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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1316012 |
審判番号 | 不服2014-23692 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-11-20 |
確定日 | 2016-06-15 |
事件の表示 | 特願2011-514138「1を超える活性医薬成分の部位特異的デリバリーのための医薬剤形」拒絶査定不服審判事件〔平成21年12月23日国際公開、WO2009/153633、平成23年 9月 8日国内公表、特表2011-524890〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2009年6月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年6月19日、南アフリカ)を国際出願日とする特許出願であって、平成25年10月10日付けで拒絶理由が通知され、平成26年4月11日に意見書及び手続補正書が提出され、同年7月16日付けで拒絶査定され、同年11月20日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 2.本願の発明 本願の請求項1?9に係る発明は、平成26年4月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「【請求項1】 ヒトまたは動物体内の異なる部位への1を超える活性医薬成分(API)の部位特異的デリバリーのための医薬剤形であって、該医薬剤形は、 内部層を全体的または部分的に被包する殻を形成する外部層、ここに、外部層は、架橋したキトサンおよびアルギン酸塩を含み、胃へのデリバリー用の少なくとも1つのAPIを含み;および ペクチンを含み、結腸領域へのデリバリー用の少なくとも1つのAPIを含む内部層を含み、 外部層は、胃酵素に応答して胃内で分解性であり、外部層から胃内にそのAPIを放出するが、内部層は、胃および小腸内で無傷のままであり、結腸酵素に応答して結腸領域で分解して、内部層からそのAPIを放出できることを特徴とする該医薬剤形。」 3.当審の判断 (1)引用刊行物及びその記載事項 刊行物1:国際公開2008/062440号 (原査定の引用文献1) 刊行物2:特開2000-256216号公報 (原査定の引用文献4) 刊行物3:特表平5-508156号公報 (原査定の引用文献5) 刊行物4:特開2005-325081号公報 (原査定の引用文献6) 刊行物5:特表2004-513182号公報 (原査定の引用文献7) ア.本願の優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物1には、以下の記載がある。なお、刊行物1は英語で記載されているため、下記摘示はその日本語翻訳文である。 (ア) 「本明細書で用いられる‘放出調節’とは、即時放出ではなく、制御放出、徐放(sustained)放出、持続(prolonged)放出、持続(timed)放出、遅延(retarded)放出、持続(extended)放出、周期的パルス放出および遅延(delayed)放出を包含する範囲の放出を意味する。 本明細書で用いられる‘システム’は、患者に好ましくは経口的に投与することができ、かつ患者の体内に活性薬剤を送達するために用いることができる組成物、製剤、デバイスもしくは集合体を包含する。」(第8頁第9?15行) (イ) 「上記システムの構造および機能を、以下の本発明およびその態様の説明において示す。図1は、本発明の説明図および態様を示す。好ましくは、それは以下の区画:コア(I)、任意の第1ポリマー層(II)、中空スペース(III)、第2ポリマー層(IV)および活性薬剤含有層(V)を含む。」