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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A41B
管理番号 1316143
審判番号 不服2015-13159  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-23 
確定日 2016-06-13 
事件の表示 特願2014- 83161「小便がしやすい、カットいれパンツ」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月29日出願公開、特開2015-187322〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成26年3月26日の出願であって、平成26年10月23日付けの拒絶理由通知に対して、平成26年12月29日に意見書が提出されたが、平成27年3月18日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされた。
これに対して、平成27年6月24日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.請求項1に係る発明
「下着として用いるパンツの太ももの両脇に幅10Cmから30センチ範囲にいずれかの寸法で下部を1センチほど残しカットを入れる。又は下部までカットをしたものには下部を1Cm幅程のゴムなどでつなぐ、小便がしやすいカットいれパンツ。」(以下、「本願発明」という。)

3.原査定の理由について
原査定の拒絶の理由は、本願発明が、引用文献1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたもの、あるいは、引用文献1,2に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないというものである。

4.当審の判断
(1)引用文献記載の発明及び技術的事項
ア 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された、登録実用新案第3184517号公報(以下、原査定と同じく「引用文献1」という。)には、「下着」について、以下の技術的事項及び発明が記載されている。
(ア)「本考案は上記問題点に鑑みてなされたものであり、尿汚れを確実に防止するとともに、通常の排尿操作を容易に行うことのできる下着を提供することを目的とする。」(段落【0007】)
(イ)「図1に示すように、下着2は、股支持部10と、スリット20Sが形成された開口部20とを備える。股支持部10は、装着状態にて股部分M(図1(B)参照)を支持するものであり、下着2のうち前面側の中央部分に位置する。開口部20は、下着2の前面側において、股支持部10の左右方向の両側近傍に位置する。スリット20Sは、装着状態のまま、股部分M(図1(B)参照)を露出するためのもの、または、装着状態のまま、被装着部位及び外部の連通空間を形成するためのものである。被装着部位としては、(例えば、図1(B)に示す、そけい部Bなどがある。
このような下着2は、複数のシートをつなぎ合わせることによって形成される。図2(A)に示すように、下着2の前面側は、第1?第3シート31?33によって形成される。
・・・・
上下方向において、重なり部30Wを形成する各シート31?33の上端部と下端部には、重なる2つのシート同士が縫い付けられる縫い付けエリア30WAが形成され、中央部には、重なる2つのシート同士が互いに縫い付けられない非縫い付けエリア30WBが形成される。この非縫い付けエリア30WBにより、スリット20S(図2(A)参照)が形成される。このようにして形成されたスリット20Sは、上下方向に延びる。なお、スリット20Sは、斜め方向に延びてもよい。
ここで、第2左部分32Lは、右端部31Rの内面側に、そして、第3右部分33Rは、左端部31Lの内面側に、それぞれ位置することが好ましい。これにより、スリット20Sは、装着状態において、体の中心から外側に向かって開口する。・・・・」(段落【0013】?【0019】)
(ウ)「図1に示すようにして、下着2を装着した状態では、股支持部10が股部分Mを支持する。さらに、股支持部10を形成する股支持部用形成部31Cには、吸液性を有する吸液シート40が設けられるため、尿漏れが発生した場合であっても、吸液シート40が漏れ出した尿を吸収する。この結果、尿汚れを確実に抑えることができる。また、通常の排尿時には、股支持部10の近傍に設けられたスリット20S(図1(B)参照)から、陰茎を外部へ露出することができるため、排尿準備をスムーズに行うことができる。さらに、スリット20Sは、股支持部10の左右方向の両側に位置するため、装着者の利き腕によらずに、スムーズな排尿操作を実現できる。
・・・・
上記の下着は、男性用としてはもちろんのこと、女性用としても利用可能である。また、上記の下着は、ブリーフ、トランクスといった類に限られず、タイツ(下半身型や全身型)などでもよい。
上記の下着においては、スリット20Sを設けたが、本考案はこれに限られない。すなわち、本考案の下着において、スリット20Sに代えて、孔を設けてもよい。」(段落【0024】?【0026】)

