M以下の解離平衡定数(K_(D))でIL-8に結合するものがある。このような抗体には、更に、例えばヒトGRO-α、ヒトGRO-β、IP-10又はヒトNAP-2などの関連するケモカインと交差反応せず、従ってそれらの機能を阻害しないものも含まれる。
【0013】
別の局面では、本発明のヒト抗体を、一種以上の更なる治療薬と同時投与することができる。これらをこのような作用薬と同時に(例えば一個の組成物として、又は別々に)同時投与することもでき、あるいは、このような作用薬の投与前又は投与後に投与することもできる。このような更なる作用薬には、炎症性もしくは過増殖性の皮膚異常を治療する作用薬、免疫抑制剤、抗炎症剤、又は化学療法薬を含めることができる。
【0014】
別の局面では、本発明は、一種以上の(即ち組合せの)ヒト抗IL-8抗体を薬学的に許容可能な担体と一緒に含む、薬学的又は診断用組成物などの組成物を提供するものである。本組成物には、更に、上に開示したものなどの一種以上の他の治療薬も含めることができる。
【0015】
in vivo治療及びIL-8媒介性疾患の防止に用いる場合、本発明のヒト抗体を、例えば注射又は輸注、そして抗体ベースの臨床用製品に関して当業で公知の他の投与経路など、いずれかの適した投与経路を用いて、治療上有効な投薬量を患者(例えばヒトの対象)に投与する。
【0016】
更に別の局面では、本発明は、例えば白血球のIL-8誘導性化学走性活性など、IL-8の炎症誘発性効果を阻害するための方法を提供する。
【0017】
従って、本発明のヒト抗体は、多種のIL-8媒介性疾患を、このような疾患に罹患した患者に本抗体を投与することにより、治療及び/又は防止するために用いることができる。
【0018】
本発明の方法及び組成物を用いて治療(例えば改善)又は防止することのできる疾患の例には、限定はしないが、炎症性もしくは過増殖性皮膚異常、免疫性、自己免疫性、炎症性もしくは感染性疾患、及び、腫瘍及び癌など、IL-8媒介性血管新生が関与する疾患、がある。
【0019】
更に別の局面では、本発明は、例えばIL-8関連疾患を診断するためなど、ある試料又は個体中で、IL-8の存在をin vitro又はin vivoで検出する方法を提供するものである。これはまた、IL-8関連疾患や抗IL-8抗体による治療の効果を観察したり、また、投与すべき抗体用量を決定及び調節するためにも有用であろう。ある実施態様では、検査しようとする試料を、選択的にはコントロール試料と並行して、本発明のヒトモノクローナル抗体に、本抗体及びIL-8間の複合体形成が可能な条件下で接触させることにより、IL-8の存在を検出する。その後、複合体形成を(例えばELISAを用いて)検出する。コントロール試料を検査試料と並行して用いる場合、複合体を両方の試料で検出し、これら試料間で複合体の形成に統計上有意な違いがあれば、検査試料中にIL-8が存在することの指標である。
【0020】
更なる局面では、本発明は、本発明のヒトモノクローナル抗体に結合する抗イディオタイプ抗体に関する。これらの抗イディオタイプ抗体は、研究室又は患者試料中でIL-8に対するヒトモノクローナル抗体を検出したり、そのレベルを定量するための免疫診断ツールとして用いることができる。これは、抗IL-8抗体の薬物動態を調べたり、又は、抗IL-8抗体の投薬量を決定及び調節したり、また、患者における疾患又は治療効果を観察するために、有用であろう。
【0021】
マウス抗イディオタイプ抗体は、例えばBALB/Cマウスを本発明のヒトモノクローナル抗体で免疫し、これらのマウスの脾臓から、NS1細胞などの骨髄腫細胞との標準的な技術を用いた融合によりハイブリドーマを作製するなどにより、作製することができる。
【0022】
更に別の局面では、本発明は、IL-8に結合するヒトモノクローナル抗体を発現する、トランスジェニック・マウスなどの非ヒトトランスジェニック動物を提供する。ある具体的な実施態様では、前記非ヒトトランスジェニック動物は、本発明の抗体の全部又は一部をコードするヒト重鎖導入遺伝子及びヒト軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有するトランスジェニック・マウスである。前記非ヒトトランスジェニック動物を、IL-8抗原の精製もしくは濃縮製剤、組換えIL-8抗原、及び/又は、IL-8をトランスフェクトされた細胞を含むIL-8発現細胞で、免疫することができる。好ましくは、トランスジェニック・マウスなどの本非ヒトトランスジェニック動物は、V-D-J組換え及びアイソタイプ・スイッチングを起こすことにより、IL-8に対して複数のアイソタイプのヒトモノクローナル抗体(例えばIgG、IgA及び/又はIgM)を産生することができるとよい。アイソタイプ・スイッチングは、例えば古典的もしくは非古典的アイソタイプ・スイッチングなどにより、起きるものでよい。
【0023】
従って、更に別の局面では、本発明は、ヒト抗IL-8抗体を発現する、トランスジェニック・マウスなどの上述の非ヒトトランスジェニック動物を由来とする単離されたB細胞を提供する。この単離されたB細胞を、次に、不死化細胞に融合させることにより不死化させて、ヒト抗IL-8抗体の供給源(例えばハイブリドーマ)とすることができる。このようなハイブリドーマ(即ち、ヒト抗IL-8抗体を産生する)も、本発明の範囲内に含まれる。
【0024】
ここで例示するように、本発明のヒト抗体は、本抗体を発現するハイブリドーマから直接得ることも、あるいは、fju7m(例えばCHO細胞、又はNS/0細胞)でクローニング及び組換え発現させることもできる。ホスト細胞の更なる例は、HEK293細胞、植物細胞、E.coliなどの微生物及び酵母などの真菌である。代替的には、これらを非ヒトトランスジェニック動物又は植物で組換えにより産生させることもできる。
【0025】
従って、更に別の局面では、本発明は、ヒト抗IL-8抗体をコードする核酸分子や、本発明の前記核酸を含む組換え発現ベクタ、及び、このようなベクタをトランスフェクトしたホスト細胞、を提供するものである。これらのホスト細胞を培養することにより本抗体を作製する方法も、本発明の包含するところである。本発明により提供される具体的な核酸は、それぞれ10F8の重鎖及び軽鎖をコードする、配列番号10及び配列番号6に示されたヌクレオチド配列を含むものである。
【0026】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び実施例から明白であろうが、以下の実施例を限定的なものとして捉えられてはならない。
【0027】
発明の詳細な説明
本発明は、ヒトIL-8に結合する優れたヒト抗体と、IL-8により媒介される多種の異常(例えばIL-8の炎症誘発性効果及び血管新生性効果により引き起こされる異常など)を治療及び診断するための抗体ベースの治療法とを提供するものである。ここで用いる場合の用語「炎症誘発性効果」には、例えば白血球の化学走性活性など、IL-8により誘導されるあらゆる体液性もしくは細胞媒介性免疫応答が含まれる。用語「IL-8の血管新生性効果」には、IL-8により誘導される新しい血管の成長又は腫瘍細胞の血管分布が含まれる。本発明の治療法は、特にヒトの治療において、IL-8に結合してこのようなIL-8の機能を阻害するヒトモノクローナル抗体を利用するものである。
【0028】
ある実施態様では、本抗体は、IgG1抗体、より具体的にはIgG1,κアイソタイプ、又はIgG1,γアイソタイプである。別の実施態様では、本抗体は、IgG3抗体、より具体的にはIgG3,κ又はIgG3,γアイソタイプである。更に別の実施態様では、本抗体は、IgG4抗体、より具体的にはIgG4,κ又はIgG4,γアイソタイプである。更に別の実施態様では、本抗体は、IgA1又はIgA2抗体である。更なる実施態様では、本抗体はIgM抗体である。
【0029】
ある実施態様では、本ヒト抗体を、V-D-J組換え及びアイソタイプ・スイッチングを起こすことにより、IL-8に対して複数のアイソタイプのヒトモノクローナル抗体(例えばIgG、IgA及び/又はIgE)を産生することができる、トランスジェニック・マウスなどの非ヒトトランスジェニック動物で産生させる。このようなトランスジェニック動物は、例えばUS 2003/0017534に開示されたものなど、ポリクローナル抗体を産生するトランスジェニック・ウサギであってもよい。従って、本発明は、IL-8に特異的に結合するヒトポリクローナル抗体も包含する。従って、本発明の数々の局面には、抗体、抗体フラグメント、及びその医薬組成物だけでなく、モノクローナル抗体を産生する非ヒトトランスジェニック動物、B細胞、ハイブリドーマ及びトランスフェクトーマも含まれる。本発明の抗体を用いて、IL-8を産生する細胞をin vitro又はin vivoで検出する方法も本発明に包含される。本発明の抗体を用いて、例えば炎症誘発性活性、化学走性活性、及び血管新生などのIL-8誘導性活性を遮断又は阻害する方法も提供されており、IL-8に関連する異常の治療において有用である。
【0030】
ある実施態様では、本発明のヒト抗体を、例えば掌蹠膿疱症(ppp)、プラーク乾癬及び滴状乾癬を含む乾癬、水疱性類天疱瘡などの水疱性皮膚疾患、接触性皮膚炎、湿疹、エリテマトーデス、及びアトピー性皮膚炎などの炎症性もしくは過増殖性皮膚異常を治療する方法において、用いることができる。
【0031】
別の実施態様では、本発明のヒト抗体を、免疫性、自己免疫性、炎症性もしくは感染性疾患、例えば乾癬性関節炎、全身性強皮症及び硬化症、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、急性肺損傷、例えば急性呼吸器窮迫症候群又は成人呼吸器窮迫症候群、髄膜炎、脳炎、ブドウ膜炎、多発性骨髄腫、糸球体腎炎、腎炎、喘息、アテローム性硬化症、白血球接着不全、多発性硬化症、レイノー症候群、シェーグレン症候群、若年発症性糖尿病、ライター病、ベーチェット病、免疫複合体腎炎、IgAニューロパチー、IgMポリニューロパチー、免疫媒介性血小板減少症、例えば急性特発性血小板減少性紫斑病及び慢性特発性血小板減少性紫斑病、溶血性貧血、重症筋無力症、ループス腎炎、紅斑性狼瘡、リウマチ性関節炎(RA)、強直性脊椎炎、天疱瘡、グレーブズ病、橋本甲状腺炎、小血管血管炎、例えばウェゲナー肉芽腫症、オーメン症候群、慢性腎不全、自己免疫性甲状腺疾患、急性感染性単核細胞症、HIV、疱疹ウィルス関連疾患、ヒトウィルス感染、例えばヒトライノウィルス、コロナウィルス、他のエンテロウィルス、疱疹ウィルス、インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルス、呼吸器発疹ウィルス又はアデノウィルス感染により引き起こされる通常の風邪、細菌性肺炎、創傷、敗血症、脳卒中/脳水腫、虚血-再潅流損傷及びC型肝炎などを治療する方法において用いることができる。
【0032】
ある実施態様では、本ヒトモノクローナル抗体を、血小板崩壊、心-肺バイパス、経皮冠状介入(PCI)、冠状動脈バイパス、又は心臓移植後の虚血-再潅流損傷の治療で用いることができる。
【0033】
更に別の実施態様では、本発明のヒト抗体を、アルコール性肝炎及び急性膵炎の治療で用いることができる。
【0034】
更なる実施態様では、本発明のヒト抗体を、例えば黒色腫、甲状腺癌、移行上皮眼、外毛根鞘腫、扁平細胞癌及び乳癌などの腫瘍及び癌など、IL-8媒介性血管新生が関与する疾患を治療するための方法で用いることができる。
【0035】
別の実施態様では、本発明のヒト抗体を、顆粒球遊走を遮断すると有益である疾患の治療に用いることができ、例えば
孤立性脳血管炎など、中枢神経系に罹患する疾患;
多発性単神経炎などの末梢神経系に罹患する疾患;
急性心筋梗塞、心筋炎、心膜炎、及びリーブマン-ザックス心内膜炎などの心臓血管異常;
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺胞炎、閉塞性細気管支炎、嚢胞性線維症、アレルギー性アスペルギルス症、及びレフレル症候群などの肺の異常;
硬化性胆管炎などの肝臓の異常;
慢性シクティティス(原語:cyctitis)などの尿生殖器の異常;
細管-間質性腎炎などの腎臓の異常;
重症急性呼吸器症候群(SARS)などの感染性疾患;
大血管血管炎(巨大細胞動脈炎、リウマチ性多発性筋痛、及び高安関節炎を含む)、中程度の大きさの血管の血管炎(結節性多発性動脈炎、局所性結節性多発性動脈炎、及び川崎病を含む)、小血管血管炎(チャーグ・ストラウス症候群、顕微鏡的多発性動脈炎、クリオグロブリン血管炎、及び白血球溶解性血管炎を含む)、二次性血管炎(リウマチ性血管炎、及び全身性エリテマトーデス又はシェーグレン症候群に関連する血管炎を含む)、孤立性仙腸骨炎、SAPHO症候群、及びディスキイティス(原語:disciitis)(術後ディスキイティスを含む)などのリウマチ性異常;
亜急性甲状腺炎などの内分泌異常;
良性粘膜類天疱瘡、疱疹状皮膚炎、角層下膿疱症、後天性表皮水疱症、酒さ、急性熱性皮膚病、環状肉芽腫(スイート症候群を含む)、壊疽性膿皮症、及びざ瘡(集簇性ざ瘡を含む)などの皮膚の異常;
サルコイドーシス、再発性多発性軟骨炎、家族性地中海熱、皮下脂肪組織炎、結節性紅斑、ウェーバー-クリスチャン病、及び後腹膜線維化症などの結合組織の異常、
の治療に用いることができる。
【0036】
別の実施態様では、本発明のヒト抗体を、IL-8と破骨細胞との間の相互作用に干渉すると有益であるような、例えば骨粗鬆症及び骨融解性転移などの疾患の治療に用いる。
【0037】
別の実施態様では、本発明のヒト抗体を、IL-8と腫瘍細胞との間の相互作用に干渉すると有益であるような、例えば胃癌、結腸直腸癌、及び膀胱癌などの疾患の治療に用いる。
【0038】
本発明がより容易に理解されるように、いくつかの用語をまず定義しておく。更なる定義は、詳細な説明の全体に記載されている。
【0039】
用語「IL-8」、「IL-8抗原」及び「インターロイキン8」はここでは交換可能に用いられており、細胞が天然で発現したり、あるいは、IL-8遺伝子をトランスフェクトされた細胞が発現する、あらゆるバリアント又はアイソフォームを包含する。
【0040】
ここで言及する用語「抗体」とは、インタクト抗体及びそのいずれかの抗原結合フラグメント(即ち「抗原結合部分」)又は一本鎖を包含するものである。「抗体」とは、ジスルフィド結合により相互に接続された少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖とを含む糖タンパク質、又はその抗原結合部分を言う。各重鎖は、重鎖可変領域(ここではV_(H)と省略する)及び重鎖定常領域から成る。各軽鎖は、軽鎖可変領域(ここではV_(L)と省略する)及び軽鎖定常領域から成る。前記V_(H)及びV_(L)領域はさらに、より保存されたフレームワーク領域(FR)と呼ばれる領域に散在する相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に小さく分割することができる。各V_(H)及びV_(L)は、3つのCDR及び4つのFRが、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端まで並んだものから成る。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、免疫系の多種の細胞(例えばエフェクタ細胞)や古典的補体系の第一コンポーネント(C1q)を含むホスト組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介しているようである。
【0041】
抗体の「抗原結合部分」(又は単に「抗体部分」)という用語は、ここで用いる場合、抗体のうちで、抗原(例えばIL-8)に対する結合能を維持した1つ以上のフラグメントを言う。抗体の抗原結合機能はインタクト抗体のうちの数フラグメントに行わせることができることが示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合フラグメントの例には、(i)V_(L)、V_(H)、C_(L)及びC_(H1)ドメインから成る一価のフラグメントであるFabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結された2つのFabフラグメントから成る二価のフラグメントであるF(ab’)_(2)フラグメント;(iii)V_(H)及びC_(H1)ドメインから成るFdフラグメント;(iv)抗体の一本のアームのV_(L)及びV_(H)ドメインから成るFvフラグメント;(v)V_(H)ドメインから成るdAbフラグメント(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);及び(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、例えばV_(H)CDR3、がある。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインV_(L)及びV_(H)は別々の遺伝子にコードされているが、これらは、V_(L)及びV_(H)領域が対を成して一価の分子を形成するような一個のタンパク質鎖に作製できるようにする合成リンカーにより、組換え法を用いて接合することができる(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えばBird et al.(1988)Science 242:423-426;and Huston et al.(1988)Proc Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照されたい)。このような一本鎖抗体もまた、抗体の「抗原結合部分」という用語に包含されるものと、意図されている。更に、該抗原結合フラグメントには、(i)免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに融合した結合ドメインポリペプチド(例えば、重鎖可変領域、軽鎖可変領域、又は、リンカー・ペプチドを介して軽鎖可変領域に融合した重鎖可変領域、など)、(ii)ヒンジ領域に融合した免疫グロブリン重鎖CH2定常領域、及び(iii)CH2定常領域に融合した免疫グロブリン重鎖CH3定常領域、を含む結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質がある。該ヒンジ領域は、好ましくは、二量体化を防ぐために、一つ以上のシステイン残基をセリン残基に置換する改変が行われているとよい。このような結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質は、更に、US 2003/0118592及びUS 2003/0133939に開示されている。これらの抗体フラグメントは、当業者に公知の従来技術を用いて得られ、それらのフラグメントは、インタクト抗体と同じ態様で実用性についてスクリーニングされている。
【0042】
用語「エピトープ」は、抗体に特異的に結合することのできるタンパク質決定基を意味する。エピトープは通常、アミノ酸又は糖側鎖などの化学的に活性な表面分子群から成り、通常は特異的な三次元構造上の特徴や、特異的な電荷上の特徴を有する。コンホメーション的及び非コンホメーション的エピトープは、変性溶媒の処理で前者への結合は失われるが、後者への結合は失われないことで区別される。
【0043】
ここで用いる(例えばIL-8のその受容体、CXCR1及びCXCR2への結合の阻害/遮断を言及した)用語「結合を阻害する」及び「結合を遮断する」は交換可能に用いられており、部分的及び完全な阻害/遮断の両方を包含する。好ましくは、IL-8の阻害/遮断により、阻害又は遮断なしでIL-8が結合したときに起きる正常なレベル又は種類の活性が低下又は変化するとよく、例えばIL-8誘導性エラスターゼ放出又はカルシウム流束の阻害、あるいは、IL-8誘導性のCD11b(Mac-1)発現増加の阻害、及びL-セレクチン発現減少の阻害などである。さらに阻害及び遮断は、抗IL-8抗体に接触していないIL-8に比較した場合の、抗IL-8抗体に接触したときのIL-8の結合親和性のあらゆる測定可能な低下、例えば、IL-8のその受容体に対する結合の少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、99%、又は100%の結合遮断など、を包含することを意図している。
【0044】
ここで用いる用語「モノクローナル抗体」又は「モノクローナル抗体組成物」とは、単一の分子組成から成る抗体分子の製剤を言う。モノクローナル抗体組成物は単一の結合特異性及び親和性を特定のエピトープに対して示す。従って、用語「ヒトモノクローナル抗体」とは、単一の結合特異性を示すと共に、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列を由来とする可変領域及定常領域を有するような抗体を言う。ある実施態様では、本ヒトモノクローナル抗体は、ヒト重鎖導入遺伝子及び軽鎖導入遺伝子を含むゲノムを有する、トランスジェニック・マウスなどの非ヒトトランスジェニック動物から得たB細胞を、不死化細胞に融合させて含むハイブリドーマにより産生される。
【0045】
