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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B60K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B60K
管理番号 1316108
審判番号 不服2015-16593  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-09 
確定日 2016-07-05 
事件の表示 特願2013-537358号「ハイブリッド車両の制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 4月11日国際公開、WO2013/051141、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2011年10月6日を国際出願日とする出願であって、平成27年3月2日付けで拒絶理由が通知され、平成27年5月7日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成27年6月26日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成27年9月9日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、当審において平成28年3月17日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年5月12日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明は、平成28年5月12日提出の手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに国際出願時の図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されると認められるところ、本願の請求項1及び2に係る発明(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、以下のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
エンジン及びモータを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記車両は、走行モードとして、モータの温度が閾温度を超える場合にモータ負荷を制限した状態で走行するモータ負荷制限走行モードを備え、
前記モータ負荷制限走行モードでなく走行している場合において、前記モータの動力を分配して駆動される電動ポンプによる冷却供給について、前記モータに電力を供給するバッテリの充電量が所定閾値よりも大きい場合に、前記バッテリの充電量が小さい場合に比べ、相対的に前記モータへの冷却供給が大きくなるように変更して、前記モータへの冷却供給をそのまま維持した場合に比べて前記モータの温度が前記閾温度を超えるタイミングを時間的に遅延させて前記モータ負荷制限走行モードへの移行を抑制する制御手段
を有することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、
前記制御手段は、前記バッテリの充電状態に応じて、前記電動ポンプの仕事率を変更する
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。」

第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要

原査定の理由の概要は、以下のとおりである。

(1)理由1:この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項 1-2
・引用文献等 1-3
・備考
引用文献1には、モータの温度が閾温度を超える場合にモータ負荷を制限した状態で走行するモードを備えた、ハイブリッド車両の制御装置の発明が記載されている(例えば請求項3,図3等参照)。
ここで、引用文献2、3に記載されているように、ハイブリッド車両において、モータへの冷却供給を電動ポンプにより行うものであって、バッテリの充電量が大きい場合に、バッテリ充電量が小さい場合と比較して、モータへの冷却供給が大きくなるように変更することは、本願の出願前における周知技術である(必要ならば、引用文献2の図6,引用文献3については段落【0039】-【0048】,図3等参照)。
したがって、引用文献1に記載された発明に、引用文献2、3に記載された周知技術を適用することに格別の困難性があるとは認められず、また格別な作用効果を奏するものとも認められない。
そして、本願の補正後の請求項1に係る発明の「モータへの冷却供給をそのまま維持した場合に比べて前記モータの温度が前記閾温度を超えるタイミングを時間的に遅延させて前記モータ負荷制限走行モードを抑制する」という発明特定事項について考えるに、この発明特定事項は単に作用、機能を特定するものであって、物の具体的な構成を特定するものであるとはいえない。この機能を満たす物の具体的な構成は、本願の請求項1の「モータに電力を供給するバッテリの充電量が大きい場合に、前記バッテリの充電量が小さい場合に比べ、相対的に前記モータへの冷却供給が大きくなるように変更して」とすることのみであると認められる。
以上を総合的に考慮すると、請求項1に係る発明は、上記の、引用文献1に記載の事項等から当業者が容易になし得たものであるといわざるを得ない。
なお、上記の、引用文献1に記載の事項等から容易に想到する発明においては、モータ負荷を制限した状態で走行するモードにおいても、バッテリの充電量が大きい場合に、バッテリ充電量が小さい場合と比較して、モータへの冷却供給が大きくすることとなるから、当然モータの温度上昇は小さくなり、その結果モータの温度が閾値を超えるまでに要する時間が延びることは、当業者が容易に予測し得る範囲内であるといえる。

請求項2に係る発明について、電動ポンプによるモータへの冷却供給を変えれば電動ポンプの仕事率も変わるのは一般常識であるから、「バッテリの充電状態に応じて電動ポンプの仕事率を変更する」ことに格別の困難性があるとは認められない。よって請求項2に係る発明も、上記の、引用文献1に記載の事項等から当業者が容易になし得たものであるといえる。

