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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01J
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 H01J
管理番号 1316165
審判番号 不服2015-9665  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-25 
確定日 2016-07-19 
事件の表示 特願2010- 31602「集束イオンビーム装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月 1日出願公開、特開2011-171008、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成22年2月16日の出願であって、平成25年12月19日付けで拒絶理由が通知され、平成26年2月24日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされ、同年6月30日付けで最後の拒絶理由が通知され、同年9月8日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたが、平成27年2月20日付けで平成26年9月8日付けの手続補正について却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶査定(以下「原査定」という)がなされた。
これに対し、同年5月25日に該拒絶査定に対する不服審判が請求されるとともに同時に手続補正がなされ、当審において平成28年3月8日付けで平成27年5月25日付けの手続補正について却下の決定がなされるとともに同日付けで拒絶理由(以下「当審拒絶理由」という)が通知され、同年5月13日付けで意見書が提出されるとともに同日付けで手続補正がなされたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1?5に係る発明は、平成28年5月13日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりである。
「針状のチップと、
前記チップにガスを供給するガス供給部と、
前記チップとの間で電圧を印加し、前記チップ表面に吸着した前記ガスをイオン化してイオンを引き出す引出電極と、
前記イオンを試料に向けて加速させるカソード電極と、
を有する電界電離型イオン銃部と、
前記電界電離型イオン銃部から複数の方向に放出されたイオンビームのうち一つの方向に放出されたイオンビームのみを通過させる開口部及び当該開口部の径よりも大きい径を有する開口部を有する第二のアパーチャと、
前記第二のアパーチャよりも前記試料側に配置され、前記試料に前記イオンビームを集束させるレンズ系と、を有し、
前記レンズ系は、前記イオンビームを最初に集束させる集束レンズ電極と、対物レンズ電極と、前記集束レンズ電極と前記対物レンズ電極との間に配置された第一のアパーチャと、を有することを特徴とする集束イオンビーム装置。」


第3 原査定の理由について
1.原査定の理由の概要は、以下のとおりである。

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1-3,6
引用文献1-4
備考:
引用文献1には、電界電離型のガスイオン源装置を備え、当該イオン源装置の水平方向の位置及び傾き角を変化させることで軸合わせを行う集束イオンビーム装置の発明が記載されている。
引用文献2(特に、【0178】-【0182】,図14-図16を参照。)には、複数の開口部を有する絞りを備え、軸合わせの際に所定の大きさの開口部を選択するヘリウムイオン顕微鏡システムの発明が記載されている。
例えば、引用文献3(特に、【0018】,図2を参照。)にも記載されているとおり、複数の絞り穴を有する絞り板によりビーム電流を検出する技術は本願出願前に当業者に周知の技術である。
また、例えば、引用文献4にも記載されているとおり、引出電極及び加速電極を備えた電界電離型ガスフェーズイオン源は本願出願前に当業者に周知の技術である。
上述したとおり、複数の絞り穴を有する絞り板によりビーム電流を検出する技術は本願出願前に当業者に周知の技術であることを踏まえれば、引用文献1に記載された発明において、引用文献2に記載された発明の構成を一部採用し、ビーム電流検出用アパーチャとして、複数の開口部を有する絞りを用いる構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。
よって、請求項1-3,6に係る発明は、引用文献1-2に記載された発明、複数の絞り穴を有する絞り板によりビーム電流を検出する周知の技術、及び、引出電極及び加速電極を備えた電界電離型ガスフェーズイオン源の周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。

・請求項4-5
引用文献1-5
備考:
引用文献5には、電子源駆動部により電子源の水平方向の位置を調整し、コンデンサレンズよりも電子源側に配置されたダブルデフレクタにより電子ビームの傾きの調整することで軸合わせを行う電子線装置の発明が記載されている。
請求項4-5に係る発明は、引用文献1-2,5に記載された発明及び周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明し得たものである。

最後の拒絶理由通知とする理由
この拒絶理由通知は、最初の拒絶理由通知に対する応答時の補正によって通知することが必要になった拒絶理由のみを通知するものである。

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開平4-196407号公報
2.特表2009-517840号公報
3.特開2004-95459号公報
4.特開平7-272652号公報
5.特開平7-335158号公報

2.原査定の理由の判断
(1)引用文献の記載事項、引用発明
ア 原査定の拒絶の理由に用いられた特開平4-196407号公報(「以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。)。

