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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A63F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A63F
管理番号 1316276
審判番号 不服2015-4995  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-16 
確定日 2016-06-24 
事件の表示 特願2010- 90567「遊技機」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月 4日出願公開、特開2011-217955〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年4月9日の出願であって,平成25年12月4日付けで手続補正がなされたが,平成26年4月10日付け(発送日:平成26年4月16日)で最後の拒絶理由通知がなされ,これに対し平成26年6月16日付けで手続補正がなされたが,平成26年11月27日付け(発送日:平成26年12月17日)で補正の却下の決定がなされるとともに拒絶査定がなされ,これに対して,平成27年3月16日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1.本件補正の概要
平成26年6月16日付けの手続補正は,既に補正の却下の決定がなされている。そして,本件補正は特許請求の範囲の請求項1から2の記載を含む補正であり,平成25年12月4日付けの手続補正と本件補正の特許請求の範囲の請求項1の記載はそれぞれ,以下のとおりである(下線部は,補正箇所を示す。)。

(補正前:平成25年12月4日付け手続補正)
「【請求項1】
遊技球が流下する遊技領域を備え,
前記遊技領域の内外において遊技球と接触し得る部位の少なくとも一部が,金属と同等または実質的に同等の光沢を呈し得る光沢層と,該光沢層を外部から視認可能に覆う透過層とが積層された構造を有し,
前記光沢層が,屈折率の異なる複数種類の樹脂を積層して得られた層となっていることを特徴とする遊技機。」

(補正後:本件補正である平成27年3月16日付け手続補正)
「【請求項1】
遊技球が流下する遊技領域を備え,
前記遊技領域の内外において遊技球と接触し得る部位の少なくとも一部が,金属と同等または実質的に同等の光沢を呈し得る光沢層と,該光沢層を外部から視認可能に覆う透過層とが積層された構造を有し,
前記光沢層が,屈折率の異なる複数種類の樹脂を積層して得られた層となっており,
前記光沢層と透過層との積層構造が,その上を遊技球が転動する部位に設けられていることを特徴とする遊技機。」

2.補正の適否
補正後の請求項1は,補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「前記遊技領域の内外において遊技球と接触し得る部位の少なくとも一部」として「その上を遊技球が転動する部位」が含まれていることを特定することにより,請求項1の記載を限定するものである。
そして,補正後の請求項1に記載された発明は,補正前の請求項1に記載された発明と,産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので,本件補正は,特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当する。
そして,本件補正は新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで,本件補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。) が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,すなわち,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか否か,について以下に検討する。

(1)刊行物に記載された事項
(1-1)刊行物1
本願の出願日前に頒布された特開2007-105263号公報(以下,「刊行物1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

(ア)「【0024】
A-2.遊技盤の構成 :
図2は,遊技盤10の盤面構成を示す説明図である。前述したように,遊技盤10は中枠3の前面側に着脱可能に取り付けられている。図2に示すように,遊技盤10の中央には,外レール14と内レール15とによって囲まれた略円形状の遊技領域11が形成されている。
【0025】
遊技領域11の略中央には中央装置26が設けられており,また,遊技領域11の下方部分には変動入賞装置18が設けられ,そして,中央装置26と変動入賞装置18との間には始動口(普通電動役物)17が設けられている。始動口(普通電動役物)17は,左右に一対の翼片部が開閉可能に構成されたいわゆるチューリップ式の始動口である。始動口17の内部には,遊技球の通過を検出する始動口(普通電動役物)スイッチ17s(図5参照)と,翼片部を作動させるための普通電動役物(始動口)ソレノイド17m(図5参照)とが備えられている。一対の翼片部が左右に開くと,遊技球の入球可能性が大きくなる開放状態となり,一対の翼片部が直立して,遊技球の入球可能性が小さくなる通常状態となる。
【0026】
中央装置26のほぼ中央には,演出表示装置27が設けられている。演出表示装置27は,キャラクタ図柄や背景図柄などの種々の演出用図柄を変動停止表示することが可能となっている。また,中央装置26の下方には,遊技球を始動口17またはそれ以外に振り分けるステージ32が設けられている。中央装置26の左側には,ワープ通路25が設けられており,遊技盤10を流下する遊技球を,ワープ通路25を介してステージ32に導くことが可能となっている。なお,演出表示装置27の画面上で表示される各種図柄については後述する。」

