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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1316435
審判番号 不服2014-24987  
総通号数 200 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2016-08-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-05 
確定日 2016-06-22 
事件の表示 特願2011-529360「リスペリドン送達用埋め込み可能型装置およびその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月 8日国際公開、WO2010/039722、平成24年 2月16日国内公表、特表2012-504146〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、2009年9月29日(パリ条約による優先権主張 2008年9月30日、2008年11月24日 いずれも米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成25年11月7日付け拒絶理由通知に対して平成26年2月12日付けで手続補正書及び意見書が出されたが、同年7月30日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年12月5日に拒絶査定不服審判が請求され、同年12月24日付けで審判請求書の請求の理由についての手続補正がされた。

2.本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成26年2月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により以下のように特定されるものである。

「リスペリドンを長期間にわたって制御放出して局所性または全身性薬理効果を生じさせる薬物送達装置であって、
a)中空空間を形成するように成形されたポリウレタン系ポリマー、および
b)リスペリドンと場合により1つ以上の医薬的に許容される担体とを含む処方物を含む固形医薬処方物
を含み、
前記固形医薬処方物が、前記中空空間内に収容され、
前記装置が、埋め込み後、前記装置からのリスペリドンの所望の放出速度を生じさせる、
薬物送達装置。」

3.引用例の記載事項
ア 引用例A
原審の拒絶査定の理由で引用された、本願の優先権主張日の前に頒布された刊行物である引用例A(特表2007-502139号公報、拒絶査定の理由における文献2)には次の記載がある。

(ア)「局所的又は全身の薬学的効果をもたらすように、ある長期間、調節された割合で1若しくはそれ以上の薬物を放出するための薬物輸送装置であって、前記薬物輸送装置は、
i)少なくとも1つの活性成分と、任意で
ii)少なくとも1つの薬学的に許容な担体と、
iii)前記容器を完全に囲うポリウレタンを基とするポリマーと
を有する容器を持つものである。」(請求項1)

(イ)「【0001】
本発明は、薬物輸送装置の分野に関するものであり、より明確には、ポリウレタンを基とするポリマーから作られる移植可能な薬物輸送装置に関するものである。」(段落【0001】)

(ウ)「【0007】
本発明の概略
本発明の目的は、ポリウレタンを基とする長期薬物輸送装置を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、生体における薬物または他の化合物の輸送のための、生物学的適合性があり、生物学的に安定なポリウレタンを基とする装置を提供することである。」(段落【0007】、【0008】)

(エ)「【0033】
ポリウレタンを基とするポリマーの前記素晴らしい諸特性を利用して、この発明は、局所的又は全身の薬学的効果をもたらすように、薬物類を、ある長期間調節された割合で放出する為の薬物輸送装置として、ポリウレタンを基とするポリマーを用いる。前記薬物輸送装置は、好ましくは、ポリウレタンを基とするポリマーによって囲まれた円柱状のある容器で構成され、それを通して、前記容器内の前記薬物の輸送速度を調節する。前記容器は、活性成分と、任意で薬学的に許容な担体を含む。前記担体は、前記ポリマーを通した前記活性成分の拡散を促進し、前記容器内の前記薬物類の安定性を確保するように調製される。
【0034】
本発明は、下記の目的を達成できる薬物輸送装置を提供し、前記目的は、治療効果を最大限にし、不要な副作用を最小限とするように調節された放出速度(0オーダーの放出速度)、その治療を終えることが必要なときの前記装置を回収する簡単な方法、吸収時の変化が少なく、生物学的利用性が大きいこと、第一通過代謝(first pass metabolism)でないことである。
【0035】
前記薬物の放出速度は、円柱状の容器装置(カートリッジ)に適用される場合、Fickの拡散法則(Fick’s Law of Diffusion)に規定される。下記の方程式は、種々のパラメータ間の相関を示している。
【0036】
【数1】

【0037】
ここにおいて、
【0038】
【数2】

【0039】
前記透過係数は、主に、前記ポリマーの親水性/疎水性、前記ポリマーの構造、薬物と前記ポリマーの相互作用によって規定される。前記ポリマーと前記活性成分が選択されれば、pは定数となり、前記円柱状装置が製造されればh,r_(o),及びr_(i)が決まり一定となる。ΔCは、前記容器内の前記担体によって一定に維持される。
【0040】
できるだけ正確に前記装置の幾何構造を保つために、好ましくは前記円柱状装置は、熱可塑性ポリウレタンポリマー用の精密な成型工程又は精密な塑造工程によって、及び熱硬化性ポリウレタンポリマー用の反応注入塑造又はスピン鋳造工程によって製造されることができる。
【0041】
前記カートリッジは、一端が閉じているか、又は両端が開いているように作ることができる。前記開口端は前もって準備された端部プラグで差し込まれて、なめらかな端部と堅固な封印を実現する。前記固体の活性体と担体は、前記活性体の装填を最大化とするように小丸薬形態に圧縮することができる。」(段落【0033】?【0041】)

