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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60R
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60R
管理番号 1316141
審判番号 不服2015-5802  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-30 
確定日 2016-06-14 
事件の表示 特願2010- 43734号「サイドカーテンエアバッグ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月16日出願公開、特開2010-202187号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年3月1日(パリ条約による優先権主張 2009年3月5日 (US)アメリカ合衆国)の出願であって、平成26年1月23日付けで拒絶理由が通知され、同年5月27日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月17日付けで拒絶理由が通知され、同年10月22日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成27年3月30日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に、特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたものである。

第2 平成27年3月30日付け手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成27年3月30日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の内容
平成27年3月30日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであり、その内の請求項1に関する補正は次のとおりである。
なお、下線部は補正箇所を示す。

ア 本件補正前の請求項1の記載
「【請求項1】
側面衝突から車両の乗員を保護するために前記車両内で使用されるエアバッグモジュールであって、
ガスを発生するように構成されるインフレータと、
前記インフレータに結合され、前記インフレータからガスが供給されると展開するように構成されるエアバッグと、を含み、前記エアバッグは、
前記車両の室内ルーフの側面に沿って伸長し、前記エアバッグの展開時に車両乗員の頭部を拘束するように構成される主チャンバであって、互いに接合される内側パネル及び外側パネルを備える前記主チャンバと、
前記主チャンバから前記車両のAピラーへ伸長し、前記エアバッグの展開時に少なくとも前記車両乗員の一部を拘束するように構成される前方チャンバであって、前記エアバッグの収納時に前記主チャンバの前記内側パネル及び前記外側パネルのうちの少なくとも一つに少なくとも部分的に重ねられる前記前方チャンバと、を備え、
さらに、前記エアバッグは、前記エアバッグを前記Aピラーに連結するテザー又はセイルパネルを備え、前記前方チャンバは、前記乗員が前記エアバッグに接触する際、前記テザー又は前記セイルパネルが前記前方チャンバを支えるように、前記テザー又は前記セイルパネルに重なるように内側に配置され、
前記前方チャンバの展開時に、前記テザー又は前記セイルパネルは前記前方チャンバよりも前方に伸長し、前記前方チャンバは前記Aピラーに重ならない、
ことを特徴とするエアバッグモジュール。」

イ 本件補正後の請求項1の記載
「【請求項1】
側面衝突から車両の乗員を保護するために前記車両内で使用されるエアバッグモジュールであって、
ガスを発生するように構成されるインフレータと、
前記インフレータに結合され、前記インフレータからガスが供給されると展開するように構成されるエアバッグと、を含み、前記エアバッグは、
前記車両の室内ルーフの側面に沿って伸長し、前記エアバッグの展開時に車両乗員の頭部を拘束するように構成される主チャンバであって、互いに接合される内側パネル及び外側パネルを備える前記主チャンバと、
前記主チャンバから前記車両のAピラーへ伸長し、前記エアバッグの展開時に少なくとも前記車両乗員の一部を拘束するように構成される前方チャンバであって、前記エアバッグの収納時に前記主チャンバの前記内側パネル及び前記外側パネルのうちの少なくとも一つに少なくとも部分的に重ねられる前記前方チャンバと、を備え、
さらに、前記エアバッグは、前記エアバッグを前記Aピラーに連結するセイルパネルを備え、前記前方チャンバは、前記乗員が前記エアバッグに接触する際、前記セイルパネルが前記前方チャンバを支えるように、前記セイルパネルに重なるように内側に配置され、
さらに、前記前方チャンバは、その高さが前記主チャンバの高さよりも低い位置である前記主チャンバの下部から前方に延伸しており、前記セイルパネルの前記エアバッグ側の端部は前記前方チャンバの高さ方向幅と実質的に同じ幅を有し、
前記前方チャンバの展開時に、前記セイルパネルは前記前方チャンバよりも前方に伸長し、前記前方チャンバは前記Aピラーに重ならない、
ことを特徴とするエアバッグモジュール。」