用語「組換えヒト抗体」は、ここで用いられる場合、組換え手段により調製された、発現した、創出された又は単離されたあらゆるヒト抗体を包含することが意図されており、例えば(a)ヒト免疫グロブリン遺伝子についてトランスジェニック又はトランスクロモゾマルの動物(例えばマウス)から、又は、それから調製されたハイブリドーマから、単離された抗体(下の項Iにさらに解説する)、(b)例えばトランスフェクトーマなど、当該抗体を発現するように形質転換されたホスト細胞から単離された抗体、(c)組換えの、コンビナトリアル・ヒト抗体ライブラリから単離された抗体、及び(d)ヒト免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングが関与するいずれかの他の手段により調製された、発現した、創出された又は単離された抗体、である。このような組換えヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列を由来とする可変及び定常領域を有する。しかしながら、いくつかの実施態様では、このような組換えヒト抗体に、in vitro変異誘発を行って(又はヒトIg配列についてトランスジェニックな動物を用いる場合はin vivo体細胞変異誘発を行って)、組換え抗体のV_(H)及びV_(L)領域のアミノ酸配列が、ヒト生殖細胞系V_(H)及びV_(L)配列を由来とし、そして関連しながらも、in vivoのヒト抗体生殖細胞系レパートリー内に天然では存在しないであろう配列にすることができる。
【0046】
ここで用いる場合の「異種抗体」は、このような抗体を産生する非ヒトトランスジェニック生物との関連から定義される。この用語は、非ヒトトランスジェニック動物を構成しない生物に見られるものに相当するアミノ酸配列又はコーディング核酸配列を有する抗体であって、一般的には非ヒトトランスジェニック動物の種以外のそれを由来とする抗体を言う。
【0047】
ここで用いる「単離された抗体」とは、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を言うものと、意図されている(例えばIL-8に結合する単離された抗体はIL-8以外の抗原に結合する抗体を実質的に含まない)。しかしながら、ヒトIL-8のエピトープ、アイソフォーム又はバリアントに結合する単離された抗体であれば、例えば他の種由来など(例えばIL-8の種相同体)、他の関連する抗原に対して交差反応性を有するであろう。さらに、単離された抗体は、他の細胞物質及び/又は化学物質を実質的に含まないであろう。本発明のある実施態様では、異なる特異性を有する「単離された」モノクローナル抗体の組合せを、良く定義された組成で組み合わせる。
【0048】
ここで用いる「特異的結合」とは、所定の抗原への抗体の結合を言う。典型的には、本抗体は約10^(-8)M以下のK_(D)に相当する親和性で結合し、所定の抗原に対しては、前記所定の抗原又は関係の近い抗原以外の非特異的な抗原(例えばBSA、カゼイン)に対するその結合親和性よりも(K_(D)で表して)少なくとも10倍、そして好ましくは少なくとも100倍小さい親和性で結合する。代替的には、抗体は少なくとも約1×10^(7)M^(-1)以上のK_(A)に相当する親和性で結合することができ、所定の抗原に対しては、前記所定の抗原又は関係の近い抗原以外の非特異的な抗原(例えばBSA、カゼイン)に対するその結合親和性よりも(K_(A)で表して)少なくとも10倍高い、そして好ましくは少なくとも100倍高い親和性で結合することができる。文言「抗原を認識する抗体」及び「抗原に特異的な抗体」はここでは用語「抗原に特異的に結合する抗体」と交換可能に用いられている。
【0049】
ここで用いられる用語「k_(d)」(sec^(-1))とは、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度定数を言うものと、意図されている。前記数値は、k_(off)値とも言及される。
【0050】
ここで用いられる用語「k_(a)」(M^(-1)x sec^(-1))とは、特定の抗体-抗原相互作用の結合速度定数を言うものと、意図されている。
ここで用いる用語「K_(A)」(M)とは、特定の抗体-抗原相互作用の結合平衡定数を言うものと、意図されている。
【0051】
ここで用いる用語「K_(D)」(M^(-1))とは、特定の抗体-抗原相互作用の解離平衡定数を言うものと、意図されている。
【0052】
ここで用いられる「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子にコードされた抗体クラス(例えばIgM又はIgG1)を言う。
【0053】
ここで用いる「アイソタイプ・スイッチング」とは、抗体のクラス、又はアイソタイプ、が、あるIgクラスから他のIgクラスのうちの一つに変化する現象を言う。
【0054】
ここで用いる「スイッチングのないアイソタイプ」とは、アイソタイプ・スイッチングが起きていないときに産生される重鎖のアイソタイプ・クラスを言い、スイッチングのないアイソタイプをコードするCH遺伝子は、典型的には、機能上の再編成の起きたVDJ遺伝子のすぐ下流の一番目にあるCH遺伝子である。アイソタイプ・スイッチングは、古典的もしくは非古典的なアイソタイプ・スイッチングに分類されてきた。古典的なアイソタイプ・スイッチングは、導入遺伝子中の少なくとも一つのスイッチ配列領域が関与する組換え事象により起きるものである。非古典的アイソタイプ・スイッチングは、例えばヒトσ_(μ)とヒトΣ_(μ)との間の相同組換え(δ関連欠失)などで起きることがある。その他の非古典的スイッチング機序、なかでも例えば導入遺伝子間及び/又は染色体間の組換えなどがあると、アイソタイプ・スイッチングが起きることがある。
【0055】
ここで用いる用語「スイッチ配列」とは、スイッチ組換えを担うDNA配列を言う。「スイッチ・ドナー」配列は典型的にμスイッチ領域であり、スイッチ組換えの際に欠失するコンストラクト領域の5’側(即ち上流)にあるであろう。「スイッチ・アクセプター」領域は、欠失するコンストラクト領域と、置換定常領域(例えばγ、ε、等)との間にあるであろう。
【0056】
ここで用いる「糖付加パターン」は、タンパク質、より具体的には免疫グロブリンタンパク質、に共有結合する糖単位のパターンであると定義しておく。ある異種抗体の糖付加パターンが、導入遺伝子のC_(H)遺伝子の由来となった種よりも当該の非ヒトトランスジェニック動物の種の糖付加パターンの方により似ていると当業者が認識するのであれば、この異種抗体の糖付加パターンを、前記非ヒトトランスジェニック動物の種の産生する抗体に天然で起きる糖付加パターンに実質的に同様であると特徴付けることができる。
【0057】
ある物質に対してここで用いられる用語「天然で発生する」とは、物質が自然界に見られる事実を言う。例えば、(ウィルスを含む)生物中に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチド配列であって、天然にある源から単離することができ、実験室で人間により意図的な改変を加えられていないポリペプチド又はポリヌクレオチド配列は天然で発生したものである。
【0058】
ここで用いる用語「再編成される」とは、Vセグメントが、D-J又はJセグメントのすぐ隣に位置することで、それぞれ完全V_(H)又はV_(L)ドメインを実質的にコードするコンホメーションとなるような重鎖又は軽鎖免疫グロブリン遺伝子座の配置を言う。再編成の起きた免疫グロブリン遺伝子座は、生殖細胞系DNAに比較することで特定することができ、再編成の起きた遺伝子座は少なくとも一つの組換えられた7量体/9量体相同配列を有するであろう。
【0059】
Vセグメントに関してここで用いる用語「再編成のない」又は「生殖細胞系の配置」とは、VセグメントがD又はJセグメントのすぐ隣に来るように組換えられていない配置を言う。
【0060】
ここで用いる用語「核酸分子」には、DNA分子及びRNA分子が包含されるものと、意図されている。核酸分子は一本鎖でも、又は二本鎖でもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0061】
IL-8に結合するインタクト抗体又は抗体部分(例えばV_(H)、V_(L)、CDR3など)をコードする核酸に関してここで用いる用語「単離された核酸分子」とは、当該インタクト抗体又は抗体部分をコードするヌクレオチド配列が、IL-8以外の抗原に結合するインタクト抗体又は抗体部分をコードする、天然ではヒトゲノムDNA中で当該核酸をフランクしているであろう他のヌクレオチド配列を含まないような核酸分子を言うものと、意図されている。ある実施態様では、本ヒト抗IL-8抗体は、10F8のアミノ酸配列や、それぞれ配列番号12及び8に示された配列を有する、又は、配列番号:10及び6に示されたヌクレオチド配列にコードされた、重鎖(V_(H))及び軽鎖(V_(L))可変アミノ酸領域を含む。
【0062】
さらに本発明は、前記のアミノ酸残基のうちの1つ以上が、前記アミノ酸配列を含有する抗体の結合特徴に大きく影響する又は変えることなく、アシル化又は糖付加などにより誘導体化されているような、配列番号8又は12に記載した通りのアミノ酸配列の「誘導体」も包含する。
【0063】
さらに本発明は、本抗体の機能的又は薬物動態上の特性を変えるために、Fc領域中に一箇所以上の変更が行ってある抗体も包含する。このような変更の結果、C1qの結合やCDC(補体依存的細胞傷害性)の減少又は増加、あるいは、FcγRの結合及び抗体依存的細胞傷害性(ADCC)の減少又は増加がもたらされるであろう。置換を、例えば、重鎖定常領域のアミノ酸位置234、235、236、237、297、318、320及び322の1つ以上で行うことで、未改変の抗体に比較して抗原への結合能を維持したままエフェクタ機能を変えることができる。US 5,624,821及びUS 5,648,260を参照されたい。更に、ADCCを増加させるFc領域の変更のある抗体を開示したWO 00/42072、及び、CH2ドメインのN末端領域を変異させて、FcRIに対する本抗体の結合能を変化させることで、C1qへの本抗体の結合能を減少させ、ひいては本抗体の補体固定能を減少させた抗体を開示したWO 94/29351を参照してもよい。更に、Shields et al.,J.Biol.Chem.(2001)276:6591-6604は、FcγRIII結合を高める組合せバリアント、例えばT256A/S298A、S298A/E333A、及びS298A/E333A/K334A、を教示している。
【0064】
本抗体のin vivo半減期を、当該分子がインタクトCH2ドメイン又はインタクトIgFc領域を含まないように、当該Ig定常ドメイン又はIg様定常ドメインのサルベージ受容体エピトープを改変することで向上させることもできる。US 6,121,022及びUS 6,194,551を参照されたい。該in vivo半減期は、更に、例えば位置252でスレオニンをロイシンに、位置254でスレオニンをセリンに、又は位置256でスレオニンをフェニルアラニンに置換するなどにより、Fc領域で変異を作ることでも増加させることができる。US 6,277,375を参照されたい。
【0065】
更に、本抗体のエフェクタ機能を変えるために、本抗体の糖付加パターンを改変することができる。例えば、Fcの位置297のAsnに付着した糖に通常付着させられるフコース単位を加えないトランスフェクトーマで本抗体を発現させることができ、それによりFcγRIIIに対するFcの親和性が高まり、ひいては、NK細胞の存在下での本抗体のADCCが増加するであろう。Shield et al.(2002)JBC,277:26733を参照されたい。さらに、ガラクトシル化の改変を、CDCを改変するために行うこともできる。更に、GntIIIを発現するように操作して、糖の形が変化し、ADCC活性の向上したモノクローナル抗体が発現するようにしたCHO細胞株を開示しているWO 99/54342及びUmana et al.,Nat.Biotechnol.(1999)17:176を参照されたい。
【0066】
更に、Fabフラグメントなどの本発明の抗体フラグメントをPEG化して半減期を高めることができる。これは、例えばFocus on Growth Factors(1992)3:4-10、EP 154 316及びEP 401 384に解説されているような、当業で公知のPEG化反応により、行わせることができる。
【0067】
従って、本発明は、ここに開示された(重鎖及び軽鎖可変領域)ヌクレオチド配列にコードされた、及び/又は、ここに開示された(重鎖及び軽鎖可変領域)アミノ酸配列(即ち配列番号10、6、12、及び8)を含有する、抗体を包含するものである。
【0068】
核酸及びアミノ酸配列に関し、用語「相同性」は、最適にアライメント及び比較したときに、適当な挿入又は欠失がありながらも、2つの配列同士の間の同一性の程度を指す。代替的には、数DNAセグメントが選択的ハイブリダイゼーション条件下で当該鎖の相補配列にハイブリダイズするときに、実質的な相同性が存在することとする。
【0069】
二つの配列間のパーセント同一性は、これら二つの配列を最適にアライメントするのに導入せねばならないギャップの数、及び各ギャップの長さを考慮に入れたときの、これら配列に共通の同一位置の数の関数である(即ち、%相同性=同一位置の数/位置の総数×100)。二つの配列間の配列の比較及びパーセント同一性の決定は、以下の非限定的な例に解説するように、数学的アルゴリズムを用いて行うことができる。
【0070】
二つのヌクレオチド間のパーセント同一性は、GCGソフトウェア・パッケージ(http://www.gcg.comで入手できる)のGAPプログラムを用い、NWSgapdna.CMPマトリックスを用いて、ギャップ・ウェイトを40、50、60、70、又は80にし、そしてレングス・ウェイトを1、2、3、4、5、又は6にして決定することができる。二つのヌクレオチド又はアミノ酸配列間のパーセント同一性はまた、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれたE.マイヤース及びW.ミラーのアルゴリズム(Comput.Appl.Biosci.,4:11-17(1988))を用い、PAM120ウェイト残基表を用いて、ギャップ・レングス・ペナルティを12、そしてギャップ・ペナルティを4にして、決定することもできる。さらに、二つのアミノ酸配列間のパーセント同一性は、GCGソフトウェア・パッケージ(http://www.gcg.comで入手できる)のGAPプログラムに組み込まれたニードルマン及びワンシュ(J.Mol.Biol.(48):444-453(1970))のアルゴリズムを用い、Blossum62マトリックス又はPAM250マトリックスのいずれかを用いて、ギャップ・ウェイトを16、14、12、10、8、6、又は4にし、レングス・ウェイトを1、2、3、4、5、又は6にして、決定することができる。
【0071】
さらに本発明の核酸及びタンパク質の配列を「クエリー配列」として利用して、公開データベースの検索を行って、例えば関連する配列を同定することなどができる。このような検索は、Altschul,et al.(1990)J.Mol.Biol.215:403-10のNBLAST及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)を利用すれば行うことができる。BLASTヌクレオチド検索を、NBLASTプログラムを用い、スコア=100、ワード長=12にして行うと、本発明の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得ることができる。BLASTタンパク質検索を、XBLASTプログラムを用い、スコア=50、ワード長=3にして行うと、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較を目的としてギャップのあるアライメントを行うには、Gapped BLASTをAltschul et al.,(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402が解説するとおりに利用することができる。BLAST及びGapped BLASTプログラムを利用する場合、各プログラムの(例えばXBLAST及びNBLAST)のデフォルト・パラメータを利用することができる。http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照されたい。
【0072】
当該核酸は全細胞中にあっても、細胞ライセート中にあっても、又は部分的に精製されたもしくは実質的に純粋な形で存在してもよい。核酸は、アルカリ/SDS処理、CsClバンディング、カラム・クロマトグラフィ、アガロースゲル電気泳動法、及び当業で公知の他の技術を含む標準的な技術により、例えば他の細胞内核酸又はタンパク質など、他の細胞成分又は他の混入物質を取り除いて精製されている場合に、「単離されている」又は「実質的に純粋にされた」ことになる。F.Ausubel,et al.,ed.Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing and Wiley Interscience,New York(1987)を参照されたい。
【0073】
cDNA、ゲノム又は混合物由来である本発明の核酸組成物は、しばしば天然配列(改変された制限部位等を除き)のままであるが、遺伝子配列を提供する標準的技術に従って変異させてもよい。コーディング配列の場合、これらの変異は、必要に応じアミノ酸配列を左右するものでもよい。具体的には、ここで解説した天然V、D、J、定常、スイッチ及び他のこのような配列に実質的に相同又は由来とするDNA配列が考えられる(この場合、「由来する」が、ある配列が別の配列と同一か、もしくは別の配列から改変されていることを指す)。
【0074】
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に置かれたときに「作動的に連結された」ことになる。例えば、あるプロモータ又はエンハンサが、あるコーディング配列の転写を左右するのであれば、その配列に作動的に連結されていることになる。転写制御配列に関する場合、作動的に連結されたとは、連結しようとするDNA配列が連続していることを意味し、また2つのタンパク質コーディング領域を接合するために必要な場合には、連続し、かつ読み取り枠内にあることを意味する。スイッチ配列の場合には、作動的に連結された、とは、当該配列がスイッチ組換えを起こし得ることを指す。
【0075】
ここで用いる用語「ベクタ」とは、連結された先の別の核酸を輸送することのできる核酸分子を言うものと、意図されている。ベクタの一種が、付加的なDNAセグメントを中に連結できる環状の二本鎖DNAループを言う「プラスミド」である。ベクタのもう一つの種類がウィルスベクタであり、この場合、付加的なDNAセグメントは、ウィルスゲノム内にライゲートさせることができる。いくつかのベクタは、導入された先のホスト細胞内で自律的複製が可能である(例えば細菌の複製開始点を有する細菌ベクタや、エピソームほ乳類ベクタなど)。他のベクタ(例えば非エピソームほ乳類ベクタなど)は、ホスト細胞に導入されるや、ホスト細胞のゲノムに組み込まれるため、ホストゲノムと一緒に複製させることができる。さらに、いくつかのベクタは、作動的に連結された先の遺伝子の発現を命令することができる。このようなベクタをここでは「組換え発現ベクタ」(又は単に「発現ベクタ」)と呼ぶ。一般的に、組換えDNA技術で実用性のある発現ベクタは、しばしばプラスミドの形である。本明細書では、プラスミドが最も普通に用いられている形のベクタであるため、「プラスミド」及び「ベクタ」を交換可能に用いている場合がある。しかしながら、本発明には、例えばウィルスベクタ(例えば複製欠陥レトロウィルス、アデノウィルス及びアデノ随伴ウィルス)など、同等の機能を果たす他の形のこのような発現ベクタも包含されることが、意図されている。
【0076】
ここで用いる用語「組換えホスト細胞(又は単に「ホスト細胞」)とは、組換え発現ベクタが導入された細胞を言うものと、意図されている。このような用語は、特定の対象細胞だけでなく、このような細胞の後代も言うものと意図されていることは、理解されねばならない。突然変異又は環境による影響が原因で、特定の改変が継代に起きる場合があるため、このような後代は実際には親細胞と同一でないかも知れないが、それでも尚、ここで用いる用語「ホスト細胞」の範囲内に含まれる。組換えホスト細胞には、例えば、CHO細胞及びNS/0細胞などがある。
【0077】
用語「トランスフェクトーマ」は、ここで用いる場合、例えばCHO細胞、NS/0細胞、HEK293細胞、植物細胞、又は酵母細胞を含む真菌など、本抗体を発現する組換え真核ホスト細胞を包含する。
【0078】
ここで用いられる場合の用語「対象」には、あらゆるヒト又は非ヒトの動物が含まれる。用語「非ヒト動物」には、例えばヒト以外の霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ニワトリ、両生類、は虫類等、ほ乳類及び非ほ乳類などのあらゆる脊椎動物が含まれる。
【0079】