(オ)「【0043】
前記カートリッジが充填された容器で両端で封印されると、前記カートリッジはある一定の輸送速度とするためにある適切な期間、予備処理(conditioned)され、起動(primed)される。
【0044】
前記薬物輸送装置の予備処理には、前記容器を取り囲むポリウレタンを基とするポリマー中に前記活性体(薬物)を装填することを含む。前記起動は、ポリウレタンを基とするポリマー中への前記薬物の装填を止めるようになされ、その結果、前記移植物の実際の使用の前の前記活性体の損失を防ぐ。前記予備処理と起動工程に用いられる条件は、実施される活性体、温度、および媒体に依存する。前記予備処理と起動の条件は、幾つかの例では同じである。
【0045】
前記薬物輸送装置の準備工程における前記予備処理と起動工程は、ある特定の薬物の決められた放出速度が得られるようになされる。親水性薬物を含む移植物の予備処理と起動工程は、好ましくは水性媒体中で実施され、より好ましくは塩類溶液中である。疎水性薬物を含む移植物の予備処理と起動工程は、通例オイルを基とする媒体のような疎水性媒体中で実施される。予備処理と起動工程は、3つの特定の因子、すなわち温度、媒体、期間を調節することによって実施される。
【0046】
前記薬物輸送装置の予備処理と起動工程が、前記装置が置かれる媒体に影響されることは、当業者であれば理解できるであろう。前述のように、親水性薬物は好ましくは水性溶液、より好ましくは塩類溶液中で予備処理され、起動される。例えば、ヒストレリン(Histrelin)とナルトレキソン(Naltrexone)移植物は、塩類溶液中で予備処理され起動されているが、より好ましくは、0.9%ナトリウム含有の塩類溶液中で予備処理され、1.8%塩化ナトリウム含有の塩類溶液中で起動される。」(段落【0043】?【0046】)

(カ)「【0053】
輸送される前記薬物(活性体)には、中枢神経系、精神精力剤、精神安定剤、抗痙攣剤(anti-convulsants)、筋弛緩剤、抗パーキンソン薬、鎮痛剤、抗炎症剤、麻酔薬、抗痙攣剤(anntispasmodic)、筋収縮剤、抗微生物剤、抗マラリア剤、ホルモン剤、交感神経作用薬、心臓血管、利尿剤、抗寄生物剤などで作用することができる薬物類が含まれる。」(段落【0053】)

(キ)「【0059】
所望の特性に応じて、多価アルコールの骨格の修飾によって、前記ポリウレタンポリマー鎖中に、種々の官能基類を導入することができる。前記装置が水溶性薬物の輸送に用いられるとき、前記ポリマーの親水性を増すために前記多価アルコール中に、イオン基、カルボキシル基、エーテル基、水酸基のような親水性ペンダント基が組み込まれる(例えば、米国特許番号第4,743,673号と米国特許番号第5,354,835号)。前記装置が疎水性薬物の輸送に用いられるとき、前記ポリマーの疎水性を増すために前記多価アルコール中に、アルキル基、シロキサン基のような疎水性ペンダント基が組み込まれる(例えば、米国特許番号第6,313,254号)。前記活性体の放出速度もまた、前記ポリウレタンポリマーの親水性/疎水性によって調節することができる。」(段落【0059】)

(ク)「【0060】
適切なポリウレタンポリマーが選択されたら、次の工程は、前記円柱状移植物を作る最良の方法を決定することである。
【0061】
熱可塑性ポリウレタン類では、精密な成型及び注入塑造が、一定の物理的大きさをもち2つの開口端を有する中空管(図1参照)を製造するための好ましい選択である。前記容器は、活性体と担体を含む適切な製剤で自由に装填されるか、または前記活性体の装填を最大にするために前もって準備された小丸薬で充填されることもできる。前記中空管中への前記製剤の装填前に、まず1つの開口端が封印される必要がある。2つの開口端を封じるために、二つの前もって準備された端部プラグ(図2参照)が用いられる。封印工程は、熱又は溶媒又は前記両端を封印する他の手段を利用することによって達成されることができ、不変であることが好ましい。
【0062】
熱硬化性ポリウレタン類では、硬化メカニズムに応じて、精密な反応注入塑造又はスピン鋳造が好ましい選択である。硬化メカニズムが熱によって実施される場合には、反応注入塑造が用いられ、硬化メカニズムが光及び/又は熱によって実施される場合には、スピン鋳造が用いられる。1つの開口端を有する中空管(図3参照)は、スピン鋳造によって作られることが好ましい。二つの開口端を有する中空管は、反応注入塑造によって作られることが好ましい。前記容器は、熱可塑性ポリウレタンの場合と同様の方法で装填されることができる。
【0063】
好ましくは、1つの開口端を封印するために、適切な光開始性及び/又は熱開始性の熱硬化性ポリウレタン製剤が、前記開口端を満たすように使用され、これは光及び/又は熱で硬化される。
【0064】
より好ましくは、前もって準備された端プラグと前記開口端の界面に、適切な光開始性及び/又は熱開始性熱硬化性ポリウレタン製剤を適用することによって、前もって準備された端部プラグも前記開口端を封じるために使用することができ、それは、光及び/又は熱、又は前記端部を封じる他の手段によって硬化され、不変であることが好ましい。
【0065】
最後の工程には、前記活性体類に必要な輸送速度を達成するように、前記移植物類を呼び処理し起動させる工程が含まれる。活性成分の種類、親水性か疎水性かによって、適切な予備処理用と起動用媒体が選択される。水を基とする媒体が親水性活性体に好ましく、オイルを基とする媒体が疎水性活性体に好ましい。
【0066】
当業者であれば容易にわかるように、本発明の概念から逸脱することなく、本発明の好適な例に多くの変更が加えられることができる。ここに含まれる全ての事項は本発明の説明に役立つものと考えられ、それに限定することを意図するものではない。」(段落【0060】?【0066】)

