• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01F
管理番号 1316201
審判番号 不服2015-4288  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-04 
確定日 2016-06-23 
事件の表示 特願2010-187690「圧粉磁心、磁心用粉末およびそれらの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 3月 8日出願公開、特開2012- 49203〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成22年8月24日に特許出願をしたものであって、平成26年2月18日付けの拒絶理由の通知に対し、同年4月24日付けで手続補正がなされたが、同年12月9日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、平成27年3月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされると共に手続補正がなされたが、同年11月30日付けの当審による拒絶理由の通知に対し、平成28年1月27日付けで手続補正がなされた。


2.本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明のうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年1月27日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
軟磁性粒子と、
加熱硬化型のシリコーン樹脂からなり該軟磁性粒子の表面を被覆する第1被覆層と、
該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低軟化点ガラスからなり該第1被覆層の表面を被覆する第2被覆層と、
を備えることを特徴とする圧粉磁心。」


3.引用例
(1)平成27年11月30日付け拒絶理由通知で引用した特開2009-130286号公報(以下、「引用例1」という。)には、「高強度高比抵抗複合軟磁性材の製造方法及び電磁気回路部品」について、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0001】
本発明は、モータ、アクチュエータ、リアクトル、トランス、チョークコア、磁気センサコアなどの各種電磁気回路部品の素材として使用される高強度高比抵抗複合軟磁性材とその製造方法及び電磁気回路部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ、アクチュエータ、磁気センサなどの磁心用材料として、鉄粉末、Fe-Al系鉄基軟磁性合金粉末、Fe-Ni系鉄基軟磁性合金粉末、Fe-Cr系鉄基軟磁性合金粉末、Fe-Si系鉄基軟磁性合金粉末、Fe-Si-Al系鉄基軟磁性合金粉末、Fe-Co系鉄基軟磁性合金粉末、Fe-Co-V系鉄基軟磁性合金粉末、Fe-P系鉄基軟磁性合金粉末(以下、これらを軟磁性粒子と総称する)を焼結して得られた軟磁性焼結材が知られている。
一方、鉄粉末や合金粉末をガス又はアトマイズ法で粉末化して作製した場合、鉄粉末や合金粉末は単体では比抵抗が低いため、鉄粉末や合金粉末の表面に絶縁皮膜の被覆を行うか、有機化合物を混合するなどして焼結を防止し比抵抗を上げるなどの対策を講じている。
この種の軟磁性材において、渦電流損失を抑制するために、鉄を含む金属磁性粒子の表面を非鉄金属の下層被膜と無機化合物を含む絶縁膜とで覆った圧粉軟磁性材料などが提案されている。」

イ.「【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記目的を達成するために本発明の高強度高比抵抗複合軟磁性材の製造方法は、軟磁性粒子を絶縁皮膜で被覆してなる絶縁被覆軟磁性粒子と、粒径2nm?200nmの低融点ガラスの原料粉末粒子を混合して圧密し、焼成処理することにより、前記原料粉末粒子を焼成してなる低融点ガラスの境界層を介して前記複数の絶縁被覆軟磁性粒子を結合してなる高強度高比抵抗複合軟磁性材を製造することを特徴とする。
本発明では絶縁被覆軟磁性粒子に対して粒径2nm?200nmの低融点ガラスの原料粉末粒子を複数混合して圧密し、焼成するので、隅々の軟磁性粒子の周囲まで低融点ガラスの原料が行き渡る結果として、隅々の軟磁性粒子の周囲まで低融点ガラスの境界層が形成される。このため、強度的に弱い部分が生じ難くなるので、高強度高比抵抗の軟磁性材を得ることができる。前記低融点ガラスの原料粉末の粒径は、より好ましくは2nm?100nmである。」

