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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H05B |
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管理番号 | 1316014 |
審判番号 | 不服2015-808 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-01-15 |
確定日 | 2016-06-15 |
事件の表示 | 特願2010-277873「青色発光素子及びこれを含む有機発光ディスプレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月30日出願公開,特開2011-129919〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件出願は,平成22年12月14日(パリ条約による優先権主張 平成21年12月16日 大韓民国)の特許出願であって,その手続の経緯の概要は,以下のとおりである。 平成26年 6月16日:拒絶理由通知(同年同月24日発送) 平成26年 9月16日:意見書 平成26年 9月16日:手続補正書 平成26年10月 1日:拒絶査定(同年同月7日送達) 平成27年 1月15日:手続補正書(以下「本件補正」という。) 平成27年 1月15日:審判請求 平成27年 3月27日:前置報告 第2 補正却下の決定 [結論] 本件補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 (1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を「本願発明」という。)。 「 透明電極と, 前記透明電極に対向した反射電極と, 前記透明電極と前記反射電極との間に介在されていると共に青色発光層を有する中間層と,を備え, 前記中間層は, 前記透明電極と前記青色発光層との間に介在される第1機能性層と, 前記反射電極と前記青色発光層との間に介在される第2機能性層と,を備え, 下記の関係式を満たすように前記反射電極と前記青色発光層の発光ゾーンとの間の距離を調節して,前記反射電極で反射した光を消滅させることを特徴とする青色発光素子。 【数1】 (前記関係式において,qは正の奇数であり,d_(j)は,前記第2機能性層を構成するj番目の層の厚さであり,n_(jλ)は波長λで前記第2機能性層を構成するj番目の層の屈折率である。)」 (2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以下,この記載に係る発明を「本件補正後発明」という。)。なお,下線は当審判体が付したものである(以下同じ。)。 「 透明電極と, 前記透明電極に対向した反射電極と, 前記透明電極と前記反射電極との間に介在されていると共に青色発光層を有する中間層と,を備え, 前記中間層は, 前記透明電極と前記青色発光層との間に介在される第1機能性層と, 前記反射電極と前記青色発光層との間に介在される第2機能性層と,を備え, 下記の関係式を満たすように前記反射電極と前記青色発光層の発光ゾーンとの間の距離を調節して,前記反射電極で反射した光を消滅させる青色発光素子であって, 前記反射電極と前記青色発光層の発光ゾーンとの間の距離が2000Å以上であること を特徴とする青色発光素子。 【数1】 (前記関係式において,qは正の奇数であり,λは,消滅干渉によって外部への光抽出が不能となる波長であり,d_(j)は,前記第2機能性層を構成するj番目の層の厚さであり,n_(jλ)は波長λで前記第2機能性層を構成するj番目の層の屈折率であり,δは,前記青色発光層から発光した光が前記反射電極で反射される時に発生する位相偏移値である。)」 2 補正の目的 本件補正は,(A)願書に最初に添付された明細書の段落【0043】,【0045】及び【0064】の記載に基づいて,本願発明を特定するために必要な事項(以下,「本願発明特定事項」という。)