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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07F |
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管理番号 | 1316093 |
審判番号 | 不服2014-25723 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-12-16 |
確定日 | 2016-06-16 |
事件の表示 | 特願2009-263203「化合物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 6月 2日出願公開、特開2011-105655〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 出願の経緯 本願は、2009年11月18日の出願であって、出願後の経緯の概要は次のとおりである。 平成26年 1月15日付け 拒絶理由通知 同年 3月 6日 意見書・手続補正書の提出 同年 9月 9日付け 拒絶査定 同年12月16日 拒絶査定不服審判の請求・手続補正書の提出 平成27年 5月22日 上申書の提出 同年 7月16日 上申書の提出 第2 平成26年12月16日付け手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成26年12月16日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1 補正の内容 平成26年12月16日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項1について、 「感光性を有する基であって光二量化反応をしうる基と、親液性を有する基とを含む化合物(A)と、感光性を有する基であって光二量化反応をしうる基と、撥液性を有する基とを含む化合物(B)とを、光の照射により、二量化反応させて得られる化合物であって、 化合物(A)が、式 【化1】 (1-1) (式中、R^(a)は、水素原子又は置換基を表す。複数個あるR^(a)は、同一でも相異なってもよい。また、隣り合うR^(a)は、それぞれ連結して、飽和炭化水素環、不飽和炭化水素環、芳香族炭化水素環又は複素環を形成していてもよく、これらの環は置換基を有していてもよい。ただし、R^(a)の少なくとも1つは、親液性を有する基である。n1は0以上の整数を表す。) で表される化合物又は式 【化2】 (1-2) (式中、R^(a)は、水素原子又は置換基を表す。X_(1)及びY_(1)は、同一でも相異なっていてもよく、-C(R^(a))_(2)-、-N(R^(a))-、-O-、-S-、-Si(R^(a))_(2)-、-B(R^(a))-又は-C(R^(a))=C(R^(a))-を表す。複数個あるR^(a)は、同一でも相異なってもよい。また、隣り合うR^(a)は、それぞれ連結して、飽和炭化水素環、不飽和炭化水素環、芳香族炭化水素環又は複素環を形成していてもよく、これらの環は置換基を有していてもよい。ただし、R^(a)の少なくとも1つは親液性を有する基である。p1及びm1は、同一又は相異なり、0以上の整数を表す。) で表される化合物であり、 化合物(B)が、式 【化3】 (2-1) (式中、R^(b)は水素原子又は置換基を表す。複数個あるR^(b)は、同一でも相異なってもよい。また隣り合うR^(b)は、それぞれ連結して、飽和炭化水素環、不飽和炭化水素環、芳香族炭化水素環又は複素環を形成していてもよく、これらの環は置換基を有していてもよい。ただし、R^(b)の少なくとも1つは、撥液性を有する基である。n2は0以上の整数を表す。) で表される化合物又は式 【化4】 (2-2) (式中、R^(b)は、水素原子又は置換基を表す。X_(2)及びY_(2)は、同一でも相異なっていてもよく、-C(R^(b))_(2)-、-N(R^(b))-、-O-、-S-、-Si(R^(b))_(2)-、-B(R^(b))-又は-C(R^(b))=C(R^(b))-を表す。複数個あるR^(b)は、同一でも相異なってもよい。また隣り合うR^(b)は、それぞれ連結して、飽和炭化水素環、不飽和炭化水素環、芳香族炭化水素環又は複素環を形成していてもよく、これらの環は置換基を有していてもよい。ただし、R^(b)の少なくとも1つは撥液性を有する基である。p2及びm2は、同一又は相異なり、0以上の整数を表す。) で表される化合物である、化合物。」