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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G21F
管理番号 1316295
審判番号 不服2015-8058  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-04-30 
確定日 2016-06-20 
事件の表示 特願2013-202310「放射性物質汚染水の処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月13日出願公開、特開2015- 68703〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成25年9月27日の出願であって、平成26年7月8日付けで拒絶理由が通知され、同年8月29日に意見書が提出されたが、平成27年1月30日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年4月30日に拒絶査定不服審判請求ががなされ、その後、当審にて、平成28年1月28日付けで拒絶理由が通知され、同年3月15日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、平成28年3月15日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるものと認められるところ、請求項1に係る発明は、次のとおりのものである。
「放射性物質汚染水と粘土鉱物とを混合して膨潤液を得る膨潤化工程と、
前記膨潤液と、水硬性材料の水溶液とを混合して、可塑性を有する固体状混合物を得る混合工程とを備える放射性物質汚染水の処理方法。」(以下「本願発明」という。)

3 刊行物の記載
(1)引用文献1
当審において通知した拒絶の理由に引用した、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開昭55-147397号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
ア 「本発明は、HTO含有廃水が無機結合剤と混合され、その混合物が包装されてその中で硬化させられ、包装物と共に硬化された製品が海洋へ沈下されるようにしたトリチウム含有廃水を海洋へ沈める技術を改良する方法に関する。
HTOの形で放射性トリチウムを含有する廃水を除去するためには、往々、例えばセメントのような無機結合剤により予め硬化した後海洋への沈下が行われる。」(2頁左上欄1?9行)

イ 「本発明によれば、これらの目的は、次の工程をとることによつて達成される。
a)トリチウム水のみを或は人工放射性核種とトリチウム水との両者を含有する水を、10対1乃至4対1の範囲内の水対ベントナイトの質量比において、膨潤可能の吸湿性ベントナイトと混合すること、
b)約1.0乃至4.0の水・セメント値を有する硬化セメント或はコンクリートに硬化する乳状セメント或はモルタルを作るため、1対5より少なくないセメント対混合物の質量比で、セメント或はセメント・砂混合物を、a)より得た水・ベントナイト混合物へ添加すること、
c)或は上記a)およびb)両措置の代りに、1対9乃至1対lの範囲の質量比で、膨潤可能の吸湿性ベントナイトをセメントと混合し、これに引続き、約1.0乃至4.0の水・セメント値に対応する量において、トリチウム水のみを或は人工放射性核種とトリチウム水の両者を含有する水を添加すること、
d)前記b)或はc)より得られた乳状セメント(モルタル)を、合成物質或は金属材料より成る包装体の中へ挿入し、この包装体の中の乳状セメント(モルタル)を硬化させ、このようにして作られた製品を既知の仕方で海洋へ沈めること。」(2頁右上欄9行?左下欄15行)

ウ 「下表は、実質的に非膨潤性のコンクリートの添加と、強膨潤性ベントナイトの添加によるポートランドセメント350Fの水収容能力の上昇を示している。

ベントナイト含有率の極めて高い製品は、水含有量の高い場合に必然的に硬化が不充分である。固体物質中50%のベントナイトを有する製品においては、上記限界が水・固体比が2の場合(即ち水・セメント比が4の場合)に生ずる。
密度を1.3以下に低下させないという要求により、硬化性の水・固体混合物の適用可能性が更に制限される。
セメント製品の水・固体比を膨潤性ベントナイトの添加によつて高める方法の効果は該製品の体積の低減にはさほど見られないが、特に運搬費用の基準となる重量の低下に見られる。下表は、水に対する種々の水・固体比の場合の密度、体積および重量の相対的増加を示している。その場合セメントと膨潤性ベントナイトに対してはそれぞれ密度が3と仮定されている。

」(2頁右下欄下から4行?3頁右欄最下行)

エ 上記ウの表によれば、硬化性の水・固体混合物の適用可能性について、密度を1.3以下に低下させないものとして、水・固体比が0.33、0.5、0.8、1.0、1.2、1.5及び1.9のものが開示されるから、密度を1.3以下に低下させない水・固体比としては0.33ないし1.9が記載されているとしてよいといえる。

