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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21F
管理番号 1316293
審判番号 不服2015-4513  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-03-09 
確定日 2016-06-21 
事件の表示 特願2012-511828「遊間放射線シールド」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月25日国際公開、WO2010/135015、平成24年11月 8日国内公表、特表2012-527614〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成22年(2010年)3月3日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2009年5月21日、2010年3月2日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成26年1月23日付けで拒絶理由が通知され、同年5月20日に手続補正がなされるとともに意見書が提出されたが、同年11月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成27年3月9日に拒絶査定不服審判請求ががなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成26年5月20日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものと認められるところ、、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「格納容器内に囲まれた原子アイランドを有する発電施設であって、原子アイランドが、
原子燃料集合体および放射線を浴びた部品を原子炉格納容器の内部から外部へ搬送するための、原子炉格納容器を貫通する燃料搬送管と、
燃料搬送管の少なくとも一部を囲む固体放射線シールドと、
固体放射線シールドと原子炉格納容器の間に存在して固体放射線シールドと原子炉格納容器の熱膨張差に対応する遊間と、
遊間にまたがるか、または少なくとも一部が遊間内に位置する可撓性放射線シールドとより成り、可撓性放射線シールドが、
中性子線およびγ線を減衰させる流体を収容する内部タンクを有し、実質的に固体放射線シールドと原子炉格納容器との間の遊間内に少なくとも一部が収容されて内部タンクに流体が入った状態で遊間の開口を実質的に埋め、遊間の幅の変化に対応して膨張または収縮すると内部タンク全体の容積が変化するように構成されている、格納容器内に支持された中空の可撓性外側袋体と、
内部タンクを流体の少なくとも一部で充填するために、内部タンクを可撓性外側袋体の外部と連通させる流体注入口と、
内部タンク内の流体と流体連通関係にある、内部タンク内の流体を補充する補充タンクとより成り、
補充タンクが内部タンクに対して気密シールされており、内部タンク内の流体容積が変化した場合のオーバーフロー・タンクを形成し、
補充タンクは、熱膨張の結果遊間が閉じるにしたがって可撓性外側袋体が圧搾されると内部タンクから流体を受け、熱収縮の結果遊間が拡がるにしたがって内部タンクに追加の流体を供給するように構成されている発電施設。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願の最先の優先日前に頒布された特開昭53-34091号公報(以下「引用文献」という。)には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
ア 「3.発明の詳細な説明
本発明は、核反応炉動作における改良に関し、更に詳細には反応炉自身から、或は反応炉動作の結果から生じる核分裂および/または活性化生成物から放射される輻射線を防禦するための遮蔽に関する。
本発明の遮蔽の主要使用の一つは、反応炉容器と連通している各開孔から放出する中性子の流束を減衰することである。
正常には、核反応炉組立体は、燃料を内蔵する反応炉容器を含み、この反応炉容器は、一つの保護外囲によつて包囲されている。これは一般に一次遮蔽(primary shield)といわれている。この一次遮蔽は、反応炉容器の外部表面の周囲に直円筒を形成し、かつ容器から離隔して反応炉空所を画成している。
動作中の反応炉容器とその一次遮蔽との間の環状空間は、冷却媒が誤つて無くなつたときに生じる圧力を逃がすように開放状態に保たれなくてはならない。その上、行政的に必要とされる検査は、重要区域への開放接近を必要とする。通常は、この結果、反応炉と、「運転」(operating)床すなわち技術員によつて時折占拠される区域との間に自由連通の通路が形成される。
・・・途中省略・・・
この先行技術は、極めて原始的である。吾々の知るところでは、ただ数個所の発電所においては、中性子流束の限界が容認された。その他の発電所では、板状またはブロック状の剛性の含水素物質を、ときには重金属の支持構体とともに使用することによってこの中性子輻射問題を軽減することが試みられた。しかし、これらの形成の遮蔽についてはいくつかの問題がある。」(2頁左上欄8行?左下欄5行)