(ケ)

(図1?3)

(コ)「【実施例1】
【0067】
テコフィリック(Tecophilic)ポリウレタンポリマー管が、Thermedics Polymer Productsによって供給され、精密な成型法によって製造される。テコフィリックポリウレタンは、乾燥樹脂重量の150%までの種々の平衡含水量に調合することができる脂肪族ポリエーテルを基とする熱可塑性ポリウレタンの系統群である。成型グレード組み立て(Extrusion grade formulations)が、熱形成された管又は他の部品の物理的特性を最大限とするように設計される。
(中略)
Hp-60D-20は、厚さ0.30mm、内径1.75mmの管に成型されている。次に前記管は、25mmの長さに切断される。前記管の一端が、熱封印機を用いて熱で封じられる。その封印時間は1分未満である。4錠の酢酸ヒストレリン(histrelin)小丸薬が前記チューブ内に装填される。各小丸薬の重さは約13.5mgであり、合計で54mgである。各錠は、98%のヒストレリンと2%のステアリン酸の混合物から構成される。前記管の第2の開口端も、第1の端部での場合と同様の方法で、熱で封じられる。装填された移植物は、次に、予備処理されて起動される。予備処理(conditioning)は、室温で、0.9%の塩類溶液(saline)中で1日間行われる。前記予備処理が完了したら、前記移植物は起動(priming)を受ける。前記起動は、室温で、1.8%の塩類溶液中で1日間行われる。各移植物は、人体で見受けられるpHに類似して選択された媒体中で、in vitroで試験される。選択された媒体の温度は、試験期間中、約37℃に保たれた。放出速度を図4に示す。」(段落【0067】?【0070】)

(サ)「【実施例2】
【0072】
HP-60D-35は、厚さ0.30mm、内径1.75mmの管に成型される。次に前記管は、32mmの長さに切断される。前記管の一端が、熱封印機を用いて熱で封じられる。その封印時間は1分未満である。6錠のナルトレキソン(naltrexone)の小丸薬が前記管内に装填され、前記管の両開口端が熱で封じられる。各錠は重さが約15.0mgで、合計で91mgである。前記管の第2の開口端が、第1の端部での場合と同様の方法で、熱で封じられる。装填された移植物は、次に予備処理されて起動される。予備処理は、室温で、0.9%の塩類溶液中で1週間行われる。前記予備処理が完了したら、前記移植物は起動を受ける。起動は、室温で、1.8%塩類溶液中で1週間行われる。各移植物は、人体において見受けられるpHに類似して選択された媒体中で、in vitroで試験される。選択された媒体の温度は、試験期間中、約37℃に保たれた。放出速度を図5に示す。」(段落【0072】)


イ 引用例B
原審の拒絶査定の理由で引用された、本願の優先権主張日の前に頒布された刊行物である引用例B(国際公開第2008/070118号、上記拒絶理由通知書における文献1)には次の記載がある。なお、引用例Bは英語で記載されているので、引用例Bに対応する日本語特許文献である特表2010-511713号公報(以下、「対応文献」という。)の記載をもって訳文とする。

(ア)「1.上文で定義された薬物及びCYSCポリマーを少なくとも1つ含む医薬製剤。」(請求項1)

(イ)「5.前記CYSCポリマーが、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、ポリ‐N‐アルキルメタクリルアミド、ポリアルキルアクリレート、ポリフルオロアクリレート、ポリ‐N‐アルキルアクリルアミド、ポリアルキルオキサゾリン、ポリアルキルビニルエーテル、ポリアルキル1,2‐エポキシド、ポリアルキルグリシジルエーテル、ポリビニルエステル、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリマレイミド、ポリ‐α‐オレフィン、ポリ‐p‐アルキルスチレン、ポリアルキルビニルエーテル、ポリエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリリン酸塩、ポリウレタン、ポリシラン、ポリシロキサン、及びポリアルキルホスファゼンからなる群から選択される、請求項1に記載の製剤。」(請求項5)

(ウ)「18.前記薬物が、抗疼痛剤、抗精神病薬、抗炎症薬、ホルモン、コレステロール降下薬、抗骨粗鬆症薬、抗血管形成剤、及び避妊薬からなる群から選択される薬物である、請求項1に記載の製剤。
19.前記製剤が、対象内に移植された際に、in vivoで少なくとも30日の期間にわたって治療的有効量の薬物を前記対象に連続的に放出する、請求項18に記載の製剤。
20.前記薬物が、リスペリドン又は薬理学的に活性のあるその誘導体、同族体、又は代謝産物である、請求項18に記載の製剤。」(請求項18?20)