よって、請求項1-2に係る発明は、上記の、引用文献1に記載の事項等から当業者が容易になし得たものである。

(2)理由3:この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

・請求項 1-2
・備考
請求項1には、請求項1に係る発明が、「前記車両は、前記モータに電力を供給するバッテリの充電状態に応じて、前記モータへの冷却供給態様を変更することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置」と記載されている。
ここで、当該発明特定事項を見ると、本願発明は、バッテリの充電状態に応じて、モータへの冷却供給態様を変更すること、のみが特定されており、いかなる冷却供給態様への変更をも含むものとなっている。
すなわち、請求項1に係る発明は、例えば、「モータに電力を供給するバッテリの充電量が大きい場合に、前記バッテリの充電量が小さい場合に比べ、相対的に前記モータへの冷却供給が小さくなるように変更すること」が当然に含まれている。
しかし、そのような発明が含まれることについて、本願の明細書には、なんら記載も示唆もなされておらず、仮に含まれるとしても、「モータに電力を供給するバッテリの充電量が大きい場合に、前記バッテリの充電量が小さい場合に比べ、相対的に前記モータへの冷却供給が小さくなるように変更」した場合に、本願の解決すべき課題である「モータに電力を供給するバッテリのSOCが十分高い場合、バッテリからモータへ供給する電力の余裕はあるものの、モータの温度が所定の温度に達してしまうと負荷制限制御に移行してしまい、本来、バッテリの電力を十分活用できるにもかかわらずモータ側の事情でモータの動力のみによる走行を維持することができなくなり、バッテリの電力を有効活用できない」という問題が、どのような機能・作用により解決されるのか、技術的意味も不明である。
そして、補正後の請求項1には、単に「前記モータに電力を供給するバッテリの充電量が大きい場合に、前記バッテリの充電量が小さい場合に比べ、相対的に前記モータへの冷却供給が大きくなるように変更して」と記載されている。この記載のみでは、「前記モータに電力を供給するバッテリの充電量が大きい場合」や「バッテリの充電量が小さい場合」が、具体的にどのような状態におけるものであるのかが不明瞭である。より具体的にいえば、例えばモータ負荷制限走行モードにおいてモータに電力を供給している状態においてバッテリの充電量が大きい場合であるのかが不明瞭である。したがって請求項1,2に係る発明は、本願の「モータに電力を供給するバッテリのSOCが十分高い場合、バッテリからモータへ供給する電力の余裕はあるものの、モータの温度が所定の温度に達してしまうと負荷制限制御に移行してしまい、本来、バッテリの電力を十分活用できるにもかかわらずモータ側の事情でモータの動力のみによる走行を維持することができなくなり、バッテリの電力を有効活用できない」という問題(段落[0007]参照)が必ずしも解決できるように発明の構成が特定されているとまではいえない。
そうしてみると請求項1,2に係る発明は、依然として、不明瞭であるといわざるを得ない。
<引用文献等一覧>

刊行物1:特開2009-255916号公報
刊行物2:特開2010-151200号公報(周知技術を示す文献)
刊行物3:特開平11-069510号公報(周知技術を示す文献)

2.原査定の理由についての判断
[1]理由1について
(1)刊行物1記載の発明
段落【0001】ないし【0114】の記載及び図1ないし図15の記載からみて、刊行物1には以下の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されている。
「エンジン及び回転電機を備えるハイブリッド駆動装置を備えた車両の駆動装置であって、
ハイブリッド駆動装置を備えた車両は、走行モードとして、回転電機の温度が所定の温度を超える場合に回転電機にかかる負荷を制限した状態で走行する負荷制限制御を施すモードを備えたハイブリッド駆動装置を備えた車両の駆動装置。」

(2)刊行物2記載の技術
特許請求の範囲の記載、段落【0006】ないし【0090】の記載及び図1ないし図10の記載からみて、刊行物2には以下の技術(以下、「刊行物2記載の技術」という。)が記載されている。
「駆動輪を駆動するモータと、該モータに対して作動電力を供給するとともに該モータの減速回生により充電されるバッテリ、
前記バッテリから電力の供給を受けて作動し、前記モータに冷却用作動油を供給する電動式オイルポンプ、
前記バッテリの充電率を検出する充電率検出手段とを備える車両用駆動装置の制御装置において、
前記モータの減速回生時であって且つ前記充電率検出手段が検出する充電率が所定値を超えている場合は、前記モータの減速回生で得られた電力を消費するために前記電動式オイルポンプを最大消費電力で作動させる技術。」