用語「非ヒトトランスジェニック動物」とは、一種以上のヒト重鎖及び/又は軽鎖導入遺伝子又はトランスクロモゾーム(を当該動物の天然ゲノムDNAに組み込ませて又は組み込ませずに)含むゲノムを有すると共に、完全ヒト抗体を発現することのできる非ヒト動物を言う。例えば、トランスジェニック・マウスは、このマウスが、IL-8抗原及び/又はIL-8発現細胞で免疫されたときに、ヒト抗IL-8抗体を産生するように、ヒト軽鎖導入遺伝子と、ヒト重鎖導入遺伝子又はヒト重鎖トランスクロモゾームのいずれかとを有することができる。該ヒト重鎖導入遺伝子を、例えばHuMAbマウスなどのトランスジェニック・マウスの場合のように、当該マウスの染色体DNA中に組み込むことができるが、あるいは、該ヒト重鎖導入遺伝子を、WO 02/43478に解説されているように、トランスクロモゾーマル(例えばKM)マウスの場合のように、染色体外に維持することもできる。このようなトランスジェニック及びトランスクロモゾーマル・マウスは、V-D-J組換え及びアイソタイプ・スイッチングを起こすことにより、IL-8に対して複数のアイソタイプ(例えばIgG、IgA及び/又はIgE)のヒトモノクローナル抗体を産生することができる。非ヒトトランスジェニック動物はまた、例えば動物の乳内で発現される遺伝子に当該遺伝子を作動的に連結させるなどにより、特異的抗IL-8抗体をコードする遺伝子を導入することにより、このような特異的抗IL-8抗体の産生に用いることもできる。
【0080】
本発明の多様な局面を以下の小項でさらに詳述する。
【0081】
I.IL-8に対するヒト抗体の作製
本発明のヒトモノクローナル抗体は、従来のモノクローナル抗体法、例えばKohler and Milstein(1975)Nature 256:495の標準的な体細胞ハイブリダイゼーション技術など、従来のモノクローナル抗体法を含む多様な技術により作製することができる。体細胞ハイブリダイゼーション法が基本的には好適であるが、モノクローナル抗体を作製する他の技術、例えばBリンパ球のウィルス又は腫瘍形成性形質転換など、も利用することができる。
【0082】
ハイブリドーマを調製するための好適な動物系はマウス系である。マウスにおけるハイブリドーマ作製は大変よく確立された手法である。融合用の免疫化脾細胞の免疫プロトコル及び単離のための技術は当業で公知である。融合相手(例えばマウス骨髄腫細胞)及び融合法も公知である。
【0083】
ある好適な実施態様では、IL-8を狙ったヒトモノクローナル抗体は、マウス系ではなくヒト免疫系の一部を持つトランスジェニック・マウスを用いて作製することができる。これらのトランスジェニック・マウスはここでは「HuMAb」マウスと呼ばれ、再編成していないヒト重鎖(μ及びγ)及びκ軽鎖免疫グロブリン配列をコードするヒト免疫グロブリン遺伝子最小遺伝子座を、内因性のμ及びκ鎖遺伝子座を失活させる標的設定された変異と一緒に含有する(Lonberg,et al.(1994)Nature 368(6474):856-859)。従って、このマウスの示すマウスIgM又はκ軽鎖の発現は低く、免疫処置に応答して、導入されたヒト重鎖及び軽鎖導入遺伝子がクラス・スイッチング及び体細胞変異を起こすことにより高親和ヒトIgGκモノクローナルが生じる(Lonberg,N.(1994)Handbook of Experimental Pharmacologyで113:49-101レビューされた上記のLonberg,N.et al.(1994);Lonberg,N.and Huszar,D.(1995)Intern.Rev.Immunol.Vol.13:65-93,及びHarding,F.and Lonberg,N.(1995)Ann.N.Y.Acad.Sci 764:536-546)。HuMAbマウスの作製は、下の項II及びTaylor,L.et al.(1992)Nucleic Acids Research 20:6287-6295;Chen,J.et al.(1993)International Immunology 5:647-656;Tuaillon et al.(1993)Proc.Natl.Acad.Sci USA 90:3720-3724;Choi et al.(1993)Nature Genetics 4:117-123;Chen,J.et al.(1993)EMBO J.12:821-830;Tuaillon et al.(1994)J.Immunol.152:2912-2920;Lonberg et al.,(1994)Nature 368(6474):856-859;Lonberg,N.(1994)Handbook of Experimental Pharmacology 113:49-101;Taylor,L.et al.(1994)International Immunology 6:579-591;Lonberg,N.and Huszar,D.(1995)Intern.Rev.Immunol.Vol.13:65-93;Harding,F.and Lonberg,N.(1995)Ann.N.Y.Acad.Sci 764:536-546;Fishwild,D.et al.(1996)Nature Biotechnology 14:845-851に詳細に解説されいる。さらに、すべてLonberg及びKay、並びにジェンファーム・インターナショナル社に付与された米国特許第5,545,806号;第5,569,825号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,789,650号;第5,877,397号;第5,661,016号;第5,814,318号;第5,874,299号;及び第5,770,429号;Surani et al.の米国特許第5,545,807号;1998年6月11日に公開された国際公報WO 98/24884;1994年11月10日に公開されたWO 94/25585;1993年6月24日に公開されたWO 93/1227;1992年12月23日に公開されたWO 92/22645;1992年3月19日に公開されたWO 92/03918を参照されたい。好適なHuMAbマウスは、JKD破壊をそれらの内因性軽鎖(カッパ)遺伝子に(Chen et al.(1993)EMBO J.12:821-830に解説された通りのもの)、CMD破壊をそれらの内因性重鎖遺伝子(Korman et al.によりWO 01/14424の実施例1に解説された通りのもの)、KCo5ヒトカッパ軽鎖導入遺伝子(Fishwild et al.(1996)Nature Biotechnology 14:845-851に解説されたもの)、及びHCo7ヒト重鎖導入遺伝子(US 5,770,429に解説されたもの)、及び/又は、HCo12ヒト重鎖導入遺伝子(Korman et al.によるWO 01/14424の実施例2に解説されたもの)を持つものである。
【0084】
代替的には、トランスクロモゾーム断片上にヒト免疫グロブリン遺伝子を持つマウスを用いて、抗IL-8抗体を作製することもできる。このようなトランスクロモゾーム・マウスの調製はTomizuka et al.によるWO 97/07671に解説されている。好適なマウスは、例えばIshida et al.によるWO02/43478に詳述されているように、ヒト軽鎖導入遺伝子(例えばKCo5カッパ鎖導入遺伝子)及びヒト重鎖トランスクロモゾーム(例えばSC20トランスクロモゾーム)を持つマウスなど、特定のヒト免疫グロブリン遺伝子が導入遺伝子上に載り、他のものがトランスクロモゾーム上に載っているようなものである。
【0085】
HuMAb免疫処理
IL-8に対する完全ヒトモノクローナル抗体を作製するためには、HuMAbマウスをLonberg,N.et al.(1994)Nature 368(6474):856-859;Fishwild,D.et al.(1996)Nature Biotechnology 14:845-851及びWO 98/24884に解説されたようにIL-8抗原の精製もしくは濃縮製剤及び/又はIL-8発現細胞及び/又は組換えIL-8で免疫することができる。好ましくは、当該マウスは1回目の輸注時に6乃至16週齢であるとよい。例えば、組換えIL-8を用いて、HuMAbマウスを腹腔内により免疫することができる。
【0086】
多様な抗原を用いて蓄積した経験では、HuMAbトランスジェニックマウスは、まず抗原を完全フロイント・アジュバントに入れて腹腔内(IP)免疫し、その後、不完全フロイントアジュバントに抗原を入れて1週置きに(最高で合計6回)腹腔内免疫処置したときに最も良く応答することが示された。免疫応答は、眼窩後方の採血で得た血漿試料で、免疫プロトコルの経過にわたって観察することができる。血漿はELISA(以下に解説するように)でスクリーニングすることができ、充分な抗体価の抗IL-8ヒト免疫グロブリンを持つマウスを融合に用いることができる。マウスは、と殺及び脾臓の摘出から3日前に抗原を静注して追加免疫することができる。各抗原について2乃至3回の融合を行う必要があるだろうと予測される。数匹のマウスが各抗原について免疫されるであろう。例えばHC07及びHC012株の合計12匹のHuMAbマウスを免疫することができる。
【0087】
IL-8に対するヒトモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの作製
標準的なプロトコルに基づき、マウス脾細胞を単離し、PEGでマウス骨髄腫細胞株に融合させることができる。次に、こうして出来たハイブリドーマを、抗原特異的抗体の産生についてスクリーニングする。例えば免疫されたマウス由来の脾臓リンパ球の単個細胞懸濁液を、50%PEGで、P3X63-Ag8.653非分泌性マウス骨髄腫細胞(ATCC,CRL 1580)の数の6分の1に融合させる。細胞を平底の微量定量プレートに約2×10^(5)になるようにプレートし、20%胎児クローン血清、18%「653」調整培地、5%オリゲン(IGEN社)、4mM L-グルタミン、1mM L-グルタミン、1mM ピルビン酸ナトリウム、5mM HEPES、0.055mM 2-メルカプトエタノール、50単位/ml ペニシリン、50mg/ml ストレプトマイシン、50mg/ml ゲンタマイシン及び1×HAT(シグマ社;HATは融合から24時間後に加える)を含有する選択培地で2週間インキュベートする。2週間後、HATをHTに取り替えた培地で細胞を培養する。次に個々のウェルをELISAによりヒト抗IL-8モノクローナルIgM及びIgG抗体についてスクリーニングする。広汎なハイブリドーマ成長が起きたら培地を通常10乃至14日後に観察する。抗体を分泌しているハイブリドーマを再度プレートし、再度スクリーニングし、ヒトIgG、抗IL-8モノクローナル抗体についてまだ尚陽性であれば、限界希釈により少なくとも2回、サブクローニングすることができる。次に安定なサブクローンをin vitroで培養して、少量の抗体を組織培養培地中に生じさせ、特徴付けに向ける。
【0088】
IL-8に対するヒトモノクローナル抗体を産生するトランスフェクトーマの作製
本発明のヒト抗体は、当業で公知のように、組換えDNA技術及び遺伝子トランスフェクション法の組合せなどを用いて、ホスト細胞トランスフェクトーマで作製することもできる(Morrison,S.(1985)Science 229:1202)。
【0089】
例えば、本抗体又はその抗体フラグメントを発現させるためには、部分的又は完全長軽鎖及び重鎖をコードするDNAを、標準的な分子生物学技術(例えばPCR増幅法、部位指定変異誘発法)によって得ることができ、当該遺伝子が転写及び翻訳調節配列に作動的に連結しているように、発現ベクタ内に挿入することができる。この文脈において、用語「作動的に連結している」とは、ベクタ内の転写及び翻訳調節配列が、ある抗体遺伝子の転写及び翻訳を制御するという、それらに意図された機能を果たすように、該抗体遺伝子がベクタにライゲートされていることを意味するものと、意図されている。発現ベクタ及び発現調節配列は、用いる発現ホスト細胞と適合性があるように、選ばれる。抗体軽鎖遺伝子及び抗体重鎖遺伝子は、別々のベクタに挿入することもできるが、又はより典型的には、両方の遺伝子を同じ発現ベクタに挿入する。抗体遺伝子は標準的な方法(例えば抗体遺伝子フラグメント及びベクタ上の相補制限部位のライゲーション、又は、制限部位が存在しない場合には平滑末端のライゲーション)により発現ベクタ内に挿入される。ここで解説された当該抗体の軽鎖及び重鎖可変領域を用いると、既に所望のアイソタイプの重鎖定常及び軽鎖定常領域をコードしている発現ベクタ内に、V_(H)セグメントがベクタ内のC_(H)セグメントに作動的に連結し、そしてV_(L)セグメントがベクタ内のC_(L)セグメントに作動的に連結しているように、それらを挿入することにより、いずれの抗体アイソタイプの完全長抗体遺伝子も作製することができる。加えて又は代替的には、当該の組換え発現ベクタに、ホスト細胞からの本抗体鎖の分泌を促すシグナル・ペプチドをコードさせることができる。本抗体鎖遺伝子は、このシグナル・ペプチドが本抗体鎖遺伝子のアミノ末端にイン-フレームで連結しているように、ベクタ内にクローニングすることができる。該シグナル・ペプチドは、免疫グロブリン・シグナル・ペプチドであっても、又は、異種シグナル・ペプチド(即ち、非免疫グロブリンタンパク質由来のシグナル・ペプチド)であってもよい。
【0090】
本抗体鎖遺伝子に加え、本発明の組換え発現ベクタは、ホスト細胞内での本抗体鎖遺伝子の発現を制御する調節配列を持つ。用語「調節配列」には、プロモータ、エンハンサ、及び、本抗体鎖遺伝子の転写又は翻訳を制御する他の発現制御配列(例えばポリアデニレーション・シグナル)が含まれるものと、意図されている。このような調節配列は、例えば、Goeddel;Gene Expression Technology.Methods in Enzymology 185,Academic Press,San Diego,Calif.(1990)に解説されている。当業者であれば、調節配列の選択を含め、発現ベクタのデザインは、形質転換させようとするホスト細胞の選択、所望のタンパク質発現レベル等の因子に依るであろうことは理解されよう。哺乳動物ホスト細胞発現にとって好適な調節配列には、哺乳動物細胞において高レベルのタンパク質発現を命令するウィルス配列、例えばサイトメガロウィルス(CMV)、シミアン・ウィルス(SV40)、アデノウィルス、(例えばアデノウィルス主要後期プロモータ(AdMLP))及びポリオーマ由来のプロモータ及び/又はエンハンサなど、がある。代替的には、例えばユビキチン・プロモータ又はβ-グロビン・プロモータなど、非ウィルス性の調節配列を用いてもよい。
【0091】
抗体鎖遺伝子及び調節配列に加え、本発明の組換え発現ベクタは、ホスト細胞内でベクタの複製を調節する配列(例えば複製開始点)及び選択マーカ遺伝子など、付加的な配列を持つことができる。選択マーカ遺伝子は、ベクタが導入されたホスト細胞の選抜を容易にするものである(例えばすべてAxel et al.の米国特許第4,399,216号、第4,634,665号及び第5,179,017号を参照されたい)。例えば、典型的には、選択マーカ遺伝子は、G418、ヒグロマイシン又はメトトレキセートなどの薬物に対する耐性を、ベクタが導入されたホスト細胞にもたらすものである。好適な選択マーカ遺伝子には、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子(メトトレキセート選抜/増幅でdhfr-ホスト細胞で用いるもの)及びneo遺伝子(G418選抜に用いるもの)がある。
【0092】
軽鎖及び重鎖の発現のために、該重鎖及び軽鎖をコードする発現ベクタをホスト細胞に標準的な技術によりトランスフェクトする。多様な形の用語「トランスフェクション」は、例えばエレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿法、DEAE-デキストラン・トランスフェクション等、外因性のDNAを原核もしくは真核ホスト細胞に導入するために通常用いられる幅広い技術を包含するものと、意図されている。理論的には本発明の抗体を原核ホスト細胞でも、又は真核ホスト細胞でも、発現させることはできるが、真核細胞での抗体発現、そして最も好ましくは哺乳動物ホスト細胞での抗体発現が、最も好適である。なぜなら、このような真核細胞、特に哺乳動物細胞は、原核細胞よりも、集合し、適切に折り畳みが行われた免疫学的に活性な抗体を分泌する可能性が高いからである。
【0093】
本発明の組換え抗体を発現させるために好適な哺乳動物ホスト細胞には、CHO細胞(例えばR.J.Kaufman and P.A.Sharp(1982)Mol.Biol.159:601-621に解説された通りにDHFR選択マーカと一緒にUrlaub and Chasin,(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216-4220に解説された通りに用いられるdhfr-CHO細胞を含む)、NS/0骨髄腫細胞、COS細胞、HEK293細胞及びSP2.0細胞がある。特にNS/0骨髄腫細胞と用いる場合、別の好適な発現系は、WO 87/04462、WO 89/01036及びEP 338 841に開示されたGS(グルタミン・シンセターゼ)遺伝子発現系である。本抗体遺伝子をコードする組換え発現ベクタを哺乳動物ホスト細胞内に導入する場合、このホスト細胞内で抗体が発現できるために充分な時間、又はより好ましくは、このホスト細胞を成長させる培養基中に本抗体が分泌されるために充分な時間、このホスト細胞を培養することにより、本抗体を産生させる。抗体は、標準的なタンパク質精製法を用いて培養基から回収することができる。
【0094】
IL-8に対するヒトモノクローナル抗体を作製する更なる組換え手段
代替的には、クローニングされた抗体遺伝子を、例えばscFv抗体を作製するためのE.coliなどの微生物などの原核細胞、藻類や昆虫細胞を含む他の発現系で発現させることができる。さらに、本抗体は、ヒツジ及びウサギからの乳中に、又は、ニワトリの卵中に、又はトランスジェニック植物中になど、非ヒトトランスジェニック動物中に産生させることができる。例えばVerma,R.,et al.(1998).Antibody engineering:Comparison of bacterial,yeast,insect and mammalian expression systems.J.Immunol.Meth.216:165-181;Pollock,et al.(1999).Transgenic milk as a method for the production of recombinant antibodies.J.Immunol.Meth.231:147-157;及びFischer,R.,et al.(1999).Molecular farming of recombinant antibodies in plants.Biol.Chem.380:825-839を参照されたい。
【0095】
インタクト抗体を発現させるための部分的抗体配列の使用
抗体は、標的抗原と、主に6番目の重鎖及び軽鎖相補性決定領域(CDR)に位置するアミノ酸残基を通じて相互作用する。このために、CDR内のアミノ酸配列は、CDRの外側の配列よりも個々の抗体間で多様である。CDR配列は大半の抗体-抗原相互作用を担っているため、特定の天然発生型抗体由来のCDR配列を、異なる特性を持つ異なる抗体由来のフレームワーク領域内に移植した形で含有する発現ベクタを構築することにより、特定の天然発生型抗体の特性を模倣した組換え抗体を発現させることが可能である(例えばRiechmann,L.et al.,1998,Nature 332:323-327;Jones,P.et al.,1986,Nature 321:522-525;and Queen,C.et al.,1989,Proc.Natl.Acad.See.U.S.A.86:10029-10033を参照されたい)。このようなフレームワーク配列は、生殖細胞系抗体遺伝子配列を含む公共のDNAデータベースから得ることができる。これらの生殖細胞系配列は、B細胞成熟中のV(D)J接合により形成される、完全に集合した可変遺伝子を含まないこととなるため、成熟抗体遺伝子配列とは異なるであろう。生殖細胞系遺伝子配列はまた、可変領域全体にわたって、しかし典型的にはCDR領域に集まっているような変異を含有する高親和二次レパートリ抗体の配列からも、異なるであろう。例えば、体細胞変異は、フレームワーク領域1のアミノ末端部分と、フレームワーク領域4のカルボキシ末端部分では、あまり頻繁には起きない。さらに、多くの体細胞変異は、本抗体の結合特性を大きくは変化させない。この理由で、もとの抗体のものと同じ結合特性を有するインタクト組換え抗体を作り直すためにも、特定の抗体の全DNA配列を得る必要はない(WO 99/45962を参照されたい)。CDR領域にわたる部分的重鎖及び軽鎖配列があれば、この目的には充分であることが多い。この部分的配列を用いて、どの生殖細胞系可変及びジョイニング遺伝子セグメントが、組換えられた抗体可変遺伝子に寄与したかを決定する。次に、この生殖細胞系配列を用いて、可変領域の消失部分を充填する。重鎖及び軽鎖リーダ配列は、タンパク質の成熟中に切断されるため、最終的な抗体の特性には寄与しない。消失配列を加えるために、クローニングされたcDNA配列を合成オリゴヌクレオチドにライゲーション又はPCR増幅法により組み合わせることができる。代替的には、可変領域全体を、一組の短い、重複のあるオリゴヌクレオチドとして合成し、PCR増幅で組み合わせて、完全に合成の可変領域クローンを作製することもできる。このプロセスは、消失又は含有又は特定の制限部位や、あるいは、特定のコドンの最適化など、いくつかの長所を有する。
【0096】