(第8頁第28?32行) (ウ) 「コアは、従来一般的にみられる1または複数の賦形剤、たとえばフィラー、希釈剤、バインダー、崩壊剤、安定剤、界面活性剤、湿潤剤、緩衝剤、防腐剤、吸収促進剤、芯材、流動促進剤、滑剤などを含む。」(第9頁第11?13行) (エ) 「コアは、任意に1または複数の活性薬剤を含むこともできる。もし存在するなら、該活性薬剤は、システムが下部腸管および/または結腸領域などの消化管の下方部分に達した時に送達することができる。」(第10頁第34行?第11頁第1行) (オ) 「第1ポリマー層: コアに隣接するのは、任意の第1ポリマー層(II)である。第1ポリマー層は、実質的にコアをカプセル化する。」(第11頁第23?25行) (カ) 「第2ポリマー層: 第2ポリマー層(IV)は、第1ポリマー層の上にコートされ、実質的にそれをカプセル化する。」(第12頁第30?32行) (キ) 「活性薬剤含有層: 活性薬剤含有層(V)(以下、‘活性層’と記す)は、第2ポリマー層の上にコートされる。この層は、活性薬剤の溶液または懸濁液を、システム上にスプレーすることによって適用される。その目的のために使用される溶媒はとしては、水性溶媒、有機溶媒またはそれらの混合物が挙げられる。このシステムに含まれる1または複数の活性薬剤の候補は、単一層として適用される。または、この層は、別々の活性薬剤が別々の層として適用されるかまたは別々の賦形剤を含む層が交互に積層される多重層によって構成される。 活性層は、空間的にも時間的にもプログラム可能な、活性薬剤のあらゆる所望タイプの送達プロファイルの提供にも適応することができる。システムは即時放出送達プロファイルまたは放出調節送達プロファイルを提供しうる。 ある態様において、上記層は、活性薬剤がマトリックス材料を含む混合物中に存在するマトリックス型システムとして形成される。使用される賦形剤は、当技術分野で周知であり、通常、希釈剤、バインダー、安定剤などを含む。放出調節プロファイルが望まれる場合には、速度制御材料が好ましく使用される。速度制御材料としては、たとえば、さまざまな天然もしくは合成ポリマー、植物、動物、鉱物もしくは合成源のガム、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪酸のグリセリルエステル、鉱物もしくは植物油およびワックスなどの置換または非置換の炭化水素が挙げられる。使用される材料のタイプおよび量は、所望する放出調節の性質に応じて、当業者により容易に決定される。たとえば、使用することができる典型的な速度制御材料は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、エチルセルロース、およびポリ(メタクリラート)共重合体を含む。 ・・・ 活性層は、特に胃内の液レベルが低いときの胃腸粘膜表面への接着性効果により、システムのその胃部内滞留をより助長することができる粘膜接着物質を含んでもよい。含有しうる粘膜接着物質の非限定的な例は、カルボポール(各種グレード)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリカルボフィル(NOVEON AA-I)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、およびこれらの組合わせである。」(第14頁第31行?第16頁第5行)(注意:下線は当審が付与した。) (ク) 「活性薬剤: 本発明に包含される活性薬剤は、このようなシステムに取り込まれることに利点があればどのような活性成分も含む。