オ 引用発明
上記アないしエによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「人工放射性核種とトリチウム水との両者を含有する廃水を、10対1乃至4対1の範囲内の水対ベントナイトの質量比において、膨潤可能の吸湿性ベントナイトと混合して水・ベントナイト混合物を得る工程と、
約1.0乃至4.0の水・セメント値を有する硬化セメント或はコンクリートに硬化する乳状セメント或はモルタルを作るため、1対5より少なくないセメント対混合物の質量比で、セメント或はセメント・砂混合物を、前記水・ベントナイト混合物へ添加して、水・固体比が0.33ないし1.9の乳状セメント(モルタル)を得る工程と、
前記乳状セメント(モルタル)を、合成物質或は金属材料より成る包装体の中へ挿入し、この包装体の中の乳状セメント(モルタル)を硬化させ、このようにして作られた製品を既知の仕方で海洋へ沈める工程とからなる、
トリチウム含有廃水を海洋へ沈める方法。」

(2)同じく、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭51-69483号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
「本発明において使用されるセメントは、普通ポートランドセメント、高炉セメント、フライアツシユセメント、アルミナセメント、早強セメント、ジエツトセメントなど汚泥の性状や固化物の処分に応じて適当のセメントを用いる。・・・とくに汚泥がセメントで硬化しにくい場合などデンカQTのような急硬剤の併用は有効である。またAE剤、分散剤などはセメントの分散を良くし強度の向上に効果がある。セメントや添加剤などは粉末のままあるいは水に分散させて、あるいは水溶液の形で使用される。」(3頁左上欄15行?右上欄11行)

(3)同じく、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である特開昭61-117148号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
「本発明に用いられるセメントとしては、ポルトランドセメント、アルミナセメント、高炉セメント、白色セメント等あらゆる種類のセメントがあげられるが、入手の容易性等から一般的なポルトランドセメントが好ましく用いられる。
セメントには増量あるいは硬化物の強度のために骨材が添加されることが多いが、骨材の有無に関わらず、セメントは水と混練されてセメントスラリーとして用いること、セメント粉末のまま用いることのいずれの形態でも使用可能であるが、・・・本発明にとり好ましい。」(2頁左下欄9行?右下欄1行)

(4)同じく、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2002-307422号公報(以下「引用文献4」という。)には下記の記載がある。
「【0027】以下に示す表1は、本発明の製造方法の作用効果を確認するために行った室内試験の結果を示している。この室内試験では、水膨潤性物質Bとしてベントナイトを用い、水硬性セメントCには、高炉セメントB種を用いた。
【0028】本発明法では、水膨潤性物質Bと水Wと事前に混合・攪拌し、水膨潤性物質Bを十分に膨潤・分散させるための静置時間は、5分に設定した。水中落下による水の濁りは、1リットルのメスシリンダに水を入れ、上部から従来法(全材料一括投入方式)および本発明法で得られた水硬性混合物を静かに投下して、下方に落下させた際の、水の濁り具合を目視観察した結果である。
【0029】
【表1】

なお、表1中に示したσ_(7)およびσ_(28)は、水硬性混合物が硬化した際の、材齢7日と28日の一軸圧縮強度(N/mm^(2))の測定結果である。
【0030】表1に示した結果から、本発明法で製造される水硬性混合物Aは、ベントナイトの添加量が、従来法よりも大幅に少なく、ほぼ半分程度であるにもかかわらず、スランプフロー値が従来法よりも大きく、得られた水硬性混合物Aの粘性が向上していることが判る。」

(5)同じく、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2002-212555号公報(以下「引用文献5」という。)には下記の記載がある。
「【0022】実施例5?10及び比較例3
実施例5?10及び比較例3の各々において、表2に示されている膨潤力を有するベントナイトを水中に表2に記載の重量比で混合分散して、ベントナイト水性懸濁液を調製した。このベントナイト水性懸濁液に、表2に記載のブレーン比表面積を有するポルトラントセメント固形粉末を、表2に記載の含有量になる重量だけ混合して、注入材を製造した。この注入材のフロー値を実施例1と同様に測定し、また、その28日後の圧縮強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】比較例3において、可塑性が不良であって、実用し得ないものであった。」