ハイブリドーマからの重鎖及び軽鎖転写産物のヌクレオチド配列を用いて、重複した組の合成オリゴヌクレオチドをデザインして、天然配列と同一のアミノ酸コーディング能を持つ合成V配列を作製する。合成の重鎖及びカッパ鎖配列は天然の配列と3つの方法で異ならせることができる:オリゴヌクレオチド合成及びPCR増幅が容易に行われるように、反復したヌクレオチド塩基部分に中断を入れる;最適な翻訳開始部位をコザックの法則に従って取り入れる(Kozak,1991,J.Biol.Chem.266:19867-19870);及びHindIII部位を、該翻訳開始部位の上流に操作する。
【0097】
重鎖及び軽鎖可変領域の両方について、最適化されたコーディング及び対応する非コーディング鎖配列を、対応する非コーディング・オリゴヌクレオチドのほぼ中間点で30乃至50ヌクレオチドに分断する。このように、各鎖につき、当該のオリゴヌクレオチドを、150乃至400ヌクレオチドのセグメントに渡る重複する二本鎖の組に組み立てることができる。次にこのプールをテンプレートとして用いて、150乃至400ヌクレオチドのPCR増幅産物を作製する。典型的には、一個の可変領域オリゴヌクレオチドの組を2つのプールに分割し、これら2つのプールを別々に増幅して2つの重複するPCR産物を作製することになるであろう。次に、これらの重複する産物をPCR増幅により組み合わせて、完全な可変領域を形成する。さらに、このPCR増幅で、(カッパ軽鎖のBbsI部位、又は、ガンマ重鎖のAgeI部位を含む)重鎖又は軽鎖定常領域の重複するフラグメントを含有させて、発現ベクタ・コンストラクト内へ容易にクローニングすることのできるフラグメントを作製するのも好ましいであろう。
【0098】
次に、再構築された重鎖及び軽鎖可変領域を、クローニングされたプロモータ、リーダ配列、翻訳開始、定常領域、3’側非翻訳、ポリアデニレーション、及び転写終了、配列に組み合わせて、発現ベクタ・コンストラクトを形成する。該重鎖及び軽鎖発現コンストラクトは、組み合わせて単一のベクタにすることも、ホスト細胞に同時トランスフェクト、順次トランスフェクト、又は別々にトランスフェクトしてから、このホスト細胞を融合させて、両方の鎖を発現するホスト細胞を形成することもできる。
【0099】
ヒトIgG,κのための発現ベクタの構築に用いるプラスミドを以下に解説する。当該のプラスミドは、PCR増幅後のV重鎖及びVカッパ軽鎖cDNA配列を用いて完全な重鎖及び軽鎖最小遺伝子を再構築できるように構築された。これらのプラスミドを用いると、完全ヒトIgG1,κ又はIgG4,κ抗体を発現させることができる。同様なプラスミドは、他の重鎖アイソタイプの発現のためにも、又は、ラムダ軽鎖を含む抗体の発現のためにも、構築することができる。
【0100】
このように、本発明の別の局面では、本発明のヒト抗IL-8抗体、例えば10F8、の構造上の特徴を用いて、例えばIL-8への結合など、本発明の抗体の少なくとも1つの機能上の特性を保持した、構造上関連するヒト抗IL-8抗体を作製する。より具体的には、10F8の一つ以上のCDRを組換えにより公知のヒトフレームワーク領域及びCDRに組み合わせることで、付加的な、組換えにより操作された本発明のヒト抗IL-8抗体を作製することができる。
【0101】
従って、別の局面では、本発明は、抗IL-8抗体を調製する方法を提供するものであり、本方法は:
(1)ヒト重鎖フレームワーク領域及びヒト重鎖CDRであって、但しこの場合、前記ヒト重鎖CDRのうちの少なくとも1つが、図5(配列番号:22、23、又は24)に示されたCDRのアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を含む、ヒト重鎖フレームワーク領域及びヒト重鎖CDRと;
(2)ヒト軽鎖フレームワーク領域及びヒト軽鎖CDRであって、但しこの場合、前記軽鎖CDRのうちの少なくとも1つが、図3(配列番号:16、17、又は18)に示されたCDRのアミノ酸配列から選択されるアミノ酸配列を含む、ヒト軽鎖フレームワーク領域及びヒト軽鎖CDRと、を含む抗体を調製するステップを含み、但し前記抗体はIL-8への結合能を保持している。
本抗体のIL-8への結合能は、実施例に記載したものなど、標準的な結合検定法(例えばELISA)を用いて判定することができる。
【0102】
抗体の重鎖及び軽鎖CDR3ドメインは特に重要な役割を、抗原に対する抗体の結合特異性/親和性において果たすことが当業で公知であるため、上述のように調製された本発明の組換え抗体は、好ましくは、10F8の重鎖及び軽鎖CDR3を含むとよい。本抗体にさらに10F8のCDR2を含めることもできる。本抗体にはさらに10F8のCDR1を含めることもできる。さらに本抗体に前記CDRのいずれかの組合せを含めることもできる。
【0103】
従って、別の局面では、さらに本発明は、(1)ヒト重鎖フレームワーク領域、ヒト重鎖CDR1領域、ヒト重鎖CDR2領域、及びヒト重鎖CDR3領域であって、但し前記ヒト重鎖CDR3領域が図5(配列番号24)に示す10F8の重鎖CDR3である、ヒト重鎖フレームワーク領域、ヒト重鎖CDR1領域、ヒト重鎖CDR2領域、及びヒト重鎖CDR3領域と、(2)ヒト軽鎖フレームワーク領域、ヒト軽鎖CDR1領域、ヒト軽鎖CDR2領域、及びヒト軽鎖CDR3領域であって、但し前記ヒト軽鎖CDR3領域が図3(配列番号18)に示す10F8の軽鎖CDR3である、ヒト軽鎖フレームワーク領域、ヒト軽鎖CDR1領域、ヒト軽鎖CDR2領域、及びヒト軽鎖CDR3領域と、を含む、抗IL-8抗体を提供するものであり、但し前記抗体はIL-8に結合する。さらに本抗体に、10F8の重鎖CDR2及び/又は軽鎖CDR2を含めてもよい。さらに本抗体に、10F8の重鎖CDR1及び/又は軽鎖CDR1を含めてもよい。
【0104】
上述の操作された抗体のCDR1、2、及び/又は3領域は、ここに開示した10F8のそれと全く同じアミノ酸配列を含むことができる。しかしながら、当業者であれば、抗体のIL-8への結合能が事実上保持されつつ、10F8通りのCDR配列から何らかの逸脱が可能であろうことは理解されよう。従って、別の実施態様では、操作後の抗体は、10F8の一つ以上のCDRに対し、95%、98%又は99.5%同一な一つ以上のCDRから成ってもよい。
【0105】
従って、別の実施態様では、本発明は、例えば図2及び3に示されたVκA-27生殖細胞系ヌクレオチド及びアミノ酸配列(それぞれ配列番号5及び7)、及び/又は、図4及び5に示されたV_(H)3-33生殖細胞系ヌクレオチド及びアミノ酸配列(それぞれ配列番号9及び11)など、その対応する生殖細胞系可変領域配列に相同な、又は、それを由来とすする、重鎖可変領域及び/又は軽鎖可変領域を含む抗IL-8抗体であって、IL-8への結合など、本発明の抗体の少なくとも1つの機能上の特性を保持した抗体、を提供するものである。
【0106】
本発明の他の具体的な抗体は、ヒトIL-8に結合すると共に、図3(配列番号7)に示された生殖細胞系アミノ酸配列に対して少なくとも約94%同一、好ましくは約96%、より好ましくは約97%、98%、又は99%同一なアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域、及び/又は、図5(配列番号11)に示されたアミノ酸配列に対して少なくとも約92%同一、好ましくは約94%、より好ましくは約96%、97%、98%、又は99%同一なアミノ酸配列を有する重鎖可変領域、を含む。代替的には、本抗体は、図2(配列番号5)に示された生殖細胞系ヌクレオチド配列に対して少なくとも約94%同一、好ましくは約96%、より好ましくは約97%、98%、又は99%同一なヌクレオチド配列にコードされた軽鎖可変領域、及び/又は、図4(配列番号9)に示されたヌクレオチド配列に対して少なくとも約92%同一、好ましくは約94%、より好ましくは約96%、97%、98%、又は99%同一なヌクレオチド配列にコードされた重鎖可変領域、を含んでいてもよい。
【0107】
更に本発明の具体的な抗体には、ヒトIL-8に結合すると共に、図3(配列番号7)に示された通りのVκA-27生殖細胞系アミノ酸配列を由来とする軽鎖可変領域を含み、さらに、図3に示すように、位置29のイソロイシン、位置52のプロリン残基、位置93のアラニン残基、位置94のグリシン残基、位置96のロイシン残基、位置100のプロリン残基、位置105のアスパラギン酸、及びこれらのいずれかの組合せ、から成る群より選択される少なくとも1つの残基を含むアミノ酸配列を有するようなヒト抗体がある。代替的には、又は加えて、本抗体は、図5(配列番号11)に示された通りのV_(H)3-33生殖細胞系アミノ酸配列を由来とする重鎖可変領域を含むと共に、図5に示すように、位置3のグルタミン、位置31のヒスチジン残基、位置35のチロシン残基、位置51のイソロイシン残基、位置57のチロシン残基、位置60のアスパラギン残基、位置61のアラニン残基、位置70のイソロイシン残基、位置74のアスパラギン残基、位置82のグルタミン残基、位置100のアルギニン残基、位置103のロイシン残基、及びこれらのいずれかの組合せ、から成る群より選択される少なくとも1つの残基を含むアミノ酸配列を有していてもよい。
【0108】
別の実施態様では、本発明は、ヒト重鎖及び軽鎖CDR1領域、ヒト重鎖及び軽鎖CDR2領域、及びヒト重鎖及び軽鎖CDR3領域を有するCDRドメインを含むヒト抗IL-8抗体を提供するものであり、但しこの場合、前記CDR1、CDR2、及びCDR3重鎖領域が、図5(配列番号11)に示されたVH_(3)-33生殖細胞系アミノ酸配列を由来とするか、あるいは、前記CDR1、CDR2、及びCDR3軽鎖領域が、図3(配列番号7)に示されたVκA-27生殖細胞系アミノ酸配列を由来とし、そしてこの場合、
(a)前記CDR1ヒト重鎖領域は、図5(配列番号22)に示すように、それぞれ位置1及び5にヒスチジン及びチロシン残基を含み;
(b)前記CDR2ヒト重鎖領域は、図5(配列番号23)に示すように、それぞれ位置2、8、11、及び12にイソロイシン、チロシン、アスパラギン、及びアラニン残基を含み;
(c)前記CDR3ヒト重鎖領域は、図5(配列番号24)に示すように、それぞれ位置2及び5にアルギニン及びロイシン残基を含み;
(d)前記CDR1ヒト軽鎖領域は、図3(配列番号16)に示すように、位置6にイソロイシン残基を含み;
(e)前記CDR2ヒト軽鎖領域は、図3(配列番号17)に示すように、位置2にプロリン残基を含み;
(f)前記CDR3ヒト軽鎖領域は、図3(配列番号18)に示すように、それぞれ位置3、4、5、及び6にチロシン、アラニン、グリシン、及びロイシン残基を含み;そして
(g)(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、又は(f)のいずれかの組合せ
である。
【0109】
別の実施態様では、本ヒト抗体は、ヒト重鎖及び軽鎖CDR1領域、ヒト重鎖及び軽鎖CDR2領域、及びヒト重鎖及び軽鎖CDR3領域を含んでいてよく、但しこの場合、前記CDR1、CDR2、及びCDR3重鎖領域は、図5(配列番号11)に示されたV_(H)3-33生殖細胞系アミノ酸配列を由来とし、及び/又は、前記CDR1、CDR2、及びCDR3軽鎖領域は、図3(配列番号7)に示されたVκA-27生殖細胞系アミノ酸配列を由来とし、但しこの場合、前記CDRドメインのうちの少なくとも1つは:
(a)図3(配列番号16)に示されたアミノ酸配列に少なくとも92%同一なアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1領域;
(b)図3(配列番号17)に示されたアミノ酸配列に少なくとも86%同一なアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2領域;
(c)図3(配列番号18)に示されたアミノ酸配列に少なくとも43%同一なアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3領域;
(d)図5(配列番号22)に示されたアミノ酸配列に少なくとも61%同一なアミノ酸配列を含む重鎖CDR1領域;
(e)図5(配列番号23)に示されたアミノ酸配列に少なくとも77%同一なアミノ酸配列を含む重鎖CDR2領域;及び
(f)図5(配列番号24)に示されたアミノ酸配列に少なくとも76%同一なアミノ酸配列を含む重鎖CDR3領域;並びに
(g)(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、又は(f)のいずれかの組合せ、
から成る群より選択される。
【0110】
更に別の実施態様では、前記ヒト抗体のCDRドメインのうちの少なくとも1つが:
(a)前記軽鎖CDR1領域のアミノ酸配列が、図3(配列番号16)に示すように、位置6にイソロイシン残基を含む;
(b)前記軽鎖CDR2領域のアミノ酸配列が、図3(配列番号17)に示すように、位置2にプロリン残基を含む;
(c)前記軽鎖CDR3領域のアミノ酸配列が、図3(配列番号18)に示すように、位置3にチロシン残基、位置4にアラニン残基、位置5にグリシン残基、そして位置7にロイシン残基を含む;
(d)前記重鎖CDR1領域のアミノ酸配列が、図5(配列番号22)に示すように、位置1にヒスチジン残基、そして位置5にチロシン残基を含む;
(e)前記重鎖CDR2領域のアミノ酸配列が、図5(配列番号23)に示すように、位置2にイソロイシン残基、位置8にチロシン残基、位置11にアスパラギン残基、そして位置12にアラニン残基を含む;
(f)前記重鎖CDR3領域のアミノ酸配列が、図5(配列番号24)に示すように、位置2にアルギニン残基、そして位置5にロイシン残基を含む;及び
(g)(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、又は(f)のいずれかの組合せ、
から成る群より選択されるアミノ酸配列を含む。
【0111】
別の実施態様では、本発明は、ヒトIL-8に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体に関し、但し本ヒトモノクローナル抗体は、アミノ酸配列:
Gln-Gln-Tyr-X_(1)-X_(2)-Ser-X_(3)-Thr
を有するV_(L)CDR3ドメインを含み、
但し式中、X_(1)、X_(2)及びX_(3)はそれぞれ、天然アミノ酸残基を表し、そしてX_(1)がGlyとは異なり、又はX_(2)がSerとは異なり、又はX_(3)がProとは異なる。
【0112】
ある実施態様では、X_(1)はGlyとは異なり、X_(2)はSerとは異なり、そしてX_(3)はProとは異なる。
【0113】
更なる実施態様では、X_(1)はAlaであり、そしてX_(2)及びX_(3)は個別にGly、Ala、Val、Leu、又はIleである。
【0114】
更に別の実施態様では、本発明は、ヒトIL-8に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体に関し、但し本抗体は、アミノ酸配列:
Asp-X_(4)-Val-Gly-X_(5)-Phe-Asp-Tyr
を有するV_(H)CDR3ドメインを含み、
但し式中、X_(4)はLys、Arg、又はHisであり、そしてX_(5)はGly、Ala、Val、Leu、又はIleである。
【0115】
更に別の実施態様では、本発明は、上記の実施態様に開示された通りのV_(L)CDR3ドメインと、上記の実施態様に開示された通りのV_(H)CDR3ドメインとを含む、ヒトIL-8に結合する単離されたヒトモノクローナル抗体に関する。
【0116】
単なるIL-8への結合に加えて、又は代替的には、上に記載したものなどの抗体を、例えば
(1)ヒトIL-8に結合して、IL-8誘導性炎症誘発効果を阻害する;
(2)IL-8の、好中球上のその受容体への結合を阻害する;
(3)好中球のIL-8誘導性化学走性活性を阻害する;
(4)IL-8誘導性カルシウム流束を阻害する;
(5)好中球上の接着分子の発現レベルのIL-8誘導性変化を阻害する;
(6)ヒトIL-8に結合し、IL-8誘導性の、好中球上のCD11b(Mac-1)の発現増加及びL-セレクチンの発現減少を阻害する;
(7)ヒトGRO-α、ヒトGRO-β、ヒトIP-10及びヒトNAP-2などの関連するケモカインと交差反応しない;
(8)例えば10^(-9)M以下、10^(-10)M以下、又は10^(-11)M以下など、ほぼ10^(-8)M以下の解離平衡定数(K_(D))でヒトIL-8に結合する;及び/又は
(9)IL8を含め複数の化学走性因子を含有する生物学的流体により誘導される化学走性を大きく阻害する、
など、本発明の抗体の他の機能上の特性の保持について、選抜してもよい。
【0117】
IL-8へのヒトモノクローナル抗体の結合の特徴付け
本発明のヒトモノクローナルIL-8抗体の結合を特徴付けるには、免疫したマウスの血清をELISAなどで検査することができる。ELISAプロトコルの典型的(しかし非限定的)な例では、微量定量プレートを、PBSに入れた0.25μg/mlの精製IL-8で被覆した後、5%ウシ血清アルブミン(BSA)のPBS溶液で遮断する。IL-8免疫マウスから採った血漿の希釈液を各ウェルに加え、37℃で1乃至2時間、インキュベートする。このプレートをPBS/Tweenで洗浄した後、アルカリホスファターゼに結合させたヤギ抗ヒトIgG Fc特異的ポリクローナル試薬と一緒に37℃で1時間、インキュベートする。洗浄後、プレートをpNPP基質(1mg/ml)で展開させ、405乃至650のODで分析する。好ましくは、最も高い抗体価を生じるマウスを融合に用いるとよい。
【0118】
上述のELISA検定は、IL-8免疫原との陽性反応性を示すハイブリドーマを探すスクリーニングにも用いることができる。IL-8に強力に結合するハイブリドーマをサブクローニングし、さらに特徴付けることとなる。親細胞の反応性を保持した(ELISAにより)各ハイブリドーマから採った一個のクローンを選択し、-140℃で保存される5乃至10バイアルの細胞バンクを作製して、抗体精製に向けることができる。
【0119】
ヒト抗IL-8抗体を精製するためには、選抜されたハイブリドーマを、モノクローナル抗体精製用の2リットル入りスピナー・フラスコで成長させることができる。上清を濾過し、濃縮してからプロテインA-セファロース(ニュージャージー州ピスカタウェイ、ファルマシア社)によるアフィニティ・クロマトグラフィにかけることができる。溶出したIgGをゲル電気泳動法及び高速液体クロマトグラフィでチェックして純度を確認することができる。緩衝液をPBSに交換し、1.43の吸光係数を用いたOD_(280)により、濃度を判定することができる。このモノクローナル抗体をアリクォートし、-80℃で保存することができる。
【0120】
選抜されたヒト抗IL-8モノクローナル抗体が固有のエピトープに結合するかを調べるためには、部位指定もしくは多部位指定変異誘発法を用いることができる。
【0121】
精製された抗体のアイソタイプを調べるには、アイソタイプELISAを行うことができる。例えば、微量定量プレートのウェルを10μg/mlの抗ヒトIgで一晩かけて4℃で被覆することができる。5%BSAで遮断した後、プレートを10μg/mlのモノクローナル抗体又は精製済みのアイソタイプ・コントロールに、周囲温度で2時間、反応させる。次にこのウェルをヒトIgG1又はヒトIgM-特異的アルカリホスファターゼ-結合プローブのいずれかに反応させることができる。プレートを展開させ、上述したように分析する。
【0122】
抗IL-8ヒトIgGを、IL-8抗原との反応性についてウェスタン・ブロット法でテストすることができる。例えば、IL-8発現細胞からの細胞抽出物を調製し、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動法にかけることができる。電気泳動後、分離した抗原をニトロセルロース・メンブレンに写し取り、20%マウス血清で遮断し、検査対象のモノクローナル抗体でプローブすることとなる。ヒトIgGの結合は、抗ヒトIgGアルカリホスファターゼを用いて検出し、BCIP/NBT基質錠剤で展開させることができる(ミズーリ州セントルイス、シグマ・ケミカル社)。
【0123】
II. ヒトモノクローナル抗IL-8抗体を産生する非ヒトトランスジェニック動物の作製
さらに別の局面では、本発明は、IL-8に特異的に結合するヒト抗体を発現することのできるトランスジェニックもしくはトランスクロモゾーマル・マウスなどの非ヒトトランスジェニック及びトランスクロモゾーマル動物を提供するものである。ある具体的な実施態様では、本発明は、IL-8発現細胞で免疫されたときに、当該のマウスがヒト抗IL-8抗体を産生するように、ヒト重鎖導入遺伝子を含むゲノムを有するトランスジェニック又はトランスクロモソーマル・マウスを提供する。該ヒト重鎖導入遺伝子を、ここで詳述し、例示するように、トランスジェニックHuMAbマウスなどと同様に、マウスの染色体DNAに組み込むことができる。代替的には、該ヒト重鎖導入遺伝子を、トランスクロモソーマル(例えばKM)・マウスの場合のように、染色体外に維持することもできる。より具体的には、該KMマウス株の場合、内因性のマウスカッパ軽鎖遺伝子は、Chen et al.(1993)EMBO J.12:811-820に解説された通りにホモ接合型に破壊され、また内因性マウス重鎖遺伝子は、WO 01/09187の実施例1に解説された通りにホモ接合型に破壊されている。このマウス株は、Fishwild et al.(1996)Nature Biotechnology 14:845-851に解説されたように、ヒトカッパ軽鎖導入遺伝子KCo5を持つ。更にこのマウス株は、WO 02/43478に解説された通りの14番染色体断片hCF(SC20)から成るヒト重鎖トランスクロモソームを持つ。