ウ.「【発明の効果】
【0013】
本発明の高強度高比抵抗複合軟磁性材によれば、絶縁被覆軟磁性粒子が個々の絶縁皮膜で被覆された上に、低融点ガラスの粒界層を介し結合されているので、粒界層部分での結合力に優れ、高強度な複合軟磁性材が得られる。
また、粒界層が均一であり、かつ、軟磁性粒子が個々に確実に絶縁被覆されているので、粒界層が高比抵抗の状態とされる結果、軟磁性焼成材として高抵抗化ができており、渦電流損失も抑制することができる。」

エ.「【0025】
図1はMg含有酸化物被覆軟磁性材を製造する場合において、原料を準備するための最初の工程から、最終処理するまでの工程順の一例を記載したもので、図1の工程S1において用意した原料としての軟磁性合金粉末の原料(例えば純鉄粉末)を工程S2において前酸化して表面酸化し、工程S3においてMgを蒸着し、工程S4において別途用意した低融点ガラス原料粉末(粒子)1と混合した後、工程S5において乾燥し、工程S6において成形し、工程S7において焼成処理することにより、先に説明した如く本発明に係る高強度高比抵抗複合軟磁性材を得ることができる。
なお、前述の混合を行う工程S4においては、1つの例として、低融点ガラス原料混合粉末1をエタノールなどの有機溶媒中において超音波振動を付加してエタノール中に均一分散し、この有機溶媒中に前述のMg-Fe-O三元系酸化物堆積膜を形成した絶縁被覆軟磁性粒子を投入し、この後の工程S5において乾燥する方法でも良いし、前述のMg-Fe-O三元系酸化物堆積膜を形成した絶縁被覆軟磁性粒子と低融点ガラス原料混合粉末1を直接混合しても良い。なお、このような乾式で直接混合する方法を採用する場合、工程S5の加熱し乾燥する工程は必要がない。
以上説明した工程S1?S7において選択するべき各種の条件は前述した条件、あるいは後述する条件が好ましい。」

オ.「【0029】
なお、軟磁性粒子の表面に被覆する絶縁皮膜は先のMg-Fe-O三元系酸化物堆積膜に限るものではなく、リン酸塩皮膜、酸化ケイ素皮膜、酸化アルミニウム皮膜等であっても良い。」

上記記載事項から、引用例1には以下のことが記載されている。

・上記イ、エによれば、高強度高比抵複合抗軟磁性材は、軟磁性粒子、該軟磁性粒子を被覆する絶縁皮膜、複数の該絶縁皮膜で被覆された軟磁性粒子(絶縁被覆軟磁性粒子)を結合する低融点ガラスから構成されるものである。低融点ガラスは絶縁被覆軟磁性粒子と混合されるから、低融点ガラスは絶縁皮膜を被覆するものであり、「軟磁性粒子、絶縁皮膜、低融点ガラス」の順(層)で構成されるものである。

・上記イ、ウ、エによれば、低融点ガラスは、軟磁性粒子成形後の焼成によって、隅々の絶縁被覆軟磁性粒子の周囲にまで行き渡るのであるから、少なくとも焼成温度以下の軟化点を有したものである。

そうすると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「軟磁性粒子と、
該軟磁性粒子を被覆する絶縁皮膜と、
軟磁性粒子成形後の焼成温度以下の軟化点を有し、該絶縁皮膜を被覆する低融点ガラスと、
を備えることを特徴とする高強度高比抵抗複合軟磁性材。」


(2)平成27年11月30日付け拒絶理由通知で引用した特開平11-126721号公報(以下、「引用例2」という。)には、「圧粉磁心の製造方法」について、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

カ.「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、チョークコイル等に用いられる圧粉磁心の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、強磁性粉に熱硬化性樹脂よりなるバインダーを混合した後、所定形状に成形する圧粉磁心の製造方法がよく知られている。
【0003】従来は、鉄や鉄合金もしくはフェライト等の強磁性粉と、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂よりなるバインダーとを混合し、バインダーによって被覆された強磁性粉を金型内に充填し、圧縮成形して成形体を形成していた。」

