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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 A01H 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A01H |
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管理番号 | 1316155 |
審判番号 | 不服2014-10863 |
総通号数 | 200 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2016-08-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-06-10 |
確定日 | 2016-07-05 |
事件の表示 | 特願2009-163308「ダウクス属植物の育種方法、およびダウクス属植物」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月27日出願公開、特開2011- 15648、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯、本願発明 本願は、平成21年7月10日の出願であって、平成26年3月5日付けで拒絶査定され、同年6月10日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成27年9月3日付けで当審より拒絶理由通知がなされ、それに対して平成27年11月30日付けで意見書および手続補正書が提出され、平成28年2月16日付けで当審より拒絶理由通知がなされ、それに対して平成28年3月31日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成28年4月28日付けで当審より拒絶理由通知がなされ、それに対して平成28年5月11日付けで手続補正書が提出されたものである。 本願の請求項1?11に係る発明は、平成28年5月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 工程1-1 受託番号FERM P-21824で特定されるダウクス属植物を、これとは異なるダウクス属植物である黒田五寸と交配させ、次世代を得る工程、 工程1-2 該次世代を、その根部の肩部分が地上に露出するように栽培する工程、及び 工程1-3 栽培後の該次世代から、前記露出部分の着色が少ない個体を選抜する工程 を有し、 さらに、工程1-3で選抜された個体から採種して得られた次世代の栽培及び選抜を繰り返すことによって、前記特徴を固定することを特徴とする、栽培中、根部の肩部分が地上に露出しても、該露出部分が着色し難いダウクス属植物の育種方法。 【請求項2】 工程3-1 請求項1に記載の方法によって得られたダウクス属植物を、これとは異なるダウクス属植物と交配させ、次世代を得る工程、 工程3-2 該次世代を、その根部の肩部分が地上に露出するように栽培する工程、及び 工程3-3 栽培後の該次世代から、前記露出部分の着色が少ない個体を選抜する工程 を有し、 さらに、工程3-3で選抜された個体から採種して得られた次世代の栽培及び選抜を繰り返すことによって、前記特徴を固定することを特徴とする、栽培中、根部の肩部分が地上に露出しても、該露出部分が着色し難いダウクス属植物の育種方法。 【請求項3】 受託番号FERM P-21824で特定されるダウクス属植物とこれとは異なるダウクス属植物である黒田五寸との交配によって次世代を得、 該次世代を、その根部の肩部分が地上に露出するように栽培し、栽培後の次世代から、前記露出部分の着色が少ない個体を選抜し、さらに、該選抜された個体から採種して得られた次世代の栽培及び選抜を繰り返すことによって得られる、 栽培中に根部の肩部分が地上に露出しても、該露出部分が着色し難い特徴を備えるダウクス属植物。 【請求項4】 受託番号FERM P-21824で特定されるダウクス属植物と、これとは異なるダウクス属植物である黒田五寸との交配によって得られる、 栽培中、根部の肩部分が地上に露出しても、該露出部分が着色し難いダウクス属植物。 【請求項5】 受託番号FERM P-21824で特定されるダウクス属植物とこれとは異なるダウクス属植物である黒田五寸と交配させて次世代を得、該次世代を、その根部の肩部分が地上に露出するように栽培し、栽培後の次世代から、前記露出部分の着色が少ない個体を選抜し、さらに、該選抜された個体から採種して得られた次世代の栽培及び選抜を繰り返すことによって得られ、 栽培中に根部の肩部分が地上に露出しても、該露出部分が着色し難い特徴を備えるダウクス属植物を、 これとは異なるダウクス属植物と交配させて次世代を得、該次世代を、その根部の肩部分が地上に露出するように栽培し、栽培後の次世代から、前記露出部分の着色が少ない個体を選抜し、さらに、該選抜された個体から採種して得られた次世代の栽培及び選抜を繰り返すことによって得られる、 栽培中に根部の肩部分が地上に露出しても、該露出部分が着色し難い特徴を備えるダウクス属植物。 