【0124】
このようなトランスジェニック及びトランスクロモソーマル動物は、V-D-J/V-J組換え及びアイソタイプ・スイッチングを起こすことにより、IL-8に対して複数のアイソタイプ(例えばIgG、IgA及び/又はIgE)のヒトモノクローナル抗体を産生することができる。
【0125】
外来の抗原刺激に対し、異種の抗体レパートリーで応答する非ヒトトランスジェニック及びトランスクロモソーマル動物のデザインには、当該のトランスジェニック動物に含まれた異種の免疫グロブリン導入遺伝子が、B細胞発生の経路全般にわたって正確に機能する必要がある。これには、例えば、異種重鎖導入遺伝子のアイソタイプ・スイッチングが含まれる。従って、導入遺伝子は、アイソタイプ・スイッチングが誘導されるように構築され、抗体遺伝子の以下の特徴のうちの1つ以上:(1)高レベル及び細胞種特異的な発現、(2)機能的な遺伝子再編成、(3)対立遺伝子排除の活性化及び対立遺伝子排除に対する応答、(4)充分な一次レパートリの発現、(5)シグナル伝達、(6)体細胞超変異、及び(7)免疫応答中の導入遺伝子抗体遺伝子座の優性。
【0126】
前述の基準の全てを満たす必要はない。例えば、トランスジェニック動物の内因性免疫グロブリン遺伝子座を機能的に破壊した実施態様では、この導入遺伝子は対立遺伝子排除を活性化する必要はない。さらに、導入遺伝子が機能的に再編成された重鎖及び/又は軽鎖免疫グロブリン遺伝子を含む実施態様では、機能的な遺伝子再編成という二番目の基準は、少なくとも導入遺伝子が既に再編成されている限りにおいて、不要である。分子免疫学の背景については、Fundamental Immunology,2nd edition(1989),Paul William E.,ed.Raven Press,N.Y.を参照されたい。
【0127】
いくつかの実施態様では、本発明のヒトモノクローナル抗体を作製するために用いる非ヒトトランスジェニックもしくはトランスクロモソーマル動物は、再編成された、再編成のない、又は再編成された及び再編成のないものの組合せの異種免疫グロブリン重鎖及び軽鎖導入遺伝子を、このトランスジェニック動物の生殖細胞に含有する。重鎖導入遺伝子のそれぞれは少なくとも一つのC_(H)遺伝子を含む。加えて、この重鎖導入遺伝子が、このトランスジェニック動物のB細胞中で、複数のC_(H)遺伝子をコードする異種導入遺伝子のアイソタイプ・スイッチングを支援することのできる機能的アイソタイプ・スイッチ配列を含有していてもよい。このようなスイッチ配列は、導入遺伝子C_(H)遺伝子の源として働く種由来の生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子座に天然で存在するものであってもよく、あるいはこのようなスイッチ配列は、導入遺伝子コンストラクトを受け取る側の種(トランスジェニック動物)にあるものを由来としてもよい。例えば、トランスジェニックマウスを作製するために用いられるヒト導入遺伝子コンストラクトは、マウス重鎖遺伝子座に天然で存在するものと類似のスイッチ配列が導入されている場合には、より高頻度でアイソタイプ・スイッチング事象を起こすと思われる。これはおそらく、マウススイッチ・リコンビナーゼ酵素系で機能するにはこのようなマウススイッチ配列は最適であるが、ヒトスイッチ配列はそうでないからであろう。スイッチ配列は従来のクローニング法で単離及びクローニングしてもよく、又は、免疫グロブリンスイッチ領域配列に関して公開された配列情報に基づいてデザインされた重複する合成オリゴヌクレオチドからde novo合成してもよい(Mills et al.,Nucl.Acids Res.15:7305-7316(1991);Sideras et al.,Intl.Immunol.1:631-642(1989))。前述のトランスジェニック動物のそれぞれの場合、機能的に再編成された異種重鎖及び軽鎖免疫グロブリン導入遺伝子が、このトランスジェニック動物のB細胞の有意な部分で見られる(少なくとも10パーセント)。
【0128】
本発明の非ヒトトランスジェニック動物を作製するために用いる導入遺伝子は、少なくとも一つの可変遺伝子セグメント、一つの多様性遺伝子セグメント、一つのジョイニング遺伝子セグメント、及び少なくとも一つの定常領域遺伝子セグメント、をコードするDNAを含む重鎖導入遺伝子を含む。免疫グロブリン軽鎖導入遺伝子は、少なくとも一つの可変遺伝子セグメント、一つのジョイニング遺伝子セグメント、及び少なくとも一つの定常領域遺伝子セグメント、をコードするDNAを含む。前記軽鎖及び重鎖遺伝子セグメントをコードする遺伝子セグメントは、当該の非ヒトトランスジェニック動物を構成しない種を由来とする免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子セグメントをコードするDNAを由来とするか、又は、このようなDNAに相当するため、このトランスジェニック動物にとって異種である。本発明の一局面では、これら個々の遺伝子セグメントが再編成されないように、即ち、機能的免疫グロブリン軽鎖又は重鎖をコードするよう、再編成されないように、導入遺伝子を構築する。このような再編成のない導入遺伝子は、V、D、及びJ遺伝子セグメントの組換え(機能的再編成)を支援するものであり、好ましくは、IL-8抗原に暴露したときに、当該トランスジェニック動物内でD領域遺伝子セグメントの全部又は一部が再編成後の免疫グロブリン重鎖へ取り込まれることを支援するとよい。
【0129】
代替的な実施態様では、当該導入遺伝子は再編成のない「最小遺伝子座」を含むものである。このような導入遺伝子は典型的に、C、D、及びJセグメントの大部分や、V遺伝子セグメントのサブセットを含む。このような導入遺伝子コンストラクトにおいては、多様な調節配列、例えばプロモータ、エンハンサ、クラス・スイッチ領域、RNAプロセッシングの際のスプライス-ドナー及びスプライス-アクセプタ配列、組換えシグナル等、は、当該の異種DNA由来の対応する配列を含む。このような調節配列は、この導入遺伝子に、本発明で用いられる非ヒト動物と同じ種から、又は、関連する種から、導入してよい。例えば、ヒト免疫グロブリン遺伝子セグメントを導入遺伝子内でげっ歯類免疫グロブリンエンハンサ配列に組み合わせて、トランスジェニックマウスでの利用に向けてもよい。代替的には、哺乳動物のゲノムに天然で存在することが公知の機能的DNA配列にとって同種でないような合成調節配列を、導入遺伝子に組み込んでもよい。合成調節配列は、例えばスプライス-アクセプタ部位又はプロモータ/エンハンサ・モチーフの許容可能な配列を明示したものなど、コンセンサスの規則に従ってデザインされる。例えば、最小遺伝子座は、天然で発生する生殖細胞Ig遺伝子座に比較して、必須でないDNA部分(例えば介在配列;イントロン又はその一部分)に、少なくとも一つの中間(即ち当該部分の末端ではない)の欠失を有するゲノム免疫グロブリン遺伝子座部分を含む。
【0130】
好適な非ヒトトランスジェニック及びトランスクロモソーマル動物、例えばマウス、は、大きなレパートリー、理想的には容量を調節後のヒトのそれと実質的に同様なレパートリーで、免疫グロブリン産生を示すことになるものである。
【0131】
前記レパートリーは、理想的には、容量を調節後のヒトが示すものに、通常は少なくとも約10%、好ましくは25乃至50%又はそれ以上の多様性がありながらも、近いとよいであろう。概して、少なくとも約1000種の異なる免疫グロブリン(理想的にはIgG)、好ましくは10^(4)乃至10^(6)又はそれ以上の種類が、マウスゲノムに導入された様々なV、J及びD領域の数に応じて、そしてV(-D-)J遺伝子セグメント再編成や、ジョイニング領域でのランダムヌクレオチド追加で生じる付加的な多様性に応じて、産生されるとよいであろう。典型的には、当該の免疫グロブリンは、所定の抗原に対し、約10^(-8)M以下、10^(-9)M以下又は10^(-10)M又はそれ未満の親和性(K_(D))を示すであろう。
【0132】
マウスなど、上述したような非ヒトトランスジェニック及びトランスクロモソーマル動物は、IL-8発現細胞などで免疫することができる。代替的には、当該のトランスジェニック動物を、ヒトIL-8をコードするDNAで免疫することができる。この動物が産生するB細胞は、スイッチ組換え(cisスイッチング)を通じてクラス・スイッチングを起こして、IL-8と反応性の免疫グロブリンを発現するであろう。この免疫グロブリンはヒト抗体(ここでは「ヒト配列抗体」とも言及される)であろうが、その重鎖及び軽鎖ポリペプチドは、ヒト導入遺伝子配列にコードされており、前記ヒト導入遺伝子配列は、体細胞変異及びV領域組換えジョイントで得られる配列や、生殖細胞にコードされた配列を含んでいてもよい。これらのヒト抗体は、ヒトV_(L)及びJ_(L)又はV_(H)、D_(H)及びJ_(H)遺伝子セグメントにコードされたポリペプチド配列と実質的に同等であると言うことができ、ただし他の非生殖細胞配列も、体細胞変異及び示差的なV-J及びV-D-J組換えジョイントの結果として存在してもよい。各抗体鎖の可変領域は、典型的に、ヒト生殖細胞系V、及びJ遺伝子セグメントに、そして重鎖の場合、ヒト生殖細胞系V、D、及びJ遺伝子セグメントに、少なくとも80パーセント、類似である。しばしば少なくとも85パーセントが、導入遺伝子上に存在するヒト生殖細胞系配列に類似である。しばしば90又は95パーセント又はそれ以上が、導入遺伝子上に存在するヒト生殖細胞系配列に類似である。しかしながら、体細胞変異並びにVJ及びVDJジョイニングでは非生殖細胞系配列が導入されるために、当該ヒト配列抗体はしばしば、ヒト導入遺伝子に見られるようなヒトV、D又はJ遺伝子セグメントにはコードされていない何らかの可変領域配列を、このマウスの生殖細胞中に有するであろう。典型的には、このような非生殖細胞系配列(又は個々のヌクレオチド位置)は、CDR中か、又はCDR近傍、あるいは体細胞変異が集中して起きることが知られている領域に集まるであろう。
【0133】
本発明の別の局面は、ここで解説した通りの非ヒトトランスジェニックもしくはトランスクロモソーマル動物を由来とするB細胞を包含する。このB細胞は、ヒトIL-8に対し、高い親和性で結合するヒトモノクローナル抗体を発現するハイブリドーマを作製するために用いることができる。このように、別の実施態様では、本発明は、組換えヒトIL-8を分析物とし、本抗体をリガンドとして用いたBIACORE 3000装置での表面プラズモン共鳴(SPR)技術により判定したときに、あるいは、放射活性標識されたモノクローナル抗体を用いたIL-8発現細胞のスキャッチャード分析や、又は、FACS分析を用いた半分-最大結合濃度の決定によって決定したときに、約10^(-8)M以下、10^(-9)M以下、又は10^(-10)M以下の親和性(K_(D))を有するヒト抗体を産生するハイブリドーマを提供するものである。
【0134】
ここで、本モノクローナル抗体は、
(1)ヒトV_(L)遺伝子セグメント及びヒトJ_(L)セグメントにコードされたポリペプチド配列に実質的に同一なポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、及び(2)ヒトC_(L)遺伝子セグメントにコードされた軽鎖定常領域、から成るヒト配列軽鎖と;
(1)ヒトV_(H)遺伝子セグメント、D領域、及びヒトJ_(H)セグメントにコードされたポリペプチド配列に実質的に同一なポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、及び(2)ヒトC_(H)遺伝子セグメントにコードされた定常領域、から成るヒト配列重鎖と
を含む。
【0135】
IL-8に対する高親和ヒトモノクローナル抗体の開発は、組み込まれたヒト免疫グロブリン導入遺伝子を含むゲノムを有する非ヒトトランスジェニック動物で、ヒト可変領域遺伝子セグメントのレパートリーを拡大する方法により容易になるが、当該方法は、前記組み込まれたヒト免疫グロブリン導入遺伝子には存在しないV領域遺伝子セグメントを含むV遺伝子導入遺伝子を前記ゲノムに導入するステップを含む。しばしば前記V領域導入遺伝子は、ヒトゲノムに天然で存在するような、又は、組換え法でまとめて別々にスプライスされるような、ヒトV_(H)又はV_(L)(V_(K))遺伝子セグメント・アレイの一部分を含む酵母人工染色体(YAC)であり、この酵母人工染色体の含有するV遺伝子セグメントは順序が狂っていても、又は省略されていてもよい。しばしば少なくとも5つ以上の機能的V遺伝子セグメントがYAC上に含有されている。このバリエーションでは、前記Vレパートリー拡大法で生じるトランスジェニックマウスを作製することが可能であり、このとき当該動物は、V領域導入遺伝子上に存在するV領域遺伝子セグメントにコードされた可変領域配列と、ヒトIg導入遺伝子にコードされたC領域とを含む免疫グロブリン鎖を発現する。Vレパートリー拡大法により、少なくとも5個の異なるV遺伝子を有するトランスジェニック動物を作製でき、また少なくとも約24個又はそれ以上のV遺伝子を含有する動物も作製することができる。いくつかのV遺伝子セグメントは非機能的であってもよい(例えば偽遺伝子等)。これらのセグメントを維持してもよいが、あるいは、必要に応じて当業者に可能な組換え法により選択的に欠失させてもよい。
【0136】
マウス生殖細胞を操作して、J及びC遺伝子セグメントを含有するヒトIg導入遺伝子には実質的に存在しない拡大されたVセグメント・レパートリーを有する機能的YACを含有させたら、拡大されたVセグメント・レパートリーを有する機能的YACを、異なるヒトIg導入遺伝子を有する非ヒト動物生殖細胞に交雑するバックグラウンドを含め、他の遺伝的バックグラウンドにこの形質を伝播及び交雑することができる。拡大されたVセグメント・レパートリーを有する複数の機能的YACを、1つのヒトIg導入遺伝子(又は複数のヒトIg導入遺伝子)と一緒に働かせるために生殖細胞に交雑してよい。ここではYAC導入遺伝子と言及するが、ゲノムに組み込んだときのこのような導入遺伝子は、酵母で自律的複製を行うのに必要な配列など、酵母配列を実質的に欠いていてもよい。このような配列は、選択的に、酵母での複製がもはや必要でなくなってから(即ちマウスES細胞又はマウス前接合子への導入前に)遺伝子操作(例えば制限消化及びパルス界ゲル電気泳動法又は他の適した方法など)により取り除かれてもよい。ヒト配列免疫グロブリン発現の形質を伝播させる方法には、ヒトIg導入遺伝子を有し、そして選択的には、拡大されたVセグメント・レパートリーを有する機能的YACもさらに有するようなトランスジェニックマウスを育種する方法がある。V_(H)及びV_(L)遺伝子セグメントの両方がYAC上に存在してもよい。当該トランスジェニック動物は、ヒトIg導入遺伝子、及び/又は、他のヒトリンパ球たんぱくをコードする導入遺伝子を含め、他のヒト導入遺伝子を持つバックグラウンドを含む、開業医が希望するいかなるバックグラウンドに交雑してもよい。さらに本発明は、拡大されたV領域レパートリーYAC導入遺伝子を有するトランスジェニックマウスが産生する高親和ヒト配列免疫グロブリンも提供するものである。前の記載では本発明のトランスジェニック動物の好適な実施態様を解説したが、以下、3つのカテゴリーに分類された他の実施態様も考察されている:
I.再編成のない重鎖及び再編成のある軽鎖免疫グロブリン導入遺伝子を含有するトランスジェニック動物;
II.再編成のない重鎖及び再編成のない軽鎖免疫グロブリン導入遺伝子を含有するトランスジェニック動物;
III.再編成のある重鎖及び再編成のない軽鎖免疫グロブリン導入遺伝子を含有するトランスジェニック動物。
【0137】
これらのカテゴリーのトランスジェニック動物のうち、好適な優先度は以下、II>I>III(この場合の内因性の軽鎖遺伝子(又は少なくともκ遺伝子)は、相同組換え(又は他の方法)によりノックアウトされている)、及びI>II>III(この場合の内因性軽鎖遺伝子はノックアウトされておらず、対立遺伝子排除により劣性とならなければならない)の通りである。
【0138】
III. 医薬組成物
別の局面では、本発明は、薬学的に許容可能な担体と一緒に調合された、少なくとも1つの本発明のヒトモノクローナル抗体を含有する、医薬組成物などの組成物を提供するものである。ある実施態様では、本組成物は、複数(例えば二種以上)の単離された本発明のヒト抗体の組合せを含有する。好ましくは、本組成物の抗体の各々が、IL-8の別個の、予め選択されたエピトープに結合するとよい。
【0139】
更に本発明の医薬組成物を併用療法で投与することもでき、即ち他の薬剤と組み合わせることができる。例えば、当該の併用療法に、炎症性もしくは過増殖性皮膚異常を治療するための少なくとも1つの作用薬、少なくとも1つの抗炎症剤、少なくとも1つの免疫抑制剤、又は少なくとも1つの化学療法薬と一緒に、本発明の組成物を含めることができる。
【0140】
ある実施態様では、このような治療薬は、局所用医薬、例えばコールタール、ビタミンA、アントラリン、カルシポトリエン、タラゾテン、及びコルチコステロイド、経口用又は注射用の医薬、例えばコルチコステロイド、メトトレキセート、レチノイド類、例えばアシトレチン、シクロスポリン、エタネルセプト、アレファセプト、エファルジマブ、6-チオグアニン、ミコフェノレート・モフェチル、タクロリムス(FK-506)、及びヒドロキシウレアなど、を含む、炎症性もしくは過増殖性皮膚異常用の一種以上の作用薬を含む。他の例はCTLA4Ig及びインフリキシマブである。他の治療法には、UVB(広帯域及び狭帯域紫外線B)、UVA(紫外線A)及びPUVA(プソラーレン・メトキサレン・+紫外線A)を含め、日光への曝露又は光線療法が含まれよう。
【0141】
更なる実施態様では、本発明の組成物を、例えばメトトレキセート+光線療法(PUVA又はUVA);メトトレキセート+アシトレチン;アシトレチン+光線療法(PUVA又はUVA);メトトレキセート+アシトレチン+光線療法(PUVA又はUVB);ヒドロキシウレア+光線療法(PUVA又はUVB);ヒドロキシウレア+アシトレチン;シクロスポリン+メトトレキセート;又はカルシポトリエン+光線療法(UVB)の組合せなど、上記の治療法の2つ以上との組合せで投与する。
【0142】
別の局面では、このような治療薬には、例えばステロイド系薬物又はNSAID(非ステロイド系抗炎症剤)などの一種以上の抗炎症剤が含まれる。好適な薬剤には、例えば、アスピリン及び他のサリチル酸塩、Cox-2阻害剤、例えばロフェコキシブ及びセレコキシブ、イブプロフェン、フェノプロフェン、ナプロキセン、スリンダック、ジクロフェナック、ピロキシカム、ケトプロフェン、ジフルニサール、ナブメトン、エトドラック、オキサプロジン、及びインドメタシンなどのNSAID類がある。
【0143】
別の実施態様では、このような治療薬は、1つ以上のDMARD(疾患改変抗リウマチ剤)、例えばメトトレキセート、ヒドロキシクロロキン、スルファサラジン、ピリミジン合成阻害剤、例えばレフルノミド、IL-1受容体遮断剤、例えばアナキンラ、及びTNF-α遮断剤、例えばエタネルセプト、インフリキシマブ及びアダリムマブなど、を含む。更なる代表はIL-10、抗IL-15抗体、可溶性IL-15R、及び抗CD20抗体である。
【0144】
別の実施態様では、このような治療薬は、一種以上の免疫抑制剤、例えばシクロスポリン、アザチオプリン、ミコフェノール酸、ミコフェノレート・モフェチル、コルチコステロイド(例えばプレドニゾン)、メトトレキセート、金塩、スルファサラジン、抗マラリア剤、ブレキナー、レフルノミド、ミゾリビン、15-デオキシスペルグアリン、6-メルカプトプリン、シクロホスファミド、ラパマイシン、及びタクロリムス(FK-506)、を含む。
【0145】
別の実施態様では、本発明の組成物を二種以上の免疫抑制剤、例えばプレドニゾン及びシクロスポリン;プレドニゾン、シクロスポリン及びアザチオプリン;又はプレドニゾン、シクロスポリン及びミコフェノレート・モフェチルなど、と組み合わせて投与する。
【0146】
別の実施態様では、このような治療薬は、例えばドキソルビシン、シスプラチン、ブレオマイシン、カルムスチン、シクロホスファミド、及びクロラムブシルなど、一種以上の化学療法薬を含む。
【0147】
別の実施態様では、本ヒトモノクローナル抗体を、放射線療法と併用して投与してよい。
【0148】
別の実施態様では、本発明のヒト抗体を、例えば抗CD4抗体、抗EGFr抗体、抗CD20抗体、抗IL-15抗体、又は抗IL15R抗体など、一種以上のヒト抗体など、一種以上の他の抗体と組み合わせて投与してもよい。
【0149】
更に別の実施態様では、本発明のヒト抗体を、例えばCXCR1、CXCR2、CCR1、CCR2、又はCCR5に対する抗体など、CCもしくはCXCケモカイン受容体の機能を遮断又は干渉する一種以上の作用薬、あるいは、ケモカイン受容体アンタゴニストとして働く天然又は合成分子、と組み合わせて投与してもよい。
【0150】
更に別の実施態様では、本発明のヒト抗体を、例えばMIP-1α、MIP-1β、RANTES、MCP-1、MCP-2、MCP-3又はMCP-4に対する抗体など、ケモカイン・リガンドの機能を遮断する一種以上の作用薬と組み合わせて投与してもよい。
【0151】