引用文献1には、「下着」について、
上記(ア)によれば、この「下着」は「通常の排尿操作を容易に行うことができる」ものであり、
上記(イ)によれば、「下着は、股支持部と、スリットが形成された開口部とを備え」、「股支持部は、装着状態にて股部分を支持するものであり、下着のうち前面側の中央部分に位置」し、「開口部は、下着の前面側において、股支持部の左右方向の両側近傍に位置する」ことが記載され、
上記(ウ)によれば、スリットに代えて「孔」を設けてもよいことが記載されている。
よって、引用文献1には、
「下着は、股支持部と、開口部とを備え、股支持部は、装着状態にて股部分を支持するものであり、下着のうち前面側の中央部分に位置し、開口部は、下着の前面側において、股支持部の左右方向の両側近傍に位置するものであり、開口部には孔が形成され、通常の排尿操作を容易に行うことができる下着。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された、登録実用新案第3016119号公報(以下、原査定と同じく「引用文献2」という。)には、以下の技術的事項が記載されている。
(ア)「本考案は、特に男性の外着兼用下穿きパンツに関するもので、家の中での寛ぎ用又はジョギングその他の軽い運動用の外着(そとぎ)として着用し、若しくはズボンの下穿きとして着用して小用すなわち小便する際に局部を裾口から容易に出し入れできると共に用済み後は、その裾口部が簡単確実に元に戻ることができるようにしたことを目的とする。」(段落【0001】)
(イ)「・・・・図1において、1はショ-トパンツないしは短パンと呼ばれる裾口下端から胴部上端部までの高さが短いパンツ本体であり、その材質はコットン、混紡、化学繊維等の非伸縮性の柄もの又はカラ-を可とする布地から成るものである。
2はパンツ本体の両脇に所定の幅Wで形成した縦長の割り溝であり、その幅は25?45mm程度とし、裾口の下端からゴムベルト製胴部の近傍まで形成するものとする。
3は前記の割り溝2の両縁辺21に接続した複数のゴム紐であり、細い平ゴム31をパンツ本体1と共生地から成る布地32で包み、これを斜め方向に向けてその両端部を割り溝の両縁辺21に接続する。なお、図1?図4はゴム紐を×形に交差して縫着してある。また、図6は裾口下端部位をゴム帯を×形に交差してその各端部を縫着し、その×形ゴム紐の上段部位をジグザグ方向3′に縫着したものを示す。図7は裾口下端部位を図6と同様にゴム紐を×形に縫着し、その上段部位を真横方向3″に向けて縫着したものを示す。
4は前記の縦長割り溝2の両縁辺21に縫着した複数のゴム紐3の間に形成した空隙部、5はパンツ本体下端の裾口、6はパンツ本体のゴムベルト製の胴部である。」(段落【0006】)
(ウ)「上記の実施例による使用例は次の通りである。パンツ本体1を着用し、そのパンツ本体の両脇に形成されている割り溝2は、その両縁辺21がゴム紐3で接続されているが、着用者の大腿が裾11の太さ内に楽に収まる場合は、そのゴム紐3の伸縮には関係がなく、且つ割り溝幅Wには変化がない。
なお、太股が裾回りの太さより少し太い場合は、割り溝の両縁辺21を接続する各ゴム紐3が少し伸びて密着する。
この状態で小用する場合は、左右いずれかの割り溝縁辺の下端51 を中心方向に手で引っ張ると、その裾口5はゴム紐3が伸びることによって拡がり、小用のために局部の出し入れする。この場合、ゴム紐を斜め方向に割り溝の両縁辺に縫着してあることにより、当該ゴム紐の長さが真横方向の接続長さより長くなるから、その分裾口の拡がる度合いが大きくなる。
そして、小用後に縦長割り溝縁辺の下端51 の引っ張りを解除すれば、自然に元の裾口状態に戻る。この場合、ズボンの下穿きとして着用するときは、歩行中や身体を動かしているうちに、その動きに応じてゴム紐が伸縮して自然に元の裾口状態に戻る。」(段落【0007】)

(2)本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「下着」は、引用文献1の記載(上記(1)ア(ウ))によれば、ブリーフやトランクスが想定されるものであるから、本願発明の「パンツ」に相当するものといえる。
また、引用発明の「孔」は、股支持部の左右方向の両側近傍に位置させるものであり、引用文献1の記載(上記(1)ア(ウ))によれば、そこに位置させることにより、「陰茎を外部へ露出することができるため、排尿準備をスムーズに行うことができる」ようにする開口であるから、引用発明の「孔」と、本願発明の「カット」を入れたものとは、パンツの股部分の左右に、小便をしやすくするための開口を設けたものであるという限りにおいて一致する。
そうすると、本願発明と引用発明は、
「下着として用いるパンツにおいて、パンツの股部分の左右に、小便をしやすくするための開口を設けたパンツ。」について一致し、以下の点で相違する。

《相違点1》
小便をしやすくするための開口のパンツの幅方向での配置位置について、本願発明が「パンツの太ももの両脇に幅10Cmから30センチ範囲」に設けるのに対し、引用発明は「下着の前面側において、股支持部の左右方向の両側近傍に位置するもの」である点。

《相違点2》
小便をしやすくするための開口の形態について、本願発明が「いずれかの寸法で下部を1センチほど残しカットを入れる。又は下部までカットをしたものには下部を1Cm幅程のゴムなどでつなぐ」ものであるのに対し、引用発明は「孔」である点。