(イ)「【0055】
C-1.ステージの構成 :
図9は,ステージ32の形状を示す斜視図である。図9に示すように,ステージ32は透明なプラスチック材料によって形成されており,上面には略W字形状の遊動面310が設けられている。図2を用いて前述したようにワープ通路25から取り込まれた遊技球はステージ32の遊動面310で往復動を繰り返し,遊動面310の中央に設けたれた窪み320に捉えられると,遊動面310から落下して,真下に設けられた始動口17に入球する。一方,窪み320で捉えられずに往復動を繰り返していると,やがて略W字形状をした遊動面310の谷の部分から落下する。従って,ステージ32の遊動面310上で往復動する遊技球が窪み320の部分から落下したときだけ,始動口17に入球し易く,他の部分から落下したときには,遊技球が始動口17に入球することは比較的少ない。このようにしてステージ32の遊動面310では,遊技球が振り分けられるようになっている。」
・・・
【0057】
C-2.遊動面の断面構造 :
図10は,第1実施例における遊動面310の断面構造と,その構造による作用とを説明するための説明図である。図10(a)は,遊技球が遊動する遊動面310の断面構造を示す拡大断面図である。図に示すように,ステージ32の遊動面310の断面構造は,所定間隔で凹部502と凸部504とが形成された金属部材510と,その金属部材510に密着させた透明な樹脂520とから構成されている。

(ウ)「【0066】
遊動面310の断面構造は,透明なプラスチック部材620の裏面側にしぼ加工を施して,裏面側全体に金属光沢を有するメッキ層610を密着させた構造となっている。図11(b)は,遊技者が遊動面310を見たときの様子を示す斜視図である。ステージ32の遊動面310は透明なプラスチック部材620で構成され,しかも,メッキ層610と透明なプラスチック部材620との間は隙間なく密着した状態となっているため,遊技者がステージ32の遊動面310を表側から見ると,遊技者は透明なプラスチック部材620の存在に気付かず,裏面側のメッキ層610を認識する。このため,ステージ32の遊動面310が,あたかもしぼ加工よって凹凸形状に形成されているかの様に感じられることとなる。特に,ステージ32は遊技盤10に組み付けられるので,遊技者はステージ32の遊動面310を斜め上方から見るため,しぼ加工を施した部分のメッキ層610がより一層認識されることになり,しぼ加工を施した部分が遊動面310から浮き上がったように見えることになる。」

(エ)上記(ア)の記載から,遊技盤10の中央には遊技領域11が形成され,遊技盤10を流下する遊技球を,ステージ32に導くことから,遊技球が流下する遊技領域11が形成されているといえる。

(オ)上記(ア)の記載から,遊技領域11の略中央には中央装置26が設けられ,中央装置26の下方には,ステージ32が設けられていることと,上記(イ)の記載から,ステージ32上面には遊技球が遊動する遊動面310が設けられていることが示されている。したがって,遊技領域11内において遊技球が遊動する遊動面310が設けられたステージ32を有することは,明らかである。

(カ)上記(ウ)の記載から,遊動面310は,透明なプラスチック部材620の裏面側全体に金属光沢を有するメッキ層610を密着させた構造で,遊技者がステージ32の遊動面310を表側から見ると,裏面側のメッキ層610を認識することから,金属光沢を有するメッキ層610と,裏面側の該メッキ層610を表側から見て認識できる透明なプラスチック部材620とを密着させた構造を有することは,明らかである。

したがって,上記(ア)から(ウ)の記載事項及び上記(エ)から(カ)の認定事項を総合すると,刊行物1には次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されている。

「遊技球が流下する遊技領域11が形成され,
前記遊技領域11内において遊技球が遊動する遊動面310が設けられたステージ32が,金属光沢を有するメッキ層610と,裏面側の該メッキ層610を表側から見て認識できる透明なプラスチック部材620とが密着させた構造を有する弾球遊技機。」

(1-2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された特開2007-196659号公報(以下,「刊行物2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