更に、本発明のヒト抗IL-8抗体を、他の結合特異性部分に誘導体化したり、連結したり、又は同時発現させることができる。ある具体的な実施態様では、本発明は、IL-8に対する少なくとも1つの第一の結合特異性部分(例えばヒト抗IL-8抗体又はそのミメティック)、及び、例えばFc受容体(例えばヒトFcγ受容体、例えばFcγRI、又はヒトFcα受容体など)又はCD3などのT細胞受容体に対する結合特異性部分など、ヒトエフェクタ細胞に対する第二の結合特異性部分、を含む二重特異的又は多重特異的分子を提供するものである。
【0152】
従って、本発明は、ヒトIL-8と、Fc受容体又はCD3などのT細胞受容体との両方に結合する二重特異的及び多重特異的分子を包含する。Fc受容体の例は、例えばヒトIgG受容体、例えばFc-ガンマ受容体(FcγR)、例えばFcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、及びFcγRIII(CD16)である。他のFc受容体、例えばヒトIgA受容体(例えばFcαRI)も標的にすることができる。Fc受容体は好ましくは、単球、マクロファージ、又は活性化単核細胞などのエフェクタ細胞の表面上に位置するとよい。ある好適な実施態様では、本二重特異的及び多重特異的分子は、Fc受容体のうちで免疫グロブリンFc(例えばIgG又はIgA)結合部位とは異なる部位で、この受容体に結合する。従って、本二重特異的及び多重特異的分子の結合は、生理的レベルの免疫グロブリンの遮断を受けない。
【0153】
ここで用いる「薬学的に許容可能な担体」には、生理学的に適合性あるあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤及び抗カビ剤、等張剤及び吸収遅延剤等が含まれる。好ましくは、当該の担体が静脈内、筋肉内、皮下、腸管外、脊髄もしくは表皮投与(例えば注射又は輸注により)に適しているとよい。
【0154】
「薬学的に許容可能な塩」とは、親化合物の所望の生物活性を保持しつつも、望ましくない毒性作用を与えないような塩を言う(例えばBerge,S.M.,et al.(1977)J.Pharm.Sci.66:1-19を参照されたい)。このような塩の例には、酸添加塩及び塩基添加塩がある。酸添加塩には、非毒性の無機酸、例えば塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、リン酸等から誘導されたものや、非毒性の有機酸、例えば脂肪族モノカルボン酸及びジカルボン酸、フェニル置換アルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族の酸、脂肪族及び芳香族のスルホン酸等から誘導されたものがある。塩基添加塩には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属から誘導されたものや、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、N-メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカイン等の非毒性の有機アミンから誘導されたものがある。
【0155】
本発明の組成物は、当業で公知の多種の方法で投与することができる。当業者であれば理解されるように、投与の経路及び/又は形態は、所望の結果に応じて様々であろう。当該活性化合物は、インプラント、経皮パッチ、及びマイクロ封入送達系を含む制御放出製剤など、急速な放出から当該化合物を保護する担体と一緒に調製することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、及びポリ乳酸など、生分解性で生体適合性あるポリマを用いることができる。このような調合物の調製法が数多く、特許付与されており、当業者に広く公知である。例えばSustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R.Robinson,ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,1978を参照されたい。
【0156】
特定の投与経路で本発明の化合物を投与するには、当該化合物の失活を防ぐ物質でそれを被覆するか、又は当該化合物と同時投与することが必要な場合がある。例えば本化合物を、適したリポソームなどの担体又は希釈剤に入れて対象に投与してもよい。薬学的に許容可能な希釈剤には生理食塩水及び水性の緩衝液がある。リポソームには水中油中水CGFエマルジョンや、従来のリポソームがある(Strejan et al.(1984)J.Neuroimmunol.7:27)。
【0157】
薬学的に許容可能な担体には無菌の水溶液又は分散液並びに、無菌の注射液又は分散液の即時調製用の無菌粉末がある。このような媒質及び薬剤の、薬学的に活性な物質のための使用は当業で公知である。従来の媒質又は薬剤が当該活性化合物にとって不適合でない限り、本発明の医薬組成物中のその使用は考察されたところである。補助的な活性化合物も、本組成物中に取り入れることができる。
【0158】
治療用の組成物は典型的に無菌でなければならず、また製造及び保管条件下で安定でなければならない。本組成物は、高い薬物濃度に適した溶液、マイクロ乳液、リポソーム、又は他の秩序ある構造として調合することができる。当該の担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール等)、及びこれらの適した混合物などを含有する溶媒又は分散媒であってよい。適した流動性は、例えばレシチンなどのコーティングを用いたり、分散液の場合には必要な粒子サイズを維持したり、そして界面活性剤を使用するなどにより、維持することができる。多くの場合、例えば糖類、グリセロール、マンニトール、ソルビトールなどの多価アルコール、又は塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物中に含めることが好ましいであろう。注射用組成物の吸収を長引かせるには、モノステアリン酸塩及びゼラチンなど、吸収を遅らせる薬剤を組成物中に含めることにより、可能である。
【0159】
ある実施態様では、本発明のヒトモノクローナル抗体を結晶型で皮下注射により投与する。Yang et al.(2003)PNAS,100(12):6934-6939を参照されたい。
【0160】
無菌の注射用溶液は、必要量の活性化合物を適した溶媒に、必要に応じて上に列挙した成分の1つ又は組み合わせと一緒に 加えた後、滅菌マイクロ濾過を行うことにより、調製することができる。分散液は一般的には、塩基性の分散媒と、上に列挙したものの中で必要な他の成分とを含有する無菌の賦形剤に当該活性化合物を加えることで、調製されている。無菌の注射用溶液の調製用の無菌粉末の場合、好適な調製法は真空乾燥及び凍結乾燥(凍結乾燥)であり、その結果、活性成分及び付加的な所望の成分の粉末が、予め殺菌濾過されたその溶液から生じる。
【0161】
投薬計画は、最適な所望の応答(例えば治療的応答)が得られるように調節される。例えば単一の巨丸剤を投与してもよく、複数に分割された用量を一定期間にわたって投与しても、又は、治療状況の緊急度を指標として用量を比例的に増減させてもよい。投与の容易さ及び投薬量の均一性のためには、非経口用組成物を単位剤形で調合することが特に有利である。ここで用いる単位剤形とは、治療しようとする対象にとって単位型の投薬量として調整された物理的に別個の単位を言う。各単位は、必要な薬品用担体との関連から所望の治療効果を生ずるよう計算された所定量の活性化合物を含有する。本発明の単位剤形の詳細は、(a)活性化合物の固有の特徴、及び、達成しようとする特定の治療効果、並びに(b)このような活性化合物を、個体の感受性の治療に向けて配合する技術に内在する限界、によって決定され、またこれらに直接依存する。
【0162】
薬学的に許容可能な抗酸化剤の例には:(1)水溶性の抗酸化剤、例えばアスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム等;(2)油溶性抗酸化剤、例えばアスコルビン酸パルミテート、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファ-トコフェロール、等;及び(3)金属キレート剤、例えばクエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸等がある。
【0163】
治療用組成物の場合、本発明の調合物には、経口、鼻孔、局所(口腔内及び舌下を含む)、直腸、膣及び/又は非経口投与に適したものが含まれる。当該調合物を、適宜、単位剤形で提供してもよく、製薬業で公知のいずれかの方法で調製してもよい。一個分の剤形を作製するために担体物質と組み合わせることのできる活性成分の量は、治療しようとする対象、及び特定の投与形態に応じて様々であろう。一個分の剤形を作製するために担体物質と組み合わせることのできる活性成分の量は、一般に、治療効果を生む組成物量となるであろう。概して、100パーセントのうちで、この量は約0.01パーセント乃至約99パーセントの活性成分、好ましくは約0.1パーセント乃至約70パーセント、最も好ましくは約1パーセント乃至約30パーセントの範囲であろう。
【0164】
経膣投与に適した本発明の調合物には、さらに、当業で適していることが公知の担体を含有するペッサリ、タンポン、クリーム、ゲル、ペースト、フォーム又はスプレー調合物がある。本発明の組成物の局所もしくは経皮投与用の剤形には、粉末、スプレー、軟膏、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、溶液、パッチ及び吸入剤、がある。当該の活性化合物を、薬学的に許容可能な担体や、必要に応じていずれかの保存剤、緩衝剤、又は推進剤と無菌条件下で混合してよい。
【0165】
ここで用いる文言「非経口投与」及び「非経口的に投与する」とは、通常は注射又は輸注による、腸管内及び局所投与以外の投与形態を意味し、その中には、限定はしないが、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、髄腔内、硬膜外及び胸骨内注射及び輸注、がある。
【0166】
本発明の医薬組成物中に用いてもよい適した水性及び非水性の担体の例には、水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、及びこれらの適した混合物、オリーブ油などの植物油、及びオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステル、がある。適正な流動性は、例えばレシチンなどのコーティング材料を用いたり、分散液の場合には必要な粒子サイズを維持したり、そして界面活性剤を使用するなどにより、維持することができる。
【0167】
これらの組成物には、更に、保存剤、湿潤剤、乳濁剤及び分散剤などのアジュバントを含有させてもよい。微生物の存在を防ぐには、上述の滅菌法と、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸等の多種の抗菌剤及び抗カビ剤の含有の両方を行うと、確実になろう。例えば糖類、塩化ナトリウム等の等張剤を組成物に含めることも好ましい場合がある。加えて、注射用の薬形の吸収を長引かせるには、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンなど、吸収を遅らせる薬剤を含めることにより、可能であろう。
【0168】
本発明の化合物を製薬としてヒト及び動物に投与する場合、これらを単独で与えることもできるが、又は、例えば0.01%乃至99.5%(より好ましくは0.1%乃至90%)の活性成分を、薬学的に許容可能な担体と組み合わせて含有する医薬組成物としても、与えることができる。
【0169】
選択した投与経路に関係なく、適した水和型で用いてもよい本発明の化合物、及び/又は、本発明の医薬組成物は、当業者に公知の常法により、薬学的に許容可能な剤形に調合される。
【0170】
本発明の医薬組成物中の活性成分の実際の投薬量レベルは、特定の患者、組成物、及び投与形態にとって、患者に毒性となることなく所望の治療応答を得るために有効量の活性成分が得られるように、変更してもよい。選択される投薬量レベルは、用いる本発明の特定の組成物又は、そのエステル、塩又はアミドの活性、投与経路、投与期間、用いる特定の化合物の排出速度、治療期間、用いる特定の組成物と併用する他の薬物、化合物及び/又は物質、治療しようとする患者の年齢、性別、体重、状態、全身の健康及び以前の医療歴等、医業で公知の因子を含め、多種の薬物動態学的因子に依拠することとなろう。
【0171】
当業において通常の技術を有する医師又は獣医であれば、本医薬組成物の必要な有効量を容易に決定及び処方することができる。例えば、この医師又は獣医は、当該医薬組成物中に用いる本発明の化合物の用量を、所望の治療効果を得るのに必要なそれより少ないレベルで開始し、この投薬量を所望の効果が得られるまで次第に増加させていってもよいであろう。一般的には、本発明の組成物の適した一日当たりの用量は、治療効果を生むために有効な最も少ない用量である化合物量であろう。このような有効量は一般に、上で解説した因子に依拠するであろう。投与は、静脈内、筋肉内、腹腔内、又は皮下によることが好ましく、好ましくは標的部位の近位に投与するとよい。必要に応じ、治療用組成物の有効な一日分の用量を、2回、3回、4回、5回、6回又はそれ以上の小分けした用量に分けて別々に、全日にわたって適当な間隔を置きながら、選択的には単位剤形で投与してもよい。本発明の化合物を単独で投与することも可能であるが、本化合物を医薬調合物(組成物)として投与することが好ましい。投薬量は、当該抗IL-8抗体を狙う抗イディオタイプ抗体を利用したり、IL-8をコーティングとして用いたELISA検定法などにより抗IL-8抗体を検出する他の特定の方法を用いることで、投与後の様々な時点で、生物試料中の血中モノクローナル抗IL-8抗体量を測定することにより、判定又は調節することができる。
【0172】
ある実施態様では、本発明のヒトモノクローナル抗体を、0.15乃至8mg/kgの投薬量、例えば0.15mg/kg、0.5mg/kg、1.0mg/kg、1.5mg/kg、2.0mg/kg、4mg/kg、又は8mg/kgなど、0日目から始まって2乃至8の投与を週に一回、例えば28日目に始まって週に4投与を一回など、輸注により投与してよい。投与は、毒性の副作用を減らすために、24時間の時間にわたって、又は、24時間を超える時間にわたって、連続輸注により行ってもよい。
【0173】
更に別の実施態様では、本ヒトモノクローナル抗体を、例えば一週間に一回、2週置きに一回、又は一ヶ月に一回を6ヶ月以上の期間にわたってなど、維持療法により投与する。
【0174】
治療用組成物は当業で公知の医療器具を用いて投与することができる。例えばある好適な実施態様では、本発明の治療用組成物を、例えば米国特許第5,399,163号;第5,383,851号;第5,312,335号;第5,064,413号;第4,941,880号;第4,790,824号;又は第4,596,556号に開示された器具などの無針皮下注射器具で投与することができる。本発明で有用な公知のインプラント及びモジュールの例には、制御された速度で薬品を分配するインプラント可能なマイクロ輸注ポンプを開示する米国特許第4,487,603号;薬品を皮膚を透過させて投与する治療器具を開示する米国特許第4,486,194号;精確な輸注速度で医薬を送達する医療用輸注ポンプを開示する米国特許第4,447,233号;継続的な薬物送達のための可変流量式のインプラント可能な輸注装置を開示する米国特許第4,447,224号;多チャンバ・コンパートメントを有する浸透圧薬物送達系を開示する米国特許第4,439,196号;及び浸透圧薬物送達系を開示する米国特許第4,475,196号、がある。数多くの他のこのようなインプラント、送達系、及びモジュールが当業者に公知である。
【0175】
いくつかの実施態様では、本発明のヒトモノクローナル抗体を、in vivoで確実に適正に分布するように調合することができる。例えば血液脳関門(BBB)は数多くの親水性の高い化合物を排除する。本発明の治療用化合物がBBBを確実に透過するようにする(望ましい場合)には、これらを例えばリポソーム中に調合することができる。リポソームの製造方法については、例えば米国特許第4,522,811号;第5,374,548号;及び第5,399,331号を参照されたい。前記リポソームは、特定の細胞又は臓器に選択的に輸送されて目的の薬物送達を高めるような1つ以上の成分を含んでいてもよい(例えばV.V.Ranade(1989)J.Clin.Pharmacol.29:685を参照されたい)。標的決定成分の例には、葉酸又はビオチン(例えばLow et al.の米国特許第5,416,016号を参照されたい);マンノシド(Umezawa et al.,(1988)Biochem.Biophys.Res.Commun.153:1038);抗体(P.G.Bloeman et al.(1995)FEBS Lett.357:140;M.Owais et al.(1995)Antimicrob.Agents Chemother.39:180);その様々な種が本発明の調合物や、本発明の分子の構成成分を成していてもよいサーファクタントプロテインA受容体(Briscoe et al.(1995)Am.J.Physiol.1233:134);p120(Schreier et al.(1994)J.Biol.Chem.269:9090);があり、さらにK.Keinanen;M.L.Laukkanen(1994)FEBS Lett.346:123;J.J.Killion;I.J.Fidler(1994)Immunomethods 4:273を参照されたい。本発明の一実施態様では、本発明の治療用化合物をリポソーム中に調合する。より好適な実施態様では、当該リポソームが標的決定成分を含む。最も好適な実施態様では、当該リポソーム中の治療用化合物を、炎症もしくは感染部位、又は腫瘍部位など、所望の区域に近位の部位への大量注射により送達する。当該組成物は、注射筒での注入が容易な程度に流動性でなくてはならない。それは、製造及び保管条件下で安定でなくてはならず、細菌及び真菌などの微生物の汚染作用から守られていなくてはならない。
【0176】
本発明のヒトモノクローナル抗体にとっての有効な投薬量及び投薬養生法は、治療しようとする疾患又は状態に依拠し、当業者が決定できるものである。
【0177】
PPPにとっての「治療上有効な投薬量」は、好ましくは、治療前の状態に薬物治療後の改善の印象を比較したときの、全体的なPPPの評価の減少につながるものであろう。これは、例えばPPPASIと命名されたPPPに適合させたPASI様の採点である、新鮮な膿疱の数の減少などにより評価することができる。好ましくは、治療により、PPPASI50、より好ましくはPPPASI75、そして更により好ましくはPPPASI90になるとよいであろう。
【0178】
乾癬に関する「治療上有効な投薬量」は、好ましくは、患者においてPASI50、より好ましくはPASI75、そして更により好ましくはPASI90につながる、又は、治療前の状態に薬物治療後の改善の印象を比較したときの全体的乾癬評価の減少につながるものであろう。PASI(乾癬面積及び重篤度指数)は、この疾患の面積及び重篤度の評価に用いられる採点システムである。PASI50は、この採点の50%以上の改善であると定義されている。同様に、PASI75及びPASI90は、それぞれ、この採点の75%以上及び90%以上の改善であると定義されている。
【0179】
リウマチ性関節炎に関する「治療上有効な投薬量」は、好ましくは、患者においてACR20の改善の予備的定義(Preliminary Definition of Improvement)、より好ましくはACR50の改善の予備的定義(Preliminary Definition of Improvement)、そしてさらにより好ましくは、ARC70の改善の予備的定義(Preliminary Definition of Improvement)をもたらすものであろう。
【0180】
ACR20の改善の予備的定義(Preliminary Definition of Improvement)は:
=圧痛関節得点(TCJ)及び腫脹関節得点(SWJ)における≧20%の改善、及び、以下の五つの評価点のうち3つにおける≧20%の改善:患者疼痛評価(VAS)、患者包括的評価(VAS)、担当医包括的評価(VAS)、患者自己評価による能力障害(HAQ)、及び急性相反応物(CRP又はESR)、と定義されている。
【0181】
ACR50及びACR70は、同じ方法でそれぞれ≧50%及び≧70%の改善と定義されている。更なる詳細については、Felson et al.in American College of Rheumatology Preliminary Definition of Improvement in Rheumatoid Arthritis;Arthritis Rheumatism(1995)38:727-735を参照されたい。
【0182】
代替的には、リウマチ性関節炎に関する治療上有効な投薬量を、EULARが定義したように、DAS28、そしてより好ましくはDAS56を含むDAS(疾患活性採点)により測定することができる。
【0183】
腫瘍の治療のための「治療上有効な投薬量」は、完全でも、又は部分的でもいい他覚的腫瘍応答により測定することができる。完全応答(CR)は、疾患の非臨床的、放射線学的又は他の証拠であると定義されている。部分的応答(PR)は、腫瘍の凝集物の大きさの50%を越える減少が原因で起きる。悪化までの中央値時間は、他覚的腫瘍応答の時間的長さを特徴付ける測定値である。