(ア)「たとえば、第2図は集束イオンビーム装置の例を示す模式図である。
図中、1はガスイオン源装置でイオン源ガス導入口12によりイオン源ガスが供給される。
100は集束力ラムで概略下記のごとき構成のものである。すなわち、3は真空排気に耐えるチャンバで、排気口5からこゝには図示してない排気装置により真空排気されるようになっている。101はマイクロチャンネルプレート付き蛍光スクリーンで、前記ガスイオン源装置1から射出されるイオンビームの位置を観察するための蛍光スクリーンである。102はミラーで前記マイクロチャンネルプレート付き蛍光スクリーン101に照射されたイオンビームの輝点を反射してビューポート4を通してイオンビーム位置を観察し位置調整などを行なえるようにするためのものである。103はイオンビームを集束するための静電レンズ、104はイオンビームを一時的にずらして試料2に照射されないようにするブランキング、105はアパーチャ、106は再度イオンビームを集束するための静電レンズ、107はイオンビーム偏向器で前記の経路で集束されたイオンビームを試料2の所定の位置に正確に照射し,たとえば、その部分のエッチングを行えるようにするためのものである。6は移動ステージで試料2を載置して所望の照射エリヤに試料2を移動できるようにしている。」(第2頁左上欄第11行?右上欄第17行)

(イ)「〔実施例〕
第1図は本発明の実施例方法を説明する図である。
なお、図中に示した符号は前記の諸図面で説明したものと同等の部分については同一符号を付してあり、同等部分についての説明は重複を避け省略する。
エミッタ11として,たとえば、<111>方向の軸を有する太さが0.2?0.3mmφ,長さ6mmのタングステン線の先端部を曲率半径が20?数100nmの尖頭部をなすように加工して用いる。
先ず、第1段階としてガスイオン源装置基台17を水準器などを用いて水平にしジンバル機構16によりガスイオン源装置1を垂直にセットする。この状態でイオン源ガスを導入しないで、エミッタ11を引き出し電極19に対して負電位にしてエミッタ先端から電子を引き出す。電子の放射パターンをマイクロチャンネルプレート付き蛍光スクリーン101で観測し、できるだけ広い範囲で放射パターンが一様になるようにビーム引き出し用電源18の電圧を調整する。電子はイオンに比較して広い範囲に放出されるのでこの作業は容易である。ガスイオン源装置1を垂直に保ったまゝジンバル機構16のマイクロメータを用いて水平面内で移動させビーム電流検出用アパーチャ108に流れる電流を電流計110で検出し、その電流値が最大になったところでガスイオン源装置1の水平方向の位置を決定する。
次に、第2段階としてイオン源ガス,たとえば、ヘリウムガスをイオン源ガス導入口12から導入しエミッタ11が引き出し電極19に対して正電位になるように,すなわち、ビーム引き出し用電源18の極性を反転させて、エミッタ先端からイオンを引き出す。エミッタ11先端の(111)面から強いイオンビームが放出されるようにビーム引き出し用電源18の電圧を調整する。そして、ガスイオン源装置1の傾き角をジンバル機構16のマイクロメータを用いて変化させる。ビーム電流検出用アパーチャ108に流れる電流を電流計110で検出し、その電流値が最大になったところでガスイオン源装置1の傾き角の調整を終えれば、本発明の集束イオンビーム装置の軸合わせが完了する。
このように軸合わせされた集束イオンビーム装置ではイオンビームが集束カラム100のレンズ系に対して斜めに入射するようなことがないので、収差を小さくすることができ,したがって、、従来はイオンビームを数μm程度にしか集束できなかったのに比較して、0.1μm以下の微小径イオンビームに集束することが可能となる。」(第3頁左下欄第16行?第4頁右上欄第6行)

(ウ)第1図


(エ)第2図


(オ)第3図


(カ)第1、2図で用いられている同一の符号が同一の部材を示すことは明らかであるので、上記(ア)、(ウ)、(エ)より、第1図に示された引用文献1の集束イオンビーム装置は、ビーム電流検出用アパーチャ108の試料側に配置された、静電レンズ103と、静電レンズ106と、前記静電レンズ103と、前記静電レンズ106との間に配置されたアパーチャ105と、を有するといえる。

上記(ア)?(カ)より、引用文献1には、
「第1段階として、エミッタ11を引き出し電極19に対して負電位にしてエミッタ先端から電子を引き出し、ビーム電流検出用アパーチャ108に流れる電流を電流計110で検出し、その電流値が最大になったところでガスイオン源装置1の水平方向の位置を決定し、
第2段階として、ヘリウムガスをイオン源ガス導入口12から導入しエミッタ11が引き出し電極19に対して正電位になるように、すなわち、ビーム引き出し用電源18の極性を反転させて、エミッタ先端からイオンを引き出し、ビーム電流検出用アパーチャ108に流れる電流を電流計110で検出し、その電流値が最大になったところでガスイオン源装置1の傾き角の調整を終え、
ビーム電流検出用アパーチャ108の試料側に配置された、静電レンズ103と、静電レンズ106と、前記静電レンズ103と、前記静電レンズ106との間に配置されたアパーチャ105と、を有する集束イオンビーム装置。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。