(ア)「【0039】
図1の熱可塑性樹脂筐体B1は,図34の筐体Bにおいては,筐体Bが樹脂材料で成形されただけであるのに対して,図1の熱可塑性樹脂筐体B1では,一枚の偏光特性を有するフィルム2が,皺が発生することなく,筐体の全体にわたって樹脂板1の外表面を覆うように,被着されている。このフィルム2が樹脂板1の全表面に被着されていることによって,樹脂基板1自体への装飾に加えて,例えば,玉虫色の光沢効果の特殊な装飾を施すことができ,筐体をどの方向から見ても滑らかに変化する玉虫色の光沢効果が得られる。
【0040】
ここで,本発明の熱可塑性樹脂筐体に使用される偏光特性を有するフィルム(以降,偏光フィルムと称する)について,図2及び図3を参照して説明する。図2は,偏光フィルムの形成状態を示し,模式的な断面で表している。図2では,偏光フィルム2が,代表的に,薄いフィルムF1乃至F3からなる偏光フィルム2が示されている。フィルムF1乃至F3には,例えば,図2に矢印で示されるように,二軸延伸されたポリエステルフィルムが使用される。各フィルムの屈折率は,この二軸延伸の度合いに応じて変化する。フィルムF1乃至F3の二軸延伸の度合いが異なっており,これらが貼り合わされて積層されると,偏光フィルムが形成される。
【0041】
この積層にあたっては,3枚のフィルムに限られず,これ以上の複数枚が積層されてもよい。また,ここでは,この積層されるフィルムは,二軸延伸ポリエステルフィルムが積層された場合を例にしたが,積層される各フィルムの屈折率が異なっていれば,偏光フィルムを形成できるので,例えば,ポリエステルフィルムとナイロンフィルムのように,異種材料フィルムの組み合わせであってもよい。
【0042】
一般に,異なる屈折率の薄いフィルムを成層した重層薄膜においては,重層の仕方によって,可視光波長領域の光がほぼ完全に反射され,金属光沢が得られる理想型重層薄膜干渉現象と,反射光の波長域が狭まり,反射率が低下し,反射される波長域の色が得られる非理想型重層薄膜干渉現象とがあることは知られている。本発明の熱可塑性樹脂筐体に用いられる偏向フィルムは,これらの薄膜干渉現象を利用して,種々の装飾効果を発現するように,積層される各フィルムの屈折率と膜厚とが調整される。」

(イ)「【0103】
これまでに説明してきた熱可塑性樹脂筐体の形態例では,熱可塑性樹脂の表面上に,偏光フィルムが被着されていた。この形態例では,偏光フィルムによる装飾効果が表出されるものであり,有色樹脂,塗装,メッキ,金属などの蒸着,などでは,表現できない玉虫色,パールピンクからパールブルーへの変色などの装飾を施すことができるが,さらに,これらの装飾に深みを与え,質感を向上することが期待される場合がある。この場合には,偏光フィルムの面上に,クリアなコート層を施す。また,このコート層を施すことにより,例えば,耐候性の向上を図ることができる。
【0104】
図20に,偏光フィルムの面上にクリアなコート層を施した熱可塑性樹脂筐体の第5形態例を示した。図20(a)は,クリアコート層が施される熱可塑性樹脂筐体の構成が示されている。この筐体は,成形された熱可塑性樹脂1の外面上に偏光フィルム2が被着されている。
【0105】
図20(b)には,第5形態例による熱可塑性樹脂筐体B5の一例が示されている。ここでは,熱可塑性樹脂1に被着された偏光フィルム2の全面に,クリアコート層7が施されている。このクリアコート層7は,一定の透過率を有していればよく,有色であってもよい。」

(ウ)「【0135】
図30(a)及び(b)には,第1乃至第5形態例の製造工程による熱可塑性樹脂筐体を利用した調度品又は備付け機器への適用例を説明する図である。図30(a)には,樹脂製インテリアとして,ドレッサー台を例にした場合が,そして図30(b)には,アミューズメント関連機器として,パチンコ台を例にした場合が示されている。これらの場合においても,装飾が必要な部分に,本発明による偏光フィルムによる装飾を適用することができる。」