(エ)「技術分野
本発明は、薬物送達用のポリマー系に関する。
背景技術
公知の薬物送達用ポリマー系は多数存在する。所望の場所で、所望の時間に、所望の速度の送達を得ることは、継続的な課題である。所望の速度とは、例えば、比較的長期間にわたる安定した速度であってよく、及び/又は比較的短期間にわたる比較的迅速な速度であってよい(「ボーラス」送達)。
発明の概要
本発明者らは、本発明により、本明細書中ではCYSCポリマー(結晶化可能側鎖ポリマーの略語)と呼ばれるある種のポリマーと薬物との結合を介して、薬物の有用な送達が得られることを発見した。」(1頁10?20行、対応文献の段落【0002】?【0004】)

(オ)「「CYSCポリマー」(結晶性側鎖ポリマーの略語)という用語は、本明細書中では、以下のポリマーとして定義される;
(1) 以下の部分を少なくとも1つ含むポリマー:
(i) 式
‐‐b?Cy‐‐
を有する部分、
(ii) 以下の反復単位の一部を形成する部分、:
(a) 上記ポリマーのポリマー骨格の少なくとも一部を提供する反復単位、
及び
(b) 下記(1)の式を有する反復単位
及び/又は
(iii) 下記の式(2)を有するポリマー骨格の末端単位の少なくとも一部を形成する部分

式中、Y_(Ch)は、CYSCポリマーの骨格の二価性部分形成部であり、
Y_(term)は、CYSCポリマーの骨格の末端における一価性部分であり、
bは、Cy部分をポリマー骨格に連結させる結合又は部分であり、そして、
Cyは、CYSCポリマーに結晶化度を提供するために、他の部分(Cy部分であってもよい)と結合可能な一価性部分である;
並びに、
(B)少なくとも0℃の結晶融解温度、Tpを有し、Cy部分の結合に起因する少なくとも5J/gの融解熱(Tp及び融解熱は、以下で記述されるようにDSCで測定される)を有するポリマー。
本明細書中では、部分-b‐‐Cyは、‐‐Rc部分とも呼ばれ、つまりRc部分は、-b‐‐Cyと同義である。上記の式(2)の部分を含有するCYSCポリマーは、本明細書中では、エンドキャップ(ECC)ポリマー(end capped polymer)と呼ばれることがある。
部分Y_(Ch)、Y_(term)、b、及びCyは、任意の種類であってよく、複数の式(1)の部分、並びに/又は複数の式(2)の部分を含有するCYSCポリマーにおいては、Y_(Ch)、Y_(term)、b、及びCyは、同一であってもよく又は異なっていてもよい。種々多様なそのような部分を下記に記載する。CYSCポリマーは、式(1)及び(2)の部分に加えて、異なる式を有する反復単位及び/又は末端単位を自由選択的に含有できる。単なる例として、Y_(Ch)は、

部分であってよく、Y_(term)は‐‐CH_(2)?CH_(2)-部分であってよく、bは‐CO_(2)‐部分であってよく、Cyは、18個の炭素原子を含有するn‐アルキル部分であってよい。
本明細書中で、式、-Y?又は-Y(bCy)?又は-Y(Rc)‐‐の部分を参照する場合、‐‐Y‐‐は、Y_(ch)又はY_(term)であってよい。」(2頁5行?3頁18行、対応文献の段落【0006】?【0011】)

(カ)「CYSCポリマーに結合した薬物は、例えば、制御された速度で及び/又は所望の場所で送達することができ、速度及び/又は場所は、例えば、薬物及びCYSCポリマーの結合を改変させる化学的及び/又は物理的条件により影響を受ける。その条件とは、例えば、CYSCポリマーに化学変化(例えば、任意の種類の化学的結合の弱化又は生成、例えば酸化、還元、又は水和)、及び/又は物理的状態の変化(例えば、任意の種類の物理的結合の弱化又は生成、例えば内部的又は外部的加熱により引き起こされる、例えば融解又は結晶化に起因する粘性の変化)を起こさせる環境であり得、特定のpH域を有する環境、酵素の存在を含む。「制御された速度」という用語には、連続的で持続性の速度、増加又は低下する速度、連続的若しくは非連続的な放出、又は実質的に一定した速度の維持が含まれるが、それらに限定されない。薬物は、例えばゼロ次、一次、又は二次放出速度論で放出できる。」(3頁19?30行、対応文献の段落【0012】)

(キ)「本発明の典型的な実施形態では、血漿中濃度で測定されるような(しかし代替的には臨床測定で測定されるような)薬物の治療的用量は、少なくとも1時間から少なくとも12か月にまで及ぶ期間にわたって放出されるだろう。徐放に好適な典型的な薬物には、例えば、抗疼痛剤(例えばモルヒネ類似体)、抗精神病薬(例えばリスペリドン)、抗炎症剤(例えばステロイド又はNSAID)、コレステロール降下薬(例えばスタチン)、骨粗鬆症薬(ビスホスホネート)、抗血管形成剤(例えば抗VEGF)、及び避妊薬が含まれる。避妊薬及び骨粗鬆症薬のようなある種の薬物の場合には、徐放は、1年を超える期間にわたって、例えば少なくとも2、3、4、又は5年にわたることが望ましい場合がある。先行する製剤(ノルプラント)は、3年の期間にわたって治療的用量の避妊薬を送達するために使用されている。長期間の徐放性製剤は、一般的には、体内に、例えば皮下に移植するために製剤されるだろう。
ある期間にわたって放出された薬物の量(重量)は、薬物の治療上有効な血漿中濃度、薬物の効力、及び種々の目的組織における滞留時間及び浄化速度を含む薬物動態にもちろん関連しよう。使用の際には、本発明の医薬組成物からの薬物放出速度は、移植後の最初の6(又は12又は24又は36)時間中、例えば、毎時10ng以下、又は代替的には50ng、100ng、500ng、1000ng、2500ng、若しくは5000ng以下、或いは他の実施形態では、毎時10μg、50μg又は100μg又は500μg又は1000μg以下であり得る。もちろん、所望の薬物放出速度は、薬物の効力、治療濃度域、及び半減期に依存しよう。例えば、リスペリドンは、約15ng/mlから約100ng/mlまでの血清中濃度を提供するように、ある期間にわたって放出されてよい。約4mg/日の放出(又は他の研究では、1mg/日から60mg/日の間)が、リスペリドンの適切な治療的血清中レベルを提供することが見出されている。」(51頁21?52頁12行、対応文献の段落【0185】、【0186】)

