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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1316424
審判番号 不服2014-8194  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-02 
確定日 2016-06-22 
事件の表示 特願2010-126734「深部体温上昇剤およびこれを含む浴用剤」拒絶査定不服審判事件〔平成23年12月15日出願公開、特開2011-251938〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本件出願の経緯
本件出願は、平成22年6月2日の特許出願であって、平成25年11月13日付けで拒絶理由が通知され、同年12月20日に意見書及び手続補正書が提出され、平成26年1月29日付けで拒絶査定され、同年5月2日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において平成27年11月12日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月8日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2.本件出願に係る発明について
本件出願の請求項1?5に係る発明は、平成28年1月8日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?5にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

【請求項1】
二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化第二鉄、酸化カルシウム、酸化ルビジウム、二酸化ジルコニウム、フッ素、五酸化二リン、塩素および三酸化硫黄の組成を含有する鉱石の粉末の組成物を含み、かつ浴用剤に用いることを特徴とする深部体温上昇剤。

3.本願発明と発明の詳細な説明の記載との関係について
(1)本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。

【0010】
これらの特許文献は、いずれも天然鉱石を含有する入浴剤を記載しているものの、深部体温を上昇させる効果を有するものではなく、保温効果を有するものでもなかった。

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者らは上記問題点を解決するために鋭意研究した結果、二酸化ケイ素を主成分とし、酸化アルミニウムおよび酸化第二鉄を含む天然鉱石を粉末加工した組成物を含有する浴用剤が、上記のような従来の浴用剤の欠点をことごとく解決することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化第二鉄および酸化カルシウムを含有する組成物を含むことを特徴とする浴用剤を提供する。
【0014】
また、本発明は、組成物が酸化ルビジウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、フッ素、五酸化二リン、塩素および三酸化硫黄からなる群より選択される成分をさらに含有することを特徴とする上記浴用剤を提供する。

【発明の効果】
【0018】
本発明の浴用剤は、皮膚に対し刺激性がなく、深部体温を高める効果を有する。また、本発明の浴用剤は、血行促進して保温効果、保湿効果を高めるという優れた効果を有する。

【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の浴用剤は、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化第二鉄および酸化カルシウムを含有する組成物を含む。また、本発明の浴用剤には、上記成分に加えて、酸化ルビジウムおよび二酸化ジルコニウムを含む組成物を使用することができる。さらに、フッ素、五酸化二リン、塩素および三酸化硫黄を含む組成物を使用することができる。また、本発明の浴用剤は、上記成分に加えて、その他の微量成分を含む組成物を使用することができる。

【0030】
上記のような組成物は、たとえば天然に存在する鉱石から得ることができる。たとえば、東北地方(福島)および南アルプス(岐阜・愛知)を産地とする長石または石英斑岩を粉末にした材料を使用することができる。長石または石英斑岩は、鉱石成分として比較的多くの二酸化ケイ素を含んでおり、本発明の浴用剤に使用するために適している。実施例に示したように、福島県近隣を産地とする長石は、以下の組成を有する:65.9%の二酸化ケイ素、18.2重量%の酸化アルミニウム、11.8重量%の酸化カリウム、2.1重量%の酸化ナトリウム、0.113重量%の酸化マグネシウム、0.083重量%の酸化第二鉄、0.071重量%の酸化カルシウムおよび1.733重量%のその他の成分。
【0031】
また南アルプス(岐阜・愛知)を産地とする長石は、以下の組成を有する:84.2%の二酸化ケイ素、8.1重量%の酸化アルミニウム、3.4重量%の酸化カリウム、1.9重量%の酸化ナトリウム、0.2重量%の酸化マグネシウム、0.8重量%の酸化第二鉄、0.7重量%の酸化カルシウムおよび0.7重量%のその他の成分。
上記長石は、天然鉱石を採鉱し、以下の処理をした鉱石である:疎粉砕、中粉砕、分級、乾式粉砕、湿式粉砕、乾燥焼成および微粉砕。これらの工程を経て、粒径6μ以下でのSiO・Al焼成物が作成する。上記工程は、当業者に公知の任意の方法で行うことができ、当業者であれば、適切な処理条件を容易に設定することができるであろう。たとえば、乾燥焼成は、約300℃で行うことにより、上記組成を有すSiO・Al焼成物を得ることができるであろう。このようにして得られた鉱石は、本発明の浴用剤のための組成物に適しており、これらの粉砕および焼成した鉱石を本発明の浴用剤に使用することができる。
【0032】
また、上記範囲の組成を有する組成物は、天然に存在する材料を混合して製造することもできる。たとえば、上記南アルプス(岐阜・愛知)および東北地方(福島)の鉱石に由来する粉末を混合した組成物を使用することもできる。このような組成物は、市販の鉱石粉末を使用することもできる。