イ 「本発明は、上に述べたように中性子遮蔽として有用であるけれども、それはまたその核反応炉設備の全域内において、ベータ・ガンマ輻射線を含む他の形式の輻射線に対しても有用である。」(2頁右下欄6?9行)

ウ 「動作中の反応炉の付近などのような中性子流束区域内では、容器は、減速液体(moderating liquid)で満たされ、これは中性子防壁として役立つ。この液体は、任意の含水素材料または任意その他の低分子量材料であつてよく、かつ中性子吸収体として硼素化合物を溶解して含むことができる。容器の可撓性の故に、それがどんな形状にあるとしても、それらの容器は、反応炉容器の表面および/または一次遮蔽および/または他の隣接表面上の不規則性に対して全体的に順応するであろう。
反応炉設備の他の区域における他の形式の輻射に対して、可搬式または緊急用の遮蔽として使用するときには、減衰用の液体は、水または任意その他の比較的密度の大きい液体であることができる。好ましい一実施例においては、毛布状またはマツトレス状の容器を、輻射線発生源の上に置いてもよく、或は、輻射線発生源と保護されるべき区域との間に配置し或は吊下してもよい。
この容器は、その場において容易に満たしたり、排出したりすることができる。また、その可撓性のために、折りたたんだり、最小限の空間内に格納することができる。更に、使用中には、熱放散または他の理由のために必要であれば流体の循環を行なうことができる。」(3頁右上欄15行?左下欄18行)

エ 「図面を参照すると、同様部分は同様数字で表示され、第1図は、核反応炉容器(20)とその包囲する一次遮蔽(22)との間の関係の簡単化した図である。この一次遮蔽(22)は、反応炉空所(24)を画成する。一次遮蔽(22)の壁は、反応炉容器(20)から離隔して、環状空間(26)を画成しその開口上端部(28)を持つている。
張出部(30)および(32)間の開口(28)は、本発明の輻射線遮蔽の一形態(34)によつて架橋されている。本発明の簡単化された例示図において、第1図の実施例は、可撓性および/または弾性可塑性またはゴム様材料で作られた容器と含水素流体とで構成される。この容器は、好ましくは溶解状態の硼素化合物を含有する含水素流体(36)で満たされる。この液体は、反応炉容器から放射する中性子輻射に対する減速体および吸収体として作用する。適当な入口(42)および(44)は、減衰用液体と(審決注:「を」の誤記)遮蔽(34)に満たし、または排出するために設けられる。流体の再循環は、熱放散および他の理由のために望ましいであろう。このことに関しては、入口および出口管(38)(40)、モータMによつて駆動されるポンプP、および減衰用液体を満たした貯槽Rを有する再循環装置が使用される。使用していないときには、液体は容器(34)から排出されることができ、容器は、適当に格納するために比較的小さい包装に容易に折りたたまれることができる。
第1図、第2図および第5図に示した連続環状遮蔽に対する変形として、第6図乃至第9図に示すような、一組の別々の円弧状の分割体または容器(46)を使用することもできる。第6図および第7図において、別々の容器は、張出部(30)(32)によつて画成された開口(28)の周囲に端と端とを接して設置される。第8図および第9図においては、分割体または容器は、重ね合わさつている。これらの重なつた分割体は、異なる水平面に横たわつて、第9図に誇張して示したように輻射線の視線遮蔽(line-of-sight shielding)を行ない、形成した迷路を希望する空気流が通過できるようにすることができる。また、これらの分割された遮蔽は、非常に取扱いを容易化している。
上記実施例のいづれにおいても、環状部(26)と反応炉壁(50)とを経ての視線連通を閉鎖することによつて、可撓性容器は、反応炉容器(20)から放出する輻射線から、運転床(48)上および上方にある人員を有効に遮蔽することが容易に理解される。更に、反応炉を停止した後には、遮蔽は、反応炉頭部区域への輻射線を著しく低減するであろう。また、遮蔽は、その可撓性のために、隣接表面の任意の不規則性に対して一致し、また異なる寸法の開口に対して有効であろう。換言すれば、有効な遮蔽を得るために精密な製造公差を必要としない。
また、反応炉容器(20)に至る導管(54)の通路を提供する一次遮蔽(22)の側壁の開孔(52)を封止することは望ましいことである。第3図および第4図に更に明瞭に示したように、導管(54)を包囲する環状空間(52)に複数個の容器(46)が嵌入される。もう一つの実施例におけると同様に、容器(46)は輻射線減速液体で満たされる。第3図および第4図は、可撓性容器を支持するための別の方法を例示している。網状体(58)は、適当な吊下装置(60)から吊下げられ、容器(46)の一つを保持している。任意適当な吊下装置を使用してよいことは理解されるべきである。この場合もまた、いくつかの容器が異なる平面において所定位置に設置され、開孔(52)を通つて空気流が流れるようにすることができる。」(4頁左上欄13行?右下欄16行)