(ク)「精神活性剤(抗精神病剤)リスペリドン、(4‐[2‐[4‐(6‐フルオロベンゾ[d]イソオキサゾール‐3‐イル)‐1‐ピペリジル]エチル]‐3‐メチル‐2,6‐ジアザビシクロ[4.4.0]デカ‐1,3‐ジエン‐5‐オン)を含有する製剤の特定の1つの例は以下の通りである。リスペリドンは、CYSCポリマーと物理的に混合されてよく、又は免疫学的な遮蔽、半減期の増加、及び生物学的利用能の向上を提供するために、例えば界面活性剤、PEG、ヒト(又はウシ等)血清アルブミン、又はタンパク質等と事前に結合されていてもよい。製剤は、例えばトロカールによる皮膚下又は筋肉内への導入、又は製剤の融解温度上での注射による導入に好適な造形中実性移植片へと形成できる。約4mg/日のリスペリドン用量が、多数の患者の精神病エピソードを予防するのに十分であると考えられている。しかしながら、耐性及び有効性は個人間で大きく異なる場合がある。したがって、本発明は、1日から200日の期間にわたって1mg/日から60mg/日までを供給するように製剤されていてよい。移植剤形の利点は、服薬遵守の増加であり、精神病では主要な課題である。1つの実施形態では、ポリマーのTmを超えた温度で、例えば42℃から60℃の間で、粉末形態の薬物をCYSCポリマーと混合することにより、少なくとも50mgのリスペリドンが、単一の移植可能な剤形に製剤される。溶媒は必要ではない。混合物は冷却され、中実性の細長い又はほぼ球状の移植片が形作られる。他の実施形態では、単一の移植片可能な剤形に製剤されたリスペリドンの量は、少なくとも100mg、又は少なくとも200mg、又は少なくとも500mg、又は少なくとも1000mg、又は少なくとも1500mg、又は少なくとも2000mgである。幾つかの剤形では、薬物の総量は、3、4、又は5グラムまでであり得る。」(65頁17行?66頁4行、対応文献の段落【0238】)

(ケ)「リスペリドン移植片は、トロカールを使用して対象に皮下的に導入される。移植片は、少なくとも5、10、15、20、25、30、40、60、又は90日の期間にわたって、1日当たり1から60mgの間の平均速度(例えば、1、2、3、4、5、7、10、20、40、80、120、200、又は300mg以下)でリスペリドンを放出する。1つの典型的な実施形態では、移植は、少なくとも7日の期間にわたって1日当たり4から12mgの間の平均速度でリスペリドンを放出する。この期間中、所望の治療効果は、少なくともその時間の75%の間提供される。その後、移植片は除去されるか、又はそのままにされ時間と共に分解される。薬物のより大きなボーラスが所望の場合、移植片の上の皮膚局部を、任意の便利な手段により加熱できる。」(66頁5?12、対応文献の段落【0239】)

4.引用発明との対比
ア 引用発明
引用例Aは、薬物輸送装置の分野に関するもの、ポリウレタンを基とするポリマーから作られる移植可能な薬物輸送装置に関するものである(3ア(イ))。そして、引用例Aには、ポリウレタンを基とする長期薬物輸送装置を提供すること、及び生体における薬物または他の化合物の輸送のための、生物学的適合性があり、生物学的に安定なポリウレタンを基とする装置を提供することを目的とすることが記載されている(3ア(ウ))。
また、引用例Aには、局所的又は全身の薬学的効果をもたらすように、ある長期間、調節された割合で1若しくはそれ以上の薬物を放出するための薬物輸送装置であって、 i)少なくとも1つの活性成分と、任意でii)少なくとも1つの薬学的に許容な担体と、iii)前記容器を完全に囲うポリウレタンを基とするポリマーとを有する容器を持つ薬物輸送装置、及び前記容器が円柱状であることが記載されている(3ア(ア))。
さらに、引用例Aには、円柱状の容器装置(カートリッジ)を適用するとともに、当該カートリッジが一端が閉じているか、又は両端が開いているように作ることができ、前記開口端が前もって準備された端部プラグで差し込まれて、なめらかな端部と堅固な封印を実現すること(3ア(エ))、円筒状移植物とするためにポリウレタン類で中空管を製造し、その内部に活性体と担体を含む製剤を装填し、開口端を封印すること(3ア(ク)、3ア(ケ))が記載されている。
ここで、引用例Aに記載された円柱状の容器を中空管とした場合、当該円柱状の容器は中空状の容器であるといえる。
そうすると、引用例Aには、「局所的又は全身の薬学的効果をもたらすように、ある長期間、調節された割合で1若しくはそれ以上の薬物を放出するための薬物輸送装置であって、 i)少なくとも1つの活性成分と、任意でii)少なくとも1つの薬学的に許容な担体と、iii)前記容器を完全に囲うポリウレタンを基とするポリマーとを有する中空管状の容器を持つ薬物輸送装置」(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