2.補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無について
本件補正は、補正前の請求項1に記載された「テザー又はセイルパネル」との択一的記載から要素を削除して「セイルパネル」とし、補正前の請求項1に記載の発明を特定する事項である「前方チャンバ」について、「さらに、前記前方チャンバは、その高さが前記主チャンバの高さよりも低い位置である前記主チャンバの下部から前方に延伸しており、前記セイルパネルの前記エアバッグ側の端部は前記前方チャンバの高さ方向幅と実質的に同じ幅を有し、」との事項を付加するものであり、かつ、補正の前後において発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
また、上記の補正により付加された事項は、補正前の請求項19に記載されているので、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

3.独立特許要件について
上記のとおり、本件補正の請求項1に関する補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正であるから、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定を満たすか)について以下に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、上記1.イの【請求項1】に記載したとおりのものと認める。

(2)引用文献
ア 引用文献1に記載の事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-88919号公報(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ア)
「【請求項1】
自動車の衝突時インフレータより噴出される高圧ガスにより車室内の窓の両側に設けられた窓の内側に沿ってカーテン状に膨張展開されるエアバッグを備えたエアバッグ装置であって、前記エアバッグを、前記窓を覆うように膨張展開される窓側展開部と、前記窓側展開部に連続するよう一体に形成され、かつ前記窓周縁の窓枠や窓枠近傍を覆うように膨張展開される窓枠展開部とから構成すると共に、前記窓側展開部と前記窓枠展開部を一緒に折り畳んで前記窓の上方に収納したことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記エアバッグが膨張展開する際、前記窓側展開部が先に展開し、その後前記窓枠展開部が展開するよう前記エアバッグを折り畳んでなる請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグの窓枠展開部側に、一端側が前記エアバッグ側に縫着され、かつ他端側が窓枠側に固定されたて前記膨張展開した窓枠展開部に重合する固定部材を設けてなる請求項1または2に記載のエアバッグ装置。」
(イ)
「【0001】
本発明は自動車が衝突した際、窓の内側にカーテン状に展開して乗員を保護するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車が側面衝突した際、窓の内側に沿ってカーテン状に展開して、衝突時の衝撃から乗員を保護するエアバッグ装置として、例えば特許文献1に記載されたものが公知である。」
(ウ)
「【0007】
しかし前記特許文献1に記載のエアバッグ装置では、自動車の衝突時インフレータより噴出される高圧ガスにより先端延設部が膨張して、フロントピラーガーニッシュに設けられたドア部を開放するが、先端延設部がフロントピラー等の窓枠を覆うように展開する構成となっていない。
【0008】
本発明はかかるかかる点に鑑みなされたもので、窓の周縁の窓枠等を覆うように膨張展開可能なエアバッグ装置を提供することを目的とするものである。」
(エ)
「【0018】
図1は車室内より側面に設けられた窓側を見た正面図で、フロントピラー1の車室内面を覆うフロントピラーガーニッシュ1aと、フロントピラー1の上部に連続し、かつセンタピラー3の上方を通って図示しないリヤピラーへと延設されたルーフサイドレール2を覆う内装材(ルーフヘッドライニング)4の内側に、エアバッグ5が折り畳まれた状態で収納されている。