このような薬剤の例としては、特に制限するものではないが、アルツハイマー病に使用される活性薬剤、抗生物質、抗潰瘍薬、抗ムスカリン薬、抗ウィルス薬、麻酔薬、末端肥大症薬、ステロイド性もしくは非ステロイド性抗炎症薬、鎮痛薬、抗ぜんそく薬、抗がん薬、抗凝固ないし抗血栓症薬、抗けいれん剤、抗糖尿病薬、抗嘔吐剤、アルコール依存症剤、抗緑内障薬、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、抗感染薬、抗パーキンソン症薬、抗血小板薬、抗リウマチ薬、抗ケイレン性および抗コリン作用薬、咳止薬、炭酸脱水酵素阻害剤、心臓血管薬、コリンエステラーゼ阻害剤、CNS疾患の治療、中枢神経系刺激薬、避妊薬、嚢胞性線維症管理剤、ドーパミン受容体アゴニスト、子宮内膜症管理剤、勃起障害治療薬、尿路殺菌剤、不妊治療薬、胃腸薬、免疫刺激剤および免疫抑制剤、ビタミン、栄養剤、記憶促進剤、片頭痛剤、筋弛緩薬、ヌクレオシド類似体、骨粗しょう症管理、呼吸器官のための活性薬剤、副交感神経興奮薬、プロスタグランジン、P-gp阻害剤、精神治療薬、鎮静剤、睡眠剤およびトランキライザー、早朝病に使用される薬剤、タンパク、ポリペプチドなどの高分子、多糖、ワクチン、抗原、抗体、皮膚病に使用される活性薬剤、ステロイドないしホルモンおよびこれらの組合わせが挙げられる。」(第16頁第16?34行) (ケ) 「このように得られる本発明のシステムは、製造過程においてその位置で発生した中空スペースを有する。これはシステムを低密度とし、摂取時、該システムはその浮揚性のために胃液に浮遊する。その配合に応じて、該システムは、24時間、具体的に約1時間?約24時間、通常約1時間?約18時間、より一般的に約3?8時間までの胃滞留時間を示す。この期間は可変であり、賦形剤および該システムの形状およびサイズを変えることにより調整することができる。この期間中、活性層中の活性薬剤は、胃および/または消化管の上部腸管領域に送達される。実質的に胃液に不溶なポリマー製の第2ポリマー層は、胃の条件では溶解されず、該システムのまま保持される。システムが消化管の下方部分に到達し、pHが高くなると、第2ポリマー層は浸食または溶解しはじめ、内部の親水性層およびコアを胃腸環境に露出する。最芯コア内に存在する活性薬剤は、所望の放出プロファイルにより下部腸管および/または結腸領域に送達される。任意に、コアは活性薬剤をなにも含まなくてもよい。」(第19頁第33行?第20頁第12行) (コ) 「特許請求の範囲 1. コア、コア上にコートされた1または複数の層および予め形成された中空スペースを含み、活性薬剤が該システムの前記コアまたは前記いずれかの層中に存在する、空間的および時間的にプログラム可能な活性薬剤の送達のためのシステム。 2.前記予め形成された中空スペースが、該システムの2以上の層の間またはコアと1以上の層との間に存在する、請求項1に記載のシステム。 3.コア、ポリマー層、該ポリマー層の上にコートされた活性薬剤含有層および予め形成された中空スペースを含む、請求項2に記載のシステム。 ・・・ 5.前記活性薬剤がコア中にも存在する、請求項3に記載のシステム。 ・・・ 37.前記システムが経口投与された時、前記活性薬剤含有層中に存在する前記活性薬剤が胃および/または上部腸管領域に送達され、前記コア内に存在する活性薬剤が下部腸管および/または結腸領域に送達される、請求項5に記載のシステム。」 イ.本願の優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物2には、以下の記載がある。 (ア) 「【請求項1】 徐放を行うための化合物と、油脂または多糖類とを含有するゲル状組成物。 【請求項2】 ゲルがアルギン酸ゲルである、請求項1に記載のゲル状組成物。 ・・・ 【請求項4】 多糖類がキトサンである、請求項1に記載のゲル状組成物。 【請求項5】 徐放を行うための化合物が薬物である、請求項1に記載のゲル状組成物。」(【特許請求の範囲】) (イ) 「【発明が解決しようとする課題】本発明は、含有する薬剤などの化合物に対し高い徐放性を有し、かつ比重の調製により胃内滞留性を高めることが可能なゲル状組成物を提供することを課題とする。」(【0005】) (ウ) 「本発明のゲル状組成物の調製に用いられるゲルとしては、軽比重の油脂もしくは多糖類を固定化しうる性質を有すれば特に制限はない。例えば、アルギン酸ゲルビーズが好適に用いられる。 本発明のゲル状組成物は以下のようにして調製することができる。