【実施例】
【0047】
以下、実施例に基づいて本発明の浴用剤の効果を詳細に説明する。
【0048】
実施例1
材料
本実施例では、組成物として、福島県を産地とする長石の粉末を使用して実験を行った。この長石を上記したように乾燥焼成および微粉砕することによって得られた組成物を組成物Fと呼ぶ。また、この長石は、以下の組成を有する:
65.9%の二酸化ケイ素、
18.2重量%の酸化アルミニウム、
11.8重量%の酸化カリウム、
2.1重量%の酸化ナトリウム、
0.113重量%の酸化マグネシウム、
0.083重量%の酸化第二鉄、
0.071重量%の酸化カルシウムおよび
1.733重量%のその他の成分。
【0049】
また、その他の成分は、以下の組成を有する:
1.41重量%のフッ素、
0.128重量%の五酸化リン、
0.076重量%の塩素、
0.054重量%の酸化ルビジウム
0.034重量%の三酸化硫黄(無水硫酸)および、
0.031重量%の二酸化ジルコニウム。
【0050】
1.本発明の浴用剤の有無における皮膚の表面温度変化
方法
上記組成物の効果を調べるため、20lの簡易浴槽を40℃に保ち、組成物の有無による皮膚の表面温度変化を測定して比較した。上肢を組成物1%水溶液および水道水(温水)に10分間浸け、それぞれの浴前、浴後の皮膚温度変化をサーモグラフィー(日本電気製)にて測定した。
【0051】
結果
図1は、本実験の結果を示す。腕浴前は、両者に大きな温度差は見られないが、腕浴後は、組成物の1%溶液の温度が1.2℃上昇している。したがって、上記組成物の1%溶液は、さら湯よりも保温効果が高いことが分かる。
【0052】
実施例2
2.本発明の入浴剤の有無における深部体温の変化
方法
180lのお湯に対して上記組成物を250mgおよび500mg添加した場合と、添加していない場合の被験体の深部体温を測定した(水温41±1℃、室温25±1℃、湿度50±5%)。成人健常人8名の被験者に対して、それぞれ組成物を添加した場合および添加していない場合について実験を行った。深部体温は、被験者が入浴してから15分間の間1分おきに測定し、入浴後5分間までは1分おきに測定し、そして入浴後6分からは2分おきに測定した。測定は、左胸にプローブを装着することによって行った。
【0053】
結果
図2は、本実験の結果を示す。図中、丸は、水道水を示し、三角は、組成物250mgでの結果を示し、および四角は、組成物500mgでの結果を示す。それぞれ、8人の被験者の入浴してからの深部体温変化の平均値を示してある。深部体温は入浴により上昇し、出浴後緩やかに下降して行く。上記組成物を添加したお湯では、いずれの時点においても上記組成物を添加していないさら湯よりも深部体温が高いことが分かる。
【0054】
3.本発明の浴用剤の評価
方法
上記8人の被験体に対し、入浴中のお湯の感触、香り、残香性、入浴後の暖まり感、および総合評価に関して評価した。
【0055】
実施例2
浴用剤(全身浴用) 重量%
組成物F 0.1
炭酸水素ナトリウム 1.0
炭酸ナトリウム 5.0
香料 1.0
オレイン酸PDE(20)ソルビタン 0.05
色素 微量
無水硫酸ナトリウム TO 100
【0056】
結果
図3は、本実験の結果を示す。8人の被験者による各評価の平均値を示してある。上記組成物を添加したお湯では、いずれの評価においても上記組成物を添加していないさら湯よりも評価が高いことが分かる。
【0057】
実施例3
本実施例では、組成物として、以下の化合物の粉末を混合した:
84.2重量%の二酸化ケイ素、
8.1重量%の酸化アルミニウム、
3.4重量%の酸化カリウム、
1.9重量%の酸化ナトリウム、
0.2重量%の酸化マグネシウム、
0.8重量%の酸化第二鉄、
0.7重量%の酸化カルシウムおよび、
0.7重量%のその他の成分
組成物Gとする。これを用いて以下の浴用剤を常法に準じて作成した。
【0058】
浴用剤(部分浴用) 重量%
組成物G 2.5
炭酸水素ナトリウム 40.0
塩化ナトリウム 5.0
塩化カリウム 1.0
香料 1.0
オレイン酸PDE(20)ソルビタン 0.03
色素 微量
無水硫酸ナトリウム TO 100
【0059】
結果を示していないが、上記組成物を添加したお湯では、いずれの評価においても上記組成物を添加していないさら湯よりも評価が高かった。