オ(ア) 図1ないし5(FIG.1?5)は、次のものである。


(イ)上記(ア)の図1の張出部(30)付近を拡大したものである。


カ 上記アないしエを踏まえて、上記オの図1を見ると、輻射線遮蔽(34)は、一次遮蔽(22)と反応炉容器(20)の間の環状空間(26)内に一部が収容されて、減衰用液体(含水素流体(36))を満たした状態で、環状空間(26)の開口に架橋されていることがみてとれる。

(2)引用発明
上記(1)アないしカによれば、引用文献には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「核反応炉組立体は、燃料を内蔵する反応炉容器(20)を含み、前記反応炉容器(20)は、一つの保護外囲(一次遮蔽(22))によつて包囲され、前記一次遮蔽(22)は、反応炉容器(20)の外部表面の周囲に直円筒を形成し、かつ容器から離隔して反応炉空所(24)を画成し、
前記一次遮蔽(22)は、前記反応炉空所(24)を画成し、前記一次遮蔽(22)の壁は、反応炉容器(20)から離隔して、環状空間(26)を画成しその開口上端部(28)を持ち、
張出部(30)および(32)間の開口(28)は、輻射線遮蔽(34)によつて架橋され、前記輻射線遮蔽(34)は可撓性および/または弾性可塑性またはゴム様材料で作られた容器と含水素流体(36)とで構成され、前記容器は、溶解状態の硼素化合物を含有する含水素流体(36)で満たされ、前記含水素流体(36)は、反応炉容器(20)から放射する中性子輻射に対する減速体および吸収体として作用し、入口(42)および(44)は、減衰用液体(含水素流体(36))を輻射線遮蔽(34)に満たし、または排出するために設けられ、前記入口および出口管(38)(40)、モータMによつて駆動されるポンプP、および減衰用液体を満たした貯槽Rを有する再循環装置が使用され、
前記反応炉容器(20)に至る導管(54)の通路を提供する前記一次遮蔽(22)の側壁の開孔(52)を封止し、導管(54)を包囲する環状空間(52)に複数個の容器(46)が嵌入され、前記容器(46)は減衰用液体で満たされ、
前記輻射線遮蔽(34)は、中性子遮蔽として有用であって、ベータ・ガンマ輻射線を含む他の形式の輻射線に対しても有用であり、
前記減衰用液体は、中性子吸収体として硼素化合物を溶解して含むことができ、前記容器(46)は、反応炉容器(20)の表面、一次遮蔽(22)、他の隣接表面上の不規則性に対して全体的に順応し、前記容器(46)は、使用中には、熱放散または他の理由のために必要であれば減衰用液体(36)の循環を行なうことができ、
前記輻射線遮蔽(34)は、一次遮蔽(22)と反応炉容器(20)の間の環状空間(26)内に一部が収容されて、減衰用液体(36)を満たした状態で、環状空間(26)の開口に架橋されている、発電所。」