【0019】
エアバッグ5は、自動車の衝突時、窓9の内側に沿ってカーテン上に展開される窓側展開部6と、窓9の周縁に設けられたフロントピラー1等の窓枠を覆うように展開される窓枠展開部7とからなり、窓側展開部6の前端に窓枠展開部7が連続するよう一体形成されていると共に、ナイロン66等の織布からなる複数、例えば2枚の基布の周囲を縫製することにより、エアバッグ5全体が袋状に形成されている。
【0020】
窓側展開部6は、車体の側面に設けられた窓9のほぼ全体を覆える大きさに形成されていて、上部にガス供給路6aが前端部より後端部に渡って形成されており、ガス供給路6aの後端部はガス流入口となっていて、このガス流入口に、リヤピラーの車室面側を覆うリヤピラーガーニッシュ内に設置されたインフレータ(ともに図示せず)のガス噴出口が接続されている。」
(オ)
「【0023】
一方窓側展開部6の前端部に連設された窓枠展開部7は、図3に示すように先端側が順次幅狭となる袋状となっていて、先端部は小円弧状に形成されており、展開時にはフロントピラーガーニッシュ1aのほぼ全体を覆えるようになっている。
【0024】
窓側展開部6と窓枠展開部7の境界は、窓枠展開部7を折り畳む際の折り曲げ線7aとなっていて、この折り曲げ線7aより図2に示すように窓側展開部6に重なるよう窓枠展開部7を折り畳んだ後、窓側展開部6と窓枠展開部7が一緒に折り畳まれるようになっている。」
(カ)
「【0025】
折り曲げ線7aよりやや後方の部分には、織布をほぼ三角形状に裁断することにより形成された固定部材10の底辺部が、折り曲げ線7aとほぼ平行するよう縫着されている。
【0026】
固定部材10は窓枠展開部7の全長よりよりやや短く形成されていて、頂部に縫着された環状の取り付け環10aが、ボルト等の固着具12によりフロントピラー1の車室側面に固着されブラケット11の取り付け孔11aに図6に示すように係止されている。」
(キ)
「【0030】
一方自動車が例えば側面衝突したり横転した場合は、窓側展開部6の上縁に沿って形成されたガス供給路6aへインフレータより高圧ガスが供給される。
【0031】
これによって窓側展開部6と窓枠展開部7が膨張を開始するため、窓側展開部6の膨張圧によりルーフサイドレール2を覆う内装材4の下縁側が開放されて、窓側展開部6が窓9の内側に沿って下方向へ図2に示すように展開されると共に、窓枠展開部7の膨張圧によりフロントピラーガーニッシュ1aの窓9側縁部が開放されて、開放部より窓枠展開部7が図3に示すように展開される。
【0032】
その後窓側展開部6が下方向へ展開されるのに伴い、いままで窓側展開部6側へ折り畳まれた状態にあった窓枠展開部7が図4及び図5に示すように前方へと展開された後、図6に示すように窓枠展開部7がフロントピラー1の車室内面を覆うため、自動車が側面衝突したり、横転した場合に乗員がフロントピラー1等の窓枠に乗員の頭部等が直接接触するのを未然に防止できるようになる。
【0033】
また窓側展開部6が展開される際、フロントピラーガーニッシュ1aの内側に収納されていた固定部材10が窓枠展開部7と窓9の間に展開し、窓枠展開部7に重合するため、固定部材を10が窓枠展開部7の保護層として機能し、これによって窓ガラスが開いている場合等におけるエアバッグ5への影響を低減することができると共に、固定部材10が窓枠展開部7の展開位置を安定させるため、窓枠展開部7の展開位置が窓枠よりずれて、車外に展開されてしまう等を防止することができる。
【0034】
・・・略・・・
【0035】
また織布をほぼ三角形に裁断して固定部材10を形成したが、幅の狭いテープ状物または紐状物により固定部材10を形成してもよく、固定部材10を設けることにより、窓側展開部6が膨張展開する際、窓側展開部6の展開位置を安定させることができるため、窓側展開部6を窓9の内面に沿って所定形状に確実に膨張展開させることができると同時に、窓枠展開部7の展開位置が窓枠よりずれるのを防止できるようになる。」
(ク)
【図2】、【図4】から、固定部材10は、折り曲げ線7aの略全長に亘って逢着されていることを看取しうる。