例えば、アルギン酸ゲルを調製する場合には、徐放を行う化合物および、油脂もしくは多糖類を含有するアルギン酸ナトリウム水溶液をパントテン酸カルシウムなどのゲル化剤の水溶液に滴下する。これにより、瞬時をゲルを形成することができる。」(【0012】【0013】) (エ) 「[実施例8] 浮遊性乾燥ゲルビーズの調製 経口投与製剤としての汎用性を考慮して、浮遊性乾燥ゲルの調製を以下のようにして行った。メトロニダゾールをモデル薬剤として含み、天然多糖類としてキトサン(Fグレード; キミツ化学社製)を下記の量含む1%アルギン酸ナトリウム水溶液を、0.1M パントテン酸カルシウム溶液に滴下し、24時間静置して、実施例1と同様にハイドロゲルビーズを形成させた。これを35℃6時間で十分乾燥後、5酸化リン(P_(2)O_(5))存在下で減圧保存し、乾燥ゲルビーズとした。 各濃度のキトサンを含有するゲルビーズの浮遊性を、実施例7と同様にして調べた(表3)。表中の"(浮遊)"(括弧付きの「浮遊」)は、始めは沈降しているが、徐々に浮遊してきたことを示す。【表3】(省略) 表に示したように、メトロニダゾールを含有するゲルビーズの場合、天然多糖類未添加、および1%キトサン添加ビーズは各溶液に対し、全く浮遊性を示さなかった。一方、キトサン 5%添加時には、試験直後から終了時まで浮遊性が観察された。また、天然多糖類として、プルラン(pullulan)、キラシン(xylan)、寒天等の多糖類を添加した場合、キトサン添加時のような浮遊性は認められなかった。 浮遊性を示したキトサン5%添加乾燥ゲルビーズと、浮遊性を示さなかったキトサン1%添加乾燥ゲルビーズの表面の電子顕微鏡写真を図12に示す。キトサン5%添加乾燥ゲルビーズでは、低添加量(1%)のビーズに比べ、その表面に多くの凹凸が存在することから、キトサン含量の増加により、ゲル乾燥時、マトリクス構造に多くの空隙が生じることが、浮遊性の一因となっていることが示唆された。」(【0031】?【0035】) (オ) 「[実施例10] キトサン添加ゲルビーズの薬物放出性 キトサンの添加量を変えて上記と同様に作製したメトロニダゾール含有ゲルビーズの薬物放出挙動を実施例1と同様にして測定した(図14)。その結果、いずれのゲルビーズにおいても擬似胃液中において薬物放出制御能(徐放性)が認められ、その初期放出量はキトサン添加量に伴い減少することが判明した。また、特に、浮遊性を維持した5%キトサン添加時では、植物油含有ハイドロゲルビーズ同様、実験開始10分後に、20%のメトロニダゾールが放出され、約90分でほぼ全量が放出された。」(【0037】) ウ.本願の優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物3には、以下の記載がある。 (ア) 「1.(i)1種又は複数種の活性物質をその中に分散させて持つ母材コア、及び(ii)活性物質をなにもその中に分散させていない外側被覆層からなる1種又は複数種の治療上活性の物質の径口デリバリーのための結腸選択的医薬組成物であって、前記組成物において前記母材コア及び被覆層は結腸内に通常存在する酵素により選択的に分解可能である組成物。 2.母材コア、及び好ましくは被覆層も結腸酵素により選択的に分解可能な少なくとも1つの多糖類を基材とする請求項1記載の組成物。 ・・・ 4.酵素分解可能な1種又は複数種の多糖類がペクチン及び塩及びその誘導体からなる群より選ばれる請求項2又は3記載の組成物。」 (請求の範囲) エ.本願の優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物4には、以下の記載がある。 (ア) 「【請求項1】 薬剤とペクチン及び水を含有することを特徴とする腸溶製剤。 【請求項2】 上記製剤の剤型がゲル状製剤であることを特徴とする請求項1記載の腸溶製剤。」(【特許請求の範囲】) (イ) 「ペクチンが低pHでゲル化する性質を応用し、またそのゲル化したゲルを腸内のpHである6?8の水溶液に浸潤させ撹拌すると速やかに溶解することを発見し、本発明を見いだした。 