4 対比・判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「発電所」は、「燃料を内蔵する反応炉容器(20)を含み、前記反応炉容器(20)は、一つの保護外囲(一次遮蔽(22))によつて包囲され、前記一次遮蔽(22)は、反応炉容器(20)の外部表面の周囲に直円筒を形成」するから、保護外囲(一次遮蔽(22))に包囲された反応炉容器(20)有する発電所ということができる。
したがって、引用発明の、「燃料を内蔵する反応炉容器(20)を含み、前記反応炉容器(20)は、一つの保護外囲(一次遮蔽(22))によつて包囲され、前記一次遮蔽(22)は、反応炉容器(20)の外部表面の周囲に直円筒を形成」する「発電所」は、本願発明の「格納容器内に囲まれた原子アイランドを有する」「発電施設」に相当する。

イ 引用発明の「導管(54)」に関して、「前記反応炉容器(20)に至る導管(54)の通路を提供する前記一次遮蔽(22)の側壁の開孔(52)を封止し、導管(54)を包囲する環状空間(52)」を有するものとされ、一般的に「導管」とは「物をみちびき送るくだ」([株式会社岩波書店 広辞苑第六版])を意味するから、引用発明の「導管(54)」は、一次遮蔽(22)の内部と外部の間で「物をみちびき送る」ために、一次遮蔽(22)の側壁の開孔(52)を貫通するくだ(搬送管)であるということができる。
したがって、引用発明の、「前記反応炉容器(20)に至る導管(54)の通路を提供する前記一次遮蔽(22)の側壁の開孔(52)を封止し、導管(54)を包囲する環状空間(52)」を有するものとされる「導管(54)」は、本願発明の「原子燃料集合体および放射線を浴びた部品を原子炉格納容器の内部から外部へ搬送するための、原子炉格納容器を貫通する」「燃料搬送管」と、「物を原子炉格納容器の内部から外部へ搬送するための、原子炉格納容器を貫通する」「搬送管」である点で一致する。

ウ 引用発明の「容器(46)」は、「反応炉容器(20)に至る導管(54)の通路を提供する前記一次遮蔽(22)の側壁の開孔(52)を封止し、導管(54)を包囲する環状空間(52)に複数個の容器(46)が嵌入され」るから、「容器(46)」は、導管(54)の通路である一次遮蔽(22)の側壁の開孔(52)において、導管(54)を包囲する環状空間(52)に嵌入されるものである。
そうすると、一次遮蔽(22)は、側壁の開孔(52)において、環状空間(52)を介して導管(54)を包囲するものであるということができる。
したがって、引用発明の、「反応炉容器(20)に至る導管(54)の通路を提供する前記一次遮蔽(22)の側壁の開孔(52)を封止し」、「導管(54)を包囲する環状空間(52)に複数個の容器(46)が嵌入され」る構成は、「一次遮蔽(22)」が、側壁の開孔(52)において、環状空間(52)を介して導管(54)を包囲するとの構成も意味するところ、当該「一次遮蔽(22)」は、本願発明の「燃料搬送管の少なくとも一部を囲む」「固体放射線シールド」と、「搬送管の少なくとも一部を囲む」「固体放射線シールド」である点で一致する。

エ 引用発明の「環状空間(26)」は、「一次遮蔽(22)」が「反応炉容器(20)の外部表面の周囲に直円筒を形成し、かつ容器から離隔して反応炉空所(24)を画成し」たものであって、また、「一次遮蔽(22)」は、「反応炉空所(24)を画成し、前記一次遮蔽(22)の壁は、反応炉容器(20)から離隔して、環状空間(26)を画成」するものであるから、一次遮蔽(22)と反応炉容器(20)の間に存在する遊間ということができる。
したがって、引用発明の、「反応炉空所(24)を画成し、前記一次遮蔽(22)の壁は、反応炉容器(20)から離隔して、環状空間(26)を画成」する「一次遮蔽(22)」が「反応炉容器(20)の外部表面の周囲に直円筒を形成し、かつ容器から離隔して反応炉空所(24)を画成し」た「環状空間(26)」は、本願発明の「固体放射線シールドと原子炉格納容器の間に存在して固体放射線シールドと原子炉格納容器の熱膨張差に対応する」「遊間」と、「固体放射線シールドと原子炉格納容器の間に存在する」「遊間」である点で一致する。

