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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1316097
審判番号 不服2015-7967  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-28 
確定日 2016-07-05 
事件の表示 特願2011-224129「車両」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月 9日出願公開、特開2013- 82346、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年10月11日の出願であって、平成26年12月1日付けで拒絶理由が通知されたのに対し、平成27年2月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年2月18日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成27年4月28日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、当審において平成28年2月22日付けで拒絶理由が通知され、平成28年4月5日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)は、平成28年4月5日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項によって特定される次のとおりのものであると認める。

「 【請求項1】
車両であって、
内燃機関と、
蓄電装置と、
前記内燃機関の出力軸を回転駆動して始動させる回転電機と、
前記内燃機関の出力軸および前記回転電機が接続される車両の駆動軸と、
前記内燃機関および前記回転電機を制御する制御装置とを備え、
前記制御装置は、シフトポジション変更操作によって、前記回転電機による回生電力を発生させる方向の減速トルクが要求された状態において、前記回転電機を用いて前記内燃機関の始動が要求されるときは、前記蓄電装置の充電電力上限値から定まる閾値よりも車速が大きい場合に、前記内燃機関の始動を前記シフトポジション変更操作から所定時間だけ遅延させる、車両。
【請求項2】
前記回転電機は、
前記内燃機関の出力軸を回転駆動して始動させる第1モータジェネレータと、
前記車両の駆動軸に連結される第2モータジェネレータとを含み、
前記車両は、
前記内燃機関の出力軸、前記車両の駆動軸、および前記第1モータジェネレータの回転軸の三要素の各々を機械的に連結して、前記三要素のうちの何れか一つを反力要素とすることによって、他の2つの要素間で動力伝達を可能とする動力分割機構をさらに備え、
前記制御装置は、前記動力分割機構の要素間の動力伝達を前記シフトポジション変更操作に応じて制御し、前記シフトポジション変更操作に応じて、前記第1モータジェネレータによる前記内燃機関の始動を遅延させる、請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記制御装置は、前記内燃機関の始動を遅延させる遅延条件が記録されたマップデータを含み、
前記マップデータにおいては、前記充電電力上限値の大きさが大きくなるほど、前記閾値が大きくなるように設定される、請求項1に記載の車両。
【請求項4】
前記シフトポジション変更操作は、ドライブポジションから、ブレーキポジションに変更する操作であり、
前記制御装置は、前記シフトポジション変更操作によって、ブレーキポジションに変更された時点から所定時間が経過するまで、前記内燃機関の始動を遅延させる、請求項2に記載の車両。」

第3 原査定の理由について
1 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は、次のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・請求項 1ないし4
・引用文献等 1及び2
・備考

引用文献等一覧
1.特開2010-064679号公報
2.特開2009-166657号公報

引用文献1については、回生制動時にジェネレータ20によるエンジン18の出力軸のモータリングを所定時間遅延させている点を参照のこと(例えば図1、4及び5並びに段落【0011】、【0024】ないし【0026】、【0028】及び【0036】ないし【0038】等参照)。
さらに、引用文献1の段落【0011】には「好ましいのは、前記のように駆動用モータの発電電力が増大して充電リミット以上になったとき、第3工程によるエンジンのモータリング開始は所定期間、遅延させるとともに、駆動用モータの発電作動の効率を低下させることである」と記載されている。
また、引用文献1の段落【0037】には「モータ14の発電作動によって生じる電力は、一般的に自動車10への制動力要求の増大(ブレーキペダルの踏み加減や車速等に基づいて判定する)に応じて増大することになるが、こうした場合は、発電電力がバッテリ16の充電リミット以上になることがあり、バッテリ16にその充電許容電流以上の過電流を送ることは好ましくない…。」と記載されている。この記載事項から、車速と充電電力上限値(充電リミット)とは相関すること、そして例えば車速が所定の値を超えれば充電電力上限値を超えることとなることは、当業者であれば容易に理解できる。
これらの記載事項からみて、引用文献1には、車速に関連する充電電力が上限値を超える場合にエンジンの出力軸のモータリングを所定時間遅延させていることが開示若しくは示唆されているといえる。
引用文献2については、ハイブリッド車両において、DレンジからBレンジにシフトチェンジが行われた際に、エンジンを始動している例を参照のこと(例えば図1及び4等参照)。
したがって、引用文献2に記載のようなハイブリッド車両において、引用文献1に記載の技術思想を参照して、回生制動時にジェネレータ20によるエンジン18の出力軸のモータリングを所定時間遅延させる構成として、請求項1ないし4に係る発明の発明特定事項をなすことに格別の困難性があるとは認められない。
よって、請求項1ないし4に係る発明は、引用文献1及び2に記載の技術思想から当業者が容易になし得たものである。