とあったのを、 「感光性を有する基であって光二量化反応をしうる基と、親液性を有する基とを含む化合物(A)と、感光性を有する基であって光二量化反応をしうる基と、撥液性を有する基とを含む化合物(B)とを、光の照射により、二量化反応させて得られる化合物であって、 化合物(A)が、式 【化1】 (式中、R^(a)は、水素原子又は置換基を表す。複数個あるR^(a)は、同一でも相異なってもよい。また、隣り合うR^(a)は、それぞれ連結して、飽和炭化水素環、不飽和炭化水素環、芳香族炭化水素環又は複素環を形成していてもよく、これらの環は置換基を有していてもよい。ただし、R^(a)の少なくとも1つは、親液性を有する基である。) のいずれか一つで表される化合物であり、 化合物(B)が、式 【化2】 (式中、R^(b)は水素原子又は置換基を表す。複数個あるR^(b)は、同一でも相異なってもよい。また隣り合うR^(b)は、それぞれ連結して、飽和炭化水素環、不飽和炭化水素環、芳香族炭化水素環又は複素環を形成していてもよく、これらの環は置換基を有していてもよい。ただし、R^(b)の少なくとも1つは、撥液性を有する基である。) のいずれか一つで表される化合物であり、化合物(A)と化合物(B)は同種の分子である、化合物。」と補正することを含むものである。 2 補正の適否についての判断 (1)補正の目的 本件補正は、請求項1に記載された化合物(A)が、補正前に式(1-1)で表される化合物又は式(1-2)で表される化合物とあったのを、補正後に化1で表される11種の一般式のいずれか一つで表される化合物とすることを含むところ、前記化1で表される11種の一般式の化学構造は、前記式(1-1)又は式(1-2)の化学構造を限定するものである。同様に、本件補正は、請求項1に記載された化合物(B)が、補正前に式(2-1)で表される化合物又は式(2-2)で表される化合物とあったのを、補正後に化2で表される11種の一般式のいずれか一つで表される化合物とすることを含むところ、前記化2で表される11種の一般式の化学構造は、前記式(2-1)又は式(2-2)の化学構造を限定するものである。 してみると、これらの点について、請求項1についての本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 また、請求項1についての本件補正は、「化合物(A)と化合物(B)は同種の分子である」ことを追加することを含むものでもあり、「同種のもの」がどのような意味であるか必ずしも判然としない点はあるが、かかる特定は化合物(A)及び化合物(B)がそれぞれ化1及び化2のうちのR^(a)及びR^(b)を除いた部分が同じ一般式で表される化学構造を有する化合物であることを特定していると一応解され、少なくとも補正前にはそのような特定はなかったから、この点を考慮しても請求項1についての本件補正は特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当することにかわりはない。 そして、本件補正の前後における請求項1に係る発明について、その産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。 したがって、請求項1についての本件補正は特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。 (2)独立特許要件(明確性について) そこで、本件補正後の請求項1に係る発明が、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定に規定する要件(独立特許要件)を満たすかについて検討する。 「特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定するところ,この趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術的常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである」(知財高裁判決平成28年3月9日、平成27年(行ケ)第10105号)から、この観点から、本件補正後の請求項1に係る発明の明確性について判断する。 本件補正後の請求項1に係る発明は、「感光性を有する基であって光二量化反応をしうる基と、親液性を有する基とを含む化合物(A)と、感光性を有する基であって光二量化反応をしうる基と、撥液性を有する基とを含む化合物(B)とを、光の照射により、二量化反応させて得られる化合物」についてのものである。 請求項1において、上記化合物(A)と化合物(B)については、化1及び化2で表されるそれぞれ11種の一般式によって化学構造が特定されているが、それらを「光の照射により、二量化反応させて得られる化合物」については化学構造式等によってその化学構造を特定する記載はない。 