(6)同じく、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2013-159494号公報(以下「引用文献6」という。)には下記の記載がある。
「【0017】
〔スランプ値、モルタルフロー値および可塑性〕
・・・
【0018】
対象がモルタルである場合は、上記スランプ値に代えてモルタルフロー値が採用される。施工性の面から打設箇所の想定温度T℃におけるモルタルフロー値が10.0cm以上に調整されていることが望ましく、15.0cm以上であることがより好ましい。一方、T℃におけるモルタルフロー値が25.0cm以上になると、可塑性が不十分となるので好ましくない。ただし、モルタルフロー値が25.0cm未満であっても配合によっては可塑性が不十分となる場合もある。したがって、打設箇所の想定温度T℃においてモルタルフロー値が10.0cm以上25.0cm未満、好ましくは15.0cm以上25.0cm未満となり、かつ用途に応じて十分な可塑性を呈するように配合調整することが望まれる。」

(7)同じく、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平11-310779号公報(以下「引用文献7」という。)には下記の記載がある。
「【0023】本発明は、上記のごとく予め調製したA液、B液をミルク状態で瞬時に混合する。A液のセメントミルク又はセメントエアミルクは、水溶液がセメントから遊離されるカルシウムイオンで過飽和の懸濁状態であり、プラスのカルシウムイオンで満たされている。
【0024】一方、B液のベントナイトミルクは、ベントナイトが膨潤し、マイナスイオンに帯電している。このようなミルク同士の混合によって、ベントナイト粒子表面のマイナス荷電をカルシウムプラスイオンが中和することにより、ベントナイト粒子の分子間引力による急激な凝集反応が発生し、瞬時に可塑化させることができるのである。
【0025】上記のように瞬間的に均一に可塑化するためにはミルク同士の混合が必須であり、上述したセメント・ベントナイト懸濁液の調製方法のように、ベントナイトミルクにセメント粉体を混合するのでは、カルシウムイオンの溶解に時間がかかるため、瞬時に可塑化させることは難しい。
【0026】なお、本発明におけるA液、B液の混合割合は、使用目的に応じて適宜決定されるものである。混練時間はハンドミキサーで15秒程度以下が好適であり、それ以上の混練では材料分離を生じ易くなるので好ましくはない。
【0027】調製された可塑性注入材のフロー値は日本道路公団規格試験法であるシリンダー法で80(自立)?150mmが好ましく、80?120mmがより好ましい。80?120mmでは可塑性注入材として最適であるうえ、水中打設又は流水のある場所でも材料分離が極めて少なく利用可能である。また、120?150 mm では流水等の影響を受けない場合、十分に可塑性注入材として使用可能であるが、水中打設に使用の場合、濁りや材料に亀裂が生じる可能性がある。150mm以上のものは通常のエアモルタル、エアミルクの流動性の性状に近く、限定注入等には適さない。」

4 対比・判断
(1)本願発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「人工放射性核種とトリチウム水との両者を含有する廃水」、「吸湿性ベントナイト」、「セメント」、「乳状セメント(モルタル)」及び「トリチウム含有廃水を海洋へ沈める方法」は、本願発明の「放射性物質汚染水」、「粘土鉱物」、「水硬性材料」、「混合物」及び「処理方法」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明の「人工放射性核種とトリチウム水との両者を含有する廃水を、10対1乃至4対1の範囲内の水対ベントナイトの質量比において、膨潤可能の吸湿性ベントナイトと混合して水・ベントナイト混合物を得る工程」は、本願発明の「放射性物質汚染水と粘土鉱物とを混合して膨潤液を得る膨潤化工程」に相当する。