2 原査定の理由についての判断
(1) 引用文献1
(1-1) 引用文献1の記載
引用文献1(特開2010-064679号公報)には、「ハイブリッド自動車の制御方法及びその装置」に関し、図面とともに次の記載がある。

a「【0001】
本発明は、エンジン及び駆動用モータを備えたハイブリッド自動車の制御に関し、特に回生制動時の制御手順に係る。」(段落【0001】)

b「【0011】
好ましいのは、前記のように駆動用モータの発電電力が増大して充電リミット以上になったとき、第3工程によるエンジンのモータリング開始は所定期間、遅延させるとともに、駆動用モータの発電作動の効率を低下させることである(第6工程:請求項3)。すなわち、ハイブリッド自動車は短い減速走行の後に再度、モータ駆動による加速運転に移行する場合があるので、暫くの間はエンジンのモータリングを行わないようにすることで、モータリングの開始・停止が頻繁に繰り返されることを防止するのである。」(段落【0011】)

c「【0024】
図示のハイブリッド自動車10は所謂シリーズ方式のものであって、車輪12を直接駆動するモータ14(駆動用モータ)と、このモータ14に電力を供給するバッテリ16と、エンジン18に駆動連結されて電力を発生するジェネレータ20と、モータ14及びバッテリ16を接続するインバータ22と、ジェネレータ20及びバッテリ16を接続するインバータ24と、を備えている。
【0025】
より具体的に、モータ14は、インバータ22を介してバッテリ16に接続されるとともに、インバータ22、24を介してジェネレータ20に接続されており、それにより、バッテリ16が蓄える電力ないしジェネレータ20が発電した電力の供給を受けて作動する。また、そのモータ14の出力(車輪12の駆動力)は、インバータ22を制御してモータ14に該インバータ22を介して供給される電力を調節することにより制御される。さらに、モータ14は発電作動も可能で、自動車10の制動時に車輪12に駆動されて電力を発生する。この発電電力はインバータ22を介してバッテリ16に充電される。
【0026】
ジェネレータ20は、インバータ24を介してバッテリ16に接続されるとともに、インバータ22、24を介してモータ14に接続されており、エンジン18に駆動されて発電した電力を、モータ14やバッテリ16に供給する。また、バッテリ16からインバータ24を介して電力の供給を受けて、モータ作動することも可能であり、これによりエンジン18を強制的に回転させる(モータリング)ことができる。
【0027】
前記2つのインバータ22、24は、バッテリ16からの直流電力を交流電力に変換してモータ14、ジェネレータ20に送出したり、反対に、モータ14やジェネレータ20からの交流電力を直流電力に変換してバッテリ16に送出する。そして、以下に述べるコントロールユニット50により制御されて、モータ14、バッテリ16、ジェネレータ20間を伝達する電力の調整を行う。
【0028】
コントロールユニット50は、前記モータ14、エンジン18、ジェネレータ20及びインバータ22,24を制御する。すなわち、コントロールユニット50は、主にエンジン18の運転制御を行うエンジンコントローラ50aと、主にインバータ22,24を制御してモータ14及びジェネレータ20の作動を制御するHEVコントローラ50bと、を備えている。」(段落【0024】ないし【0028】)