しかし、一般に光二量化反応は、エチレン、アントラセン等のπ電子(又は二重結合)を有する化合物においてπ電子(又は二重結合)の関与によって生ずる反応であるところ、上記11種の一般式で表される化合物においては、π電子(又は二重結合)が特定の位置にのみ存在するというものではなく、また、置換基R^(a)又はR^(b)が、π電子(又は二重結合)が存在する基等の多様な置換基となり得ることも考慮すれば、化合物(A)及び化合物(B)が、光の照射によって、どの部分において二量化反応するかは明らかでなく、化合物(A)と化合物(B)とを、光の照射により二量化反応させることにより、どのような化学構造を有する化合物が得られるかは明らかとはいえない。 この点について、本願出願日当時の技術常識を示す文献(MAITLAND JONES, Jr.著、奈良坂紘一ら監訳、大石茂郎ら訳、「ジョーンズ有機化学(下)原著第2版」、株式会社東京化学同人、第1版第1刷、2000年11月10日発行、1055?1058頁:平成26年12月16日付け審判請求書に添付の参考資料2の一部(以下「文献A」という。))には以下の記載がある。 「付加環化反応(cycloaddition reaction)も軌道対称性が支配する反応であり,ペリ環状反応の一つである.・・・ 光によるエチレンの二量化反応は起こるであろうか.光の照射により1電子が昇位して光化学的HOMOを生成し,これはHOMO-LUMO相互作用によって2箇所で結合性の重なりを生じる(図21・28).したがって,エチレンの光二量化反応は軌道対称性理論により許容されており,実際によく見られる反応である. 」(1055頁1?2行、1058頁) また、出願時公知の文献(Organic Letters,(2003),Vol.5,No.10,1677-1679(Scheme1を除き訳文で示す。(以下「文献B」という。)):本件について平成28年3月18日に行われた面接において用いられた請求人が提示した文献)には以下の記載がある。 「樹状置換基を有するアントラセンの自己集合及び位置選択的光二量化」(タイトル) 「メソフェーズにおける1の光二量化の位置選択性を明確化するために、液晶デンドロンを窒素雰囲気下室温で高圧水銀灯(λ>300nm)で3時間照射して、定量的収率にて光二量体2を得た(スキーム1)。 興味深いことに、液晶状態における反応ではアンチ光二量体2aのみが得られ、「標準」溶媒の溶液における光照射では、それぞれデンドリマー2a及び2bである、シン及びアンチ二量体(シン/アンチ=30/70)が生成した。シン及びアンチ光二量体2a及び2bの構造は、^(1)H及び^(13)C NMR分光分析、元素分析、及びMALDI-TOF質量分光分析により確認された。」(1678頁右欄7行?1679頁左欄4行) これら文献の記載によれば、光二量化によって生成する物質は、反応する部位が特定の部位しかないものであっても2種類存在する場合があり(文献Aより)、反応条件によっては生成する物質が異なる場合がある(文献Bより)といえるから、出願日の技術常識及び出願時に公知の事項を考慮しても、前記と同様、化合物(A)と化合物(B)とを、光の照射により二量化反応させることにより、どのような化学構造を有する化合物が得られるかは明らかとはいえない。 次に、明細書の記載を参酌した場合(なお、本願について図面はない。)に、化合物(A)と化合物(B)とを、光の照射により二量化反応させることにより、どのような化学構造を有する化合物が得られるかを理解できるかについて検討する。 発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【0135】 本発明の具体的な例示は、以下の化合物等が挙げられる。 【0136】 【化30】 【0137】 (式中、RAは化合物(A)に由来する基であり、RBは化合物(B)に由来する基である) 【0138】 【化31】 【0139】 (式中、R^(a)、R^(b)は前述と同じ意味を表す。) 【0140】 【化32】 【0141】 (式中、R^(a)、R^(b)は前述と同じ意味を表す。)」 しかし、上記化30で表される5つの化合物はいずれも本件補正後の請求項1に記載の化合物(A)及び化合物(B)のそれぞれについて、11種の一般式で表される化合物のうちのどの化合物を反応させて得られるものであるか、また、どの部分で化合物(A)と化合物(B)が結合しているか不明であるから、化30についての記載を参酌しても、化合物(A)と化合物(B)とを、光の照射により二量化反応させることにより、どのような化学構造を有する化合物が得られるかを理解することはできない。 