イ 原査定の拒絶の理由に用いられた特表2009-517840号公報(「以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。)。

(ア)「【0178】
絞り224は、イオンビーム192に対して、イオンビーム192中のイオンの一部がそれを通過するように位置している。一般に、絞り224は、印加電位を有していない。一部の実施態様においては、x方向に測定される絞り224中の開口部225の幅wが、1μm以上(例えば、2μm以上、5μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上)及び/又は100μm以下(例えば、90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、50μm以下)である。特定の実施態様においては、例えば、wが1μm?100μm(例えば、5μm?90μm、15μm?50μm、20μm?50μm)である。一部の実施態様においては、y方向に測定される絞り224中の開口部225の幅が1μm以上(例えば、2μm以上、5μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上)及び/又は100μm以下(例えば、90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、50μm以下)である。特定の実施態様においては、例えば、wが1μm?100μm(例えば、5μm?90μm、15μm?50μm、20μm?50μm)である。
【0179】
絞り224は、絞り取付け部234上に位置している。絞り取付け部234は、電子制御システム170から受信する信号を制御することによって、x-y平面における絞り224の平行移動を可能にする。また、一部の実施態様において、絞り取付け部234は、イオン光学機器130の長手方向軸132に沿ってz方向における絞り224の平行移動を可能にする。更に、特定の実施態様において、絞り取付け部234は、x-y平面に対して絞り224の傾斜を可能にする。絞り224を傾けることを利用し、絞り224の長手方向軸をイオン光学機器130の長手方向軸132と軸合わせすることができる。
【0180】
一部の実施態様において、絞り224は、異なる幅wを有する複数の開口部を含むことができる。例えば、図15は、複数の開口部225a?225gを含む円板状絞り224aの(z方向に沿った)上面図である。絞り224aは、絞り224aの中心と一致する回転軸227の周りを回転するように構成される。各開口部225a?225gの中心は、回転軸227から同一の距離に位置している。従って、選択された開口部がイオンビーム192の経路に位置するように絞りディスク224aを回転し、必要に応じて、開口部のイオンビーム192との正確な軸合わせを確実にするために絞りディスク224aを平行移動させることによって、特定の大きさの絞り開口部を選択することができる。
【0181】
図16は、絞り224bを貫通する複数の開口部229a?229eを含む棒状絞り224bの(z方向に沿った)上面図である。絞り224b内の開口部を選択することで、絞りの大きさを選択することができる。この選択は、絞り224bを矢印221と平行な方向に移動させ、開口部229a?229eの一つをイオンビーム192と軸合わせすることによって行われる。
【0182】
一般に、開口部225a?225g及び229a?229eは、所望のとおりに選択できる直径を有している。一部の実施態様においては、例えば、開口部のいずれかの直径が5μm以上(例えば、10μm以上、25μm以上、50μm以上)及び/又は200μm以下(例えば、150μm以下、100μm以下)とすることができる。特定の実施態様においては、開口部225a?225g及び/又は229a?229eの直径が5μm?200μm(例えば、5μm?150μm、5μm?100μm)とすることができる。」

(イ)図15


(ウ)図16


ウ 原査定の拒絶の理由に用いられた特開2004-95459号公報(「以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。)。

(ア)「【0018】
図2は絞り板の概略図であり、図2(a)は概略断面図、図2(b)は概略上面図である。絞り板6には所定の間隔で複数の絞り穴6a?6dが設けられており、またグラウンドとの間に電流計19が設置されている。CPU22からの制御信号によってアクチュエータ18を駆動することにより、所望の絞り穴を光軸上に位置づけることができる。ここでは、アクチュエータ18を駆動して絞り板6の一つの絞り穴6bを光軸上に位置させている場合を考える。絞り板6上での一次電子線4のスポット径は絞り穴6bより大きく、一次電子線4を照射し続けると、絞り穴6bの周りの領域6pに汚れが発生する。」

(イ)図2


エ 原査定の拒絶の理由に用いられた特開平7-272652号公報(「以下「引用文献4」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。)。