(3)上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
本願明細書の記載によれば、本願発明により、「小便をするときに、指先を両脇に差し込むだけで簡単に指先が股間に届き、中心の穴を探さなくても、簡単に小便ができる」(段落【0005】)という効果を奏するものである。
一方、引用発明の下着も、引用文献1の記載(上記(1)ア(ウ))によれば、「股支持部10の近傍に設けられたスリット20S(図1(B)参照)から、陰茎を外部へ露出することができるため、排尿準備をスムーズに行うことができる。さらに、スリット20Sは、股支持部10の左右方向の両側に位置するため、装着者の利き腕によらずに、スムーズな排尿操作を実現できる」ものであり、その開口としての「スリット(孔)」は、陰部両側近傍の、人の手が届きやすい位置に配置されるはずであるから、人の標準的な体型(ウエストや陰部の大きさ等)を考慮すれば、本願発明と同様に「パンツの太ももの両脇に幅10Cmから30センチ範囲」に設けられたものとすることができる。
したがって、上記相違点1に係る事項は実質的な相違点ではない。
仮に実質的な相違点であったとしても、小便をしやすくするために、下着の前面に開口としての孔を、人の体型を考慮して、「パンツの太ももの両脇に幅10Cmから30センチ範囲」に設けることは、当業者が容易になし得たものである。

イ 相違点2について
引用発明の「孔」を設けることにより、上記アで述べたように「陰茎を外部へ露出することができ」、「スムーズな排尿操作を実現できる」ものであるから、引用発明の「孔」は、下着の内側の陰茎を下着の外側に出しやすような形態をとるはずであり、下着に「孔」を設けるにあたり、その形態として「いずれかの寸法で下部を1センチほど残しカットを入れ」たものとして構成することは、当業者が適宜なし得る設計的事項であるといえる。

また、引用文献2には、パンツ本体の裾口の下端から胴部にかけて縦長の割溝を形成し、その両縁辺を伸縮自在のゴム紐で接続して、小用する際に局部を裾口から容易に出し入れできると共に用済み後は、その裾口部が簡単確実に元に戻ることができるようにしたことが記載(上記(1)イ(ア)、(イ))されており、パンツ本体の裾口から胴部にかけて縦長の割溝を形成したものの方が、孔よりも開きやすいことは明らかである。
そして、下着の開口部が開きやすい方が、より排尿操作をしやすいことも明らかであるから、引用発明の「孔」に換えて引用文献2の構成を採用して、「いずれかの寸法で」「下部までカットをしたものには下部を1Cm幅程のゴムなどでつなぐ」形態とすることも、当業者が容易に想到し得たものといえる。

ウ 請求人は、意見書(平成26年12月29日付け)において、「1 実用新案登録第3184517号との比較では20Sの代わりに孔をあけてもよいとあるがその孔では、長さが足りないと思います。又その孔の詳細な、説明がありません。」と主張する。
しかし、上記イで述べたように、引用発明の「孔」は、排尿操作を容易に行えるようにするものであって、下着の内側の陰茎を下着の外側に出すことができるような形態をとるはずであり、その長さ(大きさ)についても、請求人がいうように「長さが足りない」ということはなく、下着の内側の陰茎を下着の外側に出すことに支障がない程度の十分な長さ(大きさ)を有することは明らかである。

エ また、請求人は、審判請求書において、「パンツの前面に裾を2cm残し股間から10cmほど上まで、カットを入れました。はくことにより図1のように、大きな穴が開くことを発見しました。股間に指が簡単に届きます。」、「引用文献には、穴をあけてもよい、と記述があるだけです。本発明は、穴をあけるのではなく、履くことにより、穴が開くのです。」と主張する。
しかし、請求人の「はくことにより図1のように、大きな穴が開くことを発見しました。股間に指が簡単に届きます」との主張は、パンツの大きさと着用者のウエストの大きさとの関係で、パンツを履いた際に大きな穴が開く場合があるとしても、本願発明には、パンツの大きさと着用者のウエストの大きさとの関係等が特定されておらず、必ずしも、上記主張は、本件の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載に基づくものとはいえない。
また、上記主張が、本件の明細書、特許請求の範囲及び図面の記載に基づくものであったとしても、人の体型(ウエストの大きさ)に対してパンツが大きければ(ぶかぶかであれば)、履いた際にパンツに設けた穴は開かないし、体型に対してパンツが小さければ、パンツに設けた穴が開くことは明らかであり、引用文献1及び2の記載から、当業者が予測できる程度のことである。

オ そして、本願発明により得られる作用効果も、引用発明、または引用発明及び引用文献2記載の技術的事項から、当業者であれば予測し得る範囲のものであって格別とはいえない。
したがって、本願発明は、引用発明、または引用発明及び引用文献2記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)以上によれば、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。

なお、この審決は、特許請求の範囲、明細書及び図面の記載に基づき判断したものであって、カットパンツの実物について判断したものではありません。
 
審理終結日 2016-03-31 
結審通知日 2016-04-05 
審決日 2016-04-18 
出願番号 特願2014-83161(P2014-83161)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A41B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 一ノ瀬 薫  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 三宅 達
井上 茂夫
発明の名称 小便がしやすい、カットいれパンツ  

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