である「反射電極」と「青色発光層の発光ゾーン」との間の距離について,「2000Å以上である」との限定を付加し,(B)願書に最初に添付された明細書の段落【0036】及び【0045】の記載に基づいて,本願発明特定事項である「λ」について,「消滅干渉によって外部への光抽出が不能となる波長であ」るとの記載を付加し,本願発明特定事項である「δ」について,「青色発光層から発光した光が前記反射電極で反射される時に発生する位相偏移値である」との記載を付加することで,その定義を明確にするものである。 そして,本願発明と本件補正後発明の解決しようとする課題は,ともに,「高い色特性の青色発光素子」を提供すること(段落【0006】参照。)であるから,本件補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすとともに,同法17条の2第5項2号及び4号に掲げる事項を目的とするものである。 そこで,本件補正後発明が,特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて,以下に検討する。 3 独立特許要件(29条1項3号) (1) 引用例に記載の事項 本件出願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である,特開2007-66883号公報(【公開日】平成19年3月15日,【発明の名称】発光素子アレイ及び表示装置,【出願番号】特願2006-189960号,【出願日】平成18年7月11日,【出願人】キヤノン株式会社,以下「引用例」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は,有機化合物を用いた発光素子を複数有するアレイに関するものであり,さらに詳しくは,有機化合物からなる薄膜に電界を印加することにより光を放出する有機EL(エレクトロンルミネッセンス)素子を複数有する有機EL素子アレイに関する。 【背景技術】 【0002】 有機EL素子は,陽極と陰極間に蛍光性有機化合物を含む薄膜を挟持させて,各電極から電子およびホール(正孔)を注入することにより,蛍光性化合物の励起子を生成させ,この励起子が基底状態にもどる際に放射される光を利用する素子である。 【0003】 このような有機EL素子において,陽極と陰極との間に介在する有機化合物を含む薄膜の膜厚を制御して,最大の効率,及び,最大の輝度を得る試みが多くなされている。特許文献1,2には,発光層と陰極間の膜厚を制御し,発光層から生じる光と陰極から反射してくる光とを干渉させ,実質的に取り出される光量を強める方法が開示されている。 【0004】 また,特許文献3には,光取り出し側の電極として高屈折率透明電極を用い,発光層と光取り出し側電極間の光学距離を制御して干渉効果を高める方法が開示されている。 【0005】 さらに,特許文献4に示されるように,陽極と陰極とを,反射性電極と半透過性電極との組み合わせから形成し,微小共振器を構成して干渉の効果を高める試みもなされている。 【0006】 しかしながら,上記技術においては,発光色毎に有機層膜厚,もしくは,透明電極等の厚さを変える必要があり,表示装置の製造プロセスがより煩雑になるという問題点があった。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は,上記問題点に鑑みてなされたものであり,高効率かつ色純度の優れた発光素子アレイを,簡便な構成で達成できるようにすることを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 すなわち,本発明の発光素子アレイは, 発光色が異なる複数の発光素子を有する発光素子アレイにおいて, 前記発光素子は,光取り出し電極および反射電極からなる1対の電極と,該1対の電極に配置された,発光層と前記発光層と前記反射電極との間に配置されるキャリア輸送層とを有する有機物層と,を有し, 前記発光色にかかわらず,前記発光層の前記反射電極側の界面と前記反射電極の反射面との間の距離が等しく,かつ発光色の異なる各発光素子の発光ピーク波長を,波長の長いほうから順次λ_(1),λ_(2),λ_(3),・・・とし, それぞれの前記発光層の前記反射電極側の界面と前記反射電極の反射面との間の光学距離をL_(1),L_(2),L_(3),・・・とした場合に, 以下の関係式(1)が成立することを特徴とする発光素子アレイ。 