(2)対比
本願補正発明と引用発明1とを対比する。

(a)引用発明1の「遊技球が流下する遊技領域11」は,本願補正発明の「遊技球が流下する遊技領域」に相当する。

(b)引用発明1のステージ32の遊動面310は,遊技球が遊動するから,引用発明1のステージ32は,遊技球と接触し得る部位であるといえる。
このことから,引用発明1の「前記遊技領域11内において遊技球が遊動する遊動面310が設けられたステージ32」は,本願補正発明の「前記遊技領域の内」「において遊技球と接触し得る部位の少なくとも一部」に含まれる。

(c)引用発明1の「金属光沢を有するメッキ層610」及び「透明なプラスチック部材620」は,本願補正発明の「光沢層」及び「視認可能に覆う透過層」に,それぞれ相当する。
また,引用発明1の「裏面側の当該メッキ層610を表側から見て認識できる」は,本願補正発明の「該光沢層を外部から視認可能」に相当する。
以上のことから,引用発明1の「金属光沢を有するメッキ層610と,裏面側の当該メッキ層610を表側から見て認識できる透明なプラスチック部材620とが密着させた構造を有する」は,本願補正発明の「金属と同等または実質的に同等の光沢を呈し得る光沢層と,該光沢層を外部から視認可能に覆う透過層とが積層された構造を有し」に相当する。

(d)引用発明1の「遊技球が遊動する遊動面310が設けられたステージ32」が「メッキ層610」と「透明なプラスチック部材620とが密着させた構造を有すること」は,本願補正発明の「前記光沢層と透過層との積層構造が,その上を遊技球が転動する部位に設けられていること」に相当する。

上記(a)から(d)により,本願補正発明と引用発明1とは,

[一致点]
「遊技球が流下する遊技領域を備え,
前記遊技領域の内において遊技球と接触し得る部位の少なくとも一部が,金属と同等または実質的に同等の光沢を呈し得る光沢層と,該光沢層を外部から視認可能に覆う透過層とが積層された構造を有し,
前記光沢層と透過層との積層構造が,その上を遊技球が転動する部位に設けられていることを特徴とする遊技機。」

である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点1]
「遊技球と接触し得る部位の少なくとも一部」について,本願補正発明では,「前記遊技領域の内外」であるのに対して,引用発明1では,「前記遊技領域11の内」である点。

[相違点2]
「金属と同等または実質的に同等の光沢を呈し得る光沢層」について,本願補正発明では,「屈折率の異なる複数種類の樹脂を積層して得られた層」となっているのに対して,引用発明1では,「金属光沢を有するメッキ層610」である点。

(3)判断
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
刊行物2において,上記(1)(1-2)(イ)には,偏光フィルム2の面上に,クリアコート層7を施した装飾について,上記(1)(1-2)(ウ)には,パチンコ台の装飾が必要な部分に偏光フィルム2を適用できることが記載されている。したがって,刊行物2には,偏光フィルム2の面上にクリアコート層7を施す装飾を,パチンコ台の装飾が必要な部分に適用できることが記載され,必要な部分は遊技領域の外も含むことは技術常識である。
そして,引用発明1も刊行物2に記載されたものも共に,遊技機の一部に光沢層と透過層とが積層された構造を適用するものであるから,引用発明1において,刊行物2に記載された技術事項に基づき,光沢層と透過層とが積層された構造を,遊技領域の内だけでなく遊技領域の外にも適用すること,すなわち上記相違点1に係る本願補正発明の構成にすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
刊行物2において,上記(1)(1-2)(ア)には,屈折率の異なる異種材料フィルムを積層した偏光フィルム2は金属光沢が得られることが記載されており,上記(1)(1-2)(イ)には,熱可塑性樹脂1に被着された偏光フィルム2の全面に一定の透過率を有するクリアコート層7が施されることが記載されており,上記(1)(1-2)(ウ)には,パチンコ台の装飾が必要な部分に偏光フィルム2を適用することが記載されている。したがって,刊行物2には,パチンコ台の装飾が必要な部分の熱可塑性樹脂1に,屈折率の異なる異種材料フィルムを積層した金属光沢が得られる偏光フィルム2を被着させ,偏光フィルム2の全面に一定の透過率を有するクリアコート層7を施すことが記載されているといえる。
そして,引用発明1も刊行物2に記載されたものも共に,遊技機の一部に光沢層と光沢層を外部から視認可能に覆う透過層とが積層された構造を有するものであるから,引用発明1において,刊行物2に記載された技術事項を適用し,光沢層を屈折率の異なる複数種類の樹脂を積層して得られた層にすること,すなわち上記相違点2に係る本願補正発明の構成にすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 本願補正発明の奏する作用効果について
そして,本願補正発明の作用効果は,引例発明1及び刊行物2に記載された事項からみて,当業者の予測し得ない格別なものではない。