上記カによれば、圧粉磁心において、「強磁性粉に熱硬化性のシリコーン樹脂を被覆する」技術事項が記載されている。


(3)平成27年11月30日付け拒絶理由通知で引用した特開2006-24869号公報(以下、「引用例3」という。)には、「圧粉磁心およびその製造方法」について、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

キ.「【0036】
(2)絶縁被膜
磁性粉末の表面を被覆する絶縁被膜は、圧粉磁心の比抵抗を高め、その渦電流損失を低減させる。絶縁被膜が厚いほど、圧粉磁心の比抵抗は大きくなる。しかし、絶縁被膜があまり厚いと、圧粉磁心の磁束密度は低下する。圧粉磁心の磁束密度と比抵抗とを確保する観点から、膜厚は、10?100nmさらには10?50nmであると好ましい。その存在割合を質量%でいうなら、絶縁被膜は、圧粉磁心全体を100質量%としたときに、0.1?0.3質量%であると好ましい。これを体積%に換算すると、圧粉磁心全体を100体積%としたときに絶縁被膜は1?3体積%さらには1.5?2.5体積%であると好ましい。なお、言うまでもないことであるが、絶縁被膜は本来、粉末粒子の一粒一粒毎に形成されていることが理想的である。しかし、実際には、当然に、数個の粒子が固まった状態でその周りに絶縁被膜が形成されていることもあり、このような状態も本発明の想定するところである。
【0037】
絶縁被膜には、酸化被膜、リン酸塩被膜、樹脂被膜(シリコーン樹脂、アミド樹脂、イミド樹脂、フェノール樹脂等の被膜)がある。本発明の絶縁被膜はいずれでも良いが、耐熱性を考慮すると、酸化被膜やリン酸塩被膜が好ましい。
【0038】
酸化被膜には、代表的なSiO_(2)被膜の他、Al_(2)O_(3)被膜、TiO_(2)被膜、ZrO_(2)、これらの複合酸化物系絶縁被膜(FeSiO_(3)、FeAl_(2)O_(4)、NiFe_(2)O_(4)などの被膜)等がある。磁性粉末がSiを0.3?1.5質量%含有する場合、SiO_(2)被膜は磁性粉末の表面酸化によっても形成され得る。しかし、所定量のSiO_(2)被膜を磁性粉末の表面に確実に設けるには、シリコーン樹脂を用いると良い。
【0039】
シリコーン樹脂は、シロキサン結合を備えた合成樹脂である。シリコーン樹脂被膜は、それ自体、バインダや絶縁被膜として機能する。しかし、それを高温加熱(700?900℃)すると、耐熱性に優れたSiO_(2)被膜に変化する。なお、シリコーン樹脂の加熱は、圧粉磁心の成形後に行うのが好ましい。成形後に加熱することで、SiO_(2)被膜の形成と併せて、成形時に導入された粉末成形体(磁性粉末)内の残留歪みまたは残留応力が除去され、保磁力やヒステリシス損失の少ない圧粉磁心が得られるからである。
・・・(中略)・・・
【0053】
シリコーン樹脂には、加熱して硬化するタイプ(加熱硬化型)と、室温においても硬化が進行するタイプ(室温硬化型)とあるがいずれでも良い。加熱硬化型シリコーン樹脂の硬化機構には、大別して、脱水縮合反応、付加反応、過酸化物反応等によるものがあり、室温硬化型シリコーン樹脂の硬化機構には、脱オキシム反応、脱アルコール反応によるものがある。本発明で使用するシリコーン樹脂はそれらのいずれでも良い。」