上記の各記載事項及び【図1】、【図2】、【図4】の記載によれば、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
〔引用発明〕
「自動車の側面衝突時にインフレータより噴出される高圧ガスにより車室内の窓9の内側に沿ってカーテン状に膨張展開されるエアバッグ5を備えたエアバッグ装置であって、
前記エアバッグ5を、
前記窓9を覆うように膨張展開される窓側展開部6と、
前記窓側展開部6に連続するよう一体に形成され、かつ前記窓周縁のフロントピラー1等の窓枠や窓枠近傍を覆うように膨張展開される窓枠展開部7とから構成すると共に、
エアバッグ5全体が2枚の基布の周囲を縫製することにより袋状に形成されており、
前記窓側展開部6と前記窓枠展開部7の境界は、前記窓枠展開部7を折り畳む際の折り曲げ線7aとなっていて、この折り曲げ線7aより窓側展開部6に重なるよう窓枠展開部7を折り畳んだ後、窓側展開部6と窓枠展開部7が一緒に折り畳まれるようになっており、
前記エアバッグ5の窓枠展開部7側に、一端側が前記エアバッグ5の前記折り曲げ線7aの略全長に亘って縫着され、かつ他端側がフロントピラー1に固定されて、膨張展開した前記窓枠展開部7と前記窓9の間に展開し、前記窓枠展開部7に重合する、前記窓枠展開部7の全長よりやや短く形成された固定部材10を設け、
前記窓側展開部6と前記窓枠展開部7を一緒に折り畳んで前記窓9の上方のルーフサイドレール2と内装材4との間に収納し、自動車が側面衝突したり横転した場合は、インフレータより高圧ガスが供給されることによって前記窓側展開部6と前記窓枠展開部7が膨張を開始し、前記窓側展開部6が窓9の内側に沿って下方向へ展開されるのに伴い、折り畳まれた状態にあった前記窓枠展開部7が前方へと展開されフロントピラー1の車室内面を覆うとともに、固定部材10が窓枠展開部7と窓9の間に展開し、窓枠展開部7に重合する、
エアバッグ装置。」

イ 引用文献2に記載の事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特開2004-256000号公報(以下、「引用文献2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
(ケ)
「【0010】
図2は、図1に示すように取り付けられた本発明のエアバッグが展開したときの状態を説明する図である。図2に示すように、エアバッグは、インフレータからガスが注入されて膨張し、これをカバーしているヘッドライニングを押し広げるようにして下方部に展開し、前部席用膨張室6と後部席用膨張室7とが搭乗者と窓との間に介在するように形成する。この際、前部席用膨張室用エアバッグに折り返し線Xにて折り返し重ねられていた延設部もガス注入により折り返し状態からもとの状態に復帰しながら膨張し、またテンションベルト4により車内側への不安定な動きを規制されながら、ルーフサイドレール部に対応する下方部より前方下方部に展開し、こうして搭乗者を保護する。なお、膨張室6,7の間は、非膨張部である。
【0011】
図3は、図2の状態におけるエアバッグ1の説明図である。図3において、10は主膨張部、11は延設膨張部を示し、これらが前部席用膨張室6を形成している。なお、Y線は折り返し部分の端縁線、8は非膨張部、9は導管、12はエアバッグの厚さ規制部であり、これは表裏のエアバッグ基布を縫着した部分である。・・・」
(コ)
【図2】から、カーテンエアバッグの延設膨張部11の車両前後方向の長さは、テンションベルト4より短く、膨張展開時に延設膨張部11はフロントピラーに重ならないことを看取しうる。