d「【0043】
そして、時刻t1においてモータ回生電力P_regenがバッテリ充電リミットPbat_limに達すると、前記ステップS2においてNOと判定してステップS4に進む。ここでは、モータ回生電力P_regenにモータ14の最低効率ηmot_minを乗算したものがバッテリ充電リミットPbat_limよりも小さいかどうか判定し(ηmot×ηmot_min<Pbat_lim ?)。この判定がYESであればステップS5に進んで、モータ回生電力P_regenがちょうどバッテリ充電リミットPbat_limになるように、モータ14の発電作動の効率ηmotを制御して(ηmot=Pbat_lim÷P_regen)、リターンする。
【0044】
そうすると、図5の時刻t1?t2に示すように、目標モータ回生トルクが上昇しても(同図(a))、モータ効率ηmotが徐々に低下するため(同図(e))、モータ回生電力P_regenは、バッテリ充電リミットPbat_limに維持されるようになる(同図(b))。こうしてモータ効率ηmotが低下すると、これに伴いモータ14の発熱は徐々に増大する。
【0045】
そうして目標モータ回生トルクがさらに上昇すると、モータ効率ηmotを最低値まで低下させても(図5(e)の時刻t2)モータ回生電力P_regenがバッテリ充電リミットPbat_lim以上になってしまう(図5(b))。こうなると、前記ステップS4においてNOと判
定し、ステップS6に進んでモータ効率ηmotを最低効率ηmot_minとする一方、ジェネレータ20をモータ作動させてエンジン18のモータリングを開始する。
【0046】
このエンジン・モータリングの開始によって、図5の時刻t2?t3に示すようにジェネレータ回転数ng(エンジン18の回転数と同じ)が立ち上がり始め(同図(c))、モータリングされるエンジン18のポンプ仕事やこれに伴う機械的損失によって、余剰の電力が消費されるようになる(以下、廃電ともいう)。こうして廃電される電力は、ジェネレータ回転数ngの上昇に伴い同図(d)のように増大するが、エンジン18の回転は直ぐには立ち上がらず、それが低い間は時間当たりのポンプ仕事が少ないことから、余剰の発電電力を消費し切れない。」(段落【0043】ないし【0046】)

e「【0075】
尚、本発明に係るハイブリッド自動車の制御装置は、前記した実施形態に限定されず、その他の種々の構成をも包含する。例えば、本発明を適用するハイブリッド自動車10は所謂シリーズ方式のものに限らず、パラレル方式のものやシリーズ・パラレル方式のものであってもよい。」(段落【0075】)

(1-2) 上記(1-1)及び図面の記載から分かること
上記(1-1)並びに図1ないし図5の記載から、引用文献1には、次の事項が記載されていることが分かる。

f 上記(1-1)a及びc並びに図1の記載から、引用文献1には、ハイブリッド自動車10が記載されていることが分かる。

g 上記(1-1)c及び図1の記載から、ハイブリッド自動車10は、エンジン18と、バッテリ16を備えていることが分かる。

h 図1の記載から、ハイブリッド自動車10のエンジン18には、ジェネレータ20と接続される出力軸があることが看取できる。
そして、上記(1-1)c及び図1の記載から、ハイブリッド自動車10は、エンジン18の出力軸を強制的に回転させるジェネレータ20を備えていることが分かる。

i 図1の記載から、ハイブリッド自動車10には、車輪12に連結されている駆動軸があることが看取できる。
また、上記(1-1)eには、ハイブリッド自動車10はシリーズ・パラレル方式のものでもよい旨が記載されており、シリーズ・パラレル方式においては、エンジン及びジェネレータは駆動軸に接続されるものである。
したがって、上記(1-1)c、e及び図1の記載を上記hの記載とあわせてみると、ハイブリッド自動車10は、エンジン18の出力軸およびジェネレータ20が接続されるハイブリッド自動車10の駆動軸を備えていることが分かる。

j 上記(1-1)c並びに図1及び図2の記載から、ハイブリッド自動車10は、エンジン18およびジェネレータ20を制御するコントロールユニット50を備えていることが分かる。

k 上記(1-1)bないしd並びに図2ないし図5の記載から、ハイブリッド自動車10は、モータ回生電力が増大して充電リミット以上になったとき、エンジン18のモータリング開始を遅延させるコントロールユニット50を備えていることが分かる。

(1-3) 引用文献1発明
上記(1-1)及び(1-2)並びに図1ないし図5の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用文献1発明」という。)が記載されているといえる。

「ハイブリッド自動車10であって、
エンジン18と、
バッテリ16と、
エンジン18の出力軸を強制的に回転させるジェネレータ20と、
エンジン18の出力軸およびジェネレータ20が接続されるハイブリッド自動車10の駆動軸と、
エンジン18およびジェネレータ20を制御するコントロールユニット50とを備え、
コントロールユニット50は、モータ回生電力が増大して充電リミット以上になったとき、エンジン18のモータリング開始を遅延させる、ハイブリッド自動車10」