イ 本願発明と引用発明との対比
引用発明の薬物輸送装置は局所的又は全身の薬学的効果をもたらすように、薬物類をある長期間調節された割合で放出するから(3ア(ア)、3ア(エ))、当該装置は薬物類を長期間にわたって制御放出して局所性または全身性薬理効果を生じさせる薬物送達装置であるといえる。
また、引用発明の薬物輸送装置において、ポリウレタンを基とするポリマーからなり、中空管状に成形された容器に活性体(薬物)と任意に担体が充てんされていることから(3ア(ア)、3ア(ク)、3ア(ケ))、引用発明において、中空空間を形成するように成形されたポリウレタン系ポリマー、及び、薬物と場合により1つ以上の医薬的に許容される担体とを含む処方物を含む医薬処方物が具備されているともに、当該医薬処方物が中空空間内に収容されているといえる。
さらに、引用発明の薬物輸送装置は移植物にされるとともに(3ア(ク))、局所的又は全身の薬学的効果をもたらすように、薬物類をある長期間調節された割合で放出するから(3ア(ア)、3ア(エ))、当該薬物輸送装置は埋め込み後、当該装置からの薬物の所望の放出速度を生じさせるといえる。
そうすると、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は
「薬物を長期間にわたって制御放出して局所性または全身性薬理効果を生じさせる薬物送達装置であって、
a)中空空間を形成するように成形されたポリウレタン系ポリマー、および
b)薬物と場合により1つ以上の医薬的に許容される担体とを含む処方物を含む医薬処方物
を含み、
前記医薬処方物が、前記中空空間内に収容され、
前記装置が、埋め込み後、前記装置からのリスペリドンの所望の放出速度を生じさせる、
薬物送達装置。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
・相違点1
本願発明では薬物がリスペリドンであるのに対して、引用発明では薬物としてリスペリドンが挙げられていない点。
・相違点2
本願発明では医薬処方物が固形医薬処方物であるのに対して、引用発明では医薬処方物が固形医薬処方物に限定されていない点。

5.判断
ア 相違点1について
(ア)引用例Bには薬物及びCYSCポリマーを少なくとも1つ含む医薬製剤が記載されており(3イ(ア))、CYSCポリマーとしてポリウレタンが含まれること(3イ(イ))、上記薬物として抗精神病薬が含まれるとともに抗精神病薬がリスペリドンであること(3イ(ウ)、3イ(キ)、3イ(ク))も記載されている。ここで、引用例Bに記載されたCYSCポリマーとはcrystalline side chain polymerの略語であり、結晶化可能側鎖ポリマーもしくは結晶性側鎖ポリマーを意味している(3イ(エ)、3イ(オ))。そして、引用例Bには、CYSCポリマーは上記3イ(オ)で示したとおりのポリマーで構成されており、CYSCポリマーに結合した薬物を制御された速度及びまたは所望の場所で送達することができることが記載されている(3イ(カ))。
そうすると、引用例Aに記載された発明と引用例Bに記載された発明とは、薬剤とポリマーを含有し、薬剤を制御された速度で放出するための薬物輸送システムという点で共通の技術分野に属するといえる。

(イ)例えば、特開昭48-040924号公報の第3頁左上欄第5?8行、第4頁右下欄第16行?第5頁左上欄第1行、第12頁右下欄第12?16行、特表2004-535431号の段落【0002】、【0003】、【0024】、特表2007-517902号公報の段落【0001】?【0005】、【0065】等に示されるとおり、移植された薬物送達システムにおいて、抗精神病薬(トランキライザー、精神安定薬ともいう。)を一定速度すなわちゼロ次の速度で長期間放出させることが要求されることは、本願の優先日前既に技術常識であったといえる。
そうすると、引用発明において、抗精神病薬が親水性か疎水性かを問わず、薬物送達装置で用いられる薬物をゼロ次の速度で長期間放出させる動機づけが存在していたと解される。

また、引用例Aには、輸送される薬物(活性体)には、中枢神経系、精神精力剤、精神安定剤などで作用することができる薬物が含まれると記載されている(3ア(カ))。
そして、引用例Bにはリスペリドンが精神活性剤(抗精神病剤)であると記載されていることから(3イ(キ)、3イ(ク))、リスペリドンは引用例Aでいう中枢神経系に作用する薬物もしくは精神精力剤に含まれるといえる。
そうすると、引用例Aに記載された発明と引用例Bに記載された発明とには、薬物として抗精神活性剤が適用されるという点で、薬物に共通性が存在するといえる。