(ア)「【0005】このような現象のため、電界電離型ガスフェーズイオン源を用いたイオンビーム加工装置などでは、図1に示すような構成によりエミッタの調整と引出電圧の設定を行っている。図中1はタングステンで形成されたエミッタである。このエミッタ1に接近して引出電極2が設けられている。エミッタ1と引出電極2との間には引出電圧電源3から引出電圧が印加される。4は接地電位の加速電極であり、加速電極4とエミッタ1との間には加速電源5から加速電圧が印加される。6はヘリウムガス源であり、ガス源6からのヘリウムガスは、イオン化ガスとしてエミッタ1の先端部に供給される。このエミッタ1、引出電極2、加速電極4、ガス源6などは電界電離型ガスフェーズイオン源を構成している。
【0006】イオン源から発生したイオンビームは、集束レンズ7、対物レンズ8によって集束され、被加工材料9上に細く集束されて照射される。被加工材料9に照射されるイオンビームは、偏向器10によって任意に偏向され、その結果、被加工材料には所望パターンのイオンビームによる加工が実行されることになる。」

(イ)


オ 原査定の拒絶の理由に用いられた特開平7-335158号公報(「以下「引用文献5」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。)。

(ア)「【0010】
【実施例】以下、本発明の実施例を図を参照しながら詳細に説明する。
(本発明の電子線光軸合わせ装置の実施例1の構成)以下、本発明の電子線光軸合わせ装置を電子線マイクロアナライザを例として説明する。図1は、本発明の電子線光軸合わせ装置の実施例1の構成図である。図1において、本発明の電子線光軸合わせ装置を有する電子線マイクロアナライザ1は、電子源11から出射された電子ビーム5を試料に照射して試料の表面分析を行う装置であり、本発明の電子線光軸合わせ装置は電子ビーム5を出射する電子源11と、電子ビーム5の進行方向を変更するダブルデフレクタ12と、電子ビーム5の軸方向に対置された2つのアパーチャ(上部アパーチャ14,及び下部アパーチャ15)を備えたコンデンサレンズ13と、分析室17内に設置されるとともに前記コンデンサレンズ13のアパーチャを通過した電子ビーム5を試料上に合焦させる対物レンズ16とを備えている。この内、電子源11とダブルデフレクタ12とコンデンサレンズ13は鏡筒10内に設置されて、分析室17に対して相対的な移動が可能なように構成されている。」

(イ)図1


(2)対比
本願発明と引用発明1とを対比すると、
「針状のチップと、
前記チップにガスを供給するガス供給部と、
前記チップとの間で電圧を印加し、前記チップ表面に吸着した前記ガスをイオン化してイオンを引き出す引出電極と、
を有する電界電離型イオン銃部と、
前記電界電離型イオン銃部から放出されたイオンビームを通過させる開口部を有する第二のアパーチャと、
前記第二のアパーチャよりも前記試料側に配置され、前記試料に前記イオンビームを集束させるレンズ系と、を有し、
前記レンズ系は、前記イオンビームを最初に集束させる集束レンズ電極と、対物レンズ電極と、前記集束レンズ電極と前記対物レンズ電極との間に配置された第一のアパーチャと、を有することを特徴とする集束イオンビーム装置。」の点で一致している。
他方、本願発明と引用発明1は、以下の相違点1、2で相違する。

<相違点1>本願発明が、「前記イオンを試料に向けて加速させるカソード電極」を有するのに対して、引用発明1では、カソード電極を有することは明らかでない点。

<相違点2>「第二のアパーチャ」が、本願発明では、「前記電界電離型イオン銃部から複数の方向に放出されたイオンビームのうち一つの方向に放出されたイオンビームのみを通過させる開口部及び当該開口部の径よりも大きい径を有する開口部を有する」のに対して、引用発明1の「ビーム電流検出用アパーチャ108」は、そのような構成でない点。

(3)判断
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
引用発明1においては、「ビーム電流検出用アパーチャ108に流れる電流」の「電流値が最大になったところでガスイオン源装置1の傾き角の調整を終え」るものであるから、引用発明1において、「ビーム電流検出用アパーチャ108」を複数の開口を有するようにする動機付けがない。
してみると、複数の開口を有するアパーチャを設けることが引用文献2、3に記載されているように周知技術であるとしても、引用発明1の「ビーム電流検出用アパーチャ108」を上記相違点2にかかる構成とすることは、当業者といえども、容易に想到し得たものとすることはできない。
さらに、引用文献4、5にも、上記相違点にかかる構成についての記載はない。

(4)小括
したがって、本願発明は、当業者が引用発明1及び引用文献2?5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願の請求項2?5に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、当業者が引用発明1及び引用文献2?5に記載された事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第4 当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要

理由1(新規性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2(進歩性)この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


本願発明1及び2は、引用文献A記載の発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができない。
また、本願発明3ないし6は、引用文献A記載の発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引 用 文 献 等 一 覧
引用文献A:特開2009-265352号公報