(2) 引用文献2
(2-1) 引用文献2記載の事項
引用文献2(特開2009-166657号公報)には、「車両およびその制御方法」に関し、図面とともに次の記載がある。

l「【0021】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、モータ運転モードで走行(以下、モータ走行という)している最中にシフトポジションSPがBポジションに変更された際の動作について説明する。図4はハイブリッド用電子制御ユニット70により実行されるアクセルオフBポジション時モータ走行制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、モータ走行中にアクセルオフされた状態でシフトポジションSPがBポジションに変更されたときに所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返し実行される。なお、このルーチンの実行中は、エンジンECU24により、燃料噴射制御が停止されエンジン22を燃料カットした状態が保持されている。
【0022】
アクセルオフBポジション時モータ走行制御ルーチンが実行されると、ハイブリッド用電子制御ユニット70のCPU72は、まず、シフトポジションセンサ82からのシフトポジションSPやアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,車速センサ88からの車速V,エンジン22の回転数Ne,モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2,バッテリ50の入出力制限Win,Wout,Bポジション時にバッテリ50を充電してもよい最大許容電力であるBポジション用入力制限Winbなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、エンジン22の回転数Neは図示しないクランクポジションセンサからの信号に基づいて演算されたものをエンジンECU24から通信により入力するものとした。また、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2は、回転位置検出センサ43,44により検出されたモータMG1,MG2の回転子の回転位置に基づいて演算されたものをモータECU40から通信により入力するものとした。さらに、バッテリ50の入出力制限Win,Woutは、バッテリ50の電池温度Tbとバッテリ50の残容量(SOC)とに基づいて設定されたものをバッテリECU52から通信により入力するものとした。Bポジション用入力制限Winbは、実施例では、バッテリECU52により電池温度Tbと残容量(SOC)とに基づいて通常設定されるバッテリ50の入力制限Winより十分に大きな(絶対値としては小さな)充電側の許容電力としてバッテリ50の定格により予め定められてROM74に記
憶されたもの(例えば、-数kwなど)を用いるものとした。このようなBポジション用入力制限Winbを用いる理由については、説明の都合上、後述する。
【0023】
こうしてデータを入力すると、入力したシフトポジションSPとアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車両に要求されるトルクとして駆動輪63a,63bに連結された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクTr*を設定する(ステップS110)。要求トルクTr*は、実施例では、シフトポジションSPとアクセル開度Accと車速Vと要求トルクTr*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM74に記憶しておき、シフトポジションSPとアクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTr*を導出して設定するものとした。図5に要求トルク設定用マップの一例を示す。いま、アクセルオフされた状態でシフトポジションSPがBポジションに変更されたときを考えているから、図示するように、通常はシフトポジションSPがDポジションのときより負側すなわち制動側に大きなトルクが要求トルクTr*として設定される。
【0024】
続いて、シフトポジションセンサ82によりDポジションからの変更が検出されてから所定時間が経過する前か否かと(ステップS120)、エンジン22への燃料噴射を伴わずにモータMG1によりエンジン22のクランキングを開始するか否かとを判定する(ステップS130)。ここで、所定時間は、運転者によるシフトレバー81の操作時間やクランキング開始の判定処理に必要な時間を考慮して予め定めた時間(例えば、数百mecなど)を用いるものとした。クランキング開始の判定は、燃料カットしたエンジン22をモータMG1によりモータリングして駆動軸としてのリングギヤ軸32aに制動力(以下、エンジンブレーキという)を作用させるか否かを判断するために行なうものであり、要求トルクTr*が負の値に設定されたときや、要求トルクTr*にリングギヤ軸32aの回転数Nr(車速Vと換算係数との積)を乗じたものとバッテリ50が要求する充放電要求パワーPb*とロスLossとの和として計算される要求パワーPe*が負の値に設定されたときなどに判定することができる。
」(段落【0021】ないし【0024】)

(2-2) 引用文献2技術
上記(2-1)並びに図1及び図4の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2技術」という。)が記載されているといえる。
「シフトポジションSPがDポジションからBポジションに変更された際、所定時間経過してからエンジン22のクランキングを開始するか否かを判定する車両。」