さらに、引用例Aでは、治療効果を最大限にし、不要な副作用を最小限とするように0オーダーに放出速度を調節することが目的とされている(3ア(エ)の段落【0034】)。そして、引用例Bには、所望の場所で、所望の速度の薬物送達を得ることが継続的な課題であると記載されており(3イ(エ))、薬物の有用な送達が得られることが発見されたこと(3イ(エ))、薬物はゼロ次で放出できること(3イ(カ))、及び移植剤形の利点は服薬遵守の増加であり、精神病では主要な課題であること(3イ(ク))も記載されている。
そうすると、引用例Aに記載された発明と引用例Bに記載された発明とでは、薬物のゼロ次放出速度を得るという点で、目的及び解決すべき課題が共通しているといえる。

(ウ)引用例Bには、リスペリドン移植片を対象の皮下に導入され、移植片は、少なくとも5日の期間にわたって、1日当たり1から60mgの間の平均速度(例えば、1、2、3、4、5、7、10、20、40、80、120、200、又は300mg以下)でリスペリドンを放出することが記載されている(3イ(ケ))。そして、上記(ア)で上述のとおり、引用例Aに記載された発明と引用例Bに記載された発明は、薬剤とポリマーを含有し、薬剤を制御された速度で放出するための薬物輸送システムという点で共通の技術分野に属するといえる。また、(イ)で上述のとおり、引用発明には薬物をゼロ次の速度で長期間放出させる動機づけが存在するとともに、引用例Aに記載された発明と引用例Bに記載された発明とには薬物の共通性、目的及び解決すべき課題の共通性も認められる。

そうすると、長期間にわたってゼロ次速度のリスペリドン放出速度を得ることを目的として、引用発明において薬剤としてリスペリドンを用いることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(エ)審判請求人は、審判請求書の請求の理由についての平成26年12月24日付け手続補正書2.(1)において、以下のように主張する。
「文献2は、ひとたびポリマーおよび薬物が選択されたならば、透過係数pは一定である旨を記載しています(段落0039)。しかしながら、文献2は、pがポリマーの構造、ポリマーの親水性または疎水性、ならびに薬物とポリマーとの相互作用の関数であることも記載しています(同段落0039)。したがいまして、Fickの法則を、ひとたび試験された任意の薬物の放出パターンを説明するために使用することはできるものの、透過係数が明らかにされるまでは放出の挙動を予測することは不可能であり、治療レベルにおいて制御された様相での送達が可能であると決定する証拠はもちろん、リスペリドンがFickの法則によって支配される状況下でどのように任意のポリマーと相互作用するのかを決定する根拠も、文献2には存在しません。審査官殿は、ヒストレリン、ナルトレキソン、およびクロニジンに関する記載を根拠とされています。しかし、リスペリドンは不水溶性であり、他の3つが容易に水に溶けることに鑑みて、リスペリドンにおいて類似の拡散の挙動が予測されるとする充分な根拠を、文献2の記載に見出すことはできません。」(「文献2」は当審決の引用例Aである。)

そこで、引用例Aの記載を検討すると、引用例Aには薬物の放出速度は、円柱状の容器装置(カートリッジ)に適用される場合、Fickの拡散法則(Fick’s Law of Diffusion)で規定され、【数1】で示される方程式で表されると記載されている(3ア(エ))。そして、透過係数pは、主にポリマーの親水性/疎水性、ポリマーの構造、薬物とポリマーの相互作用によって規定されること、及びポリマーと活性成分が選択されれば、pは定数となり、前記円柱状装置が製造されればh、r_(o)、及びr_(i)が決まり一定となり、ΔCは前記容器内の前記担体によって一定に維持されることも記載されている(3ア(エ))。
ここで、透過係数pは、主にポリマーの親水性/疎水性、ポリマーの構造、薬物とポリマーの相互作用によって規定されることから、ポリマーの親水性/疎水性、ポリマーの構造及び薬物とポリマーの相互作用を調節することによって透過係数pが制御できるといえる。

また、上記3ア(オ)によれば、引用例Aには、カートリッジが充填された容器で両端で封印されると、前記カートリッジはある一定の輸送速度とするためにある適切な期間、予備処理され、起動されること、薬物輸送装置の準備工程における予備処理と起動工程は、ある特定の薬物の決められた放出速度が得られるようになされること、親水性薬物を含む移植物の予備処理と起動工程は、好ましくは水性媒体中で実施され、より好ましくは塩類溶液中であるのに対して、疎水性薬物を含む移植物の予備処理と起動工程は、通例オイルを基とする媒体のような疎水性媒体中で実施されること、及び予備処理と起動工程は、3つの特定の因子、すなわち温度、媒体、期間を調節することによって実施されることも記載されている。そして、上記3ア(オ)によれば、親水性薬物は好ましくは水性溶液、より好ましくは塩類溶液中で予備処理され、起動される。例えば、ヒストレリンとナルトレキソン移植物は、塩類溶液中で予備処理され起動されているが、より好ましくは、0.9%ナトリウム含有の塩類溶液中で予備処理され、1.8%塩化ナトリウム含有の塩類溶液中で起動される。
ここで、親水性薬物は水性溶液もしくは塩類溶液中で予備処理され、起動されるとともに、ヒストレリンとナルトレキソン移植物が塩類溶液中で予備処理され起動されることから、ヒストレリン及びナルトレキソンは親水性薬物であるといえる。そして、疎水性薬物を含む移植物の予備処理と起動工程が通例オイルを基とする媒体のような疎水性媒体中で実施されることから、引用例Aでは疎水性薬物を用いることも意図されているといえる。