上記化31で表される4つの化合物及び上記化32で表される最後の3つの化合物(なお、化32の上段2つの化合物は、2つのナフタレン構造を有する化合物から製造される化合物であると考えられるところ、化合物(A)及び化合物(B)についてのそれぞれ11種の一般式には、置換基R^(a)又はR^(b)以外の部分にナフタレン構造を有するものはない。)については、前記11種の一般式で表される化合物(A)及び化合物(B)をそれぞれ選択して光の照射によって二量化反応させて得られる化合物であることは理解できるものの、上述のとおり、前記11種の一般式で表される化合物(A)及び化合物(B)においては、π電子(又は二重結合)が特定の位置にのみ存在するというものではなく、また、置換基R^(a)又はR^(b)が、π電子(又は二重結合)が存在する基等の多様な置換基となり得るし、また、請求項1に記載の二量化反応させて得られる化合物の全てを表していないことはその種類の数(11に満たない)からみて明らかであるから、化31及び化32についての記載を参酌しても、化合物(A)と化合物(B)とを、光の照射により二量化反応させることにより、どのような化学構造を有する化合物が得られるかを理解することはできない。 さらに、発明の詳細な説明には以下の記載がある。 「【実施例】 【0150】 以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。 【0151】 合成例1 化合物1の合成 【0152】 【化33】 (化合物1) 【0153】 200ml二口ナス型フラスコに9-Anthracenecarboxilic acid(9-アントラセンカルボン酸) 1.0 g (4.5 mmol)、DCC(N,N′-ジシクロヘキシルカルボジイミド) 0.93 g (4.5 mmol)、HOBt(1-ヒドロキシベンゾトリアゾール)0.61 g (4.5 mmol)を入れ、脱気アルゴン置換した。dry CH_(2)Cl_(2)(脱水塩化メチレン)360 ml、APS(3-アミノプロピルトリメトキシシラン) 1.0 g (4.5 mmol)、Et_(3)N(トリエチルアミン) 0.45 g (4.5 mmol)を加え、室温にて24時間磁気攪拌した。TLC (展開溶媒:クロロホルム)にて反応の進行を確認したため反応を停止し、溶媒を減圧留去したのち、カラムクロマトグラフィー (シリカゲル、展開溶媒:クロロホルム)にて精製した。 収量は 360 mg (0.85 mmol、収率20 %) であった。 【0154】 ^(1)H NMR (CDCl_(3)):δ= 8.46 (s, 1H), 8.07 (d, 2H), 7.99 (d, 2H), 7.48 (m, 4H), 6.42 (s, 1H), 3.75 (m, 6H), 1.90 (m, 2H), 1.25 (m, 2H), 1.12 (m, 9H), 0.77 (t, 2H) 【0155】 合成例2 化合物2-1の合成 【0156】 【化34】 (化合物2-1) 【0157】 ジムロート管、セプタムカバー付き三口丸底フラスコに没食子酸メチル268mg (1.5 mmol,1.0eq.)、ヘプタデカフルオロウンデシルアイオド3.0 g (0.51mmol、3.5eq.)、18-クラウン-6-エーテル115mg(0.043mmol、0.3eq.)、炭酸カリウム760mgを加え脱気アルゴン置換した。脱水アセトン20mlを加え3日間還流した。TLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=5/1)にて原料の消失を確認した後に、蒸留水にて洗浄し、無水硫酸ナトリウムによって乾燥後、溶媒を減圧留去した。精製は再結晶(アセトン)によって行った。化合物2-1の収量は 2.0 g(1.3 mmol、 収率89 %)であった。 【0158】 ^(1)H NMR (CDCl_(3)):δ= 7.28 (s, 2H), 4.11 (t, 3H), 4.05 (t, 2H), 3.89 (s, 3H), 2.33 (m, 6H), 2.15 (m, 4H), 2.08 (m, 2H) 【0159】 合成例3 化合物2-2の合成 【0160】 【化35】 (化合物2-1) (化合物2-2) 【0161】 ジムロート管、セプタムカバー付き三100ml三口丸底フラスコにリチウムアルミニウムハイドライド49.5 mg (1.9 mmol、2.0eq.)を入れ脱気アルゴン置換した。そこへ脱水THF(テトラヒドロフラン)10ml、化合物2-1 1.5 g(1.0mmol)を入れ2時間還流した。TLC(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)にて原料の消失を確認した後に、溶媒を減圧留去した。