(3)対比・判断
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
後者の「自動車の側面衝突時にインフレータより噴出される高圧ガスにより車室内の窓9の内側に沿ってカーテン状に膨張展開されるエアバッグ5を備えたエアバッグ装置」は、前者の「側面衝突から車両の乗員を保護するために前記車両内で使用されるエアバッグモジュール」に相当する。
後者の高圧ガスを噴出する「インフレータ」は、前者の「ガスを発生するように構成されるインフレータ」に相当する。
後者の「インフレータより噴出される高圧ガスにより車室内の窓9の内側に沿ってカーテン状に膨張展開されるエアバッグ5」は、前者の「インフレータに結合され、インフレータからガスが供給されると展開するように構成されるエアバッグ」に相当する。
後者の「窓9を覆うように膨張展開される窓側展開部6」は、窓9の上方のルーフサイドレール2と内装材4との間に収納され、膨張時に窓9の内側に沿って下方向へ展開されるものであり、また、エアバッグ5全体が2枚の基布の周囲を縫製することにより袋状に形成されるものであるので、前者の「車両の室内ルーフの側面に沿って伸長し、エアバッグの展開時に車両乗員の頭部を拘束するように構成される主チャンバであって、互いに接合される内側パネル及び外側パネルを備える前記主チャンバ」に相当する。
後者の「窓周縁のフロントピラー1等の窓枠」は、前者の「Aピラー」に相当し、後者の「窓側展開部6に連続するよう一体に形成され、かつ窓周縁のフロントピラー1等の窓枠や窓枠近傍を覆うように膨張展開される窓枠展開部7」は、窓側展開部6と窓枠展開部7の境界である折り曲げ線7aで窓側展開部6に重なるように折り畳まれるものであるので、前者の「主チャンバから車両のAピラーへ伸長し、エアバッグの展開時に少なくとも車両乗員の一部を拘束するように構成される前方チャンバであって、前記エアバッグの収納時に前記主チャンバの前記内側パネル及び前記外側パネルのうちの少なくとも一つに少なくとも部分的に重ねられる前記前方チャンバ」に相当する。
後者の「一端側がエアバッグ5の折り曲げ線7aの略全長に亘って縫着され、かつ他端側がフロントピラー1に固定され」た「固定部材10」は、前者の「エアバッグをAピラーに連結するセイルパネル」に相当する。
後者は、「固定部材10」が「膨張展開した窓枠展開部7と窓9の間に展開し、窓枠展開部7に重合する」ように構成されており、後者の「窓枠展開部7」は、膨張展開時に固定部材10より車室内側に位置するものであるので、前者の「前方チャンバは、乗員がエアバッグに接触する際、セイルパネルが前方チャンバを支えるように、セイルパネルに重なるように内側に配置され」る構成を具備している。
後者の「窓枠展開部7が前方へと展開され」ることは、前者の「前方チャンバは、その高さが主チャンバの高さよりも低い位置である主チャンバの下部から前方に延伸」することと、「前方チャンバは、前記主チャンバから前方に延伸」する限りにおいて一致する。
後者の「固定部材10」の「一端側がエアバッグ5の折り曲げ線7aの略全長に亘って縫着され」との構成は、前者の「セイルパネルのエアバッグ側の端部は前方チャンバの高さ方向幅と実質的に同じ幅を有し」との構成に相当する。
そうすると、両者は、
「側面衝突から車両の乗員を保護するために前記車両内で使用されるエアバッグモジュールであって、
ガスを発生するように構成されるインフレータと、
前記インフレータに結合され、前記インフレータからガスが供給されると展開するように構成されるエアバッグと、を含み、前記エアバッグは、
前記車両の室内ルーフの側面に沿って伸長し、前記エアバッグの展開時に車両乗員の頭部を拘束するように構成される主チャンバであって、互いに接合される内側パネル及び外側パネルを備える前記主チャンバと、
前記主チャンバから前記車両のAピラーへ伸長し、前記エアバッグの展開時に少なくとも前記車両乗員の一部を拘束するように構成される前方チャンバであって、前記エアバッグの収納時に前記主チャンバの前記内側パネル及び前記外側パネルのうちの少なくとも一つに少なくとも部分的に重ねられる前記前方チャンバと、を備え、
さらに、前記エアバッグは、前記エアバッグを前記Aピラーに連結するセイルパネルを備え、前記前方チャンバは、前記乗員が前記エアバッグに接触する際、前記セイルパネルが前記前方チャンバを支えるように、前記セイルパネルに重なるように内側に配置され、
さらに、前記前方チャンバは、前記主チャンバから前方に延伸しており、前記セイルパネルの前記エアバッグ側の端部は前記前方チャンバの高さ方向幅と実質的に同じ幅を有した、
エアバッグモジュール。」
である点で一致し、次の点で相違する。
〔相違点〕
本願補正発明は、前方チャンバが「その高さが主チャンバの高さよりも低い位置である主チャンバの下部から」前方に延伸するとともに、「前方チャンバの展開時に、セイルパネルは前方チャンバよりも前方に伸長し、前方チャンバは前記Aピラーに重ならない」との構成を具備しているのに対して、引用発明は、窓枠展開部7の窓側展開部6に対する寸法は特定されておらず、固定部材10は窓枠展開部7の全長よりやや短く形成されており、窓枠展開部7はフロントピラー1の車室内面を覆うものである点。