2L_(1)/λ_(1)+δ_(1)/2π=m 2L_(2)/λ_(2)+δ_(2)/2π=m+1 2L_(3)/λ_(3)+δ_(3)/2π=m+2 : ・・・(1) (式中,δは,反射電極における位相シフト量である。また,mは自然数である。) 【0010】 また,本発明の表示装置は,上記発光素子アレイを有することを特徴とする。 【発明の効果】 【0011】 本発明によれば,発光層以外の層は同一のままで,光の取り出し効率の向上,及び,色純度の向上を達成できる。」 ウ 「【0013】 図1は,本発明の有機EL素子アレイを用いた,トップエミッション型のアクティブマトリックス表示装置の概略断面図である。 【図1】 【0014】 それぞれの有機EL素子は,基板1上に,陽極2,ホール輸送層3,発光層4,電子輸送層5,電子注入層6,陰極7,保護層8を順次配置した構成のものであり,陽極2が反射電極として,陰極7が光取り出し電極として機能する。例えば赤,緑,青の三色からなる表示装置においては,赤,緑,青のEL発光をする赤発光層41,緑発光層42,青発光層43が,それぞれ形成されている。これらのEL素子に電流を通電することで,陽極2から注入されたキャリアであるホールと陰極7から注入されたキャリアである電子が,赤,緑,青それぞれの発光層において再結合し,そこで赤,緑,青それぞれの光を放出することになる。各発光色のピーク波長は,赤が600nm?680nm,緑が500nm?560nm,青が430nm?490nmである。 【0015】 この際,その発光する領域は,ホール輸送層3と発光層4と電子輸送層5の関係で決まるが,一般的には,図2に示す様に,ホール輸送層3と発光層4との界面を最大とし,内部に向かって徐々にその強度が減衰する。また,この発光した光は,基板1側,もしくは,保護層8側,どちらからでも取り出すことが可能である。本例の様に,アクティブマトリックス駆動の表示装置である場合,開口率の確保という観点から,保護層8側から光を取り出す,いわゆるトップエミッション構成が有利である。 【図2】 【0016】 図3に示す様に,発光層4内のホール輸送層3界面を最大としてEL発光が生じる場合,その光は,構成する各層の屈折率の違いにより,反射,屈折,透過,吸収等を繰り返して外部に取り出されることになる。ここで,干渉の影響を考えた場合には,発光位置(発光強度分布においてピークを示す位置)から直接取り出し方向に向かう光(A)と反射電極(陽極2)の反射面で反射して光取り出し方向へ向かう光(B)との干渉効果が最も大きくなる。干渉効果を利用するためには,発光位置と反射電極(陽極2)の反射面との光学距離を調節する必要があるが,発光位置は実質的にホール輸送層3と発光層4との界面になる。そのため,本実施の形態における有機EL素子アレイは,発光層4の反射電極(陽極2)側の界面と反射電極(陽極2)の反射面との間の光学距離を調節することによって,干渉効果を調節することができるのである。なお,ここで説明する光学距離とは,距離と絶対屈折率との積のことであり,絶対屈折率は波長によって異なる値をとる。 【図3】 【0017】 特に,本例の様に,取り出し側電極(陰極7)が透明で,かつ,その上に透明保護層8がついた構成においては,この透明電極(陰極7)界面での反射率が比較的小さくなる。その結果,共振(キャビティ)による干渉の効果は,前述した光(A)と光(B)の干渉効果よりも小さくなる。このことから,まず第一に,光(A)と光(B),すなわち,発光位置(発光強度分布においてピークを示す位置)から反射電極の反射面までの光学的距離Lを調節することで,干渉の度合いを制御することが可能となることが判明した。 【0018】 そこで,各発光色に対する発光層4の反射電極(陽極2)側の界面と反射電極(陽極2)の反射面との間の光学距離をL_(R),L_(G),L_(B)とする。すると,赤,緑,青の各色の発光ピーク波長λ_(R),λ_(G),λ_(B)に対し,以下の関係式(2)を満たすことで,干渉による光取り出し効率の向上が見込まれる事となる。 2L_(R)/λ_(R)+δ_(R)/2π=m 2L_(G)/λ_(G)+δ_(G)/2π=m’ 2L_(B)/λ_(B)+δ_(B)/2π=m” : ・・・(2) 【0019】 但し,m,m’,m”は自然数,δ_(R),δ_(G),δ_(B)は各発光色に対する反射時の位相シフト量である。また,数式中の右辺の数であるm(m’,m”)は干渉の次数と定義する。