(3)刊行物3記載の技術
特許請求の範囲の記載、段落【0001】ないし【0070】の記載及び図1ないし図11の記載からみて、刊行物3には以下の技術(以下、「刊行物3記載の技術」という。)が記載されている。
「車両の制動中に電動機により発生する電力を回生する動力出力装置であって、バッテリが満充電の場合に回生された電力を冷却手段に供給することにより、モータの温度を低下させる技術。」

(4)対比・判断
本願発明1と刊行物1発明とを対比する。
刊行物1発明と本願発明1とを対比すると、刊行物1発明における「回転電機」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明1における「モータ」に相当し、以下同様に、「ハイブリッド駆動装置を備えた車両」は「ハイブリッド車両」あるいは「車両」に、「駆動装置」は「制御装置」に、「所定の温度を超える場合」は「閾温度を超える場合」に、「回転電機にかかる負荷」は「モータ負荷」に、「負荷制限制御を施すモード」は「モータ負荷制限走行モード」に、「ハイブリッド駆動装置を備えた車両の駆動装置」は「ハイブリッド車両の制御装置」に、それぞれ相当する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「エンジン及びモータを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記車両は、走行モードとして、モータの温度が閾温度を超える場合にモータ負荷を制限した状態で走行するモータ負荷制限走行モードを備えるハイブリッド車両の制御装置。」

[相違点]
本願発明1においては、「モータ負荷制限走行モードでなく走行している場合において、前記モータの動力を分配して駆動される電動ポンプによる冷却供給について、前記モータに電力を供給するバッテリの充電量が所定閾値よりも大きい場合に、前記バッテリの充電量が小さい場合に比べ、相対的に前記モータへの冷却供給が大きくなるように変更して、前記モータへの冷却供給をそのまま維持した場合に比べて前記モータの温度が前記閾温度を超えるタイミングを時間的に遅延させて前記モータ負荷制限走行モードへの移行を抑制する制御手段を有する」のに対して、
刊行物1発明においては、そのような制御手段を有するものか不明である点。(以下、「相違点」という。)

上記相違点について検討する。

[相違点について]
刊行物2記載の技術及び刊行物3記載の技術は、モータの温度が閾温度を超える場合にモータ負荷を制限した状態で走行する負荷制限制御を施すモードを有することを前提とするものではないから、該負荷制限制御を施すモードが特定されたものである刊行物1発明において、刊行物2記載の技術及び刊行物3記載の技術を適用する特段の動機付けが見出せない。
さらに、刊行物2記載の技術及び刊行物3記載の技術において、上記相違点に係る本願発明1における「モータの動力を分配して駆動される電動ポンプ」について記載も示唆もない。

したがって、刊行物1発明、刊行物2記載の技術及び刊行物3記載の技術に基いて上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たものとすることはできない。

(5)小括
そうすると、本願発明1は、刊行物1発明、刊行物2記載の技術及び刊行物3記載の技術に基いて当業者が容易になし得たものとすることはできない。
また、本願発明2は、本願発明1をさらに限定したものであって、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明2は、本願発明1と同様に、刊行物1発明、刊行物2記載の技術及び刊行物3記載の技術に基いて当業者が容易になし得たものとすることはできない。

よって、上記1.における(1)理由1によっては、本願を拒絶することはできない。

[2]理由3について
平成28年5月12日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲における請求項1の記載「モータの動力を分配して駆動される電動ポンプによる冷却供給について、前記モータに電力を供給するバッテリの充電量が所定閾値よりも大きい場合に、前記バッテリの充電量が小さい場合に比べ、相対的に前記モータへの冷却供給が大きくなるように変更して」によれば、バッテリの充電量が大きい場合には、バッテリの充電量が小さい場合に比べ、相対的に前記モータへの冷却供給が大きくなるように変更することが明確となっている。
さらに、同手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載において、「モータ負荷制限走行モードでなく走行している場合」に、「モータの動力を分配して駆動される電動ポンプによる冷却供給について、前記モータに電力を供給するバッテリの充電量が所定閾値よりも大きい場合に、前記バッテリの充電量が小さい場合に比べ、相対的に前記モータへの冷却供給が大きくなるように変更」されることが明確となっている。