本発明の腸溶製剤は胃液のpHである1.2?3.5の酸性条件下では溶けずに腸内のpH6?8で速やかに溶け腸溶製剤としての要求に十分に応えることができる製剤でありながら、製剤中に水を配合することにより可能となる、液剤、ゼリー剤、軟膏状剤、クリーム剤などの剤形で服用時に水を必要とせず、燕下困難者にも服用しやすく、コンプライアンスを向上させた腸溶製剤である。」(【0008】) オ.本願の優先権主張の日前に頒布されたことが明らかな刊行物5には、以下の記載がある。 (ア) 「【請求項1】 薬剤、5-12%(w/w)の金属を有するペクチン金属塩および他の薬学的に許容される担体または賦形剤を含む特異的結腸送達用カプセル。」(【特許請求の範囲】) (イ) 「発明者による徹底的な検討後、驚くべきことに、5-12wt%の金属を含有するペクチン金属塩から成るカプセル剤が、薬剤の結腸への優れた特異的送達作用を有することが認められた。本発明は、上記所見に基づいて完成する。」(【0005】) (2)刊行物1に記載の発明 上記摘示ア.(コ)の記載から、刊行物1には次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。 「コア、ポリマー層、該ポリマー層の上にコートされた活性薬剤含有層および予め形成された中空スペースを含み、活性薬剤がコア中にも存在する、空間的および時間的にプログラム可能な活性薬剤の送達のためのシステムであって、該システムが経口投与された時、前記活性薬剤含有層中に存在する前記活性薬剤が胃および/または上部腸管領域に送達され、前記コア内に存在する活性薬剤が下部腸管および/または結腸領域に送達されるシステム。」 (3)対比 本願発明と引用発明とを対比する。 ア.引用発明の「活性薬剤」は、上記摘示ア.(ク)の具体的物質の例示によれば、医薬成分であることは明らかであるため、本願発明の「活性医薬成分」に相当する。 イ.引用発明において、「胃」と「結腸領域」がヒトまたは動物体内の異なる部位であることは明らかである点、及び活性薬剤含有層中に存在する活性薬剤は胃に送達され、コア内に存在する活性薬剤は結腸領域に送達されることは、即ち2つの活性薬剤を各部位(胃、結腸領域)に選択的、特異的に送達すると言い換えられる点から、引用発明の「システムが経口投与された時、前記活性薬剤含有層中に存在する前記活性薬剤が胃および/または上部腸管領域に送達され、前記コア内に存在する活性薬剤が下部腸管および/または結腸領域に送達される」は、本願発明の「ヒトまたは動物体内の異なる部位への1を超える活性医薬成分(API)の部位特異的デリバリー」に相当する。 ウ.引用発明の「システム」は、上記摘示ア.(ア)によれば、患者の体内に活性薬剤を送達するために用いることができる製剤を含む概念である。 一方、本願発明の「医薬剤形」については、「内部層を全体的または部分的に被包する殻を形成する外部層」との構造の特定があることから、「医薬剤形」は、「医薬製剤」であるともいえる。 したがって、引用発明の「システム」は、本願発明の「医薬剤形」に相当する。 エ.引用発明のポリマー層は、上記摘示ア.(イ)(オ)(カ)によれば、第1ポリマー層はコアに隣接し、実質的にコアをカプセル化するものであり、第2ポリマー層は第1ポリマー層の上にコートされ、実質的にそれをカプセル化するものであり、引用発明の活性薬剤含有層は上記摘示ア.(キ)によれば、第2ポリマー層の上にコートされるものであるから、引用発明のシステムの構造は、コアを最内部層とし、その上に第1ポリマー層、第2ポリマー層をコートし、さらにその上に、活性薬剤含有用を最外部層として有するものである。 したがって、引用発明の「コア」「コア内に存在する活性薬剤が結腸領域に送達される(結腸領域に送達される活性薬剤が存在するコア)」が、本願発明の「内部層」「結腸領域へのデリバリー用の少なくとも1つのAPIを含む内部層」に相当する。 