(2)このような発明の詳細な説明の記載と本願発明との関係について検討する。
段落【0013】及び【0014】には、本願発明に係る「二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化第二鉄、酸化カルシウム、酸化ルビジウム、二酸化ジルコニウム、フッ素、五酸化二リン、塩素および三酸化硫黄の組成を含有する鉱石の粉末の組成物」を含む浴用剤について記載されているが、このような組成物としては、段落【0030】及び【0048】?【0049】(実施例1)に記載の「福島県(近隣)を産地とする長石の粉末」(組成物F)が具体的に記載されているにすぎない。
なお、段落【0031】に記載の「南アルプス(岐阜・愛知)を産地とする長石」は、実施例3の組成物Gを参酌しても、「酸化ルビジウム、二酸化ジルコニウム、フッ素、五酸化二リン、塩素および三酸化硫黄」を含むことについて示されていないので、本願発明で特定する鉱石に該当するものということはできない。

ところで、「深部体温上昇剤」としての用途については、実施例2の「2.本発明の入浴剤の有無における深部体温の変化」(段落【0052】?【0053】)に示されているとおりであるが、この用途は、あくまでも組成物Fとしてして示された以下の組成の長石の粉末についてのものと言える。
「65.9%の二酸化ケイ素、
18.2重量%の酸化アルミニウム、
11.8重量%の酸化カリウム、
2.1重量%の酸化ナトリウム、
0.113重量%の酸化マグネシウム、
0.083重量%の酸化第二鉄、
0.071重量%の酸化カルシウム、
1.41重量%のフッ素、
0.128重量%の五酸化リン、
0.076重量%の塩素、
0.054重量%の酸化ルビジウム
0.034重量%の三酸化硫黄(無水硫酸)および、
0.031重量%の二酸化ジルコニウム」
そして、用途に係る深部体温上昇がどのような作用により生じるのかについては、発明の詳細な説明に何も記載されていないから、単に本願発明で特定するような「二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化第二鉄、酸化カルシウム、酸化ルビジウム、二酸化ジルコニウム、フッ素、五酸化二リン、塩素および三酸化硫黄の組成を含有する鉱石の粉末の組成物」を含むだけで同様の効果を奏することは明らかではない。
なお、仮に、実施例3の組成物Gが、段落【0057】に示された組成に加え、「酸化ルビジウム、二酸化ジルコニウム、フッ素、五酸化二リン、塩素および三酸化硫黄」が合計で0.7重量%含まれるものであり、そのような組成を有する組成物Gを用いた場合にさら湯より評価が高いものであるとしても、そのことは組成物Gで得られる効果にすぎないので、上記判断に変わりはない。
この点に関し、請求人は平成28年1月8日付け意見書にて、
「鉱石は非常に多種多様であり、鉱石の中に遠赤外線を放射するものがあることが知られていたとしても、多数の鉱石の中から深部体温上昇効果がある鉱石を見出すことは、たとえ当業者でも容易ではありません。本願発明の組成物に深部体温上昇効果があることを見出すためには、非常に多大な試行錯誤を要するため、当業者であっても本願発明に容易に想到し得ません。」
と主張していることからみても、「福島県(近隣)を産地とする長石の粉末」(組成物F)を用いた浴用剤に深部体温上昇効果が見出されたとしても、本願発明に係る「二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化第二鉄、酸化カルシウム、酸化ルビジウム、二酸化ジルコニウム、フッ素、五酸化二リン、塩素および三酸化硫黄の組成を含有する鉱石の粉末の組成物」であれば、深部体温上昇効果があるということは当業者が理解できることではない。