精製は再結晶(アセトン)によって行った。化合物2-2の収量は 1.4 g(0.91 mmol, 収率91%)であった。 【0162】 ^(1)H NMR (CDCl_(3)):δ= 6.59 (s, 2H), 4.60 (d, 2H), 4.06 (t, 4H), 3.97 (t, 2H), 2.33 (m, 6H), 2.15 (m, 4H), 2.08 (m, 2H) 【0163】 合成例4 化合物2の合成 【0164】 【化36】 (化合物2) 【0165】 ジムロート冷却管付き100 ml二口ナス型フラスコに9-Anthracenecarboxilic acid(9-アントラセンカルボン酸) 17.3 mg (0.078 mmol)を入れ、脱気アルゴン置換した。dry CH_(2)Cl_(2)(脱水ジクロロメタン)5 ml、DMF(N、N-ジメチルホルムアミド) 50 ml、塩化チオニル 13mg (16.7 mmol) を加え室温にて0.5時間、その後4時間還流した。攪拌後溶媒を減圧留去し、化合物2-2 100mg (0.065 mmol)、脱水トリフルオロトルエン 10 ml、ピリジン 0.5 mlを加え室温にて24時間磁気攪拌した。反応後蒸留水にて洗浄し、無水硫酸ナトリウムにて乾燥させたのち再結晶(アセトン)によって精製した。化合物2の収量は 31 mg (0.018 mmol、収率27 %)であった。 【0166】 実施例1 次に、実施例について説明する。先ず、ガラス基板を以下の手順にて洗浄した。即ち、アセトンによる30分間の超音波洗浄を行い、その後15分間のUVオゾン洗浄を行った。 【0167】 次に、上記で得た化合物1を脱水ジクロロエチレンと脱水トルエンの等量混合溶媒に対し、4mMの濃度で溶解した。この化合物1の溶液中に、洗浄が終了したガラス基板を20分間浸漬した。 【0168】 その後、ガラス基板を取り出し、ホットプレートによって、大気中、110℃、20分の条件で乾燥を行った。乾燥後、ガラス基板にクロロホルムをかけ流して、過剰の化合物1を除去し、化合物1を含む膜を形成した。 【0169】 次に、上記で得た化合物2を、クロロホルムに対し1mMの濃度で溶解した。この化合物2の溶液中に、化合物1を塗布した基板を20分間浸漬した。その後取り出し、大気中にて自然乾燥させ、化合物1を含む膜上に化合物2を含む膜を形成した。 【0170】 次に、化合物2を含む膜に紫外線を照射した。紫外線は通常の光源を用い、波長365nmの光を51mW/cm^(2)の強度で20分間照射した。照射後、トリフルオロトルエンを基板全体にかけ流し、未反応の化合物2を除去した。光照射部において、化合物1と化合物2が光二量化反応し、下記化合物が生成した。下記化合物は、撥液性を有する基を有するため、撥液性領域を形成する。 【0171】 【化37】 【0172】 このようにして得られた基板について、アニソールに対する接触角を接触角測定器(dataphysics社製 OCA-30)を用いて測定したところ、25度であった。 【0173】 実施例2 先ず、ガラス基板を以下の手順にて洗浄した。即ち、アセトンによる30分間の超音波洗浄を行い、その後15分間のUVオゾン洗浄を行った。 【0174】 次に、上記で得た化合物1を脱水ジクロロエチレンと脱水トルエンの等量混合溶媒に対し、4mMの濃度で溶解した。この化合物1の溶液中に、洗浄が終了したガラス基板を20分間浸漬した。 【0175】 その後、ガラス基板を取り出し、ホットプレートによって、大気中、110℃、20分の条件で乾燥を行った。乾燥後、ガラス基板にクロロホルムをかけ流して、過剰の化合物1を除去し、化合物1を含む膜を形成した。 【0176】 次に、上記で得た化合物2を、クロロホルムに対し1mMの濃度で溶解した。この化合物2の溶液中に、化合物1を塗布した基板を20分間浸漬した。その後取り出し、大気中にて自然乾燥させ、化合物1を含む膜上に化合物2を含む膜を形成した。 【0177】 次に、トリフルオロトルエンを基板全体にかけ流し、未反応の化合物2を除去した。光照射を行わない場合、化合物2を含む膜が除去され、該部の表面に化合物1を含む膜が存在するため、親液性領域となる。 【0178】 このようにして得られた基板について、アニソールに対する接触角を接触角測定器(dataphysics社製 OCA-30)を用いて測定したところ、5度であった。」 上記記載によれば、発明の詳細な説明には、実施例1として、ガラス基板に化合物(A)に相当すると解される化合物1を含む膜を形成した後、該膜上に化合物(B)に相当すると解される化合物2を含む膜を形成し、その後紫外線を照射して、化合物1と化合物2を光二量化反応し、上記化37で表される化合物を生成した旨、そのようにして得られた基板についてアニソールに対する接触角を測定した旨、実施例2として、光照射を行わない以外は実施例1と同様の操作をしたことが記載されている。 