2.当審拒絶理由の判断
(1)引用文献の記載事項、引用発明
ア 当審の拒絶の理由に用いられた特表2009-517840号公報(「以下「引用文献A」という。)には、以下の事項が記載されている(下線は当審にて付与した。)。

(ア)「【0080】
図1は、気体源110と、気体電界イオン源120と、イオン光学機器130と、試料マニピュレータ140と、前面検出器150と、裏面検出器160と、通信回線172a?172fを経由して気体電界イオン顕微鏡システム100の各種要素と電気的に接続される電子制御システム170(例えば、コンピュータ等の電子処理装置)とを含む気体電界顕微鏡システム100の概念図を示す。試料180は、イオン光学機器130と検出器150、160との間にある試料マニピュレータ140の内/上に位置している。使用時には、イオンビーム192は、イオン光学機器130を通して試料180の表面181に向けられ、イオンビーム192の試料180との相互作用によって生じる粒子194が検出器150及び/又は160により測定される。
【0081】
一般に、システム100を排気することで、該システムにおける望ましくない特定の化学種の存在を低減することが好ましい。一般に、システム100の異なる要素は、異なるバックグランド圧力で維持される。例えば、約10^(-10)Torrの圧力で気体電界イオン源120を維持することができる。気体電界イオン源120中に気体を導入する場合には、バックグランド圧力が約10^(-5)Torrに上昇する。イオン光学機器130は、気体電界イオン源120中への気体の導入に先立って、約10^(-8)Torrのバックグランド圧力で維持されている。気体を導入する場合には、一般に、イオン光学機器130中のバックグランド圧力を約10^(-7)Torrに増大させる。試料180は、一般に約10^(-6)Torrのバックグランド圧力で維持される室内に位置している。この圧力は、気体電界イオン源120中の気体の存在又は不在によって、ほとんど変化しない。
【0082】
図2に示すとおり、気体源110は、気体電界イオン源120に一種以上の気体182を供給するように構成される。以下、詳細に説明されるように、気体源110は、種々の純度、流量、圧力及び温度で一種又は複数種の気体を供給するように構成できる。一般に、気体源110により供給される気体の少なくとも一種は希ガス(ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe))であり、該希ガスのイオンがイオンビーム192中の主成分であることが好ましい。一般に、試料180の表面181で測定すると、システム100中の希ガスの圧力が大きくなるので、イオンビーム192中のイオンの電流は単調に増大する。特定の実施態様において、この関係は、一定範囲の希ガス圧力について、電流は一般に気体圧力に比例して増加するという指数法則によって説明できる。作業時に、希ガスの圧力は、一般に、先端頂部(以下の記載を参照)の近傍で10^(-2)Torr以下(例えば、10^(-3)Torr以下、10^(-4)Torr以下)及び/又は10^(-7)Torr以上(例えば、10^(-6)Torr以上、10^(-5)Torr以上)である。一般に、比較的高純度の気体を使用することが好ましい(例えば、システム内の望ましくない化学種の存在を低減させる)。一例としてHeを用いる場合、Heは少なくとも純度99.99%(例えば、純度99.995%、純度99.999%、純度99.9995%、純度99.9999%)とすることができる。同様に、他の希ガスを用いる場合(Neガス、Arガス、Krガス、Xeガス)、気体の純度は高純度の商業グレードであることが好ましい。
【0083】