【請求項6】 受託番号FERM P-21824で特定されるダウクス属植物と、これとは異なるダウクス属植物である黒田五寸との交配によって得られ、かつ栽培中、根部の肩部分が地上に露出しても、該露出部分が着色し難いダウクス属植物と、 これとは異なるダウクス属植物との交配によって得られる、 栽培中、根部の肩部分が地上に露出しても、該露出部分が着色し難いダウクス属植物。 【請求項7】 受託番号FERM P-21824で特定されるダウクス属植物。 【請求項8】 請求項3?7のいずれか1つに記載のダウクス属植物の一部。 【請求項9】 請求項2に記載の方法によって得られたダウクス属植物を、雄性不稔のダウクス属植物と交配させ、雑種第一代の種子を得るダウクス属植物の採種方法。 【請求項10】 受託番号FERM P-21824で特定されるダウクス属植物とこれとは異なるダウクス属植物である黒田五寸とを交配させて次世代を得、該次世代を、その根部の肩部分が地上に露出するように栽培し、栽培後の次世代から、前記露出部分の着色が少ない個体を選抜し、さらに、該選抜された個体から採種して得られた次世代の栽培及び選抜を繰り返すことによって得られ、 栽培中に根部の肩部分が地上に露出しても、該露出部分が着色し難い特徴を備えるダウクス属植物を、 これとは異なるダウクス属植物と交配させて次世代を得、該次世代を、その根部の肩部分が地上に露出するように栽培し、栽培後の次世代から、前記露出部分の着色が少ない個体を選抜し、さらに、該選抜された個体から採種して得られた次世代の栽培及び選抜を繰り返すことによって得られ、 栽培中に根部の肩部分が地上に露出しても、該露出部分が着色し難い特徴を備えるダウクス属植物を、雄性不稔のダウクス属植物と交配させて得られる、雑種第一代のダウクス属植物の種子。 【請求項11】 請求項10に記載のダウクス属植物の種子の栽培によって得られたダウクス属植物又はその一部。」 (以下、まとめて「本願発明」ということがある。) 第2 当審の拒絶理由の概要 当審が平成27年9月3日付けで通知した拒絶理由の概要は、以下のとおりである。なお、平成28年2月16日付け拒絶理由及び平成28年4月28日付け拒絶理由は、いずれも軽微な記載不備を指摘するもので、平成28年3月31日付け手続補正及び平成28年5月11日付け手続補正により解消した。 1 拒絶理由1(特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号違反) 受託番号P-21824のダウクス属植物と黒田五寸とを交配して、栽培中、根部の肩部分が地上に露出しても、該露出部分が着色し難いダウクス属植物が得られることに関して、発明の詳細な説明には、両親系統を集団交配し、選抜を繰り返し行った結果、露出部分が着色していない1個体を得て、その自殖後集団採種を4世代繰り返し、選抜することで、露出部分が着色し難い形質が固定した系統を得たこと(実施例1)が記載されているのみである。両親系統はともに肩露出部分が着色する性質を有しており、実施例1で得られた着色しない個体は1個体のみであること、及び、植物の形質は、両親の遺伝的特性の組み合わせのみならず、交配、栽培、選抜の間に起きる突然変異に起因することがあるという技術常識に照らすと、実施例1で得られた着色しない個体は、突然変異により偶発的に生じたものである可能性がある。突然変異はランダムに起きるものであって、再現性が極めて低く、反復可能性が事実上ないものであるから、当業者が過度な負担無く実施できることではない。 したがって、発明の詳細な説明は、本願発明を当業者が実施することができる程度に記載したものであると認めることができない。換言すれば、特許請求の範囲の各請求項に、肩露出部分が着色し難いダウクス属植物を育種するという課題を解決するための手段が反映しているとは認めることができない。 2 拒絶理由2(特許法第36条第6項第2号違反) 平成26年6月10日付け手続補正書により補正された請求項3には、「請求項1又は2に記載の育種方法によって得られた」という製造方法により特定された「ダウクス属植物」という物の発明が記載されている。 ここで、物の発明に係る請求項に製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最判平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、同2658号)。しかしながら、不可能・非実際的事情が存在することについて、明細書等には記載がなく、また、審判請求人から主張・立証がされていないため、その存在を認める理由は見いだせない。 したがって、請求項3に係る発明は明確でない。請求項4、8及び9についても同様である。 第3 当審の判断 1 本願発明 本願の特許請求の範囲請求項1?11に係る発明は、上記第1のとおりのものであって、ダウクス属植物、いわゆるニンジンにおいて、栽培中に根部の肩部分が地上に露出されると緑色や紫色に着色し、商品価値が下がるという課題を、ともに肩露出部分が着色する系統である受託番号P-21824のダウクス属植物と黒田五寸を交配、選抜するという手段により解決できることを見出したことに基づくとされている(明細書の段落【0008】?