また、引用発明の「活性薬剤含有層」「活性薬剤含有層中に存在する活性薬剤が胃に送達され(活性薬剤含有層は、胃に送達される活性薬剤が存在する)」が、本願発明の「内部層を全体的または部分的に被包する殻を形成する外部層」「外部層は、・・・胃へのデリバリー用の少なくとも1つのAPIを含」むことに相当する。 したがって、両者は、 「ヒトまたは動物体内の異なる部位への1を超える活性医薬成分(API)の部位特異的デリバリーのための医薬剤形であって、該医薬剤形は、 内部層を全体的または部分的に被包する殻を形成する外部層、ここに、外部層は、胃へのデリバリー用の少なくとも1つのAPIを含を含み;および 結腸領域へのデリバリー用の少なくとも1つのAPIを含む内部層を含む、 該医薬剤形。」 の点で一致し、次の点で相違している。 相違点1: 本願発明が「外部層は、架橋したキトサンおよびアルギン酸塩を含」むとしているのに対し、引用発明はそのような特定がない点 相違点2: 本願発明が内部層が「ペクチンを含み」としているのに対し、引用発明はそのような特定がない点 相違点3: 引用発明がさらにコア(内部層)と活性薬剤含有層(外部層)との間に、ポリマー層及び中空スペースを有する点 相違点4: 本願発明は「外部層は、胃酵素に応答して胃内で分解性であり、外部層から胃内にそのAPIを放出するが、内部層は、胃および小腸内で無傷のままであり、結腸酵素に応答して結腸領域で分解して、内部層からそのAPIを放出できる」としているのに対し、引用発明はそのような特定がない点 (4)判断 ア.相違点1及び4について 刊行物2には、擬似胃液中で浮遊性を示す、薬物とキトサンを含有するアルギン酸ゲル状組成物が記載され(上記摘示イ.(ア)(イ)(エ))、キトサン量の添加量を変えて作成したいずれのゲルにおいても擬似胃液中において薬物放出制御能(徐放性)が認められることが記載されている(上記摘示イ.(オ))。 そして、薬物とキトサンを含有するアルギン酸ゲル状組成物の調製方法は、具体的は上記摘示イ.(ウ)(エ)によれば、「モデル薬剤を含み、キトサンを適当量含むアルギン酸ナトリウム水溶液を、パテント酸カルシウム溶液に滴下し、ハイドロゲルとし、さらに乾燥させて乾燥ゲルとする」ものであるが、当該方法を鑑みると、キトサンとアルギン酸塩を含む水溶液がゲル状になることは、即ち架橋が行われていることに他ならず、したがって、上記「薬物とキトサンを含有するアルギン酸ゲル状組成物」は、「架橋したキトサンおよびアルギン酸塩を含むもの」である。 一方、引用発明のシステムにおいても、活性薬剤含有層に含まれる活性薬剤は、胃に送達されるものであり、上記摘示ア.(ア)(キ)によれば、活性薬剤含有層に含まれる賦形剤は、放出調節プロファイル、つまり徐放放出プロファイルが望まれる場合には、速度制御材料が好ましく使用される旨、活性薬剤含有層は、胃腸粘膜表面への接着性効果により、システムのその胃部内滞留をより助長することができる粘膜接着物質を含んでいてもよい旨記載されている。 してみれば、引用発明のシステムにおける、最外部層の活性薬剤含有層に関して、上記ア.(キ)の記載に基づいて、胃部内滞留をより助長することができる粘膜接着物質を含むと共に、適当な賦形剤として徐放放出プロファイルのための速度制御材料を使用する際に、その賦形剤の具体的な材料として、徐放放出のための速度制御ができる性質を有することはもちろんのこと、できればさらに胃内滞留性を高める性質を同時に有する物質を、積極的に採用すること、例えば放出調節のための速度制御と、機序は異なるものの胃内滞留性を高めることができる、刊行物2に開示された「キトサンを含有するアルギン酸ゲル状組成物」を積極的に採用することは、当業者が容易に想到し得るものである。 その結果、活性薬剤含有層全体としては、「活性薬剤と、薬物とキトサンを含有するアルギン酸ゲル状組成物」即ち、「架橋したキトサンおよびアルギン酸塩を含み、胃へのデリバリー用の少なくとも1つのAPIを含」むものとなる。 