気体源110は、一種又は複数種の希ガスに加えて、任意に一種以上の気体を供給することができる。以下、詳細に述べるように、かかる気体の一例は窒素である。一般に、一種又は複数種の追加気体は、一種又は複数種の希ガス中における不純物のレベルを超えたレベルで存在することができるが、一種又は複数種の追加気体は、依然として気体源110により導入される気体混合物全体の少数成分を構成する。一例としてHeガス及びNeガスが気体源110によって気体電界イオン源中に導入される実施態様では、気体混合物は全体でNe20%以下(例えば、15%以下、12%以下)及び/又はNe1%以上(例えば、3%以上、8%以上)を含むことができる。例えば、気体源110によりHeガス及びNeガスを導入する実施態様においては、気体混合物は全体でNe5%?15%(例えば、8%?12%、9%?11%)を含むことができる。他の例として気体源100によりHeガス及び窒素ガスを導入する実施態様においては、気体混合物は全体で窒素1%以下(例えば、0.5%以下、0.1%以下)及び/又は窒素0.01%以上(例えば、0.05%以上)を含むことができる。例えば、気体源110によりHeガス及び窒素ガスを導入する実施態様においては、気体混合物は全体で窒素0.01%?1%(例えば、0.05%?0.5%、0.08?0.12%)を含むことができる。一部の実施態様においては、システム100に入れる前に、(例えば、気体を混合した後、その混合物を単一の注入口を通してシステム100に送出する気体マニホールドの使用によって)一種又は複数種の追加気体を一種又は複数種の希ガスと混合する。特定の実施態様においては、システム100に入れる前に、一種又は複数種の追加気体を一種又は複数種の希ガスと混合しない(例えば、分離注入口は、システム100中に各気体を注入するために使用されるが、それらの分離注入口は、気体電界イオン源120中のいずれかの元素と相互作用する前に気体が混合されるよう十分に近接している)。
【0084】
気体電界イオン源120は、気体源110から一種以上の気体182を受け取り、一種又は複数種の気体182から気体イオンを発生するように構成される。気体電界イオン源120は、先端頂部187を有する導電性先端186と、抽出部190と、任意にサプレッサとを含む。一般に、先端頂部187から試料180の表面181(図2において図示せず)までの距離は、5cm以上(例えば、10cm以上、15cm以上、20cm以上、25cm以上)及び/又は100cm以下(例えば、80cm以下、60cm以下、50cm以下)である。例えば、一部の実施態様においては、先端頂部187から試料180の表面181までの距離は、5cm?100cm(例えば、25cm?75cm、40cm?60cm、45cm?55cm)である。
【0085】
導電性先端186を各種物質で形成することができる。一部の実施態様においては、先端186が金属(例えば、タングステン(W)、タンタル(Ta)、イリジウム(Ir)、レニウム(Rh)、ニオブ(Nb)、白金(Pt)、モリブデン(Mo))で形成される。特定の実施態様においては、導電性先端186を合金で形成することができる。一部の実施態様においては、導電性先端186を異なる物質(例えば、炭素(C))で形成することができる。
【0086】
使用時には、先端186は抽出部に対して正にバイアスされ(例えば、約20kV)、抽出部190は外部接地部に対して負又は正にバイアスされ(例えば、-20kV?+50kV)、任意のサプレッサ188は先端186に対して正又は負にバイアスされる(例えば、-5kV?+5kV)。先端186は導電性物質で形成されるので、先端頂部187での先端186の電場は先端頂部187の表面から外側を向く。先端186の形状によって、その電場は先端頂
部187の近傍で最も強い。先端186の電場の強さは、例えば、先端186に印加した正の電圧を変化させることによって調整できる。この構成の場合、気体源110によって供給されるイオン化していない気体原子182はイオン化され、先端頂部187の近傍において正に帯電したイオンになる。正に帯電したイオンは、イオンビーム192として正に帯電したイオンを先端186からイオン光学機器130中に向けるように、正に帯電した先端186によって同時に弾き出され、負に帯電した抽出部190により引き付けられる。サプレッサ188は、先端186と抽出部190間の電場全体を制御するのに役立ち、その結果、正に帯電したイオンの先端186からイオン光学機器130への軌道を制御するのに役立つものである。一般には、正に帯電したイオンを先端頂部187で作り出す速度や、正に帯電したイオンを先端186からイオン光学機器130に移送する効率を制御することで、先端186と抽出部190間の電場全体を調整することができる。」