ウ 引用発明の「約1.0乃至4.0の水・セメント値を有する硬化セメント或はコンクリートに硬化する乳状セメント或はモルタルを作るため、1対5より少なくないセメント対混合物の質量比で、セメント或はセメント・砂混合物を、前記水・ベントナイト混合物へ添加して、水・固体比が0.33ないし1.9の乳状セメント(モルタル)を得る工程」は、本願発明の「前記膨潤液と、水硬性材料の水溶液とを混合して混合物を得る混合工程」と、「前記膨潤液と、水硬性材料とを混合して混合物を得る混合工程」の点で一致する。

エ 上記アないしウによれば、両者は
「放射性物質汚染水と粘土鉱物とを混合して膨潤液を得る膨潤化工程と、
前記膨潤液と、水硬性材料とを混合して混合物を得る混合工程とを備える放射性物質汚染水の処理方法。」
である点で一致し、以下の各点で相違する。

(ア)混合工程において、膨潤液と混合する水硬性材料が、本願発明においては「水溶液」の形態であるのに対して、引用発明においては、その点の特定がない点(以下「相違点1」という。)。

(イ)「混合物」が、本願発明では、「可塑性を有する固体状混合物」であるのに対して、引用発明では、「水・固体比が0.33ないし1.9の乳状セメント(モルタル)」であって、「可塑性を有する固体状」と特定されない点(以下「相違点2」という)。

(2)判断
ア 上記相違点1について検討する。
(ア)引用発明の「添加する工程」は、「セメント」を、上記廃水・ベントナイト混合物へ添加して水・固体比が0.33ないし1.9の乳状セメント(モルタル)を得るものであるところ、引用文献2に「セメントや添加剤などは粉末のままあるいは水に分散させて、あるいは水溶液の形で使用される」(上記2(2))点及び引用文献3に「骨材の有無に関わらず、セメントは水と混練されてセメントスラリーとして用いること、セメント粉末のまま用いることのいずれの形態でも使用可能である」(上記2(3))点が記載されているとおり、セメントは、粉末のまま用いても、セメントを水と混練されてセメントスラリー又は水溶液の形で用いてもよいことは本件出願時に周知の事項にすぎない。

(イ)したがって、引用発明の「添加する工程」の状況に応じて、水・固体比が0.33ないし1.9の乳状セメント(モルタル)を得ることのできる範囲で、「セメント」を、セメントを廃水と混練したセメントスラリー又は水溶液の形で廃水・ベントナイト混合物へ添加する構成とし、すなわち、「水硬性材料」を「水溶液」の形とし、上記相違点にかかる本願発明の構成とすることに格別の技術的困難性は認められず、また、当該「添加する工程」の状況が「放射性物質汚染水の処理」であるか否かによって格別相違するものでもないから、このように構成することを阻害する要因も見当たらない。

(ウ)よって、引用発明において、上記周知の事項を踏まえて、上記相違点1にかかる本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得た事項である。

イ 上記相違点2について検討する。
(ア)引用発明の「水・固体比が0.33ないし1.9の乳状セメント(モルタル)」に関して、「モルタル」は、自己流動性の無い、通常の状態では変形しない程度の固体状のものを含むことが本願出願時の一般常識であるところ、引用発明の「水・固体比が0.33ないし1.9の乳状セメント(モルタル)」は、引用発明によれば下記aないしcの条件で配合されるものである。
a 水:ベントナイト(質量比)・・・10:1?4:1の範囲内
b 水:セメント値・・・約1.0?4.0
c セメント:混合物(質量比)・・・1:5より少なくない

(イ)ここで、水、ベントナイト及びセメントからなる「混合物」の配合比率と、「可塑性」の関係について、上記3(4)及び(5)の摘記事項から、引用文献4の従来法及び本発明法並びに引用文献5の実施例5?10について、水(W)、ベントナイト(B)及びセメント(C)からなる「混合物」について、水/ベントナイト(W/B)、水/セメント(W/C)、セメント/混合物(C/(W+B))及び水:固体比(W/(B+C))を、それぞれ当審にて求め、フロー値(mm)を合わせて、さらに、引用発明の水/ベントナイト(W/B)、水/セメント(W/C)、セメント/混合物(C/(W+B))及び水:固体比(W/(B+C))水:ベントナイト(質量比)とともにまとめると下記のとおりとなる(以下「表3」という。)。