【0184】
また、腫瘍治療に関する「治療上有効な投薬量」は、疾患の進行を安定化させるその能力によっても、測定することができる。ある化合物の癌阻害能は、ヒト腫瘍での効験を予測する動物モデル系で評価することができる。治療用化合物の治療上有効量は、対象において腫瘍の大きさを減らすか、又は、症状を改善することができるものである。当業者であれば、対象の体格、対象の症状の重篤度、及び選択された特定の組成物又は投与経路といった因子に基づいて、このような量を決定できよう。
【0185】
VI.発明の用途及び方法
本発明のヒト抗体及び抗体組成物は、IL-8媒介性異常、又は、IL-8活性が関与する異常、の治療及び診断に関する、in vivo及びin vitroでの数多くの診断上及び治療上の実用性を有する。例えばこれらの分子を、多種の異常を治療、防止又は診断するために、in vivoなどのヒト対象や、又は、in vitro 又はex vivoなどの培養中の細胞に投与することができる。ここで用いる用語「対象」には、ヒト及び非ヒト動物が包含されるものと、意図されている。)好適な対象には、IL-8の活性により引き起こされる、又は関連する、異常を有するヒトの患者が含まれる。
【0186】
より具体的には、本ヒト抗体及びその誘導体を用いて、例えば炎症誘発活性、化学走性活性、及び血管新生など、特定の異常に関連するIL-8誘導性活性を阻害する。本発明の抗体により阻害される他のIL-8誘導性活性には、IL-8誘導性のCD11b(Mac-1)発現増加の阻害及びIL-8誘導性のL-セレクチン発現減少の阻害がある。(例えば本抗体を対象に投与するなど)本抗体をIL-8に接触させることにより、IL-8のその受容体への結合能及びその後のこのような活性の誘導能が阻害されて、関連する異常が治療される。好適な抗体は、IL-8に特異的なエピトープに結合し、従ってIL-8誘導性活性は有利に阻害するが、GRO-α、GRO-β、IP-10及びNAP-2などの構造上関連するケモカインの活性には干渉しないものである。
【0187】
ある実施態様では、本発明のヒト抗体を、PPP、乾癬プラーク及び滴状乾癬を含む乾癬、水疱性皮膚疾患、例えば水疱性類天疱瘡、接触性皮膚炎、湿疹、エリテマトーデス、及びアトピー性皮膚炎など、炎症性もしくは過増殖性皮膚異常を治療する方法で用いることができる。
【0188】
別の実施態様では、本発明のヒト抗体を、免疫性、自己免疫性、炎症性もしくは感染性疾患、例えば乾癬性関節炎、全身性強皮症及び硬化症、炎症性腸疾患(IBD)、クローン病、潰瘍性大腸炎、急性肺損傷、例えば急性呼吸器窮迫症候群又は成人呼吸器窮迫症候群、髄膜炎、脳炎、ブドウ膜炎、多発性骨髄腫、糸球体腎炎、腎炎、喘息、アテローム性硬化症、白血球接着不全、多発性硬化症、レイノー症候群、シェーグレン症候群、若年発症性糖尿病、ライター病、ベーチェット病、免疫複合体腎炎、IgAニューロパチー、IgMポリニューロパチー、免疫媒介性血小板減少症、例えば急性特発性血小板減少性紫斑病及び慢性特発性血小板減少性紫斑病、溶血性貧血、重症筋無力症、ループス腎炎、紅斑性狼瘡、リウマチ性関節炎(RA)、強直性脊椎炎、天疱瘡、グレーブズ病、橋本甲状腺炎、小血管血管炎、例えばウェゲナー肉芽腫症、オーメン症候群、慢性腎不全、自己免疫甲状腺疾患、急性感染性単核細胞症、HIV、疱疹ウィルス関連疾患、ヒトウィルス感染、例えばヒトライノウィルス、コロナウィルス、他のエンテロウィルス、疱疹ウィルス、インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルス、呼吸器発疹ウィルス又はアデノウィルス感染により引き起こされる通常の風邪、細菌性肺炎、創傷、敗血症、脳卒中/脳水腫、虚血-再潅流損傷及びC型肝炎などを治療する方法において用いることができる。
【0189】
ある実施態様では、本ヒトモノクローナル抗体を、血小板崩壊、心-肺バイパス、経皮冠状介入(PCI)、冠状動脈バイパス、又は心臓移植後の虚血-再潅流損傷の治療に用いることができる。
【0190】
更に別の実施態様では、本発明のヒト抗体を、アルコール性肝炎及び急性膵炎の治療に用いることができる。
【0191】
更なる実施態様では、本発明のヒト抗体を、例えば黒色腫、甲状腺癌、移行上皮眼、外毛根鞘腫、扁平細胞癌及び乳癌などの腫瘍及び癌など、IL-8媒介性血管新生が関与する疾患を治療するための方法に用いることができる。
【0192】
別の実施態様では、本発明のヒト抗体を、顆粒球遊走を遮断すると有益である疾患の治療に用いることができ、例えば
孤立性脳血管炎など、中枢神経系に罹患する疾患;
多発性単神経炎などの末梢神経系に罹患する疾患;
急性心筋梗塞、心筋炎、心膜炎、及びリーブマン-ザックス心内膜炎などの心臓血管異常;
慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺胞炎、閉塞性細気管支炎、嚢胞性線維症、アレルギー性アスペルギルス症、及びレフレル症候群などの肺の異常;
硬化性胆管炎などの肝臓の異常;
慢性シクティティス(原語:cyctitis)などの尿生殖器の異常;
細管-間質性腎炎などの腎臓の異常;
重症急性呼吸器症候群(SARS)などの感染性疾患;
大血管血管炎(巨大細胞動脈炎、リウマチ性多発性筋痛、及び高安関節炎を含む)、中程度の大きさの血管の血管炎(結節性多発性動脈炎、局所性結節性多発性動脈炎、及び川崎病を含む)、小血管血管炎(チャーグ・ストラウス症候群、顕微鏡的多発性動脈炎、クリオグロブリン血管炎、及び白血球溶解性血管炎を含む)、二次性血管炎(リウマチ性血管炎、及び全身性エリテマトーデス又はシェーグレン症候群に関連する血管炎)、孤立性仙腸骨炎、SAPHO症候群、及びディスキイティス(原語:disciitis)(術後ディスキイティスを含む)などのリウマチ性異常;
亜急性甲状腺炎などの内分泌異常;
良性粘膜類天疱瘡、疱疹状皮膚炎、角層下膿疱症、後天性表皮水疱症、酒さ、急性熱性皮膚病、環状肉芽腫(スイート症候群を含む)、壊疽性膿皮症、及びざ瘡(集簇性ざ瘡を含む)などの皮膚の異常;
サルコイドーシス、再発性多発性軟骨炎、家族性地中海熱、皮下脂肪組織炎、結節性紅斑、ウェーバー-クリスチャン病、及び後腹膜線維化症などの結合組織の異常、
の治療に用いることができる。
【0193】
別の実施態様では、本発明のヒト抗体を、IL-8と破骨細胞との間の相互作用に干渉すると有益であるような、例えば骨粗鬆症及び骨融解性転移などの疾患の治療に用いる。
【0194】
別の実施態様では、本発明のヒト抗体を、IL-8と腫瘍細胞との間の相互作用に干渉すると有益であるような、例えば胃癌、結腸直腸癌、及び膀胱癌などの疾患の治療に用いる。
【0195】
本方法は、本発明の抗体組成物を、前記異常を治療又は防止するために有効量、対象に投与することに関する。本抗体組成物を単独で投与することも、又は、例えば炎症性もしくは過増殖性皮膚異常を治療するための作用薬、抗炎症剤、免疫抑制剤、及び化学療法薬から選択される一種異常の作用薬など、IL-8媒介性疾患を治療又は防止するために本抗体組成物と結合的又は相乗的に作用する一種以上の更なる治療薬と一緒に投与することもできる。
【0196】
本発明の抗体組成物をin vivo及びin vitroで投与するために適した経路は当業で公知であり、当業者であれば選択が可能である。例えば、本抗体組成物を注射又は輸注(例えば静脈内又は皮下)により投与することができる。用いる分子の適した投薬量は、対象の年齢及び体重、当該抗体組成物の濃度及び/又は処方、及び治療しようとする疾患に左右されるであろう。
【0197】
前述したように、本発明のヒト抗IL-8抗体を、一種又は他のより多くの治療薬と同時投与することができる。本抗体を、該作用薬の前、後、又は同時に投与することができる。
【0198】
更に、本発明の抗体組成物及び使用に関する指示を含むキットも、本発明の範囲内にある。該キットには、更に、例えば免疫抑制剤、あるいは、一種以上の本発明の付加的なヒト抗体(例えば第一のヒト抗体とは異なる、IL-8抗原のエピトープに結合する補完的な活性を有するヒト抗体など)など、一種以上の付加的な作用薬を含めることができる。
【0199】
従って、本発明の抗体組成物で治療された患者を、例えば抗炎症剤など、本ヒト抗体の治療効果を高める又は増強する別の治療薬を付加的に(本発明のヒト抗体の投与の前、同時、又は後に)投与することができる。
【0200】
更に別の実施態様では、本発明は、組織試料、体液試料又は細胞試料など、試料中のIL-8をex vivo又はin vitroで検出することにより、IL-8に関連する疾患を診断する方法を提供するものである。これは、例えば、検査しようとする試料を、選択的にはコントロール試料と並行して、本ヒト抗体に、本抗体とIL-8との間の複合体形成が可能な条件下で接触させることにより、達成することができる。次に、複合体形成を(例えばELISAを用いて)検出することができる。検査試料と並行してコントロール試料を用いる場合、複合体が両方の試料で検出でき、これらの試料間で複合体形成に統計上有意な差があれば、検査試料中のIL-8の存在の指標である。
【0201】
さらに本発明を、以下の実施例により描出するが、以下の実施例をさらに限定的なものと捉えてはならない。
【0202】
実施例
実施例1 IL-8に対するヒトモノクローナル抗体(HuMab)の作製
ヒトIL-8に対するヒトモノクローナル抗体(72アミノ酸型)を、ヒト免疫グロブリン導入遺伝子を持つトランスジェニック・マウスで以下の通りに作製した。
【0203】
抗原: 組換えヒトIL-8抗原(rhIL-8)を標準的な組換えDNA技術を用いて調製し、PBS中に0.713mg/mLのタンパク質濃度で提供した。この可溶性抗原を使用時まで-80℃で保存した。可溶性IL-8を、1回目の免疫処理に向けて完全フロイント・アジュバント(CF)(シグマF5881)と混合した。その後、該抗原を不完全フロイント・アジュバント(IF)(シグマF5506)と混合した。25マイクログラムの組換えIL-8を100μLのPBSに入れたものを1:1に成るように前記アジュバントに、乳濁化針を用いて混合した。マウスに、0.2mLの調製された抗原を、腹腔内注射した。
【0204】
トランスジェニック・マウス:マウスをフィルタ・ケージに入れ、免疫日及び採血日、並びに融合日に良好な健康状態であると評価した。
【0205】
モノクローナル抗体(mAb)10F8を生じたマウスはオス、遺伝子型(CMD)++;(HCo7)19952+;(JKD)++;(KCo5)9272+のID81645番だった。個々の導入遺伝子の表記を括弧内に付し、その後に無作為に組み込まれた導入遺伝子の株番号を続けている。記号++及び+はホモ接合型又はヘミ接合型を示す。しかしながら、マウスは、慣例的に、無作為に組み込まれたヒトIg導入遺伝子についてヘテロ接合型とホモ接合型との間の区別をできないPCRベースの検定を用いてスクリーニングされているため、+の記号は、これらの因子について実際にはホモ接合型であるマウスに与えられている可能性もある。
【0206】
HCo7マウスは、JKD破壊をそれらの内因性軽鎖(カッパ)遺伝子に(Chen et al.(1993)EMBO J.12:821-830に解説された通りのもの)、CMD破壊をそれらの内因性重鎖遺伝子に(WO 01/14424の実施例1に解説された通りのもの)、KCo5ヒトカッパ軽鎖導入遺伝子(Fishwild et al.(1996)Nature Biotechnology 14:845-851に解説されたもの)、及びHCo7ヒト重鎖導入遺伝子(US 5,770,429に解説されたもの)を持つ。
【0207】
HCo12マウスは、JKD破壊をそれらの内因性軽鎖(カッパ)遺伝子に(Chen et al.(1993)EMBO J.12:821-830に解説された通りのもの)、CMD破壊をそれらの内因性重鎖遺伝子(Korman et al.によるWO 01/14424の実施例1に解説された通りのもの)、KCo5ヒトカッパ軽鎖導入遺伝子(Fishwild et al.(1996)Nature Biotechnology 14:845-851に解説されたもの)、及びHCo12ヒト重鎖導入遺伝子(Korman et al.によるWO 01/14424の実施例2に解説された通りのもの)を持つ。
【0208】
免疫処理の手法:マウスに用いた免疫スケジュールを下の表1に挙げる。rIL-8で免疫されたHCo7及びHCo12遺伝子型の10匹のマウスの脾細胞を101日目に融合させた。
【0209】
【表1】

【0210】
ハイブリドーマ調製: P3 X63 ag8.653骨髄腫細胞株(ATCC CRL 1580、ロットF-15183)を融合に用いた。最初のATCCバイアルを解凍し、培養で展開させた。凍結バイアルの種ストックをこの展開物から調製した。細胞を3乃至6ヶ月間、培養に維持し、1週間に2回、継代させた。P388D1細胞株(ATCC TIB-63 FL)を200mLまで展開させ、枯渇させた。上清を遠心分離し、濾過し、調整培地として公知の培地添加物として用いた。この細胞株を3乃至6ヶ月間、継代させた後、新しいバイアルを解凍した。
【0211】
5%FBS、及びペニシリン-ストレプトマイシン(セルグロー社、#30004030番)を含有する高グルコースDMEM(メディアテック、セルグロー、#10013245)を用いて該骨髄腫及びP388D1細胞を培養した。3%オリゲン-ハイブリドーマ・クローニング・ファクター(アイジェン社、36335)、10%P388D1調整培地(8/10/99 DH)、10%FBS(ハイクローン、SH30071ロット番号AGH6843)、L-グルタミン(ギブコ社、#1016483)0.1%ゲンタマイシン(ギブコ社#1020070)、2-メルカプトエタノール(ギブコ社#1019091)、HAT((シグマ社、H0262)1.0×10^(4)M ヒポキサンチン、4.0x10^(-7)M アミノプテリン、1.6×10^(-5)M チミジン)、又はHT((シグマ社、H0137)1.0×10^(-4)M ヒポキサンチン、1.6×10^(-5)M チミジン)を含む、付加的な培地補助剤を該ハイブリドーマ成長培地に加えた。
【0212】
マウス#18645由来の脾臓は大きさの点で正常であり、1.8×10^(8)個の生存細胞が得られた。10(96-ウェル)プレートに200μL/ウェルになるように分配した。次に脾細胞を融合し、ヒトIgG,κ抗体に関する最初のELISAスクリーニングを、融合後10乃至12日目に行った。
【0213】
次に、ヒトIgG,κ陽性ウェルを、可溶性IL-8で被覆したELISAプレート上でスクリーニングした。次に抗原陽性ハイブリドーマを24ウェル・プレートに移し、最終的には組織培養フラスコに移した。IL-8特異的ハイブリドーマを限界希釈によりサブクローニングして、モノクローナル性を確認した。50%FBSプラス10%DMSO(シグマ社、D2650)を添加したDMEM中に細胞を凍結させることにより、発生プロセスのいくつかの段階で抗原陽性ハイブリドーマを保存した。
【0214】
マウス#18645の抗体価を下の表2の通りに示した。この抗体価はHuγ抗原特異的である。抗体価の値は、ODがバックグラウンドのそれの2倍に等しい値になる最高の希釈度の逆数であると定義されている。
【0215】
【表2】

【0216】
この融合株をELISAによりHuγ抗原反応性についてスクリーニングした。抗原に関するこのスクリーニング(ELISAベースの)後、2つの可能性ある抗原特異的ハイブリドーマをこの融合株から特定した。これら2つのハイブリドーマを、前の融合で得られた6つの他のハイブリドーマと並行して、治療上の可能性について評価した。これらの株をサブクローニングし、枯渇させた上清をプロテイン-Aで精製した。K_(D)の判定はBIAcoreを用いて行われた。コントロールmAbに比較して、ハイブリドーマ10F8は親和性が大変高いことが判明し、更なる特徴付けに選ばれた。
【0217】
実施例2 抗体のV_(H)及びV_(L)領域の決定
細胞培養: HuMab 10F8 ハイブリドーマ細胞株を10%FCS、2mM L-グルタミン、100IU/mL ペニシリン、100μg/mL ストレプトマイシン(pen/strep)(すべて英国、ペーズリー、ライフ・テクノロジーズ、ギブコBRL社から得た)及び1mM ピルビン酸ナトリウムを添加したダルベッコの改良イーグル培地(DMEM、ギブコBRL社)で培養した。細胞を5%CO_(2)を含有する加湿した雰囲気内で37℃に維持した。
【0218】
RNAの調製: PolyA+mRNAを2×10^(6)個のHuMab-IL-8(10F8)細胞から、マイクロ-ファスト・トラック・キット(米国カリフォルニア州、カールスバッド、インビトロジェン社)を用いて、メーカのプロトコルに従って調製した。
【0219】
cDNAの調製: HuMab-IL-8(10F8)細胞由来のRNAの相補DNA(cDNA)を、得られたmRNAの4分の1から、cDNAサイクル・キット(米国カリフォルニア州、カールスバッド、インビトロジェン社)を用いて、メーカのプロトコルに従って調製した。
V_(H)及びV_(L)領域を以下のプライマを用いて増幅した:
V_(H)FR15’プライマ:

V_(H)リーダ5’ プライマ:

V_(H)3’ プライマ:

V_(K)FR15’ プライマ:

V_(K)リーダ5’ プライマ:

V_(K)3’ プライマ:

上記のプライマ配列において、K、S、R、Y及びWは以下の意味を有する:
K=G又はT;S=C又はG;R=A又はG;Y=C又はT;及びW=A又はT
【0220】
クローニング用のV_(H)及びV_(L)領域を増幅するために用いられたPCR条件: ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を、クローニングされたPfuポリメラーゼ(米国カリフォルニア州、ラホーヤ、ストラータジーン社)をGeneAmp PCRシステム9700(米国カリフォルニア州、フォスター・シティ、パーキン・エルマ・アプライド・バイオシステムズ社)上で用いて行った。
【0221】
PCRサイクリング・プロトコル:
94℃2分
10サイクル 94℃45秒
65℃45秒、1サイクル毎にマイナス1℃
72℃1分
20サイクル 94℃45秒
55℃45秒
72℃1分
72℃10分
4℃まで冷却
【0222】
V_(H)及びV_(L)のpCR-ブラント-ベクタ・システムでのクローニング: 該PCR産物をアガロース・ゲル上で分析後、この産物をpCR-ブラント・ベクタ・システム(インビトロジェン社)に、メーカのプロトコルに従って直接、ライゲートした。FR1又はリーダ・プライマを用いて、3つの個別に増幅されたV_(H)PCR産物と、5つの個別に増幅されたV_(L)PCR産物とをクローニングし、配列決定した。
【0223】
E.coli TOP 10(インビトロジェン社)内への形質転換後、コロニから採ったプラスミドDNAを、Qiaprepスピンminiprepキット(米国カリフォルニア州、バレンシア、キアジェン社)を用いて精製した。個々のクローンを、V_(H)又はV_(L)PCR産物インサートについて、EcoRI(米国マサチューセッツ州、ビバリー、ニューイングランド・バイオラブズ社)による消化及びアガロース・ゲル上での分析により、スクリーニングした。
【0224】
配列決定: V領域を、T7及びT3プライマを用いたpCR-ブラント・ベクタ・システムでのクローニング後に、米国イリノイ州ノースブック、ACGT社で配列決定した。これらの配列はプログラムDNAStar、SeqmanIIで解析された。これらの配列は生殖細胞系V遺伝子にVbase(www.mrc-cpe.cam.ac.uk/imt-doc/public/intro.htm)でアライメントされた。
【0225】
Vbaseでのアライメントによる10F8のV_(H)領域の生殖細胞系ファミリ: V_(H)3-33(V_(H)3-サブグループ)、J_(H)4(b)(J_(H)-セグメント)。D_(H)セグメントに対する相補領域は、V-baseソフトウェアでは認められなかったが、これはおそらくは、Dセグメントにおける体細胞超変異が原因である。
【0226】
Vbaseでのアライメントによる10F8のV_(L)領域の生殖細胞系ファミリ: V_(K)A-27(V_(K)III-サブグループ)及びJ_(K)3(J_(K)-セグメント)。
【0227】
図1は、10F8のV_(L)及びV_(H)領域のヌクレオチド配列を示す。図2及び4は、それぞれ10F8のV_(L)及びV_(H)領域ヌクレオチド配列の、それらの対応する生殖細胞系配列とのアライメントを示す。図3及び5は、それぞれ10F8のV_(L)及びV_(H)領域アミノ酸配列の、それらの対応する生殖細胞系にコードされた配列とのアライメントを示す。
【0228】
10F8: ヒトモノクローナルIgG1,κ抗体とV_(H)及びV_(L)アミノ酸配列:それぞれ配列番号12及び8。
【0229】
実施例3 組換えHuMab 10F8の発現
HuMab 10F8からクローニングされたV_(L)及びV_(H)領域を、免疫グロブリン発現ベクタの発現カセット内にサブクローニングした。該V領域は、ヒトカッパ及びガンマ1定常領域の上流に挿入されたが、完全長10F8重鎖及び軽鎖をコードしている。10F8発現ベクタをチャイニーズ・ハムスター卵巣(CHO)細胞にトランスフェクトし、組換え抗体を発現するトランスフェクトーマ細胞株を樹立した。CHO細胞から生じた組換え10F8の親和性を、BIAcoreを用いたプラズモン表面共鳴の動態解析で評価したところ、ハイブリドーマ由来10F8抗体の親和性と同一であると測定された。