エ 審判請求人の主張について
審判請求書において,請求人は,原査定の拒絶の理由に引用された引用文献には,「本発明におけるような,遊技球の転動による表面の剥離等の変形といった問題はなんら考慮されておらず,従いまして,上述の風車,役物,電飾装置等の例は,単に上記目的の対象となる装飾性部品として挙げられたものに過ぎないものと考えられますので,これらの記載からは,本発明に規定の『その上を遊技球が転動する部位』という概念は示唆されない」旨,主張している。
この主張について検討すると,上記(1)(1-1)に記載した引用発明1には,「前記遊技領域11内において遊技球が遊動する遊動面310が設けられたステージ32が,金属光沢を有するメッキ層610と,裏面側の該メッキ層610を表側から見て認識できる透明なプラスチック部材620とが密着させた構造を有すること」が記載されている。このことから,引用発明1には,遊技球の転動による表面の剥離等の変形といった問題を考慮して,遊技球が遊動する遊動面310が設けられたステージ32にメッキ層610を表側から遊技者が認識できるような透明なプラスチック部材620とが密着させた構造とする点が記載されているから,引用発明1には,請求人の主張する概念は記載されている。
よって,請求人の主張は採用できない。

オ まとめ
したがって,本願補正発明は引用発明1及び刊行物2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明できたものであり,特許法第29条第2項の規定に基づいて特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4.むすび
よって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
補正発明は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成25年12月4日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定され,以下のとおりである。

「遊技球が流下する遊技領域を備え,
前記遊技領域の内外において遊技球と接触し得る部位の少なくとも一部が,金属と同等または実質的に同等の光沢を呈し得る光沢層と,該光沢層を外部から視認可能に覆う透過層とが積層された構造を有し,
前記光沢層が,屈折率の異なる複数種類の樹脂を積層して得られた層となっていることを特徴とする遊技機。」

1.刊行物
(1-1)刊行物3
原査定の拒絶の理由に引用された本願の出願前に頒布された刊行物である特開2002-360809号公報(以下,「刊行物3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

(ア)「【0010】表フィルムは,その背面の着色層を見せるために透光性(透明または半透明)とする必要がある。ただし,透光性が確保される限りは顔料や染料で着色されていてもよい。請求項2記載のように,裏フィルム及び成形体を共に透光性にするのは,成形体の背後から光を透過させる電飾などに適している。なお,この場合は着色層の少なくとも一部を透光性としたり表フィルムの一部の領域には着色層を設けないで透光性を確保する必要がある。
【0011】また請求項3記載のように,裏フィルムまたは成形体を遮光性にするのは,外光によって(反射で)着色層の装飾効果を得るのに適している。この場合,裏フィルムまたは成形体を着色層に対する地の色として利用できる。或いは裏フィルムまたは成形体の遮光性に頼らずに,着色層を印刷による模様などの層と金属蒸着層との複層構造にして,蒸着層を模様などの層の下地とすることもできる。」