オ 引用発明の、「中性子輻射に対する減速体および吸収体として作用し」、「中性子遮蔽として有用であって、ベータ・ガンマ輻射線を含む他の形式の輻射線に対しても有用であ」る「減衰用液体(含水素流体(36))」は、本願発明の「中性子線およびγ線を減衰させる」「流体」に相当する。

カ 引用発明の「輻射線遮蔽(34)」は、「張出部(30)および(32)間の開口(28)」に「架橋され」、「可撓性および/または弾性可塑性またはゴム様材料で作られた容器と含水素流体(36)とで構成され、前記容器は、溶解状態の硼素化合物を含有する含水素流体(36)で満たされ、前記含水素流体(36)は、反応炉容器(20)から放射する中性子輻射に対する減速体および吸収体として作用し、入口(42)および(44)は、減衰用液体(含水素流体(36))を輻射線遮蔽(34)に満たし、または排出するために設けられ、前記入口および出口管(38)(40)、モータMによつて駆動されるポンプP、および減衰用液体を満たした貯槽Rを有する再循環装置が使用され」るものであって、「一次遮蔽(22)と反応炉容器(20)の間の環状空間(26)内に一部が収容されて、減衰用液体を満たした状態で、環状空間(26)の開口に架橋されている」ものであるから、減衰用液体(含水素流体(36))を収容し、一次遮蔽(22)と反応炉容器(20)の間の環状空間(26)内に一部が収容されて、前記減衰用液体を満たした状態で、環状空間(26)の開口に架橋されて、モータMによつて駆動されるポンプPにより前記減衰用液体を輻射線遮蔽(34)に満たし、または排出するものであって、一次遮蔽(22)の張出部(30)および(32)間の開口(28)に架橋される可撓性および/または弾性可塑性またはゴム様材料で作られた容器であるから、タンクであるといえる。
したがって、引用発明の、「張出部(30)および(32)間の開口(28)」に「架橋され」、「可撓性および/または弾性可塑性またはゴム様材料で作られた容器と含水素流体(36)とで構成され、前記容器は、溶解状態の硼素化合物を含有する含水素流体(36)で満たされ、前記含水素流体(36)は、反応炉容器(20)から放射する中性子輻射に対する減速体および吸収体として作用し、入口(42)および(44)は、減衰用液体(含水素流体(36))を輻射線遮蔽(34)に満たし、または排出するために設けられ、前記入口および出口管(38)(40)、モータMによつて駆動されるポンプP、および減衰用液体を満たした貯槽Rを有する再循環装置が使用され」るものであって、「一次遮蔽(22)と反応炉容器(20)の間の環状空間(26)内に一部が収容されて、減衰用液体を満たした状態で、環状空間(26)の開口に架橋されている」「輻射線遮蔽(34)」は、本願発明の「遊間にまたがるか、または少なくとも一部が遊間内に位置する可撓性放射線シールドとより成り、可撓性放射線シールドが」、「流体を収容する内部タンクを有し、実質的に固体放射線シールドと原子炉格納容器との間の遊間内に少なくとも一部が収容されて内部タンクに流体が入った状態で遊間の開口を実質的に埋め、遊間の幅の変化に対応して膨張または収縮すると内部タンク全体の容積が変化するように構成されている、格納容器内に支持された中空の」「可撓性外側袋体」と、「遊間にまたがるか、または少なくとも一部が遊間内に位置する可撓性放射線シールドとより成り、可撓性放射線シールドが」、「流体を収容するタンクをなし、実質的に固体放射線シールドと原子炉格納容器との間の遊間内に少なくとも一部が収容されてタンクに流体が入った状態で遊間の開口を実質的に埋め、タンク全体の容積が変化するように構成されている、格納容器内に支持された中空の」「可撓性袋体」である点で一致する。