【0009】)。 2 拒絶理由1(特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号違反)について 拒絶理由1に対して請求人が提出した平成27年11月30日付け意見書に添付された実験成績証明書には、受託番号P-21824のダウクス属植物と黒田五寸を50個体ずつ集団交配した後代に、肩露出部分が着色していない個体が3個体得られたことが記載されている。これは、受託番号P-21824のダウクス属植物と黒田五寸とを交配して肩露出部分が着色し難い個体を得ることに反復可能性があることを裏付けるものである。なお、植物の交配育種の反復可能性については、「科学的にその植物を再現することが可能であれば足り、その確率が高いことを要しないと解するのが相当である。」とされているとおりである(最判平成12年2月29日 平成10年(行ツ)第19号「黄桃の育種増殖法事件」)。 上記実験成績証明書を参酌すれば、発明の詳細な説明は、受託番号P-21824のダウクス属植物と黒田五寸とを交配することで、「栽培中、根部の肩部分が地上に露出しても、該露出部分が着色し難い」という性質を有するダウクス属植物を一定割合で得ることができることを開示していると認められるから、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえるし、特許請求の範囲の記載は発明の詳細な説明により裏付けられたものであるといえる。 したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合し、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合すると認められる。 3 拒絶理由2(特許法第36条第6項第2号違反)について 事案に鑑み、まず、請求項4について検討する。 拒絶理由2に対して、請求人は、植物交配種の遺伝子を解析することは膨大な時間と労力を要するうえ、たとえ解析したとしても、「栽培中、根部の肩部分が地上に露出しても、該露出部分が着色し難い」という特性には複数種類の遺伝子が関与していることが想定され、出願時において該遺伝子を特定することは困難を極めることであったから、請求項4記載の「ダウクス属植物」をその構造又は特性により直接特定することには不可能・非実際的事情が存在する旨主張する。 上記主張について検討するに、植物の交配育種の技術分野においては、親系統を交配して得た後代の中から選抜された特定の性質を示す個体をさらに交配し、当該性質を遺伝的に固定するのが常套手段であるところ、当該性質の基になる遺伝子を特定するには、多数の交配種それぞれの遺伝子を解析するという、膨大な時間及び労力が必要であると認められる。そのうえ、植物の特性には複数種類の遺伝子が関与していることが通常であり、本願発明のように、親系統の両方が所定の性質を有していない場合にはなおさら複数遺伝子間の複雑な相互関係が想定され、その解析には大きな困難性が予測される。よって、請求人が主張する上記事情は、出願時において物の構造を解析することが技術的に不可能であった場合に該当し、最判平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号および同2658号に判示された「不可能・非実際的事情」が存在すると認められ、請求項4に係る発明は特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえる。 また、同様の理由から、請求項3、5、6、8、10及び11に係る発明も「発明が明確であること」という要件に適合するといえる。 したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号の要件に適合すると認められる。 4 小括 以上のとおり、本願は、特許法第36条第4項第1号、同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしており、当審で通知した拒絶理由によって本願を拒絶することはできない。 第4 むすび 本願は、原査定の拒絶理由および当審の拒絶理由によって拒絶することはできず、他にも拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2016-06-20 |
出願番号 | 特願2009-163308(P2009-163308) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(A01H)
P 1 8・ 536- WY (A01H) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 水落 登希子、伊達 利奈 |
特許庁審判長 |
田村 明照 |
特許庁審判官 |
長井 啓子 山崎 利直 |
発明の名称 | ダウクス属植物の育種方法、およびダウクス属植物 |
代理人 | 新樹グローバル・アイピー特許業務法人 |