(イ)「【0021】
【実施例】図1に示すのは,遊技機の一種であるパチンコ機1の正面図である。この図に示すように,パチンコ機1は,プラスチック製の外枠2,ヒンジ3により外枠2に蝶着されているプラスチック製の中枠4を備えており,中枠4にて他の各部を支持し,その中枠4を外枠2にて支持する構造である。
・・・
【0024】図2に示すように,遊技盤5には2つの円弧状の誘導レール19a,19bが取り付けられており,これらに囲まれる部分が遊技領域21とされる。遊技領域21の中央部には,特別図柄表示装置18が設置されており,その液晶表示盤20には当たり外れを示すための特別図柄やアニメーションなどが表示される。
【0025】特別図柄表示装置18の下方には始動入賞装置22が配置されている。この始動入賞装置22は,周知のチューリップ式の入賞装置であり,一対の開閉羽根24,24を立てた閉鎖状態(図中破線で示す状態)と左右に倒した開放状態(図中実線で示す状態)とに変化する。
【0026】この始動入賞装置22の下方には,ゲート26が配置されている。このゲート26を遊技球が通過すると,ゲート26の下方の大入賞装置28に組み付けられている普通図柄表示器30のデジタルが変動してから静止表示され,その数値が当たり(例えば77)であると始動入賞装置22が開放状態にされる。
・・・
【0029】遊技領域21には,特別図柄表示装置18の左右に配された普通入賞口40,40,これらの下方に配された普通入賞口42,42,ランプ風車44,44,サイド飾46,46が設置され,最下部にはアウト穴48が設けられている。なお図示は省略しているが,遊技領域21には周知の障害釘や風車等も取り付けられている。
【0030】このパチンコ機1には,本発明の遊技機部品に該当する部品が多数使用されている。例えば図1に示されるトップランプLNPのレンズ部分や操作ダイヤル9の握り部分9a,図2に示される始動入賞装置22の前飾り22a,普通入賞口40,42,ランプ風車44の風車部分44a,サイド飾46のレンズ部分46a等であり,また大入賞装置28の一部にも使用されている。」

(ウ)「【0031】これら遊技機部品に該当する部品は,それぞれに形状に違いがあり,また材質もすべてが同じというわけではないが,製造工程はほぼ同じであるのでまとめて遊技機部品Pとして,その製造手順を説明する。まず複層フィルムFの層構造は図3に示すとおりで,保護フィルム51,粘着剤52,表フィルム53,印刷層54及び裏フィルム56からなるもの(図3(a))と印刷層54と裏フィルム56の間に蒸着層55が設けられているもの(図3(b))とがある。
【0032】図3(b)の層構造は普通入賞口40,42や握り部分9aのような透過光を用いない部品に使用される。また,透過光を用いない部品でも蒸着層55による金属光沢を採用しないデザインのものは図3(a)の構造となる。複層フィルムFを製造するには,表フィルム53または裏フィルム56の片面に例えばシルクスクリーン印刷やグラビア印刷などで印刷層54を設けてから,表フィルム53と裏フィルム56とを積層(接着)する。アルミニウムやクロームなどの金属蒸着層55を設ける場合には,印刷層54の上に蒸着したり,金属蒸着層55の上に印刷したり,或いは表フィルム53に印刷層54を設け裏フィルム56に金属を蒸着しておいて表フィルム53と裏フィルム56とを貼り合わせる。本実施例の場合,表フィルム53には透明なアクリル樹脂,裏フィルム56にはポリカーボネートを使用した。」

(エ)上記(イ)には,遊技領域21の中央部の特別図柄表示装置18の下方に配置されている始動入賞装置22のさらに下方にゲート26が配置され,ゲート26を遊技球が通過することが記載されていることから,遊技球が通過する遊技領域21を備えることは,明らかである。

(オ)上記(イ)には遊技領域21には普通入賞口40,42が設けられていることが記載されていることから,普通入賞口40,42は,遊技領域21の内の遊技球と接触し得る普通入賞口40,42である。

(カ)上記(ア)には,表フィルム53は,着色層を見せるために透光性(透明または半透明)とし,着色層は蒸着層55を含むこと,上記(ウ)には,金属光沢を有する蒸着層55が設けられた層構造が普通入賞口40,42や握り部分9aに使用され,蒸着層55を設ける場合には,透明なアクリル樹脂の表フィルム53と金属を蒸着した裏フィルム56とを張り合わせることが記載されている。このことから,普通入賞口40,42と操作ダイヤル9の握り部分9aとが,金属光沢を有する蒸着層55と,該蒸着層55を見せるために透明な表フィルム53とが張り合わされた層構造を有するといえる。

したがって,上記(ア)から(ウ)の記載事項及び上記(エ)から(カ)の認定事項を総合すると,刊行物3には次の発明(以下,「引用発明3」という。)が記載されている。

「遊技球が通過する遊技領域21を備え,
前記遊技領域21の内の遊技球と接触し得る普通入賞口40,42が,金属光沢を有する蒸着層55と,該蒸着層55を見せるために透明な表フィルム53とが張り合わされた層構造を有する弾球遊技機。」