(ウ)上記(イ)の表3から、引用発明の水、ベントナイト及びセメントからなる「水・固体比が0.33ないし1.9の乳状セメント(モルタル)」の配合比率に適合する配合比率である、「引用文献4の本発明法」、「引用文献5の実施例7」及び「引用文献5の実施例10」のセメント混合物は、フロー値がそれぞれ175、81、118mmであるところ、当該セメント混合物のフロー値であれば可塑性を有するものとなることは、上記引用文献6、7に記載されているとおりの本願出願当時周知の事項である。

(エ)そうすると、上記(ア)の引用発明の、水、ベントナイト及びセメントの配合比率が、水:ベントナイト=10:1?4:1、水:セメント=1.0?4.0、セメント:混合物=1:5より少なくない、である0.33ないし1.9の乳状セメント(モルタル)は、可塑性を有する固体状混合物である蓋然性が高いと認められる。

(オ)したがって、引用発明の「水・固体比が0.33ないし1.9の乳状セメント(モルタル)」は、「可塑性を有する固体状混合物」である点において、本願発明と相違は無く、上記相違点2は実質的な相違点ではない。

(3)請求人の主張について
請求人は、平成28年3月15日に提出した意見書の「(4)本願発明と引用発明との対比」において、概略下記のとおり主張する。
「しかしながら、本願発明は、水硬性材料を水溶液の形態で混合することで、可塑性を有する固体状混合物を得る混合工程を含むのに対して、引用発明1は、そのような混合方法の特定がない点において、本願発明と引用発明1とは相違しています。
次に、上記相違点について検討します。まず、引用文献2及び3には『水硬性材料を水溶液の形態で混合する』ことは記載されていますが、『水硬性材料を水溶液の形態で混合することで、可塑性を有する固体状混合物を得る』という上記相違点は記載されておらず、示唆すらもありません。従って、引用文献2及び3に記載の発明を引用発明1に如何様に組み合わせても、本願発明を容易になし得ることはできません。
また、審判長殿は、引用文献2及び3の記載に記載されているように、『セメントを粉末のまま用いても、セメントを水と混練させてセメントスラリー又は水溶液の形で用いてもよいこと』は周知の事項であると認めておられます。しかしながら、引用文献1、2及び3には、本願発明の『処理後に発生する処理物の取り扱いが容易である放射性物質汚染水の処理方法を提供する』という課題の記載は一切ありません。従って、このような課題の認識もなく、上記周知の事項の中から、単にセメントを水と混練させた水溶液の形を選択して、引用発明1に適用することのみを以て、『可塑性を有する固体状混合物を得る混合工程』を備える本願発明を容易になし得るとは認められません。
そして、本願発明は、このような混合工程を経ることによって、『可塑性を有する固体状の混合物が得られるから、該混合物を保管場所に合わせた形状にすることができ、保管スペースを確保しやすい。よって、処理後に発生する混合物の取り扱いが容易である』という引用発明にはない優れた効果を奏するものです。」
しかしながら、本願発明は上記2のとおりのものであって、上記(2)で検討したとおり、引用発明の「水・固体比が0.33ないし1.9の乳状セメント(モルタル)」は「可塑性を有する固体状混合物」ある点において、本願発明と実質的な相違はない。
また、「添加する工程」の状況が「放射性物質汚染水の処理」であるか否かによって格別相違するものでもないから、引用発明において、引用文献2及び3から把握できる周知技術を踏まえて、セメントを水溶液となした上で混合することを妨げる理由はなく、この点において、本願発明は、引用発明及び周知技術から、容易に想到し得たものであるといえる。
また、上記主張によっても、本願発明において、引用発明から当業者が予測困難な程の格別顕著な効果が奏されるものとは認められない。

(4)小括
以上の検討によれば、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-15 
結審通知日 2016-04-22 
審決日 2016-05-06 
出願番号 特願2013-202310(P2013-202310)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G21F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 藤原 伸二  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 松川 直樹
森林 克郎
発明の名称 放射性物質汚染水の処理方法  
代理人 中谷 寛昭  
代理人 藤本 昇  

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