位相シフトδとは,光が反射するときに生じる位相のずれを示す量であり,以下の関係式(3)であらわすことが出来る。 δ=arctan[(2n_(i)k_(r))/(n_(i)^(2)-n_(r)^(2)-k_(r)^(2))] ・・・(3) 【0020】 但し,n_(r),k_(r)は,反射電極反射面の複素屈折率であり,n_(i)は,それに入射する側の屈折率である。 【0021】 ここで,表示装置の製造プロセスの簡略化という観点から見た場合,発光層以外の層は,出来る限り共通化できるほうが好ましい。そのため,本発明の発光素子アレイは,発光色にかかわらず,発光層4の反射電極(陽極2)側の界面と反射電極(陽極2)の反射面との間の距離を等しくする。このとき,L_(R),L_(G),L_(B)は,発光位置と反射電極の反射面とに狭持される物質の波長分散程度の差しか差異は無く,ほぼ等しい値となる。 【0022】 また,各色発光層4の反射電極側の界面と反射電極の反射面との間の距離を等しくすることによって,凹凸の少ない発光素子アレイ,あるいは表示装置を得ることができる。凹凸が少ないことによって,保護層8のカバレッジ性を高めることができる。 【0023】 一方,赤,緑,青の各発光色のピーク波長λ_(R),λ_(G),λ_(B)の間の波長に対しては,色純度の向上という観点から,光学的に弱めあうほうが好ましい。その結果,より鋭いELスペクトルが取り出すことが可能となり,色純度の向上,さらには,表示可能な色再現範囲の拡大に寄与できるからである。 【0024】 上記2点を考慮し,取り出し効率の向上,及び,色純度の向上を両立する条件として,下記関係式(2’)を見出した。 2L_(R)/λ_(R)+δ_(R)/2π=m 2L_(G)/λ_(G)+δ_(G)/2π=m+1 2L_(B)/λ_(B)+δ_(B)/2π=m+2 : ・・・(2’) (式中,δは,反射電極における位相シフト量である。また,mは自然数である。) 【0025】 すなわち,発光色のピーク波長を,干渉効果による強め合い条件となる連続する次数にあわせることにより,ピーク波長では強め合い,その間の波長では,弱めあうこととなる。その結果,取り出し効率の向上,及び,色純度の向上を両立させることが可能となる。 【0026】 一方,発光色のピーク波長が干渉の強め合い条件の連続した次数とならない場合,例えば,次数が一部または全部不連続の場合には,発光色のピーク波長の間にも干渉により強め合う波長が生じることとなる。一般に,有機化合物の発光スペクトルは,その半値幅が50?100nmとある程度の幅を持っている。そのため,この様な場合には,ピーク間の波長領域に強めあう部分が生じ,その結果,色純度の向上があまり望めず,逆に悪化するという現象も生じる。したがって,連続する干渉の次数という条件が重要となる。 【0027】 ここで例示した赤,緑,青(λ_(R)=620nm,λ_(G)=520nm,λ_(B)=450nm)の3原色表示装置においては,特にmが4または5で前記条件を満たすことが出来る。例えば,mが5,すなわち,Rは5次,Gは6次,Bは7次の干渉を用いることで,取り出し効率の向上,及び,色純度の向上を達成できることを見出した。」 エ 「【0061】 図4は,本発明の他の実施形態の例であり,基板1上に,陽極2,ホール輸送層3,発光層4,電子輸送層5,電子注入層6,陰極7,保護層8を順次設けた構成のものであり,陽極2が反射電極として,陰極7が光取り出し電極として機能する。 【図4】 【0062】 本実施形態においては,陽極2は,単層の反射性電極からなり,ホール輸送層3が,第一のホール輸送層31と第二のホール輸送層32からなっている。第一のホール輸送層31は,アクセプターがドープされ,キャリア輸送促進層として機能し,第二のホール輸送層32は未ドープであり,キャリア輸送層として機能する。本形態では,キャリア輸送促進層である第一のホール輸送層31で光学距離を稼ぐことにより,高電圧化,及び,チャージバランスの崩れによる効率低下を防いでいる。 【0063】 第一のホール輸送層31の膜厚は,アクセプターの拡散あるいは駆動電圧の低電圧化を考慮して400?700nmの範囲に入るように設定することが好ましい。 