イ 判断
上記相違点について検討する。
引用文献2には、主膨張部10に折り重ねられていた延設膨張部11を、テンションベルト4より短く、膨張展開時にフロントピラーに重ならない寸法とすることが記載されている(上記(2)イ(ケ)(コ)を参照)。
エアバッグ装置は、車両が衝突するなどした際に乗員が車内構造物へ直接ぶつかる衝撃を緩和するためのものであり、エアバッグの膨張展開時の形状は、車両衝突時の乗員の挙動に応じて、乗員が車内構造物とぶつかる箇所に定められるものと認められる。
引用発明においては、窓枠展開部7の形状は、自動車が側面衝突等した場合に乗員がフロントピラー1等の窓枠に乗員の頭部等が直接接触するのを未然に防止するために、フロントピラー1の車室内面を覆うように形成されているものであるが(上記(2)ア(キ)の段落【0032】を参照)、車両の窓枠の形状や乗員の乗車姿勢によっては、フロントピラーと接触しない場合もあることは容易に予測しうることであり、そのような場合に、窓枠展開部7の車両前後方向の寸法形状を短縮することは、引用文献2にも延設膨張部11をフロントピラーに重ならないような寸法形状とすることが例示されているように、当業者が適宜になし得る設計的事項といえる。
同様に、引用発明においては、窓枠展開部7が窓側展開部6のような窓の上部までの膨張展開を要さないことも、車両の窓枠の形状や乗員の乗車姿勢によって容易に予測しうることであり、その際に、膨張展開を要さない部分の形状を省くことは、当業者が適宜になし得る設計的事項といえる。
そうしてみると、引用発明の窓枠展開部7の寸法形状を、車両前後方向に短くし、窓側展開部6に比して高さ方向に低くすることは、当業者が適宜になし得ることといえる。
また、引用発明の固定部材10は、窓枠展開部7の折り曲げ線7aからフロンピラー1まで延び、窓枠展開部7と窓9の間に展開することで、窓枠展開部7の保護層として機能し、あるいは、展開位置を安定させるものであるので(上記(2)ア(キ)の段落【0033】を参照)、窓枠展開部7を車両前後方向に短くした結果、相対的に固定部材10が窓枠展開部7よりも前方に伸長するようになるといえる。
したがって、引用発明を、相違点に係る本願補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得ることといえる。

そして、本願補正発明の奏する作用及び効果を検討しても、引用発明から予測できる程度のものであって格別のものではない。

よって、本願補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成27年3月30日付け手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?21に係る発明は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、平成26年10月22日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?21に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2の1.アの【請求項1】に記載されたとおりのものである。

2.引用文献に記載された事項及び引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1に記載された事項及び引用発明は、前記第2の3.(2)アに記載したとおりである。
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献2に記載された事項は、前記第2の3.(2)イに記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本願補正発明から「さらに、前記前方チャンバは、その高さが前記主チャンバの高さよりも低い位置である前記主チャンバの下部から前方に延伸しており、前記セイルパネルの前記エアバッグ側の端部は前記前方チャンバの高さ方向幅と実質的に同じ幅を有し、」との限定を省き、「セイルパネル」との限定を「テザー又はセイルパネル」としたものである。
そうすると、本願発明の構成要件を全て含む本願補正発明が、前記第2の3.(3)で検討したとおり、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明(本願発明)は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-21 
結審通知日 2016-01-22 
審決日 2016-02-02 
出願番号 特願2010-43734(P2010-43734)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60R)
P 1 8・ 575- Z (B60R)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 梶本 直樹  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 櫻田 正紀
平田 信勝
発明の名称 サイドカーテンエアバッグ  
代理人 越前 昌弘  

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