上記キによれば、圧粉磁心において、「磁性粉末の表面に熱硬化性のシリコーン樹脂を被覆する」技術事項が記載されている。


4.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「高強度高比抵抗複合軟磁性材」は、上記イ及びエによれば、軟磁性粒子を成形(圧密)しているものであり、上記アによれば、背景技術はモータ、アクチュエータ、トランスなどに使用される圧粉軟磁性材料に関するものであり、また、本願発明と同様に「高強度、高比抵抗」を目的としたものであるから、本願発明の「圧粉磁心」に相当する。
そして、引用発明の「軟磁性粒子」は、本願発明の「軟磁性粒子」に相当する。

b.引用発明の「該軟磁性粒子を被覆する絶縁皮膜」は、本願発明の「該軟磁性粒子の表面を被覆する第1被覆層」に相当する。
但し、第1被覆層について、本願発明は「加熱硬化型のシリコーン樹脂」からなるのに対し、引用発明にはそのような特定がされていない。

c.引用発明の「焼成」とは、絶縁皮膜を被覆した軟磁性粒子と低融点ガラスとを混合し成形(圧密)した後に所定の温度(引用例1の段落【0024】;非酸化性雰囲気において300℃?1000℃、例えば650℃。)で行う処理であるから、本願発明の「焼鈍」(本願明細書の段落【0053】;不活性雰囲気において400?900℃さらには500?780℃。)に相当する。
よって、引用発明の「該軟磁性粒子成形後の焼成温度よりも低い軟化点を有し、該絶縁皮膜を被覆する低融点ガラス」は、本願発明の「該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低軟化点ガラスからなり該第1被覆層の表面を被覆する第2被覆層」に相当する。

上記aないしcより、本願発明と引用発明とは以下の点で一致ないし相違する。

<一致点>
「軟磁性粒子と、
該軟磁性粒子の表面を被覆する第1被覆層と、
該軟磁性粒子の焼鈍温度よりも低い軟化点を有する低軟化点ガラスからなり該第1被覆層の表面を被覆する第2被覆層と、
を備えることを特徴とする圧粉磁心。」

<相違点>
第1被覆層について、本願発明は「加熱硬化型のシリコーン樹脂」からなるのに対し、引用発明にはそのような特定がされていない。

そこで、上記相違点について検討する。
本願明細書によると、第1被覆層としてシリコーン樹脂を用いる格別な技術的意義の記載は認められず(段落【0018】に、シリコーン樹脂と低軟化点ガラスとの濡れ性・密着性が向上するという、共にSiを含めば奏し得る一般的な技術的意義しか認められず)、段落【0007】に記載されているように、シリコーン樹脂と低軟化点ガラスとの組み合わせはそもそも従来から知られており、また、段落【0016】に記載されているように、シリコーン樹脂ではなくて二酸化ケイ素を使用しても良いものである。(引用例1も、上記「2.(1)のオ」にあるように、酸化ケイ素を使用しても良い旨の記載がある。) そうすると、第1被覆層の選択は、比抵抗を安定にする(軟磁性粒子の周囲に絶縁層を被覆する)ものであれば良いのであって、シリコーン樹脂はその一例に過ぎないものと認められる。
一方、軟磁性粒子を「加熱硬化型のシリコーン樹脂」で被覆することは、引用例2(上記3.(2)を参照。)、引用例3(上記3.(3)を参照。)に記載されているように周知であり、更には、第1層目の絶縁被覆としてシリコーン樹脂を使用することも、例えば特開2009-16539号公報(段落【0029】、【0030】、【0034】、図1を参照。)に記載されているように普通に行われている技術事項である。
よって、引用発明の第1被覆層として、周知技術を適用して相違点の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

したがって、本願発明は、引用発明および周知技術により当業者が容易になし得たものである。

そして、本願発明の作用効果も、引用発明および周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。


5.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-12 
結審通知日 2016-04-19 
審決日 2016-05-09 
出願番号 特願2010-187690(P2010-187690)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小池 秀介五貫 昭一  
特許庁審判長 森川 幸俊
特許庁審判官 井上 信一
酒井 朋広
発明の名称 圧粉磁心、磁心用粉末およびそれらの製造方法  
代理人 森岡 正往  
代理人 森岡 正往  
代理人 特許業務法人SANSUI国際特許事務所  
代理人 特許業務法人SANSUI国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