【0064】 ここで使用可能な陽極2としては,第一のホール輸送層31との界面において反射率が高く,ホールが注入し易いことが必要であり,物性的には大きな屈折率差と大きな仕事関数であることが好ましい。この観点からニッケルやクロム等を使用することが出来るが,特に限定されるものではない。第一のホール輸送層31に用いるアクセプターの注入促進効果により,アルミニウム,銀合金等も使用可能である。また,前述した反射性金属と透明導電膜の2層からなる陽極も使用することが出来る。 【0065】 第一のホール輸送層31で用いるアクセプターとしては,PTSA,TCNQ,FeCl_(3)やTBAHA等のルイス酸,ハロゲン化金属や,アリールアミンとハロゲン化金属の塩等が挙げられる。具体的には,前述したホール輸送材料に,アクセプターを0.1?数十%ドープすることで,キャリアの量が増大し,大きな電流を低電圧で流すことが可能となる。したがって,ホール輸送層3が合計数百から千数百nmと厚くなっても,電圧の上昇を伴わずに駆動することが可能となる。」 オ 「【0070】 <実施例1> 図1に示す構造の赤,緑,青の3色からなる表示装置を以下に示す方法で作成した。 ・・・(中略)・・・ 【0079】 この表示装置の発光位置(発光層4とホール輸送層3の界面)と反射電極の反射面(反射性金属21と透明導電膜22の界面)との光学距離は以下の通りであり,干渉の次数は,それぞれ5次,6次,7次(m=5)である。 R(λ_(R)=620nm):1350nm G(λ_(G)=520nm):1400nm B(λ_(B)=450nm):1450nm」 カ 「【0084】 <実施例3> 図4に示す様に,陽極2(反射電極)を銀合金(AgPdCu)100nmのみとし,ホール輸送層3として,アクセプターをドープした第一のホール輸送層31と未ドープの第二のホール輸送層32を成膜した以外は,実施例1と同様にして表示装置を作成した。 【0085】 第一のホール輸送層31は,実施例1で使用した化合物[I]とFeCl_(3)との共蒸着(重量比95:5,580nm)により作成した。蒸着時の真空度は1×10^(-4)Pa,成膜速度は1.0nm/secの条件であった。第2のホール輸送層32は,実施例1で使用した化合物[I]を20nm蒸着して作成した。蒸着時の真空度は1×10^(-4)Pa,成膜速度は0.2nm/secの条件であった。 【0086】 この表示装置の発光位置(発光層4とホール輸送層3の界面)と反射電極の反射面(陽極2とホール輸送層3の界面)との光学距離は以下の通りであり,干渉の次数は,それぞれ4次,5次,6次(m=4)である。 R(λ_(R)=620nm):1055nm G(λ_(G)=520nm):1090nm B(λ_(B)=450nm):1150nm」 (2) 引用例には,図4とともに,発明の実施形態として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,段落番号は,引用発明の認定に使用した引用例の記載箇所を示すために併記したものである。 「【0061】基板1上に,陽極2,ホール輸送層3,発光層4,電子輸送層5,電子注入層6,陰極7,保護層8が順次設けられ,陽極2が反射電極として,陰極7が光取り出し電極として機能し, 【0062】ホール輸送層3が,第一のホール輸送層31と第二のホール輸送層32からなり, 【0063】第1のホール輸送層31の膜厚は,アクセプターの拡散あるいは駆動電圧の低電圧化を考慮して400?700nmの範囲に入るように設定され, 【0014】赤,緑,青のEL発光をする赤発光層41,緑発光層42,青発光層43が,それぞれ形成され, 【0086】発光位置(発光層4とホール輸送層3の界面)と反射電極の反射面(陽極2とホール輸送層3との界面)との光学距離は,R(λ_(R)=620nm)について1055nm,G(λ_(G)=520nm)について1090nm,B(λ_(B)=450nm)について1150nmであり,干渉の次数は,それぞれ4次,5次,6次(m=4)である, 【0001】有機EL素子アレイ。」 (3) 対比 本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりである。 ア 透明電極,反射電極,青色発光層,第1機能性層,第2機能性層とその配置について 引用発明の「ホール輸送層3」及び「光取り出し電極」は本件補正後発明の「第2機能性層」及び「透明電極」に相当し,引用発明の「電子輸送層5」及び「電子注入層6」は,本件補正後発明の「第1の機能性層」に相当する。