しかし、化合物1と化合物2が光二量化反応して生成したとされる化合物について、その化学構造が化37で表される化合物であることを同定するデータは示されておらず、化37で表される化合物が生成したことは明らかでもない。仮に化37で表される化合物が生成しているとしても、化合物1及び化合物2は特定の化学構造を有する化合物であるから、請求項1に記載された、多様な環構造を有し、R^(a)及びR^(b)についても多様な置換基を有し得る化合物(A)及び化合物(B)が、どの部分において光二量化反応するかは明らかでなく、化合物(A)と化合物(B)とを、光の照射により二量化反応させることにより、どのような化学構造を有する化合物が得られるかを理解することはできない。 さらに、化合物(A)と化合物(B)とを、光の照射により二量化反応させることにより、どのような化学構造を有する化合物が得られるかを理解できなければ、当該化合物についての発明である、本件補正後の請求項1に係る発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすものといえる。 以上のことから、本件補正後の請求項1の特許を受けようとする発明は明確でないから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものでなく、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 したがって、本件補正後の請求項1に係る発明は、独立特許要件を満たさない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 したがって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願の特許請求の範囲の記載 上述のとおり、平成26年12月16日付け手続補正は却下されたので、本願の請求項1?7の記載は、平成26年3月6日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載されたとおりのものであるところ、請求項1の記載は次のとおりである。 「感光性を有する基であって光二量化反応をしうる基と、親液性を有する基とを含む化合物(A)と、感光性を有する基であって光二量化反応をしうる基と、撥液性を有する基とを含む化合物(B)とを、光の照射により、二量化反応させて得られる化合物であって、 化合物(A)が、式 【化1】 (1-1) (式中、R^(a)は、水素原子又は置換基を表す。複数個あるR^(a)は、同一でも相異なってもよい。また、隣り合うR^(a)は、それぞれ連結して、飽和炭化水素環、不飽和炭化水素環、芳香族炭化水素環又は複素環を形成していてもよく、これらの環は置換基を有していてもよい。ただし、R^(a)の少なくとも1つは、親液性を有する基である。n1は0以上の整数を表す。) で表される化合物又は式 【化2】 (1-2) (式中、R^(a)は、水素原子又は置換基を表す。X_(1)及びY_(1)は、同一でも相異なっていてもよく、-C(R^(a))_(2)-、-N(R^(a))-、-O-、-S-、-Si(R^(a))_(2)-、-B(R^(a))-又は-C(R^(a))=C(R^(a))-を表す。複数個あるR^(a)は、同一でも相異なってもよい。また、隣り合うR^(a)は、それぞれ連結して、飽和炭化水素環、不飽和炭化水素環、芳香族炭化水素環又は複素環を形成していてもよく、これらの環は置換基を有していてもよい。ただし、R^(a)の少なくとも1つは親液性を有する基である。p1及びm1は、同一又は相異なり、0以上の整数を表す。) で表される化合物であり、 化合物(B)が、式 【化3】 (2-1) (式中、R^(b)は水素原子又は置換基を表す。複数個あるR^(b)は、同一でも相異なってもよい。また隣り合うR^(b)は、それぞれ連結して、飽和炭化水素環、不飽和炭化水素環、芳香族炭化水素環又は複素環を形成していてもよく、これらの環は置換基を有していてもよい。ただし、R^(b)の少なくとも1つは、撥液性を有する基である。n2は0以上の整数を表す。) で表される化合物又は式 【化4】 (2-2) (式中、R^(b)は、水素原子又は置換基を表す。X_(2)及びY_(2)は、同一でも相異なっていてもよく、-C(R^(b))_(2)-、-N(R^(b))-、-O-、-S-、-Si(R^(b))_(2)-、-B(R^(b))-又は-C(R^(b))=C(R^(b))-を表す。複数個あるR^(b)は、同一でも相異なってもよい。