さらに、発明の詳細な説明の記載から見て、浴用剤に用いる「深部体温上昇剤」としての効果についても、以下に示すとおり不明なものである。
まず、本願発明の浴用剤に用いる「深部体温上昇剤」とは、課題としての段落【0010】及び【0012】の記載や効果としての段落【0018】の記載から見て、「保温効果」を高めるためのものと解される。このことは請求人は意見書において、
「本願発明は、深部体温を上昇させることによって従来の浴用剤よりも優れた保温効果を発揮するものであり、顕著な効果を有しています。」
と主張していることにも沿うものである。
そして、組成物Fのみを入浴剤として用いた場合に、実施例2の「2.本発明の入浴剤の有無における深部体温の変化」(段落【0052】?【0053】及び【図2】)で示されたとおり、さら湯よりも深部体温が高くなることは理解できるとしても、実際の浴用剤(例えば、「3.本発明の浴用剤の評価」(段落【0054】?【0056】で使用されたもの)として使用した場合にどのような効果が得られるのかは明らかではない。すなわち、【図3】によれば、深部体温上昇と密接に関係すると思われる「入浴後の暖まり感」は、組成物Fの有無によって差がないことが示されている。この試験で使用した「浴用剤」には、段落【0055】に示されているとおり、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、無水硫酸ナトリウムが配合されているが、これらの成分に保温作用があることは周知である(要すれば、先の拒絶理由通知書でも提示した、《日本化粧品技術者会編、「最新化粧品科学 -改訂増補II-」、平成4年、薬事日報社、199頁》参照)。したがって、さらに組成物Fを配合しても、周知の保温作用を有する成分が配合された浴用剤を超える「入浴後の暖まり感」は得られず、浴用剤に用いる「深部体温上昇剤」として特段の「保温効果」が得られるものでもない。
そうすると、本願発明の深部体温上昇剤は、保温効果を高めるという上記課題を解決したものということはできない。

(3)したがって、発明の詳細な説明には、本願発明に係る「二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化マグネシウム、酸化第二鉄、酸化カルシウム、酸化ルビジウム、二酸化ジルコニウム、フッ素、五酸化二リン、塩素および三酸化硫黄の組成を含有する鉱石の粉末の組成物」が「浴用剤に用いる深部体温上昇剤」として有用であることまでは記載されているということはできず、本願発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

4.むすび
以上のことから、本件出願の請求項1に係る発明は発明の詳細な説明に記載したものではなく、本件出願は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項について、また他の理由について検討するまでもなく、本願は上記理由により拒絶すべきものである。
よって、上記結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-04-25 
結審通知日 2016-04-28 
審決日 2016-05-10 
出願番号 特願2010-126734(P2010-126734)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 菅野 智子  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 関 美祝
小久保 勝伊
発明の名称 深部体温上昇剤およびこれを含む浴用剤  
代理人 相原 礼路  

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