キ 引用発明の「入口(42)および(44)」は、「減衰用液体(含水素流体(36))を」「輻射線遮蔽(34)に満たし、または排出するために設けられ」るから、本願発明の「内部タンクを流体の少なくとも一部で充填するために、内部タンクを可撓性外側袋体の外部と連通させる」「流体注入口」と、「タンクを流体の少なくとも一部で充填するために、タンクである可撓性袋体を外部と連通させる」「流体注入口」である点で一致する。

ク 引用発明の「貯槽R」は、「入口および出口管(38)(40)、モータMによつて駆動されるポンプP、および減衰用液体を満たした」「再循環装置」が有するものであって、「容器は、使用中には、熱放散または他の理由のために必要であれば減衰用液体の循環を行なうことができ」るものであるから、減衰用液体と流体連通関係にある減衰用液体を満たすタンクであって、流体容積が変化した場合も減衰用液体の循環を行なうことができるオーバーフロー・タンクを形成するといえる。
したがって、引用発明の、「入口および出口管(38)(40)、モータMによつて駆動されるポンプP、および減衰用液体を満たした」「再循環装置」が有するものであって、「容器は、使用中には、熱放散または他の理由のために必要であれば減衰用液体の循環を行なうことができ」る「貯槽R」は、本願発明の「内部タンク内の流体と流体連通関係にある、内部タンク内の流体を補充」し、「内部タンクに対して気密シールされており、内部タンク内の流体容積が変化した場合のオーバーフロー・タンクを形成」する「補充タンク」と、「タンク内の流体と流体連通関係にある、タンク内の流体を補充」し、「タンク内の流体容積が変化した場合のオーバーフロー・タンクを形成」する「補充タンク」である点で一致する。

ケ したがって、両者は、
「格納容器内に囲まれた原子アイランドを有する発電施設であって、原子アイランドが、
物を原子炉格納容器の内部から外部へ搬送するための、原子炉格納容器を貫通する搬送管と、
搬送管の一部を囲む固体放射線シールドと、
固体放射線シールドと原子炉格納容器の間に存在する遊間と、
遊間にまたがるか、または少なくとも一部が遊間内に位置する可撓性放射線シールドとより成り、可撓性放射線シールドが、
中性子線およびγ線を減衰させる流体を収容するタンクをなし、実質的に固体放射線シールドと原子炉格納容器との間の遊間内に少なくとも一部が収容されてタンクに流体が入った状態で遊間の開口を実質的に埋め、タンク全体の容積が変化するように構成されている、格納容器内に支持された中空の可撓性袋体と、
タンクを流体の少なくとも一部で充填するために、タンクである可撓性袋体を外部と連通させるタンク内の流体と流体連通関係にある、タンク内の流体を補充する補充タンクとより成り、
補充タンクが、タンク内の流体容積が変化した場合のオーバーフロー・タンクを形成するように構成されている発電施設。」
である点で一致し、下記各点で相違する。

a 本願発明の「燃料搬送管」は「原子燃料集合体および放射線を浴びた部品を原子炉格納容器の内部から外部へ搬送するための」ものであるのに対して、引用発明の「導管(54)」は、搬送するものが特定されない点(以下「相違点1」という)。

b 本願発明の「可撓性放射線シールド」は、「内部タンク」を有する「可撓性外側袋体」とされるのに対して、引用発明の「輻射線遮蔽(34)」はタンクをなす可撓性の容器であるところ、可撓性の容器が「内部タンク」を有するとは特定されない点(以下「相違点2」という)。

c 本願発明の「補充タンク」は「内部タンクに対して気密シールされて」いるのに対して、引用発明の「貯槽R」は輻射線遮蔽(34)に対して気密シールされるものとは特定されない点(以下「相違点3」という)。

d 本願発明の「遊間」は「固体放射線シールドと原子炉格納容器の熱膨張差に対応する」ためのものであって、「補充タンク」は、「熱膨張の結果遊間が閉じるにしたがって可撓性外側袋体が圧搾されると内部タンクから流体を受け、熱収縮の結果遊間が拡がるにしたがって内部タンクに追加の流体を供給するように構成されている」のに対して、引用発明の「環状空間(52)」及び「貯槽R」はそのような特定がない点(以下「相違点4」という)。