さらに,引用発明の「青発光層43」は本件補正前発明の「青色発光層」に相当することが明らかであるから,引用発明における「青発光層43」,「ホール輸送層3」,「電子輸送層5」及び「電子注入層」は,本件補正後発明の「中間層」に相当する。そして,引用発明は「青発光層43」を含むのであるから,引用発明の「有機EL素子アレイ」のうち青の有機EL素子は,本件補正後発明の「青色発光素子」の要件を満たす。 また,引用発明は,「基板1上に,陽極2,ホール輸送層3,発光層4,電子輸送層5,電子注入層6,陰極7,保護層8が順次設けられ,陽極2が反射電極として,陰極7が光取り出し電極として機能」するものであって,「発光位置(発光層4とホール輸送層3の界面)と反射電極の反射面(陽極2とホール輸送層3の界面)との光学距離は,R(λ_(R)=620nm)について1055nm,G(λ_(G)=520nm)について1090nm,B(λ_(B)=450nm)について1150nm」であるところ,「陰極7が光取り出し電極として機能」している発明であるから,引用発明の「反射電極」が「光取り出し電極」に対向していることは明らかである(図4からも見て取れる事項である)。 したがって,引用発明は,本件補正後発明の「透明電極と,前記透明電極に対向した反射電極と,前記透明電極と前記反射電極との間に介在される第1機能性層と,前記反射電極と前記青色発光層との間に介在される第2機能性層と,を備え」との要件を満たす。 イ 反射電極と青色発光層の発光ゾーンとの距離について 引用発明では,「反射電極」と「青発光層43」(本件補正後発明における「青色発光層」)との間に位置する「第一のホール輸送層31」の膜厚さを400?700nm(4000?7000Å)とするところ,発光ゾーンは「青発光層43」中のいずれかの位置に存在することは明らかであるから,引用発明は,本願発明の「反射電極」と「青色発光層の発光ゾーンとの間の距離が2000Å以上である」との要件を満たす。 (4) 一致点 引用発明の特に青の有機EL素子に着目すると,本件補正後発明と引用発明は,以下の構成において一致する。 「 透明電極と, 前記透明電極に対向した反射電極と, 前記透明電極と前記反射電極との間に介在されていると共に青色発光層を有する中間層と,を備え, 前記中間層は, 前記透明電極と前記青色発光層との間に介在される第1機能性層と, 前記反射電極と前記青色発光層との間に介在される第2機能性層と,を備え, 前記反射電極と前記青色発光層の発光ゾーンとの間の距離が2000Å以上であること を特徴とする青色発光素子。」 (5) 相違点 本件補正後発明と引用発明は,以下の点において,一応相違する。 本件補正後発明は,「下記の関係式を満たすように前記反射電極と前記青色発光層の発光ゾーンとの間の距離を調節して,前記反射電極で反射した光を消滅させる」のに対し,引用発明においては,反射電極で反射した光を消滅させることは明記されていない点。 【数1】 (前記関係式において,qは正の奇数であり,λは,消滅干渉によって外部への光抽出が不能となる波長であり,d_(j)は,前記第2機能性層を構成するj番目の層の厚さであり,n_(jλ)は波長λで前記第2機能性層を構成するj番目の層の屈折率であり,δは,前記青色発光層から発光した光が前記反射電極で反射される時に発生する位相偏移値である。)」 (6) 判断 上記相違点についての判断は,以下のとおりである。 引用例には,「干渉の影響を考えた場合には,発光位置(発光強度分布においてピークを示す位置)から直接取り出し方向に向かう光(A)と反射電極(陽極2)の反射面で反射して光取り出し方向へ向かう光(B)との干渉効果が最も大きくなる」こと(段落【0016】),「赤,緑,青の各発光色のピーク波長λ_(R),λ_(G),λ_(B)の間の波長に対しては,色純度の向上という観点から,光学的に弱め合うことが好ましい。その結果,より鋭いELスペクトルが取り出すことが可能となり,色純度の向上,さらには,表示可能な色再現範囲の拡大に寄与できる」こと(段落【0023】),こういった点を考慮し,「取り出し効率の向上,及び,色純度の向上を両立する条件として,下記関係式(2’)を見出した」こと(段落【0024】),そして,このようにすることで,「ピーク波長では強め合い,その間の波長では,弱めあうこととなる。