よって、上記1.における(2)理由3の拒絶理由は解消された。

第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由
(1)理由1:本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

・請求項1について
刊行物2(特に、段落【0040】ないし【0091】及び図1ないし9参照。)及び刊行物3(特に、段落【0017】ないし【0042】及び図1ないし3参照。)に見られるように、「エンジン及びモータを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、前記車両は、走行モードとして、モータの温度が閾温度を超える場合にモータ負荷を制限した状態で走行するモータ負荷制限走行モードと、それ以外のモードとを備えるハイブリッド車両の制御装置。」は、本件出願の国際出願日前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。)である(なお、本件出願の明細書の発明の詳細な説明の段落【0004】においても、周知技術1が、刊行物2及び3とは別の特許文献に開示されている旨が記載されている。)。

また、刊行物1の段落【0023】ないし【0061】及び図1ないし7の記載を総合すると、刊行物1には、「モータに電力を供給するバッテリの充電量が大きい場合に、前記バッテリの充電量が小さい場合に比べ、相対的に前記モータへの冷却供給が大きくなるように変更して、前記モータへの冷却供給をそのまま維持した場合に比べて前記モータの温度が閾温度を超えるタイミングを時間的に遅延させる技術。」(以下、「刊行物1に記載された技術」という。)が記載されている。

周知技術1において、「モータ負荷制限走行モード」でなく走行している場合について、刊行物1に記載された技術を適用すると、周知技術1における「モータ負荷制限走行モード」は、自ずと抑制されることとなることは明らかである。

してみると、周知技術1において、「モータ負荷制限走行モード」でなく走行している場合について、刊行物1に記載された技術を適用して、請求項1に係る発明とすることは、当業者が容易になしえたことである。

そして、請求項1に係る発明は、全体としてみても、周知技術1及び刊行物1に記載された技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

したがって、請求項1に係る発明は、周知技術1及び刊行物1に記載された技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

・請求項2について
請求項2において限定された事項は、例えば、刊行物4(特に、段落【0014】、【0028】、【0029】、【0043】及び【0086】並びに図1及び2参照。)に見られるように、本件出願の国際出願日前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。)である。

よって、請求項2に係る発明は、周知技術1、刊行物1に記載された技術及び周知技術2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)理由2:本件出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

請求項1における「モータ負荷制限走行モードを抑制する」なる記載は、その意味するところが不明である。(本件出願の明細書における発明の詳細な説明の段落【0045】には、「【0045】・・・・・中略・・・・・すなわちモータ温度Tが閾温度Tthを超えたと判定されることを抑制してEV走行モードから負荷制限モードへの移行が抑制される。」と記載されていることを踏まえると、本請求項における上記記載は「モータ負荷制限走行モードへの移行を抑制する」という意味か。もしそうであれば、そのとおりに記載することが必要と認める。)

<引用文献等一覧>

刊行物1:特開2007-216791号公報
刊行物2:特開2009-100542号公報
刊行物3:特開2003-304604号公報
刊行物4:特開2010-151200号公報

2.当審拒絶理由の判断
[1]理由1について
(1)刊行物1記載の技術
段落【0023】ないし【0061】の記載及び図1ないし7の記載からみて、刊行物1には、「モータジェネレータMG1に電力を供給する蓄電装置のSOCが高い場合に、前記蓄電装置のSOCが低い場合に比べ、相対的に前記モータジェネレータMG1への電気系冷却系統の冷媒量を増加させるように変更する技術。」(以下、「刊行物1記載の技術」という。)が記載されている。

(2)刊行物2及び刊行物3の記載から導き出せる周知技術に係る発明
刊行物2(特に、段落【0040】ないし【0091】及び図1ないし9参照。)及び刊行物3(特に、段落【0017】ないし【0042】及び図1ないし3参照。)には、「エンジン及びモータを備えるハイブリッド自動車の制御装置であって、
ハイブリッド自動車は、走行モードとして、モータ温度が所定温度を超える場合にモータの出力を制限した状態で走行するモードを備えるハイブリッド自動車の制御装置。」(以下、「周知発明」という。)が記載されている。