【0230】
実施例4 HuMab 10F8(Fab及びIgG)のIL-8への結合
培養上清からのモノクローナル抗体の精製: HuMab 10F8をプロテインAアフィニティ・クロマトグラフィにより、以下の手法を用いて精製した:(1)添加条件:上清を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で平衡させた5mLのプロテインAカラム上に添加した。;(2)洗浄:PBS;(3)溶離:150mM NaCl、pH2.9を加えた0.1Mのグリシン。溶離物を1M Tris緩衝液(2mL画分毎に30μl)で中和した。溶離した各画分を、プールする前にゲル上を泳動させた。クーマシー染色により純度を確認したら、画分をプールし、150mM NaCl、pH7.2、を加えた10mMリン酸ナトリウム緩衝液で透析した。
【0231】
Fabフラグメントの調製: HuMab 10F8由来のFabフラグメント調製をキットの指示に従って行った(ピアース技術文献44885)。精製済みのIgGのうちの5mgをこの目的に用いた。単離されたFab産物を、150mM NaCl,pH7.2、を加えた10mMのリン酸ナトリウムで透析し、そのタンパク質濃度を、BCA(ピアース社)検定によりBSAを標準として用いて判定した。そのFabをその純度及び種類について、SDS-PAGEにより特徴付けした。
【0232】
親和定数: 10F8 Fabの親和定数を判定し、10F8 IgG1,κの対応する数値と比較した。全IgG分子は、親和定数を判定するための実験手法の解離段階の間の再結合効果につながり、ひいては解離速度定数が見かけ上低くなり、従って親和定数が遙かに高くなることになる。これらの人工的な親和力効果を無くすために、Fab分子をIgG,κの代わりに用いて親和性及び速度定数を判定した。ACM-5チップを用いてアミン結合を介してIL-8を固定した。
【0233】
BIAcore 3000を用いた、25℃及び37℃でのIgG1,κ及びFabのセンソグラム(データは図示せず)に基づく結合及び速度定数を下に要約する。
【0234】
25℃での結合及び速度定数

37℃での結合及び速度定数

【0235】
インタクトIgG1,κのIL-8との相互作用では、0.21x10^(-5)秒^(-1)の解離速度定数であったが、Fabの対応する数値は1.96x10^(-5)秒^(-1)であり、再結合及び親和力効果がIgG1,κ(親和定数が高くなる)の解離速度定数に影響することを示している。これらの人工効果を、インタクトIgG1,κの代わりにFabを用いて無くした。
【0236】
25℃(室温)に比較したときの、37℃という生理的温度での相互作用を解析すると、該速度定数は更に影響を受け、IgG1,κ及びFabの両方について、親和定数が比較的に低くなった。37℃でのFabの親和定数は、この生理的温度での各結合部位の真の親和性に相当する。
【0237】
半減期(即ち、複合体の50%が解離するのにかかる時間)は37℃では50%、減少した。これは、生理的温度での実際の生物学的半減期の近似値である。
【0238】
他に記載しない限り、ハイブリドーマ由来10F8抗体を以下の実施例で用いた。
【0239】
実施例5 他のCXCケモカインとの交差反応のない、HuMab 10F8の天然IL-8への結合
他のケモカインに対するHuMab 10F8クローンの交差反応の可能性をELISAにより評価した。簡単に説明すると、マイクロタイタELISAプレート(ドイツ、グライナ社)を室温(RT)で一晩、1μg/mLの組換えヒト(rh)GRO-α、rh-GRO-β、rh-IP-10、単球由来(IL-8M又はIL-8 Mpepretech)であるrh-IL-8 72aa型、又は、内皮細胞由来であるrh-IL-8 77aa型(IL-8E)で、1ウェル当たり100μlにして被覆した。プレートを、PBST(0.05% v/v Tween-20(米国、フィッシャ・サイエンティフィック社))を添加したリン酸緩衝生理食塩水で2回、洗浄し、ウェルを100μl/ウェルの(PBST プラス 2% v/v ニワトリ血清)で室温で1時間、遮断した。その後、ウェルを1時間、RTで、震盪条件下で、PBSTCで1:3に希釈したHuMab-IL-8 クローン10F8、20μg/mLと一緒にインキュベートした。次に、ウェルをPBSTで3回、洗浄し、それぞれマウス又はヒト抗体の検出に向けてHRP-結合ウサギ抗マウスIgG F(ab’)_(2)フラグメント(ジャクソン社;PBSTCに1:3000に希釈したもの)又はHRP-結合ウサギ抗ヒトIgG F(ab’)_(2)(ダコ社、デンマーク;PBSTCで1:2000に希釈したもの)のいずれかと一緒にインキュベートした。プレートをPBSTで3回、洗浄し、検定を、調製したばかりのABTS溶液(1mg/mL)(ABTS:2,2’-アジノビス(3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸;2錠の5mgを10mL ABTS緩衝液、ドイツ、マンハイム、ベーリンガー社、に入れて)で30分間、室温の暗室内で展開させた。吸光度を405nmで、ELISAプレート・リーダ(米国ウィノーキ、バイオテック・インスツルメンツ社)で測定した。図6に示す結果は、行った3つの実験のうちの代表である。見られるように、HuMab 10F8は内皮細胞由来ヒトIL-8と、単球由来ヒトIL-8の両方に結合する。しかしながら、それはケモカインGRO-α、GRO-β又はIP-10と交差反応しない。
【0240】
実施例6 好中球錠のIL-8Rに対するIL-8の結合の阻害
放射性標識されたIL-8の、好中球上のIL-8受容体(CXCR1及びCXCR2)への結合の、HuMab 10F8による阻害能を以下の通りに評価した:
好中球を、正常なボランティアから採ったヘパリン処理済み全血から濃縮した。この血液をフィッコール・ハイパックで層にし、1500rpmで30分間、遠心分離した。単核細胞層を除去し、赤血球を低張溶解させた。その結果得られた好中球を、0.1%BSA及び0.02%アジ化ナトリウム(0.1%PBA)を含有するPBS中に再懸濁させ、氷上に保持した。IL-8結合検定を前に解説(Yang et al,(1999)J.Leukoc.Biol.66:401-410)された通りに行った。簡単に説明すると、150μlの最終体積中、4x10^(5)個の好中球を1.5乃至3時間、氷上で、0.25nM[^(125)I]組換えヒトIL-8(ニュージャージー州ピスカタウェイ、アマーシャム・ライフ・サイエンセズ社)と、様々な濃度の10F8(ハイブリドーマ由来)、10F8(トランスフェクトーマ由来)、マウス抗ヒトIL-8mAb 6712.111 R&Dシステムズ社、及びコントロール抗体と一緒にインキュベートした。インキュベーションは全て、96ウェル・マルチスクリーン・フィルタ・プレート(マサチューセッツ州ベッドフォード、ミリポア社)上で行われた。プレートを低温の0.1%PBAでよく洗浄し、フィルタをウォラック・ガンマ・カウンタで計数した。結果をそれぞれ図7A及び7Bに、3対又は4対の平均値で表して示す。結合の阻害は、コントロール抗体のパーセンテージで表されている。
【0241】
図7A及び7Bに示すように、HuMab 10F8は、標識されたIL-8の好中球への結合を用量依存的に阻害した。マウス抗IL-8抗体も、標識されたIL-8の好中球への結合を用量依存的に阻害することができたが、10F8は、IL-8の好中球への結合阻害の上で、このマウス抗体よりも、例外なく、より効力があった。図7Bに示す実験では、10F8(ハイブリドーマ由来)(10F8 H)及び10F8(トランスフェクトーマ由来)(10F8 T)のIC_(50)は、それぞれ0.19nM及び0.30nMだった。
【0242】
全体的には、前述の結果は、HuMab 10F8が、IL-8のその受容体への結合を用量依存的に阻害し、市販のマウス抗IL-8抗体よりも低い濃度で、この結合を阻害することができることを示している。
【0243】
実施例7 IL-8媒介性好中球化学走性の阻害
HuMab 10F8及びマウス抗IL-8抗体(MAb 6217.111、R&Dシステムズ)による、IL-8誘導性好中球遊走の阻害能を化学走性検定法を用いて評価した。
【0244】
好中球を、トランスウェル・プレートの一方のチャンバ内でインキュベートした。IL-8(rhIL-8)を様々な濃度のHuMab 10F8、マウス抗IL-8 MAb、及びコントロール抗体と一緒に、該トランスウェル・プレートの他方のチャンバ内でインキュベートした。当該検定液を37℃で2時間、インキュベートし、細胞遊走を定量した。
【0245】
図8Aに示されたデータは、好中球の化学走性がHu Mab10F8及びマウスIL-8特異抗体により用量依存的に阻害されたことを示す。コントロール抗体は化学走性を阻害しなかった。これらのデータは、HuMab 10F8が、好中球の遊走という、in vivoでの重要なIL-8機能を阻害することができることを実証するものである。
【0246】
HuMab 10F8による、ヒトIL-8に向かうヒト好中球の泳動阻害能を、ボイデン・チャンバを用いて更に研究した。
【0247】
ヒトIL-8(10^(-8)M)を、様々な濃度のHuMab 10F8と一緒に、ボイデン・チャンバの下側の区画でインキュベートした。好中球(4x10^(5)個の細胞)を上側の区画でインキュベートした。検定液は37℃で1時間、インキュベートされ、細胞遊走が定量された。
【0248】
図8Bに示されたデータは、好中球の化学走性が、HuMab 10F8により用量依存的に阻害されたことを示す。これらのデータもまた、HuMab 10F8が、IL-8の重要なin vivoでの機能である好中球遊走を阻害することができることを実証している。
【0249】
実施例8 好中球上でのIL-8誘導性接着分子発現の変化
ヒト好中球は、IL-8で刺激されたときに、CD11b(Mac-1)の発現増加及びL-セレクチン(CD62L)の発現減少を示す。PMN上での接着分子発現におけるIL-8誘導性変化を阻害する10F8の阻害能を、フローサイトメトリで研究した。簡単に説明すると、100μlの1:5に希釈された全血を10F8の連続希釈液(5、2.5、1.25、0.625、0.312、0μg/mL)と一緒に、25ng/mLの組換えヒトIL-8(rh-IL-8、72aa、Peprotech)の非存在下又は存在下で、96ウェル平底培養プレートで最終体積1を1ウェル当たり200μlにして2時間、37℃及び5%CO_(2)でインキュベートした。その後、細胞を遠心分離で沈降させ、上清を、ラクトフェリンの存在に関する更なる評価まで、-20℃で保存した。細胞を200μlの冷FACS緩衝液(0.02%(v/v)アジド及び0.1%(w/v)BSAを添加したPBS)で補給し、200μlの冷FACS緩衝液で2回、洗浄した。細胞を遠心分離で沈降させ、1.5mg/mL PE-結合マウス抗ヒトCD11b(ベクトン・ディッキンソン社)及び1.5mg/mL FITC-結合マウス抗ヒトCD62L(ベクトン・ディッキンソン社)と一緒に、最終体積を1ウェル当たり20μlにして30分間、4℃の暗室内でインキュベートした。その後、赤血球をFACS溶解緩衝液でメーカのプロトコル(FACS溶解溶液キット、ベクトン・ディッキンソン社、カタログ番号349202)に従って溶解させた。次に、細胞を冷FACS緩衝液で洗浄した。細胞の蛍光強度をフローサイトメトリ(FACS Calibur、ベクトン・ディッキンソン社)でセル・クエスト・ソフトウェアを用いて分析した。
【0250】
PMNをIL-8で刺激すると、当該分子の放出が原因で、CD11bの発現増加及びCD62Lの発現減少など、接着分子の発現が変化した。PMN上でのCD11bの中間基線発現は1538±37(n=3)MFI(中間蛍光強度、細胞一個当たりの分子の数の尺度)であり、CD11bの発現は、25ng/mL IL-8で細胞を刺激した後、2341±274単位まで上方調節された。CD62Lの基線発現は274±24(n=3)MFIであり、CD62Lの発現は、25ng/mL IL-8の添加後、176±60単位まで下方調節された。本研究では、10F8が、細胞表面分子の発現におけるこれらのIL-8誘導性変化を阻害できることが実証された。CD11bや、CD62Lの細胞表面での発現を、25ng/mLのIL-8のみで、あるいは、10F8又は無関係のコントロール抗体の存在下で、細胞を刺激した後にフローサイトメトリにより、測定した。図9Aは、IL-8で刺激されたPMN上のCD62Lの発現を示す。無関係のアイソタイプ・コントロール抗体(星印)の存在下では、これらの被刺激PMN上でのMFIは150の近辺を変動し、この抗体がIL-8媒介性PMN活性化を遮断しないことを示した。しかしながら、細胞を、次第に濃度を高くした10F8(塗りつぶした四角)の存在下でIL-8で刺激した場合、IL-8媒介性CD62Lの放出の減少が用量依存的に観察され、10F8によるIL-8誘導性細胞活性化の阻害を示した。これと一致して、10F8(塗りつぶした四角)は、IL-8媒介性CD11b上方調節を減少させたが、他方、無関係のアイソタイプ・コントロール抗体(星印)は、影響を示さず、即ち、CD11bの発現レベルは影響を受けないままに留まった(MFIは240近辺)(n=3;図9B)。10F8の濃度の上昇は、CD11bの発現低下に相関しており、IL-8によるPMN活性化に対する10F8の阻害効果を明確に実証している。
【0251】
要約すると、図9A及び9Bに示す結果は、HuMab 10F8がa):IL-8により媒介される、好中球上のCD11b発現増加;b)IL-8により媒介される、好中球の表面上のL-セレクチン(CD62L)の放出、を阻害することができることを実証している。
【0252】
実施例9 掌蹠膿疱症(PPP)物質中に存在するIL-8
無菌物質をPPP患者(PPP水疱)、湿疹患者、又は健康なボランティアの水疱から得た。加えて、患者及び健康なコントロールから、2mLのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含有する箔中に足又は手を包むことにより、検査物質を提供してもらった。包まれた足又は手を37℃の水槽に入れて、水疱内容物のPBS中(PPP水槽)への拡散を促した。水疱物質又は水槽物質を、CXCケモカイン又は補体因子C5aの存在について、市販のELISA(IL-8:オランダ、アムステルダム、CLB、Pelikine Compact^(TM)又はIL-8:Quantikine^((R))ヒトIL-8キット、R&Dキット;GRO-α:Quantikine^((R))ヒトGRO-αキット、R&Dシステムズ;ENA-78:Quantikine^((R))ENA-78キット、R&Dシステムズ;C5aキット、Opteia、BD-ファーミンジェン社)により分析した。正常なヒト血清を陰性コントロールとして用いた。ELISAはメーカのプロトコルに従って行われた。
【0253】
図10に示されたデータは、IL-8は水疱から得られた患者物質と、水槽物質中とに存在するが、IL-8は、健康なボランティアから採った正常な血清中には見られなかったことを示す。IL-8は2つの別々の状況で測定され、患者物質中のIL-8含有量は、時間が経っても減少しなかったことが実証された。GRO-αも、程度は劣るが患者物質中に存在した。CXC ケモカイン ENA-78は、得られた物質のいずれにも見られなかった。
【0254】
表3は、IL-8はPPP患者に存在するが、他方IL-8は、湿疹患者又は健康なコントロールから得られた水槽物質中には検出不能だったことを示す。GRO-αもPPP患者物質中に存在するが、程度は劣った。試料は3回の別々の状況で測定され、患者物質中のIL-8又はGRO-α含有量は時間が経っても減少せず、プロテアーゼの存在下でも分解しないことが実証された。
【0255】
【表3】

【0256】
図11は、健康なコントロール(n=6)、湿疹患者(n=6)又はPPP患者(n=6)から得られた足水液中に存在するケモカインの測定結果を示す。解析は、Tukey検定で一方向ANOVAによる対数変換データで行われた。P<0.05を有意な差とみなした。
【0257】
湿疹患者及びPPP患者の両者とも、健康なコントロールに比較してIL-8及びGRO-αの有意な増加を示す。湿疹患者及びPPP患者の比較では、IL-8の量は、湿疹患者及びPPP患者間では有意に異なる(P<0.05)が、他方、GRO-αの量は、この2つの群で有意に異ならない(P>0.05)ことが分かる。更に、C5aの量を測定すると、いくつかの試料は、(PPP群及び湿疹群の両方に存在する)C5aの量の増加を示したが、コントロール群との有意な差は観察できなかった。
【0258】
これらのデータは、PPP患者から得られる物質中のIL-8の存在を強調するものであり、この疾患の治療薬として抗IL-8抗体を用いる根拠となるものである。
【0259】
均等物
当業者であれば、慣例的な実験によって、ここに解説した本発明の具体的な実施態様の均等物を数多く、認識し、又は確認できることであろう。このような均等物は以下の請求の範囲の包含するところと、意図されている。従属請求項に開示された実施態様のいかなる組合せも、本発明の範囲内にあると考察されている。
【0260】
引用による援用
ここに引用した全ての特許、係属中特許出願及び他の公開文献の全文を、引用をもってここに援用することとする。
【図面の簡単な説明】
【0261】
【図1】 図1は、それぞれHuMab 10F8由来のV_(L)及びV_(H)領域(配列番号1及び3)のヌクレオチド配列を示す。リーダ配列に下線を付してある。
【図2】 図2は、HuMab 10F8の軽鎖(カッパ)鎖V領域のヌクレオチド配列(配列番号6)と、対応するVκ-A-27生殖細胞系ヌクレオチド配列(配列番号5)のアライメント比較である。
【図3】 図3は、HuMab 10F8の軽鎖(カッパ)鎖V領域のアミノ酸配列(配列番号8)と、対応するVκ-A-27生殖細胞系にコードされたアミノ酸配列(配列番号7)のアライメント比較である。
【図4】 図4は、HuMab 10F8の重鎖V領域のヌクレオチド配列(配列番号10)と、対応するV_(H)-33生殖細胞系ヌクレオチド配列(配列番号9)のアライメント比較である。
【図5】 図5は、HuMab 10F8の重鎖V領域のアミノ酸配列(配列番号12)と、対応するV_(H)3-33生殖細胞系にコードされたアミノ酸配列(配列番号11)のアライメント比較である。
【図6】 図6は、HuMab 10F8が内皮細胞由来IL-8及び単球由来IL-8の両方に結合するが、IP-10、GRO-α又はGRO-βには結合しないことを示すグラフである。
【図7A】 図7Aは、マウスIL-8特異抗体(m-a-IL8)(星印)に比較したときの、HuMab 10F8(白抜き四角)による、[^(125)I]-IL-8の好中球への結合阻害を示すグラフである。
【図7B】 図7Bは、それぞれハイブリドーマ由来HuMab 10F8(10F8 H)(白抜き四角)及びトランスフェクトーマ由来HuMab 10F8(10F8 T)(塗りつぶした四角)による、[^(125)I]-IL-8の好中球への結合阻害を示すグラフである。
【図8A】 図8Aは、マウスIL-8特異抗体(6217.111)(四角)に比較したときの、HuMab 10F8(三角)によるIL-8媒介性好中球化学走性の阻害を示すグラフである。
【図8B】 図8Bは、ボイデン・チャンバを用いた遊走検定により判定された、HuMab 10F8によるIL-8媒介性好中球化学走性の阻害を示すグラフである。
【図9A】 図9Aは、無関係のヒトアイソタイプ・コントロール抗体(星印)に比較したときの、HuMab 10F8(塗りつぶした四角)による、好中球表面上のL-セレクチン(CD62L)のIL-8媒介性放出の阻害を示すグラフである。
【図9B】 図9Bは、無関係のヒトアイソタイプ・コントロール抗体(星印)に比較したときの、HuMab 10F8(塗りつぶした四角)による、好中球の細胞表面上のCD11bのIL-8媒介性発現の阻害を示すグラフである。
【図10】 図10は、ELISAにより判定された、掌蹠膿疱症(PPP)患者物質中のIL-8及びGRO-αの存在を示すグラフである。
【図11】 図11は、健康なコントロール(n=6)、湿疹患者(n=6)又はPPP患者(n=6)から得られた足水液中に存在するIL-8、GRO-α及びC5aの測定結果を示す。
【配列表】
















 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2016-04-27 
結審通知日 2016-05-02 
審決日 2016-05-13 
出願番号 特願2004-563614(P2004-563614)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (C12N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小金井 悟  
特許庁審判長 田村 明照
特許庁審判官 長井 啓子
松田 芳子
登録日 2011-05-13 
登録番号 特許第4739763号(P4739763)
発明の名称 インターロイキン8(IL-8)に対するヒトモノクローナル抗体  
代理人 水野 祐啓  
代理人 水野 祐啓  

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