(イ)「【0172】
C.イオン光学機器
図14を参照すると、イオンビーム192は、気体電界イオン源120から入口開口部133を通ってイオン光学機器130に入る。最初、イオンビーム192は第一レンズ216を通過する。第一レンズ216の位置及び電位は、通常、イオンビーム192を交差点Cに集束するように選択され、ここで、点Cはz方向に測定される絞り224からの距離pである。一般に、第一レンズ216は、z方向に測定される入口開口部133からの距離fに位置している。一部の実施態様においては、距離fが5mm以上(例えば、10mm以上、15mm以上)及び/又は30mm以下(例えば、25mm以下、20mm以下)である。
【0173】
一般に、第一レンズ216を先端186に対し正又は負にバイアスすることができる。一部の実施態様においては、第一レンズ216に印加される電位が、先端186に対して-30kV以上(例えば、-20kV以上、-10kV以上)及び/又は40kV以下(例えば、30kV以下、20kV以下、15kV以下、10kV以下)である。
【0174】
一般に、距離pは1mm以上(例えば、5mm以上、10mm以上)及び/又は100mm以下(例えば、70mm以下、50mm以下、30mm以下、20mm以下)とすることができる。点Cの位置の変更は、x方向及び/又はy方向における絞り224の位置でのイオンビーム192の大きさを変えることができ、絞り224を通過するイオンビーム192中のイオンの画分を選択的に制御することができる。図14では、絞り224より更に-z方向に位置するように示されるが、一部の実施態様において、交差点Cは、絞り224より更に+z方向に位置することができる。
【0175】
軸合わせ偏向器220及び222は、イオンビーム192の一部を方向付けて絞り224及び第二レンズ226を通過するように構成される。種々のデザイン及び/又は部品を用いて偏向器を組み立てることができる。一部の実施態様においては、例えば、偏向器220及び222がそれぞれ四重極電極とすることができ、二つの四重極電極が連続して配置されている。
【0176】
偏向器220及び222は、それぞれがx方向及びy方向の双方にイオンビーム192を偏向することができる。偏向器220及び222の電極に印加される電位を調整し、イオンビーム192の一部が絞り224及び第二レンズ226の両方を通過することを確実にすることができる。特定の実施態様においては、偏向器220及び222に印加される電位を調整して特定の軸合わせの状態を達成し、その後、電位は、顕微鏡システム200が作動中である間、変化しないままである。例えば、絞り224を画像化できるように構成される適切な検出器を用いてイオンビーム192を観察することで、絞り224を通るイオンビーム192の軸合わせを評価する。また、偏向器220及び222を調整することができ、その結果、絞り224を通過するイオンビーム192の一部を第二レンズ226の長手方向軸と軸合わせする。第二レンズ226を通るイオンビーム192の軸合わせを評価するため、第二レンズ226に印加される電位を変更することができ(通常、ぶれと称される)、その結果を画像検出器で観察する。第二レンズ226に印加される変化電位の結果として、イオンビーム192の画像が大きさにおいて変化するが位置において変化しない場合、そのときのイオンビーム192は、第二レンズ226を通して軸合わせされる。イオンビーム192の中心位置が変化電位の結果として変化する場合、そのときのイオンビーム192を第二レンズ226と軸合わせしない。この場合、偏向器222及び/又は220に印加される電位を更に調整することができ、軸合わせが達成されるまでぶれ試験を反復して繰り返し行う。
【0177】
一般に、軸合わせ偏向器220及び222の各種電極素子に印加される電位は、所望のとおりに選択され、イオンビーム192の絞り224及び第二レンズ226に対する特定位置への偏向を作り出す。偏向器220及び222の各電極を、共通の外部接地部に対して正又は負にバイアスすることができる。一般に、任意の電極に印加される電位は、共通の外部接地部に対して100V以下(例えば、75V以下、50V以下)及び/又は10V以上(例えば、25V以上、40V以上)とすることができる。例えば、作動時に、偏向器220及び222の任意の電極に印加される電位は、共通の外部接地部に対して10V?100V(例えば、10V?75V、10V?50V)とすることができる。
【0178】
絞り224は、イオンビーム192に対して、イオンビーム192中のイオンの一部がそれを通過するように位置している。一般に、絞り224は、印加電位を有していない。一部の実施態様においては、x方向に測定される絞り224中の開口部225の幅wが、1μm以上(例えば、2μm以上、5μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上)及び/又は100μm以下(例えば、90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、50μm以下)である。特定の実施態様においては、例えば、wが1μm?100μm(例えば、5μm?90μm、15μm?50μm、20μm?50μm)である。一部の実施態様においては、y方向に測定される絞り224中の開口部225の幅が1μm以上(例えば、2μm以上、5μm以上、10μm以上、15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上)及び/又は100μm以下(例えば、90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、50μm以下)である。特定の実施態様においては、例えば、wが1μm?100μm(例えば、5μm?90μm、15μm?50μm、20μm?50μm)である。
【0179】
絞り224は、絞り取付け部234上に位置している。絞り取付け部234は、電子制御システム170から受信する信号を制御することによって、x-y平面における絞り224の平行移動を可能にする。また、一部の実施態様において、絞り取付け部234は、イオン光学機器130の長手方向軸132に沿ってz方向における絞り224の平行移動を可能にする。更に、特定の実施態様において、絞り取付け部234は、x-y平面に対して絞り224の傾斜を可能にする。絞り224を傾けることを利用し、絞り224の長手方向軸をイオン光学機器130の長手方向軸132と軸合わせすることができる。
【0180】
一部の実施態様において、絞り224は、異なる幅wを有する複数の開口部を含むことができる。例えば、図15は、複数の開口部225a?225gを含む円板状絞り224aの(z方向に沿った)上面図である。絞り224aは、絞り224aの中心と一致する回転軸227の周りを回転するように構成される。各開口部225a?225gの中心は、回転軸227から同一の距離に位置している。従って、選択された開口部がイオンビーム192の経路に位置するように絞りディスク224aを回転し、必要に応じて、開口部のイオンビーム192との正確な軸合わせを確実にするために絞りディスク224aを平行移動させることによって、特定の大きさの絞り開口部を選択することができる。
【0181】
図16は、絞り224bを貫通する複数の開口部229a?229eを含む棒状絞り224bの(z方向に沿った)上面図である。絞り224b内の開口部を選択することで、絞りの大きさを選択することができる。この選択は、絞り224bを矢印221と平行な方向に移動させ、開口部229a?229eの一つをイオンビーム192と軸合わせすることによって行われる。
【0182】
一般に、開口部225a?225g及び229a?229eは、所望のとおりに選択できる直径を有している。一部の実施態様においては、例えば、開口部のいずれかの直径が5μm以上(例えば、10μm以上、25μm以上、50μm以上)及び/又は200μm以下(例えば、150μm以下、100μm以下)とすることができる。特定の実施態様においては、開口部225a?225g及び/又は229a?229eの直径が5μm?200μm(例えば、5μm?150μm、5μm?100μm)とすることができる。」