そして、上記のとおり、引用発明の「活性薬剤含有層」が「架橋したキトサンおよびアルギン酸塩を含み、胃へのデリバリー用の少なくとも1つのAPIを含」むものとすることが、容易に想到し得るものであるとすれば、「活性薬剤含有層」は、本願発明の外部層と相違するところがないため、「活性薬剤含有層」が有する作用効果は、本願発明の「外部層」と同様に「活性薬剤含有層(外部層)から胃酵素に応答して胃内で分解性であり、活性薬剤含有層(外部層)から胃内にそのAPIを放出する」ものとなる。 イ.相違点2及び4について 上記摘示ウ.(ア)、摘示エ.(ア)(イ)、摘示オ.(ア)(イ)に記載されているように、結腸送達製剤の基材がペクチンを含むものは、本願優先権主張の日前には、周知の事項であったといえる。 そして、引用発明のシステムにおいても、最内部層のコアに含まれる活性薬剤は、結腸領域に送達されるものであり、当然に賦形剤を含むものである。 してみれば、引用発明のシステムにおける、最内部層のコアに関して、その賦形剤として、上記周知である「ペクチンを含む」ものを採用すること、即ち、コア全体としては、「ペクチンを含み、結腸領域に送達される活性薬剤を含む」もの、言い換えると「ペクチンを含み、結腸領域へのデリバリー用の少なくとも1つのAPIを含む内部層」とすることは、当業者が適宜なし得るものである。 そして、上記のとおり、引用発明の「コア」が、「ペクチンを含み、結腸領域へのデリバリー用の少なくとも1つのAPIを含む内部層」とすることが適宜なし得るものであるとすれば、「コア」は、本願発明の内部層と相違するところがないため、「コア」が有する作用効果は、本願発明と同様に「コア(内部層)は、胃および小腸内で無傷のままであり、結腸酵素に応答して結腸領域で分解して、内部層からそのAPIを放出できる」ものとなる。 ウ.相違点3について 本願明細書の【0010】には「さらに、外部層と内部層との間に位置した少なくとも1つの中間層を有する剤形が提供され」と記載されている。 よって、本願発明も外部層と内部層に間に、ポリマー、空気等、適当な材料による中間層を有することを排除しないものといえる。 エ.効果について 本願明細書の発明の詳細な説明には、「顆粒剤が、種々の比のアルギン酸塩:キトサン:ZnSO_(4)で生成される場合、SGF中で行った溶解研究は、2:1:1の比および3:1:1の比であった顆粒剤が、同様の放出プロフィールを有した、例えば、5時間の溶解後に、2:1:1の比の顆粒剤は、32.2%の薬物放出を供し、3:1:1の比の顆粒剤は、30.4%の薬物放出を供することを示した。4:1:1の比の顆粒剤は薬物放出の最良の遅延を示し、2時間で10.6%の薬物を放出し、5:1:1の比の顆粒剤は同一の期間に14.4%の薬物放出を示した(図7)。」(【0071】)と記載され、アルギン酸塩とキトサンと架橋剤としてZnSO_(4)を用いた顆粒剤は、薬物放出の遅延効果を有することが示されている。 しかしながら、刊行物2に記載された「薬物とキトサンを含有するアルギン酸ゲル状組成物」も、上記摘示イ.(オ)にあるように、薬物放出制御能(徐放性)を有するものであるため、ある程度の徐放性を有することは当業者が予測し得るものである。 そこで、徐放性の程度について検討するに、本願明細書の上記【0071】及び図7には、アルギン酸塩、キトサン、架橋剤であるZnSO_(4)を用いた場合には、薬物放出の関して、2時間で最大10.6%放出という遅延を示したことが記載されている。 しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、さらに「図9から、架橋キトサンフィルムが胃内の条件に刺激応答性であると理解できる。より詳細には、それは胃のpHに応答性である。SIF中では、キトサンフィルムは、pH1.2のSGF中で経験した100%の薬物放出と比較して53%だけの薬物放出を有した。」(【0074】)と記載され、図9より架橋キトサンフィルムは、2時間後には100%放出したことが読み取れる一方、「架橋されたキトサン殻は、ペプシンの有無により、SGF中で同一の薬物放出プロフィールを有した(図12)。」