(3) 対比・判断

本願発明と引用文献1発明とを対比すると、
引用文献1発明における「ハイブリッド自動車10」は、その機能、構成及び技術的意義から、本願発明における「車両」に相当し、以下同様に、「エンジン18」は「内燃機関」に、「バッテリ16」は「蓄電装置」に、「駆動軸」は「駆動軸」に、「コントロールユニット50」は「制御装置」にそれぞれ相当する。
また、引用文献1発明における「エンジン18の出力軸を強制的に回転させるジェネレータ20」は、本願発明における「内燃機関の出力軸を回転駆動して始動させる回転電機」と、「内燃機関の出力軸を回転駆動させる回転電機」という限りにおいて一致する。
さらに、引用文献1発明における「コントロールユニット50は、モータ回生電力が増大して充電リミット以上になったとき、エンジン18のモータリング開始を遅延させる」は、本願発明における「制御装置は、シフトポジション変更操作によって、回転電機による回生電力を発生させる方向の減速トルクが要求された状態において、回転電機を用いて内燃機関の始動が要求されるときは、蓄電装置の充電電力上限値から定まる閾値よりも車速が大きい場合に、内燃機関の始動をシフトポジション変更操作から所定時間だけ遅延させる」と、「制御装置は、ある条件下において内燃機関の動作を遅延させる」という限りにおいて一致する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
「車両であって、
内燃機関と、
蓄電装置と、
内燃機関の出力軸を回転駆動させる回転電機と、
内燃機関の出力軸および回転電機が接続される車両の駆動軸と、
内燃機関および回転電機を制御する制御装置とを備え、
制御装置は、ある条件下において内燃機関の動作を遅延させる、車両。」

<相違点1>
「内燃機関の出力軸を回転駆動させる回転電機」に関し、本願発明においては「内燃機関の出力軸を回転駆動して始動させる回転電機」であるのに対し、引用文献1発明においては「エンジン18の出力軸を強制的に回転させるジェネレータ20」である点(以下、「相違点1」という。)。

<相違点2>
「制御装置は、ある条件下において内燃機関の動作を遅延させる」ものに関し、本願発明においては「制御装置は、シフトポジション変更操作によって、回転電機による回生電力を発生させる方向の減速トルクが要求された状態において、回転電機を用いて内燃機関の始動が要求されるときは、蓄電装置の充電電力上限値から定まる閾値よりも車速が大きい場合に、内燃機関の始動をシフトポジション変更操作から所定時間だけ遅延させる」ものであるのに対し、引用文献1発明においては「コントロールユニット50は、モータ回生電力が増大して充電リミット以上になったとき、エンジン18のモータリング開始を遅延させる」ものである点(以下、「相違点2」という。)。

事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。

<相違点2について>
引用文献2技術である「シフトポジションSPがDポジションからBポジションに変更された際、所定時間経過してからエンジン22のクランキングを開始するか否かを判定する車両。」は、シフトポジションSPがDポジションからBポジションに変更された状態において、回転電機を用いて内燃機関の始動が要求されるときについて、どのような制御を行うかは不明である。

すなわち、引用文献2技術は、相違点2に係る本願発明の発明特定事項のうちの、「回転電機を用いて内燃機関の始動が要求されるときは、蓄電装置の充電電力上限値から定まる閾値よりも車速が大きい場合に、内燃機関の始動をシフトポジション変更操作から所定時間だけ遅延させる」という事項に対応する構成を備えていない。

したがって、引用文献1発明において、引用文献2技術を適用して、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

よって、相違点1について検討するまでもなく、本願発明は、引用文献1発明及び引用文献2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ
本願発明は、引用文献1発明及び引用文献2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願の請求項2ないし4に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、同様に、引用文献1発明及び引用文献2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4 当審拒絶理由について
1 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。

理 由

本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



1.請求項2に係る発明の、「前記内燃機関の出力軸を回転駆動させてクランキングさせるタイミングを遅らせる」という構成が、請求項1に係る発明における「前記内燃機関の始動を前記シフトポジション変更操作から所定時間だけ遅延させる」という構成と、どのような関係にあるのかがわからず不明確である。
また、請求項2を引用している請求項4に係る発明も同様に不明確である。

2.請求項3に係る発明の、「前記出力軸の回転駆動を遅延させる」という構成が、請求項1に係る発明における「前記内燃機関の始動を前記シフトポジション変更操作から所定時間だけ遅延させる」という構成と、どのような関係にあるのかがわからず不明確である。

よって、請求項2ないし4に係る発明は明確でない。

2 当審拒絶理由についての判断
平成28年4月5日に提出された手続補正書による補正により、当審拒絶理由において記載不備を指摘した請求項2は「前記第1モータジェネレータによる前記内燃機関の始動を遅延させる」と補正された。
このことにより、本願の請求項2に係る発明及び請求項2を引用している請求項4に係る発明は明確となった。

平成28年4月5日に提出された手続補正書による補正により、当審拒絶理由において記載不備を指摘した請求項3は「前記内燃機関の始動を遅延させる」と補正された。
このことにより、本願の請求項3に係る発明は明確となった。

よって、当審拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由を検討しても、その理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-06-20 
出願番号 特願2011-224129(P2011-224129)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B60K)
P 1 8・ 121- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 梶本 直樹
松下 聡
発明の名称 車両  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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