そして、上記3ア(キ)によれば、引用例Aには、所望の特性に応じて、多価アルコールの骨格の修飾によって、ポリウレタンポリマー鎖中に、種々の官能基類を導入することができることが記載されており、薬物輸送装置が水溶性薬物の輸送に用いられるとき、ポリマーの親水性を増すために多価アルコール中に、イオン基、カルボキシル基、エーテル基、水酸基のような親水性ペンダント基が組み込まれる一方で、薬物輸送装置が疎水性薬物の輸送に用いられるとき、ポリマーの疎水性を増すために多価アルコール中に、アルキル基、シロキサン基のような疎水性ペンダント基が組み込まれること、及び活性体(薬物)の放出速度もポリウレタンポリマーの親水性/疎水性によって調節することができることが記載されている。
このことから、引用例Aには薬物が水溶性である場合にはポリウレタンを親水性とし、薬物が疎水性である場合にはポリウレタンを疎水性にすることが示されており、それによって薬物の放出速度を調節することも示されているといえる。

審判請求人が指摘するとおり、引用例Aの実施例には親水性の薬物を使用した場合の実施例が記載されているといえる。しかしながら、上述のとおり、引用例Aは親水性薬物だけなく疎水性薬物を用いることも意図されており、ポリウレタンポリマーを疎水性にすることによって疎水性薬物の放出速度が調節することも示されているといえるから、たとえ引用例Aには親水性薬物を用いた場合の実施例しか開示されていないとしても、それをもって疎水性薬物であるリスペリドンの適用が排除されるとはいえない。
また、引用例Aにはポリマーの親水性/疎水性、ポリマーの構造及び薬物とポリマーの相互作用を調節することによって透過係数pが制御できることが示されている以上、これらの条件の最適化を図ることは当業者の通常の創作能力発揮のことに過ぎない。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。

イ 相違点2について
(ア)引用例Aの実施例には薬剤の小丸薬をチューブ内に装填することが記載されている(3ア(コ)、3ア(サ))。ここで小丸薬は固形医薬処方物であるといえる。
そうすると、引用発明において活性成分及び薬学的に許容な担体を固形医薬処方物とすることは、当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎない。そして、リスペリドン及び任意で少なくとも1つの薬学的に許容な担体を「固形」にすることに格別の困難性は認められない。

(イ)審判請求人は、審判請求書の請求の理由についての平成26年12月24日付け手続補正書2.(2)及び(3)で、引用例Aがリスペリドンの固形処方物がゼロ次速度でポリマーの壁を通って首尾よく溶出できることを、何ら教示も示唆もしていない旨、及び当業者であっても本願の出願時においてリスペリドンが種々の種類の薬物送達装置から首尾よく溶出できるか否かがきわめて予測不可能である旨主張する。
しかしながら、上記ア(エ)で述べたとおり、引用例Aにはポリマーの親水性/疎水性、ポリマーの構造及び薬物とポリマーの相互作用を調節することによって透過係数pが制御できることが示されている以上、これらの条件の最適化を図ることは当業者の通常の創作能力発揮のことに過ぎない。そして、引用例Aでは薬物のゼロ次放出速度を得ることが目的とされており(3ア(エ)の段落【0034】)、種々の薬物及び条件における薬物放出速度が実施例において検討されていることから、リスペリドンの固形処方物がゼロ次速度で放出される条件に設定することは、当業者が適宜なし得る設計的事項に過ぎない。
よって、審判請求人の主張は採用できない。

ウ 本願発明の効果について
本願明細書段落【0003】には「1つ以上の活性薬物を含む固形処方物を、ポリウレタン埋め込み可能型装置の芯に用いることで、該活性薬物を該埋め込み可能型装置から制御放出、ゼロ次様式で放出させ得るという予想外の発見に基づく方法および組成物を本明細書に記載する。」と記載されており、本願発明によりゼロ次様式のリスペリドン放出速度が得られるとの効果が示されている。
しかしながら、上記ア(イ)で既述のとおり、引用例Aに記載された発明と引用例Bに記載された発明とでは、ゼロ次の薬物放出速度を得るという目的及び解決すべき課題が共通しているといえる。また、引用例Aの実施例では図4?8で見られるように長期間において安定した薬物放出速度を示す例が示されている。
そうすると、ゼロ次様式のリスペリドン放出速度が得られるとの本願発明の効果は、引用例Aに記載された発明及び引用例Bに記載された発明と比較して、当業者の予測の範囲を超える顕著な効果であるとは認められない。

エ 小括
したがって、本願発明は、引用例A及び引用例Bに記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

6.むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、ほかの請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-01-13 
結審通知日 2016-01-19 
審決日 2016-02-05 
出願番号 特願2011-529360(P2011-529360)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 前田 亜希  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 前田 佳与子
横山 敏志
発明の名称 リスペリドン送達用埋め込み可能型装置およびその使用方法  
代理人 関谷 充司  
代理人 小川 護晃  
代理人 奥山 尚一  
代理人 西山 春之  
代理人 松島 鉄男  
代理人 河村 英文  
代理人 有原 幸一  

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