(【0077】)と記載され、図12より架橋されたキトサンは、0.3時間後には100%放出したことが読み取れることから、同じ架橋キトサンであっても、形状(フィルム状、殻形状)、架橋剤の種類等の条件が、放出の遅延効果に大きな影響を与えることが理解でき、そうであれば、上記【0071】及び図7で示した2時間で最大10.6%放出という遅延効果は、本願発明の医薬剤形とは、少なくとも「顆粒剤」という異なる形状にした際に得られる効果であり、また顆粒剤で得られた効果が、「殻を形成する外部層」という異なる形状にした際に同程度に得られるものとも言えない。 よって、本願発明の「医薬剤形」の胃内へのAPIの送達に関する効果は、ある程度の徐放性を有するものとしかいえず、その点については刊行物2にその開示があるため、当該効果は格別顕著なものではない。 (5)むすび したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された発明及び本願優先権主張の日前に周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 (6)請求人の主張について 請求人は、平成26年11月28日付け審判請求書補正書において、 「引用文献1(アルギン酸塩の増加が、生体付着性の増加を引き起こす)と引用文献4(キトサンの増加が、浮揚性の増加を引き起こす)との組合せも、胃滞留性の2つの機序(生体付着性および浮揚性)が相互に対立し、その機序は不確実な結果を提供するため、自明ではなかったものと考えます。 ・・・ その「その「予期されずかつ驚くべき」結果は、架橋したキトサンおよびアルギン酸塩に関します。換言すれば、「キトサン」が、浮揚性を増加させて、生体付着性を減少させることが先行技術から知られ、また、「アルギン酸塩」の増加が生体付着性を増加させて、浮揚性を減少させることも知られています。さらに、「架橋」の増加が生体付着性の増加を引き起こすことも知られています。 したがって、前記のごとく、架橋したキトサンおよびアルギン酸塩の組合せが不確実な特性を提供するため、再度、本発明の剤形が使用される場合に、特許請求した発明のごとき架橋したキトサンおよびアルギン酸塩を含む外部層が、胃内へのAPIの送達を提供することは、「予期されずかつ驚くべきこと」であることを具申いたします。」 と主張している。 しかしながら、引用文献1(当審決での刊行物1)には、「これはシステムを低密度とし、摂取時、該システムはその浮揚性のために胃液に浮遊する。」(上記摘示ア.(ケ))と記載される一方、「活性層は、特に胃内の液レベルが低いときの胃腸粘膜表面への接着性効果により、システムのその胃部内滞留をより助長することができる粘膜接着物質を含んでも良い。」(上記摘示ア.(キ))と記載され、これらの記載からは、胃液の量に応じて、浮揚性、、生体付着性のいずれかが自動的に選択され、胃滞留性を高めるものであること、即ち「生体付着性」と「浮揚性」は、相互に対立するものではなく、胃内の状態に応じて、併用可能な機序であることが当業者であれば理解できる。 よって、架橋したキトサンおよびアルギン酸塩の組合せが不確実な特定を提供するため、自明ではないとした出願人の主張を採用することはできない。 4.むすび 以上のとおりであるから、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-01-15 |
結審通知日 | 2016-01-19 |
審決日 | 2016-02-01 |
出願番号 | 特願2011-514138(P2011-514138) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 高橋 樹理 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
齊藤 光子 関 美祝 |
発明の名称 | 1を超える活性医薬成分の部位特異的デリバリーのための医薬剤形 |
代理人 | 佐藤 剛 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 山崎 宏 |