(3)刊行物4記載の技術
特許請求の範囲、段落【0014】、段落【0028】ないし【0029】、段落【0053】ないし【0057】及び段落【0086】の記載並びに図1ないし図10の記載からみて、刊行物4には、「車両用駆動装置の制御装置において、モータへの冷却用作動油の供給を電動式オイルポンプにより行い、バッテリの充電率に応じて電動式オイルポンプの出力油圧を変更する技術。」(以下、「刊行物4記載の技術」という。)が記載されている。

(4)対比・判断
本願発明1と周知発明とを対比する。
周知発明の「ハイブリッド自動車」は、その機能、構成及び技術的意義からみて、本願発明の「ハイブリッド車両」あるいは「車両」に相当し、以下同様に、「モータ温度」は「モータの温度」に、「所定温度」は「閾温度」に、「モータの出力」は「モータ負荷」に、「モード」は「モータ負荷制限走行モード」に、「ハイブリッド自動車の制御装置」は「ハイブリッド車両の制御装置」に、それぞれ相当する。

よって、両者の一致点、相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「エンジン及びモータを備えるハイブリッド車両の制御装置であって、
前記車両は、走行モードとして、モータの温度が閾温度を超える場合にモータ負荷を制限した状態で走行するモータ負荷制限走行モードを備えるハイブリッド車両の制御装置。」

[相違点]
本願発明1においては、「モータ負荷制限走行モードでなく走行している場合において、前記モータの動力を分配して駆動される電動ポンプによる冷却供給について、前記モータに電力を供給するバッテリの充電量が所定閾値よりも大きい場合に、前記バッテリの充電量が小さい場合に比べ、相対的に前記モータへの冷却供給が大きくなるように変更して、前記モータへの冷却供給をそのまま維持した場合に比べて前記モータの温度が前記閾温度を超えるタイミングを時間的に遅延させて前記モータ負荷制限走行モードへの移行を抑制する制御手段を有する」のに対して、
周知発明においては、そのような制御手段を有するものか不明である点。(以下、「相違点」という。)

上記相違点について検討する。

[相違点について]
刊行物1記載の技術は、モータ温度が所定温度を超える場合にモータの出力を制限した状態で走行するモードを備えることを前提とするものではないから、モータ温度が所定温度を超える場合にモータの出力を制限した状態で走行するモードが特定されたものである周知発明において、刊行物1記載の技術を適用する特段の動機付けが見出せない。
さらに、刊行物1記載の技術において、上記相違点に係る本願発明1における「モータの動力を分配して駆動される電動ポンプ」について記載も示唆もない。

したがって、周知発明及び刊行物1記載の技術に基いて上記相違点に係る本願発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たものとすることはできない。

また、刊行物4記載の技術をみても、上記相違点に係る本願発明1における「モータの動力を分配して駆動される電動ポンプ」については記載も示唆もない。

(5)小括
そうすると、本願発明1は、本願発明1は、周知発明及び刊行物1記載の技術に基いて当業者が容易になし得たものとすることはできない。
または、本願発明1は、本願発明1は、周知発明、刊行物1記載の技術及び刊行物4記載の技術に基いて当業者が容易になし得たものとすることはできない。
さらに、本願発明2は、本願発明1をさらに限定したものであって、本願発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明2は、本願発明1と同様に、周知発明及び刊行物1記載の技術に基いて当業者が容易になし得たものとすることはできない。
または、本願発明2は、周知発明、刊行物1記載の技術及び刊行物4記載の技術に基いて当業者が容易になし得たものとすることはできない。

よって、上記1.における理由1の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

[2]理由2について
平成28年5月12日提出の手続補正書により、特許請求の範囲の請求項1における記載「モータ負荷制限走行モードを抑制する」が、「モータ負荷制限走行モードへの移行を抑制する」に補正された。

このことにより、上記1.における理由2の拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-06-20 
出願番号 特願2013-537358(P2013-537358)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (B60K)
P 1 8・ 121- WY (B60K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山村 秀政  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 松下 聡
梶本 直樹
発明の名称 ハイブリッド車両の制御装置  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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