(1-2)刊行物2
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2の記載事項は,上記第2の3.(1)(1-2)に記載したとおりである。

2.対比
本願発明と引用発明3とを対比する。

(a)引用発明3の「遊技球が通過する遊技領域21」は,本願発明の「遊技球が流下する遊技領域」に相当する。

(b)引用発明3の「前記遊技領域21の内の遊技球と接触し得る普通入賞口40,42」は,本願発明の「前記遊技領域の内」「において遊技球と接触し得る部位の少なくとも一部」に含まれる。

(c)引用発明3の「金属光沢を有する蒸着層55」及び「透明な表フィルム53」は,本願発明の「光沢層」及び「視認可能に覆う透過層」に,それぞれ相当する。
また,引用発明3の「該蒸着層55を見せるため」は,本願発明の「該光沢層を外部から視認可能」に相当する。
以上のことから,引用発明3の「金属光沢を有する蒸着層55と,該蒸着層55を見せるために透明な表フィルム53とが張り合わされた層構造を有する」は,本願発明の「金属と同等または実質的に同等の光沢を呈し得る光沢層と,該光沢層を外部から視認可能に覆う透過層とが積層された構造を有し」に相当する。

上記(a)から(c)により,本願発明と引用発明3とは,

[一致点]
「遊技球が流下する遊技領域を備え,
前記遊技領域の内において遊技球と接触し得る部位の少なくとも一部が,金属と同等または実質的に同等の光沢を呈し得る光沢層と,該光沢層を外部から視認可能に覆う透過層とが積層された構造を有していることを特徴とする遊技機。」

である点で一致し,以下の点で相違する。

[相違点1]
「遊技球と接触し得る部位の少なくとも一部」について,本願発明では,「前記遊技領域の内外」であるのに対して,引用発明3では,「前記遊技領域21の内」である点。

[相違点2]
「金属と同等または実質的に同等の光沢を呈し得る光沢層」について,本願発明では,「屈折率の異なる複数種類の樹脂を積層して得られた層となって」いるのに対して,引用発明3では,「金属光沢を有する蒸着層55」である点。

3.判断
上記相違点について検討する。

ア 相違点1について
上記第2の3.(3)アに記載したとおり,刊行物2には,偏光フィルム2の面上にクリアコート層7を施す装飾を,パチンコ台の装飾が必要な部分に適用できることが記載され,必要な部分は遊技領域の外も含むことは技術常識である。
そして,引用発明3も刊行物2に記載されたものも共に,遊技機の一部に光沢層と透過層とが積層された構造を適用するものであるから,引用発明3において,刊行物2に記載された技術事項に基づき,光沢層と透過層とが積層された構造を,遊技領域の内だけでなく遊技領域の外にも適用すること,すなわち上記相違点1に係る本願発明の構成にすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
上記第2の3.(3)イに記載したとおり,刊行物2には,パチンコ台の装飾が必要な部分の熱可塑性樹脂1に,屈折率の異なる異種材料フィルムを積層した金属光沢が得られる偏光フィルム2を被着させ,偏光フィルム2の全面に一定の透過率を有するクリアコート層7を施すことが記載されているといえる。
そして,引用発明3も刊行物2に記載されたものも共に,遊技機の一部に光沢層と光沢層を外部から視認可能に覆う透過層とが積層された構造を有するものであるから,引用発明3において,刊行物2に記載された事項に基づき,光沢層を屈折率の異なる複数種類の樹脂を積層して得られた層にすること,すなわち上記相違点2に係る本願発明の構成にすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

ウ 本願発明の奏する作用効果について
そして,本願発明の作用効果は,引例発明3及び刊行物2に記載された事項からみて,当業者の予測し得ない格別なものではない。

4.むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定に基づいて特許を受けることができないものである。
したがって,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-15 
結審通知日 2016-04-20 
審決日 2016-05-09 
出願番号 特願2010-90567(P2010-90567)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A63F)
P 1 8・ 575- Z (A63F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 廣瀬 貴理  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 加舎 理紅子
瀬津 太朗
発明の名称 遊技機  
代理人 田村 正憲  
代理人 来代 哲男  

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