また隣り合うR^(b)は、それぞれ連結して、飽和炭化水素環、不飽和炭化水素環、芳香族炭化水素環又は複素環を形成していてもよく、これらの環は置換基を有していてもよい。ただし、R^(b)の少なくとも1つは撥液性を有する基である。p2及びm2は、同一又は相異なり、0以上の整数を表す。) で表される化合物である、化合物。」 第4 原査定の拒絶理由 原査定の拒絶理由は次のとおりである。 「1.この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」 具体的には、次の指摘がなされている。 「請求項1?13に記載された化合物は、機能・特性によって特定される化合物を原料とする製造方法によって特定される化合物、又は製造方法によって特定される化合物である。そして、化学の分野においては、物の有する機能・特性からその物の構造を予測することが困難であり、また「光の照射により、二量化反応させて得られる」という漠然とした製造方法により、生産物の構造は理解できないから、このような技術常識を考慮すると、明細書の記載を参酌しても請求項1?13に記載された化合物の構造を明確に把握できない。 よって、請求項1?13に係る発明は明確でない。」 第5 当審の判断 本願の請求項1に記載の化合物(A)(式(1-1)で表される化合物又は式(1-2)で表される化合物)及び化合物(B)(式(2-1)で表される化合物又は式(2-2)で表される化合物)は、π電子(又は二重結合)が特定の位置にのみ存在するというものではなく、また、置換基R^(a)又はR^(b)が、π電子(又は二重結合)が存在する基等の多様な置換基となり得る点において、本件補正後の請求項1に記載の化合物(A)及び化合物(B)と同様であるから、上記第2 2(2)に示したのと同様に理由により、本願の請求項1に記載の化合物(A)と化合物(B)とを、光の照射により二量化反応させることにより、どのような化学構造を有する化合物が得られるかを理解することはできず、その結果、本願の請求項1の特許を受けようとする発明は明確でない。 したがって、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものでないから、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。 第6 審判請求人の主張について 審判請求人は、審判請求書において、アントラセン構造の部位又は特定のエチレン構造の部位で光反応二量化し、環化付加することは自明であり、生成する化合物の構造も明確であることを主張するが、反応する化合物に置換基R^(a)又はR^(b)が存在し、該置換基は多様な種類を包含すること、上記第2 2(2)に示したことから、光二量化によって生成する物質は、反応する部位が特定の部位しかないものであっても複数存在する場合があり、反応条件によっては生成する物質が異なる場合があるといえることを考慮すれば、アントラセン構造を含む化合物、エチレン構造を含む化合物においてどの部分で光反応二量化し、環化付加するかは自明であるとはいえないから、生成する化合物の構造が明確であるとはいえない。 なお、平成27年7月16日付け上申書に置換基R^(a)又はR^(b)を限定した補正案が記載されているが、そもそも、審判において、補正は審判請求と同時になされるものに原則として限られているところ、仮にこれを参酌したとしても、当該補正案の請求項1の特許を受けようとする発明は上記と同様の理由により明確ではない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、他の理由を検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-04-06 |
結審通知日 | 2016-04-12 |
審決日 | 2016-04-28 |
出願番号 | 特願2009-263203(P2009-263203) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
Z
(C07F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 爾見 武志 |
特許庁審判長 |
井上 雅博 |
特許庁審判官 |
冨永 保 木村 敏康 |
発明の名称 | 化合物 |
代理人 | 山田 卓二 |
代理人 | 山田 卓二 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 西下 正石 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 西下 正石 |
代理人 | 田中 光雄 |
代理人 | 西下 正石 |
代理人 | 山田 卓二 |