(ウ)図1


(エ)図2


(オ)図13


(カ)図14


(キ)図15


(ク)図16


上記(ア)?(ク)より、引用文献Aには、
「気体源110と、気体電界イオン源120と、イオン光学機器130と、試料マニピュレータ140と、前面検出器150と、裏面検出器160と、通信回線172a?172fを経由して気体電界イオン顕微鏡システム100の各種要素と電気的に接続される電子制御システム170とを含む気体電界顕微鏡システム100であって、
気体源110によって供給されるイオン化していない気体原子182はイオン化され、先端頂部187の近傍において正に帯電したイオンになり、正に帯電したイオンは、イオンビーム192として正に帯電したイオンを先端186からイオン光学機器130中に向けるように、正に帯電した先端186によって同時に弾き出され、負に帯電した抽出部190により引き付けられ、
イオンビーム192は、イオン光学機器130を通して試料180の表面181に向けられ、
イオンビーム192は第一レンズ216を通過し、
軸合わせ偏向器220及び222は、イオンビーム192の一部を方向付けて、異なる幅wを有する複数の開口部を含む絞り224及び第二レンズ226を通過するように構成される、
気体電界イオン顕微鏡システム100」の発明(以下「引用発明A」という。)が記載されている。

(2)対比
本願発明と引用発明Aとを対比すると、
「針状のチップと、
前記チップにガスを供給するガス供給部と、
前記チップとの間で電圧を印加し、前記チップ表面に吸着した前記ガスをイオン化してイオンを引き出す引出電極と、
を有する電界電離型イオン銃部と、
前記試料に前記イオンビームを集束させるレンズ系と、を有し、
前記レンズ系は、前記イオンビームを最初に集束させる集束レンズ電極と、対物レンズ電極と、前記集束レンズ電極と前記対物レンズ電極との間に配置された第一のアパーチャと、を有することを特徴とする集束イオンビーム装置。」の点で一致している。
他方、本願発明と引用発明Aは、以下の相違点A、B、Cで相違する。

<相違点A>本願発明が、「前記イオンを試料に向けて加速させるカソード電極」を有するのに対して、引用発明Aでは、カソード電極を有することは明らかでない点。

<相違点B>本願発明では、「前記電界電離型イオン銃部から複数の方向に放出されたイオンビームのうち一つの方向に放出されたイオンビームのみを通過させる開口部及び当該開口部の径よりも大きい径を有する開口部を有する第二のアパーチャ」「を有する」のに対して、引用発明Aはそのようなアパーチャを有しない点。

<相違点C>「レンズ系」が、本願発明では、「前記第二のアパーチャよりも前記試料側に配置され」るのに対して、引用発明Aの「第一レンズ216」、「第二レンズ226」は、第二のアパーチャとの関係で配置が特定されない点。

(3)判断
事案に鑑み、上記相違点Bについて検討する。
引用発明Aの「イオン光学機器130」は「異なる幅wを有する複数の開口部を含む絞り224」を有するものであるから、さらに第二のアパーチャを設ける動機付けがない。
してみると、複数の開口を有するアパーチャを設けることが周知技術であるとしても、引用発明Aにおいて上記相違点Bにかかる構成とすることは、当業者といえども、容易に想到し得たものとすることはできない。

(4)小括
したがって、本願発明は、引用発明Aであるとはいえず、また、当業者が引用発明A及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたともいえない。
本願の請求項2?5に係る発明は、本願発明をさらに限定したものであるので、本願発明と同様に、引用発明Aであるとはいえず、当業者が引用発明A及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたともいえない。
よって、当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。


第5 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶理由及び当審の拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2016-07-04 
出願番号 特願2010-31602(P2010-31602)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (H01J)
P 1 8・ 121- WY (H01J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小野 健二桐畑 幸▲廣▼  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 井口 猶二
土屋 知久
発明の名称 集束イオンビーム装置  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  

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