(2)判断
ア 上記相違点1について検討する。
原子力発電所が燃料交換のための燃料搬送管を備えること、及び、当該燃料搬送管が、放出される放射線を遮蔽する必要があるものであることは本願優先日当時周知の事項であるところ、上記4(1)イで検討したとおり、引用発明の「導管(54)」も、一次遮蔽(22)の側壁の開孔(52)を貫通するくだ(搬送管)であって、放出される放射線を遮蔽する必要があるものである点で、燃料搬送管と同様のものであるから、引用発明の「導管(54)」は、「原子燃料集合体および放射線を浴びた部品を原子炉格納容器の内部から外部へ搬送するための」「燃料搬送管」を含む上位概念を示すと認められる。
すると、相違点1は実質的な相違点ではない。

イ 上記相違点2について検討する。
引用発明の「輻射線遮蔽(34)」は、上記4(1)オで検討したとおり、タンクである可撓性の容器であるところ、一般に液体を収容する袋体において、耐久性の向上等のために二重構造とすることは常とう手段である。
したがって、引用発明の「輻射線遮蔽(34)」を二重構造となし、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることに格別の困難性はない。

ウ 上記相違点3について検討する。
引用発明の「貯槽R」は、減衰用液体を「輻射線遮蔽(34)」との間で循環させるものであるところ、一般に液体を循環させる手段において、液漏れ等を防ぐために気密シールされたものとなすことは常とう手段である。
したがって、引用発明の「貯槽R」を「輻射線遮蔽(34)」に対して気密シールされたものとなし、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることに格別の困難性はない。

エ 上記相違点4について検討する。
引用文献に記載はなくとも、引用発明の反応炉容器(20)が原子炉として稼働すれば熱を出し、反応炉容器(20)の外壁が熱膨張することは、本願優先日当時周知の事項であって、引用発明の「環状空間(52)」が、このような原子炉として稼働して熱を出した際の反応炉容器(20)の外壁の熱膨張に対応し得るものとすることは、当業者が発明を実施するに際して当然に考慮すべき事項である。
そして、引用発明の「貯槽R」は、「入口および出口管(38)(40)、モータMによつて駆動されるポンプP、および減衰用液体を満たした」「再循環装置」が有し、「容器は、使用中には、熱放散または他の理由のために必要であれば減衰用液体の循環を行なうことができ」るものであって、反応炉容器(20)の外壁の熱膨張によって「環状空間(52)」が閉じたり拡がったりするものであることは上記のとおりであるところ、引用発明の「輻射線遮蔽(34)」は、「一次遮蔽(22)と反応炉容器(20)の間の環状空間(26)内に一部が収容されて、減衰用液体(含水素流体(36))を満たした状態で、環状空間(26)の開口に架橋されている」から、当該「環状空間(52)」の動きに合わせて、反応炉容器(20)の間の環状空間(26)内に一部が収容された部分も圧搾されたり拡がったりすることは明らかである。
そうすると、引用発明は、当該「再循環装置」を動作させて、「貯槽R」が、反応炉容器(20)の外壁の熱膨張の結果環状空間(52)が閉じるにしたがって輻射線遮蔽(34)が圧搾されると輻射線遮蔽(34)から減衰用液体を受け、熱収縮の結果環状空間(52)が拡がるにしたがって輻射線遮蔽(34)に追加の減衰用液体を供給するようになっていると認められるから、相違点4は実質的な相違点ではない。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明に基づいて、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-25 
結審通知日 2016-01-26 
審決日 2016-02-09 
出願番号 特願2012-511828(P2012-511828)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村川 雄一  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 森林 克郎
松川 直樹
発明の名称 遊間放射線シールド  
代理人 市位 嘉宏  

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