その結果,取り出し効率の向上,及び,色純度の向上を両立させることが可能となる。」(段落【0025】)ことが記載されている。 「2L_(R)/λ_(R)+δ_(R)/2π=m 2L_(G)/λ_(G)+δ_(G)/2π=m+1 2L_(B)/λ_(B)+δ_(B)/2π=m+2 : ・・・(2’) (式中,δは,反射電極における位相シフト量である。また,mは自然数である。)」 なお,上記式(2’)におけるL_(R),L_(G)及びL_(B)は,それぞれ「各発光色に対する発光層の反射電極(陽極2)側の界面と反射電極(陽極2)の反射面との光学距離」であり(段落【0018】),前記「発光層の反射電極」側の「界面」とは,引用発明における発光位置(発光強度分布においてピークを示す位置)のことである(段落【0015】の記載及び【図2】を参照)。また,引用発明の「位相シフト量」δは本件補正後発明における「位相偏移値」に相当し,また光学距離を示すL_(B)が,本件補正後発明のΣn_(jλ)d_(j)に相当する。 上記記載から明らかなように,引用発明では,色純度を向上させるために,ピーク波長から外れたピーク波長の間の波長の光を弱めあうようにし,そのことによって色純度を向上させているのであるから,「発光位置」(本件補正後発明における「発光ゾーン」)から発せられ,「反射電極」で反射した光が干渉によって弱めあうように構成されていること,すなわち「消滅」させるように構成されていることは明らかである。したがって,引用発明においても,反射電極で反射した(ピーク波長の間に位置する,不要な波長の)光が干渉により消滅する構成,すなわち,「反射電極」と「発光位置」との距離が本件補正後発明の【数1】を満たす構成とされているものと認められる。 してみれば,上記相違点は,実質的にみて相違点ではない。 あるいは,引用例には,λ_(G)=520nm,λ_(B)=450nmとすることが記載されており(段落【0086】を参照。また,3原色表示装置における波長選択の一般的な例示としても,段落【0027】に,λ_(G)=520nm,λ_(B)=450nmとすることが記載されている。),この場合,ピーク波長の間隔は70nmとなる。さらに,引用例には,「一般に,有機化合物の発光スペクトルは,その半値幅が50?100nmとある程度の幅を持っている」ことが記載されている(段落【0026】)。してみれば,ピーク波長間において弱め合う条件を満たすように「反射電極」と「発光位置」との距離を調節すれば,発光スペクトルに含まれる光の一部が弱め合う(消滅する)ことは明らかである。このことからみても,引用発明では,「反射電極」で反射した光が消滅されるように構成されていることは明らかである。 (7) 請求人の主張について 請求人は,審判請求書において,以下のとおり主張している。 「本願発明は,反射電極と青色発光層の発光ゾーンとの間の距離が2000Å以上であるという技術的特徴を有している。このような特徴により,本願発明では,色特性を阻害するような所望しないスペクトル領域を抽出せず,色特性を向上させることができる(本願明細書の段落[0043],[0045]及び[0064]を参照)。すなわち,本願発明では,青色ピクセルにおいて光抽出方向の光と反対方向の反射膜から反射された光を消滅させて青色ピクセルにおける余計な光抽出を防止しようとする消滅干渉条件を規定している。 一方,引用文献1にも引用文献2(特開2008-141174号公報)にも上述したような特徴は開示されていない。すなわち,引用文献1及び引用文献2は,発光層と反射電極との光学距離調節による干渉強度調節として,補強干渉条件を開示しているだけである。特に,引用文献1は,RGBピクセルのピーク波長間では光学的に互いに弱くなることが望ましいことを開示しているが,これはRGBピクセル間干渉に係り,上記したような消滅干渉条件ではない。 以上説明したように,本願発明と引用文献1,2に記載された発明と比較した場合,構成および作用,効果において全く異なり,引用文献1,2に記載された発明は,決して本願発明の起因ないし契機となり得るものではない。したがって,本願の請求項1?12に係る発明は,新規性及び進歩性の特許要件を十分に具備するものであると思料する。」 (審決注:審判請求書における「本願発明」は,本審決における「本件補正後発明」に相当する。) しかしながら,本件補正後発明と引用発明に構成上の差異がないことは,上記「第2」の3(6)で検討したとおりである。また,構成が同一である以上,発明が奏する作用効果も同一である。 加えて,引用例には「一方,発光色のピーク波長が干渉の強め合い条件の連続した次数とならない場合,例えば次数が一部または全部不連続の場合には,発光色のピーク波長の間にも干渉により強め合う波長が生じることとなる。一般に,有機化合物の発光スペクトルは,その半値幅が50?100nmとある程度の幅を持っている。そのため,この様な場合には,ピーク間の波長領域に強め合う部分が生じ,その結果,色純度の向上があまり望めず,逆に悪化するという現象も生じる。」(段落【0026】)との記載がある。すなわち,波長のピーク間の波長領域に,強め合う部分が生じると,有機化合物の発光スペクトルがある程度の半値幅を持つことから,その波長においても光が強め合ってしまい,色純度の向上が図れないことが記載されているのである。そして,引用発明においては,有機化合物の発光スペクトルが存在するこの波長ピークの間の波長領域に,光が弱め合う領域を設けるのであるから,これは「RGBピクセル間干渉」(すなわち,緑や赤等,他の異なる色を発するEL発光素子から混入する光による干渉)を問題にしているのではなく,本件補正後発明にいう「消滅干渉条件」を問題にしていることは明らかである。 (8) 小活 したがって,本件補正後発明は,その優先権主張の日前に日本国内において頒布された引用例に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 4 補正却下のまとめ 以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法第53条1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)は,前記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,概略,本件出願の請求項1に係る発明は,本件出願の優先権主張の日前に日本国又は外国において頒布された引用例に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し特許を受けることができない,というものである。 3 引用例に記載の事項及び引用発明について 引用例に記載の事項及び引用発明については,前記「第2」3(1)及び(2)に記載したとおりである。 4 対比及び判断 本願発明は,本件補正後発明において,「反射電極」と「青色発光層の発光ゾーンとの間の距離が2000Å以上である」との特定,「λは,消滅干渉によって外部への光抽出が不能となる波長」との特定,及び「δは,前記青色発光層から発光した光が前記反射電極で反射される時に発生する位相偏移値である」との特定が除かれたものである。 しかしながら,本件補正後発明が引用例に記載された発明である以上,特段の事情がない限り,本件補正後発明から特定の発明特定事項が除かれ,より広い範囲を包含することとなった本願発明もまた,引用例に記載された発明であるというほかない。そして本件出願において,本願発明が引用発明と同一でないと判断すべき特段の事情は見当たらない。 第4 まとめ 以上のとおり,本願発明は,本件出願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された引用例に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。 したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-01-13 |
結審通知日 | 2016-01-19 |
審決日 | 2016-02-01 |
出願番号 | 特願2010-277873(P2010-277873) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井亀 諭 |
特許庁審判長 |
樋口 信宏 |
特許庁審判官 |
道祖土 新吾 西村 仁志 |
発明の名称 | 青色発光素子及びこれを含む有機発光ディスプレイ |
代理人 | 崔 允辰 |
代理人 | 阿部 達彦 |
代理人 | 佐伯 義文 |